ホッジ予想 — 例外類が、たった一つの類に落ちるまで
ホッジ予想は、クレイ数学研究所が 2000 年に掲げた七つのミレニアム懸賞問題の一つです(公式の問題ページ)。複素射影多様体(複素数の多項式で切り出される図形)には、その形を数で捉える「コホモロジー」という道具があり、その中に複素構造と相性のよい特別な類——ホッジ類——があります。予想は、ホッジ類がすべて、図形の中に多項式で切り出される部分図形(代数的部分多様体)から作られるか、と問います。部分図形からホッジ類を作るのは易しく、逆にホッジ類から部分図形を見つける一般の方法は知られていません。この記事は、その問いを CM アーベル多様体という特別な族に限って、どの類が問題になるかを数え上げた記録です。予想そのものは解いていません。
何の問題か — 複素射影多様体の上で、タイプ (p,p) の有理コホモロジー類(これがホッジ類です)は、いつも代数的部分多様体の類の有理係数の和になるか。アーベル多様体(群の構造を持つ射影多様体で、楕円曲線の高次元版)に限っても未解決です。
何を調べたか — CM アーベル多様体(虚数乗法という、最大限に多くの自己準同型を持つアーベル多様体)の族では、ホッジ類が有限の組合せに落ちます。ホッジ類のうち、因子(余次元 1、つまり一つだけ次元の低い部分多様体)の類から和と積で作れないものを例外ホッジ類と呼びます。「例外ホッジ類は因子と Weil 類(例外類のうち、以前から知られている系統)で生成される」という素朴な見込みがどこで壊れるかを、次元の小さい方から全数で数えました。
何が分かったか — 壊れ方のいちばん簡単な場所は 9 次元で、そこでは問題が 10 次元多様体の余次元 2 のホッジ類ただ一つ(余次元 2 とは、全体より 2 つ次元が低いこと)に落ちます。その一つは既知の定理で位置づけが確定しています。絶対ホッジ(代数的な類が必ず持つ性質で、ホッジ予想への中間段階にあたる)であることは無条件に既知で、代数性は Lefschetz 標準予想(Grothendieck の標準予想の一つ。これが成り立てばアーベル多様体のホッジ予想が従う)から従います。それを幾何で見せる道は、この記事に並べた範囲では全部閉じました。代数性は一つも証明していません。
Lean機械検査済み(Lean 4、sorry 0・native_decide 不使用、公理は propext・Classical.choice・Quot.sound の部分集合。定理名を添える)
紙証明はあるが機械検査は未了
計算この端末で確かめた範囲。外に出す主張にはしない
既知既知の定理・言い換え・外の文献の確認
このページはホッジ予想の本体について何も主張しません。組合せと不等式の話であり、代数的サイクル(代数的部分多様体の形式的な和。ホッジ予想が「ある」と言っている対象)を一つも構成していません。「因子で生成されない」は「代数的でない」ではありません。
- この問題は何か
- 世界はどこまで来ているか
- ホッジ類が、有限の組合せに落ちる
- 例外類はどこに出るか — 偶数次元と、奇数次元
- 9 次元の一つの多様体で、問題が一つの類に落ちる
- 「届かない」の積み上げ — テータ因子・完全交叉・曲線・循環
- 残る場所と、標準予想が予言している向き
- 機械検査で閉じた範囲
- 既知のものと、そうでないもの
- 残ったこと
- 文献
この問題は何か
滑らかな複素射影多様体
Xの上で、H2p(X, Q)のうちタイプ (p,p) の部分に入る類は、どれも余次元pの代数的部分多様体の類の有理係数の一次結合か。
(そうなる類を「代数的」と呼ぶ。ホッジ類は代数的な類をすべて含むので、問いは逆向きの包含だけである)
難しいのは、道具が片方向にしか無いことです。代数的部分多様体からホッジ類を作るのは易しく、ホッジ類から部分多様体を作る一般の手続きは知られていません。アーベル多様体に限っても未解決ですが、ホッジ類を全部書き下せる場合があります。虚数乗法(CM)を持つアーベル多様体、つまり自己準同型(多様体から自分自身への写像)を最大限に多く持つアーベル多様体です。ホッジ類が有限集合の組合せで完全に記述できるので、「どの類が因子から作れないか」を数え上げられます。それでも代数性は、数え上げの外にあります。既知
世界はどこまで来ているか
| 問い | 状態 |
|---|---|
| アーベル多様体のホッジ予想 | 未解決。ただし Lefschetz 標準予想から従う(Abdulali 1994/André 1992) |
| CM アーベル多様体のホッジ類 | 絶対ホッジであることは無条件に既知(Deligne 1982)。さらにすべて André の意味の「分裂 Weil 類」の引き戻しの和に書ける(André 1992)。代数性は未解決 |
| アーベル 4-fold(4 次元アーベル多様体) | 決着。Weil 類は判別式 −1 のアーベル 6-fold で代数的、Schoen の退化から全てのアーベル 4-fold(全判別式・全虚二次体)で代数的(Markman 2025-02) |
| 素数次元の単純アーベル多様体とその冪 | 定理。ホッジ類は因子の多項式(Tankeev 1983/Ribet 1983) |
dim ≤ 5 | 定理。ホッジ環は因子と Weil 類で生成される(Moonen–Zarhin 1999) |
| 一般の CM 体に対する割線層の構成 | 構成はある。半正則性が未着手で、例があるのは実二次的な場合に限る(Markman 2025-09、著者自身の記述) |
| 一般化ホッジ予想(GHC。ホッジ予想を広げたもので、コホモロジーの部分構造がどの部分多様体に台を持つかを問う) | totally real type では定理。type IV(CM)では未解決——著者は「4 個の非同種 CM 楕円曲線の積でも未解決」と記す(Vial) |
Fermat 多様体 Xnm(x0m + … + xn+1m = 0 で定まる多様体。m 素数)とその積 | 定理(Shioda 1979) |
つまり CM の側は、「代数的だろう」と言う理由は十分あるが、見せる手続きが無いという状態です。以下はその手続きを、いちばん小さい壊れ方の場所で探した記録です。
ホッジ類が、有限の組合せに落ちる
この節は記号が多くなります。要点は、ホッジ類についての問いが、有限集合の数え上げに置き換わることです。
A を CM アーベル多様体とします:CM 体 E(A に作用する次数 2g の数体)、そのガロア閉包 L、G = Gal(L/Q)、H = Gal(L/E)、複素共役 c は G の中心に入り、X = G/H は E の 2g 個の複素埋め込み、CM 型 Φ は Φ ⊔ cΦ = X を満たす半分です(この半分の選び方が A の複素構造を決めます)。
Pohlmann の判定。H2p(A, Q) のホッジ類は、次を満たす T ⊂ X に対応する類 eT が張ります。既知
この条件を満たす T を許容集合と呼びます。{x, cx} の形の 2 元集合はつねに許容で、これが因子(余次元 1 の類)にあたります。したがって——
- 因子の積で生成される部分 ⟺ 許容 2 元集合への完全マッチングを持つ
T。そうでない許容集合が例外ホッジ類です。 - 符号ベクトルに直すと見通しがよくなります。
s = 1T − 1cT、u = 1Φ − 1cΦと置けば、許容条件は∀σ : ⟨s, σu⟩ = 0——整数だけの線形条件です。これは「因子がホッジ環を生成しない ⟺{0, ±1}係数の非零な零化元がある」という既知の判定と同じものです(White 1993)。既知 - 退化の判定:CM 型が退化するとは、ホッジ群
Hg(A)(ホッジ類を統制する群)の階数が次元より小さくなることです。dim A − rank Hg(A)は、χ(S) = 0となる奇指標χの個数に等しい(Kubota 1965/Ribet 1980、Hazama 2003 の形で確認)。既知 - Weil 類:例外類のうち、以前から知られている系統です。
Eの CM 部分体Fに対しWF = ∧[E:F]F H1。これが座るのは余次元p = [E:F]/2 = g/[F:Q]です(Moonen–Zarhin のFに関する Weil 類)。既知
分類が有限になる理由。上の条件に現れるのは X への G の作用と c の像だけです。c は X 上の不動点のない対合なので S2g の中でどれも共役で、その中心化群は C2 ≀ Sg(位数 2g·g!)。c が中心にあることから G ⊆ C2 ≀ Sg となり、g を固定すると考えるべき組は有限個になります。紙
例外類はどこに出るか — 偶数次元と、奇数次元
偶数次元では、出ても Weil 類だった
| 次元 | 走査した範囲 | 出た例外類 |
|---|---|---|
g ≤ 5(アーベルな CM 体) | 全ての組 | 0計算 |
g = 6 | 全ての組 | G ≅ Z/2 × Z/6 のときだけ。H6 の中に 2 次元で、それは Weil 類。体は Q(ζ21)・Q(ζ28)・Q(ζ36) と Q(ζ35)・Q(ζ39) の 12 次 CM 部分体計算 |
g = 4(非アーベルも込めて) | C2 ≀ S4 の中の推移的部分群、共役を除いて 38 行 | 例外類を持つのは 2 行だけ(C2 × A4 と C2 × S4)。どちらも中央 H4 に 2 次元で、それは全部 Weil 類計算 |
g ≤ 7 | 全行(g=4 の 38 行・g=5 の 40 行・g=6 の 4,295 行・g=7 の 46 行) | 「例外類は因子と WF で生成される」に反例 0計算 |
ここまでだけ見ると、例外類は Weil 類で尽きるという見込みが立ちます。しかしこの見込みは偽で、しかも偽であることは古典的に知られています。
奇数次元では、Weil 類が一つも無いのに例外類が出る
- Lenstra の定理:アーベルな CM 体で単純 CM 型が退化すれば、
A自身の上に例外(sporadic)ホッジ類がある(White 1993 定理 3/Yanai 2015 §3)。既知 - Yanai の 2 冪判定:消える奇指標の位数
2tが 2 冪であることが、Aが Weil 型(Weil 類が現れる型)であることと同値。したがってgが奇数なら Weil 型にはなりえない。既知
この二つを並べると、「退化する奇数次元の単純 CM 型」があれば、そこには例外類はあるのに Weil 類は一つも無いことになります。実際に最小の奇数次元は g = 9 で、群の側は Z/9 と (Z/3)2 の両方で起こります。Lean計算 後者からは、奇素数 p ごとに g = p2 で同じことが起きる系列も書けます。紙
前者、Z/9 の側が Q(ζ19)(1 の 19 乗根を有理数に加えた体。円分体と呼ばれます)です。最小かつ古典的なこの場所が、以下の全部の舞台になります。
9 次元の一つの多様体で、問題が一つの類に落ちる
K = Q(ζ19)、G = (Z/19)* ≅ Z/18、複素共役は 9。K の CM 型は 29 = 512 個あります。
A 単純)54Galois 共役まで込めてただ 1 類Leand(A)3A は 3-dominatedLean紙54 個の退化かつ原始的な CM 型(より小さい CM 体から誘導されていない型)はどれも 9 次元の単純アーベル多様体(より小さいアーベル多様体の積に分解しないもの)を与え、消える奇指標はどれもちょうど 2 個(位数 6)です。以下 A はその一つ、S = {0,1,2,3,4,5,6,8,16} ⊂ Z/18 から作ったものとします。
① 余次元 3 に落ちる
Hazama の意味の支配次元 d(A) = w(KS)(零化格子の最小 ℓ1 重み)を計算すると 3 です。A が N-dominated なら、A の任意の冪のホッジ予想が余次元 ≤ N の場合に帰着します(Hazama 2003)。零化格子は Z[x]/(x9+1) の中で明示的に階数 2 のパラメータ表示を持ち、その ℓ1 ノルムは 3(|a|+|b|+|a−b|) ≥ 6、したがって重みは 3 以上で、3 は実現されます。Lean紙
② 余次元 3 の例外類は、ちょうど 6 個で、書ける
H = ⟨γ6⟩、F = KH(6 次の CM 部分体)、Ck をその剰余類とすると、|T| = 6 の許容集合は 90 個 = 因子の積 C(9,3) = 84 + 例外 6 で、例外はすべて
の形です。15 個の非順序対 {Ck, Cl} のうち許容なのは 9 個で、距離 1 の 6 個が例外、距離 3 の 3 個が因子の積、距離 2 の 6 個は許容ですらありません。Lean
③ 6 個は、楕円曲線の 3 乗だった
この 6 個が張る空間 WF を H1 の側で見ると、ホッジ重みは (2,1,2,1,2,1) で level 1、その「型」ΦW = {0,2,4} は Z/6 の位数 3 の部分群です。つまり ΦW は Q(√−19) から誘導された非原始的な型で、有理ホッジ構造として
ここで E は Q(√−19) による CM 楕円曲線(楕円曲線は 1 次元のアーベル多様体です。j = −884736、y2+y = x3−38x+90、導手 361)です。陰性対照(比較のために置いた、条件を満たさない例)として、退化していない型(例えば Φ' = {0,1,2} を与えるもの)でも level 1 にはなりますが、その型は平行移動で閉じておらず、誘導されていません。Lean紙
④ 問題が、10 次元多様体の一つの類になる
そこで A × E(10 次元)を見ます。H4(A × E) のホッジ類は全部で 51 = 36 + 9 + 6:H4(A)⊗H0(E) の 36 はすべて因子の積、H2(A)⊗H2(E) の 9 は因子 × 点類、残る H3(A)⊗H1(E) の 6 が例外です。余次元 1 は 9 + 0 + 1 = 10 で、混合項 H1(A)⊗H1(E) は 0。退化かつ原始的な 54 個すべてで同じ数になり、残りの 458 個では混合項が消えるか A が楕円曲線の冪に同種になります(陰性対照)。Lean
この例外部分 HomHS(H1(E), WF(1)) は F 加群として階数 1 です。F ⊂ End0(A) は代数的対応で実現されるので、6 次元のうち 1 個が代数的なら 6 個すべてが代数的になり、さらに A 上の余次元 3 の例外類 6 個も代数的になります。紙 問題は余次元 2 のホッジ類 ξ ただ一つに落ちました。
⑤ その一つの位置づけは、既知の定理で確定している
ξはΔk = Ck ⊔ {eε(k)}に対する分裂 Weil 類の引き戻し(分裂 Weil 類は Weil 類のうち扱いやすい特別な型で、絶対ホッジであることが Deligne により示されています)である(AΔkは 36 次元で、Q(ζ19)について分裂 Weil 型の条件を満たす)。Lean紙- したがって
ξが絶対ホッジであることは無条件に既知(Deligne 1982)、代数性は Lefschetz 標準予想から従う(André/Abdulali)。既知 - 一方、最短路は閉じています:
Δkの 4 つの CM 型はどの 2 個を取っても互いに補型でないので、この分裂 Weil 類を「2 つの因子類の積」として書く道はありません。Lean紙 - 幾何の言葉に直すと、
ξが代数的 ⟺WF ⊆ N1H3(A, Q)、すなわちWFがAのある因子に台を持つこと。これは一般化ホッジ予想 GHC(1,3) のWF部分とちょうど同値です。紙
「届かない」の積み上げ — 因子をどう置いても WF に台が乗らない
以下はすべて「WF に台を持つ因子 Y(WF がその因子のコホモロジーから来る、という意味)が、この形では作れない」という否定の結果です。どれも仮定つきで、仮定の補集合が空であることは示していません。
道具:欠損の不等式
A が単純、Y が被約な有効因子、f : Ỹ → Y をその解消とすると
が成り立ちます(Alb(Ỹ) は Ỹ のアルバネーゼ多様体、つまり Ỹ から標準的に作られるアーベル多様体。JY は Y の特異点の悪さを測る随伴イデアル)。右辺の第二項を欠損と呼ぶことにします。WF に届くには欠損 ≥ 3、H3(A) の残りの部分まで込めれば ≥ 27、GHC(1,3) 全体では ≥ 30 が要ります。紙
① テータ因子 — 特異かどうかと無関係に届かない
A は主偏極(アーベル多様体に付ける豊富な因子の類のうち、いちばん小さいもの)を持ち、それは同型を除いて一意です(NS(A) ≅ OK0、豊富錐は正の象限、円単数の符号写像が F2 上全射)。紙計算 A が単純なのでテータ因子 Θ(主偏極を代表する因子)は既約で、既約なテータ因子は正規かつ有理特異点(特異点として穏やかな種類)です(Ein–Lazarsfeld 1997)。有理特異点なら随伴イデアルが自明になり、欠損は 0、したがって Alb(Θ̃) → A は同種で、Gysin 像は無条件に coniveau ≥ 1 の 144 次元の部分に収まります。テータ因子が特異かどうかは、この結論に関係しません。同じ議論で、孤立特異点しか持たない因子(より一般に特異軌跡の次元が g−4 以下の因子)も落ちます。紙
② 特異軌跡が 6 次元の完全交叉(c = 3)— すべての偏極・すべての重複度で
W = D1 ∩ D2 ∩ D3(三つの豊富因子の完全交叉、6 次元)に沿って重複度 m0 ≥ 3 で特異な被約因子 Y が欠損を持つなら、交点数の正値性から y = m0y1 = m0y2 = m0y3 が強制されます。すると Y は三つの切断の斉次式 F(θ1, θ2, θ3) = 0 に落ち、Hodd(P2) = 0 により円柱写像の (1,3) 成分が消えます。すべての偏極・すべての m0 ≥ 3 で WF に届きません。鍵は消えるテスト類で挟むことと、和ではなく max で挟むことです(和で挟む弱い形は豊富な三つ組の約 3% でしか成り立ちません=陰性対照)。なおこの枝を指数(符号)の勘定だけで閉じることはできません——豊富な四つ組 758 組のうち 5 組で、次元だけから欠損が強制されます。閉じたのは指数と独立な道具、交点数の正値性です。紙Lean計算
③ 特異軌跡が 7 次元の完全交叉(c = 2)— 論法は別だが同じ結論
W = D1 ∩ D2 でも結論は同じですが、欠損の Serre 双対の行き先が h0 ではなく h1 になるので、正値性の不等式が作れません。代わりに Koszul 複体と指数定理の「線束が OA になる枝」が効きます。重複度は実符号座標の 8 箇所以上で非負性を強制し、8 + 8 − 9 = 7 から集中指数は 2 以下(この上界は最良)。欠損が要求する 6 と両立しません。特異軌跡が 7 次元で二つの豊富因子の完全交叉である非正規な場合も、同じ形で閉じます。紙Lean
④ 単独の曲線、そして巡回被覆のヤコビアン
一本の曲線からは次元勘定だけで H3(A) に届きません。また A は、三点分岐の巡回 19 次被覆 w19 = xa(1−x)b のヤコビアン(曲線から作られるアーベル多様体)の同種因子ではありません——その族の CM 型 60 個のどれとも一致しないからです。Lean 商 A/μ19 の側に降りても事情は変わりません:この商は非 Gorenstein(接空間の重み和が 65 ≡ 8 (mod 19))ですが Reid–Tai の age が 18 個すべて > 3 なのでterminal(どちらも特異点の性質の名前)で、トーリック解消しても H3 は WF を含んだまま変わりません。μ19 は WF に自明に作用するので、探索は μ19 不変な対象に限ってよいという縮約だけが残ります。Lean紙
⑤ 構成の道が循環する — パリティの障壁
最後の枝は、個別の Y ではなく作り方を閉じます。解消のアルバネーゼが J = Alb(Ỹ) ~ Am × R(R に A の因子なし)なら Hom(A, R̂)⊗Q = 0 なので、NS(J)⊗Q には A–R の混合項がなく、除数類はすべて A-次数・R-次数ともに偶になります。この偶奇は積で閉じ、準同型の押し出しで保たれるので、α*[Ỹ] が NS(J) の生成する部分環に入るかぎり、円柱対応の (1,3) Künneth 成分は 0 です。
これで一度に落ちるもの:曲線の 8 重和(Poincaré の公式)、対称積、アーベル多様体の中の完全交叉、Thom–Porteous の退化軌跡、線形系の族、平行移動の族。生き残る条件は「作る前から非除数的な代数類を持っていること」で、それは示したい命題そのものです。ここで道は循環します。紙
残る場所と、標準予想が予言している向き
閉じた枝はどれも、次のどれかを使っています——W が豊富因子の完全交叉で切れる、Y が線形系から切り出される、α*[Ỹ] が NS(J) の生成する部分環に入る。残っているのはその外側の二つです。
| 残る枝 | いま言えること | 有限の足がかり |
|---|---|---|
(a) 特異軌跡が 7 次元で完全交叉でない(非正規、c = 1) | 横断重複度 2 の接錐の判別式が Pic(W) の中で 2(Ly|W − KW) = Δ を与える。Δ = 0 なら欠損は二重被覆の Prym の次元で、そこに E が現れねばならない。A 単純から Gauss 写像は有限で ωW = det N は豊富(N 自身は豊富とは言えない)。符号の勘定で閉じるのは、イデアル層がある豊富な線束で大域生成されるという箱の中だけで、その箱はノルムが 29 = 512 以下のとき空紙Lean | 「Ly|W ⊗ ωW−1 が豊富でない」を Nakai–Moishezon で有限個の不等式に落とす |
| (b) 特異軌跡が 6 次元で、法束が分解しない | max による挟み撃ちは法束の分解(旗)を必要とするので、そこには効かない紙 | c1(NW/A)·(La|W)5 を上から押さえる |
向きが逆であること
Lefschetz 標準予想は ξ の代数性を導きます。これを上の欠損の不等式と合わせると、標準予想は A について具体的で幾何的な予言をしていることになります。
Aは非有理特異点を持つ因子を持ち、その「有理性の欠損」の合計は≥ 3である(GHC(1,3) 全体まで込めれば≥ 30)。
逆に「A のすべての因子が正規かつ有理特異点である」を示せれば、標準予想は A で破れます。つまり (a) と (b) で閉じ続けることは、標準予想の反証に向かう向きの作業です。現在はどちらも条件つきでしか閉じておらず、その向きに一歩も進んではいません。
機械検査で閉じた範囲
Lean 4 で閉じたのは有限の組合せと不等式の核だけです。名前空間は CMHodge、sorry は 0、native_decide は使っていません。公理ログの全行が propext・Classical.choice・Quot.sound の部分集合です(CMHodgeLevelOne は全 26 定理が propext のみ、CMHodgeNormal の CM 型 7 本はどの公理にも依存しません)。
| ファイル | 定理 | 何を閉じたか(主な定理名) |
|---|---|---|
CMHodgeClasses.lean | 13 | 奇数次元で例外類が出る最小例の組合せ(phi_is_cm_type・T0_hodge・T0_not_generated_by_divisors・unique_involution) |
CMHodgeDegenerate.lean | 14 | 退化かつ原始的な CM 型が 54 個であること、零化格子の重みが 3 であること、余次元 3 の例外類が 6 個であること(card_deg_prim・ann_f6_param・weight_ge_three・Texc_card・Texc_not_divisorial) |
CMHodgeLevelOne.lean | 26 | level ≤ 1 の部分の内訳 204 = 144 + 6 + 54、3 軌道の相互性、分裂 Weil 型の条件(level1_card・pat_two_of_three・reciprocity_S・split_weil_condition_V) |
CMHodgeProductCurve.lean | 16 | A × E の H4 の全数 51 = 36 + 9 + 6、余次元 1 の混合項が無いこと、補型の対が無いこと(adm31_iff・count31_eq・adm11_none・no_complementary_pairing) |
CMHodgeDivisor.lean | 32 | イデアルノルムの空き、μ19 の作用、商の age と Gorenstein 性(min_ideal_norm・zeta_trivial_on_WF・not_gorenstein・ageNum_ge_58) |
CMHodgeDivisor2.lean | 16 | c = 3 の挟み撃ちの核と、巡回被覆の CM 型との比較(defect_core_general・cone_forces_equal・Stil_not_cyclic) |
CMHodgeIntersection.lean | 11 | c = 3・c = 2 の挟み撃ちと場所勘定(squeeze_three・squeeze_two・places_nonneg_of_mult・defect_incompatible_with_mult) |
CMHodgeNormal.lean | 19 | 交点数のパーマネント表示と nef の正値性、c = 1 の箱の壁、WF のホッジ重みと誘導性(perm_pos・box_forces_norm_gt・wt_level_one・PhiW_shift_closed・control_not_induced) |
何を言い、何を言っていないか。Lean に入っているのは、有限集合の数え上げ、整数の線形条件、パーマネントの正値性、実符号座標の場所勘定といった離散的な核だけです。ホッジ構造・代数的サイクル・随伴イデアル・Gysin 写像・Serre 双対・小平消滅・Grothendieck–Lefschetz・Künneth 分解は、どれも入っていません。それらを使う段は[紙]です。したがって「ξ は代数的でない」も「代数的である」も、機械検査された主張ではありません。どちらも主張していません。
既知のものと、そうでないもの
既知の定理として使ったもの
| 使った事実 | 出典(確認の状態) |
|---|---|
| CM のホッジ類は許容集合が張る | Pohlmann 1968(二次資料の逐語で確認) |
| 退化の指標による判定 | Kubota 1965/Ribet 1980(Hazama 2003 命題 2.1 の逐語で確認。原典未取得) |
| 退化する単純 CM 型には例外類がある | Lenstra の定理(未公刊)。White 1993 定理 3/Yanai 2015 §3(全文取得) |
| Weil 型 ⟺ 消える奇指標の位数が 2 冪。ゆえに奇数次元では Weil 型でない | Yanai 2015 定理 4.1(全文取得) |
因子が生成しない ⟺ {0,±1} 係数の零化元がある | White 1993 §5 命題 1(全文取得) |
支配次元と、余次元 ≤ N への帰着 | Hazama 2003 §2(逐語)。原典(2000)は未取得 |
WF の定義・ホッジ性・例外性・dim ≤ 5 | Moonen–Zarhin 1998/1999(両方 PDF 取得) |
| 素数次元では因子の多項式 | Tankeev 1983/Ribet 1983(評で確認・本文未取得) |
| アーベル 4-fold の決着 | Markman arXiv:2502.03415(要旨) |
| 一般の CM 体での割線層と、半正則性の未着手 | Markman arXiv:2509.23079 §1.1・Example 11.2.7・Lemma 11.2.8(PDF 取得・逐語) |
| 分裂 Weil 類・絶対ホッジ・Lefschetz 標準予想からの含意 | André 1992/Deligne 1982/Abdulali 1994(Milne の解説 arXiv:2010.08857 の逐語。原典未取得) |
| 既約テータ因子は正規かつ有理特異点、随伴イデアルの完全列 | Ein–Lazarsfeld, JAMS 1997 定理 1・命題 3.1(PDF 取得・逐語) |
| GHC が type IV(CM)で未解決 | Vial arXiv:1803.00857v2 定理 3・Remark 3.9・定理 3.10(PDF 取得・逐語) |
| Fermat 多様体のホッジ予想 | Shioda, Proc. Japan Acad. 55A (1979) 定理 1・2(全文取得) |
新規かどうかは分からないが、数学的にこの事実がある、と書けるもの
既知かもしれません。文献を探した範囲では見当たらなかった、という以上のことは言えません。どれも代数性については何も言っていません。
| 事実 | 等級 |
|---|---|
「例外類は因子と WF で生成される」がこの組合せ模型で壊れる最小次元は 8 で、その行は Q 上で実現する | 計算全数 |
奇数次元で例外類が出る最小は g = 9。Q(ζ19) の 512 個の CM 型のうち退化は 62 個、退化かつ原始的は 54 個で、Galois 共役までただ 1 類 | Lean計算 |
d(A) = 3(零化格子の ℓ1 重みが 3) | Lean紙 |
余次元 3 の例外類はちょうど 6 個で Tk = Ck ⊔ Ck+1 | Lean |
WF(1) ≅ H1(E)⊕3(E は Q(√−19) の CM 楕円曲線) | Lean紙 |
H4(A × E) のホッジ類は 51 = 36 + 9 + 6 で、余次元 1 の混合項は 0 | Lean全数 |
例外部分は F 加群として階数 1。1 個代数的なら 6 個すべてが代数的 | 紙 |
ξ が代数的 ⟺ WF ⊆ N1H3(A, Q)(GHC(1,3) の WF 部分と同値) | 紙 |
ξ は明示的な 36 次元の CM 多様体の分裂 Weil 類の引き戻しで、補型の対に分解しない | Lean紙 |
H3(A) の level ≤ 1 の最大部分は 204 = 144 + 6 + 54 で、54 の側は二つの非同種な 9 次元単純 CM の H1 に割れる | Lean全数 |
| 主偏極が存在し、同型を除いて一意。交点数はパーマネントで、非零な nef 類はすべて豊富 | 紙計算 |
| 解消のアルバネーゼの欠損の不等式と、その系(テータ因子・孤立特異点は届かない) | 紙 |
c = 3・c = 2 の完全交叉は、すべての偏極・すべての重複度で届かない | 紙Lean |
c = 1 のつまみ因子の等式 2(Ly|W − KW) = Δ と、箱が空になる条件 | 紙Lean |
除数から作る構成のパリティの障壁(円柱対応の (1,3) 成分が消える) | 紙 |
A/μ19 は非 Gorenstein かつ terminal で、降りても H3 は変わらない | Lean紙 |
残ったこと
動いた宿題の現在地は 残っていること にある。ここには現時点の未決だけを置く。
| 内容 | |
|---|---|
| 言えた | ホッジ類の組合せへの還元と、既知の判定の整理既知 |
| 言えた | 例外類が Weil 類の外に出る最小の場所と、そこでの明示的な記述Lean計算 |
| 言えた | 問題が余次元 2 のホッジ類ただ一つに落ちること、その一つが分裂 Weil 類の引き戻しであることLean紙 |
| 言えた | テータ因子・二種類の完全交叉・単独の曲線・除数から作る構成の全部が届かないこと(いずれも仮定つき)紙Lean |
| 言えない | ホッジ予想について何か。ξ が代数的かどうか。代数的サイクルは一つも構成していない |
- 閉じた枝はすべて仮定つきで、仮定の補集合が空であるとは示していません。とくにイデアル層の生成次数は
W固有の入力で、Aの側から上から押さえる道具がありません(KWに付く押さえはすべて下からです)。 - 必要条件は必要条件でしかありません。「欠損
≥ 3」も「つまみ因子が豊富でない」も、それを満たす対象が存在しないことを示してはいません。オイラー標数が正であることを存在の根拠にできないのと同じ形で、不等式が通ることも存在の根拠になりません——どちらの向きにも存在は決まりません。 - 既知の定理が反対側を予言しています。
ξは絶対ホッジであることが無条件に既知で、代数性は Lefschetz 標準予想から従います。「届かない」を結論として出すには、枝の尽くしが完全でなければなりません。現在は完全ではありません。 - 反例を探すなら、より大きい側が先です。GHC(1,3) は
WF(6 次元)だけでなく残りの 54 次元も因子に台を持つことを要求していて、そちらは 9 倍大きい(欠損≥ 27)。 - 未取得の一次資料:Kubota 1965 の原典、Hazama 2000 の原典、Tankeev 1983/Ribet 1983 の本文、Shioda 1981 の本文、André 1992・Deligne 1982・Abdulali 1994 の原典(解説の逐語で代用)。
この道が、本体に届かない理由
ここで扱ったのは一つの多様体の上の一つの類です。仮にその代数性が示せたとしても、得られるのは A の冪のホッジ予想(支配次元 3 の帰着を使って)であって、CM の族全体にも、まして一般の射影多様体にも及びません。逆に代数性が否定できれば標準予想の反証になりますが、そのためには残る二つの枝を無条件に閉じる必要があり、いまはどちらも条件つきです。このページが増やしたのは、閉じた道であって、開いた道ではありません。
文献
| もの | 確認の状態 | 出典 |
|---|---|---|
| CM のホッジ類・絶対ホッジ・分裂 Weil 類・標準予想からの含意 | 解説を逐語(原典未取得) | Milne, arXiv:2010.08857(André 1992/Deligne 1982/Abdulali 1994 を引く)/Pohlmann, Ann. of Math. 88 (1968) 161–180 |
| 退化する CM 型と例外類、2 冪判定 | 全文取得 | White, Compositio Math. 88 (1993) 123–142/Yanai, J. Théor. Nombres Bordeaux 27 (2015) 815–820 |
| 退化の指標判定、支配次元 | 逐語(原典は未取得) | Hazama, J. Math. Sci. Univ. Tokyo 10 (2003) 581–598(Kubota, Trans. AMS 118 (1965) 113–122/Hazama, J. Alg. Geom. 9 (2000) 711–753 を引く) |
WF の定義と判定、dim ≤ 5 | 原典(PDF) | Moonen–Zarhin, J. reine angew. Math. 496 (1998) 83–92/Math. Ann. 315 (1999) 711–733 |
| アーベル 4-fold の決着 | 要旨 | Markman, arXiv:2502.03415 |
| 一般の CM 体の割線層、半正則性 | 原典(PDF・逐語) | Markman, arXiv:2509.23079 |
| 随伴イデアルとテータ因子 | 原典(PDF・逐語) | Ein–Lazarsfeld, J. Amer. Math. Soc. 10 (1997) |
| 一般化ホッジ予想の現状 | 原典(PDF・逐語) | Vial, arXiv:1803.00857v2 |
| 素数次元の単純アーベル多様体 | 評のみ(本文未取得) | Tankeev, Math. USSR Izv. 20 (1983) 157–171/Ribet, Amer. J. Math. 105 (1983) 523–538 |
| Fermat 多様体 | 全文取得 | Shioda, Proc. Japan Acad. 55A (1979) 111–114 |
探した範囲:退化 CM 型・例外ホッジ類・一般化 Weil 類・分裂 Weil 類・随伴イデアル・一般化ホッジ予想についての検索と、上の論文の参照文献。被引用の一覧は引いていません。新しさについては「探した範囲で見当たらない」より強い言い方をしていません。