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2026-09-20 · article P 対 NP回路計算量否定制限回路

P 対 NP — 否定の個数の梯子はどこで止まるか

「P 対 NP」は、計算機科学で最も有名な未解決問題です。問いは一文で書けます——答えが正しいかを速く検算できる問題は、答えそのものも速く見つけられるか。「速く」とは、入力の大きさの多項式で抑えられる時間で、という意味です。検算が速い問題の集まりが NP、解くのが速い問題の集まりが P で、両者が同じか(P = NP)違うか(P ≠ NP)は分かっていません。クレイ数学研究所が 2000 年に選んだ七つのミレニアム懸賞問題の一つで、公式の問題ページは Clay Mathematics Institute: P vs NP にあります。多くの研究者は P ≠ NP と予想していますが、証明はありません。

P ≠ NP は未解決のままで、このページに、その証明に近づいたと読める主張はありません。書いてあるのは三つです。過去の試みが何に阻まれたかの整理。単調回路(否定を使わない回路)の下界から一般の回路へ、「否定の個数」を一段ずつ増やして登る古い道の寸法——どこまで登れていて、なぜそこで止まるか。n = 4(変数が四つ)の全数計算で見えた形。残ったのは、梯子の上端の手前にある幅 log log N の窓に入る道具が無いことです。

主張ごとに、確からしさの等級を次の札で示します。

Lean機械検査済み——このページには一つもありません 紙証明はあるが機械検査は未了。別の機会に証明を読み直して壊れなかったものには「検分済み」と添える 紙・未検分証明は書いてあるが、読み直しを経ていない 計算この端末で確かめた範囲。外に出す主張にはしない 既知既知の定理・外の文献の確認。† は原典を取得せず標準的事実として引いたもの

この記事の順序
  1. 問題と、三つの障壁
  2. 否定の個数という梯子
  3. 梯子の寸法 — 天井 n−1/2・帯の補題・窓
  4. Rossman の証明は、どこで測度を使うか
  5. 測度を替える — 重み中立の植え込み・閉路の 2-被覆・交代和の補題
  6. 小さな n で見えたこと — n = 4 の全数
  7. 代数の側の一行
  8. 残ったこと
  9. 文献

01

問題と、三つの障壁

答えを多項式時間で検算できる問題は、どれも多項式時間で解けるか。
(解けるなら P = NP。回路の言葉では、NP の関数のどれかに多項式サイズの回路が無いこと——NP ⊄ P/poly——を示せば P ≠ NP が従う)

ここで「回路」とは、AND・OR・NOT のゲートを配線して論理関数を計算する図式のことで、ゲートの個数をサイズと呼びます。P/poly は、多項式サイズの回路で計算できる関数の集まりです。難しさを示すとは、「この関数を計算する回路には少なくともこれだけのゲートが要る」という下界を証明することです。

過去の試みは、三つの障壁のどれかに当たって止まっています。障壁とは「この型の論法では P 対 NP を決められない」という定理で、次の三つが知られています。既知

障壁言っていること引っ掛かるもの
相対化
Baker–Gill–Solovay 1975†
PA = NPA となる神託 A と、PB ≠ NPB となる神託 B が両方ある神託を付けても通る論法(対角線論法・模倣)
自然な証明
Razborov–Rudich 1994/97†
関数の性質が構成的(2O(n) 時間で判定)・large(密度 ≥ 2−O(n))・有用(小回路の関数を含まない)なら、2nε 困難な擬似乱数生成器と両立しない1994 年までの回路下界のほぼ全部(制限・近似・ランク)
代数化
Aaronson–Wigderson 2008
神託の低次拡大を片側に与えても通る論法は、P 対 NP を決められない算術化(IP = PSPACE・MIP = NEXP・PCP)だけに頼る論法

進んだ道と、止まった場所:

道到達点止まった場所
単調回路(NOT ゲートを使わない回路)クリーク(グラフの中で互いに全部つながった頂点の組を探す問題)に超多項式(Razborov 1985†)、指数(Alon–Boppana・Andreev†)否定ゲート一つで崩れる。Tardos 1988† は「単調では指数・一般では多項式」の関数を与えた。測っているのは問題の難しさではなく、単調性という制約の値段
ACC⁰NEXP ⊄ ACC⁰(Williams 2011†)、NQP ⊄ ACC⁰(Murray–Williams 2018)。速い SAT アルゴリズムから下界を出す関数の側は NP に届かず、回路の側は TC⁰ に進めない(SAT アルゴリズムが無い)。TC⁰ は、仮定の下で擬似ランダム関数が計算できるようになる線†
一般回路の明示的下界3n − o(n)(Blum 1984)→ (3 + 1/86)n − o(n)(Find–Golovnev–Hirsch–Kulikov 2016)→ 3.1n − o(n)(Li–Yang 2021/22)ゲート消去の場合分けが爆発する。更新する論文は探した範囲(網羅ではない)に見当たらない
幾何学的複雑性理論perm 対 det を軌道閉包の分離に(Mulmuley–Sohoni 2001)occurrence obstruction では不可能(Bürgisser–Ikenmeyer–Panova 2016)。重複度による方針は排除されていない

ACC⁰・TC⁰ は深さが一定の回路の族(前者は剰余を数えるゲート、後者は多数決ゲートを許す)、NEXP・NQP は非決定性の指数時間・準多項式時間の類。perm(パーマネント)と det(行列式)は正方行列から作る二つの多項式で、パーマネントが大きさ多項式の行列式では表せないことを示すのが幾何学的複雑性理論の目標です。

三つの障壁を同時に避けている既存の技法は、実質 Williams の方法だけです。避け方は「対象を開ける」に尽きます——神託でなく回路の記述そのものに触り(非相対化・非代数化)、関数の集団でなく一点を扱う(large でない)。Williams 2013 は NEXP の下界について「構成性は不可避・large は不要」を同値として示しています。禁じられているのは、「多数の関数が持ち、かつ計算できる性質」を使うことです。NP について同じ同値が成り立つかは確認していません。

失敗した「証明」の多くは、この三つのどれかにそのまま当たります——神託を付けても通る、XORSAT・完全マッチング・Tardos 関数にも同じ結論が出てしまう、ランダム関数と擬似ランダム関数を見分けることになっている。P 対 NP の「証明」を集めた Woeginger の Web 上の一覧は 115 件(P = NP が 62・P ≠ NP が 50・決定不能が 3)。既知


02

否定の個数という梯子

単調回路(否定 0 個)には指数下界があり、一般回路には 3.1n しかありません。この二つの間を連続に繋ぐ数値が一つあります——回路が使ってよい否定ゲートの個数 t。t を一段ずつ増やしていく道を、この記事では「梯子」と呼びます。既知

以下で NC¹ は、深さが log n 程度で大きさが多項式の回路(多項式サイズの式と同じ力)で計算できる関数の類です。

目標⌈log(n+1)⌉Markov・Fischer既知
一般回路での現在地(1/6) log log nクリーク。Amano–Maruoka 2005既知
NC¹ での現在地(1/2 − ε) log nRossman, CCC 2015既知

NC¹ での到達を運んでいるのは Rossman の補題 1.3(Holley の単調結合)です。「1/2 + δ 困難」とは、その大きさのどの回路を使っても、入力を無作為に引いたときに正解する確率が 1/2 + δ に届かないことです。分布が FKG 束条件(正の相関を保証する条件)を満たし、単調関数 f がその下で均衡(値が半々に出る)なら、

単調回路に対して 1/2 + δ 困難  ⟹  否定 t 個の回路に対して 1/2 + (2t+1 − 1)δ 困難

否定 1 個の値段は、証明できる相関の余裕 δ が半分になることで、使える t の上限は t ≈ log₂(1/δ)。単調 NC¹ に対して取れる余裕は δ = n−1/2+ε なので (1/2 − ε) log n で止まります。壊れるのは回路の構造の側ではなく、単調側の平均時下界の強さ(無作為な入力に対する正解率についての下界)の側です。同じ「否定 1 個=2 倍」は、扱える交代数(Markov)・守れる独立なコピーの個数(Jukna)・サイズ(Fischer)にも現れます。

t を上げるだけでは足りません。P に属する明示的な単調多出力関数で、log n − O(log log n) 個以上の否定を許さなければ超多項式サイズが要るものが在ります(Jukna 定理 10.21)。一出力の明示的単調関数で同じことを求める問題(同 Research Problem 10.23)は未解決です。既知


03

梯子の寸法

以下、変数の個数を N と書きます(文献の引用では n のまま)。「測度」は入力の確率分布のことです。一様測度はすべての入力を等確率で引く分布、積測度は各変数を独立に引く分布、交換可能な測度は入力の重み |x|(真になっているビットの個数)だけで確率が決まる分布です。

天井 n−1/2 は原理的である

どの単調関数も、0・1・x₁,…,xn・MAJ(多数決関数)のどれかと 1/2 + Ω(log n/√n) で一致します(O'Donnell–Wimmer 2009)。これらはすべて単調 NC¹ に入るので、一様測度の下で、単調関数は単調 NC¹ に対して 1/2 + o(log n/√n) 困難になれません。Rossman 自身が論文の中でこの限界を述べ、積測度の下では多項式サイズの単調回路に対しても 1/2 + n−1/2 より良い困難性は望めないと書いています。既知

1/2 の出所は一行で書けます。測度が交換可能(重み |x| だけで決まる)で f が均衡なら、φ(s) を重み s の層での f の密度として

maxθ P[f = THRθ] − 1/2  =  E |φ(S) − 1/2|

紙・未検分閾値との相関は「φ が 1/2 から離れる速さ(傾き)× 重みが広がる層の数」。Kruskal–Katona の定理が傾きの下限 1/n〜log n/n を強い、一様測度の重みは √n 層に広がるので log n/√n です。1/2 は、積測度の下でハミング重み(重み |x|)が √N 個の層にしか住まないことから来ています。同じ √N は別の二箇所にも出ます:どの関数も否定 (1/2) log n + O(1) 個の回路で 0.01 近似できる(Blais–Canonne–Oliveira–Servedio–Tan)。擬似ランダム関数は否定 log n − O(1) 個を要するが、その証明は弱擬似ランダム関数には通らない——無作為な標本は中央の層に集中して鎖を張れない(Guo–Malkin–Oliveira–Rosen)。既知

積測度を替えても天井は下がりません:重みの分散を σ² とすると、どの積測度でも単調関数はある閾値と 1/2 + c/(σ√(log σ)) で一致し、この床——簡単な関数でも必ず取れてしまう一致の余裕の下限で、困難性はこれより先へ進めない——が最も低いのは、σ が最大の一様測度です(証明は既知の型)。紙・未検分FKG 束条件を満たす一般の測度については、証明が付いていません。

帯の補題と、梯子の上端

紙検分済み。帯とは、入力の重みをある範囲に限った部分のことです。重みが L 個の層から成る帯 a ≤ |x| ≤ b の上では、サイズ s の任意の回路を、否定 ⌈log₂L⌉ 個・サイズ 2s + poly(N)・深さ +O(log N) の回路に直せます。L = 1 が Berkowitz のスライス関数、L = N + 1 が Fischer の定理で、その間の補間です。証明は Fischer の構成を帯に制限しただけで、寸法つきの形は探した範囲に見当たりませんが、folklore(論文にはなっていないが専門家には知られている類の事実)と見るべきものです。

深い詳細 — 証明の骨子

回路を二重レールにして否定を入力だけに寄せ(サイズ 2s)、¬xi の代わりに

fi(x) := Tha(x − xi) ∧ ⋀k=a+1..b ( ¬Thk(x) ∨ Thk(x − xi) )

を使う(x − xi は xi に 0 を代入したもの)。|x| が帯の中なら fi(x) = ¬xi。要る否定は整列した列 (Tha+1,…,Thb) の反転だけで、二分探索で否定 ⌈log₂L⌉ 個・深さ O(log L)。恒等式は N ≤ 8・全帯・71,684 通りで違反 0、陰性対照(帯の外の重み)では 30/36 で不一致。計算

一様測度の帯 N/2 ± √N(L = 2√N + 1、帯の外の質量は 0.28 未満)に当てると:

明示的な f ∈ mSAC¹ が、否定 (1/2) log₂N + 2 個の NC¹ 回路に対して一様測度で 1/2 + 0.2 困難なら、f ∉ NC¹、すなわち NC¹ ≠ LOGCFL。紙検分済み

mSAC¹ は、LOGCFL(NC¹ を含み、それより大きいと信じられている類)の単調版です。NC¹ ≠ LOGCFL は P ≠ NP よりはるかに弱い分離ですが、これも未解決です。

定数の優位での言明で、1/poly の質を保つなら上端は (1/2) log N + (1/2) log log N + O(1) に上がります。Rossman の (1/2 − ε) log n は、最悪時の梯子(長さ log n)に対しては半分ですが、一様平均時の梯子に対しては上端まで ε log n + O(1) 段です。

t の範囲(N 変数・一様測度・NC¹)状況
t ≤ (1/2 − ε) log NRossman の系 1.4既知
そこから (1/2) log N − log log N − O(1) まで補題 1.3 が原理的に届く範囲。単調側の δ を n−1/2+ε から床 log n/√n へ詰める仕事(技法の側)
(1/2) log N − log log N から (1/2) log N + 2 まで窓。幅 log log N + O(1)(1/poly の質なら (3/2) log log N)。補題 1.3 は天井のために入れず、一般の問題との同値もまだ出ない
t ≥ (1/2) log N + 2完全な NC¹ に対する平均時下界と同値。証明できれば NC¹ ≠ LOGCFL

技法の側の隙間 ε log n は、窓の幅 log log n よりずっと大きいままです。Fischer の構成は「⌈log(n + 1)⌉ 回の閾値質問でハミング重みを二分探索し、層が決まったら単調質問を一回」と読めます(否定 t 個の回路と深さ t + 1 の単調質問の決定木の対応は Amireddy–Jayasurya–Sarma 2023 の枠に入る既知。寸法の一致は本文未確認)。一様測度で (1/2) log n になるのは、探索範囲が √n 層だからです。自然な証明の障壁がこの梯子に掛かるのは最後の O(1) 段だけで、逆にスライス関数(L = 1)では全面的に掛かります。紙・未検分


04

Rossman の証明は、どこで測度を使うか

Rossman の定理 1.1(k-CYCLE——有向グラフに長さ k の閉路があるかを判定する問題——は、臨界のランダムグラフ Γ の下で、小さな単調論理式に対して 1/2 + n−1/2+c 困難)の証明を補題ごとに読むと、入力測度 Γ が積測度であることを使うのは、補題 C.4 の二本の式 (23)(24) だけです。どちらも Poisson 近似で、(24) は「Γ に道を一本植えても全変動距離(二つの分布の違いの大きさ)は O(k/√n)」。Janson の不等式と確率的優越は証明者が選ぶ雑音の側の独立性で、persistent minterm(minterm は関数の値を真にする極小の入力)の補題・パスセット複雑度の下界・否定への被覆(補題 F.2)は測度を含みません。Rossman の言葉では、雑音は “lives inside the variance of the random graph Γ”。既知 (23)(24) の証明は論文の完全版に回されていて、その所在は確認していません。

入力測度を「辺数が L 層の帯に入る」という条件つき測度に替えると:紙・未検分

帯を狭める道では、窓に入れません。補題 1.3 の損 2t+1 − 1 は、単調質問が切る胞を無視して全体で和を取った損です。深さ j − 1 の単調質問の木の葉の胞ごとに、葉の単調回路が覆う単調対の質量を足した量を Dj とすると、否定 t 個の回路が覆う質量は Σj ≤ t+1 Dj 以下で、自明な上界 Dj ≤ 2j−1D₁ が補題 1.3 です。Dj ≤ K·D₁ が言えれば損は K(t + 1) に落ちます。紙・未検分質問を dictator(一変数だけを見る関数)に限り f = MAJN とした玩具では D₂/D₁ = 0.583, 0.633, 0.668, 0.766, 0.884, 0.961(N = 5, 7, 9, 21, 101, 1001。自明な上界は 2)。計算一般の単調回路の質問についてこれを示す道具はありません。


05

測度を替える

取引から抜ける道は、交換可能でない測度で傾きを 0 にすることです。Rossman の入力は k 個の頂点クラス(各 n 頂点)を巡回する有向グラフで、変数は N = kn² 本の辺、Γ は各辺を確率 p ∼ (ln 2)1/k/n で入れる積測度。Γ₀ を「k 閉路なし」で条件づけた Γ、⊙ を一様な k 閉路とします。

重み中立の植え込み——床の名前は「道の数」

「植え込み」とは、無作為なグラフに閉路などの構造をわざと入れることです。判定させたい問いは「閉路が植えてあるか」で、1 側・0 側はその答えが 1・0 になるべき入力の分布です。1 側を Γ₀ ∪ ⊙、0 側を Γ₀ ∪(各辺クラスから一様に 1 本ずつの k 辺)とすると、両側の辺数の分布が一致し、辺数の閾値・単一の辺・入次数だけ/出次数だけの関数は優位が 0 になります。それでも床は落ちません。j 辺の有向道の数 Pj の閾値が、c = pn として

adv(Th(Pj)) ≈ √(k/n) · mj / (2√(2π vj)), mj = Σi=0..j−2 (i+1)ci, vj = Σs=1..j (j−s+1)² c2j−s

の優位を取ります。k = 4 のとき P₂ で 0.101·√(k/n)、j = k − 1・c → 1 で約 0.17·k/√n。紙・未検分標本では P₂ の優位 × √(n/k) が 0.097・0.104・0.094・0.098(k = 4、n = 30, 60, 100, 200)で、式と 8% 以内で合います。計算これは (24) の右辺 O(k/√n) が桁として等号であることの言い換えで、Γ の下でも既に同じ統計量が床でした。測度を中立にしても、証明の側が「底」と「底に道を植えたもの」を比べる——閉路が minterm であることを言うための比較——ところで重みを動かします。

閉路の 2-被覆の植え込み

0 側の植え込みも同じ局所構造にします。各クラスから 2 頂点ずつ選び、辺クラスごとに K2,2 の二つの完全マッチング(平行か交差か)のどちらかを植える。交差の個数が偶数なら k 閉路 2 本(1 側)、奇数なら 2k 閉路 1 本(0 側)で、全頂点の(入, 出)次数まで一致します。側は k 個の辺クラスに一つずつ隠れたねじれビットのパリティです。紙・未検分

片側の床は n−1/2 より下に落ち、両側(絶対値)の床は残ります。ただし残る統計量は nk+1 項で、k → ∞ のとき多項式サイズの単調論理式に入るかは分かっていません。計算の陰性対照(差が出ないはずの対で同じ測定をする対照実験。ここでは同種を独立な位置に植えた対)に、大きさ 10−3・約 2.6σ の未解明のずれが一つあり、「0」の解像度は 10−3 と読むべきです。

交代和の補題——否定への拡張に Holley は要らない

重み中立の測度では両側に比較可能な対が無く、単調結合は存在しません。それでも:

任意の二つの分布について、否定 t 個・サイズ s の回路の優位は 2t+1·δ₂ 以下。δ₂ は、サイズ (2t + 1)s 以下の単調回路が取れる優位の絶対値の最大(両側の単調困難性)。紙・未検分

深い詳細 — 証明の骨子

否定ゲートを位相順に並べ、その出力の列 α ∈ {0,1}t を固定すると、各否定への入力と回路の出力は、先行する否定の出力を定数に置いた単調回路になる。各入力に整合する α はちょうど一つなので、回路は 2t 枚の葉の和で、葉の指示関数は「単調関数 U」マイナス「単調関数 U ∧ W」と書ける。FKG の下では Harris の不等式により単調回路の優位は負にならないので「片側=両側」で、Holley の結合はこの一点を保証するためだけに使われていた。

系:f ∈ NC¹ なら否定 ⌈log₂(N + 1)⌉ 個の回路が f を厳密に計算するので、ある分布の対の下で δ₂ < 1/(8(N + 1)) が言えれば f ∉ NC¹。積測度の下では §03 の天井がこの線を原理的に塞ぎます。2-被覆の測度の下では、見つかった単純な統計量はこの線を妨げません(d < k/4)。つまりその床を証明として下げることは、NC¹ ≠ NL と同じ重さ(NL は対数領域の非決定性計算の類で、NC¹ を含む)を持ちます——床が落ちることと、落ちた床まで証明が届くことは別です。Rossman の証明を黒箱で使うと、2-被覆の測度の下でも否定 (1/2 − c) log n 個まで(同じ値)。その先を阻むのは、補題 4.5 が和集合の上界で加法的に払う (ℓ + 1)k²/√n です。小さいのは符号つきの差だけで、相殺を使う証明が要りますが、minterm の数え上げは符号を持ちません。

辺数の期待値を合わせた帰無仮説は Addario-Berry–Angel–Lugosi–Rácz–Schramm にあります。次数列まで合わせた植え込みを単調回路について論じたもの、交代和の補題の明示形は探した範囲に見当たりませんが、後者は folklore の範囲の一行です。


06

小さな n で見えたこと — n = 4 の全数

模型:入力は x₁,…,x₄ のみ(定数入力なし)。ゲートは二項の AND・OR と一項の NOT で、サイズは AND/OR の個数(NOT は数えない)。Ct(f) は NOT を t 個以下しか使わない回路の最小サイズ、C∞ は否定が無制限のときの値、C₀ は単調回路。全 65,536 関数を、正準形の回路の全列挙で数えます。

量値等級
二項演算全部を許す基底での最小サイズの分布(サイズ 0〜7)10/60/456/2,474/10,624/24,184/25,008/2,720。Knuth の表と全 8 行一致(校正)計算既知
AND・OR・NOT(NOT 無料)での最大値10。3 類は 10 ちょうど(9 ゲートの全列挙 1.02×10¹¹ 節点に無し+SAT で 10 ゲートの回路)。1 類(0x1886)は 10 以上 12 以下計算
交代数 d(f) = 0/1/2 の関数の数168/23,592/41,776。どの関数も NOT 2 個で足りる計算
単調性の値段 C₀ − C∞非定数の単調関数 166 個すべてで 0。C₀ の最大は 7(T₂・T₃。Tk は入力のうち k 個以上が真のとき真になる閾値関数)計算
否定 1 個の値段 C₁ − C₂(両方が厳密な 20,252 関数)0:13,358/1:5,202/2:1,464/3:204/4:24。4 を取るのは多重化器 (x₃ ∧ ¬x₄) ? x₂ : x₁(選択信号で入力の一つを選び出す関数)の 1 軌道(変数の入れ替えなどで互いに移り合う関数の一組)(C∞ = C₂ = 4・C₁ = 8)。C₂ − C₃ は全升 0計算
共有なしの二段 D₁ と C₁ の差(同じ 20,252 関数)0:11,158/1:6,588/2:2,108/3:292/4:104/5:0/6:2。正なのは 9,094 個(44.9%)。6 を取るのは E₂ = T₂ ∧ ¬T₃(真がちょうど 2 個)だけで、C₁ = 9 対 D₁ = 15計算
単調関数の対の共有の得 γ(u, v) = C₀(u) + C₀(v) − C₀(u, v)最大 6、取るのは (T₂, T₃) ただ一対(C₀(T₂, T₃) = 8)。13,695 対中 13,689 対が確定計算
D₁(f) − C₁(f) ≤ γ(h, g⃗)否定をまたぐ共有の得は、単調多出力回路の共有の得を超えない紙・未検分

否定の値段が立つのは、一箇所だけ

n = 4 では単調性の値段がゼロで、否定を 3 個から 2 個に絞る値段もゼロです。値段が立つのは、どの関数にも足りる個数(Markov の定理から 2 個)を割って 1 個に絞ったときだけ。最大の 4 ゲートを取るのは対称関数ではなく多重化器で、否定の使い道が二つとも本質的(選択信号の中に一つ、選択そのものに一つ)です。比 8/4 = 2 は Fischer の係数と同じ数ですが、一般には乗算的ではなく加法的です:アドレス k ビットの多重化器は d = k・I = ⌈log₂(k + 1)⌉ で、t ≥ I なら Ct ≤ C∞ + O(k log k)。紙・未検分選択信号が単調なら n = 4 でも値段は 0 です(x₃ ? x₂ : x₁ は C₁ = C₂ = 3)。この形は n = 4 の小ささに固有で、漸近的には t = 0 の単調関数で既に指数の値段が立ちます。

対称関数の側は、否定の入力が閾値関数に一意に固定される剛性(Tanaka–Nishino–Beals)で説明がつきます。E₁(ちょうど 1 個)の C₁ = 9 は、固定された入力 T₂ の C₀ = 7 を丸ごと背負った値です。計算

否定 1 個の回路は、単調な塊の和に分解しない

否定 1 個の回路は f = M(x, ¬h(x))(h, M は単調)と書けます。h の単調回路と、¬h を自由な入力に持つ単調回路を別々に最適化した和が D₁ です。D₁ = C₁ がいつも成り立つなら、単調側の指数下界が t 段ぶんの損失だけで否定制限回路に乗り移ります。n = 4 で既に成り立ちません。

深い詳細 — E₂ の 9 ゲート回路と、不等式の証明

a = x₁ ∧ x₂、b = x₁ ∨ x₂、c = x₃ ∧ x₄、d = x₃ ∨ x₄、e = a ∨ c、g = b ∧ d。T₃ = e ∧ g(NOT の手前)、T₂ = e ∨ g(NOT の向こう)、E₂ = T₂ ∧ ¬T₃。同じ二つの節点 e, g が NOT の両側で別の役を持つ。共有しなければ C₀(T₃) + 8 = 7 + 8 = 15。得の 6 は C₀(T₂) + C₀(T₃) − C₀(T₂, T₃) = 7 + 7 − 8 ちょうど。

不等式:最適な否定 1 個の回路で、NOT の祖先のゲートの集合を A、残りを B、B が読む A の節点の関数の組を g⃗ とする。g⃗ を作り直す単調回路に B を繋げば D₁ ≤ C₀(h) + C₀(g⃗) + |B|。一方 A は h と g⃗ をすべて出力する単調回路なので C₁ = |A| + |B| ≥ C₀(h, g⃗) + |B|。二つを引く。

得の源は単調多出力回路の共有で、否定に固有ではありません。観測された差の最大 6 と γ の最大 6 は同じ対 (T₂, T₃) で起きていて、不等式は最大値のところでちょうど達成されます。Fischer の定理の証明自体が、n 個の閾値関数を一本の単調回路でまとめて作る共有の構成で、E₂ はその n = 4 版です。多重化器では差が 0 なので、「否定の値段」と「共有の得」は別の現象です。否定制限のサイズが単調な塊のサイズの和に分解する、という言明は Jukna の第 10 章を探した範囲に見当たりません。梯子を「分解」で登る道は、多出力単調下界という別の未解決問題に置き換わります。

対照:否定制限の列挙は六本(単調関数 166 個の再現・Markov の下界側の違反ゼロ・t = 3 の表が t = 2 と全升一致・刈り込み無しの列挙との一致・独立な表に対する Ct ≥ C∞・剛性定理)。C₂ が厳密なのは 65,536 中 61,184(93.4%)、C₁ は否定 1 個で作れる 23,760 中 20,252(85.2%)で、残りは下界だけ。D₁ は 23,760 関数すべてで厳密(対照は八本)。別実装による C₁ の再現は C₁ ≤ 6 の 100 関数で 100/100 一致、C₁ が 7〜9 の升は再現していません。

n = 4 の全数計算は、障壁に触れません。真理値表を持てば何でも 2O(n) 時間で判定できるので「構成的」の条件が空で、しかも n = 4 では対称関数のような明示的な族が全体の最大値に達していて、ほとんどすべての関数の難しさと明示的な一点の難しさがまだ分離していません(Knuth も、対称関数は n が小さいとき最も評価しにくく n ≥ 10 では最も易しい部類になる、と書いています既知)。


07

代数の側の一行

非可換の設定(Nisan の代数的分岐プログラム)では最小サイズが階数で厳密に書けますが、n ≤ 8 の全数で perm と det の階数は完全に一致します(どちらも二項係数)。計算差が出るのは安定化群のリー環の次元(安定化群はその多項式を変えない線形変換の集まり、リー環の次元はその連続なパラメータの個数)です:

detn2n² − 2n = 2, 3 で 6・16計算古典既知
permn2n − 2n = 3, 4, 5 で 4・6・8計算古典†
ℓm−n permn2n − 1n = 3, 4, 5 の各三通りの m で 5・7・9。m に依らない計算

幾何学的複雑性理論が実際に扱うのはパディングした ℓm−npermn ですが、パディングが増やす対称性はちょうど 1 次元(ℓ と x の同時スケーリング)で、行列式側も同じく 2n² − 1(n = 2, 3, 4 で 7・17・31)。連続な対称性の差は、n について一次と二次のまま残ります。ただし、これは障害には翻訳できません。安定化群が小さいこと自体は軌道閉包への包含を妨げず(境界では安定化群は逆に大きくなりうる)、§01 のとおり occurrence obstruction の道は閉じています。「2n − 1 で m に依らない」という逐語の言明は探した範囲に見当たりませんが、初等的な計算で、専門家には自明でありえます。


08

残ったこと

動いた宿題の現在地は 残っていること にある。ここには現時点の未決だけを置く。

式サイズの側(De Morgan 式サイズを、真理値表の上の関数として見る)は 別のページ にあります。

内容
言えた三つの障壁と、否定の梯子の現在地の整理既知
言えた帯の補題と梯子の上端 (1/2) log₂N + 2紙検分済み(folklore と見るべきもの)
言えた帯の版・取引・植え込み測度の床・交代和の補題・共有の不等式紙・未検分
言えたn = 4 の全数の表計算
言えないP ≠ NP について何か。NC¹ と LOGCFL・NL の分離について何か

このページの主張に、機械検査されたものはありません。紙の補題のうち読み直しを経たのは帯の補題とその系だけで、探した範囲に見当たらないと書いたものも、どれも folklore の範囲の短い議論です。この筋は、ここで止めてあります。


文献

もの確認の状態出典
代数化の障壁原典Aaronson–Wigderson, ECCC TR08-005
相対化・自然な証明の障壁†(定義は Chow arXiv:0805.1385 の要旨で照合)Baker–Gill–Solovay 1975/Razborov–Rudich 1994/97
構成性は不可避・large は不要(NEXP)原典Williams, arXiv:1212.1891
NQP ⊄ ACC⁰原典Murray–Williams, ECCC TR17-188
一般回路の明示的下界原典Find–Golovnev–Hirsch–Kulikov, ECCC TR15-166/Li–Yang, ECCC TR21-023
occurrence obstruction の不可能性原典Bürgisser–Ikenmeyer–Panova, arXiv:1604.06431(J. AMS)
n = 4 の最小回路サイズの表原典Knuth, TAOCP 7.1.2(先行分冊 0c)Table 1
Markov・Fischer の定理、剛性、スライス関数、定理 10.21、問題 10.23二次資料Jukna の教科書 第 10 章 “The Mystery of Negations”(定理 10.1・10.5・10.18、注意 10.13・10.20)。Markov の定理は Kochergin–Mikhailovich, arXiv:1506.04485 の要旨でも照合
一般回路で (1/6) log log n書誌のみ(本文未取得)Amano–Maruoka, SIAM J. Comput. 35(1), 201–216 (2005)
NC¹ で (1/2 − ε) log n・補題 1.3・定理 1.1原典(著者公開の PDF・全 31 頁)Rossman, Correlation Bounds Against Monotone NC¹, CCC 2015
単調関数と 0・1・xi・MAJ の相関原典O'Donnell–Wimmer, KKL, Kruskal–Katona, and monotone nets, FOCS 2009
否定 (1/2) log n 個での近似原典Blais–Canonne–Oliveira–Servedio–Tan, arXiv:1410.8420
擬似ランダム関数と否定の個数原典Guo–Malkin–Oliveira–Rosen, ePrint 2014/902
単調質問の決定木要旨Amireddy–Jayasurya–Sarma, arXiv:2301.00136
辺数の期待値を合わせた植え込みの検出要旨Addario-Berry–Angel–Lugosi–Rácz–Schramm, arXiv:2602.07669
perm と det の対称性・パディング要旨Landsberg, arXiv:1509.02503/Landsberg–Ressayre, arXiv:1508.05788。perm の安定化群の古典(Marcus–May・Botta)は †

探した範囲:arXiv の検索(negation-limited circuits・monotone circuits average-case・slice functions monotone circuit・pathset complexity・planted cycle detection ほか)。被引用の一覧は引いていません。

改訂 2026-09-20:新設。