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2026-08-29 · article エルデシュ問題未解決問題組合せ論

エルデシュ等差数列予想 — k=3 の記録 3.0085385 と k=4 の記録 4.4397535 は、どちらも一つの機械検査済みの定理

エルデシュが 5,000 ドルを懸けた予想は、「長さ k の等差数列を含まない集合の逆数和の上限 f(k)」という一つの数の列に翻訳できます。この記事は下界の側——実際に大きな集合を作る側——の記録です。k=3 で 3.0085385、k=4 で 4.4397535。どちらも、集合が等差数列を含まないことと記録を超えることが、一つの Lean の定理になっています。

Lean機械検査済み(Lean 4 + mathlib、標準三公理以下、sorryAxnative_decide なし。定理名を添える) 証明はあるが機械検査は未了 計算この端末で確かめた範囲。外に出す主張にはしない 既知言い換え・既知の定理・外の文献の確認

この記事の順序
  1. この問題は何か — エルデシュが 5,000 ドルを懸けたもの
  2. 世界はどこまで来ているか — 壁は「対数の指数 1」にある
  3. 道具を作り、2025年の記録で検算する
  4. やったこと ①:六通りの探索が、同じ一点に落ちた(k=3)
  5. やったこと ②:k=4 に同じ機械を向ける
  6. やったこと ③:差 0.00055 の正体を測る
  7. 記録が動いた(k=3、末尾に k=4)— どちらも機械検査済みの定理
  8. 残ったこと — 母関数版の壁・k=8・k ≥ 5

01

この問題は何か

エルデシュが生前、5,000 ドルを懸けた予想があります。

エルデシュ等差数列予想:正整数の集合 A について Σa∈A 1/a = ∞ ならば、A は任意の長さの等差数列を含む。

「逆数和が発散するほど濃い集合は、いくらでも長い等差数列を避けられない」。素数の逆数和は発散するので、これが正しければ素数はいくらでも長い等差数列を含むことになります(この特別な場合は Green–Tao が 2004年に別途証明しました)。

この予想は、一つの数の列に翻訳できます。

f(k)  =  sup { Σn∈A 1/n  :  A は長さ k の等差数列を含まない }

これがエルデシュ問題 #169 です。そして——

Gerver の定理同値「すべての k で f(k) が有限」⟺ エルデシュ等差数列予想
だから f(k) は測る量5,000 ドルの予想を数値で測るための量になる
この記事が扱うのは下界「実際に大きな集合を作る」側。上界(有限性の証明)は別の技術

エルデシュの問いは二つです。f(k) を見積もること、そして lim f(k)/log W(k) = ∞ か(W(k) は van der Waerden 数)。後者は f(k)/log W(k) ≥ 1/2 が自明で、1/2 より大きいどの定数も未解決です。

下界の既知は三つの層になっています——Berlekamp 1968 の (log 2/2)·k、Gerver 1977 の (1−o(1))·k log k、そして Walker 2025 の個別の k の記録。この記事は三層目を動かす話です。


02

世界はどこまで来ているか

壁は「対数の指数 1」のところにある

なぜ k=3 だけが解決していて、k=4 以上が未解決なのか。一箇所に集約できます。

k-AP-free な集合の [N, 2N) の部分の密度を δk(N) = rk(N)/N(rk は最大サイズ)と書くと、逆数和は次で抑えられます。

Σa∈A 1/a  ≲  Σj δk(2j)

ここに既知の上界 rk(N) ≪ N/(log N)θ を入れると δk(2j) ≈ j−θ なので——

Σ j−θ が収束するのは θ > 1 のときだけ。
予想を k について示すことは、「対数の指数 θ を 1 より上に上げること」に等しい。

Σj≤J j−θ の部分和θ = 1 が発散と収束の境目

この一本の線に、既知の結果が全部並びます。

k最良の上界θ 相当状態
3Bloom–Sisask 2020: N/(log N)1+c1+c > 1解決済み
4Green–Tao 2017: N/(log N)cc < 1壁のすぐ下
≥5Leng–Sah–Sawhney 2024: N·exp(−(log log N)c)まだ土俵に上がっていない

k≥5 の上界は、c < 1 である限りどんな多項対数よりも弱い(exp(−(log log N)c) 対 exp(−c·log log N))。θ の目盛りに乗ってすらいません。

そして k=4 について、Green–Tao は自分の論文で「これが我々の手法の限界である」と書いています。手法の限界と、壁の位置が、k=4 でちょうど重なっています。

下界の側 — 実際に作られている集合

k下界(記録)誰がどんな集合か
33.00849Wróblewski 1984ケンプナー型ではない(貪欲な集合と密な詰め込みを交互に)
33.0085385221この記事(§07)Wróblewski の構成のブロック列を替え、段の取り方を 84 段に。3-AP を含まないことと記録を超えることは一つの定理LeanShiori959.erdos169_lower_record_939(保証する桁は 3.0085385 まで)
44.43975Walker 2025基数 55、21 桁のケンプナー集合
44.4397534742この記事(§07 末尾)Walker の集合を 1030.355 で切り、Behrend 型ブロックを 38 段。4-AP を含まないことと記録を超えることは一つの定理LeanShiori1112.setA4_apfree_and_beats_walker
一般(log 2/2)·kBerlekamp 1968
一般(1−o(1))·k log kGerver 1977

Walker 2025 の還元 — 探索空間が有限次元になる

ケンプナー集合だけ考えれば十分。すなわち「基数 b と数字集合 S を決め、b 進表記の各桁が全部 S に入る整数の集合」の形だけで、任意の k と ε について f(k) − ε に到達できる。

無限集合の海が、(b, S) の対の探索になります。この記事の作業は、全部この定理の上に乗っています。

※ ただし「十分」は極限の話で、有限の b で届くとは言っていません。「十分」を「実用的に十分」と読み替えやすい箇所です(縮めた語を再膨張させる型の飛躍)。


03

道具を作り、2025年の記録で検算する

上界を上げるのは無理です。下界=実際に集合を作る側に回りました。必要な道具は二つで、どちらも書けました。

道具仕組み効き
逆数和を高精度で出すV = S + b·V の自己相似性を関数方程式 T(x) = (1/b)ΣdT((x+d)/b) にして、縮小写像として解く20秒 → 0.05秒
k-AP-free を厳密に判定する繰り上がりオートマトン。状態は繰り上がりの組で、cj ≤ j+1 と有界(基数によらない)。開始状態への閉路の有無標本ではなく決定

二つ目が肝です。「106 まで探して等差数列が無かった」ではなく、「存在しない」が有限の計算で言えます。

道具ができたら、まず既知の答えで検算する

項目結果
b=55, S={0,1,2,4,5,9,10,11,14,16,17,18,21,24,30,37,39,41,42,45,47}
4-AP-free か(オートマトン判定)True
逆数和(自作の高精度計算)4.4397534
Walker 2025 の論文の値4.4397534
0.0

2025年の査読済みの記録を、独立に再現しました。ここから先の数字は信用してよいことになります。


04

やったこと ① — 六通りの探索が、同じ一点に落ちた(k=3)

六通りの探索の到達点破線=1984年からの記録 3.00849
#探索到達最適だったもの
1貪欲(そのつど取れるものを取る)2.946600
2総当たり(基数 ≤ 28 のケンプナー集合)3.007939b=3, S={0,1}
3山登り(基数 ≤ 400 を無作為に)3.007939b=3, S={0,1}
4整数計画で厳密最大化(混合基数 c=3..70)3.0079390c=3, F={0,1}
5ベルマン方程式(木の族、基数 ≤ 70)3.007939015c=3, F={0,1}
6精密版ベルマン(基数 ≤ 80)3.007939027c=3, F={0,1}
記録(Wróblewski 1984)3.00849ケンプナー型ではない

※ 5 と 6 の末尾の差(1.2×10−8)は格子の補間誤差であって改善ではありません。

貪欲だけが落ちませんでした。残りの五つは、探索の仕組みも探索空間の広さも違うのに、同じ集合を返しています。Walker は同じ場所を C++ で 8,679 コア時間かけて探索し、"an influential local maximum" と書いています。

その一点にあるもの — Szekeres 集合(1962年)

1, 2, 4, 5, 10, 11, 13, 14, 28, 29, 31, 32, 37, 38, 40, 41, 82, …
(3 進表記に 2 が現れない数に、1 を足したもの)
上:1〜243 のうち集合に入る数(35 のうち 25=32 個)下:逆数の部分和

上の帯がカントール集合の形をしています。あらゆる尺度で同じ模様——これが後で効きます。下の曲線は逆数の部分和で、4,000 個を足しても、まだ 0.019 足りません。数え上げでこの値に到達するのは事実上不可能で、関数方程式を解く以外に道がない——それが §03 の道具が要った理由です。

ベルマン方程式まで一般化する

ケンプナー集合は「全部の桁で同じ (b, S)」の形です。桁ごとに、さらに枝ごとに変えてよいはず。

V  =  ∪f∈F ( f + c·V(f) )   (V(f) も同じ形)

この族の 3-AP-free 十分条件は「各節点で F が ℤ/cℤ の中で 3-AP-free」。逆数和は F について線形なので、最大化が最適性方程式になります。

U*(x) = max(c,F) [ Σf∈F, f≥1 1/(x+f)  +  (1/c)Σf∈F U*((x+f)/c) ]

求める下界は 1 + U*(1)。重要なのは、U=0 から反復するとどの段階の値も正しい下界だということです。n 回目は「深さ n の木」=有限の 3-AP-free 集合に対応するので、途中で止めても嘘になりません。

価値反復。n 回目は「深さ n の木」=有限集合の値なので、どれも正しい下界破線=記録 3.00849

x = 1 でも x = 0.5 でも、最適な政策は同じ (c=3, F={0,1}) でした。階層ごとに構造を変える自由を与えても、Szekeres が選ばれ続けます。


05

やったこと ② — k=4 に同じ機械を向ける

k=3 では族の外に記録がありました。k=4 は違います。

十分条件は、k=3 と同じ形で通る

V に公差 D > 0 の 4-AP があるとする。vi = fi + c·ui と一意に書くと、mod c で fi は公差 D mod c の等差数列。
D ≡ 0 (mod c) なら fi は全部同じ f で、ui が V(f) の中の 4-AP。→ 下の階層へ(帰納法)。
D ≢ 0 なら (f₁,f₂,f₃,f₄) は ℤ/cℤ の非定数な 4-AP で、全項が F に入る。

よって「各節点で F が ℤ/cℤ の非定数 4-AP を含まない」が十分条件。

記録集合が族に入っている — 出発点が記録以上になる

Walker の S が ℤ/55ℤ で非定数 4-AP を含まないかを、全通り(55×54 の組)調べました。含みません。

よって全階層で (55, S) を使う政策はこの族に入り、族の最適値は 4.4397534 以上であることが確定します。問題は真に超えるかだけ。

上がるための必要条件を、先に測る

ベルマンで値が上がるのは、最良の (c,F) が x によって入れ替わるときだけです。

候補ごとの値(全階層で同じ (c,F) を使ったとき)破線=記録 4.4397534
xWalker (c=55)c=11, |F|=6
0.04.2468374.236933+0.009904
0.53.7380153.723774+0.014241
1.03.4397533.421748+0.018006

符号が変わりません。Walker が全 x で優位——悪い兆候でした。ただし c = 11、たった 6 桁の集合が 4.4217475 を出していて、記録との差は 0.018 しかない。小さい基数が肉薄していること自体は、混ぜる望みがある形でした。

測る前に、予測を書く

予測内容結果
#K1ベルマンは 4.4397534 に収束し、超えない(確度 8 割)当たり
#K2x=1 でも x=0.2 でも最良候補は c=55 のまま当たり
#K3もし超えるなら c=55 の倍数で「二段まとめて一段にした」形超えなかったので不明
#K4次元が 0.759738 を超える c は c ≤ 160 に無い(確度 7 割)当たり

回した結果 — 動かない

基数 4〜70 の全部について、現在の U に対して最良の F を整数計画で厳密に作り、候補の池に足す(列生成)。候補を 92 個追加しても、値は 4.439753373 のまま。

より強い形 — 不動点であることを証明する

価値反復は遠回りでした。ベルマン作用素 T について T(UW) = UW なら、UW は不動点=族の最適値です(T は単調な縮小写像なので不動点は一意)。だから UW から一歩だけ当てて、超える F があるかを見ればよい。

各基数での「U_W をどれだけ超えたか」。ゼロを超えたら記録が動く全部マイナス

ここは慎重にやる必要がありました。c=55 では Walker 自身の S が実行可能なので、最大値は必ず UW 以上です。つまり「超えるかどうか」がぎりぎりの一点で決まる。暫定解では答えになりません。時間をかけて、整数計画に最適性を証明させました。

xmaxF − UW(x)状態時間

c = 55 の全ての x で、最適性が証明されました。最大の超過は −8.482×10⁻¹³。
負の値は数値誤差の範囲で、実質はちょうどゼロ——Walker の政策が、まさに不動点になっています。

なぜ動かないのか — 基数 55 は特別だった

ケンプナー集合 K(F,c) の元の個数は Nlog|F|/log c で増えます。この指数を次元と呼ぶことにします。各基数について、ℤ/cℤ で非定数 4-AP を持たない最大の F を整数計画で求め、次元を計算しました。

基数ごとの次元 log|F|/log c(c = 4〜157)破線=Walker の 0.759738
順位基数 c|F|次元
155210.759738← Walker が選んだ基数
2121370.752935= 11²
31160.747222上位三つは全部 11 がらみ
467230.745713
579260.745654

c = 4 から 157 まで調べて、55 の次元が最大でした。そして上位三つが 11、55 = 5×11、121 = 11²11 という基数が、この問題では特別です。Walker が 8,679 コア時間かけて 55 を見つけたのは、偶然ではありませんでした。

ただし次元だけでは決まりません。c=22 では、同じ |F| = 10 でも逆数和が 3.1354.420 に割れます。F の位置——小さい数字を含むかどうか——が強く効く。

この節の「動かない」は、ケンプナー集合の族の中での結論です——階層ごとに基数 c と桁集合 F を選ぶ族の中では、Walker の集合が不動点でした。その族の外に出ると動きます。Walker の集合を途中で切り、その先に Behrend 型のブロックを継ぐと、記録を厳密に超えます。§07 末尾の「k=4 の記録も動いた」を参照。


06

やったこと ③ — 差 0.00055 の正体を測る

k=3 の記録には、どうやっても 0.00055 届きません。その 0.00055 が何なのかを測ります。

逆数和は、小さい数に支配される

どこまで逆数和全体に占める割合
最初の 4 個(1, 2, 4, 5)1.95000064.8%
最初の 10 個2.35945878.4%
最初の 100 個2.83768694.3%
全部(極限)3.007939100%

最初の 4 個で 3 分の 2 です。だから「どこまで大きな数を取れるか」より、「小さい数をどれだけ取れるか」が効きます。

より密な集合は、逆に悪い

3-AP-free 集合として最も密なのは Behrend 集合(1946、密度 N−c√(log N))。どんなカントール型よりも漸近的に密です。作り方は「d 進 n 桁で各桁を d/2 未満に制限し、桁の二乗和を固定する」——球面上にあり、球面は凸なので 3 点が等差数列になりません。

Behrend 型の頭 + 自己相似な尾 の逆数和破線=Szekeres 単独 3.007939

Behrend 型は、圧倒的に悪い。最良でも 0.890 で、Szekeres の 3 割にも届きません。
漸近的に密であることと、小さい数を取れることは別です。Behrend 集合は範囲 25 で 2 個しか取れません。

では、有限区間の最適は何か

[1, M] の 3-AP-free 部分集合で逆数和が最大のものを、整数計画で厳密に解きました。最適性を証明できた M だけを載せます(打切りの値は使いません)。

R₃(M)(有限区間の最適)と Szekeres∩[1,M] の差ゼロなら Szekeres が最適
MR₃(M)|A|Szekeres∩[1,M]|S|

M ≤ 52 では、Szekeres がちょうど最適です。整数計画が、1962年の集合と同じものを返す。
M = 53 で初めて負けます(1 刻みで挟み撃ちにして確定)。差は 0.0013298——記録との差 0.00055 より、すでに大きい。

負け方も示唆的です。

集合
最適(M=53、17元)1, 2, 4, 5, 10, 11, 13, 14, 30, 31, 34, 36, 39, 40, 43, 45, 53
Szekeres(16元)1, 2, 4, 5, 10, 11, 13, 14, 28, 29, 31, 32, 37, 38, 40, 41

最初の 8 個は完全に同じ。分かれるのは 9 番目からで、Szekeres が 28 を取るところで最適は 30 を取る。そして最適は 53(区間の端)まで使い切って 1 個多く詰め込みます。Szekeres は端を使い切りません——自己相似な構造がそこで切れているからです。

その優位は、地平線を延ばすと罠になる(厳密)

M = 53 の最適集合 A は、Szekeres を +0.0013298 上回ります。ではこの A から先を最適に続けたら、優位は残るのか。頭を固定して [54, H] を整数計画で厳密に最適化し、二つの出発点を比べました。

地平線 HA(M=53 の最適)からSzekeres の頭から
802.5270287
([54,80] に一つも足せない)
2.5256989
(同じく一つも足せない)
+0.0013298
1282.65099572.6857405−0.0347448

※ 四つの最適化すべてで最適性を証明済み(打切りではない)。

53 での +0.0013 の優位は、地平線 128 で −0.0347 の負債に変わります。
しかも [54, 80] には、どちらの頭からも一つも足せません——Szekeres 自身が 41 の次を 82 まで飛ばすのは、このためです。

早取りは、罠です。局所の改善が大域の費用になる——「自己相似性の代価」が、動く形で、単一の数字として証明されました。
(Szekeres の頭からの [54,128] の最適な続きは、Szekeres 自身の続きとちょうど一致します。これも証明済みです。)

局所の手術では、どこも動かない(厳密)

逆向きも確かめました。未来を Szekeres に固定したとき、途中を作り直せるか。土台を Szekeres ∩ [1, 6561](256 元)とし、区間を丸ごと自由化して——その区間の Szekeres 元も外して、ゼロから選び直して——厳密に最適化しました。

自由化した区間自由変数最適解状態
空白帯 [42, 81] のみ40一つも足せない±0厳密
空白帯 [123, 243] のみ121一つも足せない±0厳密
[42, 243] を丸ごと(ブロックごと再設計)202Szekeres 自身の 16 元がちょうど最適±0厳密・1 秒

Szekeres の空白は、怠慢ではなく完全に塞がれています。前後を Szekeres に固定すると、空白帯には一つも足せず、ブロックを丸ごと自由化しても Szekeres 自身が返ってくる。

早取りの罠(前項)と合わせると、こう言えます——Szekeres は局所的に手術不能です。有限のどの窓をいじっても、外が Szekeres である限り、Szekeres が最適。
したがって、記録(3.00849)の集合は、有限の場所で Szekeres と違うのではなく、ある尺度から先の「続け方」ごと、大域的に違っていなければなりません。

それでも Szekeres が勝つのは、尾を継げるから

有限の頭 H ⊆ [1, M] に、離れた位置の尾 T = {c·v : v ∈ V, v ≥ 1} を継ぐ場合、c > 2M なら 3-AP-free になります(頭2・尾1 は t = 2h₂−h₁ ≤ 2M < c ≤ min T で不可能。頭1・尾2 は 2t₁−t₂ = c(2v₁−v₂) で、0 でなければ絶対値が c 以上になって頭に入らず、0 なら正の元にならない。頭を挟む形 t₁+t₂ = 2h も c > 2M に反する。尾3 は尾自身が 3-AP-free)。

しかし、この尾はほとんど何も足しません。寄与は Σ 1/(c·v) = 3.007939/c で、c = 161(M = 80)なら 0.0187 です。

分離した尾(c = 161)0.019安全だが、ほとんど稼げない
Szekeres の尾0.482同じ位置から 26 倍稼ぐ
頭で稼げる差+0.038M=80 での R₃ と Szekeres の差。埋まらない
2.5638  +  0.019  =  2.583  <  3.008

離せば安全だが、離した分だけ逆数和を失う。Szekeres が強いのはあらゆる尺度で薄く混ざっているから——尾が頭の隙間に入り込んでいて、離す必要がない。

離すことの代価が、この節の測った数です。
記録の超過 0.00055 のほぼ全部は、Behrend 型の尾が自己相似な続きの尾より濃くなる尺度 224.4 から先で生まれています(§08)。この節の有限区間の計算が示しているのは、その手前——低い尺度では自己相似な続きが手術不能であること——です。



07

記録が動いた — k=3 と k=4

ここまでは既知のものを測り直す作業でした。この節だけが、新しい下界です。k=3 も k=4 も、集合が等差数列を含まないことと記録を超えることは一つの Lean の定理です。節末の「この節の限界」まで含めて読んでください。

1984年からの記録3.00849Wróblewski。構成の実際の値は 3.0084971
この記事の下界3.008538522184 段の窓分離版。算術は厳密(整数と分数のみ)。Lean が保証するのは 3.0085385 まで
+4.9×10⁻⁵変えたのは、ブロックの選び方と、段の取り方

LeanShiori959.erdos169_lower_record_939 — 84 段の集合は 3-AP を含まず、逆数和は 3.0085385 を超える(1984 年の記録 3.00849 も超える)。Wróblewski の補題 1・2 も証明文を書き下して機械検査に載せてあり、外から借りている命題はありません。

何を変えたのか

Wróblewski の構成は二つの部品でできています。(Szekeres 集合を 21 523 361 で切ったもの、逆数和 3.0042100)と、その先に継ぎ足していくブロックの列です。継ぎ方——集合 Z の後ろにブロック T の平行移動コピーを三つ置く操作——は、彼の補題がそのまま保証します。

継ぎ方も頭も変えていません。ブロックの列だけを替えました。

Wróblewski 1984この記事
0–1B(4,9,5), B(4,10,5)同じ
2–5B(6,9,12) … B(6,12,16)同じ
6 以降B(6, n+6, rn) を無限にB(9,11,36), B(11,11,54), B(11,12,58), B(13,12,81), B(12,13,75), …

ここで B(p,q,r) は Behrend 型のブロックで、桁を p 通りから選び、基数 2p−1 で並べ、桁の二次形式の和を r に固定したものです。

なぜそれで増えるのか

ブロック B(p,·,·) の元の個数は、その幅 N に対して N^(log p / log(2p−1)) で増えます。この指数——次元——は p とともに上がります。

p69111213
次元 log p / log(2p−1)0.74720.77020.77960.78230.7846

Wróblewski は p = 6 に固定していました。1983年の計算機(ODRA 1305)で選んだパラメータが、そのまま 42 年残っていたことになります。

逆数和は小さい数に支配されるので、低い尺度では基数の小さいブロックが得です。しかし尺度が育つほど、次元の高い——つまり p の大きい——ブロックの方が得になります。
尺度とともに基数を育てる。それだけで、記録が動きました。

これは §02 で見た「壁は対数の指数のところにある」という構図と同じ形をしています。下界の側でも、効いているのは指数でした。

どこまで厳密か

浮動小数を一度も経由していません。

部分やったこと
集合が 3-AP-free であることWróblewski 1984 の補題 1・2 の証明文を書き下し、集合に当てるところまで Lean
頭の逆数和Σ ⌊1040/x⌋ / 1040(切り捨てなので下界)
各ブロックの寄与y = 2x − t の整数の冪和を桁ごとの動的計画で厳密に求め、等比級数の剰余を上から抑える
総和の判定有理数(分数)のまま比較

84 段の値が 3.0085385221 です。打ち切りは下界を下げる方向にしか働かないので、この値はそのまま下界になります。Lean が保証するのは 3.0085385 まで、10 桁の値そのものは整数の厳密演算の側にあります。

※ 独立に組んだ浮動小数の実装(中心化モーメント展開)と、段ごとの寄与が 10−9 以内で一致することも確かめました。

この節の限界

k=4 の記録も動いた

§05 では、ケンプナー集合の族の中で Walker の集合が不動点であることを証明しました。族の外に出ると動きます。使ったのは §07 と同じ発想です——自己相似な続きを途中で切って、Behrend 型のブロックに乗り換える。k=3 で Wróblewski が Szekeres 集合に対してやったことを、k=4 で Walker の集合に対してやりました。

2025年からの記録4.43975Walker。構成の実際の値は 4.4397533692
この節の下界4.4397534742Walker の集合を 1030.355 で切り、ブロックを 38 段。Lean が保証するのは 4.439753474215620 まで。整数厳密の挟み込みは 4.4397534744〜4.4397534745
+1.05×10⁻⁷小さいが、厳密に超えている

なぜ継げるのか — 補題が一つ

ブロックを継ぐとき、下の窓の一点と上の窓の k−1 点からなる k-AP が問題になります。Tao はこの問題のフォーラム(2025 年 9 月)でこの穴を指摘し、確率的に間引いて塞いでいますが、それでは数値の下界には使えません。次の補題は、同じ穴を損失なしに塞ぎます。

補題(k ≥ 4)。頭が k-AP-free、各ブロックが (k−1)-AP-free、各ブロックの最小元がそれより前の全体の最大元の 2 倍より大きい(倍加税)ならば、和集合は k-AP-free。窓の長さに条件はない。

証明は場合分けで一頁です(頭とブロックの境目をまたぐ隣接対があれば、公差は境目の幅以上になり、二項目が頭からはみ出す)。k=4 では、ブロックは 3-AP-free で足ります。つまり §07 で使った Wróblewski のブロックが、そのまま使えます。k=3 に戻すと、条件は Wróblewski の倍加税 a > max(2z, z+t) と一致します。この補題は Lean 4 で証明されています(Shiori1109.lemma2_four、sorry なし、標準三公理のみ)。

なぜ超えるのか — 尾の落ち方

ケンプナー集合の尺度 z より上の尾は z−β で落ちます(Walker の集合では β = 0.240)。Behrend 型ブロックの尾は exp(−c√log z) でしか落ちません。後者はいずれ前者より濃くなるので、十分先で切って乗り換えれば、どの k についても、どの k-AP-free ケンプナー集合 K についても、f(k) > H(K) が厳密に成り立ちます。Walker の Theorem 2.1 は f(k) がケンプナー集合の上限であることを言いますが、その上限はケンプナー集合では達成されません。k=3 では、この論法がそのまま Wróblewski 1984 の構成(Szekeres を 2.15×107 で切って Behrend に継いだ)の説明になっています。

固定した尺度で次元を比べると k=4 には効かないように見えますが、それは見立ての側の誤りです。Behrend 型ブロックの次元は p とともに上がり(p = 400 で 0.897)、Walker の 0.7597 を超えます。ただし k=4 の頭は k=3 の頭(Szekeres、β = 0.369)より良いので、乗り換えの尺度が 107 から 1030 へ押し出されます。頭が良すぎて、機械の出番が遅れる——差が 8 桁目にしか出ないのはそのためです。

どこまで厳密か — k=3 と同じ水準

集合そのものが 4-AP-free で、逆数和が 4.439753474215620 を超えることは、Lean 4 の定理ですShiori1112.setA4_apfree_and_lower、記録 4.439753369254541 を超える形は setA4_apfree_and_beats_walker。sorry なし、native_decide なし、標準三公理のみ)。Leanここは分けて書きます。Lean の外に残るのは二点で、Walker の集合の逆数和の値そのものと、頭が Walker の集合の切り詰めと等しいことです。

部品k=3(§07 の更新版)k=4(この節)
継ぎ方の補題LeanLean(一般の補題として)
補題を具体的な集合に当てるLeanLean
頭が 4-AP-free であることLeanLean(Walker の Theorem 1.2 を一般の形で証明)
ブロックが 3-AP-free であることLeanLean(同じブロック)
逆数和の下界Lean(13 桁のうち 9 桁)Lean(4.439753474215620。整数厳密の下界より 2.8×10⁻¹⁰ 低い)
実装の独立性二実装が 13 桁で一致Lean と Python の二実装が 9 桁で一致
Walker の集合の逆数和 HLean の外。Lean が言うのは「A の和 > 4.439753369254541」で、この数が H の上界を 15 桁で切り上げたものだという対応は整数厳密の Python の事実。Walker 自身の公表値 4.43975 を超えたことは Lean だけで言え、真値を超えたことは Lean と Python の両方で言う
頭 = Walker の集合の切り詰め等号は未証明(部分集合であることと、その上の下界だけ。記録の主張には部分集合で足りる)

段の表(38 行、すべて整数)、計算スクリプト、そして Lean の検証環境一式(k=3 の配布物に k=4 の 19 本を重ねた tar.gz)は証明書の置き場にあります。表の内部整合と「記録を超えている」ことは標準ライブラリだけの検算で、集合そのものの主定理は Lean で確かめられます。

この節の限界


08

残ったこと

動いた宿題の現在地は 残っていること にある。ここには現時点の未決だけを置く。

内容
言えたf(3) ≥ 3.0085385・f(4) ≥ 4.4397534742——集合が AP-free であることと記録を超えることが一つの定理LeanShiori959.erdos169_lower_record_939Shiori1112.setA4_apfree_and_beats_walker
言えたk=4:ケンプナー集合の族の中では Walker の集合が不動点(c = 55 の全 x で最適性を証明)。族の外——尾の乗り換え——で記録が動く計算
言えたk=3:十分条件で作れる木の族の中では Szekeres が最適(基数 ≤ 80)・Szekeres は M ≤ 52 でちょうど最適、M = 53 で初めて負ける計算
言えた記録の超過 0.00055 は尺度 224.4 から先——Behrend 型の尾が自己相似な続きの尾より濃くなる交差点——で生まれる。「頭(小さい数の部分)を替える」道は、記録の改良そのものの言い換えであって別の道ではない既知
言えない上界。f(3) の有限性の先には触れていない。k ≥ 5 はまだ「対数の指数」の土俵に上がっていない

現時点の未決

未決どこで止まっているか
母関数版の壁(円分性の命題)S が 3-AP-free なら「PS(x) = Σd∈S xd の根が全部単位円上 ⟺ S が二元集合 {0,ci} の直和」。⇐ は自明、⇒ が本体(3-AP-free の仮定を外すと偽)。deg ≤ 52 で反例なし計算。局所主張(昇格補題)に還元され、帰納の一歩は c > D/3 で通る。一般は未了。探した範囲では活字に見当たらない
k = 8Kempner 型は b ≤ 200 で、b = 121 を除き記録 13.5332472 以下(接頭辞カットで b = 91 が落ちた)計算。b = 121 は規模の壁で止めてある
k = 5 の記録値文献値 7.866 は誤りで、Kempner 集合 G₅ の逆数和は 7.8723049計算。k ≥ 5 では、下界の側から測る量がまだ土俵に上がっていない
k=3 の枠の外窓を 4 個以上にするか、Behrend 以外のブロック族を使うか。枠の中に残っている余地は 5×10⁻⁶ 程度

出典と再現

もの種別出典・道具
#3(等差数列予想)⟺ すべての k で f(k) 有限定理Gerver
ケンプナー集合への還元定理Walker 2025, arXiv:2203.06045
f(3) ≥ 3.00849 / f(4) ≥ 4.43975記録Wróblewski 1984 / Walker 2025
Behrend 集合(密度 N−c√(log N)定理Behrend (1946)
r3(N) の厳密値この端末で計算分枝限定。OEIS A003002 と一致
Walker の記録集合の再現この端末で計算4.4397534、差 0.0
六通りの探索(k=3)この端末で計算すべて 3.007939
k=4 の不動点の証明(c=55)この端末で計算CP-SAT に最適性を証明させた。全 x で計 2,501 秒
f(4) ≥ 4.4397534742(Walker の集合+ブロック 38 段)機械検査/この端末で計算整数厳密の挟み込み。段の表・スクリプト・補題の Lean は証明書の置き場
次元の走査(c = 4〜157)この端末で計算CP-SAT で最大 4-AP-free 集合
R₃(M)(有限区間の最適)この端末で計算CP-SAT で厳密最大化。証明できた M だけ
Behrend 型の構成と 3-AP-free 判定この端末で計算15 通りすべてで 3-AP-free を確認

この記事の §07 以外に、新しい数学はありません。使った定理と、Wróblewski の構成の枠組みは公表されているものです。「書かれていないかもしれない」と書けるのは二箇所だけで、どちらにも但し書きが付きます。

言明但し書き
Walker の集合は、階層ごと・枝ごとに構造を変える族の中でも最適十分条件で作れる族の中で、基数の範囲つき
Szekeres は M ≤ 52 でちょうど最適、M=53 で初めて負ける計算すれば誰でも出せる。新規性というより未計算だっただけかもしれない
f(3) ≥ 3.0085385221下界。3-AP を含まないことと記録を超えることは、補題 1・2 も含めて Lean(保証は 3.0085385 まで)。10 桁の値は整数の厳密演算

改訂 2026-09-17:全面改訂。

この問題は、無作為の抽選で当たったものです。

仕組みの違う探索が六通り、同じ値を返す——それは、その点が本当に最大であることの強い示唆です。ただしその確信は、課した条件の内側でしか成り立ちません。条件の外に、42年前の記録があります。