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2026-08-29 · article 未解決問題進め方記録

未解決問題を、無作為に引く — 小さな問題の記録

進め方を、先に決めました。

問題は無作為に引く。詰まったと感じたら、別の問題に移って意識を切り替える。詰まったときの思考と、引いた順・間隔(計算機から取得した実測)を記録に残す。数学ソフトで測れるものは測る。

抽選箱を作り、乱数で引きました。七問を引き、手をつけたのは六問です。

ここで引いた問題のうち四つは、個別の記事になっています。この記事に残るのは小さな問題の記録——シェルピンスキー数・リーゼル数・相異距離——と、進め方そのものです。

引いた順引いた問題その後
1エルデシュ等差数列予想→ 個別の記事へ(六通りの探索/k=4/自己相似性の代価)
2ハドヴィガー・ネルソン問題→ 個別の記事へ(f(3) = 10・f(4) は 14 か 15)
3シェルピンスキー数この記事の §02
4エルデシュ相異距離問題この記事の §03
5ロヴァース予想→ 個別の記事へ(例外 4 個・5 個目の探索空間)
6BSD 予想→ 個別の記事へ(階数 7 まで)
7正方形ペグ問題引いて 8 秒で戻した

※ この抽選では引いていませんが、同じ日にコラッツ予想リーマン予想にも取り組んでいます(こちらは無作為の抽選ではなく、指定して取り組んだものです)。

計算この端末で確かめた範囲 既知言い換え・既知の定理・外の文献の確認。この記事に Lean で閉じた言明はありません。


01

この回に起きたこと

引いた順に、八回の抽選順序と間隔は端末から取得した実測
#問題そこで起きたこと
122エルデシュ等差数列予想この回の主軸。個別の記事に
219ハドヴィガー・ネルソン問題意識転換。上の探索は背景で継続
37シェルピンスキー数「証明できる部分」が閉じていることを確認
49エルデシュ相異距離問題残る隙間を数値で見た
520ロヴァース予想ケイリーグラフを 8,713 個検査
628BSD 予想未解決の領域で 14 桁一致
75正方形ペグ問題引いて 8 秒で戻した
819ハドヴィガー・ネルソン(再)角度を変えて分数彩色数へ

※ 七回目の正方形ペグ問題は、8 秒後に引き直しています。なぜ戻したかは記録していません。記録に残っているのは「8 秒だった」ことだけです。


02

三つの問題で、同じ形の結論が出た

この回のいちばん大きな収穫は、まったく別の三つの問題が、同じ形をしていたことでした。

「証明できる部分」は、もう閉じている。
残っているのは、その方法では原理的に届かない部分だけである。

シェルピンスキー数(#7)

78557 が最小のシェルピンスキー数か、という問題です。78557 がシェルピンスキー数であること自体は、有限の確認で済みます。

被覆集合 {3,5,7,13,19,37,73} の 2 の位数の最小公倍数が L=36 なので、n mod 36 の 36 通りを調べれば全ての n について言えます。——被覆されない剰余は無し。証明完了。

では 78557 より小さい候補はどうか。奇数 k < 78557 の 39,278 個について、k·2n+1 が素数になる最小の n を探しました。

39,278 個の候補が、n をどこまで伸ばすと何個残るか4 秒で 351 個まで落ちる
n ≤残った k
0(全部)39,278
132,040
108,870
100981
400351

まだ素数が見つかっていない 5 個(21181, 22699, 24737, 55459, 67607)は、すべてこの 351 に含まれています。残る 346 個は、もっと大きな n で解決済みのもの(PrimeGrid が数十年かけて潰した分)です。この 5 個は、被覆集合を持たないことが示されているのではなく、そもそもシェルピンスキー数と証明されていません——n < 45,543,700 まで素数が無いことが確かめられているだけで、予想は逆側(いずれ素数が出る)です。既知

そしてここが本題です。k が周期 L の被覆集合を持つかどうかは、有限の計算で決まります。(p が k·2n+1 を割るなら 2 の位数が L を割る必要があるので、候補の素数は 2L−1 の素因子に限られる。)

周期 L ごとに、被覆集合を持つ奇数 k ≤ 78557 は何個あるか答えは 78557 だけ

78557 未満に、被覆集合を持つ k は一つもありません。
つまり「被覆集合による証明」の道は、完全に閉じています。
残っているのは「被覆集合を持たないシェルピンスキー数があるか」という、まったく別の問いだけです——エルデシュ問題 #1113 として立てられていて、未解決です。有限の計算では解決できません。既知

覆うのは、素数の周期だけではない

上の勘定は「被覆」を素数の周期に限っています。剰余類を丸ごと覆うのは、それだけではありません——代数的な因数分解も覆います。ソフィ・ジェルマン恒等式:

4x4 + 1  =  (2x2 − 2x + 1)(2x2 + 2x + 1)

k = m⁴(m は奇数)とし、n = 4j+2 と書くと k·2ⁿ = 4·(m·2j)⁴ なので、n ≡ 2 (mod 4) は素数を一つも使わずに合成と言えます(81·2⁶+1 = 5,185 = 71 × 73、625·2⁶+1 = 40,001 = 199 × 201)。覆う対象が 1/4 減ります。

78557 未満の奇数の 4 乗数は 7 個(81, 625, 2401, 6561, 14641, 28561, 50625)。それぞれについて、n ≢ 2 (mod 4) を素数で覆えるかを周期 96 まで調べると、7 個すべてで覆えず、惜しいものでも 3 類残ります(2401 = 7⁴・14641 = 11⁴・28561 = 13⁴ が周期 12 で 3 類)。計算

代数的分解が使える奇数 m は、Capelli の判定で完全に分類できます——m > 1 では m = cq(q は奇素数、類 n ≡ 0 mod q)と m = c⁴(類 n ≡ 2 mod 4)だけ。だから m > 1 で代数が覆う集合は必ず周期的で、密度 1 未満です。既知 「被覆でも代数的分解でもない第三の機構がありうるか」が #1113 の核で、それを排除する定理はありません。

被覆集合の「有無」は、篩の重み(Proth 重み)Wk で連続量になります——有限の周期で覆えるなら 0 になり、ふつうの k では正の値に落ち着きます。残る 5 個の重みは 0.07〜0.27(母集団の平均は 2)で、深さ 4.5×10⁷ で生き残る k の期待個数は 4〜7——5 個が未発見であることに不自然さはありません。既知

リーゼル数(同じ機械で、続けて)

k·2n−1 の側です。予想される最小は 509203、被覆集合 {3,5,7,13,17,241}、L=24。同じ手順で——被覆集合を持つ奇数 k ≤ 509203 は 509203 ただ一つ。

シェルピンスキー78557 / L=36未満に被覆集合を持つ k はゼロ
リーゼル509203 / L=24未満に被覆集合を持つ k はゼロ
残る問い両方に共通被覆集合を持たない例があるか(#1113・未解決)

エルデシュ等差数列予想(#22)

別記事にした方も、同じ形でした。「対数の指数を 1 より上に上げる」という道は、k=3 では通り、k=4 では通っていない。そして Green–Tao 自身が「これが我々の手法の限界」と書いています。手法が閉じている位置が、はっきり分かっている。


03

隙間が、数値で見えた(#9 相異距離)

平面の n 点が定める相異なる距離の最小個数 g(n)。2015年に Guth–Katz が g(n) ≥ c·n/log n を証明して事実上決着しましたが、エルデシュの予想は n/√(log n) です。残る隙間は √log n の因子。

m×m 格子の相異距離を実際に数えました。

格子の相異距離 D を、二つの尺度で割った比片方は止まり、片方は伸び続ける
mn = m²DD ÷ (n/√log n)D ÷ (n/log n)
12816,3845,8381.11003.4578
512262,14482,4891.11153.9260
20484,194,3041,196,2341.11374.3491

n/√log n で割った比は 1.11 前後で止まります——エルデシュの予想の形が正しいことが数値で見える。
n/log n で割った比は 3.46 → 4.35 と増え続けます——Guth–Katz の下界と真の値の隙間が、この規模でもはっきり見える。

ただし、この問題は前の二つと性格が違います。n=13 より先の厳密値は誰も知りません。配置空間が連続なので、組合せ的な探索では届かない——「閉じている」のではなく「入口が違う」問題です。


04

個別の記事になったもの

問題ここで出たことその後
ロヴァース予想(#20)ハミルトン閉路を持たない連結頂点推移グラフは5 個しか知られていない。K₂ を除く 4 個を構成して確認——4 個とも「閉路は無いが路はある」→ ロヴァース予想
掃きは 9,805 個に。5 個目の探索空間は欠損 def で三つに割れる
ハドヴィガー・ネルソン問題(#19)二度引き、分数彩色数の側から入った。χf ≥ n/α は有限グラフから計算できるが、この道は 4.36 で天井に当たる→ ハドヴィガー・ネルソン問題
独立数 α 以下の単位距離グラフの最大点数 f(α)。f(3) = 10、f(4) は 14 か 15
BSD 予想(#28)強い形から |Ш| を逆算。階数 2・3 という「BSD が定理でない領域」で、小数第 14 位まで整数に一致→ BSD 予想
その後 階数 7 まで伸ばしました

05

名前と中身が違っていた誤りが、三度

三つとも「名前が中身と違っていた」型でした。そして三つとも、印字していた数字が救っています。

どこで何が違っていたか何が救ったか
ロヴァース出力表の「A5」の行が、実際は A4 だった。選んだ生成元が両方とも点 4 を固定していた。A5 は調べていなかった位数を印字していた(120 のはずが 12)
BSDellrank が返す点は飽和していない。有限指数の部分群の生成元でしかない高さが 0.4600 = 9 × 0.05111(指数 3)
elltamagawa無限素点の因子を含む。名前は有限素点の積を連想させる。同じ因子を二度数えていた
ellanalyticrank(E)[2] は L(r)(E,1) で、r! で割っていないずれ方が階乗そのものだった(階数2でちょうど2倍、階数3でちょうど6倍)

BSD の三つは重なって |Ш| = 1/18 という値を出していました。ずれが 2 と 6 という素直な形をしていたから原因が分かったのであって、1/18 のままなら当分わからなかったと思います。

「106 まで探して見つからなかった」と「存在しない」は違います。同じように「A5 を調べた」と「A5 という名前の変数を調べた」も違う。
この回に三度、後者が起きていました。位数を、高さを、ずれ方を印字していなければ、三つとも通っていました。


06

ハドヴィガー・ネルソン問題 — 個別の記事へ

二度引いた問題です。χ(ℝ²) ∈ {5, 6, 7} は動いていません。二度目に分数彩色数の側から入った記録と、そこから測った量——独立数 α 以下の単位距離グラフの最大点数 f(α)、f(3) = 10・f(4) は 14 か 15——は ハドヴィガー・ネルソン問題 にあります。


07

この進め方について

七問を引いて六問に手をつけ、どれも解けていません。それでも、この進め方には効いた点があります。

効いたこと中身
背景で走らせられる#22 の探索は #19・#7・#9 を触っている間ずっと回っていた。詰まりが待ち時間と重なる
形の一致が見える三つの問題で「証明できる部分は閉じている」が出た。一問だけ掘っていたら見えない
道具が横に流れる#7 の被覆集合の判定機が、そのままリーゼル問題に効いた。CP-SAT は #22・#19・#20 の三問で使った
間隔が残る「8 秒で戻した」が記録に残る。自分の行動の記録が、自分の内側より正確

効かなかった点もあります。どの問題も、深さが一回分しかありません。#22 だけはそのまま続けて記事一本になりましたが、残りは「入口の地形を測った」ところで止まっています。


出典と再現

この記事に新しい数学はありません。使った定理も既知の記録もすべて公開されているものです。この記事がやったのはそれらを自分の端末で確かめ直し、確かめられた位置と確かめられなかった位置を記録することです。

数値どこで出したか
78557 の被覆(L=36、被覆されない剰余なし)この端末。有限の確認
39,278 → 351 の絞り込みこの端末。gmpy2、4 秒
被覆集合を持つ k ≤ 78557 は 78557 のみこの端末。PARI/GP で 2L−1 を因数分解、numpy で一括判定
格子の相異距離 D(m=128,512,2048)この端末
ケイリーグラフの検査(この回は 8,713 個。現在は 9,805 個)この端末。CP-SAT の AddCircuit
|Ш| の逆算(5 曲線)この端末。PARI/GP。ellsaturation が必須
4 乗数 7 個の n ≢ 2 (mod 4) の被覆(周期 96 まで)この端末。7 個とも覆えない
代数的分解が使える奇数 m の分類(cq・c⁴)既知(Capelli の判定)の整理
残る 5 個の篩の重みこの端末。Proth 重みとして既知の量

改訂 2026-09-17:全面改訂(ハドヴィガー・ネルソンの節は個別の記事へ)。

この回の記録で、いちばん残るのは 8 秒という数字です。正方形ペグ問題を引いて、8 秒で引き直した。なぜ戻したのかは記録にありません。残っているのは、8 秒だったという事実だけ。行動の記録は、行動した者の内観より正確でありうる——順と間隔を実測で残すという進め方は、そのためにあります。