computo ergo sum

2026-10-01 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 1 部 数学の準備群・SO(3)・SU(2)

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 第 9 部 現在地と課題
  97. 9-01 世界はどこまで来ているか
  98. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  99. 9-03 新しい概念の候補
  100. 9-04 課題の一覧
  101. 9-05 よくある誤解
  102. 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
  103. 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
  104. 10-01 理論の構成の筋
  105. 10-02 一段の記帳
  106. 10-03 仮定 H と三つの鎖
  107. 10-04 方向の地図
  108. 10-05 方向 12〜14
  109. 10-06 方向 15・15′
  110. 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
  111. 10-08 壁の一覧
  112. 10-09 ひらめき帳から
  113. 10-10 主張しないこと
  114. 10-12 つじつま合わせ
  115. 10-11 定理までの距離
  116. 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
  117. 付録
  118. A-01 記号表
  119. A-02 用語集
  120. A-03 文献案内
  121. A-04 Lean と機械検査
  122. A-05 この本の作り方
  123. A-06 仮定の索引

群とは何か — 対称性を「掛け算できるもの」として扱う

この章で分かること — 群の約束と例。三次元の回転の群 SO(3) と、それを二重に覆う SU(2)(360° では戻らず 720° で戻る)。群を行列で書く「表現」。問題文の「コンパクト単純ゲージ群」の読み方。

前提となる章 — 1-01 ベクトル空間と線形写像(行列式・ユニタリ行列・行列の指数関数)。リー環は 1-03、パウリ行列と SU(3) は 1-04 で扱います。

先に言うこと — この章は準備で、質量ギャップについては何も示しません。証明を載せずに引く定理には「既知」の札を付けます。

この章の順序
  1. 対称性から群へ — 正三角形の六つの操作と積の表(選べる図)
  2. 群の定義と例 — 可換と非可換・行列の群・コンパクト
  3. 準同型・正規部分群・商 — 群を比べる道具・中心
  4. 回転群 SO(3) — 軸・回す順番の食い違い(動く図)
  5. SU(2) — 三次元の球面・半分の角
  6. 二重被覆 SU(2) → SO(3) — 720° で戻る(動く図)
  7. 寄り道:SO(3) の形と 720° の輪 — 縮む輪と縮まない輪(動く図)
  8. 表現の入口 — 整数の番号・既約・スピン
  9. ヤン–ミルズの中の群 — ゲージ群・コンパクト・単純

01

対称性から群へ

正三角形の板を元の場所にぴったり重なるように置き直す方法は六通りです。0°・120°・240° 回す三つと、頂点を通る軸で裏返す三つ。二つを続けて行うと、また六つのどれかになり、何もしない操作と、元に戻す操作があります。群とは、この性質だけを取り出した言葉です。

頂点に 0・1・2 を反時計回りに振り、ee(何もしない)、rr(120° 回す)、r2r^2(240°)、sks_k(頂点 k を通る軸で裏返す)と書きます。積 abab は「先に b、次に a」と読みます(写像の合成 a∘ba\circ b の向き)。

r∘s0=s2,s0∘r=s1r\circ s_0 = s_2, \qquad s_0\circ r = s_1

順番を入れ替えると結果が変わります。掛け算の順番が効くことが、この本の最後まで主役です。

図 1 表のます目(行 a・列 b)を選ぶと、三角形が「はじめ → b の後 → a∘b の後」と並びます。色の付いた三角形は裏返った状態です。
a\berr²s₀s₁s₂
eerr²s₀s₁s₂
rrr²es₂s₀s₁
r²r²ers₁s₂s₀
s₀s₀s₁s₂err²
s₁s₁s₂s₀r²er
s₂s₂s₀s₁rr²e

計算表の値は、頂点の置換の合成としてこの端末で計算しました。群の約束も全組で確かめてあります。

各行・各列に六つの元が一度ずつ現れるのは、ax=bax=b の解 x=a−1bx=a^{-1}b がただ一つある、つまり割り算ができることの表れです。36 通りの順序対のうち ab≠baab\ne ba は 18 通りでした 計算。

02

群の定義と例

定義 集合 GG と、二つの元から GG の元を一つ作る規則(積)(a,b)↦ab(a,b)\mapsto ab があって、次を満たすとき GG を群と呼びます。

  1. 結合法則:(ab)c=a(bc)(ab)c=a(bc)。
  2. 単位元:すべての aa で ea=ae=aea=ae=a となる ee がある。
  3. 逆元:各 aa に aa−1=a−1a=eaa^{-1}=a^{-1}a=e となる a−1a^{-1} がある。

すべての組で ab=baab=ba なら可換(アーベル群)、そうでなければ非可換です。「非可換ゲージ理論」の非可換はこの意味です。下の表の後半は行列の群で、U†U^\dagger は複素共役をとった転置です(1-01)。

群元(積)可換かコンパクトか実パラメータ
ZN\mathbb{Z}_NN で割った余り(足し算)可換有限0
D3D_3正三角形の六つの操作非可換有限0
R\mathbb{R}実数(足し算)可換いいえ1
U(1)\mathrm{U}(1)eiθe^{i\theta}(掛け算)可換はい1
GL(n,R)\mathrm{GL}(n,\mathbb{R})逆行列をもつ実行列非可換いいえn2n^2
O(n)\mathrm{O}(n)RTR=IR^{\mathsf T}R=I の実行列非可換はいn(n−1)/2n(n-1)/2
SO(n)\mathrm{SO}(n)O(n)\mathrm{O}(n) のうち det⁡R=1\det R=1n≥3n\ge3 で非可換はいn(n−1)/2n(n-1)/2
U(n)\mathrm{U}(n)U†U=IU^\dagger U=I の複素行列非可換はいn2n^2
SU(n)\mathrm{SU}(n)U(n)\mathrm{U}(n) のうち det⁡U=1\det U=1非可換はいn2−1n^2-1

行列の群は n≥2n\ge2。SO(2) は U(1) と同じ形の可換群です。

コンパクトとは、行列の群では、成分の空間の中で有界かつ閉じている(元の列の極限もまた元)ことです 既知。U(n) は各列が長さ 1 なので有界で、U†U=IU^\dagger U=I は極限でも保たれます。GL(n, ℝ) は有界ではありません。「実パラメータ」は元を指定する実数の個数(群の次元、1-03)で、SO(3) なら軸の向きに 2 個と角に 1 個です。

03

準同型・正規部分群・商

部分群は積と逆元で閉じた部分集合です({e,r,r2}⊂D3\{e,r,r^2\}\subset D_3、SU(n) ⊂ U(n) など)。準同型は φ(ab)=φ(a)φ(b)\varphi(ab)=\varphi(a)\varphi(b) を満たす写像 φ:G→H\varphi:G\to H で、単位元に写る元の集まりを核 ker⁡φ\ker\varphi と呼びます。

det⁡:U(n)→U(1),det⁡(UV)=det⁡U det⁡V\det:\mathrm{U}(n)\to\mathrm{U}(1),\qquad \det(UV)=\det U\,\det V

この準同型の核が SU(n)\mathrm{SU}(n) です。θ↦eiθ\theta\mapsto e^{i\theta} の核は 2πZ2\pi\mathbb{Z}。D₃ の回転を +1、裏返しを −1 に送る写像も準同型です。部分群 NN が正規とは、すべての gg で gNg−1=NgNg^{-1}=N となることで、核は必ず正規です。このとき gg と gngn(n∈Nn\in N)を同一視した商群 G/NG/N が作れ、全射な準同型 φ\varphi について次が成り立ちます(準同型定理)既知。

G/ker⁡φ  ≅  HG/\ker\varphi\;\cong\;H

例:R/2πZ≅U(1)\mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z}\cong\mathrm{U}(1)(角とは 2π の整数倍の違いを忘れた実数)。中心 Z(G)Z(G)(すべての元と可換な元)も正規部分群で、SU(n) の中心は ωI\omega I(ωn=1\omega^n=1)の n 個、Zn\mathbb{Z}_n と同じ形です 既知。閉じ込めを扱う 7-02 で再び現れます。

04

回転群 SO(3)

三次元の回転は、内積を保ち(RTR=IR^{\mathsf T}R=I)、鏡像を作らない(det⁡R=1\det R=1)線形写像です。

SO(3)={ R∈M3(R):RTR=I, det⁡R=1 }\mathrm{SO}(3)=\{\,R\in M_3(\mathbb{R}) : R^{\mathsf T}R=I,\ \det R=1\,\}

どの回転にも軸がある

SO(3) のどの元にも動かない直線がある(Euler の回転定理)既知。実の直交行列は複素行列としてユニタリなので(1-01)、固有値は絶対値 1 で、積は det⁡R=1\det R=1。実係数の三次式の根なので、複素固有値は λ,λˉ\lambda,\bar\lambda の組(積 ∣λ∣2=1|\lambda|^2=1)で、残る実固有値は 1。全部実なら ±1 が三つで積 1 なので、やはり 1 を含みます。その固有ベクトルが軸です。奇数次元が効いており、四次元の回転には原点のほかに動かない点を持たないものがあります。軸 nn と角 θ\theta では次の形です(Rodrigues の式)既知。

R(θ,n) x=cos⁡θ x+sin⁡θ (n×x)+(1−cos⁡θ)(n⋅x) nR(\theta,n)\,x=\cos\theta\,x+\sin\theta\,(n\times x)+(1-\cos\theta)(n\cdot x)\,n

トレースは tr⁡R(θ,n)=1+2cos⁡θ\operatorname{tr}R(\theta,n)=1+2\cos\theta で、角が読めます。

回す順番の食い違い

x 軸と y 軸のまわりに同じ角 θ 回します。「先に x」は A=Ry(θ)Rx(θ)A=R_y(\theta)R_x(\theta)、「先に y」は B=Rx(θ)Ry(θ)B=R_x(\theta)R_y(\theta)。食い違い D=AB−1D=AB^{-1} も回転なので、その角 φ で違いを測ります。

図 2 つまみで角 θ を変えると、二つの箱の最後の向きの違いが変わります。「順に回す」で二回の回転を順に再生します。
θφφ / θ²(ラジアンで)
1°0.0175°1.0000
10°1.7409°0.9975
30°15.3639°0.9781
45°33.6842°0.9531
60°57.9100°0.9217
90°120.0000°0.8488
180°0°0

計算表はこの端末で回転行列の積から計算しました。図の φ も同じ式でその場で計算しています。

小さい θ では φ≈θ2\varphi\approx\theta^2 で、D の軸はほぼ −z 方向です(θ = 10° で (−0.087, 0.087, −0.992))計算。食い違いは θ の二次で、一次の近似では回転は可換に見えます。これを取り出したものが 1-03 の交換子 [X,Y]=XY−YX[X,Y]=XY-YX です。θ = 180° では二つとも対角行列で、可換です。

05

SU(2)

次は複素 2×2 行列の群です。

SU(2)={ U∈M2(C):U†U=I, det⁡U=1 }\mathrm{SU}(2)=\{\,U\in M_2(\mathbb{C}) : U^\dagger U=I,\ \det U=1\,\}

二つの列は正規直交です。第 1 列を (a,b)(a,b) とすると ∣a∣2+∣b∣2=1|a|^2+|b|^2=1、第 2 列はそれに直交する長さ 1 のベクトル eiχ(−bˉ,aˉ)e^{i\chi}(-\bar b,\bar a) で、det⁡U=eiχ=1\det U=e^{i\chi}=1 です。

U=(a−bˉbaˉ),∣a∣2+∣b∣2=1U=\begin{pmatrix} a & -\bar b\\ b & \bar a\end{pmatrix},\qquad |a|^2+|b|^2=1

a, b の実部・虚部は R4\mathbb{R}^4 の単位球面上の点をなし、SU(2) は空間としては三次元の球面 S3S^3 です 既知。パウリ行列(1-04)を使うと、すべての元が単位ベクトル nn と実数 θ で書けます。

σ1=(0110),σ2=(0−ii0),σ3=(100−1)\sigma_1=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix},\quad \sigma_2=\begin{pmatrix}0&-i\\ i&0\end{pmatrix},\quad \sigma_3=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}

n⋅σ=n1σ1+n2σ2+n3σ3n\cdot\sigma=n_1\sigma_1+n_2\sigma_2+n_3\sigma_3 と書くと、次の形です。

U(θ,n)=cos⁡θ2 I−isin⁡θ2 n⋅σ=exp⁡ ⁣(−iθ2 n⋅σ)U(\theta,n)=\cos\tfrac{\theta}{2}\,I-i\sin\tfrac{\theta}{2}\,n\cdot\sigma=\exp\!\Big(-\tfrac{i\theta}{2}\,n\cdot\sigma\Big)

成分では a=cos⁡θ2−in3sin⁡θ2a=\cos\frac\theta2-in_3\sin\frac\theta2、b=(n2−in1)sin⁡θ2b=(n_2-in_1)\sin\frac\theta2。右の等号は、(n⋅σ)2=I(n\cdot\sigma)^2=I(σjσk+σkσj=2δjkI\sigma_j\sigma_k+\sigma_k\sigma_j=2\delta_{jk}I と ∣n∣=1|n|=1 から。確かめ方は 1-04)と行列の指数関数(1-01)から従います。θ = 2π では n によらず U=−IU=-I、θ = 4π で初めて U=IU=I。この半分の角が次の節の主役です。

06

二重被覆 SU(2) → SO(3)

R3\mathbb{R}^3 のベクトルを、トレースが 0 のエルミート行列と同一視します。

x  ⟷  X=x⋅σ=(x3x1−ix2x1+ix2−x3),det⁡X=−∣x∣2x\;\longleftrightarrow\;X=x\cdot\sigma=\begin{pmatrix}x_3 & x_1-ix_2\\ x_1+ix_2 & -x_3\end{pmatrix},\qquad \det X=-|x|^2

UXU†UXU^\dagger もエルミートでトレース 0 なので、あるベクトル x′x' の行列です。こうして線形写像 ρ(U):x↦x′\rho(U):x\mapsto x' が決まります 既知。

  1. 長さを保つ:det⁡(UXU†)=det⁡X\det(UXU^\dagger)=\det X から ∣x′∣=∣x∣|x'|=|x|。SU(2) はつながっていて ρ は連続なので、行列式は +1 から動けず ρ(U)∈SO(3)\rho(U)\in\mathrm{SO}(3)。
  2. 準同型:(UV)X(UV)†=U(VXV†)U†(UV)X(UV)^\dagger=U(VXV^\dagger)U^\dagger から ρ(UV)=ρ(U)ρ(V)\rho(UV)=\rho(U)\rho(V)。
  3. 核は ±I:ρ(U)=I\rho(U)=I なら U は σ₃ と可換(対角)で σ₁ とも可換(対角成分が等しい)なので U=λIU=\lambda I、det⁡U=λ2=1\det U=\lambda^2=1。
  4. 全射で、角は半分:ρ(U(θ,n))=R(θ,n)\rho(U(\theta,n))=R(\theta,n)。どの回転も R(θ,n)R(\theta,n) の形(04 の軸の定理)なので、U(θ,n)U(\theta,n) がその原像になり、全射です。

4 の簡単な場合:n が z 軸なら U=diag(e−iθ/2,eiθ/2)U=\mathrm{diag}(e^{-i\theta/2},e^{i\theta/2}) で Uσ1U†=cos⁡θ σ1+sin⁡θ σ2U\sigma_1U^\dagger=\cos\theta\,\sigma_1+\sin\theta\,\sigma_2。二つの半分の角が掛け合わさって角 θ になります。準同型定理から

SO(3)  ≅  SU(2)/{±I}\mathrm{SO}(3)\;\cong\;\mathrm{SU}(2)/\{\pm I\}

一つの回転に二つの元 ±U\pm U が対応するので二重被覆と呼びます。360° の回転は SU(2) では II から −I-I までで、戻るには 720° 要ります。

図 3 つまみで回した角 θ を変えると、左の物(上から見た矢印)は 360° で元に戻り、右の点は半分の速さで円を回って 720° で戻ります。右の点は U(θ)=cos⁡θ2 I−isin⁡θ2 σ3U(\theta)=\cos\frac{\theta}{2}\,I-i\sin\frac{\theta}{2}\,\sigma_3 の二つの係数 (cos⁡θ2,sin⁡θ2)(\cos\frac{\theta}{2},\sin\frac{\theta}{2}) で、S3S^3 の中の大円の一つです。
θtr⁡R(θ)=1+2cos⁡θ\operatorname{tr}R(\theta)=1+2\cos\thetatr⁡U(θ)=2cos⁡θ2\operatorname{tr}U(\theta)=2\cos\frac{\theta}{2}RRUU
0°32II+I+I
180°−10z 軸まわり 180°−iσ3-i\sigma_3
360°3−2II−I-I
540°−10z 軸まわり 180°+iσ3+i\sigma_3
720°32II+I+I

計算この端末で ρ(U) を組んで計算しました。無作為な U 20,000 個で直交性(ずれ最大 1.2×10⁻¹⁵)・準同型・ρ(−U) = ρ(U) を、(θ, n) 2,000 組で Rodrigues の式との一致(ずれ最大 1.0×10⁻¹⁵)を確認しました。

07

寄り道:SO(3) の形と 720° の輪

寄り道

飛ばしてよい節です。後の章の前提になりません。二重被覆を「形」として見る話です。

軸 n のまわりの角 θ(0 ≤ θ ≤ π)の回転を、半径 π の球の点 θn\theta n で表します。n と −n のまわりの π 回転は同じなので、SO(3) は半径 π の球で表面の対蹠点を貼り合わせたものです 既知。

z 軸のまわりの 0°→360° の道は、中心から北極へ進み、同じ点である南極から現れて中心に戻る輪で、一点に縮められません 既知。SU(2) に持ち上げると II から −I-I への道です。輪を連続に変形すると持ち上げの終点も連続に動きますが、終点は ±I\pm I の二点から跳べません。一点の輪の持ち上げは II で終わるので、そこへは変形できないのです。720° の輪は持ち上げても II で終わり、実際に縮みます。

図 4 つまみの前半で 2 周目の回転軸を傾け、後半で「行って戻る」道を縮めます。「360° の輪」に切り替えると、軸をどう傾けても縁を 1 回横切ったままです(一般の変形でも横切る回数の偶奇は変わりません)。
輪縁を横切る回数SU(2) での終点一点に縮むか
360°1(奇数)−I-I縮まない
720°2、変形の後半で 0(偶数)+I+I縮む

既知円板は球の断面で、縁の向かい合う二点は同じ回転です。道の座標だけを描く模式図で、横切る回数の偶奇(道が縁に接しない場合)が輪の分類に当たります。

SO(3) の輪は「縮む」「縮まない」の二種類で(基本群が Z2\mathbb{Z}_2)、S3S^3 ではどの輪も縮みます 既知。皿を手に載せて水平のまま一回転させると腕がねじれ、もう一回転で解ける「皿の手品」は、この事実の目に見える形とよく説明されます。正確には、肩から手までの各点の向きが SO(3) の道をつくり、720° 回す間のその道の動きが輪を縮める変形です。

08

表現の入口

定義 群 G の(有限次元の)表現とは、ベクトル空間 V と準同型 π:G→GL(V)\pi:G\to GL(V)(行列の群では連続なもの)の組、つまり各元に可逆な行列を π(gh)=π(g)π(h)\pi(gh)=\pi(g)\pi(h) となるように割り当てることです(dim⁡V\dim V が次元)。例:自明表現(すべてを 1 に)、D₃ を平面の回転・鏡映で書くもの、SO(3) の R3\mathbb{R}^3 や SU(2) の C2\mathbb{C}^2 への作用(定義表現)、3 次元の表現 ρ。

U(1) の表現は整数で番号が付く

eiθ↦eiqθe^{i\theta}\mapsto e^{iq\theta} が U(1) の表現であるには、θ と θ + 2π が同じ元なので e2πiq=1e^{2\pi iq}=1、つまり q は整数です。連続な 1 次元のユニタリ表現はこれで尽きます 既知。ℝ では任意の実数 q で x↦eiqxx\mapsto e^{iqx} が表現なので、番号を整数に揃えているのはコンパクト性です。電磁気学のゲージ群(2-03)を U(1) とすれば電荷は単位の整数倍に並ぶ、という物理の議論はこの事実に立ちます(C. N. Yang 1970 の題がこの対応を掲げる)物理。

既約と完全可約

すべての g で π(g)W⊂W\pi(g)W\subset W となる部分空間 W を不変、0 と V のほかに不変部分空間が無い表現を既約と言います。SO(3) の R3\mathbb{R}^3 への作用は既約で、D₃ を R3\mathbb{R}^3 の座標の入れ替えで表すと直線 (1, 1, 1) が不変なので既約ではありません。コンパクトな群の有限次元表現は既約表現の直和に分かれます(完全可約)既知。内積を群全体で平均すると、どの π(g)\pi(g) もその内積を保ち、不変部分空間の直交補空間も不変になるからです。平均は、有限群なら全元についての和を元の個数で割ったもの。コンパクトな群では、群の上の不変な積分(存在は既知)で同じことができます。

SU(2) の表現と 360° での符号

SU(2) は、有限次元の複素既約表現を、同値(基底の取り替え)を除いて各次元にちょうど一つずつ持ちます 既知。次元 m + 1 のものは、2 変数の m 次斉次多項式の空間に (Πm(U)f)(z)=f(U−1z)(\Pi_m(U)f)(z)=f(U^{-1}z) で働く Πm\Pi_m で、物理では j=m/2j=m/2 をスピンと呼びます。−I-I は f(−z)=(−1)mf(z)f(-z)=(-1)^mf(z) と働くので、SO(3) の表現になれるのは m が偶数(次元が奇数)のものだけです。

m次元スピン j指標 χ(360∘)\chi(360^\circ)SO(3) の表現か
010+1なる
121/2−2ならない
231+3なる
343/2−4ならない
452+5なる

指標 χ は表現行列のトレースで、U(θ,e3)U(\theta,e_3) で測りました。720° ではどれも次元の値に戻ります 計算。半整数のスピンでは 360° で符号が反転する——図 3 の −I-I が、表現の上ではこの符号として現れます。

09

ヤン–ミルズの中の群

問題文(0-03)は群の条件から始まります。

Prove that for any compact simple gauge group G, a non-trivial quantum Yang–Mills theory exists on R⁴ and has a mass gap Δ > 0.

Jaffe と Witten の問題説明は「古典論の水準では、電磁気学のゲージ群 U(1) をコンパクトなゲージ群 G で置き換える」と書いています。ゲージ群は、ひとことで言えば時空の各点で独立に施せる対称性の群です。正確には、各点 x に G の元 g(x) を一つずつ選んだものがゲージ変換で、G はその値をとる群です(3-01)。

単純。抽象的な群として「単純」とは、正規部分群が {e} と自分自身だけであることで、この意味では SU(2) は単純ではありません(中心 {±I} が正規部分群)。リー群の用語では意味が違い、連結で非可換な群のリー環が単純(1-03)であることを「単純」と呼びます。問題の説明は simple を定義していませんが、抽象的な群の意味では SU(N)(N ≥ 2)がすべて外れる(中心 ZN\mathbb{Z}_N)ので、この本ではリー群の意味に読みます。SU(N)(N ≥ 2)はこの意味で単純で(一覧は 1-04)既知、可換な U(1) は含まれません。

コンパクト。同じ説明は、コンパクトなゲージ群とコンパクト化した時空では Wilson の格子近似が汎関数積分を有限次元の積分に帰着させる、と述べています。格子の各辺に G の元を置いて G 全体で積分する(5-01)ので、G の大きさが有限であることが効きます。

表現。強い力の理論(QCD)ではゲージ群が SU(3) で、クォークは基本表現(この章の定義表現)で変換する、と同じ説明にあります。ゲージ場は G のリー環に値をとります。各点で同じ元を施す変換では随伴表現(1-04)で変換し、一般のゲージ変換では余分な項が付きます(3-02)。場の強さは随伴表現で変換します。問題が扱う純粋なヤン–ミルズ理論にクォークは無く、ゲージ場だけです(3-07)。G を有限群にした格子の模型は 5-10 で扱います。

次は 1-03 リー群とリー環:「二次の食い違い」を、群の無限小の部分の交換子として取り出します。


この章が言えている範囲

項目言えていること言えていないこと
群の定義と例定義と例。D3D_3 の表 計算群の一般論
SO(3)軸の存在の証明の筋。食い違い φ≈θ2\varphi\approx\theta^2 の数値 計算θ2\theta^2 になる理由(交換子)は 1-03
二重被覆ρ が SO(3) への準同型で核が ±I\pm I であること。ρ(U(θ,n))=R(θ,n)\rho(U(\theta,n))=R(\theta,n) は z 軸で式、一般の n で数値 計算一般の n の式による証明 既知
SO(3) の輪360° の輪は縮まず 720° は縮むことの、図と持ち上げによる説明基本群 Z2\mathbb{Z}_2 の完全な証明(道の持ち上げ定理) 既知
表現U(1) の表現が整数で番号付けられる理由。Πm\Pi_m の 360° での符号 計算SU(2) の既約表現の分類と完全可約性の証明 既知。電荷の量子化は物理 物理
ヤン–ミルズ問題文の群の条件(コンパクト・単純)の読み方質量ギャップ・理論の構成については何も示していない

出典と再現

もの種別出典・道具
問題文、U(1) を G で置き換えること、QCD と基本表現、格子の有限次元積分。simple の定義が無いこと一次資料(本文を確認)A. Jaffe, E. Witten, “Quantum Yang–Mills Theory”, Clay Mathematics Institute の問題説明(研究所のサイトの PDF。日付の記載なし。書誌は 0-03 の出典表)
コンパクト性の定義、SU(2) → SO(3) の二対一、SU(2) が単連結で SO(3) の普遍被覆であること、完全可約性(Prop. 5.17。群の上の不変な測度を使う)、抽象的な群の単純(第 1 章 演習 13 の注)、リー環の単純(第 7 章冒頭)、Πm\Pi_m既知(本文を確認)B. C. Hall, “An Elementary Introduction to Groups and Representations”, arXiv:math-ph/0005032 (2000)
SO(3) を半径 π の球の表面の対蹠点を貼り合わせたものとみる模型、基本群 Z2\mathbb{Z}_2、S3S^3 の輪が縮むこと既知(本文を確認)A. Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press (2002)。著者が公開している版の §3.D(SO(3)≈RP3\mathrm{SO}(3)\approx\mathbb{RP}^3)、Example 1.43(π1(RPn)≅Z2\pi_1(\mathbb{RP}^n)\cong\mathbb{Z}_2)、Prop. 1.14(π1(Sn)=0\pi_1(S^n)=0、n≥2n\ge2)
リー群の「単純」(連結・非可換・リー環が単純)この本の用語の約束抽象的な群とリー環の定義は上の Hall のノートで確認。リー群についてこの約束を明記した教科書は未確認
電荷の量子化とゲージ群のコンパクト性書誌のみ(題と要旨)C. N. Yang, “Charge Quantization, Compactness of the Gauge Group, and Flux Quantization”, Phys. Rev. D 1 (1970) 2360
D3D_3 の表(ab≠baab\ne ba は 18/36)、φ(θ)\varphi(\theta)、二重被覆の確認、Πm\Pi_m(m = 0〜6)の符号と指標この端末で計算Python 3.12・NumPy 1.26。置換の合成、回転行列の積、S3S^3 上の一様な U 20,000 個と (θ, n) 2,000 組、斉次多項式の表現行列(準同型のずれ最大 5.8×10⁻¹⁵)
図 1〜4図素の JavaScript。図 1 は計算済みの表、図 2〜4 は回転の式と cos・sin をその場で計算

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改訂 2026-10-01:初版。