computo ergo sum

2026-10-01 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 5 部 格子ゲージ理論モンテカルロ法

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 第 9 部 現在地と課題
  97. 9-01 世界はどこまで来ているか
  98. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  99. 9-03 新しい概念の候補
  100. 9-04 課題の一覧
  101. 9-05 よくある誤解
  102. 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
  103. 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
  104. 10-01 理論の構成の筋
  105. 10-02 一段の記帳
  106. 10-03 仮定 H と三つの鎖
  107. 10-04 方向の地図
  108. 10-05 方向 12〜14
  109. 10-06 方向 15・15′
  110. 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
  111. 10-08 壁の一覧
  112. 10-09 ひらめき帳から
  113. 10-10 主張しないこと
  114. 10-12 つじつま合わせ
  115. 10-11 定理までの距離
  116. 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
  117. 付録
  118. A-01 記号表
  119. A-02 用語集
  120. A-03 文献案内
  121. A-04 Lean と機械検査
  122. A-05 この本の作り方
  123. A-06 仮定の索引

モンテカルロ法 — 重みに従う配位を作り、相関を数えて誤差を出す

この章で分かること

前提となる章 — 5-01 Wilson の格子、1-08 確率と測度。数学の側は 8-03 §06〜§08 を参照します。

先に言うこと — モンテカルロ法は有限の格子での期待値を誤差つきで見積もる方法で、質量ギャップや連続極限を証明するものではありません。この章の計算は 646^4 の SU(2)SU(2) の一点と二次元の自由場という小さな例です。

この章の順序
  1. なぜ乱数で積分するか
  2. マルコフ連鎖と詳細釣り合い
  3. リンクを一本ずつ動かす — 歩幅(図 1・表 1)
  4. 熱浴と過緩和
  5. 熱化と自己相関 — 三つの更新法(表 2)
  6. 誤差の見積もり — ビン・ジャックナイフ・Γ 法
  7. 臨界減速 — 自由場の z=2z=2(図 2・表 3)
  8. HMC と位相の凍結
  9. 数学から見たモンテカルロ — 定理と観察の境目

この章の β\beta は Wilson 作用の結合(5-01)で、逆温度ではありません。

01

なぜ乱数で積分するか — 一万五千次元の積分

格子の期待値は全リンクについての積分です(5-01 §06。dUℓdU_\ell は Haar 測度)。

⟨O⟩=1Z∫O(U) e−SW(U)∏ℓdUℓ(1)\langle O\rangle=\frac1Z\int O(U)\,e^{-S_W(U)}\prod_{\ell}dU_\ell \tag{1}

一辺 6 の四次元格子のリンクは 5,184 本、SU(2)SU(2) は一本 3 次元なので 15,552 次元の積分です 計算。そこで重み e−SW/Ze^{-S_W}/Z に従う配位 U(n)U^{(n)} を作り、標本平均を取ります。

O‾N=1N∑n=1NO(U(n)),独立なら  Var O‾N=Var ON(2)\overline O_N=\frac1N\sum_{n=1}^N O\bigl(U^{(n)}\bigr),\qquad \text{独立なら}\ \ \mathrm{Var}\,\overline O_N=\frac{\mathrm{Var}\,O}{N} \tag{2}

誤差は次元に依らず 1/N1/\sqrt N で減ります(1-08)既知。一様に引く手は使えません。β=2.3\beta=2.3・646^4 でプラケット 7,776 枚の平均は平衡で 0.6026、一様な配位では 0 の周りに標準偏差 0.00567 で散らばり、平衡の値は 106 標準偏差先です 計算。

02

マルコフ連鎖と詳細釣り合い — 止まる分布を作る

配位を一歩ずつ変える確率的な規則(マルコフ連鎖、遷移確率 P(x,y)P(x,y))を作り、長い時間の後に重み π\pi に従わせます。一歩で分布が変わらないこと(定常)の十分条件が詳細釣り合いです。

∑xπ(x)P(x,y)=π(y),π(x)P(x,y)=π(y)P(y,x)(3)\sum_x\pi(x)P(x,y)=\pi(y),\qquad \pi(x)P(x,y)=\pi(y)P(y,x) \tag{3}

右を xx で足すと左です。右を満たす連鎖を可逆と呼びます。さらにどこからどこへも行ける(既約)なら、有限状態の連鎖の時間平均は期待値に収束します(エルゴード定理)。周期も無ければ(非周期)、分布そのものが π\pi に近づきます(収束定理)既知。連続な状態空間でも、遷移に密度があって正であるなどの条件の下で、同じ形の大数の法則と中心極限定理があります(Tierney 1994)既知。

Metropolis 法(Metropolis ほか 1953。最初の応用は二次元の剛体球の状態方程式)は対称な提案 q(x,y)=q(y,x)q(x,y)=q(y,x) で候補 yy を出し、次の確率で受理し、棄却なら留まります。

A(x→y)=min⁡(1, π(y)/π(x))=min⁡(1, e−ΔS)(4)A(x\to y)=\min\bigl(1,\ \pi(y)/\pi(x)\bigr)=\min\bigl(1,\ e^{-\Delta S}\bigr) \tag{4}

π(y)≤π(x)\pi(y)\le\pi(x) なら π(x)q⋅π(y)/π(x)=π(y)q⋅1\pi(x)q\cdot\pi(y)/\pi(x)=\pi(y)q\cdot1 で (3) が成り立ち、ZZ は要りません。例:二状態、π=(0.2,0.8)\pi=(0.2,0.8)、提案「もう一方へ」で P=(010.250.75)P=\begin{pmatrix}0&1\\0.25&0.75\end{pmatrix}、固有値は 1,−0.251,-0.25 で、状態 0 からの分布は 5 歩で (0.1992,0.8008)(0.1992,0.8008) です 計算。ずれは 1 以外で絶対値が最大の固有値(ここでは −0.25-0.25)の冪で減り、これが §05 の自己相関時間の源です。

03

リンクを一本ずつ動かす — メトロポリスと歩幅

リンク UℓU_\ell を含むプラケットは四次元で 6 枚で、作用の UℓU_\ell に依る部分は次の形です。

SW=−βN Re tr(UℓAℓ)+( Uℓ を含まない項 ),Aℓ=∑6 枚ステープル(5)S_W=-\frac{\beta}{N}\,\mathrm{Re}\,\mathrm{tr}\bigl(U_\ell A_\ell\bigr)+(\,U_\ell\text{ を含まない項}\,),\qquad A_\ell=\sum_{6\text{ 枚}}\text{ステープル} \tag{5}

ステープルはプラケットから UℓU_\ell を除いた三辺の積です(5-01 §03)。全リンクを一巡する単位を一掃と呼びます。

メトロポリスの提案は今の値の近くです。歩幅 δ\delta が大きいと棄却が増え、小さいと少ししか動きません。U(1)U(1) のリンク一本(重み eκcos⁡θe^{\kappa\cos\theta})で見ます。

図 1 U(1)U(1) のリンク一本(κ=2\kappa=2)。つまみで歩幅 δ\delta、「動かす」で連鎖が進む。左は最近 300 歩の θ\theta、右は度数と目標の密度
δ = 0.25:受理率 0.937、τ_int(cos θ) = 63.9 ± 5.5

計算この図の数値はこの端末で計算した(読み値は表 1。図の連鎖はその場で走らせた例)。

計算表 1 リンク一本のメトロポリス(各 20 万歩)。受理率は数値積分の厳密値(走行と 0.002 以内で一致)。厳密な ⟨cos⁡θ⟩=I1(2)/I0(2)=0.69777\langle\cos\theta\rangle=I_1(2)/I_0(2)=0.69777
δ\delta受理率τint(cos⁡θ)\tau_{\rm int}(\cos\theta)⟨cos⁡θ⟩\langle\cos\theta\rangle
0.10.975242(37)0.747(17)
0.250.93763.9(5.5)0.695(10)
10.7575.90(18)0.6972(31)
2.50.4941.94(4)0.6990(18)
π\pi0.4262.00(4)0.6990(18)

δ\delta を 0.1 から 2.5 に広げると、受理率は半分に、τint\tau_{\rm int}(§05)は約 120 分の 1 になります。受理率の高さは効率を示しません。δ=0.1\delta=0.1 の平均は厳密値から 2.9 標準偏差ずれ、遅い連鎖では誤差の見積もりも不確かです。

04

熱浴と過緩和 — 条件つき分布から引き直す

熱浴法はリンク一本を、残りを止めた条件つき分布 ∝eβ2tr(UℓAℓ)\propto e^{\frac{\beta}{2}\mathrm{tr}(U_\ell A_\ell)} から直接に引き直します。SU(2)SU(2) の行列の和は SU(2)SU(2) の行列の実数倍なので(1-04 の四元数)Aℓ=kVA_\ell=kV(V∈SU(2)V\in SU(2))と書け、X=UℓVX=U_\ell V も Haar 測度で動き、重みは eβkx0e^{\beta kx_0}(x0=12trXx_0=\tfrac12\mathrm{tr}X)です。SU(2)SU(2) は三次元球面 x02+∣x⃗∣2=1x_0^2+|\vec x|^2=1 で、Haar 測度はその上の一様な測度です。x0x_0 を止めた切り口は半径 1−x02\sqrt{1-x_0^2} の二次元球面で、面積は 1−x021-x_0^2 に比例します。x0x_0 を dx0dx_0 だけ動かしたときの三次元球面の上の幅(弧の長さ)は dx0/1−x02dx_0/\sqrt{1-x_0^2} です。積が 1−x02 dx0\sqrt{1-x_0^2}\,dx_0 なので

p(x0) ∝ 1−x02  eβkx0(−1≤x0≤1)(6)p(x_0)\ \propto\ \sqrt{1-x_0^2}\;e^{\beta k x_0}\qquad(-1\le x_0\le1) \tag{6}

から x0x_0 を引き、残りの向きを一様に選び、Uℓ=XV−1U_\ell=XV^{-1} とします 既知。Creutz(1980)の SU(2)SU(2) の計算で使われたとされる方法です。Kennedy–Pendleton(1985)は (6) を速く引く改良、Cabibbo–Marinari(1982)は SU(N)SU(N) を SU(2)SU(2) の部分群ごとに更新する方法です。

過緩和は作用を変えずに大きく動く一手で、SU(2)SU(2) では Uℓ↦V−1Uℓ−1V−1U_\ell\mapsto V^{-1}U_\ell^{-1}V^{-1} です。X′=X−1X'=X^{-1} で作用は変わらず、二回で元に戻り Haar 測度を保つので詳細釣り合いを満たします。単独ではエルゴード的でないので熱浴と混ぜます(Adler 1981・Creutz 1987・Brown–Woch 1987)。なお、順に並べた一掃は一般に可逆でなく(時間を逆向きに見た連鎖は、逆の順に更新したものになる)、定常性だけが残ります 既知。

05

熱化と自己相関 — 出発点を忘れ、相関を数える

連鎖は全リンクを単位行列にした冷たい出発点か、一様に引いた熱い出発点から始め、初めの区間を捨てます(熱化)。646^4・β=2.3\beta=2.3 のプラケット(平衡 0.6026、表 2 の熱浴)は、熱浴なら両側から 20 掃で平衡の帯に入り、メトロポリスの熱い側は 20 掃で 0.482、150 掃で 0.593 と遅れます 計算。二つの出発点の一致は必要条件にすぎません(5-06 §04。数学の対応物は 8-03 §06 の混合時間)。

平衡でも配位は独立でありません。時系列の tt 歩離れた相関を分散で割った自己相関関数と、積分自己相関時間を

ρ(t)=⟨δOn δOn+t⟩⟨δO2⟩,τint=12+∑t≥1ρ(t),Var O‾N≈2τint Var ON(7)\rho(t)=\frac{\langle \delta O_n\,\delta O_{n+t}\rangle}{\langle\delta O^2\rangle},\qquad \tau_{\rm int}=\frac12+\sum_{t\ge1}\rho(t),\qquad \mathrm{Var}\,\overline O_N\approx\frac{2\tau_{\rm int}\,\mathrm{Var}\,O}{N} \tag{7}

とします(δO=O−⟨O⟩\delta O=O-\langle O\rangle、N≫τintN\gg\tau_{\rm int})。実効的に独立な標本は N/(2τint)N/(2\tau_{\rm int}) 個です(Wolff 2004 の式 (23)(25))既知。表 2 の熱浴では 9,500/(2⋅5.08)≈9359{,}500/(2\cdot5.08)\approx935 個です。最も遅い減衰の時間 τexp⁡\tau_{\exp} は、遷移の固有値のうち 1 以外で絶対値が最大のもの λ⋆\lambda_\star で決まり、τexp⁡=−1/log⁡λ⋆\tau_{\exp}=-1/\log\lambda_\star です(§02 の例では λ⋆=0.25\lambda_\star=0.25)。

数学の側では、遅さを Poincaré 定数 CPC_P で測ります。CPC_P は、すべての関数 ff について Var f≤CP E∣∇f∣2\mathrm{Var}\,f\le C_P\,\mathbb E|\nabla f|^2 を満たす最小の定数です(1-10 §07。離散の連鎖では右辺を一歩での変化の二乗平均の半分 12∑x,yπ(x)P(x,y)(f(y)−f(x))2\tfrac12\sum_{x,y}\pi(x)P(x,y)(f(y)-f(x))^2 に置き換えます)。Langevin 力学は、作用の勾配に沿って下る動きに雑音を加えた連続時間の力学で、そこでは τexp⁡=CP\tau_{\exp}=C_P が等号で成り立ちます。離散時間の連鎖では、次の三つが別の量になります 既知(Levin–Peres–Wilmer §12.2、8-03 §06)。

γ⋆\gamma_\star が小さいとき、後の二つの比は 1+O(γ⋆)1+O(\gamma_\star) です。表 2 の最後の列の Polyakov ループは、各空間点で時間方向に一周するリンクの積のトレースを取り、空間で平均した量です(ここではその絶対値を見ます)。格子全体に広がる、遅く動く量の例です。

計算表 2 四次元 SU(2)SU(2)・646^4・β=2.3\beta=2.3(最初の 500 掃を捨てる)。τint\tau_{\rm int} は掃。費用はリンク一本あたりのステープル計算の回数
方法費用プラケットτ\tau:プラケットτ\tau:|Polyakov|
メトロポリス10.60291(57)42(10)79(24)
熱浴10.60261(21)5.1(6)6.0(7)
熱浴+過緩和 340.60297(19)2.1(2)0.87(6)

標本数は 9,500・9,500・4,500 です。同じ標本数でメトロポリスの誤差は熱浴の 2.7 倍で、42/5.1≈2.9\sqrt{42/5.1}\approx2.9 と整合します。費用を掛けた τ\tau で比べると、過緩和はプラケットでは 8.3 対 5.1 と損をし、Polyakov ループでは 3.5 対 6.0 と得をします。得をするのは遅い大域的な量です 計算。SU(3)SU(3) でも、過緩和で Polyakov ループの大きさの τ\tau が 28 掃から 9 掃に縮んだと報告されており(Brown–Woch 1987)、傾向は一致します 物理。

06

誤差の見積もり — ビン・ジャックナイフ・Γ 法

τint\tau_{\rm int} はデータから見積もります。ビン分けは時系列を長さ BB の区間に切り、区間平均を独立とみなします。B≫τintB\gg\tau_{\rm int} で誤差が頭打ちになる所を読みます(Flyvbjerg–Petersen 1989)。ジャックナイフは区間を一つずつ除いた平均 bˉ(i)\bar b_{(i)} から非線形な量 ff の誤差を出します。

σf2=n−1n∑i=1n(f(bˉ(i))−f(bˉ(⋅))‾)2,n=N/B(8)\sigma_f^2=\frac{n-1}{n}\sum_{i=1}^{n}\bigl(f(\bar b_{(i)})-\overline{f(\bar b_{(\cdot)})}\bigr)^2,\qquad n=N/B \tag{8}

Creutz 比や質量(5-02 §06・5-08)で使います。表 2 の熱浴のプラケットでは、(ビンの誤差/素朴な誤差)² が B=1,5,20,100B=1,5,20,100 で 1.00・2.85・6.23・10.19 と伸び、Γ 法の 2τint=10.22\tau_{\rm int}=10.2 に届きます。B=200B=200〜10001000(47〜9 区間)では 7.4〜7.7 と下に揺れます。区間が少ないと誤差の誤差が効きます(比の二乗では相対誤差 約 2/(n−1)\sqrt{2/(n-1)})計算。

Γ 法は (7) の和を窓 WW で切って直接に見積もります。

τint(W)=12+∑t=1Wρ(t),⟨(δτint)2⟩≈4N(W+12−τint)τint2(9)\tau_{\rm int}(W)=\frac12+\sum_{t=1}^{W}\rho(t),\qquad \langle(\delta\tau_{\rm int})^2\rangle\approx\frac{4}{N}\Bigl(W+\frac12-\tau_{\rm int}\Bigr)\tau_{\rm int}^2 \tag{9}

右は Wolff(2004)の式 (42) です。Madras–Sokal(1988)が与えた窓の和の誤差の近似式(Wolff の式 (40))から、誤差伝播で導かれています 既知。WW が短いと偏り、長いと雑音が効きます。この章の τint\tau_{\rm int} は Wolff(2004)の自動の窓(S=1.5S=1.5)によります。Wolff は τint(W)\tau_{\rm int}(W) が平らなことを “verify by eye” するよう求めます。図 2(§07)の下段で、縦線の窓 WW のまわりが平らなことを目で確かめられます。

07

臨界減速 — 自由場で z=2z=2 を式で見る

連続極限に近づくと相関長 ξ\xi(格子単位)が伸び(5-05 §01)、局所的な更新の τ\tau も伸びます。物理は τ∝ξz\tau\propto\xi^{z} と書き、zz を動的指数と呼びます(Hohenberg–Halperin 1977 の総説、8-03 §07)物理。式で確かめられるのが格子の自由場(1-08 §07)です。

S=12∑x[∑μ(ϕx+μ^−ϕx)2+m2ϕx2],ϕx ∣ 近傍∼N(∑y∼xϕy2d+m2,12d+m2)(10)S=\frac12\sum_x\Bigl[\sum_{\mu}(\phi_{x+\hat\mu}-\phi_x)^2+m^2\phi_x^2\Bigr],\qquad \phi_x\,|\,\text{近傍}\sim\mathcal N\Bigl(\frac{\sum_{y\sim x}\phi_y}{2d+m^2},\frac{1}{2d+m^2}\Bigr) \tag{10}

市松の熱浴で偶の点の和を MeM_e、奇を MoM_o とすると、奇の点は 2d2d 個の偶の点の隣なので Me′=rMo+M_e'=rM_o+(雑音)、r=2d/(2d+m2)r=2d/(2d+m^2) です。零運動量 M=Me+MoM=M_e+M_o について

ρM(t)=1+r2 r2t−1 (t≥1),τint(M)=12(1−r)=12+dm2,τexp⁡=−1log⁡r2≈dm2(11)\rho_M(t)=\tfrac{1+r}{2}\,r^{2t-1}\ (t\ge1),\qquad \tau_{\rm int}(M)=\frac{1}{2(1-r)}=\frac12+\frac{d}{m^2},\qquad \tau_{\exp}=\frac{-1}{\log r^2}\approx\frac{d}{m^2} \tag{11}

cosh⁡(1/ξ)=1+m2/2\cosh(1/\xi)=1+m^2/2 から ξ≈1/m\xi\approx1/m で、τ≈d ξ2\tau\approx d\,\xi^2、この力学では z=2z=2 です 計算。直観は酔歩で、局所の更新は距離 ξ\xi を伝えるのに ξ2\xi^2 歩かかります。正確には、(11) の r=1−m2/(2d+m2)r=1-m^2/(2d+m^2) が m→0m\to0 で 1 に近づくので、一掃で縮む割合が 1−O(ξ−2)1-O(\xi^{-2}) になります。

図 2 二次元の自由場・市松の熱浴。つまみで mm(上:ρM(t)\rho_M(t)、点は測定・曲線は (11)。下:τint(W)\tau_{\rm int}(W)、破線は (11)、縦線は自動の窓 WW)。「重ねる」で横軸を t/ξ2t/\xi^2 にすると四つが重なる
m = 0.25(ξ = 4.01、64²):τ_int 測定 33.14 ± 3.91、(11) 32.5、τ_int/ξ² = 2.02

計算この図の数値はこの端末で計算した(曲線は (11) をその場で計算。JavaScript が無効なら表 3)。

計算表 3 二次元の自由場・市松の熱浴(一辺 16〜64、5〜6 万掃)。τ\tau は掃
mmξ\xiτint(M)\tau_{\rm int}(M) 測定(11)(11)/ξ2/\xi^2
11.0392.57(10)2.52.316
0.52.0208.17(53)8.52.082
0.254.01033.1(3.9)32.52.021
0.1258.005125(23)128.52.005

ξ\xi を倍にするごとに τint(M)\tau_{\rm int}(M) は約 4 倍です。同じ精度の計算は ξd+z\xi^{d+z} 程度で増えると見積もられます(5-05)物理。Langevin 力学(§05)では緩和時間が 1/m2=CP1/m^2=C_P です(8-03。場の値 ϕx\phi_x そのものを座標にして勾配を測る自由場の正規化で、座標の取り方を変えると CPC_P は定数倍だけ変わります)。どちらも m−2m^{-2}(∝ξ2\propto\xi^2)に比例します。熱浴の τ\tau は掃、Langevin の τ\tau は Langevin の時間で測るので、係数は比べません。

08

HMC と位相の凍結 — 大域的な一歩と、越えにくい壁

HMC(ハイブリッド・モンテカルロ、Duane ほか 1987)は全リンクを一度に動かします。運動量 PℓP_\ell(エルミートでトレース 0 の行列。1-03 の TaT^a の実係数の組み合わせ)を正規分布で与え、

H(P,U)=12∑ℓtr Pℓ2+SW(U)(12)H(P,U)=\frac12\sum_\ell\mathrm{tr}\,P_\ell^2+S_W(U) \tag{12}

の古典力学をリープフロッグ法で動かし、確率 min⁡(1,e−ΔH)\min(1,e^{-\Delta H}) で受理します。リープフロッグ法は時間を戻せて相空間の体積を保つので、刻みの誤差があっても e−SWe^{-S_W} が正確に定常分布です 既知。HMC の自己相関時間を Langevin の CPC_P で見積もるのは仮定です(生成作用素が違います)。

連続極限に近づくと、場は位相電荷 QQ(連続の場では整数値をとる、場のねじれ方の数。格子での定義は 3-05 §08)の区画に分かれ、小さな一歩では移りにくくなります。Schaefer–Sommer–Virotta(2011)は、純ゲージの HMC で Q2Q^2 の “effective dynamical critical exponent of about 5” を報告し、Wilson ループはこの遅いモードから切り離せるとしました 物理。Lüscher–Schaefer(2011)は時間方向に開いた境界条件で位相電荷を出入りさせる方法を示しました 物理。比喩なら谷の多い地形の峠越えです。正確には、区画の境界付近の測度が小さいと Poincaré 定数が大きくなります(8-03 §08)既知が、それが凍結の原因かは確かめられていません。

09

数学から見たモンテカルロ — 定理と観察の境目

有限の格子で (1) はコンパクトな空間の上の確率測度です(5-01 §06)。定理として言えるのは、エルゴード定理による時間平均の収束(連続な状態空間では §02 の条件の下で)と、中心極限定理です。可逆な連鎖では、漸近分散が有限なら (7) の形の中心極限定理が成り立ちます(Kipnis–Varadhan 1986)既知。観察にとどまるのは誤差棒です。有限の NN では見えない遅いモードがあれば誤差棒は小さく出ます(表 1 の δ=0.1\delta=0.1、§08)。有限体積と有限の aa からの外挿(5-05 §07・5-09)も別の仮定を要します。

5-08 のグルーボールの質量や弦張力は、その外挿による物理の結果で 物理、問題文の存在と隙間の証明(4-11)ではありません。一方、CPC_P は数学の対象で、強結合では格子ヤン–ミルズの Poincaré 不等式が示されています(Shen–Zhu–Zhu 2023、5-04)既知。ξ→∞\xi\to\infty の側で CPC_P の ξ\xi 依存を決めた定理は、四次元のヤン–ミルズにはありません。


この章が言えている範囲

事項言えている言えていない
更新法メトロポリス・熱浴・過緩和・HMC が定常分布を保つこと、(6) 既知四次元の格子での混合の速さ
表 1・表 2小さな例での τint\tau_{\rm int} と誤差 計算大きな格子への一般化。誤差棒が上界であること
臨界減速自由場・市松の熱浴で (11)、z=2z=2 計算。一般の τ∝ξz\tau\propto\xi^z は仮説 物理四次元ヤン–ミルズの zz
位相の凍結要旨の数値(有効指数 約 5) 物理凍結の数学的な説明
質量ギャップ—この章は質量ギャップ・連続極限について何も示していない

出典と再現

もの種別出典・道具
§02要旨N. Metropolis ほか, J. Chem. Phys. 21 (1953) 1087
§02 のエルゴード定理・収束定理、§05 の緩和時間本文D. A. Levin, Y. Peres, E. L. Wilmer, Markov Chains and Mixing Times, 2nd ed.:定理 C.1(エルゴード定理、付録 C.1)・定理 4.9(収束定理、§4.3)・§12.2・定理 12.4–12.5(緩和時間と混合時間)
§02・§09 の連続な状態空間要旨L. Tierney, Ann. Statist. 22 (1994) 1701
§04・§05(Brown–Woch の 28→9 掃)要旨(熱浴の Creutz への帰属は未確認)M. Creutz, PRD 21 (1980) 2308/N. Cabibbo, E. Marinari, PLB 119 (1982) 387/A. D. Kennedy, B. J. Pendleton, PLB 156 (1985) 393/S. L. Adler, PRD 23 (1981) 2901/M. Creutz, PRD 36 (1987) 515/F. R. Brown, T. J. Woch, PRL 58 (1987) 2394
§05・§06 の (7)(9)・自動の窓本文(式 (23)(25)(40)(42)(50)–(52)。(42) は (40) からの誤差伝播)U. Wolff, CPC 156 (2004) 143(erratum: CPC 176 (2007) 383), arXiv:hep-lat/0306017
§06(窓の和の誤差の式 (40) の出所、ビン分け)要旨N. Madras, A. D. Sokal, J. Stat. Phys. 50 (1988) 109/H. Flyvbjerg, H. G. Petersen, J. Chem. Phys. 91 (1989) 461
§07 の動的指数 zz要旨P. C. Hohenberg, B. I. Halperin, Rev. Mod. Phys. 49 (1977) 435
§08要旨S. Duane, A. D. Kennedy, B. J. Pendleton, D. Roweth, PLB 195 (1987) 216/S. Schaefer, R. Sommer, F. Virotta, NPB 845 (2011) 93, arXiv:1009.5228/M. Lüscher, S. Schaefer, JHEP 07 (2011) 036, arXiv:1105.4749
§09書誌のみ/要旨C. Kipnis, S. R. S. Varadhan, CMP 104 (1986) 1/H. Shen, R. Zhu, X. Zhu, CMP 400 (2023) 805, arXiv:2204.12737
表 1〜3・図 1・図 2・§01・§02・§05〜§07 の数この端末で計算Python 3・NumPy・SciPy。one_link_metropolis.py、su2_algos.py・analyze_su2.py、free_field.py・exact_tint.py、free_field_ext.py(図 2 の延長)、gamma_method.py(AR(1) で検算)、small_numbers.py

次に読む章:5-08 グルーボールと弦張力の測定(この章の方法で作った配位から質量と弦張力を読む)。

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改訂 2026-10-01:初版。