この本の全体 目次と読む順
- 第 0 部 入口 — この本の読み方
- 0-01 この本の読み方
- 0-02 一枚の絵
- 0-03 問題文を一語ずつ読む
- 0-04 数学の四次元と物理の四次元
- 第 1 部 数学の準備
- 1-01 ベクトル空間と線形写像
- 1-02 群とは何か
- 1-03 リー群とリー環
- 1-04 SU(2) と SU(3)
- 1-05 多様体と接空間
- 1-06 微分形式と外微分
- 1-07 ベクトル束と接続
- 1-08 確率と測度
- 1-09 無限次元の確率
- 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
- 1-11 フーリエ解析と分布
- 1-12 寄り道
- 第 2 部 物理の準備
- 2-01 ラグランジアンと作用
- 2-02 場という考え
- 2-03 電磁気学はゲージ理論である
- 2-04 特殊相対論と時空
- 2-05 量子力学の骨
- 2-06 調和振動子と生成消滅
- 2-07 経路積分の考え方
- 2-08 統計力学と相転移
- 2-09 寄り道
- 2-10 緩和の時間と動的指数 z
- 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
- 3-01 ゲージ原理
- 3-02 非可換ゲージ場
- 3-03 作用と方程式
- 3-04 幾何としてのゲージ理論
- 3-05 インスタントンと位相
- 3-06 寄り道
- 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
- 第 4 部 量子化
- 4-01 正準量子化とハミルトニアン
- 4-02 経路積分とユークリッド化
- 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
- 4-04 発散と繰り込み
- 4-05 発散の代数
- 4-06 漸近自由
- 4-07 次元転移と Λ
- 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
- 4-09 場の量子論の公理
- 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
- 4-11 質量ギャップの定義
- 4-12 寄り道
- 第 5 部 格子ゲージ理論
- 5-01 Wilson の格子
- 5-02 強結合展開
- 5-03 反射正値性と転送行列
- 5-04 無限体積極限とクラスター展開
- 5-05 弱結合と連続極限
- 5-06 U(1) と非可換の違い
- 5-07 モンテカルロ法
- 5-08 グルーボールと弦張力の測定
- 5-09 何を固定して極限を取るか
- 5-10 有限群の格子ゲージ理論
- 5-11 寄り道
- 第 6 部 構成的場の理論
- 6-01 構成的場の理論とは
- 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
- 6-03 スカラー場の構成
- 6-04 クラスター展開
- 6-05 繰り込み群の段の列
- 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
- 6-07 四次元
- 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
- 6-09 確率量子化と正則性構造
- 6-10 四次元で止まる場所
- 6-11 発散以外の障害
- 6-12 寄り道
- 第 7 部 物理の側から
- 7-01 物理はどう見ているか
- 7-02 閉じ込めの機構
- 7-03 弦の絵
- 7-04 大 N
- 7-05 ひも理論と余剰次元
- 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
- 7-07 ゲージ場はどこから来るか
- 7-08 ホログラフィー
- 7-09 質量ギャップが幾何になる
- 7-10 四次元に戻す
- 7-11 超対称と Seiberg–Witten
- 7-12 等価原理に当たる一文
- 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
- 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
- 8-01 辞書の読み方
- 8-02 辞書 A
- 8-03 辞書 B
- 8-04 辞書 C
- 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
- 第 9 部 現在地と課題
- 9-01 世界はどこまで来ているか
- 9-02 二つの掘り方の切れ目
- 9-03 新しい概念の候補
- 9-04 課題の一覧
- 9-05 よくある誤解
- 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
- 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
- 10-01 理論の構成の筋
- 10-02 一段の記帳
- 10-03 仮定 H と三つの鎖
- 10-04 方向の地図
- 10-05 方向 12〜14
- 10-06 方向 15・15′
- 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
- 10-08 壁の一覧
- 10-09 ひらめき帳から
- 10-10 主張しないこと
- 10-12 つじつま合わせ
- 10-11 定理までの距離
- 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
- 付録
- A-01 記号表
- A-02 用語集
- A-03 文献案内
- A-04 Lean と機械検査
- A-05 この本の作り方
- A-06 仮定の索引
新しい概念の候補 — 何が「Ricci 流」に当たるか
この章で分かること — Ricci 流の三つの部品(流れ・単調量・手術)。二次元の σ 模型では繰り込み群が一ループで Ricci 流そのものになり、球が縮みきる尺度が になること。四次元で各部品の候補がどこで止まるか。
前提となる章 — 6-09。6-05・4-07・6-11 も使います。Ricci 曲率・スカラー曲率などの幾何の道具は、球面の例でその場で定義します。
先に言うこと — 候補を並べる章で、どれが当たるかは言えません。「Ricci 流に当たるのは繰り込み群」「 に当たるのは双対変換」は類推です(σ 模型の一ループだけは類推でなく一致します)。このサイトは質量ギャップも連続極限の構成も示していません。
- 出題者が「新しい考え」を求めた場所
- Ricci 流:計量を曲率で動かす
- Perelman の部品:流れ・単調量・手術
- 繰り込み群が Ricci 流になる場所:二次元の σ 模型 — 縮みきる尺度が 。図 1・表 1。寄り道:平らな円は縮まない
- 四次元で流れるもの — 結合の流れと場の勾配流
- 単調量:二次元の と四次元の — 単調性は反射正値性から。図 2・表 2
- 手術に当たるもの
- もう一つの型:同一視
- 候補を一枚に並べる
出題者が「新しい考え」を求めた場所
Clay の問題文(Jaffe–Witten 2000)§6 は 上の構成は既知の方法の延長で見込めるとしたうえで、"no present ideas point the direction to establish the existence of a mass gap that is uniform in the volume. Nor do present methods suggest how to obtain the existence of the infinite volume limit " と書きます。§6.5 は "New ideas are needed" です。ただし同じ §6 は 上の構成も未完としています。言えるのは「出題者が新しい考えを求めたのは赤外の側」までです(6-10 §01)。既知
「体積に一様」を式にします。一辺 の箱の隙間 について
は別の主張です。例:質量 の自由場ならどの でも隙間は 以上で、右も成り立ちます。仮に なら左だけが成り立ちます。
他の大問題で働いた新しい概念には、流れと単調量(Perelman、ポアンカレ予想)と、二つの対象の同一視(Wiles、フェルマーの最終定理)の二つの型が見えます(この本の整理)。
Ricci 流:計量を曲率で動かす
Riemann 計量 は各点の接空間(1-05)の内積で、成分を と書きます。Ricci 曲率 (成分 )は、長さ 1 の方向 について、 を含む互いに直交する 枚の面の曲がり方(断面曲率)を足したものです( は多様体の次元)。平均の 倍と言っても同じです。正確には曲率テンソルの縮約です。使うのは次の例だけです。
半径 の球面では、どの面の曲がり方も です。それを 枚足すので係数が になります。 の跡(正規直交な基底で対角成分を足したもの)をスカラー曲率 と呼びます。この球面では です。
Ricci 流は計量を Ricci 曲率で動かす方程式で、Perelman の論文は Hamilton(1982)が導入したこの式から始まります。既知
正に曲がった方向は縮みます。スカラー曲率は流れに沿って に従います。 は多様体の上のラプラシアン(質量ギャップの とは別)で、平らな座標では です(§01 の隙間 とは別の記号)。 は正規直交な基底での の成分の二乗和です。
右辺が だけなら熱方程式で、熱が温度をならすように の山を削り谷を埋めます。正確には、非負の項 がどこでも上向きに足されています。熱方程式の型の式では、解が内部に新しい最小値を作れません(最大値原理)。このため の最小値は流れに沿って減りません。Perelman の序文は Hamilton の仕事の紹介として、この式と結論をこの形で書いています。既知
例:初めの半径が の球面は、丸いまま半径だけが変わります。( は単位球面の計量)と (2) から
で、時刻 (消滅時刻)に点に縮みます。単位の二次元球面なら です。一般の形では曲率がどこかで無限大になります。Perelman は "The most natural way of forming a singularity in finite time is by pinching an (almost) round cylindrical neck" と書き、細い首を切って小さな蓋をかぶせる手術で流れを続けます。
Perelman の部品:流れ・単調量・手術
Perelman の証明を三つの部品に分けて見ます。一つ目の流れは §02 の式 (3) です。二つ目は、流れに沿って単調に増える量です。道具を先に定義します。 は閉多様体(境界の無いコンパクトな多様体)、 は の上の補助の関数、 は計量から決まる体積要素( が の体積)です。 は の勾配で、 はその長さの二乗です。 は の二階微分で、平らな座標では です。
計量を (3) で動かすとき、 も同時に で動かします。これは座標の取り替えを除いて測度 を保つ動かし方で、全体の積分 は変わりません。このとき
が成り立ちます(Perelman §1.2)。右は二乗の積分なので負になりません。既知
流れは の坂を上るように振る舞います。正確には、測度 を止めたままの流れ が を増やす向きの勾配流で、座標の取り替えをすると (3) と上の の式の組に移ります(Perelman §1.1–1.2)。止めておく測度の選び方について Perelman は "the choice of is analogous to the choice of gauge" と書きます。原文の はこの測度のことで、§06 の質量とは別です。どう選んでも、座標の取り替えを除いて同じ流れになります。既知
さらに、座標と尺度の取り替えを除いて見ると、流れは自明でない周期軌道を持ちません(Perelman §2・§3)。自明なものはソリトン(座標と尺度の取り替えだけで形を保つ解)と呼ばれ、この見方では固定点に当たります。既知 例:平らなトーラスでは で、 を定数に取ると (5) の右辺は 0、流れは止まっています(固定点)。
三つ目の部品は、曲率の大きい領域の形を先に分類し、分類したものだけを手術で取り除くことです。ヤン–ミルズで同じ役をしうるのは、流れには繰り込み群と勾配流(§05)、単調量には と (§06)、分類と手術には大きい場・インスタントン・位相のセクター(§07)です。別の型として同一視があります(§08)。どの対応も類推です。
繰り込み群が Ricci 流になる場所:二次元の σ 模型
一ループの摂動の範囲で、対応が類推でなくなる場所が、二次元の非線形 σ 模型です。場 は平面から多様体 への写像です。 の計量をこの節では (成分 )と書きます。
結合定数は数ではなく計量 そのものです。Friedan(1980)の要旨は "the renormalization group acting on the infinite-dimensional space of Riemannian metrics" と書きます。一ループでは、尺度 (大きいほど粗く見る)について
で、 と置けば (3) そのものです。物理 「」は二ループ以上の補正です。二ループからは曲率の二次の項( の形。 は曲率テンソルの成分)が加わり、流れは Ricci 流から外れます。Friedan(1985)の要旨は、繰り込み群の係数を二ループの近似で計算したと書きます。物理
例: を半径 の球面 にすると 模型で、 です。(2) で として
粗く見るほど球が縮み結合が強くなる。Polyakov(1975)の要旨の言う "asymptotic freedom" です。縮みきる尺度 は (4) の消滅時刻 の 倍で、一ループの を決めます(4-07)。四次元の でも は直線 で減ります。
Perelman は序文の 2 でこの関係に触れ、"this connection between the Ricci flow and the RG flow suggests that Ricci flow must be gradient-like; the present work confirms this expectation" と書きます。流れが勾配的である(ある量の坂に沿って動く)ことは繰り込み群の直観から予想されており、(5) がそれを確かめた、というのが Perelman の言い方です。既知
計算図の直線は式 (8) と をその場で描いたもの。表 1 はこの端末で計算した。
| 模型 | 注 | |||
|---|---|---|---|---|
| 任意 | ∞ | — | 円は平らで流れない | |
| 1 | 6.283 | 1.87×10⁻³ | Ricci 流の | |
| 四次元 | 1 / 2 | 10.77 / 5.38 | 2.11×10⁻⁵ / 4.59×10⁻³ | |
| 四次元 | 1 / 2 | 7.178 / 3.589 | 7.63×10⁻⁴ / 2.76×10⁻² |
表 1 一ループの が 0 に届く尺度。 を式 (4) と照合した。計算
直線が 0 に届く手前で結合は大きくなり、一ループの式は使えなくなります。Ricci 流の特異点の近くと同じく、肝心なのは結合が になった後です。二次元 模型()のギャップは物理の水準の結論です。物理 Douglas(2004)の報告は、正則化した版の 模型でギャップが示された例(Kopper 1999)を挙げるにとどまります。その後の定理としての状態は、この章では確かめていません。
寄り道:平らな円は縮まない
飛ばしてよい小節です。
では標的が円で曲率は 0、係数 が消えます。二次元の 模型は低温で質量ゼロの相を持ちます。高温では相関が距離とともに指数で減り(質量がある)、低温では距離のべきでしか減りません(質量ゼロ)。この二つの相の間の転移を Kosterlitz–Thouless(KT)転移と呼びます。Fröhlich–Spencer(1981)は、二次元の格子の回転子模型()やクーロン格子気体などで、この転移の存在を厳密に示しました。既知 四次元の (5-06)と並べると「曲がっている(非可換)から縮む」という絵が浮かびますが、類推です。
四次元で流れるもの:結合の流れと場の勾配流
四次元の「流れ」には別物が二つあります。理論の空間の流れ(繰り込み群、6-05)には球の絵はありませんが、一ループの は同じ形の直線です(表 1)。Bałaban の の紫外安定性は仮定つきで、極限は部分列までです(6-07)。Bauerschmidt–Brydges–Slade の方法が で届いたのは結合が赤外で 0 に流れる側( 模型と弱自己回避歩行)で、ヤン–ミルズの赤外とは正反対です。欠けているのは「結合が に達した後の、制御された一段」です(この本の整理)。
場の空間の流れ(勾配流)は一つの配位を作用の坂に沿って滑らかにします。可換な場で、作用 の勾配を逆向きにたどると
です(非可換なら を共変微分に)。勾配流なので作用は必ず減ります。例:フーリエ変換すると、波数 に垂直な成分は で減り、 の揺らぎが消えます。 に平行な成分(ゲージの方向)は動きません。Ricci 流でも座標の取り替えの不変性で同じことが起き、DeTurck(1983)が項を足して直しました。同じ工夫はヤン–ミルズの確率量子化にもあります(6-09 §07)。
Lüscher(2010)の要旨は、流れた場が "a smooth renormalized field" であることを理論と数値が "suggest" すると書き、Carosso–Hasenfratz–Neil(2018)はこれを連続的な実空間の繰り込み群として数値に使いました。Waldron(2019)は、閉じた四次元多様体の上の滑らかな初期値について、ヤン–ミルズ流に有限時間の特異点が無いことを示しています。既知 二つの流れの関係は示唆と数値の水準です。
単調量:二次元の と四次元の
道具を二つ用意します。応力テンソル(エネルギー運動量テンソル) は、エネルギーと運動量の流れを表す場です。その跡 (二次元なら )は、尺度を少し変えたときに作用がどれだけ変わるかを測ります。尺度を変えても変わらない理論(固定点)では です。中心電荷 は固定点の理論が持つ数で、おおまかには質量ゼロの自由度を数えます(自由なスカラー場一つで 1)。この章では名前だけを使い、値は下の和則 (10) を通して見ます。
二次元には Zamolodchikov(1986)の 定理があり、流れに沿って減り、固定点では中心電荷に一致する関数が作られます。物理 計算できる形として、 の相関の和則を距離 で切ったものを見ます。
ここで は作用からそのまま作った応力テンソルの跡です( と置く規格化では、前の係数は になります)。 の値が紫外と赤外の中心電荷の差になる、というのが和則の内容です。この和則は Cardy(1988)によるとされます。物理
質量 の自由なスカラー場では 、 です。 は伝播関数(1-11)で、 は変形 Bessel 関数(遠くで のように減る)です。したがって
です。 は数値積分で と確かめました。計算 被積分関数が負にならないので は減ります。一般に で は、並進・回転不変性と反射正値性(4-10)から従います。正則化で失われやすい性質(6-11 障害 5)が単調性の出どころです。既知
計算曲線は式 (11) をこの端末で数値積分した 85 点の表(末尾の 0 を省いて埋め込み)の補間。
| 0.1 | 0.5 | 1 | 2 | 3 | 5 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.99946 | 0.93639 | 0.70823 | 0.25841 | 0.06861 | 0.00313 |
表 2 場が一つのときの 。質量の比が 100 の二つの場では で 1.999・1.708・0.999・0.708 と、途中で 1 の段に留まる。計算
段は、流れが途中の固定点(軽い場だけが質量ゼロに見える尺度)の近くを通ることを表し、ギャップのある赤外では です。
四次元の固定点を曲がった背景に置くと、 の期待値に Euler 密度(曲率の二次式で、積分すると多様体の Euler 数に比例する量)が係数つきで現れます。その係数が Euler アノマリー です(格子間隔の とは別。この章では名前だけ)。Komargodski–Schwimmer(2011)の要旨は、紫外と赤外の を結ぶ単調減少関数を導き "establishing the -theorem" と書きます。物理 自由な場の は正で、実スカラー・Weyl フェルミオン・ゲージ場の寄与の比は です(同論文の付録 A)。既知
純ヤン–ミルズの紫外は自由なグルーオンに近づくので です。赤外にギャップがあれば、質量ゼロの自由度が残らないので です。物理 二つは矛盾しませんが、 はギャップを強制しません。赤外にギャップがあること自体が、この本の主題の未証明の部分です。特異点の分類に当たる「赤外の終点の分類」が別に要ります(類推)。
手術に当たるもの:大きい場と位相のセクター
四次元のヤン–ミルズでは、作用が尺度の取り替えで変わらないことが、曲率が一点に集まる特異点と同じ種類の困難を生みます。 なら で
です。 では に依りません。例:大きさ のインスタントンは によらず作用 を持ち(3-05)、 で曲率が一点に集まっても作用は減りません。
曲率の大きさを測る物差しに を使います( が 1-10 の で、二乗すると作用)。Uhlenbeck(1982)のコンパクト性(曲率の が抑えられた接続の列から、ゲージを取り替えれば弱い意味で収束する部分列が取れること)は の 評価で働き、 の (作用そのもの)はちょうど境目です。境目では、曲率が有限個の点に集まり、小さなインスタントンが泡のように抜け出すことがあります(泡立ち。この章では名前だけ)。既知
量子の側で手術に当たりうるのは、Bałaban の方法で別扱いにする大きい場の領域(6-05 §04)、小さいインスタントン、位相のセクター(6-11 寄り道)です。どれも「分類してから取り除く」段には届いていません。
もう一つの型:ギャップが見える対象との同一視
Wiles 型は、二つの対象を同じだと示し、片方で見えない性質をもう片方から持ち込む型です(。通説の水準の要約)。Jaffe–Witten §6.6 は、ギャップが古典的に見えないので "a nonclassical change of variables or “duality transformation”" が要るかもしれないと書きます。既知
この型でギャップが示された例は、ガウス積分の恒等式から始まります。共分散 のガウス場 について
右辺は電荷 の粒子がポテンシャル で相互作用する重み、左辺は場の期待値です。電荷の気体を足し合わせると、左辺は を含む場の理論になります。これを sine-Gordon 模型と呼びます(作用に の項を持つ場の理論。この章では名前だけ)。Brydges–Federbush(1980)はこの変換で、低密度または高温のクーロン気体の相関の指数減衰(Debye 遮蔽)を証明しました。既知 可換な統計力学の模型です。
ヤン–ミルズ自身の断片は、Chatterjee(2019)の強結合・大 の でのゲージと弦の双対、Cao–Park–Sheffield の Wilson ループの曲面の和の表示(7-04 §09。絵は §05)、Chatterjee(2021)の「中心対称性が破れない ⇒ 閉じ込め」(含意であって同値ではない)です。物理の水準では Seiberg–Witten(7-11)とホログラフィー(7-09)があります。問題は固定した で求めるので、大 だけでは足りません。
候補を一枚に並べる
に記号を与える案は、運ぶ情報が少ないので入れていません(6-12 §10)。
表の読み方を先に言います。「部品」の列は、その候補が §03 の三つの部品のどれに当たるかです。流れ(i〜iii)・同一視(v・vi)・手術(vii)に分かれ、(iv) はどれにも当たりません。「どこまで」は定理として届いた範囲、「どこで止まるか」は届かない最初の場所です。
止まる場所を並べると、おおむね二つに集まります。一つは、結合が になる赤外で小さい数が無くなることです。(i) はそこでの一段を持たず、(iii) で得られた連続極限は結合を 0 へ連動させた設計のもので、(iv) は冪級数なので に届きません。もう一つは、 や強結合という別の極限でしか働かないことで、(v) と (vi) がこれに当たります。(i) は紫外の側から赤外へ進もうとして止まり、(vi) は赤外の絵を持ちながら有限の へ戻れずに止まります。止まる向きが逆です(この本の整理)。
| 候補 | 何を新しくするか | どこまで | どこで止まるか | 部品 | |
|---|---|---|---|---|---|
| i | 厳密な繰り込み群(Bałaban・MRS・BBS) | 一段を理論空間の写像として扱う | の紫外安定性(仮定つき) | 結合が に達した後の一段 | 流れ |
| ii | 確率量子化と正則性構造(Hairer・CCHS) | 測度を力学の不変測度に、軌道の空間を状態空間に | の測度は力学の一意な不変測度(Chevyrev–Shen)。三次元 YMH は局所解 | 劣臨界 (6-09) | 流れ |
| iii | 新しい極限の取り方(Chatterjee ほか) | 極限の住む空間を先に決める | 強結合の格子のギャップ(格子単位)。YMH のガウス極限(結合を 0 へ連動させた設計) | 非ガウスの極限 | 流れ |
| iv | 代数的な定式化(Connes–Kreimer・Costello) | 繰り込みを代数の構造で書く | 摂動論の範囲での定式化(形式的冪級数の水準) | のような摂動で見えない量に届かない | — |
| v | 双対・変数変換(JW §6.6) | ギャップが見える対象と同一視 | Debye 遮蔽(可換)。ゲージと弦の断片 | 純ヤン–ミルズで働く双対変換は、調べた範囲で見当たらない | 同一視 |
| vi | 大 とホログラフィー | 余剰次元の幾何でギャップを見る | 物理の水準物理 | ・強結合 | 同一視 |
| vii | 幾何解析の古典 YM(Uhlenbeck・Waldron) | 臨界次元の解析(泡立ち、§07) | 古典は既存の方法の射程(JW §2) | 量子の配位は滑らかでないと期待される | 手術 |
第 10 部で扱うこの端末の検討(仮定 H、10-03)は (i) の型に最も近く、「尺度は一つ」という物理の前提を格子の上の不等式に切り出したものです(近さの判定はこの本の整理)。
この章が言えている範囲
| 内容 | |
|---|---|
| 言えている | 出題者が新しい考えを求めたのは一様なギャップと無限体積極限。Perelman の単調式 (5)( も同時に動かすときの式)と、流れの勾配性が繰り込み群の直観から予想されていたという記述(いずれも原文)既知 |
| 言えている | 模型の一ループの流れ (8) は球面の Ricci 流 (4) と で一致し、縮みきる尺度が一ループの (表 1)。二ループからは Ricci 流から外れる計算物理 |
| 言えている | 自由な質量 のスカラー場で は 1 から 0 へ単調に減り、単調性は反射正値性から来る計算既知 |
| 言えていない | どの候補が当たるか(対応は類推)。二次元 模型のギャップの、2004 年より後の定理としての状態。純ヤン–ミルズの赤外にギャップがあるか( はその条件の下)。四次元の厳密な単調量の有無。2025 年以降の網羅 |
出典と再現
| もの | 種別 | 出典・道具 |
|---|---|---|
| §01・§08 の引用 | 本文で確認(検査済みの調査の逐語照合) | A. Jaffe, E. Witten, Quantum Yang–Mills Theory, Clay Math. Inst. (2000) |
| 式 (3)・(5)、 の発展式、 の発展式と最小値、序文の 2、§1.1・§1.2、§2・§3 の周期軌道とソリトン、首の切断 | 本文で確認 | G. Perelman, arXiv:math/0211159 (2002) |
| Ricci 流の導入・DeTurck・Uhlenbeck・Wiles 型 | 書誌のみ | R. S. Hamilton, J. Differential Geom. 17 (1982) 255–306。D. DeTurck, 同 18 (1983)。K. Uhlenbeck, CMP 83 (1982) 11–29, 31–42。A. Wiles, Ann. of Math. 141 (1995) 443–551。Taylor–Wiles, 同 553–572 |
| σ 模型の繰り込み群・漸近自由 | 要旨で確認(係数 は標準の一ループの勘定) | D. Friedan, PRL 45 (1980) 1057。A. M. Polyakov, Phys. Lett. B 59 (1975) 79 |
| 二ループの係数(Ricci 流からのずれ) | 要旨で確認(二ループの計算まで。項の形 は標準の二ループの勘定) | D. Friedan, Ann. Phys. 163 (1985) 318 |
| 二次元 模型のギャップの状態 | 検査済みの調査(Douglas は本文の逐語、Kopper は書誌のみ) | M. R. Douglas, Report on the Status of the Yang–Mills Millenium Prize Problem, Clay Math. Inst. (2004)。C. Kopper, CMP 202 (1999) 89 |
| KT 転移・Debye 遮蔽・ 定理・勾配流 | 要旨で確認 | Fröhlich–Spencer, CMP 81 (1981) 527。Brydges–Federbush, CMP 73 (1980) 197。Komargodski–Schwimmer, JHEP 12 (2011) 099, arXiv:1107.3987。Lüscher, JHEP 08 (2010) 071。Carosso–Hasenfratz–Neil, arXiv:1806.01385。Waldron, Invent. Math. 217 (2019) 1069 |
| 自由な場の の値( と正であること) | 本文で確認(付録 A) | Z. Komargodski, A. Schwimmer, arXiv:1107.3987 |
| 定理・和則 (10) | 書誌のみ(和則 (10) は Cardy 1988 によるとされる。要旨は二次モーメントの普遍量までで、和則の形は未確認。係数 と の規格化と、自由場の は計算で照合) | A. B. Zamolodchikov, JETP Lett. 43 (1986) 730。J. L. Cardy, PRL 60 (1988) 2709 |
| §05 の Bauerschmidt–Brydges–Slade | 要旨で確認 | R. Bauerschmidt, D. C. Brydges, G. Slade, CMP 338 (2015) 169–193, arXiv:1403.7268(四次元の弱自己回避歩行)。同, arXiv:1403.7424(四次元の 成分 )。同, Introduction to a Renormalisation Group Method, Lecture Notes in Math. 2242 (2019), arXiv:1907.05474。D. C. Brydges, G. Slade, J. Stat. Phys. 159 (2015) 530, arXiv:1403.7255(方法の第 IV 部) |
| §09 表 (ii)・(iii) | 検査済みの調査(Chevyrev–Shen は本文、Chatterjee は要旨) | I. Chevyrev, H. Shen, Comm. Pure Appl. Math. (2026), arXiv:2302.12160。S. Chatterjee, A scaling limit of SU(2) lattice Yang–Mills–Higgs theory, Prob. Math. Phys. 7 (2026) 339–381, arXiv:2401.10507 |
| §05・§08・§09 の候補 | 検査済みの調査(要旨、Chevyrev は本文) | Bałaban, CMP 122 (1989)。Magnen–Rivasseau–Sénéor, CMP 155 (1993)。Hairer, arXiv:1303.5113。CCHS, arXiv:2006.04987・2201.03487。Chevyrev, arXiv:2202.13359。Connes–Kreimer, CMP 210 (2000)。Costello, arXiv:0706.1533。Shen–Zhu–Zhu, CMP 400 (2023)。Chatterjee, CMP 366 (2019)・CMP 385 (2021)。Cao–Park–Sheffield, arXiv:2307.06790 |
| 表 1・図 1 | 計算 | この端末の Python:sigma_rg.py(式 (8) と四次元の一ループ、 の照合) |
| 表 2・図 2・式 (11) | 計算 | この端末の Python:c_function.py(scipy の quad。 を の桁で確認) |
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