computo ergo sum

2026-10-01 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 6 部 構成的場の理論繰り込み群

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 第 9 部 現在地と課題
  97. 9-01 世界はどこまで来ているか
  98. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  99. 9-03 新しい概念の候補
  100. 9-04 課題の一覧
  101. 9-05 よくある誤解
  102. 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
  103. 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
  104. 10-01 理論の構成の筋
  105. 10-02 一段の記帳
  106. 10-03 仮定 H と三つの鎖
  107. 10-04 方向の地図
  108. 10-05 方向 12〜14
  109. 10-06 方向 15・15′
  110. 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
  111. 10-08 壁の一覧
  112. 10-09 ひらめき帳から
  113. 10-10 主張しないこと
  114. 10-12 つじつま合わせ
  115. 10-11 定理までの距離
  116. 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
  117. 付録
  118. A-01 記号表
  119. A-02 用語集
  120. A-03 文献案内
  121. A-04 Lean と機械検査
  122. A-05 この本の作り方
  123. A-06 仮定の索引

繰り込み群の段の列 — 尺度を一段ずつ積分し、小さい場と大きい場に分けて進む

この章で分かること — 格子を一段ずつ粗くする変換(ブロック化)を重ねて紫外の極限を押さえる考え方。各段で場を「小さい場」と「大きい場」に分けること。ゲージ場では群の元の平均と局所的なゲージが要ること。

前提となる章 — 6-01(段 3)と 4-04(結合の走り)。6-04 のポリマー、4-06 §02 の b0b_0、6-02 の二次元の U(1)U(1)(プラケットの角の独立性・熱核)も使います。プラケットと Wilson の作用は 5-01 の言葉ですが、要る分はその場で定義します。

先に言うこと — 方法の骨組みの説明で、Bałaban の証明を追ったものではありません。四次元ではこの方法の主定理も仮定つきで、連続極限の一意性・無限体積・質量ギャップには届いていません(§07・§09)。ゲージ場の細部は一次資料の序文と定理の文面、スカラー場での解説(Dimock)の範囲です。計算は二次元の U(1)U(1)・自由場・一ループの走りについてで、四次元の非可換理論の数値ではありません。

この章の順序
  1. なぜ段の列にするのか — 全尺度に共通の小さな数が無いので、尺度を一段ずつ積分する(式 (1))
  2. 一段の変換:ブロック化 — 平均を緩く固定して細かい変数を積分すると、作用の形が一段で変わる(表 1)
  3. 自由場なら一段は厳密に書ける — 極小配位と、平均の制約だけで生まれるグリーン関数の局所性(表 2)
  4. 小さい場と大きい場(動く図) — 各段で領域を分け、大きい場は小さな因子を運ぶ(図 1・表 3)
  5. ゲージ場で加わること — 拡大縮小できない・足して割れない・ゲージは局所的に選ぶ(式 (8))
  6. 結合の走りと段の数(動く図) — 四次元では補正の和が段数とともに増え続ける(図 2・表 4)
  7. 帰納の形 — 各段で同じ形の評価を保ち、定数を段と格子間隔によらせない(式 (10))
  8. 寄り道:「位相空間の細胞」という呼び名 — 段ごとに積分する自由度を数える(式 (11))
  9. 別の道と、止まる場所 — 連続の切断による構成と、結合が O(1)O(1) になる尺度

01

なぜ段の列にするのか

段 3 で示したいのは、期待値が格子間隔 aa によらず有界であることでした(6-01 の式 (8))。四次元のヤン–ミルズでは、漸近自由(4-06)により細かい尺度で結合 gg が小さく、粗い尺度で O(1)O(1) になります。どの尺度にも小さな数はあるが、全尺度に共通の小さな数は無い。そこで尺度を一段ずつ積分します。

a → La → L2a → ⋯ → LKa=a0,K=log⁡La0a(1)a\ \to\ La\ \to\ L^{2}a\ \to\ \cdots\ \to\ L^{K}a=a_0,\qquad K=\log_L\frac{a_0}{a} \tag{1}

倍率 LL の変換を KK 回重ね、各段ではその尺度の結合だけを小さな数として使います(LL は 6-01 の箱の大きさとは別物、a0a_0 は固定)。段 kk の後の重み(有効密度)を ρk\rho_k とすると Z=∫ρ0=∫ρ1=⋯=∫ρKZ=\int\rho_0=\int\rho_1=\cdots=\int\rho_K です。問題文はこの変換を「大きい運動量の自由度を積分し、尺度を戻す」と説明し(JW §6.5)、Bałaban 1985 の序文は K. Wilson の提案した形に従うと書きます。既知

例:L=2L=2、a0=1a_0=1、a=2−20a=2^{-20} なら K=20K=20。aa を半分にするたびに段が一つ増えるので、示すべきは KK によらない評価です。

02

一段の変換:ブロック化

一段では、粗い格子の変数を決め、その値を保つように細かい変数を積分します。スカラー場で書くと、一辺 LL 点のブロック B(y)B(y) の平均が (2) で、Bałaban の方法を解説した Dimock は平均をガウスの重みで緩く固定します(α>0\alpha\gt0 は任意、NN は積分を保つ定数)。

(QΦ)(y)=1Ld∑x∈B(y)Φ(x)(2)(Q\Phi)(y)=\frac{1}{L^{d}}\sum_{x\in B(y)}\Phi(x) \tag{2} ρ~k+1(Φ′)=1N∫exp⁡(−α2L2∥Φ′−QΦ∥2) ρk(Φ) dΦ(3)\tilde\rho_{k+1}(\Phi')=\frac{1}{N}\int\exp\Big(-\frac{\alpha}{2L^{2}}\big\|\Phi'-Q\Phi\big\|^{2}\Big)\,\rho_k(\Phi)\,\mathrm d\Phi \tag{3}

そのあと格子を単位の間隔に縮め、場を掛け直して ρk+1\rho_{k+1} とします(Dimock I の (26)(27))。既知

例:二次元の U(1)U(1) で見ます。U(1)U(1) の元は角 θ\theta で eiθe^{i\theta} と書けます。格子の単位正方形 pp をプラケットと呼び、その四辺の変数を向きに沿って順に掛けた積を U(∂p)=eiθpU(\partial p)=e^{i\theta_p} と書いて、θp\theta_p をプラケットの角と呼びます(5-01 §03)。各プラケットに重み eβcos⁡θpe^{\beta\cos\theta_p} を置くのが Wilson 型の作用です(β\beta は格子の逆結合で、大きいほど結合は弱い。§06 の β 関数とは別の量)。自由境界の二次元ではプラケットの角が独立で(6-02 §02)、2×22\times2 のブロックの角は四つの角の和です。独立な角の和では、分布のフーリエ係数が各々の係数の積になります。一つの角の係数

cn(β)=∫−ππeinθ eβcos⁡θ dθ∫−ππeβcos⁡θ dθc_n(\beta)=\frac{\int_{-\pi}^{\pi}e^{in\theta}\,e^{\beta\cos\theta}\,\mathrm d\theta}{\int_{-\pi}^{\pi}e^{\beta\cos\theta}\,\mathrm d\theta}

を使うと、ブロックの角の係数は一段で cn(β)4c_n(\beta)^4 になります。In(β)=12π∫−ππeinθeβcos⁡θ dθI_n(\beta)=\frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}e^{in\theta}e^{\beta\cos\theta}\,\mathrm d\theta と置けば cn=In(β)/I0(β)c_n=I_n(\beta)/I_0(\beta) で、InI_n は変形 Bessel 関数と呼ばれる特殊関数です。一段の後も Wilson 型なら、c1c_1 で決めた β′\beta' で c2c_2 も合うはずです。

計算表 1 二次元 U(1)U(1)・Wilson 型の一段(L=2L=2)。β′\beta' は c1(β′)=c1(β)4c_1(\beta')=c_1(\beta)^4 で決めた値、ずれは c2(β′)/c2(β)4−1c_2(\beta')/c_2(\beta)^4-1。

β\beta21050100400
β′\beta'0.4882.99612.89225.383100.377
ずれ2.436.6e−22.8e−43.2e−54.8e−7

合いません。一段で作用の形が変わり、新しい項が生まれます。計算 重みをはじめから係数が cn=e−n2/2βc_n=e^{-n^2/2\beta} になるものに取ると、cn4=e−n2/(2⋅β/4)c_n^4=e^{-n^2/(2\cdot\beta/4)} で、形は厳密に保たれます。この重みは円周上の熱核(Villain 型とも呼ばれる)で、分散 1/β1/\beta の正規分布の密度を 2π2\pi ずつずらして足し合わせた円周上の分布、つまり正規分布を円周に巻きつけたものです(6-02 §04)。一般には主要な局所項を追い、残りを塊 XX ごとの補正 Ek(X)E_k(X) にまとめます(Dimock I の (105)(108)。6-04 のポリマーの形)。既知

03

自由場なら一段は厳密に書ける

重みがガウス型(自由場)なら (3) は何段でも閉じた形で書けます。kk 段後の密度は、粗い値 Φ\Phi を与えたとき細かい場の作用を最小にする配位 ϕk\phi_k——極小配位、または背景場——で決まります(Dimock I の (45)〜(52))。

ρk(Φ)=Zk e−Sk(Φ, ϕk),ϕk=αkGkQkTΦ,Gk=(−Δ+μˉk+αkQkTQk)−1(4)\rho_k(\Phi)=Z_k\,e^{-S_k(\Phi,\,\phi_k)},\qquad \phi_k=\alpha_kG_kQ_k^{\mathsf T}\Phi,\qquad G_k=\big(-\Delta+\bar\mu_k+\alpha_kQ_k^{\mathsf T}Q_k\big)^{-1} \tag{4}

Δ\Delta は格子のラプラシアン(質量ギャップの Δ\Delta とは別)、QkQ_k は kk 段分の平均、QkTQkQ_k^{\mathsf T}Q_k はブロックの上で定数な関数への射影、μˉk\bar\mu_k は質量の二乗、αk=α(1−L−2)/(1−L−2k)\alpha_k=\alpha(1-L^{-2})/(1-L^{-2k})(Dimock I の (32))は kk 段分の重みをまとめた定数です。極小配位からの揺らぎはガウス変数で、積分すると定数 ZkZ_k を残します。要は GkG_k の局所性です。μˉk\bar\mu_k が 0 に近くても平均に掛かる項が質量の役を果たし、xx が立方体 Δy\Delta_y に、ff の台が立方体 Δy′\Delta_{y'} にあるとき(Δy\Delta_y は一辺 M=LmM=L^m の大きい立方体、d(y,y′)d(y,y') はこの立方体を単位に測った距離)

∣(Gkf)(x)∣≤C e−γ d(y,y′) ∥f∥∞(5)\big|(G_kf)(x)\big|\le C\,e^{-\gamma\,d(y,y')}\,\|f\|_\infty \tag{5}

が成り立ちます(Dimock I の (85)。そこでは γ=12γ0\gamma=\tfrac12\gamma_0。文献は Bałaban, CMP 89 (1983) ほか)。既知 質量の無い (−Δ)−1(-\Delta)^{-1} は二次元では距離の対数でしか変わりません。

例:二次元の周期格子(一辺 32 ブロック)で (−Δ+ℓ−2P)−1(-\Delta+\ell^{-2}P)^{-1}(PP は一辺 ℓ\ell のブロックの平均への射影)を、ブロック単位の距離 rr で並べました。

計算表 2 G(r)/G(0)G(r)/G(0)。最下行は r=4r=4〜1212 の値に e−γre^{-\gamma r} を当てはめた γ\gamma(一ブロックあたりの減衰率)。右端は全体に質量 ℓ−2\ell^{-2} を入れたもの。

rrℓ=2\ell=2ℓ=4\ell=4ℓ=8\ell=8質量(ℓ=8\ell=8)
10.1810.1350.1110.111
44.29e−33.12e−32.53e−32.94e−3
85.10e−53.47e−52.76e−53.87e−5
減衰率1.0891.1061.1111.064

減衰率は一ブロックあたり約 1.1 で、ℓ\ell にほとんどよりません。制約はブロックの平均にしか掛からないのに、全体に質量を入れた場合(同じ当てはめで ℓ=2,4,8\ell=2,4,8 について 1.055〜1.064)と同程度で、やや速いくらいです。段によらないこの局所性が、各段でクラスター展開(6-04)を使える理由です。計算

04

小さい場と大きい場

摂動の形の解析は場が小さいときしか使えません。Bałaban の方法の特徴は、各段で格子を小さい場の領域 Ω\Omega とその外に分け、すべての分け方について和を取ることです(Dimock II §1)。

1=∑Ωζ(Ωc,Φ) χ(Ω,Φ)(6)1=\sum_{\Omega}\zeta(\Omega^{c},\Phi)\,\chi(\Omega,\Phi) \tag{6}

χ\chi は Ω\Omega で小さい場の条件が成り立つこと、ζ\zeta は Ωc\Omega^{c} の各立方体で条件がどこかで破れることの指示関数です。Dimock I の序文(§1.1)の言葉では 'The large field region is treated crudely but makes a small contribution due to the fundamental stability of the interaction'。次の段は前の段の小さい場の領域の中で分けるので、Ω1⊃Ω2⊃⋯\Omega_1\supset\Omega_2\supset\cdots と減っていきます。既知

ゲージ場では条件をプラケットに置きます。Bałaban 1985 は最初の段(裸の結合 g0g_0)で、各プラケット pp に

∣U(∂p)−1∣<ε1,ε1=g0 p(g0),p(g)=c (1+log⁡g−1)p0,p0>2(7)|U(\partial p)-1|\lt\varepsilon_1,\qquad \varepsilon_1=g_0\,p(g_0),\qquad p(g)=c\,(1+\log g^{-1})^{p_0},\quad p_0\gt2 \tag{7}

を課し(cc は十分大きい定数)、破れたプラケットから十分離れたブロックの和を小さい場の領域とします(同 p.256–257 の (4)(7)。記号は本書に合わせた)。既知

大きさの感じを、目安として見積もります。重みはおおよそ e−∣U(∂p)−1∣2/g2e^{-|U(\partial p)-1|^2/g^2} なので典型的な大きさは gg 程度、閾値はその p(g)p(g) 倍です。すると大きい場は、目安として e−O(1) p(g)2e^{-O(1)\,p(g)^2} 程度の因子を運びます。これは gg のどの冪よりも速く小さい。スカラー場の解説では、大きい場の立方体一つごとに e−O(1) p02e^{-O(1)\,p_0^2} の因子が出ると書かれています(Dimock II §1。そこでの p0=(−log⁡λ0)pp_0=(-\log\lambda_0)^{p} は閾値の大きさで、(7) の指数 p0p_0 とは別の記号)。既知 例:c=1c=1、p0=3p_0=3、g=0.1g=0.1 で p≈36.0p\approx36.0。O(1)O(1) を 1 とすると e−p2≈e−1298e^{-p^2}\approx e^{-1298} で、g10=e−23g^{10}=e^{-23} と桁違いです。計算

図 1 段 k を進めると、ブロックの角の大きさ(地の濃さ)、大きい場(濃い塗り)、前の段で小さい場の領域から外れた部分(薄い塗り)がどう増えるか
段 2(4×4) β_k = 4.000 ε = 0.50 大きい場 25/64 領域の外 29/64(JavaScript が無効なら表 3)

計算この図の数値はこの端末で計算した(32×32 の標準正規の標本を約 0.1 刻みで埋め込み、角 θp=zp/β\theta_p=z_p/\sqrt\beta とブロックの和はその場で計算)。

計算表 3 図 1 の標本(β=64\beta=64、ε=0.5\varepsilon=0.5。段 0 は 0/1024)。「厳密」は分散 4k/β4^k/\beta の巻きつけた正規分布での確率。

段 kkβk\beta_k大きい場(標本)同(厳密)領域の外
11613/2560.04313/256
2425/640.31229/64
3113/160.61315/16

図の模型は §02 の熱核型で、段 kk の有効結合は厳密に βk=β/4k\beta_k=\beta/4^k です。二次元では結合が段ごとに強まり、閾値を固定すると数段で大きい場が埋めます。結合が O(1)O(1) になる前に止める所が (1) の a0a_0 です。四次元の強まり方はずっと遅い(§06)。

05

ゲージ場で加わること

ゲージ場では三つが加わります。既知 (i) 群の元は拡大縮小できない。Bałaban 1985 は 'we use improvement of regularity properties of typical gauge fields instead of non-existing scalings' と書きます。(ii) 群の元は足して割れない。粗い辺の変数は細かい辺の変数から作りますが、群の元の平均は群から外れます。平均の作り方そのものが一篇の主題です(Bałaban, CMP 98 (1985) 17–51、書誌のみ)。電荷を持つ場なら、道に沿った位相を掛けてゲージ共変に平均します(Dimock の QED の論文の式 (20))。(iii) ゲージは局所的に、尺度ごとに選ぶ。U=eigAU=e^{igA} と書いて展開するにはゲージを固定する必要がありますが、大域的に連続な選び方は存在しません(Singer 1978、3-04・4-08)。格子では群がコンパクトなので ZZ の定義にゲージ固定は要らず、要るのは局所的な選択だけです。問題文によれば、ゲージは時空の場所と尺度ごとに選ばれ('phase cells')、段とともに紫外のゲージから赤外のゲージへ選び直されます(JW §6.5。三次元の仕事の説明)。

局所的である理由は初等的です。行列 AA の作用素ノルムを、ベクトルを最も伸ばす倍率 ∥A∥=max⁡∣v∣=1∣Av∣\|A\|=\max_{|v|=1}|Av| で定めます。ユニタリ行列は長さを変えないので ∥U∥=1\|U\|=1 です。ユニタリ行列 U,V,WU,V,W について

∥UV−1∥≤∥U−1∥+∥V−1∥,∥WUW−1−1∥=∥U−1∥(8)\|UV-1\|\le\|U-1\|+\|V-1\|,\qquad \|WUW^{-1}-1\|=\|U-1\| \tag{8}

です(前者は UV−1=U(V−1)+(U−1)UV-1=U(V-1)+(U-1) と ∥U(V−1)∥≤∥U∥ ∥V−1∥=∥V−1∥\|U(V-1)\|\le\|U\|\,\|V-1\|=\|V-1\| から、後者は WW も W−1W^{-1} も長さを変えないことから)。紙 ゲージ変換でプラケットの変数は WU(∂p)W−1WU(\partial p)W^{-1} の形に変わるので、後者から、作用素ノルムで測った条件 (7) はゲージ変換で変わりません。二次元の一辺 ℓ\ell のブロックで縦の辺と底の横の辺を 1 にする(完全軸性ゲージ)と、高さ yy の横の辺は真下の yy 枚のプラケットの変数の逆の積なので、(8) を繰り返し使って ∥Ub−1∥<ℓ ε1\|U_b-1\|\lt\ell\,\varepsilon_1 です。紙 例:ε1=0.05\varepsilon_1=0.05 なら ℓ=8\ell=8 で 0.4 以内。ℓ=64\ell=64 では 3.2 で、常に ∥U−1∥≤2\|U-1\|\le2 だから何も言いません。ゲージが効くのはブロック程度の範囲です。

06

結合の走りと段の数

段ごとに変わる主なものは有効結合 gkg_k です。四次元では一ループの走り(4-06 §01 の β 関数 μ dg/dμ=−b0g3+O(g5)\mu\,\mathrm dg/\mathrm d\mu=-b_0g^3+O(g^5)、b0=11N/48π2b_0=11N/48\pi^2 を積分した 1/g2(μ)=1/g2(μ0)+2b0ln⁡(μ/μ0)1/g^2(\mu)=1/g^2(\mu_0)+2b_0\ln(\mu/\mu_0)。物理の側からの同じ式は 7-01 の式 (2))を段に刻むと

1gk+12=1gk2−2b0ln⁡L(9)\frac{1}{g_{k+1}^{2}}=\frac{1}{g_k^{2}}-2b_0\ln L \tag{9}

で、粗くするたびに一定量ずつ強まります。三次元では g2g^2 が質量の次元を持ち、段 kk の無次元の結合 gk2=g2Lkag_k^2=g^2L^ka は細かい側で幾何級数的に小さい。既知

ここからは式 (9) だけを使った目安の議論で、Bałaban の評価そのものではなく、定理の水準の主張でもありません。違いは足し算に出ます。一段ごとに gk2g_k^2 程度の補正が出るとすると、三次元の ∑kgk2\sum_kg_k^2 は有限ですが、四次元では gk2≈1/(2b0ln⁡L⋅(K−k))g_k^2\approx1/(2b_0\ln L\cdot(K-k)) で和が段数の対数で増え続け、誤差として積むことができません。その大きさの補正は結合の走りそのものに繰り込んで追う必要がある、というのがこの目安の示すことです。残りが gk3g_k^3 程度なら和は収まります。四次元への拡張の論文(Bałaban, CMP 109 (1987)。JW の文献表による)の題は 'a coupling constant renormalization in 4D' を含みます。既知

図 2 段の数 K(a = 2^−K)を動かすと、有効結合 g_k² の並び(右端で g² = 1)と和がどう変わるか。三次元は g_k² = 2^(k−K)
K = 40 四次元:g₀² = 0.206 Σg² = 16.99 Σg³ = 11.88 三次元:Σg² = 2.000(JavaScript が無効なら表 4)

計算この図の数値はこの端末で計算した(式 (9) の部分和。表 4 と一致)。

計算表 4 SU(3)SU(3)、L=2L=2、右端で gK2=1g_K^2=1。g02g_0^2 は最も細かい段の値。

KKg02g_0^2∑gk2\sum g_k^2(4D)∑gk3\sum g_k^3(4D)∑gk2\sum g_k^2(3D)
100.5097.766.631.999
400.20616.9911.882.000
1600.06129.5416.122.000
3200.03136.3817.562.000

例:右端の g2=1g^2=1 から最も細かい段で g2=0.1g^2=0.1 にするには、SU(3)SU(3) で約 93 段(a≈9×10−29a\approx9\times10^{-29})、SU(2)SU(2) で約 140 段。∑gk2\sum g_k^2 は KK を倍にするたびに約 7.2 増え、∑gk3\sum g_k^3 は約 21.2 に、三次元の ∑gk2\sum g_k^2 は 2 に収まります。計算

07

帰納の形:各段で何を仮定し何を示すか

証明は段 kk についての帰納法です。仮定は「ρk\rho_k が決まった形と評価を満たす」こと。形は、小さい場の領域での主要な作用、塊 XX に局在し指数的に小さい補正 Ek(X)E_k(X)、大きい場の領域の和、からなります(Dimock II §1)。一段 (3) の後も同じ形と評価が成り立つことを示し、定数が kk と aa によらないことが要です。三次元の論文の主定理の評価は次の形です(Bałaban 1985 の (5)。記号は本書に合わせた)。

χ(U) exp⁡(−1gk2A(Uk(U))−C ∣Tk∣) ≤ ρk(U) ≤ exp⁡(C ∣Tk∣)(10)\chi(U)\,\exp\Big(-\frac{1}{g_k^{2}}A\big(U_k(U)\big)-C\,|T_k|\Big)\ \le\ \rho_k(U)\ \le\ \exp\big(C\,|T_k|\big) \tag{10}

AA は Wilson の作用、Uk(U)U_k(U) は極小配位、χ\chi は小さい場の条件の指示関数、∣Tk∣|T_k| は段 kk の格子の点の数で、CC は aa にも kk にもよりません。積分すれば分配関数の aa に一様な上下界が出ます(同 (6))。四次元では 1989 年の論文が 'If the sequence of the effective coupling constants is contained in an interval ]0, γ] with a sufficiently small positive γ' という仮定のもとで、四次元の紫外安定性を主定理(Theorem 1)として述べています。既知

例:三次元の ϕ4\phi^4 では Dimock の Theorem 1 が同じ型で、相殺項を選べば e−c Vol≤Z/Zfree≤ec Vole^{-c\,\mathrm{Vol}}\le Z/Z_{\mathrm{free}}\le e^{c\,\mathrm{Vol}} が紫外の切断と体積によらず成り立ちます(6-03 §06)。

SEAM 評価の型と、それで言えること

(10) の型から出るのは、分配関数と有効作用の一様な有界性までです。1989 年の論文は、仮定を外す Theorem 2(二次の摂動計算による)の証明は未公刊と序文で述べ、Wilson ループなどの期待値の解析を今後の課題とします。MRS 1993 は、ここから滑らかにした Wilson ループの紫外極限が部分列の水準で従うはずだが一意とは限らない、と評します。問題文はコンパクト性だけの弱い存在を、極限の性質を別に示さない限り解と認めません(JW 脚注 2)。三次元は 6-06、四次元は 6-07 で。

08

寄り道:「位相空間の細胞」という呼び名

寄り道

飛ばしてよい節です。

この方法は「phase cell renormalization」とも呼ばれます(Chatterjee 2018 §6)。既知 呼び名の意味を、この章の言葉で説明します。段 kk の揺らぎは空間では一辺 LkaL^ka のブロックに、運動量では 1/(Lka)1/(L^ka) 程度に局在します。そこで位置と運動量の幅の積が O(1)O(1) の箱——位相空間の細胞——ごとに、自由度がおよそ一つあると数えます。中身は (5) の指数的な局在です。三次元のスカラー場では、同じ考えが Glimm–Jaffe(1973)の位相空間の細胞への局所化として現れました(6-03 §06)。

nk=Ld(K−k)(1−L−d),∑k=0K−1nk=LdK−1(11)n_k=L^{d(K-k)}\big(1-L^{-d}\big),\qquad \sum_{k=0}^{K-1}n_k=L^{dK}-1 \tag{11}

nkn_k は単位体積で段 kk に積分される変数の数。例:四次元・L=2L=2・K=20K=20 で点は 280≈1.2×10242^{80}\approx1.2\times10^{24} 個、最初の段でその 15/16 を積分します。計算 同じ言葉は 6-04 §10 にも現れます。

09

別の道と、この方法が止まる場所

Magnen–Rivasseau–Sénéor(MRS 1993)は、連続の運動量の切断で四次元の SU(2)SU(2) を扱いました(赤外の切断つき・自明な位相セクター)。大きい場では軸性ゲージ、小さい場では背景場に依存するゲージを使い、切断が壊すゲージ不変性を相殺項で戻します。序文は、この論文が詳細な証明を与えていないことを明記しています('we do not provide a detailed proof')。Bałaban の結果への序文の評は §07 の SEAM で見ました。既知 格子から始める利点は、ゲージ不変性と反射正値性が保たれることです(JW §6.5、5-03)。代わりに、壊した回転対称性を極限で戻す課題が残ります(6-01 の段 5)。

止まる場所は (1) の右端で、a0a_0 より長い尺度には展開の足場がありません。MRS は赤外の切断を外さない理由を 'this would lead to large values of the coupling constant, and presumably to so-called non-perturbative effects corresponding to confinement' と書き、問題文は体積に一様なギャップには新しい考えが要るとします(JW §6.5)。例:図 2 で KK を増やしても、右端の gK2=1g_K^2=1 は動きません。右端の先に段を足す方法は、この章の道具に含まれていません。続きは 6-10・6-11。


この章が言えている範囲

内容
言えている式 (3)〜(7)・(10) の形(Dimock の解説と Bałaban 1985 の定理の文面による)。1989 年の主定理の仮定(序文による)既知
言えている表 1〜4 と図の値(二次元の模型と式 (9) の算術)計算
言えている不等式 (8) と二次元の完全軸性ゲージでの辺の評価(その場の証明)紙
言えていないゲージ場での平均・ゲージの選び方・大きい場の操作の中身(系列の多くは本文未入手)
言えていない§04 の大きい場の因子 e−O(1)p(g)2e^{-O(1)p(g)^2} の見積もりと、§06 の補正の和の議論(どちらも目安で、定理の水準ではない)
言えていない四次元の証明の完結(主定理は仮定つき。6-07)。表 4 が実際の有効結合の列であること。無限体積とギャップ

出典と再現

もの種別出典・道具
変換・ゲージ・反射正値性・脚注 2本文で確認A. Jaffe, E. Witten, Quantum Yang–Mills Theory, Clay Mathematics Institute (2000) §6.5
三次元の主定理・(7)(10)・Wilson の繰り込み群本文 p.255–257 を確認T. Bałaban, Comm. Math. Phys. 102 (1985) 255–275
四次元の主定理の仮定・未公刊の Theorem 2要旨と序文を確認T. Bałaban, Comm. Math. Phys. 122 (1989) 355–392
Bałaban の系列の他の論文(平均・ゲージ固定・四次元 I, II ほか)書誌のみCMP 89 (1983);95, 96 (1984);98, 99 (二篇), 102 (277–309) (1985);109 (1987) 249–301;116, 119 (1988);122 (1989) 175–202(Dimock I と Chatterjee の文献表で照合)
(2)〜(6)・帰納の形・ϕ34\phi^4_3 の定理・荷電場の平均I §1–3・II §1・QED §2.3 を確認、III は要旨J. Dimock, The renormalization group according to Balaban I・II・III, arXiv:1108.1335, 1212.5562, 1304.0705;Quantum electrodynamics on the 3-torus I, arXiv:math-ph/0210020
連続の切断・Bałaban への評・赤外の留保・詳細な証明が無いことの明記p.325–327 を確認J. Magnen, V. Rivasseau, R. Sénéor, Comm. Math. Phys. 155 (1993) 325–383
phase cell renormalization の呼び名§6 を確認S. Chatterjee, Yang–Mills for probabilists, arXiv:1803.01950
大域的なゲージ固定の不可能性書誌のみI. M. Singer, Comm. Math. Phys. 60 (1978) 7–12
三次元のスカラー場での位相空間の細胞への局所化書誌のみ(帰属は 6-03 §06 による)J. Glimm, A. Jaffe, Fortschr. Phys. 21 (1973) 327–376
表 1〜4・図の標本・§04 と §08 の数値計算この端末の Python(numpy・scipy):wilson_step.py・greens.py・villain2d.py・running.py・numbers.py(§04 と §08 の数値)。図は canvas と素の JavaScript

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改訂 2026-10-01:初版。