この本の全体 目次と読む順
- 第 0 部 入口 — この本の読み方
- 0-01 この本の読み方
- 0-02 一枚の絵
- 0-03 問題文を一語ずつ読む
- 0-04 数学の四次元と物理の四次元
- 第 1 部 数学の準備
- 1-01 ベクトル空間と線形写像
- 1-02 群とは何か
- 1-03 リー群とリー環
- 1-04 SU(2) と SU(3)
- 1-05 多様体と接空間
- 1-06 微分形式と外微分
- 1-07 ベクトル束と接続
- 1-08 確率と測度
- 1-09 無限次元の確率
- 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
- 1-11 フーリエ解析と分布
- 1-12 寄り道
- 第 2 部 物理の準備
- 2-01 ラグランジアンと作用
- 2-02 場という考え
- 2-03 電磁気学はゲージ理論である
- 2-04 特殊相対論と時空
- 2-05 量子力学の骨
- 2-06 調和振動子と生成消滅
- 2-07 経路積分の考え方
- 2-08 統計力学と相転移
- 2-09 寄り道
- 2-10 緩和の時間と動的指数 z
- 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
- 3-01 ゲージ原理
- 3-02 非可換ゲージ場
- 3-03 作用と方程式
- 3-04 幾何としてのゲージ理論
- 3-05 インスタントンと位相
- 3-06 寄り道
- 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
- 第 4 部 量子化
- 4-01 正準量子化とハミルトニアン
- 4-02 経路積分とユークリッド化
- 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
- 4-04 発散と繰り込み
- 4-05 発散の代数
- 4-06 漸近自由
- 4-07 次元転移と Λ
- 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
- 4-09 場の量子論の公理
- 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
- 4-11 質量ギャップの定義
- 4-12 寄り道
- 第 5 部 格子ゲージ理論
- 5-01 Wilson の格子
- 5-02 強結合展開
- 5-03 反射正値性と転送行列
- 5-04 無限体積極限とクラスター展開
- 5-05 弱結合と連続極限
- 5-06 U(1) と非可換の違い
- 5-07 モンテカルロ法
- 5-08 グルーボールと弦張力の測定
- 5-09 何を固定して極限を取るか
- 5-10 有限群の格子ゲージ理論
- 5-11 寄り道
- 第 6 部 構成的場の理論
- 6-01 構成的場の理論とは
- 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
- 6-03 スカラー場の構成
- 6-04 クラスター展開
- 6-05 繰り込み群の段の列
- 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
- 6-07 四次元
- 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
- 6-09 確率量子化と正則性構造
- 6-10 四次元で止まる場所
- 6-11 発散以外の障害
- 6-12 寄り道
- 第 7 部 物理の側から
- 7-01 物理はどう見ているか
- 7-02 閉じ込めの機構
- 7-03 弦の絵
- 7-04 大 N
- 7-05 ひも理論と余剰次元
- 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
- 7-07 ゲージ場はどこから来るか
- 7-08 ホログラフィー
- 7-09 質量ギャップが幾何になる
- 7-10 四次元に戻す
- 7-11 超対称と Seiberg–Witten
- 7-12 等価原理に当たる一文
- 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
- 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
- 8-01 辞書の読み方
- 8-02 辞書 A
- 8-03 辞書 B
- 8-04 辞書 C
- 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
- 第 9 部 現在地と課題
- 9-01 世界はどこまで来ているか
- 9-02 二つの掘り方の切れ目
- 9-03 新しい概念の候補
- 9-04 課題の一覧
- 9-05 よくある誤解
- 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
- 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
- 10-01 理論の構成の筋
- 10-02 一段の記帳
- 10-03 仮定 H と三つの鎖
- 10-04 方向の地図
- 10-05 方向 12〜14
- 10-06 方向 15・15′
- 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
- 10-08 壁の一覧
- 10-09 ひらめき帳から
- 10-10 主張しないこと
- 10-12 つじつま合わせ
- 10-11 定理までの距離
- 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
- 付録
- A-01 記号表
- A-02 用語集
- A-03 文献案内
- A-04 Lean と機械検査
- A-05 この本の作り方
- A-06 仮定の索引
三次元ヤン–ミルズの紫外安定性 — 格子の評価は一様になったが、測度はまだ無い
この章で分かること — 三次元では結合定数が長さの逆数の次元を持ち、発散しうる図が有限個になること。Bałaban(1985)の定理が格子の上で何を一様に評価したか。連続の測度と観測量がまだ無い理由。
前提となる章 — 6-05 繰り込み群の段の列。6-01・5-01・4-04 も参照します。
先に言うこと — 既知の結果の紹介で、証明は筋だけを追います。表と図の数値は自由場(ガウス)と段の数え方の計算で、三次元ヤン–ミルズの測度について何かを示すものではありません。非可換の三次元の連続の測度は、有限体積でも構成されていません。
- 三次元という中間 — 二次元は構成済み、四次元は未完、三次元は紫外の一様な評価まで
- 結合定数が長さを持つ — 格子で見える結合は 、細かいほど弱い
- 発散を数える — 発散しうる型は有限個で、要る相殺項は定数一つ。計算の表
- Bałaban 1985 の定理 — 有効密度の上下界が格子間隔によらない。動く図
- 証明の筋 — 小さい場と大きい場、局所的な軸ゲージ、半単純性を使う一か所
- 定理が言っていないこと — 一様な評価から極限・観測量・公理までの距離
- 観測量の壁:三次元の Wilson ループ — 線積分は潰れ、均した場では値が残る。計算の表・動く図
- 別の道:確率量子化と状態空間 — 方程式の側から測度に近づく道と、均した場で作る状態空間
- 寄り道:2+1 次元の格子の数値 — 数値ではグルーボールの質量も弦張力もある(物理の水準)
- 三次元の現在地 — 段ごとの到達点と、四次元との違い
三次元という中間
二次元の純ヤン–ミルズは格子の上で厳密に解け、連続の測度まで構成されています(6-02)。四次元は紫外の側が有限体積で「制御の水準」まで来ていて未完です(6-07)。三次元はそのあいだで、2+1 次元の時空に対応します。
総説は、二次元・三次元は超繰り込み可能(発散しうる図が有限個しか無いこと。§03)なので 'substantially simpler' と考えられているとしたうえで、'a construction of the 3D YM measure and a description of its gauge-invariant observables, even on T3, remains open' と書きます(Chevyrev 2022 §1.1)。既知
先に一文で言うと、三次元で示されているのは格子の上の一様な評価で、評価を極限に変えることと、極限で何を測るか(観測量)を決めることが残っています。場所は六つの段の段 3 です。「二次元と三次元ではできている」という言い方は、スカラー場(6-03)では正確で、可換群でも連続極限までは示されています(表 3)。非可換では「三次元は紫外の一様な評価まで」が正確です。
結合定数が長さを持つ
この章では結合を作用の前に出し、 は を含まないものとします。 は反エルミートな行列( を満たす行列。 のリー環はこの形、1-03)に値を取る 1 形式で、、 です(3-03)。物理の章のエルミートな (3-02、結合を吸収した書き方)とは 、 の関係です。
作用 は次元の無い数です。 は長さの 乗、曲率は 乗、体積要素は 乗の次元なので、結合定数の次元と、間隔 の格子で見える無次元の結合が決まります。
右の式は Bałaban(1985)の出発点です。 は次元から決まる関係で、比例定数は作用の規格化によります。本書の規約(5-01・付録 A-01)では、 の Wilson 作用を と書いて です。論文の作用とは tr の規格化が揃っているとは限らないので、論文の とは定数倍の違いがありえます。どちらの規約でも、三次元の は に比例します。既知
例: の単位で なら 。細かい格子ほど結合はひとりでに弱くなり、漸近自由(4-06)の対数の遅さを待つ必要がありません。長さ では結合は 1 程度で、長さの尺度はこれ一つなので、理論が在って質量を持つならそれは の定数倍です(四次元は 4-07)。物理
発散を数える
摂動論で発散しうる図を数えます(4-04、スカラー場は 6-03)。摂動論では と置き直します。作用は に、 を運ぶ三点の頂点と を運ぶ四点の頂点が付いた形になります。外線がグルーオン 本・ループ 個の 1 粒子既約な図(線を一本切っても二つに分かれない図)は を運ぶので、運動量の次元から の冪の次元を引いて
が見かけの発散の次数です。四次元では で によらず、どの次数にも発散が現れます。三次元では で、ループが増えるごとに 1 下がります。
計算表 1 三次元の 。太字が 。 は色の対称性で消える。外線はグルーオンに限る(ゴーストの外線を持つ型は省く)。
| E\L | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0(真空) | 3 | 2 | 1 | 0 | −1 |
| 2 | 1 | 0 | −1 | −2 | −3 |
| 3 | 0 | −1 | −2 | −3 | −4 |
| 4 | −1 | −2 | −3 | −4 | −5 |
外線をグルーオンに限ると、 の型は三次元で七つです(二次元は三つ、四次元は無数)。
相殺項は定数一つ
七つのうち真空以外の三つ( の 1・2 ループと の 1 ループ)の発散は、ゲージ不変性を保つ正則化のもとでは相殺項を要しません。理由は相殺項の形にあります。相殺項はゲージ不変な局所項(一点での場とその微分の多項式を積分したもの)で、係数が の冪で書けるものです。三次元では が長さの 乗の次元を持つので、§02 の規約で次元が 3 以下の項に限られ、そういう項は定数だけです。次元 2 の候補の について一次の項は、リー環の上の一次式で随伴作用()で不変なものでなければならず、半単純な群では 0 しか無い(行列で書けば )。次元 3 の候補の Chern–Simons 項は向きの反転(パリティ)で符号を変えるので、反転で不変な作用からは出ません。既知
この論法は連続の摂動論のものです。格子では回転対称性が壊れていて(立方格子の回転と反転だけが残る)、そのまま当てはめることはできません。格子の上でこれに当たるのが、§05 で見る Bałaban の「半単純性を使う一か所」です。Bałaban の出発点の密度も、Wilson 作用のほかは 'vacuum energy renormalization counterterms' を含む定数だけです。 ループの真空の図は の次数で、最後の が に当たり、論文が の 6 次まで展開することと数が合います(この章の照合)。
Bałaban 1985 の定理
定理の文面
一辺を固定したトーラス を間隔 の格子で近似します(Bałaban の論文では格子間隔を と書きます)。出発点の密度は
で(論文の式 (1))、 は Wilson 作用、 は規格化と真空のエネルギーの相殺項を含む定数です(論文では 。§03 の外線の数と区別して と書きます)。§03 で相殺項が定数一つで足りたことに当たります。繰り込み変換 ( 倍に粗くするブロック化。6-05)で を作り、( は だけで決まる正の定数)で止めます。紫外安定性とは最後の密度の上下界が によらないことで、論文の式 (3) は
です。 はプラケット の縁を一周するリンク変数の積、 は最後の粗い格子(間隔 )のすべてのプラケットで が小さいとき 1、そうでないとき 0 を取る関数(指示関数)、 は体積、 は と だけで決まる定数です。既知
論文は、この が で に行くことを注意し、 で発散する作用の項を書き出した形に直して、全段 に広げます。その不等式 (5) が主定理です(形は 6-05 の式 (10)):'The lattice approximations of the three-dimensional pure Yang-Mills theory with a semi-simple compact group Lie G are ultraviolet stable in the sense that the sequence of densities ρk ... satisfies the bounds (5).' 系は 'uniform in ε bounds for the partition function'。著者は 'the proof is very sketchy' と断っています。既知
段の和
計算この図の数値はこの端末で計算した( の単位、、 は説明のための値)。
段 の格子で見える結合は (論文の )で、細かい側へ一段ごとに 倍です。新しい段は左端に前より小さい結合で足されるだけで、和は を超えません( で段は 4・16・36、和は 0.121094・0.124999・0.125000)。計算
四次元では同じ和が段数の対数で増えます(6-05 の §06。段数を倍にするごとに約 7.2 増える)。 より上は、点の数が によらない格子(図では 262144 点)の上の有限次元の積分で、コンパクト群の上なので有界です。ただしトーラスが より大きければ、結合が 1 を超える尺度がそこに入ります。計算
証明の筋
証明は先行論文群(伝播関数・平均化・正則な配位の空間・変分問題)の上に立ち、三次元の Higgs 模型での著者自身の方法をなぞります。既知
小さい場と大きい場。プラケットごとに の大小で 1 を分割します(1 を「小さい」と「大きい」の二つの関数の和に書き、場合ごとに評価する)。大きいプラケットは を大きくするので、最後には大きい場のプラケットごとに小さい因子 が出ます。 は段 の結合、 は大きい場の閾値の倍率で、 の冪で増えます(6-05 の式 (7))。この因子は のどの冪よりも速く小さくなります。
小さい場の中。ブロックごとに Faddeev–Popov の手続き(ゲージを一つに固定し、その代わりの因子を積分に掛ける方法。4-08)で軸ゲージ(ブロックの中で、決めた向きのリンク変数を 1 に置くゲージ)を取り(大域的なゲージ固定は無いので局所に。3-04)、作用を最小にする配位(背景場)と揺らぎに分けます。揺らぎは指数的に減衰する共分散のガウス測度と局所的な相互作用になり、 が小さいので の 6 次までの展開と 6 頂点までの真空の図で足ります。論文は、この積分は本来クラスター展開(6-04)で表せるが超繰り込み可能性による簡略化を使う、と書きます。
二つの特徴。群に値を取る格子の場は拡大縮小できないので、尺度変換の代わりに 'improvement of regularity properties of typical gauge fields' を使うこと。半単純性は一か所でだけ使い、随伴作用で不変なリー環の元が 0 しか無いことから 'there are no relevant variables in the effective action'(段を進めるごとに育つので追跡が要る量が、有効作用に無い)を導くこと。§03 の「相殺項は定数だけ」の格子の側の言い方がこれに当たります(この章の読み)。問題文はこの仕事を、ゲージを位相空間の細胞ごと・尺度ごとに紫外向きから赤外向きへ選び直すものと紹介します(JW §6.5)。既知
定理が言っていないこと
式 (3) は有効密度と分配関数が一様に有界だと言うだけで、極限については何も言いません。
評価から極限へ。一様な評価からはコンパクト性(有界な列から収束する部分列が取れる、という性質)で部分列の極限の見込みが立ちますが、一意性は出ません(部分列の存在を「紫外安定性」と呼ぶ用法もあります。Chatterjee 2018 §6)。問題文の脚注 2 は、四次元の問題で 'weak-existence (compactness)' だけでは解と認めない(極限の性質を別に示すなら別)としています。既知
何を測るか。問題文は 'These results need to be extended to the study of expectations of gauge-invariant functions of the fields' と書きます(JW §6.5)。三次元ではこれが観測量の定義の問題です(次節)。
その先。定数 は体積に比例し、無限体積(段 4)には何も言いません。反射正値性は格子で成り立ちますが(Osterwalder–Seiler 1978、5-03)、回転対称性の回復とギャップ(段 5・6)は手つかずです。二次元の確率量子化の力学を扱った Chevyrev–Shen の論文も、2026 年の版の §1.2 で 'the construction of the 3D YM measure in the continuum is open, even in finite volume' と書きます。既知
観測量の壁:三次元の Wilson ループ
線積分が定まらない
二次元では Wilson ループ が自然な観測量で、面積則が厳密に成り立ちます(6-02)。三次元のヤン–ミルズは短い距離でガウス自由場(GFF。1-09)のように振る舞うと考えられ、その共分散は の程度なので、線分の上の線積分の分散は です(Chevyrev 2022 §3.1。Cao–Chatterjee の要旨も 'line integrals of the GFF do not exist in such dimensions')。既知
最も簡単な場合で確かめます。U(1) の自由場(ガウス測度)を格子で作り、一辺 1 の正方形のループ、結合 とすると、ゲージによらず で、
です。 は格子のラプラシアンの逆、 は熱流 (ヤン–ミルズ流の線形化)で均した場の共分散の連続版です。 は誤差関数で、 が大きいと 1 に近づきます。均す幅は erf の引数の長さ 程度で、それより遠い二点では は とほぼ同じ、近い二点では有限の値に抑えられます。
計算表 2 一辺 1 の正方形の 。t は熱流の時間。最下行は式 (5) を連続で積分した値。
| a | 二次元 | 三次元 | 三次元 t = 0.01 | 四次元 | 四次元 t = 0.01 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1/4 | 0.6065 | 0.4837 | 0.6919 | 1.96e−1 | 0.6175 |
| 1/16 | 0.6065 | 0.3150 | 0.7396 | 5.22e−4 | 0.7127 |
| 1/128 | 0.6065 | 0.1631 | 0.7421 | 1.67e−28 | 0.7174 |
| 連続 | 0 | 0.7421 | 0 | 0.7175 |
表 2 の読み
二次元ではどの格子でも (面積)で が厳密に出ます。三次元では が に比例して増え、 です。 の に対する傾きは 0.613 から 0.635 へ( に近づく)。 を半分にするごとの増分では 0.425 から 0.440 で、 に近づきます。四次元では です。計算
均すと、三次元でも四次元でも格子の値は連続の値に収束します。観測量を「均した場の Wilson ループ」で定める Cao–Chatterjee と CCHS の出発点の、最小の例です。計算
計算この図の数値はこの端末で計算した(表 2 と同じ計算)。
別の道:確率量子化と状態空間
方程式を解く道
測度を直接作る代わりに、それを不変測度(時間が経っても分布が変わらない測度)に持つはずの確率偏微分方程式を解く道があります(6-09)。Chandra–Chevyrev–Hairer–Shen(CCHS 2024)は三次元のヤン–ミルズ–Higgs で、分布の非線形な距離空間にゲージ同値を広げ、正則性構造(特異な確率偏微分方程式の解の理論。6-09 で扱う)で繰り込んだ方程式の局所解(短い時間だけ在る解)を作り、'there is a unique choice of renormalisation counterterms such that these solutions are gauge covariant in law' を示しました。既知
Higgs 場は無くてもよく、純ヤン–ミルズに制限した述べ方は Chevyrev 2022 Remark 1.2 にあります。結果として、軌道空間の上の Markov 過程(先の振る舞いが現在の状態だけで決まる確率過程)が、有限時間の爆発(解が有限の時間で無限大になること)の可能性つきで定まります。
状態空間
状態空間の作り方が前節への答えです。線積分は使えないので、決定論的なヤン–ミルズ流(DeTurck の項つき。ゲージの向きの項を足して熱方程式の形にしたもの)を「ゲージと両立する均し」とし、均した後の場でゲージ同値を定めます(Chevyrev 2022 §3.1)。軌道の空間は二次元では Polish 空間(完備な距離が入り、可算な稠密部分集合を持つ空間)ですが、三次元では 'completely Hausdorff (and separable)'(異なる二点を連続関数で分けられ、可算な稠密部分集合を持つ)までしか分かっていません(同 Remark 1.5)。非可換では軌道の空間が非線形で、状態空間から難しくなります(同 §1.1、3-04)。
残っているのは不変測度で、それが唯一に在ると示されれば有限体積の三次元ヤン–ミルズ測度の構成になる、と総説は書きます(同 §4)。Cao–Chatterjee(2024)は、理論が短い距離で GFF のように振る舞うと仮定すれば、単位トーラスの上で理論を 'random distributional gauge orbits' として実現でき、均した Wilson ループが定義できることを示しました。これも状態空間の結果です。既知
寄り道:2+1 次元の格子の数値
飛ばしてよい節です。
物理の側では、三次元のヤン–ミルズは閉じ込めと質量ギャップを持つと考えられています。Teper(arXiv 1998、Phys. Rev. D 1999)は SU(2)〜SU(5) の格子理論を 2+1 次元でモンテカルロ法(5-07)で計算し、グルーボールの質量と弦張力の比を連続極限へ外挿しました。要旨によれば比は N にほとんどよらず、弦張力は N が大きくても 0 になりません。 なので格子単位の相関長 は に比例して伸びるだけです(四次元では指数的。5-05)。物理
問題文は、ギャップが四次の項 から来るという見方の文献に Feynman の 2+1 次元の論文(1981)を挙げます(JW §6.6)。三次元の U(1) 格子ゲージ理論は、格子間隔を固定したまま、すべての結合で静的な電荷を閉じ込めることが示されています(Göpfert–Mack 1982。四次元の U(1) は 5-06)。既知連続極限は自由な電磁場なので(Gross 1983)、この閉じ込めは連続極限には残らないと考えられます。物理
三次元の現在地
既知表 3 三次元での到達点(段は 6-01。区分は 6-01 の表 2 と同じ)。
| 段 | 非可換ヤン–ミルズ | 可換 U(1)(参考) |
|---|---|---|
| 1 正則化 | 閉 | 閉 |
| 2 有限体積の測度 | 閉(格子)。連続のまま作ることは段 3 の「一部」に含める | 閉(格子) |
| 3 紫外 | 一部:格子の一様な評価(Bałaban 1985)。連続の測度は未構成。確率量子化は力学まで(CCHS 2024) | 連続極限(Gross 1983、別種の収束で。極限は自由場)。Higgs つきは King 1986 |
| 4 無限体積 | 未 | Higgs つきで極限(King 1986) |
| 5 公理 | 未 | ここでは確かめていない |
| 6 ギャップ | 未(数値では在る。物理) | 格子(a 固定)で全結合の閉じ込め(Göpfert–Mack 1982)。連続極限(段 3)ではこの性質は残らないと考えられる物理 |
U(1) の欄は参考です。段 6 の行に書いたのは閉じ込め(静的な電荷のあいだの力が距離とともに弱まらないこと)で、閉じ込めと質量ギャップは別の性質です(7-02 §02)。
四次元(6-07)との違いは、紫外で結合を弱めるのが次元そのものであることです。共通して残るのは、評価を極限に変えること、極限で測る量を決めること、体積に一様な評価です。無限体積では三次元も長さ で結合が 1 程度になり、四次元の赤外と同じ種類の困難に入ります(この章の読み。6-10)。
この章が言えている範囲
| 内容 | |
|---|---|
| 言えている | 格子で見える結合は 。外線をグルーオンに限ると発散しうる型は七つ計算。ゲージ不変な局所項の次元から、要る相殺項は真空のエネルギーの定数一つ既知 |
| 言えている | Bałaban(1985)の定理:有効密度の格子間隔に一様な上下界と、分配関数の一様な評価(本文で確認)既知 |
| 言えている | U(1) 自由場の Wilson ループは三次元で 、四次元で の速さで潰れ、熱流で均すと連続の値に収束する( の範囲)計算 |
| 言えている | 非可換の三次元の連続の測度は有限体積でも未構成(Chevyrev 2022、Chevyrev–Shen)既知 |
| 言えていない | Bałaban の証明の細部(著者自身が概略と書く)。相互作用のある理論で均した Wilson ループが極限を持つか(表 2 は自由場) |
| 言えていない | 三次元の質量ギャップと閉じ込め(数値は物理の水準)。2024 年以降の文献の網羅 |
出典と再現
| もの | 種別 | 出典・道具 |
|---|---|---|
| §02〜§05 | 一次資料(本文で確認) | T. Bałaban, Ultraviolet stability of three-dimensional lattice pure gauge field theories, Comm. Math. Phys. 102 (1985) 255–275 |
| §05・§06・§09 の引用 | 一次資料(本文で確認) | A. Jaffe, E. Witten, Quantum Yang–Mills Theory, Clay Mathematics Institute の公式問題文(2000) |
| §01・§07・§08 の引用 | 総説(本文で確認) | I. Chevyrev, Stochastic quantisation of Yang–Mills, arXiv:2202.13359(2022)§1.1・Remark 1.2・Remark 1.5・§3.1・§4 |
| §06・表 3 の可換群 | 総説(本文で確認) | S. Chatterjee, Yang–Mills for probabilists, arXiv:1803.01950(2018)§4・§6 |
| §06 の連続の測度の現状 | 一次資料(§1.2 を本文で確認) | I. Chevyrev, H. Shen, Invariant measure and universality of the 2D Yang–Mills Langevin dynamic, Comm. Pure Appl. Math.(2026), arXiv:2302.12160(v3, 2026) |
| §07・§08・§09 | 要旨で確認 | A. Chandra, I. Chevyrev, M. Hairer, H. Shen, Stochastic quantisation of Yang–Mills–Higgs in 3D, Invent. Math. 237 (2024) 541–696, arXiv:2201.03487。S. Cao, S. Chatterjee, A state space for 3D Euclidean Yang–Mills theories, Comm. Math. Phys. 405 (2024), arXiv:2111.12813。M. Teper, Phys. Rev. D 59 (1999) 014512, arXiv:hep-lat/9804008 |
| 可換群・Feynman・反射正値性 | 書誌のみ | L. Gross, CMP 92 (1983) 137–162。C. King, CMP 102 (1986) 649–677; 103 (1986) 323–349。M. Göpfert, G. Mack, CMP 82 (1982) 545–606(この一篇は要旨まで確認:Villain 作用・全結合で弦張力が正。INSPIRE。本文は未読。年は Crossref の発行年で、INSPIRE は 1981)。R. P. Feynman, Nucl. Phys. B 188 (1981) 479–512。K. Osterwalder, E. Seiler, Ann. Phys. 110 (1978) 440–471 |
| 表・図 | 計算 | この端末の Python:powercount.py(表 1)、ladder.py(§04 の段の和・図 1)、wilson_free.py(表 2・図 2。scipy で格子のグリーン関数を熱核の Bessel 表示から積分し、二次元の Var = 1 を 1e−10 で再現。約 10 秒)。図は canvas と素の JavaScript |
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