2026-09-26 · book ミレニアム問題場の量子論ゲージ理論
ヤン–ミルズと質量ギャップ — 初学者から現在地まで
クレイ数学研究所のミレニアム懸賞問題「ヤン–ミルズの存在と質量ギャップ」を、数学科・物理学科の二年生が読めるところから始めて、世界の現在地とこの端末で測った範囲まで、一冊の教科書の形で置いています。全部で 111 章あり、いま読めるのは 111 章です。順に読む必要はありません。目次から要る章に飛び、分からない道具が出てきたら前提の章に戻る、という読み方を想定しています。
何の問題か — 四次元の空間の上に、コンパクト単純群のヤン–ミルズ理論を場の量子論の公理を満たす形で作り、いちばん軽い励起の質量が正であることを示せ、という問題です(0-03)。
この本の立場 — この問題は解かれていません。このサイトも解いていません。あるのは、問題の形を正確に写すことと、数学の側と物理の側がそれぞれどこまで来ていてどこで手が離れているかの地図と、格子の上で測れる範囲を測った記録です。
読者 — 多変数の微積分・線形代数・複素数・力学と電磁気学の入門・確率の初歩を知っていれば、第 1 部と第 2 部から読めます。それ以上の道具はこの本の中で用意します。
Lean機械検査済み(Lean 4、sorry 0・native_decide 不使用、公理は標準の三つの部分集合)
紙証明はあるが機械検査は未了
計算この端末で確かめた範囲。外に出す主張にはしない
既知既知の定理・言い換え・外の文献の確認
物理物理の水準で受け入れられているが数学の定理ではないもの(数値・半古典・予想)
01
目次
「寄り道:」と付いた章は、飛ばしても本筋に影響しません。各章の冒頭に「前提となる章」を書いてあります。「準備中」の章は順次追加します。
第 0 部 入口 — この本の読み方
| 章 | 題 | 内容 | 前提 |
| 0-01 | この本の読み方 | 読者・前提知識・札の凡例・目次の使い方・寄り道の飛ばし方・読む順の提案(三通り | — |
| 0-02 | 一枚の絵 | 何が問われ、どこで手が離れているか(入口ページの短縮版 | — |
| 0-03 | 問題文を一語ずつ読む | Clay の文・群・R⁴・存在・非自明・ギャップ・短距離・注 | — |
| 0-04 | 数学の四次元と物理の四次元 | 既存 `four-dimensions.html`・`spacetime.html` への橋 | — |
第 1 部 数学の準備
| 章 | 題 | 内容 | 前提 |
| 1-01 | ベクトル空間と線形写像 | 固有値・行列の指数関数・エルミートとユニタリ | — |
| 1-02 | 群とは何か | 対称性・回転群 SO(3)・SU(2) と二重被覆・表現の入口 | 1-01 |
| 1-03 | リー群とリー環 | 指数写像・交換子・構造定数・Killing 形式 | 1-02 |
| 1-04 | SU(2) と SU(3) | Pauli・Gell-Mann・随伴表現・コンパクト単純群の一覧 | 1-03 |
| 1-05 | 多様体と接空間 | 座標に依らない微分・ベクトル場 | 1-01 |
| 1-06 | 微分形式と外微分 | Stokes・閉と完全・de Rham の入口 | 1-05 |
| 1-07 | ベクトル束と接続 | 平行移動・曲率・ホロノミー・ゲージ変換の幾何 | 1-04, 1-06 |
| 1-08 | 確率と測度 | 測度としての確率・期待値・独立・ガウス測度・大数と中心極限 | — |
| 1-09 | 無限次元の確率 | ルベーグ測度が無いこと・ガウス測度と Cameron–Martin・白色雑音 | 1-08 |
| 1-10 | ヒルベルト空間と自己共役作用素 | スペクトル・最小固有値と変分原理・Poincaré 不等式 | 1-01 |
| 1-11 | フーリエ解析と分布 | テスト関数・伝播関数・特異性・積の困難 | 1-10 |
| 1-12 | 寄り道 | 四次元でだけ起きること(既存ページの案内と、この本で効く部分 | — |
第 2 部 物理の準備
| 章 | 題 | 内容 | 前提 |
| 2-01 | ラグランジアンと作用 | 最小作用・Euler–Lagrange・Noether(対称性と保存則 | 1-01 |
| 2-02 | 場という考え | 弦の振動から波動方程式へ・エネルギー・自由度が無限個 | 2-01 |
| 2-03 | 電磁気学はゲージ理論である | ポテンシャル・ゲージ変換・U(1)・Aharonov–Bohm | 2-02 |
| 2-04 | 特殊相対論と時空 | 符号が一つ違う(既存 `spacetime.html` への橋)・ローレンツ不変な作用 | 2-01 |
| 2-05 | 量子力学の骨 | 状態・ハミルトニアン・スペクトル・基底状態・「ギャップ」の意味 | 1-10 |
| 2-06 | 調和振動子と生成消滅 | 場の量子論の最小単位・Fock 空間 | 2-05 |
| 2-07 | 経路積分の考え方 | Feynman・虚時間・統計力学との一致・ガウス積分 | 2-05, 1-08 |
| 2-08 | 統計力学と相転移 | 分配関数・相関・相関長・臨界・普遍性 | 1-08 |
| 2-09 | 寄り道 | イジング模型で見る「ギャップ」と相関長(この端末の計算つき | 2-08 |
| 2-10 | 緩和の時間と動的指数 z | Langevin と Glauber の力学・ガウス鎖で緩和時間 τ=ξ²(厳密)・二次元イジングの小さな帯で C_P/ξ² ∼ L^{z−2}(計算)・η_dyn=2−z をここで定める・仮定 H の型(C_P≍ξ²)が破れる既知の例(z≠2)・熱浴と Langevin を同一視しない | 2-08, 2-09 |
第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
| 章 | 題 | 内容 | 前提 |
| 3-01 | ゲージ原理 | 局所対称性を要求すると力が出る | 2-03, 1-04 |
| 3-02 | 非可換ゲージ場 | Yang–Mills 1954・共変微分・場の強さ・自己相互作用 | 3-01 |
| 3-03 | 作用と方程式 | tr F²・Bianchi・自己双対・エネルギー | 3-02 |
| 3-04 | 幾何としてのゲージ理論 | 接続の空間・ゲージ軌道空間・Singer の定理(大域ゲージ固定の不可能性 | 1-07, 3-02 |
| 3-05 | インスタントンと位相 | 第二 Chern 数・BPST・θ 項 | 3-03 |
| 3-06 | 寄り道 | Donaldson とエキゾチック R⁴——古典ヤン–ミルズが四次元の位相を見る | 3-05 |
| 3-07 | 標準模型の中のヤン–ミルズ | SU(3)×SU(2)×U(1)・クォーク・Higgs・純 YM との違い | 3-02 |
第 4 部 量子化
第 5 部 格子ゲージ理論
| 章 | 題 | 内容 | 前提 |
| 5-01 | Wilson の格子 | リンク変数・プラケット・作用・ゲージ不変性が厳密に保たれること | 3-03, 1-04 |
| 5-02 | 強結合展開 | 小さい β・面積則・閉じ込め・収束 | 5-01 |
| 5-03 | 反射正値性と転送行列 | Osterwalder–Seiler・格子のハミルトニアン | 5-01, 4-10 |
| 5-04 | 無限体積極限とクラスター展開 | 強結合側で示せること | 5-02 |
| 5-05 | 弱結合と連続極限 | a(β)・スケーリング・漸近自由の格子版・Symanzik | 5-01, 4-06 |
| 5-06 | U(1) と非可換の違い | Guth・Fröhlich–Spencer・相転移の有無・「非可換だから」の正確な形 | 5-02 |
| 5-07 | モンテカルロ法 | 更新・詳細釣り合い・自己相関・誤差・臨界減速 | 5-01, 1-08 |
| 5-08 | グルーボールと弦張力の測定 | 変分法・m/√σ・一次資料の数値 | 5-07 |
| 5-09 | 何を固定して極限を取るか | Problem 5.1・次元の無い比・「一様な隙間」の誤読 | 5-05, 4-11 |
| 5-10 | 有限群の格子ゲージ理論 | 弱結合の指数減衰・閉じ込めが無いこと | 5-02 |
| 5-11 | 寄り道 | Bakry–Émery と一リンク積分(このサイトの論文)——強結合側の定理の一例 | 5-02, 1-10 |
第 6 部 構成的場の理論
第 7 部 物理の側から
第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
| 章 | 題 | 内容 | 前提 |
| 8-01 | 辞書の読み方 | 対応の確定度を**二列**で付ける——(a) 定義としての対応(確定=定理として同一/条件つき/未確定)と (b) 四次元ヤン–ミルズでの実在(構成済み/条件つき/無い)。どちらの言葉を主にするか・「同じもの」を誰が判定しているか(定理か慣習か | 0-03 |
| 8-02 | 辞書 A | 理論そのもの——経路積分/Feynman–Kac・汎関数積分/ユークリッド測度・真空/基底状態/測度の一意性・粒子/質量作用素の孤立固有値・S 行列/Haag–Ruelle・ウィック回転/OS 再構成・ユニタリ性/反射正値性・Green 関数/Wightman–Schwinger・ゲージ固定/軌道空間の切断・時空/R⁴ と格子・正則化/格子間隔・ハミルトニアン/転送行列・物理的状態/ゲージ不変量からの再構成・繰り込み可能性/BPHZ・場/作用素値超関数・Källén–Lehmann/転送行列のスペクトル測度・Elitzur の定理 | 4-02・4-10 |
| 8-03 | 辞書 B | 質量と長さ——質量ギャップ/相関の指数減衰・相関長/逆質量・V(R)/Wilson ループ・弦張力/面積則の係数・閉じ込めの三つの言い方(V→∞・σ>0・中心対称性)・Λ と次元転移/一尺度・グルーボール/一粒子状態(実在は未確定)・**二つの時間**(転送行列のハミルトニアン H_T と Langevin の Fokker–Planck 生成作用素 L・ギャップ 1/ξ と 1/C_P)・自己相関/Poincaré 定数(連続時間の可逆な力学でだけ等号・HMC は別)・臨界減速の従来理論(van Hove、z=2−η_s)と RG(Halperin–Hohenberg–Ma 1972)・下界 z≥γ/ν・静的 η_s と動的 η_dyn・m/√σ/無次元比の極限(Problem 5.1)・Lüscher 項/有効弦・粗面化/Wulff・位相電荷の凍結/状態空間のボトルネック | 4-11・5-08・2-08 |
| 8-04 | 辞書 C | 尺度と極限——繰り込み群/段の列・β 関数/有効結合の流れ・連続極限/スケーリング極限・普遍性/極限の一意性・a(β)(Problem 5.2 の ε(β) は Wilson ループで存在量化)・スケーリングと漸近スケーリングの区別・Symanzik O(a²)(δ(b) とは展開の変数が違う)・MCRG の Δβ と Λ のスキーム変換(Dashen–Gross)・Migdal–Kadanoff/階層格子・大 N/平面グラフ・マスター場・ホログラフィーの動径/RG の尺度・位相電荷/第二 Chern 数(admissible)・インスタントン/自己双対接続・Wilson 流/勾配流・KK 塔/内部ラプラシアンの第一固有値・Polchinski の ERG/多重スケール Bakry–Émery・Gribov 領域/FP 作用素の正値域の凸性・改善作用と反射正値性の衝突・トレース異常(数学側の対応語なし | 4-06・6-05・7-08 |
| 8-05 | 私たちの仮定の物理側の対応 | **疑問形・類比として**):仮定 H は Langevin の最遅の緩和で自由場では厳密・物理側に名前はあるか/H↓ は「局所的な力学は感受率より速く緩和できない」下界(z≥γ/ν=2−η_s)と同じものか/H↑ ⟺ z≤2 は動的スケーリング仮説の下での言い換えか(HH の仮説は z の存在を言うだけ)/記録の η は二つの量(§1 の静的 η_s と §6.27 の動的 η_dyn)を指しており 8-05 で一つに固定する/δ(b) の総和可能性は Symanzik ではなく MCRG の Δβ・スキーム変換に近いか/(S4)⟺Σδ∧η=0 は「質量は RG 不変」と「z=2」を合わせたものか/「尺度が一つ ⟺ 余剰次元が見えている」は KK の非分離の類比か/既知と確定したもの(向きの訂正=Problem 5.1・κ=4Nb₀・Migdal–Kadanoff・(S2))はそう書く。私たちの側の定義は 7-12 と 10-03(改番後 10-03)にあるものを引き、詳しい導出は後の部に委ねる(目次の順に反しない | 8-03・8-04・7-12 |
第 9 部 現在地と課題
第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
| 章 | 題 | 内容 | 前提 |
| 10-00 | 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計 | 五つの量(相関長 ξ=定規・Poincaré 定数 C_P=にじむ時間〔長さ L を均すのに L² 歩〕・記帳の長さ ξ_RG=縮尺の回数・ℰ の正規化=時計の目盛り・確率時間の繰り込み=遅れる時計)を一つずつ比喩で導入し、「仮定 H はにじむ時間 ≍ 定規²、H↑ は遅すぎない、H↓ は速すぎない」まで。式は最小限、正確には 10-01・10-03 へ | 2-10, 4-11, 5-09 |
| 10-01 | 理論の構成の筋 | (S1)〜(S8) と、格子版の質量ギャップの正しい読み | 5-09 |
| 10-02 | 一段の記帳 | 完全な族・一リンク積分・b(k)・β′ の走り・κ の 5 桁一致 | 5-02, 5-11 |
| 10-03 | 仮定 H と三つの鎖 | C_P ≍ ξ²・H↑ と H↓・何が未証明か | 7-12, 1-10 |
| 10-04 | 方向の地図 | 1〜15′):閉じた方向・開いた方向・保留 | 10-01 |
| 10-05 | 方向 12〜14 | 試験関数・ゲージ固定・演算子の取り替え・上界しか出ないこと | 10-03 |
| 10-06 | 方向 15・15′ | 管の欠損・Wulff・ホログラフィーの鎖・τ_int・位相電荷 | 10-03, 7-03 |
| 10-07 | Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表 | 定理名・**仮定**・言明・対応する既知の定理(第 3〜7 部の章)・既知と違う部分があればそれだけ | 10-04 |
| 10-08 | 壁の一覧 | | 10-04 |
| 10-09 | ひらめき帳から | 検証前の着想 | 10-04 |
| 10-10 | 主張しないこと | | — |
| 10-12 | つじつま合わせ | 私たちの計算(κ・δ・C_P・m/√σ・上界)と既存の計算・数値の対応。一致・不一致・条件の違いを一表に。Lean の中で使った規約(β の定義・tr の規格化・格子の計量)と教科書の記号の約束との対応 | 10-07 |
| 10-11 | 定理までの距離 | 現在地から「最も軽い粒子の質量が正」の証明までに何が足りないか(何が分かれば何が動くか・進行中の検討 | 10-03, 10-04 |
| 10-13 | 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問 | 各問に問い・前提の章・道具(python3・Lean・総当たり)・決着の形・効く壁(効かなければ効かない)・先行の記録を探す段。候補:k=3 胞体の完全な族 d=9,10/Hermite の族の 1−λ_k の定数/Elitzur の評価の非可換版/柱の模型の係数/二次元 O(3) σ 模型の C_P と ξ²/0+1 次元の二重井戸の経路測度の Langevin の隙間/二次元格子 YM のリンク変数の C_P。問いに札は付けない | 10-08, 10-11 |
付録
| 章 | 題 | 内容 | 前提 |
| A-01 | 記号表 | | — |
| A-02 | 用語集 | 各 1〜3 行・章へのリンク | — |
| A-03 | 文献案内 | 一次資料・総説・教科書(入手の状態つき | — |
| A-04 | Lean と機械検査 | `../lean-guide/` への案内と、この本で使う札 | — |
| A-05 | この本の作り方 | 検証の手順(読者向け。内部の履歴は書かない | — |
| A-06 | 仮定の索引 | H・H↑・H↓・H_band[正規化]・(P)・T(c,1)・(S1)〜(S8)・鎖 (i)(ii)(iii)・η_dyn・θ・δ・κ・ℰ_ϑ/ℰ_A を、記号・一行の意味・置いた章・状態(仮定/Lean で閉じた代数/既知)の表に。「仮定 H の八つの読み」(10-03)の表を再掲 | — |
02
読む順 — 三通り
問題が何かを、まず知りたい
0-02 一枚の絵 → 0-03 問題文を一語ずつ読む → 0-04 数学の四次元と物理の四次元 → 9-02 七つの切れ目 → 9-05 よくある誤解。道具は要りません。ここまでで、この問題の「形」が見えます。
数学の側から掘りたい
第 1 部(要るところだけ)→ 第 3 部 → 第 4 部の 4-02・4-10・4-11 → 第 5 部 → 第 6 部 → 9-03 新しい概念の候補。存在を作る側の道筋を、正則化から公理まで順に追います。
物理の側から掘りたい
第 2 部(要るところだけ)→ 第 3 部 → 第 4 部の 4-06・4-07 → 第 5 部の 5-07・5-08 → 第 7 部 → 9-02 七つの切れ目。在るものを測る側の道筋と、余剰次元から四次元へ戻す極限、等価原理に当たる一文まで。
この端末で何をしたかを見たい
10-01 → 10-03 仮定 H → 10-04 方向の地図 → 10-10 主張しないこと。前提は第 5 部の 5-09 だけです。
03
関連する記事
改訂 2026-09-26:初版。目次の枠と読む順を置いた。章は順次追加する。