この本の全体 目次と読む順
- 第 0 部 入口 — この本の読み方
- 0-01 この本の読み方
- 0-02 一枚の絵
- 0-03 問題文を一語ずつ読む
- 0-04 数学の四次元と物理の四次元
- 第 1 部 数学の準備
- 1-01 ベクトル空間と線形写像
- 1-02 群とは何か
- 1-03 リー群とリー環
- 1-04 SU(2) と SU(3)
- 1-05 多様体と接空間
- 1-06 微分形式と外微分
- 1-07 ベクトル束と接続
- 1-08 確率と測度
- 1-09 無限次元の確率
- 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
- 1-11 フーリエ解析と分布
- 1-12 寄り道
- 第 2 部 物理の準備
- 2-01 ラグランジアンと作用
- 2-02 場という考え
- 2-03 電磁気学はゲージ理論である
- 2-04 特殊相対論と時空
- 2-05 量子力学の骨
- 2-06 調和振動子と生成消滅
- 2-07 経路積分の考え方
- 2-08 統計力学と相転移
- 2-09 寄り道
- 2-10 緩和の時間と動的指数 z
- 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
- 3-01 ゲージ原理
- 3-02 非可換ゲージ場
- 3-03 作用と方程式
- 3-04 幾何としてのゲージ理論
- 3-05 インスタントンと位相
- 3-06 寄り道
- 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
- 第 4 部 量子化
- 4-01 正準量子化とハミルトニアン
- 4-02 経路積分とユークリッド化
- 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
- 4-04 発散と繰り込み
- 4-05 発散の代数
- 4-06 漸近自由
- 4-07 次元転移と Λ
- 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
- 4-09 場の量子論の公理
- 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
- 4-11 質量ギャップの定義
- 4-12 寄り道
- 第 5 部 格子ゲージ理論
- 5-01 Wilson の格子
- 5-02 強結合展開
- 5-03 反射正値性と転送行列
- 5-04 無限体積極限とクラスター展開
- 5-05 弱結合と連続極限
- 5-06 U(1) と非可換の違い
- 5-07 モンテカルロ法
- 5-08 グルーボールと弦張力の測定
- 5-09 何を固定して極限を取るか
- 5-10 有限群の格子ゲージ理論
- 5-11 寄り道
- 第 6 部 構成的場の理論
- 6-01 構成的場の理論とは
- 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
- 6-03 スカラー場の構成
- 6-04 クラスター展開
- 6-05 繰り込み群の段の列
- 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
- 6-07 四次元
- 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
- 6-09 確率量子化と正則性構造
- 6-10 四次元で止まる場所
- 6-11 発散以外の障害
- 6-12 寄り道
- 第 7 部 物理の側から
- 7-01 物理はどう見ているか
- 7-02 閉じ込めの機構
- 7-03 弦の絵
- 7-04 大 N
- 7-05 ひも理論と余剰次元
- 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
- 7-07 ゲージ場はどこから来るか
- 7-08 ホログラフィー
- 7-09 質量ギャップが幾何になる
- 7-10 四次元に戻す
- 7-11 超対称と Seiberg–Witten
- 7-12 等価原理に当たる一文
- 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
- 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
- 8-01 辞書の読み方
- 8-02 辞書 A
- 8-03 辞書 B
- 8-04 辞書 C
- 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
- 第 9 部 現在地と課題
- 9-01 世界はどこまで来ているか
- 9-02 二つの掘り方の切れ目
- 9-03 新しい概念の候補
- 9-04 課題の一覧
- 9-05 よくある誤解
- 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
- 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
- 10-01 理論の構成の筋
- 10-02 一段の記帳
- 10-03 仮定 H と三つの鎖
- 10-04 方向の地図
- 10-05 方向 12〜14
- 10-06 方向 15・15′
- 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
- 10-08 壁の一覧
- 10-09 ひらめき帳から
- 10-10 主張しないこと
- 10-12 つじつま合わせ
- 10-11 定理までの距離
- 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
- 付録
- A-01 記号表
- A-02 用語集
- A-03 文献案内
- A-04 Lean と機械検査
- A-05 この本の作り方
- A-06 仮定の索引
ヒルベルト空間と自己共役作用素 — 無限次元で「いちばん下」と「その次」を測る
この章で分かること — 関数を長さの測れるベクトルとして扱う空間と、微分のような有界でない作用素。スペクトルが固有値より広く、境界条件も作用素の一部であること。いちばん下の値と隙間を測る変分原理が、Poincaré 不等式の最良の定数と同じものであること。
前提となる章 — 1-01(内積・エルミート行列・対角化)。02・05・08・09 節で 1-08・1-09(長さ 0 の集合・ブラウン運動・ガウス分布)に触れます。
先に言うこと — 関数解析の入口を紹介し、定義域の細部と定理の証明は省きます。場の量子論のハミルトニアンはずっと扱いにくく(4-09)、この章はヤン–ミルズの質量ギャップについて何も示していません。
- なぜ無限次元か — 下の固有値は止まり、上は逃げる(図 1・表 1)
- ヒルベルト空間 — 極限が空間の中に残る
- 作用素と自己共役 — 境界条件も作用素の一部
- スペクトル — 固有値の無い値もある
- スペクトル定理 — 隙間が減り方を決める
- 変分原理 — 上界は易しく、下界には別の情報が要る(表 2・囲み「上界と下界の非対称」)
- Poincaré 不等式 — 最良の定数は隙間の逆数
- 重みの付いた Poincaré 不等式 — 凸なら 1/κ、谷が二つなら大きい(図 2・表 3)
- 変数が多いとき — 積・ガウス・自由場と、二つの隙間
- 寄り道:固有値を数える — Weyl の法則と太鼓の形
なぜ無限次元か — 下の固有値は止まり、上は逃げる
有限次元なら最小固有値と次との隙間はいつでも計算できます(1-01)。問われるのは、自由度を増やした極限で隙間が正のまま残るかどうかです。例として、 で両端が 0 の関数 に を対応させる規則を、 等分の格子で刻みます(2-01 §05 のヘッセ行列と同じ形)。
固有ベクトルは です(代入して確かめられます)。 を止めて とすると 。これは の固有値です。いちばん上の固有値は 近くまで伸び、極限を持ちません。
計算表 1 (1) の行列の固有値(三重対角の固有値計算と (1) の差は相対 以下)。
| N | λ₁ | λ₂ | いちばん上 |
|---|---|---|---|
| 10 | 9.78870 | 38.19660 | 390.2 |
| 40 | 9.86453 | 39.39731 | 6390.1 |
| 160 | 9.86929 | 39.47334 | 102390.1 |
| 連続 | π² = 9.86960 | 4π² = 39.47842 | (無い) |
計算図の数値は (1) からその場で計算しています(表 1 で照合)。
比は だけで決まり、 です(図 1 左の破線)。 で 、右端の で 。 を止めて を増やせば で比は 1 に近づきます。 が に近い固有ベクトルは、格子点では の値そのものですが、振動が点の間隔と同じくらい細かいので、点を結ぶと別の形に見えます。実際 で、ゆっくりした振動に一点ごとの符号の交代を掛けた形です(図 1 右で を に近づけると見えます)。極限に残るのは下の固有値と隙間で、相手は上に際限のない作用素です。格子ゲージ理論の連続極限(5-05)でも、格子から読むのはスペクトルの下の端(最も軽い状態)です 物理。四次元でその極限が在ることは証明されていません(6-10)。
ヒルベルト空間 — 極限が中に残る
関数を「成分が無限個あるベクトル」として扱うには、内積(1-01 §05)と完備性が要ります。完備とは、互いにいくらでも近づいていく列(コーシー列)が空間の中に極限を持つことです。この二つを持つ複素ベクトル空間をヒルベルト空間と呼びます。
では、長さ 0 の集合の上でしか違わない関数を同じものとみなします(1-08)。連続関数だけでは完備になりません。 は互いに近づくのに、行き先は段差の関数です。06 節で「比を小さくしていく列」の行き先を取るには、完備な が要ります 既知。
は の正規直交基底で、 について (Parseval の等式)です 既知(1-11)。例。 では奇数の で 、偶数で 0 です。 は と一致します。1-09 の は、こうして関数の空間とつながります。
作用素と自己共役 — 定義域と境界条件
伸び率の上限 が有限な作用素を有界と呼びます。 は を 倍するので有界でなく、二階微分が に入らない関数もあります。そこで施してよい関数の部分空間、定義域 を作用素の一部として指定します。 の上で なら対称です。自己共役はもう一歩強く、この等式の相手 を の外まで探しても増えないことを言います。正確には、すべての で となる が在る の全体を随伴 の定義域 とし、 と定めます。対称なら で、 のとき自己共役です。スペクトル定理や時間発展 (2-05)は自己共役が前提です 既知。運動量 では部分積分から次が出ます。
(a) なら対称ですが、相手の に条件が要らず、どの複素数 でも なので自己共役ではありません。(b) なら相手も同じ条件で自己共役、固有値は 。輪を貫く磁束 による位相差 が の役をします(2-03 の Aharonov–Bohm)。 も、端で (Dirichlet)ならスペクトルは 、(Neumann)なら です。境界条件は作用素の一部で、いちばん下の値を変えます。
スペクトル — 逆が作れない値
無限次元には、一対一なのに逆が有界でない場合があります。そこでスペクトルを次で定めます。
右の等式は が自己共役で のときのもので、このとき は実数直線の閉集合です 既知。例。 で を掛ける作用素 は、 なら なので固有値を持ちません。それでも では が有界でなく、 です。 だけで一定の長さ 1 の関数は で、固有ベクトルにいくらでも近いものはあります(2-05 §03 の Weyl の判定法)。刻めば固有値は格子の点になり、 を埋めていきます(01 節の下の固有値は離れたまま)。
孤立した有限重複の固有値を離散スペクトル、残りを真性スペクトルと呼びます。質量ギャップは、真空の固有値 0 が孤立し、残りのスペクトルが 以上にあるという主張です(4-11)。
スペクトル定理 — 隙間が減り方を決める
自己共役作用素は、適当なユニタリで のような「実数値の関数を掛ける作用素」に移せます(スペクトル定理)既知。行列の対角化(1-01)の無限次元版で、正確には固有値だけでは書けない部分も含みます。関数 を代入でき、固有ベクトルの基底があれば次の形です。
右は、、0 の固有空間を長さ 1 の が張り、残りのスペクトルが にあるときで、各成分に を使えば出ます。隙間は、いちばん下以外の成分が消える最も遅い速さです(虚時間での読み方は 2-05 §05)。例 1。両端を断熱した棒の熱の方程式 では は Neumann の 、 で、温度の平均からのずれは で 倍以下です。例 2。Dirichlet の の逆は 、 です( と両端の 0 を確かめられます)。1-09 のブラウン運動 から を作ると両端が 0 になり(ブラウン橋)、その共分散 がちょうど です。 の固有値は で、和 が有限なことが、ブラウン橋の見本が に入るための 1-09 (4) の条件です。
変分原理 — 上からは易しく、下からは難しい
下に有界な自己共役作用素のスペクトルの下端は、Rayleigh 商の下限です。 番目も「 次元の部分空間で最大を取り、部分空間について最小を取る」形で書けます(min-max 原理。真性スペクトルより下の固有値を重複を込めて小さい順に)既知。
固有ベクトルで展開すると Rayleigh 商は固有値の重み付き平均 で、 を下回りません。部分空間 に制限した行列の固有値は の上界になり、 を広げるほど下がります(Rayleigh–Ritz の方法)。例。Dirichlet の に を入れると、商は です。下からの評価には Temple の不等式があります。 の Rayleigh 商を とし、次の固有値の下界 ()を知っていれば次が成り立ちます 既知。
なら 、 です。ここでは が厳密に分かっている(03 節)ので と置けて、 です。表 2 の下に出る Ritz の値()は の上界で、 の根拠にはなりません。変分原理だけでは上界しか出ず、下から押さえるには別の情報が要ります。Temple の不等式では、それが次の準位の下界 です(08 節の凸性 はもう一つの例)。質量ギャップの証明が難しいことの、有限個の自由度での姿です(2-05 §04・4-11)。
計算表 2 での Rayleigh–Ritz の値と、(7)()の下界。行列は分数で厳密に作成。
| n | λ₁ の上界 | λ₁ の下界 (7) | λ₃ の上界 |
|---|---|---|---|
| 1 | 10.000000000 | 9.310344828 | — |
| 3 | 9.869749621 | 9.866602308 | 102.1303 |
| 5 | 9.869604435 | 9.869602524 | 89.1736 |
| 厳密 | 9.869604401 | 88.82644 |
偶数の で加わる反対称な関数は だけを改善し、上界は ()と下がります。 で は幅 の区間に挟まれます(下の端は に依ります)。
隙間や最低の固有値を上から押さえるには、試しのベクトルを一つ示せば足ります。(6) の商の値は、どれもそのまま上界です。下から押さえるには、すべてのベクトルについて商が下回らないことを言う必要があり、変分原理の外の情報が要ります(Temple の不等式の 、08 節の凸性、スペクトル定理による全体の分解)既知。Poincaré 定数 (07 節)は隙間の逆数なので向きが入れ替わり、試しの関数一つで出るのは の下界、上界にはすべての関数が要ります。
質量ギャップ は、真空に直交する状態のエネルギーの下界です(4-11 §01)。この本はこれを一文にします。質量ギャップの証明は下界の証明である。試しの状態や有限個の相関の測定から出るのは の上界で、隙間が正であることについては何も言いません(4-11 §02・8-01 §08)。比喩で言えば、山の一番低い谷を探すのに、谷を一つ見つければ「これ以下」は言えますが、「これより低い谷は無い」には山全体を調べる必要があります。正確には、(6) の下限を一つの で評価すれば上界が出て、下限そのものを下から押さえるにはすべての が要る、ということです。
Poincaré 不等式 — 最良の定数は隙間の逆数
「傾きの小さい関数は平均からあまり外れない」を数で言ったものが Poincaré 不等式です。区間 では次の形で、定数 はこれ以上小さくできません 既知。
証明。Neumann の固有関数 で と書くと、左辺は 、右辺の積分は です。等号は のときだけ。長さ の区間では定数は で、大きさの二乗に比例します(円の上の版は 7-06 の (4))。
これは 06 節の変分原理を、Neumann の作用素の「0 の次」に使ったものです。一般に、自己共役な で となるのが定数だけ、隙間が なら、 の最良の定数は で、(5) からならす動きは速さ で落ち着きます。Dirichlet 版 ()も同じ数ですが、等号は で、別の内容です。例。 では左辺 、右辺 で、比は 0.82 です。
重みの付いた Poincaré 不等式 — 凸なら 1/κ、谷が二つなら大きい
場の理論で要るのは、確率測度 ( は全体を 1 にする定数)に対する形です。内積を とし、この内積で長さが有限な関数の空間を 、分散を と書きます。
最良の は、 の 0 の次の隙間の逆数です。 は で自己共役で、部分積分から 、 となるのは定数だけです(07 節と同じ形。基底状態の側からは 2-05 §08)。左の不等式は を入れれば出ます。右は Brascamp–Lieb(1976)の分散の不等式の系とされ、Bakry–Émery(1985)の対数 Sobolev 不等式(Poincaré 不等式より強い形の不等式)からも出ます 既知。一次元なら次の筋で足ります。 を微分すると は 、 との内積で 、よって (固有関数があり境界の項が消えるとして)。正規分布 では三つとも です(Chernoff 1981)。
計算図の数値はこの端末で計算しました(最良の と は python3 で求めて埋め込み、重み はその場で計算)。
計算表 3 の ( をシュレーディンガー型の作用素に直して三点差分で求めた。方法は出典表。刻みを半分にしても 4 桁一致)。 では 。
| c | 1/κ | Var(x) | C_P |
|---|---|---|---|
| −2 | 0.500 | 0.3451 | 0.3503 |
| 0 | — | 0.6760 | 0.7307 |
| 1 | — | 1.0418 | 1.2625 |
| 2 | — | 1.6655 | 2.6714 |
| 3 | — | 2.5853 | 7.6577 |
| 4 | — | 3.6707 | 33.580 |
谷が二つ(、谷の間の山の高さ )になると は よりずっと速く増え、 では 9 倍です。最良の は左の谷で 、右で に近い段差になり、その傾きは重みのほとんど無い山の上でしか効きません。重みのくびれが を大きくします。
変数が多いとき — 積・ガウス・自由場と、二つの隙間
変数が と多いときは、(9) の を勾配の長さの二乗 に替えます。基本は次の二つです 既知。
(i) 独立な変数の積の測度の は、各因子の の最大値で、変数の数によりません。 が各変数の の和になり、固有関数は積 、固有値は和になるので、0 の次の値は各因子の隙間の最小値だからです(固有関数の基底があるとして)。
(ii) 平均 0・共分散行列 のガウス測度の は、 の最大固有値です。 の固有ベクトルを直交座標に取ると、測度は分散が の固有値の独立な一次元ガウスの積に分かれ(1-08)、 は直交座標の取り替えで変わりません。あとは (i) と、一次元の (08 節)を使います。
1-08 (10) の輪の上の自由場では です。 の固有値は 0 以上で、0 は定数の向き(すべての を同じだけずらす向き)なので、 の最小固有値は 、よって です。相関長 (1-08 (11))と合わせると になります(この は場の変数 の勾配で測ったものです。格子ゲージ理論でリンクの角度を変数に取ると定数倍が変わるので、どちらで測るかを必ず書きます。10-03)。
ここで二つの隙間を区別します。自由場では、 の逆数 は の隙間((5) で が平均からのずれを消す速さ)です。一方、1-08 (10) を虚時間の経路積分と読んだときのハミルトニアンの隙間は、格子間隔を単位にして (1-08 (11)。 が小さいとき )です。二乗の関係 は自由場の計算で、相互作用のある理論で一般に保たれるかどうかは 10-03 の問いであり、証明されていません(群の上の同じ形は 5-11)。
寄り道:固有値を数える — Weyl の法則と太鼓の形
飛ばしてよい節です。1910 年 10 月末、Lorentz がゲッティンゲンの Wolfskehl 講演に招かれ、第 4 講の終わりに「空洞の中の高い振動数の定在波の数は、形によらず体積に比例するはずだ」という問題を出し、聴いていた Weyl が 2 年足らずで証明した、と Kac(1966)は伝えています。平面の領域 の Dirichlet の では次の形です 既知。
計算一辺 1 の正方形(固有値 )では で 。主項 に周の長さ 4 の補正 を足すと です。Kac は面積と周の長さが固有値の列から「聞こえる」(正確には、固有値の列だけから決まる)ことを論じ、形そのものはどうかと問いました。答えは否で、Gordon・Webb・Wolpert(1992)が固有値の列が一致する別の形の平面領域を作りました。 を運動量の二乗 と読むと、 以下のモードの数は四次元で に比例します。短い距離の自由度のこの多さは、発散を考える出発点の一つです(4-04・1-12)。
この章が言えている範囲
| 内容 | 状態 |
|---|---|
| (1) の固有値、下の固有値の収束と上の端の発散 | 言えている 既知(表 1・図 1 計算) |
| 格子から連続極限でスペクトルの下の端を読むこと(01 節末) | 物理 の水準。四次元でその極限が在ることは証明されていない(6-10) |
| ヒルベルト空間・自己共役・スペクトル・スペクトル定理・Weyl の法則 (10) | 定義と例を示し、定理は引用 既知 |
| 変分原理 (6)・Temple の下界 (7)・表 2 | 言えている 既知・計算。 は を知っているから置けた値 |
| Poincaré 不等式 (8)・・(9)・積とガウス測度の ・自由場の | 言えている 既知。(9) の一次元の筋と 09 節 (i) の筋は固有関数の存在を仮定。表 3・図 2 は 計算 |
| 相互作用のある理論での と相関長の関係 | 扱っていない(10-03。証明されていない)。 は自由場の計算 |
| 場の量子論のハミルトニアンのスペクトル・ヤン–ミルズの質量ギャップ | 扱っていない(4-09・4-11)。何も示していない |
出典と再現
| もの | 種別 | 出典・道具 |
|---|---|---|
| 表 1〜3・図 1〜2・10 節の数 | 計算 | この端末の python3(NumPy 1.26・SciPy 1.11)。表 3 は と置いて を に直し(2-05 §08 の で としたもの)、 の三点差分で求めた。図は素の JavaScript で、読み出しを node で表と照合 |
| (4)〜(7)・スペクトル定理・Weyl の判定法 | 既知 | G. Temple, Proc. R. Soc. Lond. A 119 (1928) 276–293/W. Ritz, J. reine angew. Math. 135 (1909) 1–61/J. von Neumann, Math. Ann. 102 (1930) 49–131(無限次元のスペクトル定理の代表的な論文とされる)/M. Reed, B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics I(Academic Press, 1972)。いずれも書誌のみ |
| (9)・09 節の積とガウス測度の | 既知 | H. J. Brascamp, E. H. Lieb, J. Funct. Anal. 22 (1976) 366–389(書誌のみ。(9) の右の不等式がその系として出ることは未確認)/D. Bakry, M. Émery, Sém. Probab. XIX (1985) 177–206(冒頭の要約を確認)/H. Chernoff, Ann. Probab. 9 (1981) 533–535(要旨を確認)/D. Bakry, I. Gentil, M. Ledoux, Analysis and Geometry of Markov Diffusion Operators(Springer, 2014。書誌のみ) |
| Weyl の法則・Lorentz の問題・太鼓 | 既知 | H. Weyl, Math. Ann. 71 (1912) 441–479(題を確認、書誌のみ)/M. Kac, Amer. Math. Monthly 73 (1966) no. 4, part II, 1–23(本文を確認)/C. Gordon, D. L. Webb, S. Wolpert, Bull. AMS 27 (1992) 134–138, arXiv:math/9207215(要旨を確認) |
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