computo ergo sum

2026-10-01 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 7 部 物理の側からAdS/CFT・動径と尺度

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 第 9 部 現在地と課題
  97. 9-01 世界はどこまで来ているか
  98. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  99. 9-03 新しい概念の候補
  100. 9-04 課題の一覧
  101. 9-05 よくある誤解
  102. 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
  103. 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
  104. 10-01 理論の構成の筋
  105. 10-02 一段の記帳
  106. 10-03 仮定 H と三つの鎖
  107. 10-04 方向の地図
  108. 10-05 方向 12〜14
  109. 10-06 方向 15・15′
  110. 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
  111. 10-08 壁の一覧
  112. 10-09 ひらめき帳から
  113. 10-10 主張しないこと
  114. 10-12 つじつま合わせ
  115. 10-11 定理までの距離
  116. 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
  117. 付録
  118. A-01 記号表
  119. A-02 用語集
  120. A-03 文献案内
  121. A-04 Lean と機械検査
  122. A-05 この本の作り方
  123. A-06 仮定の索引

ホログラフィー — 四次元の場の理論を、一次元多い重力の幾何で読む

この章で分かること — AdS/CFT は、四次元の場の理論と五次元(に球を掛けた)重力の理論が同じだとする予想です。境界からの深さが尺度を測ること、質量と次元を結ぶ辞書、垂らした弦で計算する Wilson ループ、厳密に書ける対応の線引き。

前提となる章 — 7-05。7-04 の 't Hooft 結合 λ\lambda、7-03 の Nambu–Goto 作用も使います。D ブレーンは 7-07 を参照してください。計量・測地線・源など、前提の章に無い道具はその場で一行ずつ定義します。

先に言うこと — AdS/CFT は予想で、定理ではありません。代表例の N=4\mathcal N=4 超対称ヤン–ミルズ理論は共形で質量ギャップを持たず、純ヤン–ミルズ理論ではありません。ホログラフィーで質量ギャップが数学の定理として示された例は無く(物理の水準でギャップを持つ模型は 7-09)、このサイトも質量ギャップや連続極限の構成について何も示していません。

この章の順序
  1. 何が主張されているか(寄り道:なぜ「ホログラム」か)
  2. D3 ブレーンの二つの顔
  3. 反ド・ジッター空間
  4. 動径=尺度 — 深さは大きさを測る(図1)
  5. 辞書 — 質量と次元
  6. 弦を垂らす — Wilson ループ(図2)
  7. 尺度を一つ入れる — 面積則の模型
  8. 厳密に書ける対応 — 定理と提案
  9. ヤン–ミルズまでの距離

01

何が主張されているか — 境界の理論と内部の重力

ホログラフィーの主張はこうです。dd 次元の重力を含まない場の理論が、d+1d+1 次元の重力を含む理論と同じ物理を別の言葉で書いている。増えた一次元は境界からの「深さ」で、前者を境界の理論、後者を内部(バルク)の理論と呼びます。代表例は Maldacena(1997、ATMP 1998。前の年は arXiv に出た年、後ろは掲載誌の年)です。

N=4 SYM (U(N), gYM)⟺予想IIB 型弦理論 on AdS5×S5 (N, gs)(1)\mathcal N=4\ \text{SYM}\ \big(U(N),\,g_{\rm YM}\big)\quad\overset{\text{予想}}{\Longleftrightarrow}\quad \text{IIB 型弦理論 on } AdS_5\times S^5\ \big(N,\,g_s\big) \tag{1}

左は四次元の N=4\mathcal N=4 超対称ヤン–ミルズ理論(以下 SYM)、右は十次元の弦理論です。IIB 型は十次元の超弦理論の一つで、7-05 の IIA 型とは超対称性の向き(カイラリティ)の組み合わせが違います。次元は 10 = 4(境界)+ 1(深さ)+ 5(S5S^5)です(7-05 §09)。原論文は 'We are led to the conjecture' と書き、(1) は今も予想です 物理。この章は入口を扱い、質量ギャップが幾何に化ける模型は 7-09 に回します。

寄り道:なぜ「ホログラム」か — 面積で数える

寄り道

飛ばしてよい小節です。

ブラックホールのエントロピーは、体積ではなく地平面の面積 AA に比例します(Bekenstein 1973・Hawking 1975)既知。

S/kB=A/(4ℓP2),ℓP2=Gℏ/c3(2)S/k_B=A/(4\ell_P^{2}),\qquad \ell_P^2=G\hbar/c^3 \tag{2}

太陽質量なら半径 2953 m、S/kB=1.05×1077S/k_B=1.05\times10^{77}で、体積をプランク長さの三乗で割った 2.6×101152.6\times10^{115} よりはるかに少ない 計算。't Hooft(1993)と Susskind(1994、J. Math. Phys. 1995)はここから自由度を面積で数える考えを立て、Susskind は 'much like a holographic image' と書きました 物理。比喩で言えば立体像を平らな乾板に記録するホログラムです。正確には、(1) は二つの量子論が同値だという主張で、「乾板」は時空の無限遠にあります。

02

D3 ブレーンの二つの顔 — 予想はどこから来たか

NN 枚重ねた D3 ブレーン(開いた弦の端が乗る、空間三次元の膜)に端を持つ開いた弦は、低いエネルギーで U(N)U(N) のゲージ場になります(7-07)。同じ膜は重力から見ると時空を曲げます。Maldacena は低エネルギーの極限で、膜の上の理論と膜のすぐ近くの時空が同じものを記述すると読みました 物理。計量(線素)ds2ds^2 は、座標が少しずれたときの距離の二乗を与える式で、曲線の長さは ∫ds\int ds です(平らな空間なら ds2=dx12+dx22+⋯ds^2=dx_1^2+dx_2^2+\cdots)。膜が作る計量は

ds2=f−1/2dx∥2+f1/2(dr2+r2dΩ52),f=1+4πgsNα′2r4(3)ds^2=f^{-1/2}dx_\parallel^2+f^{1/2}\big(dr^2+r^2d\Omega_5^2\big),\qquad f=1+\frac{4\pi g_sN\alpha'^2}{r^4} \tag{3}

です。x∥x_\parallel は膜に沿う四つの座標(dx∥2dx_\parallel^2 は時間の方向だけ符号が逆。2-04)、rr は膜からの距離、α′=ℓs2\alpha'=\ell_s^2 は弦の長さの二乗、gsg_s は弦の結合です。r→0r\to0 では f≈R4/r4f\approx R^4/r^4(R4=4πgsNα′2R^4=4\pi g_sN\alpha'^2)で、z=R2/rz=R^2/r と置くと

ds2=R2z2(dx∥2+dz2)+R2dΩ52(4)ds^2=\frac{R^2}{z^2}\big(dx_\parallel^2+dz^2\big)+R^2d\Omega_5^2 \tag{4}

となり、半径 RR の AdS5AdS_5 と S5S^5 の積です 既知。結合の対応には二つの書き方があります。今日広く使われる規約では gYM2=4πgsg_{\rm YM}^2=4\pi g_s で R4/α′2=4πgsN=λR^4/\alpha'^2=4\pi g_sN=\lambda(λ=gYM2N\lambda=g_{\rm YM}^2N)、原論文の規約 gYM2=2πgsg_{\rm YM}^2=2\pi g_s では R4/α′2=2λR^4/\alpha'^2=2\lambda です 既知。違いは作用の規格化だけで、今日の規約はインスタントンの作用が 8π2/gYM28\pi^2/g_{\rm YM}^2 になる規格化です(Aharony–Gubser–Maldacena–Ooguri–Oz の総説 (3.8)・§4.2)。7-04 の (2)(行列のトレースで 12g2∫tr⁡F2\frac{1}{2g^2}\int\operatorname{tr}F^2、λ=g2N\lambda=g^2N)も同じ規格化なので、7-04 の λ\lambda で R4/α′2=λR^4/\alpha'^2=\lambda です。この章では λ\lambda を直接使わず、R2/α′=4πgsNR^2/\alpha'=\sqrt{4\pi g_sN} で書きます。

超重力(弦理論の低いエネルギーで残る、重力を含む場の理論)が信頼できるのは R≫ℓsR\gg\ell_s、つまり gsN≫1g_sN\gg1 のときで、内部の量子効果はゲージ理論の 1/N1/N の補正に当たります(原論文)物理。gs≪1g_s\ll1 と両立させるには N≫gsN≫1N\gg g_sN\gg1 が要ります。

表1 半径 RR に要る弦の結合 gs=(R/ℓs)4/(4πN)g_s=(R/\ell_s)^4/(4\pi N)
R/ℓsR/\ell_sN=3N=3N=100N=100
20.4240.0127
32.150.0645
516.60.497
102657.96

例:曲率半径を弦の長さの 5 倍にとると、N=3N=3 では gs=16.6g_s=16.6 で弦の結合が強く、N=100N=100 でやっと 0.5 です 計算。

03

反ド・ジッター空間 — 境界は無限の彼方にある

反ド・ジッター空間 AdSd+1AdS_{d+1} は、計量(§02)の符号が (−,−,+,…,+)(-,-,+,\dots,+) の平らな空間の中の双曲面

−X−12−X02+X12+⋯+Xd2=−R2(5)-X_{-1}^2-X_0^2+X_1^2+\cdots+X_d^2=-R^2 \tag{5}

で、(5) を保つ群 SO(2,d)SO(2,d) がそのまま対称性です(Maldacena の付録)。座標を選び直すと (4) の前半の形になります(Poincaré 座標)。以下は虚時間(2-04)に移したユークリッド版で考えます。境界の座標を x=(x1,…,xd)x=(x_1,\dots,x_d) と書くと

ds2=R2 ∑i=1ddxi2+dz2z2(z>0)(6)ds^2=R^2\,\frac{\sum_{i=1}^{d}dx_i^2+dz^2}{z^2}\qquad(z>0) \tag{6}

d=1d=1 のときは上半平面で、図1 はこの場合を描きます。例:x=0x=0 に沿って z=1z=1 から z=εz=\varepsilon まで上がる長さは ∫ε1R dz/z=Rln⁡(1/ε)\int_\varepsilon^1R\,dz/z=R\ln(1/\varepsilon) で、ε→0\varepsilon\to0 で無限大です。境界 z=0z=0 は無限の彼方にあります 既知。対称性の次元は SO(2,4)SO(2,4) が 6⋅5/2=156\cdot5/2=15(ユークリッド版では SO(1,5)SO(1,5) で、次元は同じ 15。1-03)、四次元の共形変換が並進 4・ローレンツ 6・拡大 1・特殊共形 4 の 15 で、Witten(1998a)の言葉で 'SO(2, d) ... acts on Md as the conformal group' です 既知。

04

動径=尺度 — 深さは大きさを測る

(6) で (x,z)↦(sx,sz)(x,z)\mapsto(sx,sz) とすると分子も分母も s2s^2 倍で、ds2ds^2 は変わりません。この内部の等長変換(長さを保つ変換)は境界では拡大 x↦sxx\mapsto sx で、「境界で ss 倍大きいものを見る」と「ss 倍深い所を見る」が同じ操作になります。Susskind–Witten(1998)の言葉では 'scale size gets transmuted into a spatial dimension' です 既知。

(6) の測地線(二点を結ぶ最短の曲線)は境界に直交する半円で、境界の区間 [−ℓ/2,ℓ/2][-\ell/2,\ell/2] から垂れる半円は深さ ℓ/2\ell/2 まで潜ります。深さ ε\varepsilon で切った長さは ℓ\ell の対数です。

L(ℓ)=2Rln⁡ℓ+ℓ2−4ε22ε≈2Rln⁡ℓε,e−mL≈(εℓ)2mR(7)L(\ell)=2R\ln\frac{\ell+\sqrt{\ell^2-4\varepsilon^2}}{2\varepsilon}\approx2R\ln\frac{\ell}{\varepsilon},\qquad e^{-mL}\approx\Big(\frac{\varepsilon}{\ell}\Big)^{2mR} \tag{7}

質量 mm の粒子が内部を伝わる振幅はおよそ e−mLe^{-mL} なので、指数関数の減衰が境界ではべき乗則に化けます。Susskind–Witten (2.5) も同じ考え方で、球の模型の上で係数を落とした形 δm/∣X1−X2∣m\delta^m/|X_1-X_2|^m で書いています。指数 2mR2mR は mRmR が大きいときの近似で、正確には (9) です 物理。

図1 上半平面 (6) と二進の敷き詰め(タイルの面積はどれも R2/2R^2/2)。つまみで区間 ℓ\ell を変えると半円の深さと (7) の LL が変わる。色の帯は底のある段
ℓ = 1.41 深さ 0.71 ε = 1/8 で切った長さ L = 4.84R(2 ln(ℓ/ε) = 4.85R)

計算この図の数値はこの端末で計算した。

表2 (7) の LL(R=1R=1、半円に沿った数値積分と一致)。ℓ\ell を 2 倍にするごとに LL は 2ln⁡2=1.3862\ln2=1.386 増える
ℓ/ε\ell/\varepsilonLL2ln⁡(ℓ/ε)2\ln(\ell/\varepsilon)
104.5848634.605170
1009.2101409.210340
100013.81550913.815511

境界の近く z=εz=\varepsilon で切ることは、境界の理論の紫外の切断です。Susskind–Witten は 'the infrared regulator δ in the bulk theory also plays the role of an ultraviolet regulator in the boundary super Yang Mills theory' と書きます(δ\delta はこの章の ε\varepsilon に当たる)。そのうえで、切った球面を大きさ δ\delta の格子に区切り、格子一つに場一つにつき一自由度と仮定して、自由度を N2/δ3N^2/\delta^3 と数えました(同論文 (3.1))物理。図1 で一段潜るごとにタイルの幅は 2 倍になり、ブロックを二つずつまとめる繰り込み群の一段(6-05)を思わせます。正確には、de Boer–Verlinde–Verlinde(1999、JHEP 2000)が古典超重力の動径方向の発展を表す Hamilton–Jacobi 方程式(作用を端の値の関数とみて立てる方程式)から、Callan–Symanzik 方程式(尺度を変えたときに相関関数がどう変わるかを表す式。4-04)の形を導き、'We propose a direct correspondence' と提案した水準です 物理。

05

辞書 — 内部の場と境界の演算子

Gubser–Klebanov–Polyakov(1998)と Witten(1998a)の処方では、内部の場 ϕ\phi の境界値 ϕ0\phi_0 を境界の演算子 O\mathcal O の源(∫ϕ0O ddx\int\phi_0\mathcal O\,d^dx の形で作用に足す外場)と読み、次を等しいとおきます。右端は超重力が使える極限(N,λ→∞N,\lambda\to\infty)での古典解の作用 II です。GKP の要旨は 'We suggest' で始まり、提案です 物理。

⟨exp⁡ ⁣∫ϕ0 O ddx⟩境界=Z内部[ϕ→ϕ0]≈e−I[ϕ0](8)\Big\langle\exp\!\int\phi_0\,\mathcal O\,d^dx\Big\rangle_{\text{境界}}=Z_{\text{内部}}\big[\phi\to\phi_0\big]\approx e^{-I[\phi_0]} \tag{8}

帰結の一つが質量と次元の関係です。xx に依らない解では、質量 mm の場の方程式は zd+1(z1−dϕ′)′=m2R2ϕz^{d+1}(z^{1-d}\phi')'=m^2R^2\phi で(Witten 1998a (2.37))、ϕ=zα\phi=z^\alpha を入れると α(α−d)=m2R2\alpha(\alpha-d)=m^2R^2 です。大きい根を Δ\Delta と書きます(文献の慣習の字で、質量ギャップの Δ\Delta とは別)。

Δ(Δ−d)=m2R2,Δ=d2+d24+m2R2(9)\Delta(\Delta-d)=m^2R^2,\qquad \Delta=\frac d2+\sqrt{\frac{d^2}{4}+m^2R^2} \tag{9}

境界の近くで ϕ≈ϕ0zd−Δ\phi\approx\phi_0z^{d-\Delta} の解が内部で滑らかに延びます。拡大 (x,z)↦(sx,sz)(x,z)\mapsto(sx,sz) で ϕ0\phi_0 は sΔ−ds^{\Delta-d} 倍されるので、∫ϕ0O\int\phi_0\mathcal O が不変であるには O\mathcal O のスケーリング次元(拡大 x↦sxx\mapsto sx で演算子が s−Δs^{-\Delta} 倍になるときの Δ\Delta)が Δ\Delta でなければならず、二点関数は ∣x∣−2Δ|x|^{-2\Delta} に比例します 物理。実根の条件 m2R2≥−d2/4m^2R^2\ge-d^2/4 は、負の質量の二乗もここまでは許すという Breitenlohner–Freedman の下限です 既知。

表3 (9) の Δ\Delta(d=4d=4)。右端は方程式を z=1z=1 から e−25e^{-25} まで数値で解いて読んだ冪(d−Δd-\Delta に一致)
m2R2m^2R^2−30512
Δ\Delta3456
数値の冪1.0000000.000000−1.000000−2.000000

例:質量ゼロなら Δ=4=d\Delta=4=d で、∫ϕ0O d4x\int\phi_0\mathcal O\,d^4x の ϕ0\phi_0 が無次元の数、つまり結合の役をします。ディラトン(期待値が弦の結合を決めるスカラー)は tr⁡F2\operatorname{tr}F^2 に対応します。N=4\mathcal N=4 の理論では Witten(1998a §2.6)が、ラグランジアン密度を結合で微分した演算子(tr⁡F2\operatorname{tr}F^2 を含む)が m2=0m^2=0 のディラトンに当たると述べ、Csáki–Ooguri–Oz–Terning は先行文献を引いて 'the operator tr F2 in four dimensions corresponds to the dilaton field …' と書きます 物理。tr⁡F2\operatorname{tr}F^2 は 0++0^{++} グルーボール(7-01)を作るので、7-09 ではディラトンの方程式からグルーボールの質量を読みます。

06

弦を垂らす — Wilson ループの計算

距離 LL の重いクォーク対のエネルギー E(L)E(L) は Wilson ループ(5-01)から読みます。Maldacena(1998)と Rey–Yee(1998、EPJC 2001)が同じ時期に出した処方では、クォークは境界に端を持つ弦の端点で、内部に垂れた弦の面積(Nambu–Goto)が EE を与えます 物理。(4) では張力 1/(2πα′)1/(2\pi\alpha') に R2/z2R^2/z^2 が掛かります。

E=12πα′∫−L/2L/2R2z21+z′2 dx,L=2z0 ⁣∫01 ⁣y2dy1−y4=22 π3/2Γ(1/4)2z0=1.19814 z0(10)E=\frac{1}{2\pi\alpha'}\int_{-L/2}^{L/2}\frac{R^2}{z^2}\sqrt{1+z'^2}\,dx,\qquad L=2z_0\!\int_0^1\!\frac{y^2dy}{\sqrt{1-y^4}}=\frac{2\sqrt2\,\pi^{3/2}}{\Gamma(1/4)^2}z_0=1.19814\,z_0 \tag{10}

被積分関数が xx を含まないので z21+z′2=z02z^2\sqrt{1+z'^2}=z_0^2(z0z_0 は底の深さ)が保存され、右の式が出ます。弦は LL に比例する深さ z0=0.8346Lz_0=0.8346L まで潜ります。境界での発散(点電荷の自己エネルギー)をまっすぐな二本の弦の分で引くと

E(L)=−4π2Γ(1/4)4 R2α′ 1L=−0.22847 4πgsNL(11)E(L)=-\frac{4\pi^2}{\Gamma(1/4)^4}\,\frac{R^2}{\alpha'}\,\frac1L=-0.22847\,\frac{\sqrt{4\pi g_sN}}{L} \tag{11}

で、定数は数値積分と閉じた形が 8 桁一致し、原論文の (4.6)(4.8) と同じです 計算。原論文は 'the energy goes as 1/L, a fact which is determined by conformal invariance. Notice that the energy goes as (gN)1/2 as opposed to gN which is the perturbative result' と書きます 物理。

図2 上:境界に両端を持つ弦。下:E(L)E(L)(実線 (11)、破線は壁のある (12))。LL を変えると深さと EE が変わり、「壁を置く」で弦が壁に沿って寝る
L = 1.00 z_w 深さ 0.83 z_w E(単位 R²/(α′z_w)):共形 −0.228 壁あり −0.228

計算この図の数値はこの端末で計算した(弦の形は (10) の積分の表、EE は (11)(12))。

表4 EE(単位 R2/(α′zw)R^2/(\alpha'z_w))と壁の無いときの深さ。Lc=1.19814 zwL_c=1.19814\,z_w
L/zwL/z_w共形 (11)壁あり (12)z0/zwz_0/z_w
0.5−0.45695−0.456950.4173
1.19814−0.19069−0.190691.0000
2−0.11424−0.063071.6693
4−0.057120.255243.3385
8−0.028560.891866.6770
07

尺度を一つ入れる — 幾何を切ると面積則が出る

(11) の 1/L1/L は共形性の帰結なので、閉じ込め(E≈σLE\approx\sigma L、7-01)には尺度が一つ要ります。最も粗い模型は内部を深さ zwz_w で切ることです。Polchinski–Strassler(2001、PRL 2002)は、ギャップがあれば 'the gravitational redshift has a nonzero lower bound' と述べて幾何を切る近似を使いました 物理。この模型で (10) を最小にすると、L≤Lc=1.19814zwL\le L_c=1.19814z_w では共形の解(底の深さ 0.8346L≤zw0.8346L\le z_w)がそのまま使えます。L>LcL>L_c では弦の底が壁に届きます。壁に触れる点で弦は壁に接する(傾き 0)ので、保存量 z21+z′2z^2\sqrt{1+z'^2} は zw2z_w^2 になり、下りの部分は z0=zwz_0=z_w の共形解の半分です。両側の半分で幅 LcL_c を使い、残りの L−LcL-L_c を壁に沿う直線でつなぎます。

E(L)=−0.19069 R2α′zw+σ(L−Lc),σ=4πgsN2πzw2(L>Lc)(12)E(L)=-0.19069\,\frac{R^2}{\alpha'z_w}+\sigma(L-L_c),\qquad \sigma=\frac{\sqrt{4\pi g_sN}}{2\pi z_w^2}\qquad(L>L_c) \tag{12}

LL に比例する部分(面積則)が現れ、L=LcL=L_c で (11) と値も傾きもつながります 計算。例:表4 の L=8zwL=8z_w では共形の −0.029-0.029 に対し +0.892+0.892 です。(12) のとおり σ(L−Lc)\sigma(L-L_c) に一定の数を足した形で、LL が大きいと傾き σ\sigma の直線に乗ります。弦張力には 4πgsN\sqrt{4\pi g_sN} が掛かり、壁までの箱で決まるグルーボールの質量(∼1/zw\sim1/z_w)には掛からないので、結合が大きいほど二つの尺度は離れます(比の λ\lambda 依存と出典は 7-09 §08)。模型の中の算術で、実際の幾何は 7-09・7-10 で扱います。

08

厳密に書ける対応 — 何が定理で、何が提案か

「厳密」には二つの意味があります。片側だけで閉じた数学(双曲幾何・リー群・常微分方程式)として正しいことと、模型の中で両辺の定義が一致することです。どちらも四次元のヤン–ミルズ理論の定理ではなく、(1) も証明されていません。

表5 対応と水準
境界の側内部の側水準
共形群・拡大SO(2,4)SO(2,4)・(x,z)↦(sx,sz)(x,z)\mapsto(sx,sz)既知
ln⁡(ℓ/ε)\ln(\ell/\varepsilon)測地線の長さ (7)長さの式は既知(数値は計算)、境界の対数との同一視は物理
次元 Δ\Delta(9) の冪冪は既知、同一視は物理
Callan–Symanzik の形動径の Hamilton–Jacobi物理(提案)
E(L)E(L)弦の最小面積処方は物理、(10)(11) は計算
—境界の連結性既知数学の定理

最後の行は Witten–Yau(1999)の定理です。言葉を三つ用意します。Einstein 多様体は、Ricci 曲率(曲率を方向ごとに平均したもの)が計量の定数倍になる多様体で、ここではその定数が負です((6) の空間が例)。共形境界(Penrose の意味)は、無限の彼方にある境界のことで、計量に境界で零になる関数の二乗を掛けると境界までなめらかに延びるときに付けられます((6) なら z2ds2z^2ds^2 が z=0z=0 まで延びる)。Hn(M;Z)=0H_n(M;\mathbb Z)=0 は、大まかに言えば MM に nn 次元の「穴」が無いことです。MM を n+1n+1 次元、NN をその nn 次元の共形境界とし、MM が完備(どの方向にも途中で切れない)で、NN のスカラー曲率(曲率をさらに一つの数にまとめたもの)が正なら

Hn(M;Z)=0,特に N は連結(13)H_n(M;\mathbb Z)=0,\qquad\text{特に } N \text{ は連結} \tag{13}

です(要旨 'Let M be a complete Einstein manifold of negative curvature ... N must be connected')既知。この章で使うのは結論の「境界 NN は一続き(連結)」だけです。AdS/CFT が動機ですが、双対そのものの定理ではありません。例:表5 の物理の行は、どれも (1) を前提に使います。

09

ヤン–ミルズまでの距離 — 共形・極限・現在地

(1) の境界の理論は純ヤン–ミルズ理論ではありません。六本のスカラー場とフェルミオンを持ち、共形で結合が走らず(4-06 と対照的)、尺度 Λ\Lambda が生まれません(4-07)。重力の計算が効く N,λ→∞N,\lambda\to\infty は、問題文(0-03)が求める任意のコンパクト単純群と、短い距離で漸近自由(λ→0\lambda\to0)に一致する理論とは逆の側です。共形ならギャップはありません。質量 m>0m>0 の状態があれば、拡大で質量 smsm(任意の s>0s>0)の状態もあるからです。

m2∈spec⁡(P2) ⇒ s2m2∈spec⁡(P2) (s>0) ⇒ inf⁡(spec⁡(P2)∖{0})=0(14)m^2\in\operatorname{spec}(P^2)\ \Rightarrow\ s^2m^2\in\operatorname{spec}(P^2)\ (s>0)\ \Rightarrow\ \inf\big(\operatorname{spec}(P^2)\setminus\{0\}\big)=0 \tag{14}

P2P^2 は四元運動量の二乗(2-04)で、(11) の 1/L1/L はこの事情の別の顔です 既知。例:Clay の問題の頁は今も質量ギャップについて 'no proof of this property is known' と書きます。ホログラフィーで質量ギャップが数学の定理として示された例は無く(物理の水準でギャップを持つ模型は 7-09)、弦理論に非摂動的な定義が無いこと、(1) が予想であること、極限が問題文の外にあることが重なっています(9-02)。四次元に戻す道は 7-10、超対称性のもとで双対からギャップが見える例は 7-11 です。


この章が言えている範囲

言えている言えていない
既知(4)〜(6) の幾何、SO(2,4)SO(2,4) と共形群、(9) の冪と下限、(13)(14)。(1) の証明。(8) の数学的な定義(内部の量子論が未定義)。
計算表1〜表4、図1・図2、(10)(11) の定数、(2) の数値。(12) の壁は模型で、実際の閉じ込めの幾何ではない。
物理(1)(8)、Wilson ループの処方、動径と繰り込み群、壁の模型。SYM にギャップは無い。純ヤン–ミルズ・有限の NN・漸近自由への橋。このサイトは質量ギャップも連続極限の構成も示していない。

出典と再現

もの種別出典・道具
(1)(3)〜(5)・§02 の引用・原論文の規約物理・既知J. M. Maldacena, Adv. Theor. Math. Phys. 2 (1998) 231, hep-th/9711200。本文を確認。
§02 の今日の規約 gYM2=4πgsg_{\rm YM}^2=4\pi g_s既知O. Aharony, S. S. Gubser, J. Maldacena, H. Ooguri, Y. Oz, Phys. Rept. 323 (2000) 183, hep-th/9905111。(3.8) と §4.2 の本文を確認。
§03 の引用・(2.37)・下限 m2R2≥−d2/4m^2R^2\ge-d^2/4・§05 のディラトンと結合の演算子既知・物理E. Witten, Adv. Theor. Math. Phys. 2 (1998) 253, hep-th/9802150。(2.35)〜(2.37)、下限と実根の条件((2.35) の直後と §2.6)、ディラトンの記述(§2.6)の本文を確認。
(8)物理S. S. Gubser, I. R. Klebanov, A. M. Polyakov, Phys. Lett. B 428 (1998) 105, hep-th/9802109。要旨を確認。
下限の名前既知P. Breitenlohner, D. Z. Freedman, Phys. Lett. B 115 (1982) 197;Ann. Phys. 144 (1982) 249。書誌のみ。
(7) の考え方・§04 の引用物理L. Susskind, E. Witten, hep-th/9805114。(2.5)・(3.1) と §2〜§3 の本文を確認。J. de Boer, E. Verlinde, H. Verlinde, JHEP 0008 (2000) 003, hep-th/9912012。本文を確認。
tr⁡F2\operatorname{tr}F^2 とディラトン物理C. Csáki, H. Ooguri, Y. Oz, J. Terning, JHEP 9901 (1999) 017, hep-th/9806021。本文を確認(この対応は同論文が先行文献に帰している)。
(10)(11)・§06 の引用物理・計算J. M. Maldacena, Phys. Rev. Lett. 80 (1998) 4859, hep-th/9803002。本文を確認。
§06 の処方(同時期のもう一つ)物理S.-J. Rey, J.-T. Yee, Eur. Phys. J. C 22 (2001) 379, hep-th/9803001。要旨を確認。
§07 の引用物理J. Polchinski, M. J. Strassler, Phys. Rev. Lett. 88 (2002) 031601, hep-th/0109174。本文を確認。
(13)既知E. Witten, S.-T. Yau, Adv. Theor. Math. Phys. 3 (1999) 1635, hep-th/9910245。要旨と本文の冒頭(MM が n+1n+1 次元、NN が nn 次元)を確認。
寄り道既知・物理J. D. Bekenstein, Phys. Rev. D 7 (1973) 2333;S. W. Hawking, Commun. Math. Phys. 43 (1975) 199(書誌のみ)。G. 't Hooft, gr-qc/9310026;L. Susskind, J. Math. Phys. 36 (1995) 6377, hep-th/9409089(要旨を確認)。
§09 の引用既知Clay Mathematics Institute, “Yang–Mills & the Mass Gap”(Web ページ)。本文を確認。
§09 の問題文の要件既知A. Jaffe, E. Witten, “Quantum Yang–Mills Theory”(Clay の公式の問題記述、PDF)。本文の照合は 0-03 の出典表。
表・図・数値計算この端末の Python 3(scipy):params.py、geodesic.py、delta.py、wilson.py、bh_entropy.py。

次に読む章:7-09 質量ギャップが幾何になる — 潰れる円の幾何で、グルーボールの質量を固有値として読む。

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改訂 2026-10-01:初版。