computo ergo sum

2026-10-01 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 6 部 構成的場の理論φ⁴₂・φ⁴₃

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 第 9 部 現在地と課題
  97. 9-01 世界はどこまで来ているか
  98. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  99. 9-03 新しい概念の候補
  100. 9-04 課題の一覧
  101. 9-05 よくある誤解
  102. 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
  103. 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
  104. 10-01 理論の構成の筋
  105. 10-02 一段の記帳
  106. 10-03 仮定 H と三つの鎖
  107. 10-04 方向の地図
  108. 10-05 方向 12〜14
  109. 10-06 方向 15・15′
  110. 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
  111. 10-08 壁の一覧
  112. 10-09 ひらめき帳から
  113. 10-10 主張しないこと
  114. 10-12 つじつま合わせ
  115. 10-11 定理までの距離
  116. 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
  117. 付録
  118. A-01 記号表
  119. A-02 用語集
  120. A-03 文献案内
  121. A-04 Lean と機械検査
  122. A-05 この本の作り方
  123. A-06 仮定の索引

スカラー場の構成 — φ⁴ が二次元と三次元で公理を満たすまで

この章で分かること — 六つの段が最初に通った相互作用のある例、ϕ24\phi^4_2・ϕ34\phi^4_3 の構成の筋。二次元では Wick 積で紫外が足り、壁は「下から有界でない」ことだったこと。場の方程式の道と統計力学の道。三次元で要るもう一段の繰り込みの数え方。

前提となる章 — 6-01 構成的場の理論とは。4-10・1-11・4-04 も参照します。

先に言うこと — 1965〜1976 年の既知の構成とその後の別証明の紹介で、証明は筋だけを追います。表の数値は有限の格子と見本の計算で、極限の存在の証明ではありません。四次元のヤン–ミルズについて何かを示すものではありません。

この章の順序
  1. なぜスカラー場から始めるか — 目標の文
  2. Wick 積:どの冪が確率変数になるか — 計算の表
  3. 二次元の壁:下から有界でない — 動く図
  4. 二つの道:場の方程式と統計力学
  5. 弱結合:クラスター展開・質量ギャップ・散乱
  6. 三次元:もう一段の繰り込み — 動く図
  7. 別の道でもう一度
  8. 寄り道:強結合の φ⁴₂ と相転移
  9. 四次元へ持ち出せるもの、持ち出せないもの

01

なぜスカラー場から始めるか

6-01 の地図(六つの段)で、相互作用のある理論として六つの段がすべて閉じた例は、二次元と三次元の ϕ4\phi^4 でした。場は各点に実数を一つ持つだけで、ゲージ対称性も拘束もなく、難しさは点での積(紫外)と体積(赤外)に絞られます。ユークリッドの作用は、質量 m0m_0 の自由場の作用に問題文の式 (3) の多項式を足したものです。

S(ϕ)=∫(12∣∇ϕ∣2+12m02ϕ2+λϕ4+12σϕ2+c) dx(1)S(\phi)=\int\Big(\tfrac12|\nabla\phi|^2+\tfrac12m_0^2\phi^2+\lambda\phi^4+\tfrac12\sigma\phi^2+c\Big)\,\mathrm dx \tag{1}

λ>0\lambda\gt0 は結合定数、σ=αλ+βλ2\sigma=\alpha\lambda+\beta\lambda^2 と c=γλ+δλ2+ελ3c=\gamma\lambda+\delta\lambda^2+\varepsilon\lambda^3 は切断に依存させる相殺項です(JW §6.2)。ϕd4\phi^4_d の dd は時空の次元で、二次元では下に有界な多項式 PP に広げた P(ϕ)2P(\phi)_2 も同じ方法で扱われました。目標は問題文の一文です:'For 0 < λ ≪ 1, one can choose σ(λ), c(λ) so the field theory described by (3) exists, is unique, and has a mass equal to m such that |m − m0| is small'(JW §6.2)。四次元では格子の極限がガウスに潰れます(6-08)。既知

02

Wick 積:どの冪が確率変数になるか

6-01 の表 1(壊れている場所)で、二次元以上では格子の一点の分散 ca=Ga(0)c_a=G_a(0) が a→0a\to0 で無限大になることを見ました。Wick 積は期待値が 0 になるように低い冪を引いた積で、次の条件で順に決まります(Summers 2016 §3.1)。

:ϕ0:=1,∂∂ϕ:ϕn:=n :ϕn−1:,∫:ϕn: dμC=0(2){:}\phi^0{:}=1,\qquad \frac{\partial}{\partial\phi}{:}\phi^n{:}=n\,{:}\phi^{n-1}{:},\qquad \int{:}\phi^n{:}\,\mathrm d\mu_C=0 \tag{2}

分散 cc の一変数なら :x2:=x2−c{:}x^2{:}=x^2-c、:x4:=x4−6cx2+3c2{:}x^4{:}=x^4-6cx^2+3c^2 で、尺度を合わせた Hermite 多項式です。要は、平均 0・共分散 CC のガウス場で

⟨:ϕ(x)n:  :ϕ(y)k:⟩=δnk n! C(x−y)n(3)\big\langle{:}\phi(x)^n{:}\;{:}\phi(y)^k{:}\big\rangle=\delta_{nk}\,n!\,C(x-y)^n \tag{3}

が成り立つことです。均した :ϕn:(f){:}\phi^n{:}(f) の分散は n!∬f(x)f(y)C(x−y)nn!\iint f(x)f(y)C(x-y)^n で、CC は近距離で d=2d=2 なら log⁡(1/∣x∣)\log(1/|x|)、d≥3d\ge3 なら ∣x∣−(d−2)|x|^{-(d-2)} のように振る舞うので

∫∣x∣<1C(x)n ddx<∞  ⟺  n(d−2)<d(4)\int_{|x|\lt1}C(x)^n\,\mathrm d^dx\lt\infty\iff n(d-2)\lt d \tag{4}

です。二次元ではすべての nn が有限、三次元では n≤2n\le2 だけで、n=3n=3 が対数の境目、n=4n=4 は 1/a1/a で発散します。既知

計算表 1 格子の ∫Cn≈ad∑xGa(x)n\int C^n\approx a^d\sum_xG_a(x)^n(m = 1。周期箱の一辺は二次元で 8、三次元で 4)。二次元の最下行は連続・無限体積の ∫0∞2πr (K0(r)/2π)n dr\int_0^\infty2\pi r\,(K_0(r)/2\pi)^n\,\mathrm dr。

ad=2, n=2n=3n=4d=3, n=2n=3n=4
1/80.080860.015710.004870.047710.021280.03050
1/160.080260.015180.004530.047120.025890.06776
1/320.080070.014980.004360.046780.030380.14358
1/640.080010.014910.004290.046610.034820.29652
1/2560.079990.014870.00425———
→ 00.079580.014840.00424収束対数∝ 1/a

二次元の列はどれも連続の値に近づきます。三次元では ∫C2\int C^2 が収束し、∫C3\int C^3 は aa を半分にするごとの増分が 0.0044 前後に近づき(連続の予想は log⁡2/(16π2)=0.00439\log2/(16\pi^2)=0.00439)、∫C4\int C^4 はほぼ 2 倍ずつ増えます。二次元の :ϕ4:(f){:}\phi^4{:}(f) は確率変数ですが、三次元のそれは違います。この二列は §06 で頂点が二つの図としてもう一度現れます。

03

二次元の壁:下から有界でない

V=∫Λ:ϕ4: dxV=\int_\Lambda{:}\phi^4{:}\,\mathrm dx(Λ\Lambda は有限の箱)が確率変数でも、測度 e−λVdμC/Ze^{-\lambda V}\mathrm d\mu_C/Z を作るには e−λVe^{-\lambda V} が積分できなければなりません。古典的な ϕ4\phi^4 は非負ですが、Wick 積は違います。:x4:=(x2−3c)2−6c2{:}x^4{:}=(x^2-3c)^2-6c^2 なので

:x4: ≥ −6c2,Va ≥ −6 ca2 ∣Λ∣(5){:}x^4{:}\ \ge\ -6c^2,\qquad V_a\ \ge\ -6\,c_a^2\,|\Lambda| \tag{5}

で、二次元では ca=12πlog⁡1a+O(1)c_a=\frac1{2\pi}\log\frac1a+O(1) ですから、下限は (log⁡1a)2(\log\frac1a)^2 の速さで −∞-\infty へ逃げます。Jaffe(2000)は、二次元の初期の進展が、空間を円周にした ϕ4\phi^4 のハミルトニアンの安定性(下に有界であること)を示した Nelson の 1965 年の論文に多くを負うとしています。既知

下限が逃げても積分できることを示す議論の筋は三段です。(i) 切断した VaV_a は式 (5) で下から抑えられる。(ii) V−VaV-V_a の分散は表 1 の収束のように aa の冪で小さくなる。(iii) ガウス場の 4 次の多項式は、標準偏差が ss なら tt を超える確率が exp⁡(−const⋅(t/s)1/2)\exp(-\mathrm{const}\cdot(t/s)^{1/2}) 程度。V<−MV\lt-M には V−VaV-V_a が大きく負である必要があり、aa を MM に合わせて選ぶと、その確率は e−pMe^{-pM} より速く減ります。結論は(Summers 2016 §3.1)既知

e−λV∈Lp(dμC)(すべての p<∞)(6)e^{-\lambda V}\in L^p(\mathrm d\mu_C)\qquad(\text{すべての }p\lt\infty) \tag{6}

ここで X∈Lp(dμC)X\in L^p(\mathrm d\mu_C) は E[∣X∣p]<∞E[|X|^p]\lt\infty、つまり pp 乗の期待値が有限という意味です(EE は自由場の測度 μC\mu_C での期待値)。p=1p=1 なら正規化の定数 Z=E[e−λV]Z=E[e^{-\lambda V}] が有限で、測度 e−λVdμC/Ze^{-\lambda V}\mathrm d\mu_C/Z が作れます。

図 1 a を細かくすると、下限 −6ca2-6c_a^2(破線)は左へ逃げるが、二次元では VaV_a の分布が動かない。三次元に切り替えると広がる
d = 2 a = 1/4 下限 −1.48 標準偏差 0.406(JavaScript が無効なら表 2)

計算この図の数値はこの端末で計算した。一辺 1 の周期箱・m = 2 の格子の自由場の見本 20000 本(三次元の a = 1/64 は 6000 本)で Va=ad∑x:ϕx4:V_a=a^d\sum_x{:}\phi_x^4{:} を数えた。横軸は VaV_a、縦軸は密度。

計算表 2 図 1 の分布(抜粋)。標準偏差は式 (3) から厳密に、0.1% 点と log⁡E[e−V]\log E[e^{-V}](λ = 1)は見本から(後者の誤差は二次元で ±0.002、三次元で ±0.005〜0.17)。括弧はガウス近似 Var(V)/2\mathrm{Var}(V)/2。

d, a下限標準偏差0.1% 点log⁡E[e−V]\log E[e^{-V}]
2, 1/4−1.480.4060−0.9690.0575
2, 1/16−3.150.3860−0.9910.0479
2, 1/64−5.370.3788−0.9460.0505
2, 1/128−6.700.3779−0.9230.0500
3, 1/4−5.910.6806−1.9440.176(0.232)
3, 1/16−97.201.3599−4.1520.865(0.925)
3, 1/32−390.731.9229−5.8661.746(1.849)
3, 1/64−1566.462.7194−8.1513.54(3.70)

二次元では、下限が −1.5 から −6.7 へ下がっても 0.1% 点は −0.9〜−1.0 から動かず、log⁡E[e−V]\log E[e^{-V}] は 0.05 前後に落ち着きます。下限は遠くても、そこまで行く確率が極端に小さい、という式 (6) の中身です。三次元では標準偏差が半分ごとに 2\sqrt2 倍、log⁡E[e−V]\log E[e^{-V}] がほぼ 2 倍になってガウス近似に近づきます。1/a1/a で増える定数を λ2\lambda^2 の次数で引く必要があり、これが問題文の δ\delta に当たります(§06)。計算

04

二つの道:場の方程式と統計力学

最初の構成(Glimm–Jaffe の四部作、1968–1972)は、ミンコフスキー時空で場の方程式を作用素として解く形でした。二次元の方程式は

∂t2ϕ−∂x2ϕ+m02ϕ+4λ :ϕ3:=0,:ϕ3:=lim⁡κ→∞(ϕκ3−3cκϕκ)(7)\partial_t^2\phi-\partial_x^2\phi+m_0^2\phi+4\lambda\,{:}\phi^3{:}=0,\qquad {:}\phi^3{:}=\lim_{\kappa\to\infty}\big(\phi_\kappa^3-3c_\kappa\phi_\kappa\big) \tag{7}

です(ϕκ\phi_\kappa はフーリエ成分を ∣k∣≤κ|k|\le\kappa で切った場、cκ∼log⁡κc_\kappa\sim\log\kappa。Jaffe 2000 §3)。空間を関数 gg で切った H(g)=H0+λ∫:ϕ(0,x)4: g dxH(g)=H_0+\lambda\int{:}\phi(0,x)^4{:}\,g\,\mathrm dx が Fock 空間で本質的自己共役(切断した式から自己共役作用素がただ一つに決まること)・下に有界・最低の固有値が単純であることを示し、信号が光速を超えないことを使って g→1g\to1 でポアンカレ不変な真空を得ます(段 2→段 4。Summers 2016 §2)。表現は Fock 表現と同値でありませんが(4-09 の Haag の定理)、有界な領域に制限すると同値です。既知

1970 年代前半には、Nelson の Markov 場(ここでは名前だけ挙げます)と Osterwalder–Schrader の公理(4-10)で、ユークリッドの測度

dμΛ=1Z e−λUΛ dμC,UΛ=∫Λ:P(ϕ): d2x(8)\mathrm d\mu_\Lambda=\frac1Z\,e^{-\lambda U_\Lambda}\,\mathrm d\mu_C,\qquad U_\Lambda=\int_\Lambda{:}P(\phi){:}\,\mathrm d^2x \tag{8}

として作る道が開きました(式 (6) で意味を持つ)。二次元の格子では、差分の項が隣り合う点の組 ⟨xy⟩\langle xy\rangle について

12∑⟨xy⟩(ϕx−ϕy)2=∑⟨xy⟩(12ϕx2+12ϕy2)−∑⟨xy⟩ϕxϕy(9)\tfrac12\sum_{\langle xy\rangle}(\phi_x-\phi_y)^2=\sum_{\langle xy\rangle}\big(\tfrac12\phi_x^2+\tfrac12\phi_y^2\big)-\sum_{\langle xy\rangle}\phi_x\phi_y \tag{9}

となり、最後の項は e−Se^{-S} の中で e+ϕxϕye^{+\phi_x\phi_y} として隣どうしに同じ符号を好ませます。スピンが実数全体を動く強磁性体です(Guerra–Rosen–Simon 1975 の題は 'as classical statistical mechanics')。そこで相関不等式(GKS 型。隣どうしが同じ符号を好む系で、相関が非負になることを言う不等式)が効き、PP が偶多項式から hϕh\phi(h≥0h\ge0)を引いた形なら、Schwinger 関数は非負で、境界条件を工夫すると箱とともに増えます。一様な上界と合わせれば単調収束で無限体積極限が取れ(段 4)、結合の大きさに制限はありません(Summers 2016 §3.1)が、問題文は相関不等式がスカラーのボソンや可換なゲージ理論に限られがちだとしています(JW §6.1)。反射正値性は極限に引き継がれます(段 5、6-01)。既知

05

弱結合:クラスター展開・質量ギャップ・散乱

段 6 まで通したのは Glimm–Jaffe–Spencer(1974)です。λ/m02\lambda/m_0^2 が十分小さいとき、クラスター展開で無限体積極限と OS の公理を示し、相関の指数減衰(6-01 の式 (9))を得ました。質量作用素 M=H2−P2M=\sqrt{H^2-P^2}(PP は運動量)については

spec⁡M⊂{0}∪{m}∪[m1,∞),m→m0,m1→2m0(λ→0)(10)\operatorname{spec}M\subset\{0\}\cup\{m\}\cup[m_1,\infty),\qquad m\to m_0,\quad m_1\to2m_0\quad(\lambda\to0) \tag{10}

が示されています(Summers 2016 §3.1)。00 は真空、孤立した mm は一粒子、m1m_1 より上は二粒子以上です。孤立した一粒子があれば Haag–Ruelle の散乱理論(孤立した粒子の状態から、遠い過去と遠い未来の散乱の状態を組み立てる一般論。ここでは名前だけ挙げます)が使え、Osterwalder–Sénéor(1976)は散乱行列が自明でなく、摂動級数がその漸近展開になることを示しました(Summers 2016 §3.1)。一方、存在とギャップの証明に使うクラスター展開は λ\lambda の冪級数ではなく、nn 番目の項が λnGn(λ)\lambda^nG_n(\lambda)(GnG_n は λ→0\lambda\to0 で有界)の形をした収束する展開です(Jaffe 2000 §4)。摂動級数のほうは発散し(4-12)、厳密な答えの漸近展開になるだけです。仕組みは 6-04 で扱います。既知

例:λ=0\lambda=0 なら二点関数は C(x)C(x) で、遠方で e−m0∣x∣e^{-m_0|x|} のように減衰し、ギャップは m0m_0 です。弱結合の結果は、この隙間が小さな相互作用で潰れないことを言っています。ギャップの出どころは作用に書き込んだ m0m_0 です(§09)。

06

三次元:もう一段の繰り込み

何が増えるかは摂動論の図の数え方で見当が付きます(4-03・4-04)。頂点が nn 個・外線が EE 本の連結な図は、内線が I=2n−E/2I=2n-E/2 本、ループが L=n−E/2+1L=n-E/2+1 個です。ループの積分は運動量の dd 乗、伝播関数は −2-2 乗を運ぶので、見かけの発散の次数は

ω=dL−2I=d+(d−4) n−d−22 E(11)\omega=dL-2I=d+(d-4)\,n-\frac{d-2}{2}\,E \tag{11}

で、ω≥0\omega\ge0 が紫外で発散しうる図(ω=0\omega=0 は対数)です。頂点が一つの図は自分とつながる線だけでできていて、Wick 積で消えます。

図 2 次元 d を動かすと、発散しうる図の型(色の枠。濃いのは ω > 0、薄いのは ω = 0)が変わる。破線は頂点が一つで Wick 積で消える型、「木」はループの無い図、「—」は連結な図が無い型
d = 3.00 Wick の後に残る発散の型(n ≥ 2):3 個(JavaScript が無効なら表 3)

計算この図の値は式 (11) をその場で計算したもの。表 3 はこの端末の計算と一致する。

計算表 3 ω ≥ 0 となる型 (n, E) と ω。

d頂点が一つ(Wick 積で消える)Wick の後に残る型
2(1, 0)・(1, 2):0なし
3(1, 0):2、(1, 2):1(2, 0):1、(2, 2):0、(3, 0):0
4(1, 0):4、(1, 2):2すべての n で E = 0, 2, 4(ω = 4, 2, 0)

三次元で残る型のうち二つは表 1 の列そのものです。(2, 0) は二つの頂点を四本の線で結んだ真空の泡で ∫C4\int C^4(1/a1/a)、(2, 2) は三本の線で結んだ自己エネルギーで ∫C3\int C^3(対数)です。図 2 で dd を 2.66 から 2.67 へ動かすと、(2, 0) が発散しうる型に入ります。境目は d=8/3d=8/3 で、式 (4) の n=4n=4 の境目と一致します。計算

問題文は、二次元では α,γ\alpha,\gamma を、三次元では五つすべてを切断に依存させるとしています(JW §6.2)。既知問題文はどの定数がどの図に当たるかを書いていませんが、λ\lambda の次数を頂点の数と読むと、α,γ\alpha,\gamma は n=1n=1、β,δ\beta,\delta は n=2n=2、ε\varepsilon は n=3n=3 に当たり、表 3 の型の数と合います。計算Jaffe(2000 §6)も、三次元では Wick 積に加えて、対数で発散する質量の相殺項と、線形と対数で発散する二つの真空のエネルギーの相殺項が要るとしています。λ\lambda 自身は繰り込まれません。既知

さらに三次元では、Wick 積をとったハミルトニアンが稠密に定義された作用素(どのベクトルにもいくらでも近いベクトルを含む部分空間の上で定義された作用素)にならず、状態ベクトルを切断とともに 0 に向かう定数で掛け直す必要があり(問題文の言う波動関数の繰り込み)、表現は Fock 表現と同値になりません(Jaffe 2000 §6)。Jaffe はこれを、有界な領域では Fock 表現と同値になる二次元(§04)とはまったく違う、としています。制御の道具は Glimm–Jaffe(1973)の位相空間の細胞(位置と運動量の尺度の両方で区切った箱)への局所化で、ある尺度の評価から二倍の尺度を評価する帰納は繰り込み群の考えにつながります(同。6-05)。その上で Feldman–Osterwalder(1976)と Magnen–Sénéor(1976)が独立に、λ/m02\lambda/m_0^2 が小さいとき切断と体積を外した極限で OS の公理を示しました(Summers 2016 §3.2。前者は題に質量ギャップを掲げる)。λ/m02\lambda/m_0^2 の制限は後に Seiler–Simon(1976)と Park(1977)が別の方法で外し、Burnap(1977)は一粒子状態の存在を示して Haag–Ruelle の散乱理論が使えるようにしました(Summers 2016 §3.2。原論文は書誌のみ)。既知

07

別の道でもう一度

ϕ24\phi^4_2・ϕ34\phi^4_3 はその後も、新しい方法が既知の結果を再現できるかを確かめる例になりました。方法ごとに、出力に含まれる段が違います。Brydges–Fröhlich–Sokal(1983)は格子・Schwinger–Dyson 方程式・相関不等式で、弱結合の存在と非自明性を格子理論の部分列の極限として示しました。確率量子化(6-09)は測度 e−Se^{-S} を

∂tϕ=−δSδϕ+2 ξ(ξ は時空の白色雑音)(12)\partial_t\phi=-\frac{\delta S}{\delta\phi}+\sqrt2\,\xi\qquad(\xi\text{ は時空の白色雑音}) \tag{12}

の不変測度(この方程式で時間発展させても分布が変わらない測度)として作ります。Hairer(2014)は正則性構造で、有限体積の Φ34\Phi^4_3 に対応する確率量子化の方程式 (12) の解を(爆発するかもしれない時刻までの局所解として)作りました。要旨はこれを、その測度に関して対称な自然な Markov 過程を作る問題の解決と述べていますが、本文では解が大域的であることや測度の不変性は示されておらず、期待されるとしています。Gubinelli–Hofmanová(2021)は R3\mathbb R^3 上で、極限点がどれも非ガウスで反射正値性と並進不変性を持つことを示し、要旨は回転不変性とクラスター性を除いて OS の公理を確かめたとしています。有限体積(三次元トーラス)では、測度を確率最適制御で変分的に書く方法もあります(Barashkov–Gubinelli 2020)。なお問題文は、ヤン–ミルズの問題の存在の部分について、コンパクト性による弱い存在だけでは、極限の性質(質量ギャップや公理)を別に示さない限り解答と認めないとしています(JW 脚注 2)。既知

08

寄り道:強結合の φ⁴₂ と相転移

寄り道

飛ばしてよい節です。

二次元の ϕ4\phi^4 は正の λ\lambda のすべてで存在しますが、λ≫1\lambda\gg1 では解が二つに分かれます(JW §6.3)。並べ直すと二つの谷を持つ形

λ′(ϕ2−1λ′)2+12σ′ϕ2+c′(λ′≪1)(13)\lambda'\Big(\phi^2-\frac1{\lambda'}\Big)^2+\tfrac12\sigma'\phi^2+c'\qquad(\lambda'\ll1) \tag{13}

になり、谷ごとにクラスター展開を組んで谷の間を行き来する確率が小さいことを示すと、ϕ→−ϕ\phi\to-\phi の対称性が破れた二つの相が得られます(Glimm–Jaffe–Spencer 1976)。臨界値 λc\lambda_c に下から近づくとギャップは単調かつ連続に 0 まで下がり、その近くは 'practically nothing has been proved' とされます(JW §6.3)。ギャップは結合を変えれば閉じうる量で、4-11 の言葉では相関長が無限大に向かう点が臨界点です。式 (9) の見方を押し進めると、格子と有限体積で切断した ϕ24\phi^4_2 はイジングのスピンの集まりで近似できます(Simon–Griffiths 1973)。この仕事は Lee–Yang の定理(分配関数の零点の位置から、外場があると相転移が起きないことを導く定理)を ϕ24\phi^4_2 に広げてもいて、そこから外場 h≠0h\ne0 を加えた模型の真空が一意であることが従います(Summers 2016 §3.1)。イジング模型のギャップは 2-09 にあります。既知

09

四次元へ持ち出せるもの、持ち出せないもの

既知表 4 四つの理論(結合の質量次元は 6-01 の式 (7)、発散の型は表 3)。

φ⁴₂φ⁴₃φ⁴₄ヤン–ミルズ(四次元)
結合の質量次元2100
発散しうる図の型(φ⁴ は Wick の後)なし3E = 0, 2, 4 の三種がすべての n に(相殺項の種類は有限)すべての次数に現れる(相殺項の種類は有限。4-04)
短距離での結合効きが弱い(超繰り込み可能)漸近自由でない弱くなる(4-06)
ギャップの出どころ作用の質量 m0m_0—作用に質量が無い
構成公理・ギャップ・散乱公理・ギャップ・一粒子状態(Summers §3.2)格子の極限はガウス(6-08)未(6-07)

持ち出せるものは四つです。(1) 相殺項の形を摂動論から読み、切断に依存させること。(2) 尺度ごとの評価を積み上げること(位相空間の細胞は繰り込み群の段の列になった。6-05)。(3) 反射正値性のような不等式の性質は極限に引き継がれること。(4) 弱結合の展開で相関の指数減衰を示せば、それがギャップになること。

持ち出せないものの中心はギャップの出どころです。ϕ24\phi^4_2・ϕ34\phi^4_3 では作用に m0>0m_0\gt0 を書き込み、∣m−m0∣|m-m_0| が小さいことを示しました。ヤン–ミルズの作用には質量の項が無く、期待されているギャップの尺度は e−const/g2e^{-\mathrm{const}/g^2} の形で結合に依存し、gg の冪には展開できません(4-07)。弱結合の展開の足場になる質量が、はじめから無いのです。加えて四次元では発散する図がすべての次数に現れ、場は接続でゲージ不変性を保たねばなりません(5-01)。既知物理

一方で問題文は、四次元の ϕ4\phi^4 が漸近自由でないことを自明性の証拠に挙げ、短距離で結合が弱くなるヤン–ミルズを四次元の構成的場の理論の自然な候補としています(JW §6.2)。止まる場所は 6-10 で見ます。


この章が言えている範囲

内容
言えている格子の ∫Cn\int C^n は二次元の n = 2, 3, 4 で収束、三次元では n = 2 が収束・n = 3 が対数・n = 4 が 1/a で増える(a ≥ 1/256・1/64)計算
言えている二次元では下限 −6ca2-6c_a^2 が下がっても VaV_a の左の裾と log⁡E[e−Va]\log E[e^{-V_a}] は動かず、三次元では log⁡E[e−Va]\log E[e^{-V_a}] が 1/a で増える(a ≥ 1/128・1/64)計算
言えているWick の後に残る発散しうる図の型は d = 2 でなし、d = 3 で三つ、d = 4 では E = 0, 2, 4 の三種がすべての n に現れる。三次元の三つは、定数の次数を頂点の数と読むと問題文と Jaffe(2000)の相殺項の記述に合う計算既知
言えている弱結合の φ⁴₂・φ⁴₃ は公理と質量ギャップを満たし、強結合の φ⁴₂ は二つの相を持つ(問題文と総説による)既知
言えていない式 (6)・クラスター展開・位相空間の細胞の証明(筋のみ。原論文は書誌のみ)
言えていない表 1・表 2 の数値からの極限の存在(有限の a と有限の見本の計算)
言えていない臨界点の近く、確率量子化の道での回転不変性とクラスター性(その後の文献は追っていない)
言えていない確率量子化の道での大域解・不変性(Hairer 2014 の後の文献は追っていない)

出典と再現

もの種別出典・道具
問題文 §6.1–6.3・脚注 2一次資料(本文で確認)A. Jaffe, E. Witten, Quantum Yang–Mills Theory, Clay Mathematics Institute の公式問題文(2000)
歴史・式 (7)・三次元の相殺項と表現・位相空間の細胞総説(本文で確認)A. Jaffe, Constructive quantum field theory, in Mathematical Physics 2000, World Scientific (2000)
式 (2)・(6)・(8)・(10)、段取り、相関不等式、§3.1 の散乱と Lee–Yang の定理の拡張、§3.2 の制限の除去と一粒子状態総説(本文で確認)S. J. Summers, A Perspective on Constructive Quantum Field Theory, arXiv:1203.3991(v2, 2016)
二次元の原論文書誌のみ(問題文・総説の文献表)Nelson, 1965 年の会議の会議録 Mathematical Theory of Elementary Particles(R. Goodman・I. Segal 編、MIT Press 1966)。Glimm–Jaffe, Phys. Rev. 176 (1968) 1945–1951; Ann. Math. 91 (1970) 362–401; Acta Math. 125 (1970) 203–267; J. Math. Phys. 13 (1972) 1568–1584。Nelson, Proc. Sympos. Pure Math. XXIII, AMS (1973) 413–420。Osterwalder–Schrader, Comm. Math. Phys. 31 (1973) 83–112; 42 (1975) 281–305。Guerra–Rosen–Simon, Ann. Math. 101 (1975) 111–259。Glimm–Jaffe–Spencer, Ann. Math. 100 (1974) 585–632。Osterwalder–Sénéor, Helv. Phys. Acta 49 (1976) 525–535
三次元の原論文書誌のみGlimm–Jaffe, Fortschr. Phys. 21 (1973) 327–376。Feldman–Osterwalder, Ann. Phys. 97 (1976) 80–135。Magnen–Sénéor, Ann. Inst. H. Poincaré A 24 (1976) 95–159。Seiler–Simon, Ann. Phys. 97 (1976) 470–518。Park, J. Math. Phys. 18 (1977) 354–366。Burnap, Ann. Phys. 104 (1977) 184–196
別の構成Brydges–Fröhlich–Sokal は書誌と要旨の要約のみ。Hairer は要旨と arXiv 版 v4 の本文(Remark 1.18)、他は要旨で確認Brydges–Fröhlich–Sokal, Comm. Math. Phys. 91 (1983) 141–186。Hairer, Invent. Math. 198 (2014) 269–504, doi:10.1007/s00222-014-0505-4, arXiv:1303.5113。Barashkov–Gubinelli, Duke Math. J. 169 (2020) 3339–3415, arXiv:1805.10814。Gubinelli–Hofmanová, Comm. Math. Phys. 384 (2021) 1–75, arXiv:1810.01700
相転移書誌のみGlimm–Jaffe–Spencer, Ann. Phys. 101 (1976) 610–630, 631–669。Simon–Griffiths, Comm. Math. Phys. 33 (1973) 145–164。臨界への減少(JW §6.3 の文献):Glimm–Jaffe, Phys. Rev. D 10 (1974) 536–539。Guerra–Rosen–Simon, Comm. Math. Phys. 41 (1975) 19–32。McBryan–Rosen, Comm. Math. Phys. 51 (1976) 97–105
四次元の φ⁴書誌のみ(6-08 で扱う)Aizenman–Duminil-Copin, Ann. of Math. 194 (2021) 163–235, arXiv:1912.07973
表 1〜3・図 1計算この端末の Python(numpy・scipy):wick_powers.py・wick_mc.py(FFT で周期格子の自由場を生成、乱数の種は固定。(d, a) ごとに分けて走らせ、各 5 分以内。最も重い三次元の a = 1/64 で約 3 分 40 秒)・fig_data.py・power_count.py
図 1・図 2図canvas・SVG と素の JavaScript。図 1 は表 2 の見本の度数(密度を 0.01 刻み)、図 2 は式 (11) を計算

次に読む章:6-04 クラスター展開(§05 で使った道具の仕組み)。

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改訂 2026-10-01:初版。