この本の全体 目次と読む順
- 第 0 部 入口 — この本の読み方
- 0-01 この本の読み方
- 0-02 一枚の絵
- 0-03 問題文を一語ずつ読む
- 0-04 数学の四次元と物理の四次元
- 第 1 部 数学の準備
- 1-01 ベクトル空間と線形写像
- 1-02 群とは何か
- 1-03 リー群とリー環
- 1-04 SU(2) と SU(3)
- 1-05 多様体と接空間
- 1-06 微分形式と外微分
- 1-07 ベクトル束と接続
- 1-08 確率と測度
- 1-09 無限次元の確率
- 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
- 1-11 フーリエ解析と分布
- 1-12 寄り道
- 第 2 部 物理の準備
- 2-01 ラグランジアンと作用
- 2-02 場という考え
- 2-03 電磁気学はゲージ理論である
- 2-04 特殊相対論と時空
- 2-05 量子力学の骨
- 2-06 調和振動子と生成消滅
- 2-07 経路積分の考え方
- 2-08 統計力学と相転移
- 2-09 寄り道
- 2-10 緩和の時間と動的指数 z
- 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
- 3-01 ゲージ原理
- 3-02 非可換ゲージ場
- 3-03 作用と方程式
- 3-04 幾何としてのゲージ理論
- 3-05 インスタントンと位相
- 3-06 寄り道
- 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
- 第 4 部 量子化
- 4-01 正準量子化とハミルトニアン
- 4-02 経路積分とユークリッド化
- 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
- 4-04 発散と繰り込み
- 4-05 発散の代数
- 4-06 漸近自由
- 4-07 次元転移と Λ
- 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
- 4-09 場の量子論の公理
- 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
- 4-11 質量ギャップの定義
- 4-12 寄り道
- 第 5 部 格子ゲージ理論
- 5-01 Wilson の格子
- 5-02 強結合展開
- 5-03 反射正値性と転送行列
- 5-04 無限体積極限とクラスター展開
- 5-05 弱結合と連続極限
- 5-06 U(1) と非可換の違い
- 5-07 モンテカルロ法
- 5-08 グルーボールと弦張力の測定
- 5-09 何を固定して極限を取るか
- 5-10 有限群の格子ゲージ理論
- 5-11 寄り道
- 第 6 部 構成的場の理論
- 6-01 構成的場の理論とは
- 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
- 6-03 スカラー場の構成
- 6-04 クラスター展開
- 6-05 繰り込み群の段の列
- 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
- 6-07 四次元
- 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
- 6-09 確率量子化と正則性構造
- 6-10 四次元で止まる場所
- 6-11 発散以外の障害
- 6-12 寄り道
- 第 7 部 物理の側から
- 7-01 物理はどう見ているか
- 7-02 閉じ込めの機構
- 7-03 弦の絵
- 7-04 大 N
- 7-05 ひも理論と余剰次元
- 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
- 7-07 ゲージ場はどこから来るか
- 7-08 ホログラフィー
- 7-09 質量ギャップが幾何になる
- 7-10 四次元に戻す
- 7-11 超対称と Seiberg–Witten
- 7-12 等価原理に当たる一文
- 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
- 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
- 8-01 辞書の読み方
- 8-02 辞書 A
- 8-03 辞書 B
- 8-04 辞書 C
- 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
- 第 9 部 現在地と課題
- 9-01 世界はどこまで来ているか
- 9-02 二つの掘り方の切れ目
- 9-03 新しい概念の候補
- 9-04 課題の一覧
- 9-05 よくある誤解
- 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
- 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
- 10-01 理論の構成の筋
- 10-02 一段の記帳
- 10-03 仮定 H と三つの鎖
- 10-04 方向の地図
- 10-05 方向 12〜14
- 10-06 方向 15・15′
- 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
- 10-08 壁の一覧
- 10-09 ひらめき帳から
- 10-10 主張しないこと
- 10-12 つじつま合わせ
- 10-11 定理までの距離
- 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
- 付録
- A-01 記号表
- A-02 用語集
- A-03 文献案内
- A-04 Lean と機械検査
- A-05 この本の作り方
- A-06 仮定の索引
世界はどこまで来ているか — 年表と、次元ごとの表で現在地を読む
この章で分かること — 1954〜2026 年の主な結果の年表(36 行)。次元ごとに六つの段のどこまで定理があるかの盤面と、その塗られ方。可換群・スカラー場との比較。格子の定理が の数直線のどこにあるか。
前提となる章 — 6-10 四次元で止まる場所。六つの段は 6-01、次元ごとの中身は 6-02・6-06・6-07。
先に言うこと — 既知の文献を並べ直した章で、示す定理はありません。四次元のヤン–ミルズは、連続の理論として有限体積でも構成が完了していません。年表は本文か要旨(一部は総説の文献表)で確かめた範囲で、網羅ではありません。このサイトの記事は、盤面のどの升目も動かしていません。
一つの結果を六つの軸で読む
ヤン–ミルズの定理は、どれも「どこで成り立つか」の条件を持ちます。条件を落とすと、二次元の定理が四次元の話に、格子の定理が連続の話に見えます。この章は条件を六つの軸にまとめ、住所と呼びます。
はユークリッド化した時空の次元、結合の側は格子の逆結合 (記号表)が小さい強結合か大きい弱結合かです。問題文の住所は「4・連続・・任意のコンパクト単純群・なし」で、そこで六つの段を全部通すことが求められます。既知 四次元の格子の連続極限は の側にあると信じられています(Chatterjee 2018 §5)。物理
例:Driver 1989 は(2・連続・・—・連結コンパクト・なし)で段 3・4 まで、Shen–Zhu–Zhu 2022 は(任意・格子で間隔を固定・無限・強・・なし)で格子の上の指数減衰です。年表の「範囲」はこの住所の略で、年は最初の公開年(arXiv があればその年)、括弧は出版年です。複数の論文をまとめた行は年の幅で書きます。
年表 I(1954–1999):言葉と道具と、最初の構成
最初の半世紀の流れは三つです。物理では理論が書かれ(1954)、漸近自由が摂動論で分かりました(1973)。枠組みでは公理(1973・1975)と格子(1974)がそろいました。構成では、格子の強結合(1978)、三・四次元の紫外の評価(1985・1987–89)、二次元の連続の測度(1989)、四次元で紫外の切断を外し赤外の切断を残した構成の概略(1993)が出ました。既知 1974 年と 1973 年の式は次の二つです(5-01・4-06)。
例: で は 。 の符号が漸近自由です。「比較」の行は可換群・スカラー場という隣の理論で、升目は動かしません。物理の行は第 7 部に続きます(7-04・7-11・7-09、格子数値は 5-08)。
既知表 1 年表 I(物理の札の行を除く)。行を押すと図 1 がその年になります。
| 年 | 出来事 | 範囲 |
|---|---|---|
| 1954 | Yang–Mills:非可換のゲージ場の古典論 | 古典 |
| 1973 | Gross–Wilczek・Politzer:漸近自由 | 摂動論の係数 |
| 1973・1975 | Osterwalder–Schrader:ユークリッドの公理と Wightman の理論の再構成(1975 年に条件を改めた) | 公理 |
| 1974 | Wilson:格子ゲージ理論(ゲージ不変な格子の作用) | 全次元・格子 |
| 1974 | 't Hooft:大 N の展開 | 物理 |
| 1976 | Feldman–Osterwalder:弱結合の φ⁴₃ で Wightman の公理と質量ギャップ | 比較・3D |
| 1978 | Osterwalder–Seiler:格子の反射正値性と転送行列。強結合で無限体積極限と面積則(クラスター展開の収束は概略) | 格子・強結合 |
| 1978 | Singer:大域的で連続なゲージ固定は一般には取れない | 幾何 |
| 1979–81 | Brydges–Fröhlich–Seiler:二次元の可換 Higgs 模型を OS の公理まで | 比較・2D |
| 1980・1982 | Guth・Fröhlich–Spencer:四次元 U(1) の格子に、大きい β で閉じ込めない相 | 比較・格子 |
| 1981–82 | Aizenman・Fröhlich:φ⁴ は d ≥ 5 で自明 | 比較 |
| 1983–87 | Gross・King・Driver:U(1)(3D・4D、Higgs つきを含む)の連続極限 | 比較 |
| 1985 | Bałaban:三次元の格子で紫外安定性(トーラス、分配関数の一様な上下界) | 3D・格子・有限体積 |
| 1987–89 | Bałaban:四次元の格子で紫外安定性。最終論文の定理 1 は有効結合が小さいという仮定つき | 4D・格子・有限体積 |
| 1989 | Driver・Gross–King–Sengupta:平面 ℝ² の連続の測度(Driver は格子近似の収束も) | 2D・連続・無限体積 |
| 1992–93 | Sengupta:閉曲面の上の測度 | 2D・連続・有限体積 |
| 1993 | Magnen–Rivasseau–Sénéor:四次元 SU(2) の Schwinger 関数を、赤外の切断を固定したまま紫外の切断なしで(正則化した軸ゲージで)構成する「基礎」(詳細な証明は無い) | 4D・連続 |
| 1994 | Seiberg–Witten:超対称の理論でギャップと閉じ込め | 物理 |
| 1997–98 | Maldacena・Witten:ホログラフィーと、ギャップを幾何で見る模型 | 物理 |
| 1999 | Morningstar–Peardon:SU(3) のグルーボールの格子数値 | 物理数値 |
年表 II(2000–2026):問題文のあと
2000 年 5 月 24 日、Clay 数学研究所はパリでミレニアム懸賞問題を発表しました。問題文(Jaffe–Witten)は四次元の現状をこう書きます。既知
'at present we do not know any non-trivial relativistic field theory that satisfies the Wightman (or any other reasonable) axioms in four dimensions.'(JW §6)
その後、二次元の新しい構成、三次元の状態空間と力学、格子の新しい定理が加わりましたが、2004 年の報告は 'The state of the art remains the works of Balaban and of Magnen, Rivasseau and Sénéor' と書きます。既知 2018 年の総説は格子の上の問いを式にしました(Problem 5.1。5-09)。 は原点と点 に最も近いプラケットの Wilson ループの相関です。
例:2000 年以後の行は 16 本(うち 2020 年代が 10 本)で、盤面の色を変えたのは 2022 年の 2 本(Shen–Zhu–Zhu と Adhikari–Cao)だけです。計算 Problem 5.1 は格子の問いで、問題文の要件(連続・・公理・非自明性)とは別物です(0-03)。
既知表 2 年表 II。
| 年 | 出来事 | 範囲 |
|---|---|---|
| 2000 | Clay の懸賞問題(Jaffe–Witten の問題文) | 問題 |
| 2001(2003)–10 | Lévy:閉曲面の上のランダムなホロノミー場(2006 年に自明でない束) | 2D・連続 |
| 2004 | Douglas の報告:到達点は今も Bałaban と MRS | 評価 |
| 2013(2014) | Hairer:正則性構造(確率偏微分方程式の繰り込み) | 道具 |
| 2018 | Chatterjee の総説:Problem 5.1(相関長)と 5.2(Wilson ループの連続極限) | 格子の定式化 |
| 2019(2021) | Aizenman–Duminil-Copin:四次元の φ⁴ の極限はガウス | 比較 |
| 2020(2022) | Chandra–Chevyrev–Hairer–Shen(CCHS):二次元の確率ヤン–ミルズ熱流とゲージ軌道の空間 | 2D・T² |
| 2021(2024) | Cao–Chatterjee:三次元の状態空間(理論がガウス自由場〔GFF。1-09〕のように振る舞うという仮定の下で) | 3D・条件つき |
| 2022(2024) | CCHS:三次元ヤン–ミルズ–Higgs の確率量子化(局所解と Markov 過程。測度には未到達) | 3D・T³ |
| 2022 | Chevyrev の総説:三次元の測度は T³ の上でも未構成 | 評価 |
| 2022(2023) | Shen–Zhu–Zhu:強結合の格子で、N によらない明示的な範囲で一意性と正の質量ギャップ | 格子・強結合 |
| 2022(2025) | Adhikari–Cao:有限群(非可換を含む)の四次元格子で、弱結合の相関の指数減衰 | 格子・弱結合 |
| 2023(2026) | Chevyrev–Shen:T² の測度は Langevin 力学の一意な不変測度。格子の作用によらない | 2D・T² |
| 2024(2026) | Chatterjee:SU(2) ヤン–ミルズ–Higgs の特殊なスケーリング極限はガウス場 | 比較・Higgs |
| 2025 | Cao–Nissim–Sheffield:'t Hooft 領域(作用に βN を掛ける 't Hooft の規約で、β を N によらず小さく取る側。6-10 §05)の面積則(未査読) | 格子・強結合 |
| 2026 | Chevyrev–Klose–Mohamed・Chhaibi ほか:二次元の測度の表示と、格子を経ない構成(未査読) | 2D |
表 2 の言葉:確率量子化=測度を、ある確率的な時間発展の不変測度(時間がたっても分布が変わらない測度)として作る方法。Langevin 力学=測度を不変にする、雑音つきの勾配流。確率ヤン–ミルズ熱流=ヤン–ミルズの作用を減らす向きの流れ(熱流)に雑音を加えたもの。正則性構造=特異な確率偏微分方程式に意味を与え、繰り込む枠組み。いずれも 6-09。Markov 過程=未来の分布が現在の状態だけで決まる確率過程(6-02)。
盤面:年を動かして見る
年表を升目に写します。行は連続の非可換ヤン–ミルズ(物質場なし)の と四次元の格子、列は六つの段(6-01)です。段 1・2 は格子の上の測度 を作る段で、格子の上で閉じます(6-10 §03)。三次元・四次元では連続のまま有限体積の測度を作ることがまだできていないので、その段 2 を「閉(格子)」と書きます。
状態の名前は 6-01 の表 2 と同じです。閉(定理がある)、一部(仮定つき・概略・分配関数の評価まで、または要件の一部だけ。6-10 の表 2 の「仮定つき」もここに入る)、未、—(問いがその形では立ちにくい。6-02)の四つです。年 の状態は、 以前の最後の変化の記録 で決まります。
計算この図の数値はこの端末で計算しました(式 (4))。升目の分け方と状態の決め方はこの章の選択です。
計算表 3 2026 年の盤面(状態と、その状態になった年)。格子の行の三つの升は、段の列と対応しません。
| 1 正則化 | 2 有限体積 | 3 紫外極限 | 4 無限体積 | 5 公理 | 6 ギャップ | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2D 連続 | 閉 1974 | 閉 1974 | 閉 1989 | 閉 1989 | 一部 1989 | — 1989 |
| 3D 連続 | 閉 1974 | 閉(格子)1974 | 一部 1985 | 未 | 未 | 未 |
| 4D 連続 | 閉 1974 | 閉(格子)1974 | 一部 1989 | 未 | 未 | 未 |
| 格子の升 | 強結合 | 弱結合・連続群 | 弱結合・有限群 | |||
| 4D 格子(間隔固定) | 閉 2022(1978 年から一部) | 未 | 閉 2022 | |||
例:盤面が動いた年は 1974・1978・1985・1989・2022 の五つで、連続の升目は 1989 年から動いていません。21 升のうち閉 10・一部 3・未 7・— 1 です。計算 6-10 の表 2 は格子の段 4(無限体積)を強結合で OS 1978 により「閉」とします。この章の格子の升は段 4 と段 6(ギャップ)を一つに数えるので、1978 年は「一部」です。二次元の段 5 は、ゲージ不変な期待値のユークリッド不変性(Driver 1989 の系 6.7)までで、OS の公理の形の主張は無いので「一部」です。段 6 は伝播する自由度が無く、問いが立ちにくいので「—」です(どちらも 6-01 の表 2 と同じ)。既知
格子の強結合の升は、1978 年に「一部」、2022 年に「閉」になります。Osterwalder–Seiler 1978 はクラスター展開の収束を概略で与え、ギャップ(指数的なクラスター性)はその収束から従います。明示的な範囲での一意性と正の質量ギャップの証明は Shen–Zhu–Zhu 2022 です(どちらも SZZ の序論による。OS 1978 の要旨は強結合での無限体積の極限の存在と解析性・Wilson の閉じ込めの評価を述べる。5-02 §08)。既知 連続の升目が動かないのは、進歩が無いからではありません。二次元の測度の Langevin 力学による特徴づけや三次元の力学のような升目の中の進歩が、粗い盤面に映らないのです(この章の読み。段ごとの文献の言葉は 6-10)。
次元ごとの表
盤面の行を、住所の言葉で書き直します。列は格子(間隔を固定)、二重の極限(6-01)の内側と外側、公理とギャップです。 は格子間隔 ・一辺 の箱の測度です。
既知表 4 次元ごとの現在地(非可換・物質場なし)。
| 格子( 固定) | 連続・有限体積 | 連続・無限体積 | 公理・ギャップ | |
|---|---|---|---|---|
| 2 | 厳密に解ける(6-02) | 閉曲面・:Sengupta・Lévy・CCHS・Chevyrev–Shen | :Driver・Gross–King–Sengupta | 文献は主張しない(観測量はループ) |
| 3 | 強結合で無限体積と指数減衰 | 紫外安定性(分配関数の評価)。測度は未構成で、状態空間と力学まで | 未 | 未 |
| 4 | 強結合で無限体積と指数減衰。弱結合は有限群だけ | 仮定つきの紫外安定性(Bałaban)。赤外の切断つきの概略(MRS) | 未 | 未 |
二次元が連続・無限体積まで閉じているのは、厳密に解ける構造(プラケットの独立性と群の熱核。6-02)によります。三次元は易しいとされますが、連続の測度は 'open, even in finite volume' です(6-06)。四次元は段 3 が有限体積で仮定つき・概略、段 4〜6 に定理がありません(6-07)。既知
例:表 4 の四次元の「連続・有限体積」は表 3 の段 3(一部)に、「格子」の列は表 3 の格子の行に当たります。MRS の概略は紫外の切断を外していますが、赤外の切断は残したままです。
隣の理論との比較:「二・三次元ではできている」の範囲
「二・三次元ではできている」という言い方は、非可換のヤン–ミルズについては二次元でだけ正しい言い方です。三次元まで当てはまるのは、可換群とスカラー場です(9-05)。年表の「比較」の行を並べます。どの行も盤面の升目は動かしません。既知
既知表 5 隣の理論の到達点(年表の「比較」の行)。
| 理論 | 到達点 | |
|---|---|---|
| U(1) Higgs(可換のゲージ場と荷電スカラー場) | 2・3 | 二次元は OS の公理まで(Brydges–Fröhlich–Seiler)。問題文は「公理を満たす相互作用するゲージ理論の唯一の完全な例」と呼ぶ。三次元は連続・無限体積の極限(King) |
| φ⁴₃(弱結合) | 3 | Wightman の公理(JW §6.2)と質量ギャップ(Feldman–Osterwalder) |
| U(1) の純ゲージ | 4 | 格子から連続への極限(Driver 1987)。極限は自由な電磁場と見込まれる(6-10 の説明)。格子には大きい β で閉じ込めない相がある(Guth・Fröhlich–Spencer) |
| φ⁴₄ | 4 | 格子で紫外を切った λφ⁴ の、無限体積・格子間隔 0 の極限はガウス(Aizenman–Duminil-Copin)。 の自明性は Aizenman・Fröhlich |
四次元の二つの行は、どちらも極限が自由場(ガウス)になる例です。漸近自由(4-06)なヤン–ミルズでは非自明な極限が期待されていますが、証明はありません(6-08)。物理 同じ四次元でも、φ⁴ は短距離で結合が強くなり、ヤン–ミルズは弱くなります。向きが逆なので、φ⁴ の自明性の定理はヤン–ミルズには当てはまりません。例:三次元で比べると、φ⁴₃ は六つの段を全部通っています(6-01 の表 2)。非可換のヤン–ミルズは段 3 が一部で、段 4 から先は未です(表 3)。
格子の定理は β の数直線のどこにあるか
強結合では高温展開(小さい の冪で展開する方法。強結合展開とも呼ぶ。5-02)が定型的に効き、連続なリー群でも指数減衰が出ます(Adhikari–Cao と Shen–Zhu–Zhu の序論による。Osterwalder–Seiler 1978 は要旨のみ)。弱結合では、格子ゲージ理論の無限体積極限の一意性は、 で が大きいとき一般には分かっていません(Chatterjee 2018 §3)。連続極限に要るのはこの側です(5-05)。既知
二つの定理の条件を一つの β に直す
Shen–Zhu–Zhu の重み と Adhikari–Cao の重み ( は表現の指標)の条件を式 (2) の に直すと
です( は Adhikari–Cao の記号で、9-02・9-05 の質量ギャップ とは別)。6-10 §05 の (Chatterjee の規約 )とは の関係にあり、6-10 の はこの章の ()と同じ条件です。Adhikari–Cao は の任意のユニタリ表現 を許し、 です。ここでは を包含 に取った場合で、Wilson の模型のリンク変数を に制限したものになります( なので )。 は自然対数です。
前者は なら で 、 ならその 9/4 倍です。計算 例: の は、格子数値が連続へ外挿するのに使う 〜(、Lucini–Teper 2001)物理の 27 分の 1、二項正二十面体群の条件 はその上端の 268 倍です。計算
計算この図の数値はこの端末で計算しました(群を生成元から閉包で作って位数を確かめ、式 (6) を計算)。格子数値の範囲は文献の値です。
計算表 6 の有限部分群(定義表現)と式 (6) の条件。定義表現は行列そのもので、指標はトレースです(1-02)。最小角は単位元に最も近い元の固有値 の 。
| 群 | 位数 | 最小角 | ||
|---|---|---|---|---|
| 2 | 180° | 4 | 58.4 | |
| 四元数群 Q₈ | 8 | 90° | 2 | 122.3 |
| 2T(二項正四面体群) | 24 | 60° | 1 | 253.4 |
| 2O(二項正八面体群) | 48 | 45° | 0.5858 | 442.1 |
| 2I(二項正二十面体群) | 120 | 36° | 0.3820 | 697.2 |
| 2D₅₀(二項二面体群) | 200 | 3.6° | 0.00395 | 68512 |
表 6 の読み方
(a) 閾値は証明に出てくる定数で、相転移の位置ではありません。(b) の有限部分群は巡回群・二項二面体群と、位数 24・48・120 の三つの例外だけです。既知 名前に「二項」が付く群は、 の中の回転群を二重被覆 (1-02)で引き戻した群です。二項正四面体群・正八面体群・正二十面体群は正多面体の回転群の、二項二面体群 は正 角形の回転群(位数 の二面体群)の逆像で、位数はそれぞれ元の 2 倍です。(位数 )では なので、条件はおよそ に比例して遠のきます。計算 (c) 一ループの ()では、格子間隔を 1/10 にするごとに が約 0.86 増えます(一ループの目安。二ループの補正と、この の範囲で漸近スケーリングがまだ成り立たないことは 5-05)。物理 有限群の結果が連続な群へ移らない理由は 5-10、強結合の展開は 5-02。
β のつまみ — 二つの岸と帯を一本の軸に
図 2 の数直線に、格子単位の相関長 を重ねます。左の岸は強結合の定理(SZZ の条件 (9)・このサイトの論文 紙。10-01 表 4)と強結合の主項 、右の岸は二ループの式(9-02 (10)、)と Bałaban の仮定です。仮定は有効結合が十分小さいことで、値は書かれていないので(6-07 §04)、 を と読む目安を のつまみで動かします。真ん中は数値の窓 2.25〜2.60(Lucini–Teper 2001)と、プラケットでどちらの主項も 5% に入らない帯 1.75〜2.6(9-02 図 1)です。物理
下段は 10-01 表 1 の言明が要る β の範囲です(この本の整理)。帯を渡る役は、各 β で要る (S1)・(S4)・(S5) です。(S2) はどの β でも成り立ち、(S3)(S6)(S8) は の極限の言明、(S7) は β に依らない定理です。既知 定理が在るのは左の端で、 を小さくするほど右の岸の目安は遠のきます。
計算曲線は 9-02 の (9)(10) をその場で計算(ベッセル関数は級数。表 7 は scipy で同じ値)。点と窓の値は Lucini–Teper 2001 物理。
計算表 7 図 3 の β の目印と ξ(格子単位。ξ 数値の列は 9-02 表 3 の )。
| β | ξ 強結合の主項 | ξ 二ループ(C=185) | ξ 数値 | この β にあるもの |
|---|---|---|---|---|
| 0.08333 | 0.065 | — | — | SZZ の条件 (9) の端(β < 1/12) |
| 0.2722 | 0.093 | — | — | このサイトの論文の条件の端(β < 0.2722) |
| 1.5 | 0.234 | 0.127 | — | 強結合の主項がプラケットで 5% 以内に入る右端 |
| 1.75 | 0.266 | 0.233 | — | 帯の左端(どちらの主項も 5% に入らない) |
| 2.25 | 0.333 | 0.806 | 0.72 | 数値の窓の左端 |
| 2.3 | 0.340 | 0.914 | 0.92 | |
| 2.4 | 0.354 | 1.17 | 1.05 | |
| 2.475 | 0.365 | 1.42 | 1.33 | |
| 2.55 | 0.375 | 1.72 | 1.71 | |
| 2.6 | 0.383 | 1.95 | 1.95 | 数値の窓と帯の右端 |
| 2.75 | 0.405 | 2.85 | — | 弱結合の主項がプラケットで 5% 以内に入る左端 |
| 3.243 | — | 10 | — | 二ループで ξ = 10(外挿の目安) |
| 4.136 | — | 100 | — | 二ループで ξ = 100(外挿の目安) |
| 5.022 | — | 1000 | — | 二ループで ξ = 1000(外挿の目安) |
| 8 | — | 2.49×10^6 | — | γ = 0.5 なら Bałaban の仮定の側(β ≥ 4/γ の目安) |
| 20 | — | 1.8×10^20 | — | γ = 0.2 なら Bałaban の仮定の側(β ≥ 4/γ の目安) |
寄り道:年表に載せないもの
飛ばしてよい節です。
ヤン–ミルズ問題を証明したとする投稿を見かけます。この章が年表に行を載せる条件は二つです。
未査読のプレプリントは印を付けて載せます。懸賞問題そのものを証明したとする投稿は、専門家の検証を経た記録が無い限り載せません(arXiv の管理者が内容の水準を理由に取り下げた例もあります)。物理の数値やホログラフィーの模型は「理論が在る」と置いてから測るもので(7-13)、升目を動かしません。例:1999 年の格子数値の行は、どの升目の色も変えません。この本の第 10 部(10-01)の検討も盤面の外です。
この章が言えている範囲
| 内容 | |
|---|---|
| 言えている | 年表 36 行の中身(確かめ方の種別は出典表)既知 |
| 言えている | この章の升目の決め方の下での盤面と行の数。式 (6) の換算、有限部分群の位数・・条件の値計算。図 3・表 7 の ξ は本文の式と数値の再掲で、(S1)〜(S8) の β の範囲の割り当てはこの本の整理 |
| 言えていない | 年表の網羅。升目の別の分け方。強結合の升の 1978 年の判定の根拠は Shen–Zhu–Zhu と Adhikari–Cao の序論の記述で、Osterwalder–Seiler 1978 の本文は読んでいない。Driver 1987 の極限が自由な電磁場であること(本文は書誌のみ)。表 6 の閾値から有限群の模型と の弱結合の関係を結論すること。四次元の段 3〜6 のどれについても、このサイトは何も示していない |
出典と再現
| もの | 種別 | 出典・道具 |
|---|---|---|
| §03 の問題文の引用、表 5 の φ⁴₃ と「唯一の完全な例」 | 本文 | A. Jaffe, E. Witten, Quantum Yang–Mills Theory, Clay Math. Inst. (2000) §6・§6.2・§6.4。発表の日と場所は claymath.org |
| 2004 年の文 | 本文 | M. R. Douglas, Clay Math. Inst. の報告 (2004) |
| §01 の連続極限の側、§03 の Problem 5.1、§07 の一意性の文、表 5 の可換群の行 | 本文 §3・§4・§5・§6 | S. Chatterjee, arXiv:1803.01950 |
| 三次元の現状 | 本文 §1 | I. Chevyrev, arXiv:2202.13359/Chevyrev–Shen, arXiv:2302.12160 |
| 式 (6) の重みと条件。強結合の升の判定(OS 1978 のクラスター展開の収束は概略で、ギャップはその収束から従う) | 本文 §1 | Shen–Zhu–Zhu, arXiv:2204.12737, CMP 400 (2023) 805–851(式 (1.2)(1.3)・序論)/Adhikari–Cao, arXiv:2202.10375v3, Ann. Probab. 53 (2025) 140–174(式 (1.2)(1.3)・Theorem 1.1・序論) |
| Driver・Bałaban・MRS | 本文の冒頭(材料の検査) | Driver, CMP 123 (1989) 575–616(系 6.7。本文に公理の主張は無い)/Bałaban, CMP 102 (1985) 255–275・122 (1989) 355–392/Magnen–Rivasseau–Sénéor, CMP 155 (1993) 325–383(要旨と §I) |
| 四次元の Bałaban の年の幅 1987–89 | 書誌のみ(1987・1988 の論文) | 四次元の論文 CMP 109 (1987) 249–301 から CMP 122 (1989) 355–392 までを数えた(6-07・6-01 と同じ数え方。三次元と共通の土台 1983–85 は数えない) |
| 2000 年以後の他の行 | 要旨(材料の検査) | arXiv:2006.04987・2201.03487・2111.12813・math/0101239(Lévy。2001 年 1 月の投稿、Mem. AMS 166 no.790 (2003)。自明でない束は PTRF 136, 2006)・1303.5113・1912.07973・2401.10507・2509.04688・2607.22236・2607.24640 |
| 格子数値の範囲 | 本文 表 1(材料の検査) | Lucini–Teper, JHEP 0106 (2001) 050 |
| 2000 年以前の原論文:Yang–Mills 1954・Gross–Wilczek/Politzer 1973・Osterwalder–Schrader 1973/1975・Wilson 1974・'t Hooft 1974・Feldman–Osterwalder 1976・Osterwalder–Seiler 1978・Singer 1978・Brydges–Fröhlich–Seiler 1979–81・Guth 1980・Fröhlich–Spencer 1982・Aizenman 1981–82・Fröhlich 1982・Gross 1983・King 1986・Driver 1987・Gross–King–Sengupta 1989・Sengupta 1992–93・Seiberg–Witten 1994・Maldacena 1997・Witten 1998・Morningstar–Peardon 1999 | 書誌のみ | 中身は Jaffe–Witten の本文と文献表、Chatterjee §4・§6、Adhikari–Cao と Shen–Zhu–Zhu の序論の記述による。書誌の例:Osterwalder–Seiler, Ann. Phys. 110 (1978) 440–471/Aizenman, PRL 47 (1981) 1・CMP 86 (1982)/Fröhlich, NPB 200 (1982)/Driver, CMP 110 (1987) 479–501/Maldacena, hep-th/9711200/Witten, ATMP 2, 505/Sengupta, JFA 108・Ann. Phys. 221/Singer, CMP 60/Fröhlich–Spencer, CMP 83/Morningstar–Peardon, PRD 60 |
| 表 7・図 3 | 計算 | Python と SciPy(beta_axis.py。9-02 (9)(10)、)。数値の窓は Lucini–Teper 表 1(9-02 表 3・10-01 表 2) |
| の有限部分群の分類 | 既知(書誌は未確認) | 標準的な分類。位数は閉包の計算で確かめた |
| 表 3・図 1・行の数/表 6・図 2・§07 の数 | 計算 | この端末の Python(式 (4) で年ごとに数えた)/Python と NumPy(四元数の生成元から閉包で群を作り、位数・行列式・ユニタリ性を検査。) |
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