computo ergo sum

2026-10-01 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 7 部 物理の側からひも理論と余剰次元

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 第 9 部 現在地と課題
  97. 9-01 世界はどこまで来ているか
  98. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  99. 9-03 新しい概念の候補
  100. 9-04 課題の一覧
  101. 9-05 よくある誤解
  102. 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
  103. 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
  104. 10-01 理論の構成の筋
  105. 10-02 一段の記帳
  106. 10-03 仮定 H と三つの鎖
  107. 10-04 方向の地図
  108. 10-05 方向 12〜14
  109. 10-06 方向 15・15′
  110. 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
  111. 10-08 壁の一覧
  112. 10-09 ひらめき帳から
  113. 10-10 主張しないこと
  114. 10-12 つじつま合わせ
  115. 10-11 定理までの距離
  116. 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
  117. 付録
  118. A-01 記号表
  119. A-02 用語集
  120. A-03 文献案内
  121. A-04 Lean と機械検査
  122. A-05 この本の作り方
  123. A-06 仮定の索引

ひも理論と余剰次元 — 26・10・11 は整合性の条件から出る数

この章で分かること — 弦を基本の対象として量子化すると、時空の次元が自由に選べなくなること。ボゾン弦の 26 を二通り(第一励起/中心電荷)で、超弦の 10 を同じ帳尻で導く筋道。11 が超重力から来る数であること。

前提となる章 — 7-04 大 N。7-03 の零点エネルギーと −1/12-1/12 を使います。群の表現(1-02)、ローレンツ変換(2-04)、調和振動子(2-06)は要る分をその場で書きます。

先に言うこと — 導出は物理の水準です。世界面の二次元の計算は正確ですが、弦の理論に非摂動的な定義は無く、M 理論は存在が仮説です。余剰次元の話は四次元のヤン–ミルズの構成にも質量ギャップにも何も示していません。このサイトは質量ギャップも連続極限の構成も示していません。

この章の順序
  1. 弦を基本の対象にする — 管の弦との違い
  2. 横の振動を数える — 質量の公式
  3. なぜ 26 か(一) — 第一励起は質量ゼロ
  4. 準位を数える — タキオンと増え方(寄り道:分割数と Hardy–Ramanujan・寄り道:状態の増え方と Hagedorn 温度)
  5. なぜ 26 か(二) — 中心電荷の帳尻
  6. なぜ 10 か — 世界面の超対称性(寄り道:26 − 10 = 16 とヘテロ弦)
  7. なぜ 11 か — 超重力の数
  8. 「臨界次元」は臨界中心電荷 — 幾何でなくてよい
  9. ヤン–ミルズに戻る — 管の弦とホログラフィー

01

弦を基本の対象にする

7-03 は閉じ込めの管を一本の弦とみなし、7-04 §05 では 1/N1/N が弦の結合の役をしました。弦の理論も中間子の模型(双対共鳴模型)から始まったとされます。出発点としてよく挙げられるのは Veneziano(1968)の散乱振幅で、たとえば Neveu–Schwarz(1971)の要旨は 'A new dual-resonance model of mesons is constructed …' と書き出します 既知。中間子ではスピン JJ と質量の二乗が直線に並びます(Regge 軌跡)。張力 TT、長さ 2R2R の弦が角速度 1/R1/R で回ると両端は光速で、エネルギーと角運動量(2-04)を積分すると E=πTRE=\pi TR、J=πTR2/2J=\pi TR^2/2、つまり

J=α′E2,α′=12πT.(1)J=\alpha' E^2,\qquad \alpha'=\frac{1}{2\pi T}. \tag{1}

量子化した開いた弦では準位 NN の最大のスピンが Jmax⁡=α′M2+1J_{\max}=\alpha'M^2+1 です(Tong §3.1.3)。7-01 の σ=485\sqrt\sigma=485 MeV を TT に入れると α′=0.677 GeV−2\alpha'=0.677\ \mathrm{GeV}^{-2}、α′≈0.16\sqrt{\alpha'}\approx0.16 fm です 計算。この章の基本の弦は管の有効理論ではなく、どんなに短い距離でも矛盾なく量子化できることを要求されます。すると時空の次元 DD が自由な入力でなくなります。この章では弦の文献に合わせて、時空の次元を DD と書きます。7-03 や付録の記号表の dd と同じもので、空間だけの次元ではありません。

02

横の振動を数える:質量の公式

弦は時空 R1,D−1\mathbb{R}^{1,D-1} の中で面(世界面)を掃きます。光円錐ゲージでは、時間 X0X^0 と縦の一方向 XD−1X^{D-1} を組み替えた光円錐の座標 X±=(X0±XD−1)/2X^\pm=(X^0\pm X^{D-1})/\sqrt2 を使い、X+X^+ を世界面の時間 τ\tau に比例させます(X+=x++α′p+τX^+=x^++\alpha'p^+\tau。x+x^+・p+p^+ は弦の重心の位置と運動量の ++ 成分。Tong (2.13))。X−X^- の振動は消えませんが、制約の式によって横の振動から決まります。独立に振動するのは D−2D-2 本の横の方向だけです(Goddard–Goldstone–Rebbi–Thorn 1973)既知。7-03 の横の変位 h∈Rd−2h\in\mathbb{R}^{d-2} と同じ数え方です(d=Dd=D)。方向 ii の nn 番目の振動は調和振動子で(2-06)、生成演算子 α−ni\alpha^i_{-n} を一つ掛けるごとに準位 NN が nn 増えます。開いた弦の質量は

α′M2=N−a(2)\alpha' M^2 = N - a \tag{2}

で、−a-a は零点エネルギー(全振動子の 12n\frac12 n の和)です。有限部分は 7-03 の −1/12-1/12(7-03 §04)なので

a=−D−22∑n≥1n ⟶ −D−22⋅(−112)=D−224.(3)a = -\frac{D-2}{2}\sum_{n\ge1}n\ \longrightarrow\ -\frac{D-2}{2}\cdot\Big(-\frac{1}{12}\Big)=\frac{D-2}{24}. \tag{3}

7-03 の Lüscher 項 −π(D−2)/(24R)-\pi(D-2)/(24R) と Nambu–Goto の準位の (D−2)/24(D-2)/24(7-03 §06)は、この同じ数です 既知。Tong はこの和の扱いを 'famously unconvincing' と認め、この章の §05 と同じ中心電荷の方法で導き直します(Tong §4.4.1)。閉じた弦は右向きの振動 α\alpha と左向きの振動 α~\tilde\alpha を持ち、準位は N=N~N=\tilde N です(Tong (2.26))。

03

なぜ 26 か(一):第一励起は質量ゼロでなければならない

粒子の内部の状態は、運動量を変えない回転(小群)の表現になります(1-02。Wigner 1939)。質量 M>0M\gt0 なら静止系に移れて小群は SO(D−1)SO(D-1)、質量ゼロなら運動量 (p,0,…,0,p)(p,0,\dots,0,p) を保つ SO(D−2)SO(D-2) です(正確には D−2D-2 次元の回転と平行移動からなる群 ISO(D−2)ISO(D-2) ですが、有限個の状態に効くのは回転の部分 SO(D−2)SO(D-2) です)。四次元の光子の偏りは 2 つ、重いスピン 1 の粒子は 3 つです 既知。開いた弦の準位 1 の α−1i∣0⟩\alpha^i_{-1}|0\rangle は D−2D-2 状態の横のベクトルで、重いベクトルに要る D−1D-1 成分に一つ足りません。ローレンツ対称性を保つには質量ゼロでなければならず、

α′M2=1−a=0 ⟹ a=1 ⟹(3) D−224=1 ⟹ D=26.(4)\alpha'M^2 = 1-a = 0 \ \Longrightarrow\ a=1 \ \overset{(3)}{\Longrightarrow}\ \frac{D-2}{24}=1 \ \Longrightarrow\ D=26. \tag{4}

Tong は閉じた弦の第一励起((D−2)2(D-2)^2 状態)について同じ議論をし、'these states will have to be massless. And this is only the case if the dimension of spacetime is D = 26' と書きます 物理。

ローレンツ代数で確かめる

丁寧には、ローレンツ変換(回転とブースト)を生む保存量 MμνM^{\mu\nu} が、光円錐ゲージでもローレンツ代数の関係を満たすかを確かめます。MμνM^{\mu\nu} は弦の振動が持つ角運動量を含みます。要になるのは [Mi−,Mj−]=0[M^{i-},M^{j-}]=0 で、i,ji,j は横の方向、−- は光円錐の方向 X−X^- です(Tong §2.4)。X−X^- の振動が横の振動で決まるので、この交換子は横の振動子で書けます。

[Mi−,Mj−] ∝ ∑n>0[(D−224−1)n+1n(a−D−224)](α−niαnj−α−njαni)+(α↔α~)(5)[M^{i-},M^{j-}]\ \propto\ \sum_{n>0}\Big[\Big(\frac{D-2}{24}-1\Big)n+\frac{1}{n}\Big(a-\frac{D-2}{24}\Big)\Big]\big(\alpha^i_{-n}\alpha^j_n-\alpha^j_{-n}\alpha^i_n\big)+(\alpha\leftrightarrow\tilde\alpha) \tag{5}

比例係数 2/(p+)22/(p^+)^2 は省きました。これは閉じた弦の式で、(α↔α~)(\alpha\leftrightarrow\tilde\alpha) は左向きの振動の同じ形の項です。すべての nn で消えるのは D=26D=26 かつ a=1a=1 のときだけです 既知。原典は Goddard–Goldstone–Rebbi–Thorn(1973)で、その要旨も、角運動量の演算子がローレンツ群 O(D−1,1)O(D-1,1) を生成するのは 'only when the first excited state is a photon, i.e., a spin-one massless state, and when D = 26' と述べています。閉じた弦の第一励起は 242=576=299+276+124^2=576=299+276+1 状態で 計算、Tong はこれを SO(24)SO(24) の対称トレースなし・反対称・トレースの場 Gμν,Bμν,ΦG_{\mu\nu},B_{\mu\nu},\Phi に当て、最初を質量ゼロのスピン 2、すなわち重力子と読みます 物理。

図1 D を動かすと準位 α′M2=N−a\alpha'M^2=N-a が上下する(線の長さは状態数の対数)。太線の準位 1(超弦は 1/2)が M2=0M^2=0 に乗るのは、ボゾン弦で D=26、超弦で D=10 のときだけ
D = 26 a = 1 準位 1:24 状態 α′M² = 0 → 質量ゼロのベクトル(SO(24))として整合

計算この図の数値はこの端末で計算した。JavaScript が無効なら (4) と表2 で読める。

04

準位を数える:タキオンと状態数の増え方

D=26D=26 の開いた弦の N=0N=0 は α′M2=−1\alpha'M^2=-1、質量の二乗が負のタキオンです(Tong §3.1.1)。質量の項の符号が逆の場(2-02)で、ポテンシャルの極大の周りで展開していることを意味します 物理。準位 NN の状態数 dNd_N は、NN を「24 色の正の整数」の和に分ける仕方の数です。

∑N≥0dN qN=∏n≥1(1−qn)−24(6)\sum_{N\ge0} d_N\,q^N=\prod_{n\ge1}(1-q^n)^{-24} \tag{6}

準位 2 の 324 は SO(25)SO(25) の対称トレースなし 2 階の次元、準位 3 の 3200 は 2900+3002900+300(対称トレースなし 3 階と反対称 2 階)です 計算。Tong によれば全ての励起が SO(D−1)SO(D-1) の表現に収まり、条件は準位 1 だけです。準位 2・3 の数が SO(D−1)SO(D-1) の表現の次元の和に合うことは、D=4D=4〜3939 で確かめました 計算。どちらも DD の三次以下の多項式なので、これで任意の DD で成り立つ恒等式になります。

表2 開いたボゾン弦(D=26D=26)の準位。比は寄り道の Bessel 形との比(n=N−1n=N-1)
Nα′M2\alpha'M^2dNd_N比
0−11
1024
213241.000009
3232000.999998
1096.392×10⁸1.00000000
4003991.446×10⁹¹1.00000000

計算この表の数値はこの端末で計算した。

寄り道:分割数と Hardy–Ramanujan

寄り道

飛ばしてよい小節です。

1 色なら (6) の係数は分割数 p(N)p(N) で(4=3+1=2+2=2+1+1=1+1+1+14=3+1=2+2=2+1+1=1+1+1+1 の p(4)=5p(4)=5)、Hardy と Ramanujan(1918)は p(N)∼143 Neπ2N/3p(N)\sim\frac{1}{4\sqrt3\,N}e^{\pi\sqrt{2N/3}} を与えました 既知。24 色の (6) では、n=N−1n=N-1 と置くと dN≈12n−27/4e4πnd_N\approx\frac{1}{\sqrt2}n^{-27/4}e^{4\pi\sqrt n} ですが、近づき方は遅く、比は N=400N=400 でも 0.71 です。よく合うのは修正 Bessel 関数 I13I_{13} を使った形 2πn−13/2I13(4πn)2\pi n^{-13/2}I_{13}(4\pi\sqrt n) で、N=2N=2 で既に 5 桁一致します(表2)計算。Iν(x)I_\nu(x) は、xx が大きいと ex/2πxe^x/\sqrt{2\pi x} のように振る舞う関数です。これを入れると 2πn−13/2 e4πn/8π2n=12n−27/4e4πn2\pi n^{-13/2}\,e^{4\pi\sqrt n}/\sqrt{8\pi^2\sqrt n}=\frac{1}{\sqrt2}n^{-27/4}e^{4\pi\sqrt n} となり、二つの式は大きな nn で一致します。比 0.71 は、I13I_{13} をこの近似で置き換えたときのずれです。

寄り道:状態の増え方と Hagedorn 温度

寄り道

飛ばしてよい小節です。

準位 NN の開いた弦は α′M2=N−1\alpha'M^2=N-1 なので、上の寄り道と同じく n=N−1n=N-1 と置くと α′M2=n\alpha'M^2=n、つまり M=n/α′M=\sqrt{n/\alpha'} です。上の寄り道の漸近形から、状態の数は e4πn=e4πα′Me^{4\pi\sqrt n}=e^{4\pi\sqrt{\alpha'}M} の割で増えます(前に付く nn のべきは、指数に比べてゆっくり変わります)。温度を Θ\Theta と書きます(張力の TT と区別するため。ボルツマン定数を 1 とする単位)。質量 MM の状態の重みはボルツマン因子 e−M/Θe^{-M/\Theta}(2-08)なので、数と重みの積は e(4πα′−1/Θ)Me^{(4\pi\sqrt{\alpha'}-1/\Theta)M} の形になり、Θ>ΘH=1/(4πα′)\Theta\gt\Theta_H=1/(4\pi\sqrt{\alpha'}) では MM とともに増えて和が発散します。この ΘH\Theta_H が Hagedorn 温度です 物理。7-03 §06 の Hagedorn 長さ LHL_H(σLH2=π(d−2)/3\sigma L_H^2=\pi(d-2)/3、σ\sigma は張力でこの章の TT)に d=D=26d=D=26、σ=1/(2πα′)\sigma=1/(2\pi\alpha') を入れると LH=4πα′L_H=4\pi\sqrt{\alpha'} で、その逆数 1/LH1/L_H は ΘH\Theta_H と一致します 計算。7-03 で周期の方向を時間とみたとき 1/L1/L が温度になったのと同じ読み方です。

05

なぜ 26 か(二):中心電荷の帳尻

二つ目の導出は、世界面の上の DD 個の場 XμX^\mu を二次元の自由なスカラー場(2-02)として見ます。尺度を変えても形の変わらない二次元の理論(共形場理論)は中心電荷 cc を持ち、自由なスカラー 1 本で c=1c=1 です。正確には、共形場理論は角度を保つ写像(共形変換)で不変な理論で、尺度の変更はその一部です。二次元ではこの写像が無限に多く、それが理論を強く縛ります。cc は周 LL の円筒の上の基底エネルギーに現れます(左右の cc が等しい場合)。

E0(L)=−πc6L(7)E_0(L)=-\frac{\pi c}{6L} \tag{7}

(Blöte–Cardy–Nightingale 1986、Affleck 1986。Tong §4.4.1)既知。7-03 の閉じた管 の −π(D−2)/(6L)-\pi(D-2)/(6L) は c=D−2c=D-2 の場合で、端のある管の −πc/(24R)-\pi c/(24R) について Tong は 'c counts the number of degrees of freedom of the QCD flux tube' と書きます。Lüscher の係数は管の中心電荷を測っています。

Polyakov の定式化では世界面の計量も積分する場で、座標の取り替えと計量の尺度の変更(Weyl 変換)がゲージ対称性です。ゲージを固定すると補助の場(ゴースト。4-08 の Faddeev–Popov と同じ仕組み)が入り、中心電荷 −26-26 を持ちます。ゲージ対称性に量子的な破れ(アノマリー)は許されないので、合計は 0 でなければなりません(Tong §5.3)物理。

c物質+cゴースト=D⋅1+(−26)=0 ⟹ D=26(8)c_{\text{物質}}+c_{\text{ゴースト}} = D\cdot1+(-26)=0\ \Longrightarrow\ D=26 \tag{8}

光円錐の D−2D-2 本と −1/12-1/12、共変な形の DD 本とゴーストの −26-26 が、同じ 26 を選びます。正確には、(8) は計量の尺度(Weyl)をゲージ対称性として保つ限りの条件です。D≠26D\ne26 では尺度の自由度が消えずに残り、Liouville 場と呼ばれる新しい場として振る舞います(Tong §5.3.2 の非臨界弦)。Polyakov(1981)の要旨も 'At D = 26 the string dynamics is that of harmonic oscillators …, otherwise it is described by the nonlinear integrable theory' と、D≠26D\ne26 の側を別の理論として書いています。

06

なぜ 10 か:世界面の超対称性

ボゾン弦にはフェルミオン(電子やクォークの仲間)が無く、タキオンがあります。世界面に XμX^\mu の相棒のフェルミオン ψμ\psi^\mu(1 本で c=1/2c=1/2)を加え、両者を入れ替える世界面の超対称性をゲージ対称性にすると、ゴーストが中心電荷 +11+11 を足します。

D(1+12)+(−26+11)=0 ⟹ D=10(9)D\Big(1+\frac12\Big)+(-26+11)=0\ \Longrightarrow\ D=10 \tag{9}

Tong §5.3.1 では 'c = 26 − 11 = 15'、'D(1 + 1/2) = 15' です 物理。光円錐でも確かめます。フェルミオンの振動は境界条件により半整数 r=12,32,…r=\frac12,\frac32,\dots(Neveu–Schwarz、NS)か整数(Ramond、R)の番号を取り、零点エネルギーは符号が逆の −12∑r-\frac12\sum r です。有限部分は表1 です。

表1 和から 1/ε21/\varepsilon^2 を引いた残り(切り方 e−εre^{-\varepsilon r})
ε整数 ∑n e−εn\sum n\,e^{-\varepsilon n}半整数 ∑r e−εr\sum r\,e^{-\varepsilon r}
0.1−0.08329170.0416302
0.001−0.08333330.0416667
→ 0−1/12+1/24

計算この表の数値はこの端末で計算した(閉じた形と直接の和を突き合わせ)。

横一方向あたりの零点エネルギーは NS で −124−148=−116-\frac1{24}-\frac1{48}=-\frac1{16}、R で −124+124=0-\frac1{24}+\frac1{24}=0 です 計算。NS の準位は α′M2=N−D−216\alpha'M^2=N-\frac{D-2}{16}(NN は半整数も取る)で、第一励起 ψ−1/2i∣0⟩\psi^i_{-1/2}|0\rangle はまた D−2D-2 成分のベクトルです。質量ゼロの条件 12−D−216=0\frac12-\frac{D-2}{16}=0 は D=10D=10 で、(9) と一致します(図1 の「超弦」)。NS の基底 α′M2=−12\alpha'M^2=-\frac12 のタキオンは、状態の一部を捨てる規則(Gliozzi–Scherk–Olive 1977 に帰される)で除かれるとされます 物理。

寄り道:26 − 10 = 16 とヘテロ弦

寄り道

飛ばしてよい小節です。

Green–Schwarz(1984)は 10 次元のゲージ場と重力のアノマリーが相殺される群として SO(32)SO(32) と E8×E8E_8\times E_8 を挙げ、Gross–Harvey–Martinec–Rohm(1985)はヘテロ弦を 'a chiral combination of the closed D=26 bosonic and D=10 fermionic strings' として作りました 既知。26 と 10 の差は 16 で、SO(32)SO(32) と E8×E8E_8\times E_8 はともに階数 16、次元 496 です(E8E_8 は根 240 本と階数 8 で 248。1-04)計算。この 16 がゲージ群になる仕組みは 7-07 です。

07

なぜ 11 か:弦ではなく超重力の数

11 は弦の臨界次元ではありません。Cremmer–Julia–Scherk(1978)の要旨は 'We present the action and transformation laws of supergravity in 11 dimensions' です 既知。超重力は重力子とその超対称な相棒(グラビティーノ)を含む場の理論で、11 がその上限であることは Nahm(1978)の分類の帰結とされます。

骨組みはこうです 物理。超電荷は、ボソンとフェルミオンを入れ替える対称性(超対称性)の生成子で、QQ はその実成分の数です。超電荷が QQ 個あると、質量ゼロの多重項のヘリシティ(進む向きの周りの回転量)の幅は Q/8Q/8 で、スピン 2 以下(幅 4 以下)なら Q≤32Q\le32。11 次元がこれに収まる最後の次元とされます。

11 次元の超重力の場は、重力子と 3-形式とグラビティーノです。3-形式は添字を三つ持つ反対称な場で、電磁ポテンシャル AμA_\mu(2-03)の添字を三つにしたものです。自由度を小群 SO(9)SO(9)(D=11D=11 の SO(D−2)SO(D-2))で数えると、重力子 45−1=4445-1=44 と 3-形式 (93)=84\binom93=84 のボソン 128 が、グラビティーノ 9⋅16−16=1289\cdot16-16=128 と釣り合います 計算。グラビティーノの勘定では、SO(9)SO(9) のスピノル(フェルミオンの内部の自由度を運ぶ量)が 16 成分であることを、数としてだけ使いました。

Witten(1995)は要旨で 'It is argued … that eleven-dimensional supergravity arises as a low energy limit of the ten-dimensional Type IIA superstring' と論じました。IIA 弦は 10 次元の閉じた超弦の一種で、右向きと左向きの振動が持つ超対称性の向き(カイラリティ)が逆のものです。IIA 弦の結合を λ\lambda とすると、11 番目の円の半径は 11 次元の単位で

r(λ)=λ2/3(10)r(\lambda)=\lambda^{2/3} \tag{10}

です(同論文 式 (2.13))物理。弱結合では円が縮み、円を回る運動量 nn の状態は弦の計量で質量 ∼∣n∣/λ\sim|n|/\lambda(式 (2.14))と重くて見えません。比喩で言えば、弦の 10 次元は細い 11 次元の筒を遠くから見た姿です。正確には、低エネルギーの議論による予想で、強結合の IIA 弦に独立な定義はありません。Hořava–Witten(原稿 1995、掲載 1996)はヘテロ弦と 11 次元の結びつきを 'We propose' の形で提案しました。続く論文(1996)は、境界ごとにゲージ群が E8E_8 一つずつに決まることを論じ、それが 'the hypothesis that there is a consistent quantum M-theory' を新たに試す材料になると書いて、M 理論の存在を仮説として扱っています。この 11 次元の理論(M 理論)に完全な定義はありません。

08

「臨界次元」は臨界中心電荷:余剰次元は幾何でなくてもよい

(8)(9) が要求しているのは次元ではなく中心電荷です。Tong は 'the "critical dimension" of string theory is something of a misnomer: it is really a "critical central charge"' と書きます 既知。四次元の平坦な時空なら、ボゾン弦では X0,…,X3X^0,\dots,X^3 の c=4c=4 に c=22c=22 の任意の共形場理論を足せばよく、Tong は 'It is what we really mean when we talk about the "extra hidden dimensions of string theory"' と続けます。超弦では平坦な四次元が c=6c=6 で、残りは c=9c=9 です 計算。比喩で言えば、帳簿の総額だけが決まっていて品目は自由です。正確には、内部の理論は他の条件(世界面の超対称性など)も満たす必要があり、多様体として幾何に読めるのは特別な場合です。そのとき余剰次元がどう見えなくなるかは 7-06、ゲージ場が出る仕組みは 7-07 です。

図2 平坦な次元の数 d平坦d_{\text{平坦}} を動かすと中心電荷の帳簿の内訳が変わる。減らした分を内部の理論(斜線)が引き受け、合計は 0 のまま
ボゾン弦 平坦な 4 次元 c = 4 内部 c = 22 ゴースト c = −26 合計 0

計算この図の算術はこの端末で確かめた。JavaScript が無効なら d平坦+c内部=26d_{\text{平坦}}+c_{\text{内部}}=26(超弦は 32d平坦+c内部=15\frac32d_{\text{平坦}}+c_{\text{内部}}=15)で読める。

09

ヤン–ミルズに戻る:四次元の管と、ホログラフィーの次元

では 7-03 の四次元の管の弦は、26 次元でないので矛盾するのでしょうか。Polchinski–Strominger(1991)の要旨は、'QCD strings' などの四次元の弦の長い距離の有効理論が 'an interacting Poincaré-invariant conformal field theory with four bosons and c=26' だと述べ、両立を摂動の二次まで示しました 物理。自由なら c=4c=4 の 4 本のボソンが、相互作用で c=26c=26 を持つ形です。臨界次元が縛るのは基本の弦で、長い管の有効理論は四次元のまま整合します。ただし有効理論は短い距離で壊れ、厳密な導出もありません(7-03 §06)。

基本の弦の余剰次元がヤン–ミルズに戻るのはホログラフィー(7-08)を通してで、内訳は模型ごとに違います。Maldacena の AdS5×S5AdS_5\times S^5(AdS5AdS_5 は負の定曲率の五次元時空で、四次元の方向と動径の方向を持つ。S5S^5 は五次元球面)は 10 = 4 + 動径 + S5S^5、Witten 1998 §4 は 11 = 4 + 円 2 つ + 動径 + S4S^4(IIA に下ろすと円が一つ減って 10)、Gürsoy–Kiritsis の改良ホログラフィック QCD は 5 = 4 + 動径です。ギャップを作る次元も模型で違い、Witten の型では動径と潰れる円が作る二次元の葉巻、ボトムアップ型では動径一本と赤外の特異点です(7-09)物理。これらの余剰次元は双対な記述の道具で、実在の次元だとは主張されておらず、実験の下限(7-06)とは別の話です。

切れ目

(1) 弦の理論には非摂動的な定義が無く、M 理論は存在そのものが仮説です。(2) ホログラフィーの計算が効くのは N→∞N\to\infty、't Hooft 結合 →∞\to\infty の側で、四次元の純ヤン–ミルズへ戻す極限とは向きが逆です(7-10)。(3) 問題文(Jaffe–Witten)は、四次元で Wightman などの公理(4-09)を満たす非自明な相対論的場の理論を 'at present we do not know' と書きます。余剰次元の道も、四次元の理論をこの意味で構成していません。


この章が言えている範囲

言えている言えていない
既知(3)(5) の数え上げ(光円錐での世界面の二次元の計算として)。弦の理論の非摂動的な定義。M 理論の存在。
物理(4) の読み(第一励起を質量ゼロと読む)と (8)(9) の帳尻(ゴーストの中心電荷とアノマリーの議論)。D≠26D\ne26 の非臨界弦(Liouville 場)の扱い。
計算表1・表2、図1・図2、576・496・128、Hagedorn 温度(7-03 の 1/LH1/L_H)、α′\alpha'。表2 の Bessel 形がよく合う理由。
物理重力子とタキオンの読み、11 次元と IIA の関係、Hořava–Witten(提案)。「11 が上限」の原典での確認。
物理四次元の管の有効理論が c=26c=26 で整合すること(摂動の二次まで)。模型の次元の内訳。有効な弦の全次数での整合性。四次元のヤン–ミルズに管が在ること。余剰次元から四次元の理論を構成すること。このサイトは質量ギャップも連続極限の構成も示していない。

出典と再現

もの種別出典・道具
Jmax⁡J_{\max}、(2)〜(9)、各引用既知・物理D. Tong, "String Theory", arXiv:0908.0333 §2.2–2.4・§3.1・§4.4.1・§5.3(§5.3.2 の非臨界弦を含む)。本文を確認。
光円錐量子化と D=26D=26((4)(5) の原典)/'At D = 26 ...'既知・物理P. Goddard, J. Goldstone, C. Rebbi, C. B. Thorn, Nucl. Phys. B56 (1973) 109/A. M. Polyakov, Phys. Lett. B103 (1981) 207。要旨を確認。
中間子の模型、NS と R/タキオンを除く規則既知・物理G. Veneziano, Nuovo Cim. A57 (1968) 190(書誌のみ。双対共鳴模型の出発点という位置づけは未確認)/A. Neveu, J. H. Schwarz, Nucl. Phys. B31 (1971) 86/P. Ramond, Phys. Rev. D3 (1971) 2415(要旨を確認)/F. Gliozzi, J. Scherk, D. Olive, Nucl. Phys. B122 (1977) 253(要旨のみ。射影の帰属は未確認)。
小群/式 (7)既知E. P. Wigner, Ann. of Math. 40 (1939) 149/H. W. J. Blöte, J. L. Cardy, M. P. Nightingale, PRL 56 (1986) 742/I. Affleck, PRL 56 (1986) 746。書誌のみ(内容は Tong で確認)。
アノマリー相殺/ヘテロ弦既知M. B. Green, J. H. Schwarz, Phys. Lett. B149 (1984) 117/D. J. Gross, J. A. Harvey, E. J. Martinec, R. Rohm, PRL 54 (1985) 502。要旨を確認。
11 次元超重力/上限既知E. Cremmer, B. Julia, J. Scherk, Phys. Lett. B76 (1978) 409(要旨を確認)/W. Nahm, Nucl. Phys. B135 (1978) 149(要旨のみ。「11 が上限」は未確認)。
(10)、KK 質量、Hořava–Witten物理E. Witten, Nucl. Phys. B443 (1995) 85, hep-th/9503124(本文を確認。式 (2.13)(2.14))/P. Hořava, E. Witten, Nucl. Phys. B460 (1996) 506, hep-th/9510209(原稿 1995-10)と Nucl. Phys. B475 (1996) 94, hep-th/9603142(要旨を確認)。
四次元の管と c=26c=26物理J. Polchinski, A. Strominger, PRL 67 (1991) 1681。要旨を確認。
分割数の漸近形既知G. H. Hardy, S. Ramanujan, Proc. London Math. Soc. (2) 17 (1918) 75。書誌のみ。
模型の内訳/問題文物理・既知J. Maldacena, Adv. Theor. Math. Phys. 2 (1998) 231, hep-th/9711200/E. Witten, Adv. Theor. Math. Phys. 2 (1998) 505, hep-th/9803131 §4/U. Gürsoy, E. Kiritsis, JHEP 02 (2008) 032, arXiv:0707.1324(要旨)/A. Jaffe, E. Witten, "Quantum Yang–Mills Theory"(Clay の問題文、2000)。Witten 1998 §4 と問題文は本文を確認。
表・図・算術計算この端末の Python 3。zero_point.py(表1)、levels.py(表2・SO(D−1)SO(D-1)・Hagedorn・α′\alpha')、counts.py(576・128・496・帳尻)。

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改訂 2026-10-01:初版。