computo ergo sum

2026-10-01 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 2 部 物理の準備時空とローレンツ不変性

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 第 9 部 現在地と課題
  97. 9-01 世界はどこまで来ているか
  98. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  99. 9-03 新しい概念の候補
  100. 9-04 課題の一覧
  101. 9-05 よくある誤解
  102. 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
  103. 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
  104. 10-01 理論の構成の筋
  105. 10-02 一段の記帳
  106. 10-03 仮定 H と三つの鎖
  107. 10-04 方向の地図
  108. 10-05 方向 12〜14
  109. 10-06 方向 15・15′
  110. 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
  111. 10-08 壁の一覧
  112. 10-09 ひらめき帳から
  113. 10-10 主張しないこと
  114. 10-12 つじつま合わせ
  115. 10-11 定理までの距離
  116. 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
  117. 付録
  118. A-01 記号表
  119. A-02 用語集
  120. A-03 文献案内
  121. A-04 Lean と機械検査
  122. A-05 この本の作り方
  123. A-06 仮定の索引

特殊相対論と時空 — 符号が一つ違う二次形式を保つことが、作用の形を絞る

この章で分かること — ローレンツ変換は波動方程式の形を保つ変換で、間隔の符号が二点の関係を三つに分けること。
質量は四元運動量の不変な長さで、自由粒子の作用は固有時であること。
場の作用の形が絞られ、四次元の純ヤン–ミルズの作用には長さの尺度が無いこと。

前提となる章 — 2-01(作用・Euler–Lagrange・Noether)と行列の積(1-01)。2-02 の波動方程式と質量項も使います(式はその場で再掲)。04 節の群は 1-02、05 節の「なぜ質量ギャップと呼ぶか」は 2-05、07 節の電磁場は 2-03、そのヤン–ミルズは 1-03・1-04 を先取りします。初めて読むときは結論だけ受け取って先へ進めます。

先に言うこと — 重力の無い平坦な時空の、古典の話だけです(量子論は 2-05 から)。09 節の虚時間は形式的な代入で、正当化は 4-02・4-10 の仕事です。08 節の「古典の作用に尺度が無い」を含め、この章は質量ギャップについて何も示していません。

この章の順序
  1. 波動方程式は、ガリレイ変換で形を変える — 光速を誰にとっても同じに
  2. ローレンツ変換 — 間隔を保つ(図 1・表 1)
  3. 光円錐と同時の相対性 — 符号で三つに分かれる
  4. 四元ベクトルとローレンツ群 — 添字・非コンパクト
  5. 固有時と四元運動量 — 質量は不変な長さ(なぜ「質量」ギャップか)
  6. 自由粒子の作用 — 直線が固有時を最大にする(図 2・表 2)
  7. ローレンツ不変な場の作用 — スカラー・電磁・ヤン–ミルズ
  8. 次元の勘定 — 四次元の結合は無次元(表 3・表 4)
  9. 虚時間への橋 — 質量が減衰の速さになる

01

波動方程式は、ガリレイ変換で形を変える

2-02 で作った波動方程式を、空間一次元・波の速さ cc で書きます。

(1c2∂t2−∂x2)u=0(1)\Bigl(\frac{1}{c^2}\partial_t^2-\partial_x^2\Bigr)u=0 \tag{1}

速さ vv で右へ動く観測者の座標は、ニュートン力学では t′=t, x′=x−vtt'=t,\ x'=x-vt です(ガリレイ変換)。∂t=∂t′−v∂x′\partial_t=\partial_{t'}-v\partial_{x'}、∂x=∂x′\partial_x=\partial_{x'} を入れると、(1) の作用素は形を変えます。

1c2∂t′2−2vc2∂t′∂x′−(1−v2c2)∂x′2\frac{1}{c^2}\partial_{t'}^2-\frac{2v}{c^2}\partial_{t'}\partial_{x'}-\Bigl(1-\frac{v^2}{c^2}\Bigr)\partial_{x'}^2

例。u=f(x′−st′)u=f(x'-st') を代入すると s2+2vs−(c2−v2)=0s^2+2vs-(c^2-v^2)=0、つまり s=c−vs=c-v と −(c+v)-(c+v)。v=c/2v=c/2 なら右へ 0.5c0.5c、左へ 1.5c1.5c の波に見えます 計算。

音ならこれで正しい。空気に対して止まった観測者が特別だからです。しかし光の波動方程式は Maxwell 方程式(2-03)から出て、媒質を要しません。Einstein(1905)は、法則がどの慣性系でも同じ形であることと、光速が光源の運動によらないことを前提にしました 既知。問いを逆にします。(1) の形を変えない変換はどれか。

02

ローレンツ変換 — 間隔を保つ変換

線形変換では、作用素 (1) をそのまま保つことと次の間隔を保つことが同値です(二つの係数行列は互いに逆の関係で変わる。拡大・縮小は方程式 (1) を保つが間隔は保たない)。

s2=−c2t2+x2(2)s^2=-c^2t^2+x^2 \tag{2}

回転は x2+y2x^2+y^2 を保ち cos⁡,sin⁡\cos,\sin で書けました。s2s^2 を保つ変換は cosh⁡2φ−sinh⁡2φ=1\cosh^2\varphi-\sinh^2\varphi=1 により cosh⁡,sinh⁡\cosh,\sinh で書けます。

(ct′x′)=(cosh⁡φ−sinh⁡φ−sinh⁡φcosh⁡φ)(ctx)(3)\begin{pmatrix}ct'\\ x'\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\cosh\varphi&-\sinh\varphi\\ -\sinh\varphi&\cosh\varphi\end{pmatrix}\begin{pmatrix}ct\\ x\end{pmatrix} \tag{3}

φ\varphi を急速度(tanh⁡φ=v/c\tanh\varphi=v/c)、この変換を押し出しと呼びます。γ=cosh⁡φ=1/1−v2/c2\gamma=\cosh\varphi=1/\sqrt{1-v^2/c^2} と置けば t′=γ(t−vx/c2), x′=γ(x−vt)t'=\gamma(t-vx/c^2),\ x'=\gamma(x-vt) で、c→∞c\to\infty でガリレイ変換に戻ります(Einstein 1905 の §3 も、光速を VV と書く点を除いて同じ形)既知。回転との違いは時空の記事の §01・§04 にあります。例。v=0.5cv=0.5c で γ=1.1547\gamma=1.1547。x=0x=0 の時計の時刻 tt は動く観測者には t′=γtt'=\gamma t で、一刻みが延びて見えます。

図 1 急速度 φ を変えると、動く観測者の軸 t′・x′(実線)が光円錐(破線)へ倒れる。双曲線 s² = ±1(点線)は動かない。色の点線は、動く観測者にとって B と同時の線
φ = 0.00

計算図の数値は (3) からその場で計算。表 1 の行を押す(Tab で選んで Enter でもよい)と図がその速さになります。

計算表 1 γ\gamma・急速度・運動エネルギーの比((γ−1)mc2(\gamma-1)mc^2 ÷ mv2/2mv^2/2)。γ=cosh⁡φ\gamma=\cosh\varphi を検算。

v/cγφエネルギー比
0.11.0050380.10031.0076
0.51.1547010.54931.2376
0.92.2941571.47223.1955
0.99922.3662723.800242.8181
03

光円錐と同時の相対性 — 間隔の符号で三つに分かれる

二つの出来事の差の s2s^2 は押し出しで変わらず、その符号は誰が見ても同じです。

s2<0: 時間的,s2=0: 光的,s2>0: 空間的\begin{gathered}s^2\lt0:\ \text{時間的},\quad s^2=0:\ \text{光的},\\ s^2\gt0:\ \text{空間的}\end{gathered}

時間的な二点は光より遅い信号で結べ、時間の向きを反転しない変換(04 節)なら前後は誰が見ても同じです。空間的な二点はどんな信号でも結べず、前後が観測者によって入れ替わります。時間と空間を一つの四次元の幾何として見る見方は、Minkowski の 1908 年の講演で広く知られるようになりました。虚の時間座標 t−1t\sqrt{-1} を置いてローレンツ変換を四次元の回転と見る扱いは、Poincaré(1906)にすでにあります 既知。

例(図 1)。c=1c=1。原点 O と B =(t,x)=(0.4,1.3)=(t,x)=(0.4,1.3) は s2=1.53>0s^2=1.53\gt0 で空間的です。tB′=γ(0.4−1.3v)t'_B=\gamma(0.4-1.3v) は v>0.308v\gt0.308(φ>0.318\varphi\gt0.318)で負になり、B は O の「後」から「前」へ移ります。C =(1.5,0.5)=(1.5,0.5) は s2=−2s^2=-2 で時間的で、tC′=γ(1.5−0.5v)>0t'_C=\gamma(1.5-0.5v)\gt0 のままです。

入れ替わる二点が因果で結ばれていたら矛盾します。量子場の理論ではこれが「空間的に離れた場の演算子は可換」という公理になります(Jaffe–Witten §3、4-09)。光円錐と「距離の退化」は時空の記事の §03 へ。

04

四元ベクトルとローレンツ群 — 添字で書くと不変量が見える

空間を三次元に戻し、xμ=(ct,x,y,z)x^\mu=(ct,x,y,z) と書きます。上下に同じ添字が出たら和を取ります。

η=diag⁡(−1,1,1,1),s2=ημνΔxμΔxνΛTηΛ=η(4)\begin{gathered}\eta=\operatorname{diag}(-1,1,1,1),\quad s^2=\eta_{\mu\nu}\Delta x^\mu\Delta x^\nu\\ \Lambda^{\mathsf T}\eta\Lambda=\eta\end{gathered} \tag{4}

添字を下げるには η\eta を掛けます(xμ=(−ct,x,y,z)x_\mu=(-ct,x,y,z))。∂μ=∂/∂xμ\partial_\mu=\partial/\partial x^\mu、□=ημν∂μ∂ν=−∂t2/c2+∇2\Box=\eta^{\mu\nu}\partial_\mu\partial_\nu=-\partial_t^2/c^2+\nabla^2。符号 (−,+,+,+)(-,+,+,+) は時空の記事と同じで、逆の約束の教科書もあります。

ローレンツ変換は (4) の右の式を満たす 4×44\times4 実行列 Λ\Lambda で、群 O(1,3)\mathrm O(1,3) をなします(1-02)。O(1,3)\mathrm O(1,3) は det⁡Λ=±1\det\Lambda=\pm1 と時間の向き(左上の成分が ≥1\ge1 か ≤−1\le-1 か。(4) からその二乗は 1 以上)で四つの部分に分かれます。単位行列を含む部分 SO+(1,3)\mathrm{SO}^+(1,3)(det⁡Λ=1\det\Lambda=1・時間の向きを保つ)は回転 3 個と押し出し 3 方向で生成され、並進 4 個を加えた群が Poincaré 群です 既知。問題文の量子場は、この群の表現を持つヒルベルト空間の上に置かれます(Jaffe–Witten §3)。

例。SO(4)\mathrm{SO}(4) はコンパクトですが、SO+(1,3)\mathrm{SO}^+(1,3) は φ\varphi がいくらでも大きく取れるのでコンパクトではありません。問題文の「コンパクトな単純ゲージ群」は内部の対称性(1-04)の話で、時空のローレンツ群はもともと非コンパクトです。

05

固有時と四元運動量 — 質量は観測者によらない長さ

粒子が持ち歩く時計の時間を固有時 τ\tau と呼びます。s2s^2 の不変性から c2dτ2=c2dt2−∣dx⃗∣2c^2d\tau^2=c^2dt^2-|d\vec x|^2、つまり dτ=dt/γd\tau=dt/\gamma です。τ\tau は誰にとっても同じなので、四元運動量 pμ=m dxμ/dτp^\mu=m\,dx^\mu/d\tau は xμx^\mu と同じく Λ\Lambda で変わります。

pμ=(Ec,p⃗)=(γmc, γmv⃗)ημνpμpν=−m2c2(5)\begin{gathered}p^\mu=\Bigl(\frac{E}{c},\vec p\Bigr)=(\gamma mc,\ \gamma m\vec v)\\ \eta_{\mu\nu}p^\mu p^\nu=-m^2c^2\end{gathered} \tag{5}

右の式は E2=∣p⃗∣2c2+m2c4E^2=|\vec p|^2c^2+m^2c^4。EE と p⃗\vec p は観測者ごとに違っても、質量は四元運動量の不変な長さです。例。E=γmc2=mc2+12mv2+38mv4/c2+⋯E=\gamma mc^2=mc^2+\tfrac12mv^2+\tfrac38mv^4/c^2+\cdots で、表 1 の右端の列がこの補正です。

なぜ「質量」ギャップと呼ぶか

2-02 の分散関係 ω2=c2k2+Ω2\omega^2=c^2k^2+\Omega^2 は、E=ℏω, p=ℏkE=\hbar\omega,\ p=\hbar k(2-05)と読むと (5) そのもので、Ω=mc2/ℏ\Omega=mc^2/\hbar です。問題文は質量ギャップを「ハミルトニアン HH のスペクトル(取りうるエネルギーの値の集合。2-05・1-10 で定義)が (0,Δ)(0,\Delta) に無いこと」と定義します(Jaffe–Witten §4)。ローレンツ不変性・正のエネルギー(H≥0H\ge0 がどの観測者でも成り立つ)・真空が一つ、の三つがそろうと(Jaffe–Witten §3)、これは「真空以外の状態のエネルギーと運動量の組 (E,p⃗)(E,\vec p) は E≥∣p⃗∣2c2+Δ2E\ge\sqrt{|\vec p|^2c^2+\Delta^2} を満たす」ことと同じです。外れる組があると、空間的(E<∣p⃗∣cE\lt|\vec p|c)なら押し出しでエネルギーが負になって正のエネルギーに反し、時間的なら静止系で、光的なら押し出しでいくらでも小さくなって、(0,Δ)(0,\Delta) に入るからです。組 (0,0⃗)(0,\vec 0) を持つのが真空だけであることに、真空が一つという前提を使います 既知。Δ\Delta は最も軽い状態の mc2mc^2 と読めます(4-11)。

06

自由粒子の作用 — まっすぐな道が固有時を最大にする

作用(2-01)が誰にとっても同じなら、運動方程式も同じ形です。世界線の最も簡単な不変量は固有時なので、

S=−mc2∫dτ=−mc2∫1−∣v⃗∣2/c2  dt(6)\begin{gathered}S=-mc^2\int d\tau\\ =-mc^2\int\sqrt{1-|\vec v|^2/c^2}\;dt\end{gathered} \tag{6}

係数は、遅いときの展開 L=−mc2+12m∣v⃗∣2+⋯L=-mc^2+\tfrac12m|\vec v|^2+\cdots がニュートンに合うように選びました。運動方程式は ddt(γmv⃗)=0\frac{d}{dt}(\gamma m\vec v)=0 で世界線は直線、時間の並進の Noether 保存量(2-01)は E=γmc2E=\gamma mc^2 です。符号から作用の最小と固有時の最大は同じことで、端点を固定した時間的な世界線のうち固有時を最大にするのは直線です。両端が同じ場所にある観測者の系(両端は時間的なので、そういう系がある。そこでの時刻の差を TT)で見ると dτ=1−∣v⃗∣2/c2 dt≤dtd\tau=\sqrt{1-|\vec v|^2/c^2}\,dt\le dt で、等号は v⃗≡0\vec v\equiv0 のときだけ。だから τ≤T\tau\le T で、最大は直線だけです(τ\tau はどの系でも同じ)。これを逆向きの三角不等式と呼びます 既知。停留点は最小とは限りませんが(2-01)、ここでは本当に最小で、双子のパラドックスはこの言い換えです。

例。T=1T=1、x(t)=(u/π)sin⁡πtx(t)=(u/\pi)\sin\pi t(最高速 uu)の固有時は、E(k)=∫0π/21−k2sin⁡2θ dθ\mathcal E(k)=\int_0^{\pi/2}\sqrt{1-k^2\sin^2\theta}\,d\theta(第二種完全楕円積分)で τ=2πE(u)\tau=\tfrac2\pi\mathcal E(u)。u→1u\to1 で 2/π≈0.6372/\pi\approx0.637 です。

図 2 最高速 u を変えると、端点を固定した世界線が曲がり、固有時(色の点:0.1 T ごと)が減る。動かすと、同じ座標時刻での二人の時計が出る
u = 0.90

計算図の数値は dτ=dt/γd\tau=dt/\gamma の台形則(400 分割)でその場で計算。

計算表 2 端点を固定した世界線の τ/T\tau/T。曲線は数値積分と 2πE(u)\tfrac2\pi\mathcal E(u) が 2×10−162\times10^{-16} まで一致。折れ線は速さ uu で行って戻る道(双子)。

u/c曲線近似 1 − u²/4折れ線 √(1 − u²)
0.30.9771050.9775000.953939
0.60.9027800.9100000.800000
0.90.7459260.7975000.435890
0.990.6547480.7549750.141067
07

ローレンツ不変な場の作用 — スカラー場・電磁場・ヤン–ミルズ場

場の作用は S=1c∫L d4xS=\frac1c\int\mathcal L\,d^4x。∣det⁡Λ∣=1|\det\Lambda|=1 で d4xd^4x は変わらないので、ラグランジアン密度 L\mathcal L がスカラーなら作用は不変です。局所的(その点の場と一階微分だけ)という条件も課すと、項の形は強く絞られます。

スカラー場では ∂μϕ\partial_\mu\phi を η\eta で縮めます。

L=−12ημν∂μϕ ∂νϕ−12μ2ϕ2(□−μ2)ϕ=0,μ=mcℏ(7)\begin{gathered}\mathcal L=-\tfrac12\eta^{\mu\nu}\partial_\mu\phi\,\partial_\nu\phi-\tfrac12\mu^2\phi^2\\ (\Box-\mu^2)\phi=0,\quad \mu=\frac{mc}{\hbar}\end{gathered} \tag{7}

右が Klein–Gordon 方程式です。例。一次元で全体に張力 σ\sigma を掛けると 2-02 の質量項つきの弦になり、c2=σ/ρc^2=\sigma/\rho、Ω=cμ\Omega=c\mu と対応します。

電磁場。2-03 のポテンシャル ϕ,A⃗\phi,\vec A(この ϕ\phi は (7) の場とは別)を Aμ=(−ϕ/c,A⃗)A_\mu=(-\phi/c,\vec A) とまとめ、Fμν=∂μAν−∂νAμF_{\mu\nu}=\partial_\mu A_\nu-\partial_\nu A_\mu と置きます。成分は F0i=−Ei/cF_{0i}=-E_i/c、Fij=εijkBkF_{ij}=\varepsilon_{ijk}B_k(εijk\varepsilon_{ijk} は ε123=1\varepsilon_{123}=1 で、添字を入れ替えると符号を変える記号)で、電場と磁場を一つの反対称行列にまとめたものです。ゲージ変換 Aμ→Aμ+∂μχA_\mu\to A_\mu+\partial_\mu\chi(2-03 の (G))で変わりません。F0i=−F0iF^{0i}=-F_{0i}、Fij=FijF^{ij}=F_{ij} なので FμνFμν=−2∣E⃗∣2/c2+2∣B⃗∣2F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}=-2|\vec E|^2/c^2+2|\vec B|^2 で、

L=−14FμνFμν=12(∣E⃗∣2/c2−∣B⃗∣2)(8)\mathcal L=-\tfrac14F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}=\tfrac12\bigl(|\vec E|^2/c^2-|\vec B|^2\bigr) \tag{8}

SI では全体に 1/μ01/\mu_0 が掛かり、2-03 の (L) の ρ,J⃗\rho,\vec J の無い部分になります。運動方程式 ∂μFμν=0\partial_\mu F^{\mu\nu}=0 が真空の Maxwell 方程式の半分で、残り半分は FF を AA から作った時点で成り立ちます。

ヤン–ミルズ場。Aμ=AμaTaA_\mu=A^a_\mu T^a をリー環に値を取る場にし(1-03・1-04)、構造定数 fabcf^{abc} の項を FF に足します(3-02)。

L=−14g2∑aFμνaFa μνFμνa=∂μAνa−∂νAμa+fabcAμbAνc(9)\begin{gathered}\mathcal L=-\frac{1}{4g^2}\sum_aF^a_{\mu\nu}F^{a\,\mu\nu}\\ F^a_{\mu\nu}=\partial_\mu A^a_\nu-\partial_\nu A^a_\mu+f^{abc}A^b_\mu A^c_\nu\end{gathered} \tag{9}

行列で書けば Fμν=∂μAν−∂νAμ−i[Aμ,Aν]F_{\mu\nu}=\partial_\mu A_\nu-\partial_\nu A_\mu-i[A_\mu,A_\nu](TaT^a はエルミートで [Ta,Tb]=ifabcTc[T^a,T^b]=if^{abc}T^c=1-03 の規約。gg は AA に吸収)。最後の項が Maxwell との唯一の違いで、場が自分自身の源になります。それでも古典の方程式は「光の速さで進む質量の無い波」を記述します(Jaffe–Witten §1)既知。

ゲージ不変性(3-02)も課し、群が単純なら(不変な二次形式が定数倍を除いて一つ。1-03)、FF の二次式でローレンツ不変なものは ∑aFμνaFa μν\sum_aF^a_{\mu\nu}F^{a\,\mu\nu} と ∑aεμνρσFμνaFρσa\sum_a\varepsilon^{\mu\nu\rho\sigma}F^a_{\mu\nu}F^a_{\rho\sigma}(ε0123=1\varepsilon^{0123}=1 の四次元版の記号)の一次結合だけです 既知。二つ目は電磁場なら E⃗⋅B⃗\vec E\cdot\vec B に比例し、空間反転で符号を変え、全微分なので運動方程式を変えません(3-05 の θ\theta 項)。条件が無いと、任意の対称行列 cabc_{ab} で作る ∑cabFμνaFb μν\sum c_{ab}F^a_{\mu\nu}F^{b\,\mu\nu} も不変です。

08

次元の勘定 — ħ = c = 1 と、結合定数の次元

c=1c=1 で長さと時間が、ℏ=1\hbar=1 でエネルギーと時間の逆数がそろい、残る単位は一つです。質量の次元を 1 とすると長さは −1-1。換算は ℏc=197.3269804… MeV fm\hbar c=197.3269804\ldots\ \mathrm{MeV\,fm}(1 fm=10−15 m1\,\mathrm{fm}=10^{-15}\,\mathrm m)だけです。ギャップ Δ\Delta には長さ ℏc/Δ\hbar c/\Delta が対応し、相関の届く距離の目安です。ギャップがあると、真空での期待値 ⟨O⟩\langle O\rangle が 0 の局所的な量 OO なら、同じ時刻で十分離れた二点での相関 ∣⟨O(x⃗)O(y⃗)⟩∣|\langle O(\vec x)O(\vec y)\rangle| は、C<Δ/(ℏc)C\lt\Delta/(\hbar c) を満たす任意の CC で exp⁡(−C∣x⃗−y⃗∣)\exp(-C|\vec x-\vec y|) 以下です(Jaffe–Witten §5。ℏ=c=1\hbar=c=1 なら C<ΔC\lt\Delta)。期待値が 0 でないと、相関は ⟨O⟩2\langle O\rangle^2 に近づきます。

計算表 3 質量を長さに直す(ℏc\hbar c は SI の定義値 h,c,eh,c,e から計算)。

ものmc²(MeV)ħ/(mc)(fm)
電子0.51099895069386.159267
陽子938.272089430.210309

作用は無次元(ℏ\hbar で測る)なので、dd 次元の時空で [L]=d[\mathcal L]=d、[∂]=1[\partial]=1。(∂ϕ)2(\partial\phi)^2 と λϕ4\lambda\phi^4 の次元が dd であることから、また (9) の FF が ∂A\partial A と AAAA の和で [A]=1[A]=1、[F2]=4[F^2]=4 であることから、

[ϕ]=d−22,[λ]=[g2]=4−d(10)[\phi]=\frac{d-2}{2},\quad [\lambda]=[g^2]=4-d \tag{10}

計算表 4 質量の次元(ℏ=c=1\hbar=c=1、分数で計算)。

d[φ][λ][g²]読み
2022結合が質量²の次元
31/211結合が質量の次元
4100結合は無次元
53/2−1−1結合が長さの次元

四次元では、作用 (9) に次元を持つ定数が一つも無い。係数から質量も長さも組み立てられず、古典のヤン–ミルズ理論に尺度はありません 既知。量子論で Δ>0\Delta\gt0 があるなら尺度は古典の作用の外から来るはずで、物理では繰り込みの過程で入ると考え次元転移と呼びます(4-07)物理。解説も、四次元のゲージ理論で質量ギャップが古典的に見えない('the mass gap is not classically visible')ことを、古典的でない変数の取り替えが要りうる理由に挙げます(Jaffe–Witten §6.6)。二・三次元では g2g^2 自体が尺度です(4-04・6-06)。ϕ4\phi^4 は 6-08、四次元の別の特別さは 四次元の記事へ。表 4 の dd を連続に動かし、四で切り替わる他の量と並べた図は 1-12 §10 の次元のつまみです。

09

虚時間への橋 — 符号を一つ戻すと、質量は減衰の速さになる

(2) に t=−iτt=-i\tau(τ\tau は実)を代入すると −c2t2=c2τ2-c^2t^2=c^2\tau^2 で、間隔はユークリッドの距離の二乗 c2τ2+∣x⃗∣2c^2\tau^2+|\vec x|^2 になります。符号の違いを形式的に戻す Wick 回転(名は Wick 1954 にちなむとされる)で、時空の記事 §02 の ictict と同じ操作です(場の作用と相関での形は 4-02 §02 が正本)。∂t2=−∂τ2\partial_t^2=-\partial_\tau^2 なので □\Box は四次元のラプラシアンに、(7) は (−∂τ2/c2−∇2+μ2)ϕ=0(-\partial_\tau^2/c^2-\nabla^2+\mu^2)\phi=0 になり、振動が減衰に変わります。空間の依存を落とし c=1c=1 と置いた一次元版が (11) です。δ(τ)\delta(\tau) は τ=0\tau=0 に集中し ∫f(τ)δ(τ) dτ=f(0)\int f(\tau)\delta(\tau)\,d\tau=f(0) となるもの(正確には関数でなく超関数。1-11)。

(−d2dτ2+μ2)G=δ(τ)G(τ)=e−μ∣τ∣2μ(11)\begin{gathered}\Bigl(-\frac{d^2}{d\tau^2}+\mu^2\Bigr)G=\delta(\tau)\\ G(\tau)=\frac{e^{-\mu|\tau|}}{2\mu}\end{gathered} \tag{11}

例。τ≠0\tau\ne0 では G′′=μ2GG''=\mu^2G、τ=0\tau=0 で傾き G′G' が −1-1 跳ぶので G′′G'' は −δ-\delta を含み、−G′′+μ2G=δ-G''+\mu^2G=\delta です。三次元なら e−μr/(4πr)e^{-\mu r}/(4\pi r) 既知。ユークリッドの側では、質量は減衰の速さ(長さの逆数)として現れます。4-11 で質量ギャップと相関長を結ぶ出発点です。ユークリッドの理論を確率測度として書き(4-02)、Minkowski の側を再構成する条件(Osterwalder–Schrader)は 4-10 の主題です。この章は代入を見せただけです。


この章が言えている範囲

内容状態
ローレンツ変換・間隔の三分類・四元運動量・自由粒子の作用と固有時の最大・三種の場の作用の形言えている 既知(表 1・2 で数値も確認 計算)
ローレンツ不変性・正のエネルギー・真空が一つ、のもとで、ギャップの定義が E≥∣p⃗∣2c2+Δ2E\ge\sqrt{|\vec p|^2c^2+\Delta^2} と同じになること言えている 既知(05 節。公理の枠組みは 4-09・4-11)
四次元の純ヤン–ミルズの古典作用に次元を持つ定数が無いこと言えている 既知(表 4 計算)
ギャップの尺度が繰り込みから来ること(次元転移)物理の水準 物理(4-07)
Wick 回転の正当化・曲がった時空・スピン扱っていない
ヤン–ミルズの質量ギャップこの章は何も示していない

出典と再現

もの種別出典・道具
01 節の係数・表 1〜4・図 1〜2計算表は python3(NumPy・SciPy)。図はブラウザの JavaScript((3) と台形則)。JavaScript が無効のときの静止画は同じ式から python3 で作った SVG
二つの前提とローレンツ変換既知A. Einstein, “Zur Elektrodynamik bewegter Körper”, Ann. Phys. 17 (1905) 891–921。序と §3 を確認(光速の記号は V)
時空の幾何としての見方既知H. Minkowski, “Raum und Zeit”, Phys. Z. 10 (1909) 104–111(1908 年 9 月 21 日ケルンでの講演)。冒頭を確認
虚の時間座標・ローレンツ変換を四次元の回転と見ること既知H. Poincaré, “Sur la dynamique de l’électron”, Rend. Circ. Mat. Palermo 21 (1906) 129–176。書誌のみ(Wikisource の翻刻で該当の一節だけ確認)
ギャップの定義・Poincaré 群・正のエネルギーと真空の一意性・局所性・クラスター性・古典の波既知A. Jaffe, E. Witten, “Quantum Yang–Mills theory”(Clay 数学研究所の問題解説)。§1・§3〜§5・§6.6 を確認
Wick 回転の名既知G. C. Wick, Phys. Rev. 96 (1954) 1124–1134。書誌のみ(帰属は未確認)
ħc・電子と陽子の質量既知CODATA 2022(NIST で確認)。ħc は SI の定義値からの計算と一致
固有時の最大・O(1,3)\mathrm O(1,3) の四つの部分・FF の二つの不変量(ゲージ不変・単純群のもと)・電磁場の成分・次元の勘定既知標準的な事実(本文の式で確かめられる)

次に読む章:2-05 量子力学の骨。虚時間の続きは 4-02、時空そのものは 符号が一つ違う。

← 2-03 電磁気学はゲージ理論である目次2-05 量子力学の骨 →

改訂 2026-10-01:初版。