computo ergo sum

2026-10-01 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 7 部 物理の側からゲージ群の出どころ

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 第 9 部 現在地と課題
  97. 9-01 世界はどこまで来ているか
  98. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  99. 9-03 新しい概念の候補
  100. 9-04 課題の一覧
  101. 9-05 よくある誤解
  102. 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
  103. 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
  104. 10-01 理論の構成の筋
  105. 10-02 一段の記帳
  106. 10-03 仮定 H と三つの鎖
  107. 10-04 方向の地図
  108. 10-05 方向 12〜14
  109. 10-06 方向 15・15′
  110. 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
  111. 10-08 壁の一覧
  112. 10-09 ひらめき帳から
  113. 10-10 主張しないこと
  114. 10-12 つじつま合わせ
  115. 10-11 定理までの距離
  116. 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
  117. 付録
  118. A-01 記号表
  119. A-02 用語集
  120. A-03 文献案内
  121. A-04 Lean と機械検査
  122. A-05 この本の作り方
  123. A-06 仮定の索引

ゲージ場はどこから来るか — 群は膜の枚数・格子・特異点の形から読み取られる

この章で分かること — 余剰次元の側でゲージ群が出力になる四つの仕組み(内部空間の対称性・重なった膜・弦の内部の格子・潰れる球)。膜の位置が行列の固有値になり、ADE が「負定値」という線形代数から出ること。純ヤン–ミルズへ下りる道と、それが頼る期待。

前提となる章 — 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み。根(1-04)、ホロノミー(1-07)、中心電荷(7-05)を使います。交差数と格子はその場で定義します。

先に言うこと — 仕組みはすべて物理の水準で、弦の理論にも M 理論にも数学的な定義はありません。群が幾何から出ることと、四次元の量子ヤン–ミルズ理論が存在して質量ギャップを持つことは別の問題です。このサイトは質量ギャップも連続極限の構成も示していません。

この章の順序
  1. 群は入力か出力か — 四つの出どころ
  2. 内部空間の対称性 — 非可換な Kaluza–Klein
  3. 膜の上の弦 — N 枚で U(N)
  4. 位置が行列になる — 固有値が膜の位置
  5. ヘテロ弦 — 16 次元の格子(寄り道:同じ塔、違う群)
  6. Calabi–Yau に巻く — 可換な部分
  7. 潰れる球と ADE — 負定値
  8. 折りたたみと幾何工学
  9. 十一次元から純ヤン–ミルズへ — 二つの円と期待
  10. ヤン–ミルズに戻る — 群は難しさの在りかではない

01

群は入力か出力か — 四つの出どころ

四次元のヤン–ミルズ理論では、ゲージ群 GG は手で選ぶ入力です。懸賞問題の文(Jaffe–Witten)も 'for any compact simple gauge group G' と書き、1-04 の一覧のどれでもよいとします(0-03)。余剰次元を持つ理論では、群が別のものから読み取られる出力になります 物理。

対称性内部空間の等長変換§02
膜の枚数D ブレーン N 枚で U(N)§03–04
格子ヘテロ弦の余った 16 次元§05–06
特異点潰れる球の並びで ADE§07–08

どの道でも決まるのは低いエネルギーで見える場の組と群で、四次元の量子論の存在ではありません。四つのうち膜・格子・特異点の三つは超対称な設定(ボソンとフェルミオンを入れ替える対称性を持つ理論)の中の話で、そのことが純ヤン–ミルズにとって何を意味するかは §10 で振り返ります。

02

内部空間の対称性 — 非可換な Kaluza–Klein

7-06 §04 では円の回転が U(1) になりました。内部空間 KK の距離を変えない変換(等長変換)の群 Isom(K)\mathrm{Isom}(K) が大きければ、その無限小の生成元(キリングベクトル場)一本ごとにゲージ場が一本出て、生成元の交換子が構造定数(1-03)になります 物理。球面の回転の生成元 La=εabcxb∂cL_a=\varepsilon_{abc}x_b\partial_c では

[La,Lb]=−εabc Lc,dim⁡SO(n+1)=n(n+1)2(1)[L_a,L_b]=-\varepsilon_{abc}\,L_c,\qquad \dim SO(n+1)=\frac{n(n+1)}{2} \tag{1}

で(左の式は数値で確かめた 計算)、SnS^n からは n(n+1)/2n(n+1)/2 本、CP2\mathbb{CP}^2(C3\mathbb C^3 の原点を通る複素直線全体。実 4 次元)からは SU(3) の 8 本のゲージ場が出ます 既知。等長変換の群が局所的に(リー環として)SU(3)×SU(2)×U(1)(3-07)になる七次元の空間の一例が CP2×S2×S1\mathbb{CP}^2\times S^2\times S^1(4+2+1=74+2+1=7 次元)で、四次元と合わせて全体は 4+7=114+7=11 次元になります。

Witten(1981)は十一次元の超重力を七次元の空間に丸める道を調べ、要旨で 'It is possible to obtain an SU(3) × SU(2) × U(1) gauge group, but the proper fermion quantum numbers are difficult to achieve' と書きました。Witten が調べた七次元の空間が上の例と同じとは限りません。

03

膜の上の弦 — N 枚重ねると U(N)

開いた弦の端を部分空間に張り付ける境界条件を課すと、その部分空間が D ブレーンです(Polchinski 1995:'extended objects defined by mixed Dirichlet-Neumann boundary conditions in string theory')物理。空間 pp 次元のものを Dpp ブレーンと呼びます。弦の両端に膜の番号 1,…,N1,\dots,N を付けると、状態は N×NN\times N 行列を係数に持ち、質量ゼロのベクトルは U(N) の随伴表現(1-04)になります(Polchinski の講義 1996:'this global symmetry of the world-sheet theory is elevated to a gauge symmetry in spacetime')。弦は N2N^2 種類、dim⁡U(N)=N2\dim U(N)=N^2 です。

膜を離すと間の弦は重くなります(Witten 1995b §3。TT は弦の張力、aia_i は膜の位置)。

mij=T ∣ai−aj∣(2)m_{ij}=T\,|a_i-a_j| \tag{2}

n1,n2,…n_1,n_2,\dots 枚ずつ重なれば、残る群は U(n1)×U(n2)×⋯U(n_1)\times U(n_2)\times\cdots で

#{質量ゼロのベクトル}=∑knk2,#{重い W}=N2−∑knk2(3)\#\{\text{質量ゼロのベクトル}\}=\sum_k n_k^2,\qquad \#\{\text{重い W}\}=N^2-\sum_k n_k^2 \tag{3}

です(Polchinski の講義にも同じ勘定)。膜を離すことは、ヒッグス機構を幾何の側から見たものです。正確には、§04 の随伴スカラー XiX^i が対角の値 diag(a1,…,aN)\mathrm{diag}(a_1,\dots,a_N) を取ると、非対角のゲージ場が (2) の質量を得ます。スカラーの値でゲージ場が重くなるこの仕組みをヒッグス機構と呼びます(3-07)物理。

図1 四枚の膜(縦線)の間隔 d1,d2,d3d_1,d_2,d_3 を動かすと、残る群と W の質量が変わる。弧は重い弦(数字は質量/T)、上の輪は重なった膜の間の弦。重い弦は向きが二通り(i→ji\to j と j→ij\to i)あるので、弧一本・質量一つにつき 2 本と数える
群 U(2)×U(1)² 質量ゼロ 6・重い 10 W の質量/T(各 2 本):0.60, 0.60, 1.20, 1.20, 1.80
表1 四枚の膜の重なり方と (3) の数(重い弦は向きが二通りあるので、W の質量一つにつき 2 本)
重なり方43+12+22+1+11+1+1+1
残る群U(4)U(3)×U(1)U(2)×U(2)U(2)×U(1)²U(1)⁴
質量ゼロ/重い16/010/68/86/104/12

計算表1 はこの端末で数え、図1 は (2)(3) からその場で描く。JavaScript が無効なら表1 を。

離れた四枚の W の質量は d1,d2,d3d_1,d_2,d_3 とその連続した和の 6 通りで、SU(4)(A3A_3)の単純根 3 本と正の根 6 本の関係です。§07 では同じ構造が球の面積として現れます。

04

位置が行列になる — 膜の上の理論

重なった膜の上の理論は 'the dimensional reduction of ten-dimensional supersymmetric Yang-Mills theory with gauge group U(n) from ten to p+1 dimensions' です(Witten 1995b §3)物理。十次元のゲージ場の成分を膜に沿う方向と垂直な方向に分けると

AM=(A0,…,Ap ; Xp+1,…,X9),V=−T22∑i,jtr⁡([Xi,Xj]2) ≥0(4)A_M=\big(A_0,\dots,A_p\,;\,X^{p+1},\dots,X^9\big),\qquad V=-\frac{T^2}{2}\sum_{i,j}\operatorname{tr}\big([X^i,X^j]^2\big)\ \ge 0 \tag{4}

で、XiX^i は随伴表現の 9−p9-p 本のスカラー(N×NN\times N エルミート行列)、VV はそのポテンシャルです。XX はエルミートなので [Xi,Xj][X^i,X^j] は反エルミートで、tr⁡[Xi,Xj]2≤0\operatorname{tr}[X^i,X^j]^2\le0。したがって V≥0V\ge0 です。V=0V=0 なら行列は同時に対角化でき、Witten は対角成分を膜の位置と読みます。非対角成分が膜の間の弦で、写像 δ↦∑k[Xk,[Xk,δ]]\delta\mapsto\sum_k[X^k,[X^k,\delta]] の固有値は ∣aλ−aμ∣2|a_\lambda-a_\mu|^2(T2T^2 を掛ければ (2) の二乗)です。ユニタリ行列で共役にした二方向の例で 4×10−154\times10^{-15} 以内の一致を確かめました 計算。

D3 ブレーンの上は、6 本のスカラーとフェルミオンを伴う四次元 N=4\mathcal N=4 の U(N) 超対称ヤン–ミルズで(7-08 の出発点)、純ヤン–ミルズではありません。行列の添字は 7-04 の二重線と同じ構造です。

05

ヘテロ弦 — 16 次元の格子が群になる

ヘテロ弦は、閉じた弦の右向きを超弦(中心電荷 15)、左向きをボゾン弦(26)の帳簿に従わせたものです(7-05 §06、Gross–Harvey–Martinec–Rohm 1985)。左向きは平坦な十次元の 10 に対して 16 足りず、Polchinski の講義(1994)は超対称なヘテロ弦について 'an additional (0, 16) is needed from another unitary CFT' と書き、解は E8×E8E_8\times E_8 か SO(32) だけだと続けます 物理。

16 次元の格子

格子の描像では、この 16 を左向きの 16 本のボソンを巻いたトーラス R16/Γ\mathbb R^{16}/\Gamma と見ます 物理。運動量 PP は格子 Γ\Gamma に乗り、P⋅P=2P\cdot P=2 の状態が質量ゼロのベクトルになります。トーラスに巻いたヘテロ弦について、Witten(1995 §4.6)は 'The gauge symmetry is extended precisely when V⊥V^\perp contains some P of dP=1d_P=1' と書きます。Witten の V⊥V^\perp は左向きの電荷の空間です。Witten は内積の符号を本章と逆に取って dP=−(P,P)/2d_P=-(P,P)/2 と書くので、dP=1d_P=1 は本章の符号で P⋅P=2P\cdot P=2 に当たります。Γ\Gamma は偶(P⋅PP\cdot P がすべて偶数)で自己双対(全点と整数の内積を持つ点がちょうど Γ\Gamma)でなければなりません。この条件は、世界面がトーラスになる一ループの振幅が、トーラスの形の取り方に依らないという要請(モジュラー不変性)から来るとされ、Polchinski の講義も 'The constraints of modular invariance are strong' と書きます。

dim⁡G=16+#{P∈Γ: P⋅P=2}(5)\dim G=16+\#\{P\in\Gamma:\ P\cdot P=2\} \tag{5}

16 次元の偶で自己双対な格子は二つだけです 既知。どちらも「x∈Zn∪(Z+12)nx\in\mathbb Z^n\cup(\mathbb Z+\tfrac12)^n、∑xi\sum x_i が偶数」で書け、n=8n=8 を二つ並べたのが E8⊕E8E_8\oplus E_8、n=16n=16 が D16+D_{16}^+ です。根はどちらも 480 本で (5) は 496 ですが、内積が 0 でない根を結ぶと、前者は 240 本ずつ二つに分かれ(E8×E8E_8\times E_8)、後者は一つにつながります(so(32)\mathfrak{so}(32))計算。十次元の群は正確には Spin(32)/Z2\mathrm{Spin}(32)/\mathbb Z_2 と書かれます。Spin(32)\mathrm{Spin}(32) は SO(32) の二重被覆で、1-02 の SU(2)→SO(3) と同じ関係です(割る Z2\mathbb Z_2 は、SO(32) に戻すものとは別の元です)。D16+D_{16}^+ の根が張る格子は D16+D_{16}^+ の中で指数 2 の部分格子で、この /Z2/\mathbb Z_2 はその差に対応するとされます。

十一次元から見ると、Hořava–Witten は二つの E8E_8 が線分 S1/Z2S^1/\mathbb Z_2 の両端の壁に一つずつ載ると提案しました(1995 年の要旨は 'We propose'、1996 年の要旨は群が 'a copy of E8 for each boundary component' に決まると書き、'the hypothesis that there is a consistent quantum M-theory' を前提と明示)物理。

寄り道:同じ塔、違う群

寄り道

飛ばしてよい小節です。

平らなトーラス Rn/Γ\mathbb R^n/\Gamma のラプラシアンの固有値は双対格子の点 vv ごとに 4π2 v⋅v4\pi^2\,v\cdot v で(7-06 §02 の nn 次元版)既知、自己双対なら KK 塔の各段の個数は長さの二乗が 2k2k の点の数です。数えると、E8⊕E8E_8\oplus E_8 と D16+D_{16}^+ でともに k=1,2,3k=1,2,3 で 480・61920・1050240 個、k≤6k\le6 のすべての段で一致し、480 σ7(k)480\,\sigma_7(k)(σ7\sigma_7 は約数の 7 乗の和)とも一致しました 計算。

全段で一致することが知られ、Milnor(1964)はこの二つのトーラスを、固有値が重複度まで同じなのに等長でない例として挙げたとされます 既知。塔は同じでも、ヘテロ弦に載せた群は違います。

06

Calabi–Yau に巻く — ホロノミーと可換な部分

E8×E8E_8\times E_8 を四次元に下ろすには六次元の Calabi–Yau 多様体 KK に丸めます(7-06 §05)。KK のホロノミー(1-07)は SU(3) に収まり、標準的な構成ではゲージ場のホロノミーも E8E_8 の中の SU(3) にそろえるとされます 物理。四次元で見えるゲージ変換は KK 全体で一定の gg で、どの閉じた道の平行移動でも変わらない、つまりホロノミーのすべての元と可換でなければなりません 既知。

G4={ g∈E8: gh=hg  for all h∈SU(3) }(6)G_4=\{\,g\in E_8:\ gh=hg\ \ \text{for all } h\in SU(3)\,\} \tag{6}

E8E_8 の根 240 本のうち SU(3) の根と直交するものは 72 本で、E6E_6(次元 78)になります 計算。Candelas–Horowitz–Strominger–Witten(1985)の要旨は 'a model that in four dimensions has an E6 gauge group with four standard generations of fermions' と書きます。

表3 E8E_8 の中で SU(n) と可換な部分(248=248= 残る群 + SU(n) + 余り)
ホロノミーSU(2)(K3)SU(3)(Calabi–Yau)SU(4)SU(5)
残る群E7E_7E6E_6SO(10)SU(5)
内訳133+3+11278+8+16245+15+18824+24+200

計算表3 は E8E_8 の根 240 本を座標で作って数え、型は階数・根の数・Cartan 行列の行列式で決めた。

余りの 162 本は 2×27×32\times27\times3(E6E_6 の 27 次元と SU(3) の 3 次元の組とその共役)で、四次元のフェルミオンはここから来るとされます。

07

潰れる球と ADE — 負定値の線形代数

K3 曲面は複素二次元(実四次元)の Calabi–Yau 多様体で、ホロノミーは SU(2) です(表3 の左端)既知。Witten(1995 §4.6)は、トーラスに巻いたヘテロ弦と K3 曲面に巻いた IIA 弦の対応で 'Whenever the heterotic string on a four-torus gets an enhanced gauge group G, the corresponding K3 gets an orbifold singularity of type G' と書きます 物理。そのとき 'a configuration of r two-spheres SiS_i (with an intersection matrix given by the Dynkin diagram of G) collapses to a point' で(Dynkin 図はこの節の後半で定義します)、球一つにつき U(1) が一つ出ます。W ボソンは潰れる球に巻きついた二次元の膜です(Bershadsky–Sadov–Vafa 1996 §1 の記述による)。質量は膜の張力×球の面積とされ、§03 の T∣a∣T|a| と同じ形です。

交差数と負定値

なぜ ADE だけか。球の交差数 Mij=Si⋅SjM_{ij}=S_i\cdot S_j を見ます。二つの球については、交わる点を向きの符号 ±1\pm1 付きで数えた和です。自分自身との交差数(自己交差数)は、球を少しずらした写しとの交点を同じように数えたもので、K3 の中の球では −2-2 になります 既知。球の類どうしの「内積」をこの交差数で定めると、K3 ではこの内積は三方向で正・十九方向で負です(符号 (3,19)(3,19))既知。Witten によれば、潰れる極限で球の類はこの内積が負定値になる部分空間 V⊥V^\perp に入るので、MM は負定値(すべての x≠0x\ne0 で xTMx<0x^{\mathsf T}Mx<0)です。潰れる球 SiS_i は正則な曲線(局所的に複素座標の正則関数の零点として書ける、複素一次元の曲線)にとれ、異なる正則な曲線どうしの交点は複素構造のためにどれも正の数として数えられるので Mij≥0M_{ij}\ge0 です 既知。x=ei+ejx=e_i+e_j で −4+2Mij<0-4+2M_{ij}<0 から Mij≤1M_{ij}\le1。よって M=−(2I−A)M=-(2I-A) で、AA は球を頂点、交わりを辺とするグラフの隣接行列です。このグラフを Dynkin 図と呼びます(ここに出るのは辺がすべて一重の「単純レース型」)。次が要ります。

xT(2I−A) x=2∑ixi2−2∑辺 ijxixj > 0(x≠0)(7)x^{\mathsf T}(2I-A)\,x=2\sum_i x_i^2-2\sum_{\text{辺 } ij}x_ix_j\ >\ 0\qquad(x\ne0) \tag{7}

グラフが連結でなければ成分ごとに考えます(成分ごとに群の積になります)。連結なグラフに輪があれば、輪の上で 1 のベクトルで左辺が 0 以下なので、木に限られます。頂点 10 個以下の木 201 個を調べると、残るのは A 型(一直線)・D 型(端が二股)・E6,E7,E8E_6,E_7,E_8 だけでした(表4)計算。一般の頂点数でもこれだけであることは、単純リー環の分類(1-04)の一部として知られます 既知。

図2 型を選ぶと、潰れる球の並び(丸が球、線が交わり)と (7) の最小固有値・群の次元が変わる。「折りたたむ」は §08 の入れ替えの軌道を色で示す
E₈:球 8 個 根 240 本 群の次元 248 最小固有値 0.010956(正定値)
表4 頂点 nn 個の木の数と、(7) を満たす型(n≤3n\le3 は一直線だけ)
nn45678910
木の数236112347106
満たす型A DA DA D EA D EA D EA DA D

計算表4 と図2 の数はこの端末で計算した。最小固有値は 2−2cos⁡(π/h)2-2\cos(\pi/h)(hh は根の数÷階数)と 6 桁で一致し、図はこの式で描く。E8E_8 の一つ先には (7) を 0 にする整数ベクトル(中心 6、腕 3/4・2/5・4・3・2・1)がある。JavaScript が無効なら表4・表5 を。

08

折りたたみと幾何工学 — A〜G がそろう

ADE は根の長さがそろった型だけです。B・C・F・G は、特異点をさらに別の方向に束ねると出ます。Bershadsky ほか(1996 §3)は、別のパラメータの上を一周すると潰れる球が Dynkin 図の自己同型(辺を保つ頂点の入れ替え)で入れ替わることがあり、そのとき 'the actual gauge group will be smaller' と書いて次を挙げます(最後は三本の足の巡回)物理。

A2n−1→Cn,Dn→Bn−1,E6→F4,D4→G2(8)A_{2n-1}\to C_n,\qquad D_n\to B_{n-1},\qquad E_6\to F_4,\qquad D_4\to G_2 \tag{8}

これで A から G までのすべての型が幾何から出ます。入れ替えで正の根を束ねた軌道の数は、折りたたんだ代数の正の根の数と一致します(表5)計算。

表5 折りたたみ:正の根の軌道の数 = 後の代数の正の根の数
前 → 後A5→C3A_5\to C_3D5→B4D_5\to B_4E6→F4E_6\to F_4D4→G2D_4\to G_2
次元35 → 2145 → 3678 → 5228 → 14
正の根(動かない)→ 軌道15 (3) → 920 (12) → 1636 (12) → 2412 (3) → 6

計算表5 は Cartan 行列から根を生成して数えた(A3→C2A_3\to C_2・A7→C4A_7\to C_4・D6→B5D_6\to B_5 も一致)。

ただし同じ論文は 'a given A-D-E singularity may not correspond to an enhanced gauge symmetry' と断っています。この仕組みで場の理論を計算するのが幾何工学で、Katz–Klemm–Vafa(1997)は四次元 N=2\mathcal N=2 の厳密な結果(7-11)を弦の T 双対性(半径 RR の円と半径 α′/R\alpha'/R の円に巻いた弦が同じ理論を与えること。α′\alpha' は 7-05 の (1))に帰着させ、'This construction is not based on any duality conjecture' と書きます 物理。扱えるのは超電荷(7-05 §07)8 個以上(四次元の N=2\mathcal N=2 以上に当たる)の超対称な理論で、非超対称の純ヤン–ミルズの質量ギャップを幾何工学で扱った例は、探した範囲で見当たりません。

09

十一次元から純ヤン–ミルズへ — 二つの円

十一次元から四次元の純ヤン–ミルズに下りる道を Witten(1998 §4)が述べています 物理。出発点は M5 ブレーン(M 理論の、空間五次元に広がった膜)の上の六次元 (2,0) 理論((2,0) は六次元の超対称性の型の名前。Witten は 'exotic' と呼ぶ)で、AdS7×S4AdS_7\times S^4(AdS7AdS_7 は負の一定の曲率を持つ七次元の時空。7-08 で扱う)の M 理論として 'can apparently be interpreted' とされます(Maldacena の予想による)。ラグランジアンによる記述は知られていないとされ、数学的な定義もありません。これを二つの円に巻きます。

(2,0) → C1(R1)  5 次元 SU(N), g52=R1 → C2(R2)  4 次元 SU(N), g42=R1R2(9)\text{(2,0)}\ \xrightarrow{\ C_1(R_1)\ }\ \text{5 次元 }SU(N),\ g_5^2=R_1\ \xrightarrow{\ C_2(R_2)\ }\ \text{4 次元 }SU(N),\ g_4^2=\frac{R_1}{R_2} \tag{9}

C2C_2 でフェルミオンを反周期(一周で符号が反転)にすると、フェルミオンは質量 1/R21/R_2 程度を得て、スカラーも 'very plausibly' 一ループで重くなり、'If this is so, the low energy theory will be the pure SU(N) theory without supersymmetry' です。IIA 弦で言えば R4×S1\mathbb R^4\times S^1 に巻いた NN 枚の D4 ブレーンで、§03–04 の膜の上の理論が四次元に降りてきます。

Witten は η=g42N\eta=g_4^2N を小さく保ち、円の尺度では弱結合、ずっと長い距離で強結合になるようにしたいと書きます。一ループの目安は、7-01 の (3) で b0=11N/(48π2)b_0=11N/(48\pi^2)(7-01 の (1))、μ=1/R2\mu=1/R_2、g2(μ)=g42=η/Ng^2(\mu)=g_4^2=\eta/N と置くと

ΛR2 ∼ exp⁡ ⁣(−24π211 η)(10)\Lambda R_2\ \sim\ \exp\!\Big(-\frac{24\pi^2}{11\,\eta}\Big) \tag{10}

で、η=1\eta=1 なら 4×10−104\times10^{-10}、η=10\eta=10 なら 0.12 です 計算。係数は結合の規約と μ=1/R2\mu=1/R_2 の取り方で変わるので、これは桁の目安です。しかし超重力で計算できるのは 'at least if η is large' のときで、小さい η\eta への接続を Witten は 'This looks like a tall order' と書きます。極限の順序は 7-10、ギャップが幾何に見える仕組みは 7-09 へ。

10

ヤン–ミルズに戻る — 群は難しさの在りかではない

どの道でも群には余分な場や超対称性が付いてきます(膜の上の 9−p9-p 本のスカラー、二つの円の質量 1/R21/R_2 の場など)物理。そして懸賞問題にとって、群は難しさの在りかではありません。問題文はどのコンパクト単純群でもよく、問われるのはその量子ヤン–ミルズ理論が R4\mathbb R^4 で公理(4-10)を満たして存在し、質量ギャップを持つこと(4-11)です。幾何は A〜G の名前をすべて作れますが超対称な設定の中でのことで、純ヤン–ミルズへの道(§09)は期待と極限の順序に頼っています。

切れ目

(1) どの構成も弦の理論か M 理論の上に立ち、どちらにも非摂動的な数学的定義はありません。(2) 余剰次元の側から四次元の理論を定義しようとすると、出発点((2,0) 理論など)の定義のほうが難しくなります。(3) 群が幾何から出ることと、四次元の量子論が存在して隙間を持つことを結ぶ結果は、探した範囲で見当たりません。


この章が言えている範囲

言えている言えていない
既知(1)、(6) の可換性、(7) を満たす図が ADE に限ること、K3 の交差数の符号と正値性、16 次元の格子の分類と Milnor の例(後の二つは書誌のみ)。分類と交差数の性質の証明は書いていない。
計算表1〜表5、図1・図2、(4) まわりの固有値、(10) の数値。格子の点の数は k≤6k\le6 まで。(10) は一ループの目安で、規約で係数が変わりうる。
物理D ブレーンの U(N)、ヘテロ弦の群、E6E_6、Hořava–Witten の提案、ADE と折りたたみ、幾何工学、(9) の純 SU(N)。どれも数学の定理ではない。弦の理論・M 理論・(2,0) 理論の存在。スカラーが一ループで重くなること。このサイトは質量ギャップも連続極限の構成も示していない。

出典と再現

もの種別出典・道具(本文=原稿の本文を確認、要旨=要旨を確認)
§01・§10既知A. Jaffe, E. Witten, "Quantum Yang–Mills Theory", Clay Mathematics Institute の公式の問題記述(本文)。
§02物理E. Witten, NPB 186 (1981) 412(要旨。七次元の空間の選び方は未確認)。
§03・§04物理J. Polchinski, PRL 75 (1995) 4724, hep-th/9510017(要旨);TASI Lectures on D-Branes, hep-th/9611050(本文)。E. Witten, NPB 460 (1996) 335, hep-th/9510135 §3(本文)。
§05物理D. J. Gross ほか 3 名, PRL 54 (1985) 502;NPB 256 (1985) 253(要旨)。J. Polchinski, "What is String Theory?"(1994 年の講義), hep-th/9411028 §2.6(本文)。P. Hořava, E. Witten, NPB 460 (1996) 506;NPB 475 (1996) 94(要旨)。
§05・§07物理E. Witten, NPB 443 (1995) 85, hep-th/9503124 §4.6(本文)。M. Bershadsky, V. Sadov, C. Vafa, NPB 463 (1996) 420, hep-th/9511222 §1(本文。膜の質量=張力×面積の式は未確認)。
§07 の交差数既知E. Witten, hep-th/9503124 §4.6(本文。球の類の長さの二乗が −2-2、潰れる球が正則)。K3 の交差形式の符号と、正則な曲線の交点の正値性の一般論は W. Barth ほか 3 名, Compact Complex Surfaces, Springer(書誌のみ)。
格子・寄り道既知J. H. Conway, N. J. A. Sloane, Sphere Packings, Lattices and Groups。J. Milnor, PNAS 51 (1964) 542。いずれも書誌のみ。
§06物理P. Candelas ほか 3 名, NPB 258 (1985) 46(要旨。ホロノミーをそろえる構成は未確認)。
§08物理M. Bershadsky ほか 5 名, NPB 481 (1996) 215, hep-th/9605200 §3(本文)。S. Katz, A. Klemm, C. Vafa, NPB 497 (1997) 173, hep-th/9609239(要旨)。
§09物理E. Witten, ATMP 2 (1998) 505, hep-th/9803131 §4(本文)。(10) は 7-01 の (1)(3)(b0=11N/(48π2)b_0=11N/(48\pi^2))に g2=η/Ng^2=\eta/N を入れた算術。
表・図・数値計算この端末の Python 3(numpy):branes.py、ade.py、e8_commutant.py、lattice16.py、scales.py。

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改訂 2026-10-01:初版。