computo ergo sum

2026-10-01 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ付録検証の手順

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 第 9 部 現在地と課題
  97. 9-01 世界はどこまで来ているか
  98. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  99. 9-03 新しい概念の候補
  100. 9-04 課題の一覧
  101. 9-05 よくある誤解
  102. 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
  103. 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
  104. 10-01 理論の構成の筋
  105. 10-02 一段の記帳
  106. 10-03 仮定 H と三つの鎖
  107. 10-04 方向の地図
  108. 10-05 方向 12〜14
  109. 10-06 方向 15・15′
  110. 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
  111. 10-08 壁の一覧
  112. 10-09 ひらめき帳から
  113. 10-10 主張しないこと
  114. 10-12 つじつま合わせ
  115. 10-11 定理までの距離
  116. 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
  117. 付録
  118. A-01 記号表
  119. A-02 用語集
  120. A-03 文献案内
  121. A-04 Lean と機械検査
  122. A-05 この本の作り方
  123. A-06 仮定の索引

この本の作り方 — 札と出典表は、文がどの段まで確かめられたかの記録

この章で分かること — 一つの文が本文に載るまでに通る七つの段と、各段が拾うもの・拾わないもの(図 1)。
出典表の「本文」「要旨」「書誌のみ」の意味と、反証検査で判定のおよそ半分が訂正だったこと(この端末で数えた表つき)。
札「計算」の約束、章をまたいで記号と名前を揃える段、組み立ての機械的な検査、そしてこの手順が保証しないこと。

前提となる章 — なし。札の凡例(0-01)を先に見ておくと読みやすくなります。Lean による機械検査の手順はこの付録では扱わず、A-04 にあります。

先に言うこと — この付録が説明するのは、誤りを減らすための手順であって、正しさの保証ではありません。この本は専門家の査読を経ていません。また、四次元のヤン–ミルズ理論の存在と質量ギャップは未解決で、この本のどの段もそれを示していません。

この章の順序
  1. この付録の役割 — 札と出典表は信じてよい範囲を測る目盛り・その目盛りを刻んだ手順
  2. 一つの文が通る道 — 七つの段と、各段が拾うもの・拾わないもの(図 1・表 1)
  3. 一次資料と照合する — 本文・要旨・書誌のみの三段(表 2)・寄り道:伝聞の形で書くということ
  4. 反証を探す — 別の読み手が「強すぎないか」を見る・判定の内訳と訂正の型(表 3・表 4)
  5. 計算を再現できる形にする — 札「計算」は有限の範囲・規約を書く・数分で終わる規模
  6. 札を付ける — どの段まで通ったかの記録・部ごとの札の構成(図 2・表 5)
  7. 章をまたいで揃える — 記号・規約・名前・重複・確定度の五つ
  8. 組み立てて機械的に検査する — 数式の事前描画・リンク・禁則の語(表 6)
  9. この手順が保証しないこと — 査読ではない・未入手の本文・有限の計算・未解決の問題

01

この付録の役割 — 信じてよい範囲を、読者が自分で測るために

教科書の文は、読者がそのまま信じることを前提に書かれがちです。この本はそうしません。文ごとに札を付け(0-01 の凡例)、出典表に「本文を読んだか」「要旨だけか」「書誌だけか」を書き、計算は手元で再現できる形で残します。札と出典表は、読者が「この文はどこまで信じてよいか」を自分で測るための目盛りです。正確には、札は文がどの段まで確かめられたかの記録で、正しさの程度を数で表すものではありません。

目盛りは、それを刻んだ手順が分からなければ読めません。たとえば「既知」の札が付いた文でも、一次資料の本文と逐語で照合したのか、総説の記述を写したのかで、重みが違います。この付録は、その手順を読者の側から説明します。どの段で何を確かめ、何を確かめていないかを、段ごとに書きます。

流れを一行で書きます。

調べる  →  一次資料と照合する  →  反証を探す  →  計算を再現する  →  札を付ける  →  章をまたいで揃える  →  組み立てて機械的に検査する\text{調べる} \;\to\; \text{一次資料と照合する} \;\to\; \text{反証を探す} \;\to\; \text{計算を再現する} \;\to\; \text{札を付ける} \;\to\; \text{章をまたいで揃える} \;\to\; \text{組み立てて機械的に検査する}

七つの段はどれも、前の段が見落とすものを拾うために置いてあります。ただし、どの段も「正しいこと」を保証しません。保証しないことは §09 にまとめます。

例。第 5 部の「Wilson 作用は反射正値性を持つ」という文には「既知」の札が付き、出典表に Osterwalder–Seiler の論文が挙がっています(5-03)。「既知」の札は、一次資料で確かめた既知の結果であることを示します。どの深さで確かめたか(本文・要旨・書誌のみ)は出典表に書き、この例の出典表には「要旨を確認、本文は未確認」とあります。反証検査(§04)を通ったかどうかは、札では区別しません。出典表に「書誌のみ」とあれば、照合は書誌の段で止まっています。

Lean による機械検査の手順は、この付録では扱いません。それは A-04 にあります。札の決め方(一つの文に一つの札・鎖の強さは最も弱い段)も A-04 §07 が正本です。

02

一つの文が通る道 — 七つの段

一つの文が本文に載るまでに通る段を、図 1 に並べました。つまみを動かすと、その段が何を拾い、何を拾わないかが下に出ます。

段の順番には理由があります。照合(段 2)より前に反証(段 3)を置くと、反証する側が何と比べればよいか分かりません。札(段 5)を照合と計算のあとに置くのは、札が「どの段まで通ったか」の記録だからです。整合(段 6)と組み立て(段 7)は章を一つずつ見ていては拾えない誤りのための段で、部が揃うたびに(最後は本全体で)通します。

図 1 つまみで段を選ぶと、その段が拾うもの・拾わないものが下に出る。選んだ段の枠が太くなる
JavaScript が無効のときは、下の表 1 が同じ内容です。
段 1/7 調べる。

表 1 は図 1 と同じ内容です(図は模式図で、数値を含みません)。

表 1 七つの段が拾うもの・拾わないもの
段段の名前拾うもの拾わないもの
1調べる主題ごとの文献・既知の結果・数値の候補候補の正しさ(ここでは候補を集めるだけ)
2一次資料と照合する書誌の誤り・引用の言い換えすぎ・帰属の取り違え一次資料そのものの誤り・入手できなかった本文の中身
3反証を探す資料より強い言い方・確定度の格上げ・条件の書き落とし照合した読み手と反証する読み手が同じ誤解をしている場合
4計算を再現する数値の写し間違い・規約の取り違え・有限の範囲で反例があること計算した範囲の外で成り立つかどうか
5札を付ける「証明された」と「予想」と「数値的に支持」の混在札の判断そのものの誤り
6章をまたいで揃える記号・名前・規約の食い違い・同じ名前で違う文を指すこと・重複全章が同じ向きに誤っていること
7組み立てて機械的に検査する描画できない式・切れたリンク・禁則の語・埋め忘れ内容の誤り(機械は意味を読まない)
03

一次資料と照合する — 本文・要旨・書誌の三段

この本が「一次資料」と呼ぶのは、結果を最初に述べた論文、または問題文そのものです。総説や教科書は、一次資料への道案内として使い、一次資料の代わりにはしません。年号と帰属(誰がいつ何を示したか)は、記憶で書かず、資料の上で確かめます。

照合には深さが三段あり、出典表にはどの段まで届いたかを書きます。

表 2 照合の深さと、出典表での書き方
深さ何を読んだか出典表の書き方本文で書けること
本文論文の本文(公開の PDF など)を読み、該当箇所を逐語で確かめた著者・年・誌名か arXiv 番号・節資料が述べた強さそのまま
要旨要旨(論文データベースの abstract)だけを読んだ同上+「要旨で確認」「要旨のみ」など(表記は章によって少し違う)要旨に書かれた範囲まで
書誌のみ著者・題・誌名・年が実在することだけを確かめた「書誌のみ」他の資料が「〜とした」と伝える形まで

逐語の確認は、引用符で囲んだ原文が資料の中に文字どおり在ることを、検索で確かめる作業です。訳した文を本文に置くときも、照合は原文で行います。

例。Clay 研究所の問題文(Jaffe–Witten)は公開の PDF の本文で照合しました。問題の要求は原文で次のとおりです。

“Prove that for any compact simple gauge group G, a non-trivial quantum Yang–Mills theory exists on R4 and has a mass gap Δ > 0.”

この文は 0-03 が一語ずつ読みます。本文で照合したので、0-03 は「存在」「非自明」「質量ギャップ」の各語を、問題文の強さのまま使えます。

一方、要旨しか読めなかった論文については、要旨にある主張は「要旨で確認」と書き、要旨に無い主張は本文に持ち込みません。節の番号も同じで、要旨が節に触れていなければ、どの節に書いてあるかは本文を読むまで分かりません。

例。Wilson–Kogut の総説(Phys. Rep. 12 (1974) 75)の要旨は一文だけで、節には触れていません。そこでこの本は、ある話題が「Wilson–Kogut の §10 で述べられている」とは書かず、出典表に「§10 は未確認」と書きます。

寄り道:伝聞の形で書くということ

寄り道 飛ばしてよい。スピン 2 以下の場(重力子を含む超重力)で超対称性を実現できる時空の次元の上限が 11 である、という事実は、Nahm の 1978 年の分類の帰結として広く知られています。ところが、その論文の要旨には 11 という数が出てきません。本文を入手できないあいだ、この本は「Nahm の分類の帰結として知られる」と書き、結論を Nahm の論文に直接帰属させません(7-05)。事実が疑わしいのではありません。この本がどの段まで確かめたかを、文の形で正直に示すためです。正確には、伝聞の形は「誤りかもしれない」という印ではなく、「照合が本文に届いておらず、要旨にはその数が無い」という印です。
04

反証を探す — 別の読み手が「強すぎないか」を見る

照合を済ませた材料は、別の読み手に渡します。その読み手の仕事は確認ではなく、反証です。「この文は資料が言うより強くないか」「確定と書いたが、条件が要るのではないか」「この書誌は実在するか」を、もう一度一次資料に当たって探します。判定は三つです。

章を書く段では、訂正をすべて反映することが決まりです。訂正を受けた材料を、訂正前の強さで引くことはしません。

表 3 は、主に第 6 部〜第 10 部(一部は第 0・4・5 部の章)が使う六つの材料について、判定の数を数えたものです。第 1〜5 部の多くの章は、この反証検査の材料を経ていません。

表 3 材料ごとの反証検査の判定(2026-10-01 時点の材料を数えた)計算
材料の主題確認訂正確かめられない訂正の割合
物理の言葉と数学の言葉の辞書2520044%
余剰次元とゲージ場の出所1612141%
物理の見方(閉じ込め・格子の数値・ホログラフィー)2517040%
この端末の検討の整理714067%
次元ごとの現在地258024%
構成的場の理論の現在地と新しい概念の候補1629064%
計114100147%

読み方。判定のおよそ半分が訂正です。訂正の割合が最も高いのは「この端末の検討の整理」で、この材料では訂正が 21 件中 14 件と多く、記録より強い言い方を弱めるものや、落ちていた条件を書き足すものが目立ちました。逆に、次元ごとの現在地のように定理の一覧に近い材料は、訂正が少なめです。

訂正の中身を語で四つの型に振り分けたのが表 4 です。振り分けは訂正の文面に現れる語による機械的なもので、一つの訂正が複数の型に入ることがあります。

表 4 訂正 100 件の型(語による機械的な振り分け・重複あり)計算
型手がかりの語件数典型
強さ強すぎ・格上げ・示した・限定39「示した」を「提案した」に下げる・「確定」を「条件つき」に
出典の水準要旨・本文・未入手・未確認34要旨に無い主張を「本文未入手」と書き直す
数値・符号数値・係数・符号・桁15係数の規約(どの β\beta か)を書き足す
書誌書誌・巻・頁・著者・誌名12共著者の欠けなど、著者の並びの訂正
上のどれにも当たらない—30補足・言い換えの提案

例。Clay の問題文 §6.5 が述べるのは「次元正則化や Pauli–Villars など多くの正則化では反射正値性が失われ、それを回復する方法は少ない」ということで、連続的な正則化を一律に否定してはいません。この本はこの強さで引き、「連続的な正則化は反射正値性を保たない」とは書きません。反証の段が拾うのは、このように資料より一段強くなった要約です(正則化と反射正値性は 4-10・5-03)。

05

計算を再現できる形にする — 札「計算」の中身

本文の数値のうち、この端末で計算し直せるものは計算し直し、札「計算」を付けます。計算はすべて短いプログラム(Python)で、章ごとに残してあります。出典表の「道具」の欄にその名前を書くので、同じプログラムを走らせれば同じ表が出ます。

札「計算」が意味するのは、この端末で、書かれた範囲について確かめたことです。式で書くと、ある性質 P(n)P(n) を有限個の nn について確かめたことは

P(n1)∧P(n2)∧⋯∧P(nk)であって∀n P(n) ではないP(n_1) \wedge P(n_2) \wedge \cdots \wedge P(n_k) \qquad\text{であって}\qquad \forall n\ P(n) \ \text{ではない}

という区別になります。左は計算で、右は定理です。計算の札が付いた文を定理として引くことはしません。

計算には三つの約束があります。一つ目は、図の中で数値を作らないことです。動く図の数値は、あらかじめ計算した表を埋め込むか、その場で計算できる簡単な式(回転・級数の部分和など)に限ります。二つ目は、規約を書くことです。格子の結合 β\beta の定義や跡 tr⁡\operatorname{tr} の規格化が違うと同じ量が数倍ずれるので、計算の前提に規約を明記します(規約の換算は 5-01 と A-01)。三つ目は、普通の計算機で数分以内に終わる規模にすることです。読者が再現できない計算は、札の意味を失うからです。

例。この付録の表 3・表 4・表 5 も計算です。材料と章ページを読んで数を数えるプログラムを一本書き、その出力を写しました。この本の全体では、章ごとの計算の置き場が 100 を超え、プログラムは数百本あります。

06

札を付ける — どの段まで通ったかの記録

札は、文がどの段まで通ったかを読者に伝える記録です。照合だけで止まった文には「既知」、手元で再現した数値には「計算」、物理では受け入れられているが証明の無いものには「物理」、という具合です。五つの札の意味と、札が保証しないことは 0-01 §03 の表にあります。

札を付けるときの規則は二つです。一つの文には一つの札を付けます。そして、いくつかの段を経てつながった主張では、最も弱い段の札を全体に付けます(A-04 §07)。たとえば Lean で検査した不等式に、仮定として数値を入れて結論を出したなら、結論の札は「計算」か「物理」です。札を強い側に寄せることはしません。

図 2 は、この本の章ページに現れる札を部ごとに数えたものです。部によって札の構成がはっきり違います。

図 2 部ごとの札の数。「割合で見る」で各部を 100% にそろえる。つまみで部を選ぶと、その部の内訳が下に出る
JavaScript が無効のときは、下の表 5 が同じ内容です。
第 10 部を選択中。

計算この図の数値はこの端末で計算した(2026-10-01 時点の章ページ 110 章(この付録自身は除く)を数えた。凡例の表に置いた札も数える。章が増えれば数は変わる)。

表 5 部ごとの札の数・図の数・「書誌のみ」の出現数(2026-10-01 時点)計算
部章Lean紙計算既知物理図書誌のみ
第 0 部 入口433509714811
第 1 部 数学の準備1203165229184040
第 2 部 物理の準備1000123166532841
第 3 部 古典論70076124321320
第 4 部 量子論1201142216492345
第 5 部 格子111011144179802225
第 6 部 構成的場の理論1207130200302451
第 7 部 物理の側から13301541501692860
第 8 部 二つの言葉の辞書533407033714
第 9 部 現在地と課題50144106551014
第 10 部 この端末の記録149338136130672547
付録(A-01・A-02・A-03・A-04・A-06)52173727181020
計1101337412411694618238388

読み方。札の大半は「既知」と「計算」です。この本の多くは既知の数学と物理の解説で、そこに手元で再現した数値を添えているからです。「物理」が最も多いのは第 7 部で、閉じ込めの機構や弦の絵のように、物理では受け入れられているが定理ではない話が中心だからです。「Lean」の札は第 10 部に集まっています。ただし、その Lean の定理の多くは実数の不等式や有限の和についての文で、四次元のヤン–ミルズ理論の存在や質量ギャップを示したものではありません(10-10・A-04 §06)。

07

章をまたいで揃える — 記号・名前・規約

章を一つずつ検査しても、章と章のあいだの食い違いは拾えません。たとえば、ある章で β=2N/g2\beta = 2N/g^2、別の章で β=1/g2\beta = 1/g^2 と書けば、どちらの章も単独では正しくても、読者は同じ β\beta だと思って読み、数値が合わずに迷います。そこで、部が揃うたびに、部をまたいで読む段を通します。

この段で見るものは五つです。

  1. 記号:同じ量に同じ記号を使っているか。基準は A-01 の記号表です。
  2. 規約:結合 β\beta・跡の規格化・格子の計量が章によって違うとき、換算が書いてあるか(5-01)。
  3. 名前:一つの名前が、章によって違う文を指していないか。たとえば第 10 部の仮定 H は、どの長さで測るか・どの正規化で測るか・冪で言うか帯で言うかで、八通りの読み方ができます。読みごとに名前を割り当てて固定し(冪の水準を HH、帯の文を HbandH_{\mathrm{band}} と呼び分ける。10-03)、他の章はそこにリンクして同じ名前を使います。仮定の一覧は A-06 にあります。
  4. 重複:同じ説明が二つの章にあるとき、一方を正本にし、他方は一行の要約とリンクにする。
  5. 確定度:同じ対応を、ある章は「確定」、別の章は「条件つき」と書いていないか。辞書の部では、定義として対応すること(確定し得る)と、四次元のヤン–ミルズ理論で実際に成り立つこと(未確定)を二つの列に分けて書きます(8-01)。

食い違いが見つかったら、どちらか一方に揃えます。揃えられない食い違い(たとえば文献によって規約が本当に違う場合)は、食い違いとして本文に書きます。

例。第 10 部の CPC_P は、ゆらぎが均されるのにかかる時間の目安になる数です(定義は 1-10・10-01)。同じ CPC_P の記号で、何についてのゆらぎかによって違う数を指せてしまいます(ある時刻の場についてか、時間の向きを含めた経路全体についてか)。自由場では一方が他方の二乗の 4 倍なので、取り違えると冪が二倍になります。これがこの段で区別する例で、本の全体で二つを別の量として書きます(10-01)。

08

組み立てて機械的に検査する — 機械に任せられるもの

最後の段は機械が行います。章ページを組み立てる道具は、次のことを全章について機械的に行い、引っかかったものを報告します。

表 6 組み立ての段の機械的な検査
検査何を見るか見ないこと
数式の描画TeX で書いた式を KaTeX で静的な HTML に描画し、描画できない式を報告する式の数学的な正しさ
リンクと見出し章の間のリンク先のファイルと見出しの id が実在するかリンク先が話の流れに合っているか
禁則の語実名・パス・内部の番号・埋め忘れの印が残っていないか言い方の強さ(これは人と反証の段が見る)
雛形図の枠に使ってはいけない class 名(fig)が残っていないか図の中身
PDF部ごとに印刷用の PDF を作る(動く図は初期状態の静止画で入る)印刷で読みやすいか

数式を読者のブラウザではなく組み立ての段で描画するのは、読者の側で JavaScript が要らず、印刷や PDF にしても崩れないようにするためです。動く図だけが JavaScript を使い、JavaScript が無効でも、図の下の表で同じ内容が読めるようにしてあります。

機械の検査は意味を読みません。この段を通ったことは、ページが壊れていないことの保証であって、内容の保証ではありません。言い方の強さ・札の選び方・出典の深さの判断は、機械に任せず、照合と反証と整合の段で人と書き手が読みます。

09

この手順が保証しないこと

七つの段を通っても、誤りは残り得ます。この本の限界を、手順の側から書いておきます。

専門家の査読を経ていません。反証の段の読み手は、書き手とは別の読み手ですが、学術誌の査読者ではありません。この本の調べ・下書き・反証の多くは、このサイトの AI の書き手が行い、人が方針を決め、公開前に読んでいます。同じ種類の読み手は、同じ誤解を共有することがあります。反証の段が拾えないのは、まさにその誤りです(表 1 の段 3)。

入手できなかった本文の中身は確かめていません。出典表に「書誌のみ」「要旨で確認」とある文献については、本文に何が書いてあるかを、この本は知りません。表 5 の「書誌のみ」の数は、その範囲の大きさの目安です。

計算は有限の範囲です。札「計算」の付いた数値は、書かれた範囲で手元の計算が出したもので、範囲の外や連続極限について何も言いません(§05)。

質量ギャップの問題は未解決です。この本のどの段も、四次元のヤン–ミルズ理論の存在や質量ギャップを示したものではありません。この本の記録が主張しないことは 10-10 に一覧があります。

誤りに気づいたら、このサイトの掲示板かお問い合わせから知らせてください。直したものは、各章の末尾の「改訂」の欄に日付つきで記します。


この章が言えている範囲

言えている言えていない
この本の文が、七つの段(調べる・照合・反証・計算・札・整合・組み立て)を通して本文に載ること。各段が何を拾うか(表 1)七つの段を通った文が正しいこと。どの段も正しさを保証しない
出典表の「本文」「要旨で確認」「書誌のみ」が、照合の深さの記録であること(表 2)「書誌のみ」「要旨」の文献の本文に何が書いてあるか
2026-10-01 時点の材料の反証検査で、判定 215 件のうち訂正が 100 件・確かめられないが 1 件だったこと 計算(表 3)確認と判定された 114 件に誤りが無いこと。反証の読み手と照合の読み手が同じ誤解をしていれば、この段は拾えない
訂正の文面を語で振り分けた件数 計算(表 4)振り分けが訂正の中身を正しく分類していること(語による機械的な分類で、重複がある)
2026-10-01 時点の章ページ 110 章(この付録自身は除く)の札・図・「書誌のみ」の数 計算(表 5・図 2)札の数が主張の重みを表すこと。凡例に置いた札も数えており、章が増えれば数は変わる
組み立ての段が機械的に見るもの(表 6)機械の検査を通ったページの内容が正しいこと
この本が専門家の査読を経ていないこと・調べと反証の多くを AI の書き手が行っていること—
—四次元のヤン–ミルズ理論の存在と質量ギャップ。この問題は未解決で、この本のどの段もそれを示していない(10-10)

出典と再現

もの種別出典・道具
表 3・表 4(反証検査の判定と訂正の型)計算tally.py(この本の材料の判定を数え、訂正の文面を語で振り分ける。出力 tally.json)
表 5・図 2(部ごとの札・図・「書誌のみ」の数)計算tally.py(章ページの class="label …"・図の枠・「書誌のみ」の語を数える。図の JavaScript の中は除く)
Clay の問題文の引用(§03)既知A. Jaffe, E. Witten, “Quantum Yang–Mills Theory”(Clay Mathematics Institute の公式問題文・公開の PDF)。本文で確認
正則化と反射正値性についての問題文の記述(§04 の例)既知同上 §6.5。本文で確認(詳しくは 4-10)
Wilson 作用の反射正値性(§01 の例)既知K. Osterwalder, E. Seiler, “Gauge Field Theories on the Lattice”, Ann. Phys. 110 (1978) 440–471。要旨を確認、本文は未確認(本文の扱いは 5-03 の出典表)
要旨が節に触れない例(§03)既知K. G. Wilson, J. Kogut, Phys. Rep. 12 (1974) 75–199。要旨のみ(要旨は一文で、§10 は未確認)
超対称性の次元の上限 11(寄り道)既知W. Nahm, Nucl. Phys. B135 (1978) 149。要旨のみ。「11 が上限」は要旨に無く未確認。上限はスピン 2 以下の場という条件つき(7-05)
数式の事前描画道具KaTeX(TeX の式を静的な HTML に描画する JavaScript の組版ライブラリ。組み立ての段でだけ使い、読者の側では動かない)
図 1・表 1・表 2・表 6(手順の説明)—この本の執筆規約と組み立ての手順の要約

← A-04 Lean と機械検査目次A-06 仮定の索引 →

改訂 2026-10-01:初版。