computo ergo sum

2026-10-01 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 7 部 物理の側から余剰次元・Kaluza–Klein

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 第 9 部 現在地と課題
  97. 9-01 世界はどこまで来ているか
  98. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  99. 9-03 新しい概念の候補
  100. 9-04 課題の一覧
  101. 9-05 よくある誤解
  102. 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
  103. 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
  104. 10-01 理論の構成の筋
  105. 10-02 一段の記帳
  106. 10-03 仮定 H と三つの鎖
  107. 10-04 方向の地図
  108. 10-05 方向 12〜14
  109. 10-06 方向 15・15′
  110. 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
  111. 10-08 壁の一覧
  112. 10-09 ひらめき帳から
  113. 10-10 主張しないこと
  114. 10-12 つじつま合わせ
  115. 10-11 定理までの距離
  116. 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
  117. 付録
  118. A-01 記号表
  119. A-02 用語集
  120. A-03 文献案内
  121. A-04 Lean と機械検査
  122. A-05 この本の作り方
  123. A-06 仮定の索引

余剰次元が見えなくなる仕組み — 小さな円の上の波は、重い粒子の塔として見える

この章で分かること — 余剰次元が見えないとは、その方向の揺れが重い粒子の列(KK 塔)になり、低いエネルギーでは作れないことです。塔の最低段はラプラシアンの第一固有値で、曲率が非負なら直径で押さえられること(Zhong–Yang)。Calabi–Yau と膜という二つの隠し方と、実験の下限。

前提となる章 — 7-05 ひも理論と余剰次元。2-02 §06・2-05 §08・1-10 §07 を使います。フーリエ級数とレイリー商はその場で書き、計量・ラプラシアン・Ricci 曲率・Einstein 方程式は使う分だけその場で定義します。

先に言うこと — 現実の世界に余剰次元があるかは分かっておらず、実験の数値は下限です。KK 塔の隙間は内部空間が小さいことから来るもので、ヤン–ミルズの質量ギャップ(R4\mathbb R^4 の上で相互作用から生じるもの)とは別物です。このサイトは質量ギャップも連続極限の構成も示していません。

この章の順序
  1. 「見える」とは — 分解能は ħc/E
  2. 円の上の場 — 一つの場が塔になる
  3. 塔の最低段 — 第一固有値と直径(計量・ラプラシアン・Ricci 曲率の最小限)
  4. Kaluza と Klein — 電荷は運動量
  5. 弦の六次元 — Calabi–Yau
  6. 膜に閉じ込める — ADD と RS(寄り道:隙間の無い余剰次元)
  7. 実験の下限 — ニュートン則と加速器
  8. ヤン–ミルズに戻る — KK の隙間は質量ギャップではない

01

「見える」とは — 分解能は ħc/E

物理で見るとは、粒子をぶつけて跳ね返りを調べることです。大きさ ℓ\ell の構造を見分けるには波長が ℓ\ell より短い探り針、つまり高いエネルギーが要ります(2-05)。

ℓ≈ℏcE,ℏc=197.327 MeV⋅fm(1)\ell \approx \frac{\hbar c}{E},\qquad \hbar c = 197.327\ \mathrm{MeV\cdot fm} \tag{1}

1 TeV なら 2.0×10−192.0\times10^{-19} m、LHC の衝突エネルギー 13.6 TeV なら 1.5×10−201.5\times10^{-20} m、プランク質量 1.22×10191.22\times10^{19} GeV なら 1.6×10−351.6\times10^{-35} m です 計算。以下 ℏ=c=1\hbar=c=1 とします(2-04 §08)。比喩で言えば、遠くから見た庭のホースは線ですが、近づくと一周する方向が見えます。正確には、この章で言うのは「小さな円に沿った揺れには高いエネルギーが要る」ということです。

02

円の上の場 — 一つの場が塔になる

空間の各点に半径 RR の円が付いた五次元の時空 R1,3×S1\mathbb R^{1,3}\times S^1 を考えます(円の座標 yy は y+2πRy+2\pi R と同一視)。質量ゼロのスカラー場 Φ(x,y)\Phi(x,y) は波動方程式に従い(2-02)、yy について周期的なのでフーリエ級数に展開できます(1-11)。

(∂t2−∇2−∂y2)Φ=0,Φ(x,y)=12πR∑n∈Zϕn(x) einy/R(2)\big(\partial_t^2-\nabla^2-\partial_y^2\big)\Phi=0,\qquad \Phi(x,y)=\frac{1}{\sqrt{2\pi R}}\sum_{n\in\mathbb Z}\phi_n(x)\,e^{iny/R} \tag{2}

代入すると ∂y2\partial_y^2 が −n2/R2-n^2/R^2 に置き換わり、係数ごとに方程式が分かれます。

(∂t2−∇2+n2R2)ϕn=0,mn=∣n∣R(3)\Big(\partial_t^2-\nabla^2+\frac{n^2}{R^2}\Big)\phi_n=0,\qquad m_n=\frac{|n|}{R} \tag{3}

質量 mnm_n の Klein–Gordon 方程式です(2-02 §06)。五次元の場一つが、四次元では質量ゼロのゼロモード ϕ0\phi_0 と、質量 1/R,2/R,…1/R,2/R,\dots の場の無限の列に見えます。これが Kaluza–Klein 塔(KK 塔)です 既知。PDG は 'At energies smaller than 1/R, the KK modes can be neglected, leaving the zero-mode action' と書きます。ゼロモードの結合は薄まり、四次の相互作用なら λ4=λ5/(2πRM5)\lambda_4=\lambda_5/(2\pi RM_5)(PDG 式 84.6)で、円が大きいほど弱くなります。M5M_5 は五次元の理論の基本の質量尺度で、λ5\lambda_5 を無次元にするために入ります。

δ\delta 個の円の積(トーラス TδT^\delta、半径 RiR_i)なら、整数の組 n⃗\vec n ごとに m2=∑ini2/Ri2m^2=\sum_i n_i^2/R_i^2 の場が出ます。図1 は円二つの場合です。

図1 円二つ(R1≥R2R_1\ge R_2)の KK 塔。点は四次元の場(横 n1n_1、縦は質量)。EE(破線)と半径の比を動かすと EE より下の場が変わる
E·R₁ = 3 R₂/R₁ = 0.3 E 以下の場 7 個
表1 質量 EE 以下の四次元の場の個数(ゼロモードを含む)。括弧は Weyl の見積もり πR1R2E2\pi R_1R_2E^2(面積 4π2R1R24\pi^2R_1R_2 に E2/4πE^2/4\pi を掛けたもの。1-10 の寄り道)
R2/R1R_2/R_1ER1=2ER_1=251030
113 (12.6)81 (78.5)317 (314.2)2821 (2827.4)
0.15 (1.3)11 (7.9)23 (31.4)267 (282.7)
円一つ5112161

計算表1 と図1 の数値はこの端末で計算した(図は (3) の式からその場で描く)。JavaScript が無効なら表1 を。

R2/R1=0.1R_2/R_1=0.1 の行は ER1≤5ER_1\le5 で円一つと同じで、細い方向は E≳1/R2E\gtrsim1/R_2 で初めて現れます。個数は EE の(見えている余剰次元の数)乗で増えます。

03

塔の最低段 — 第一固有値と直径

最低段 1/R1/R は不等式として言い直せます。平均 0 の周期関数 f=∑n≠0cneiny/Rf=\sum_{n\ne0}c_ne^{iny/R} では、Parseval の等式から(Wirtinger の不等式)既知

∫02πR∣f′∣2 dy=2πR∑n≠0n2R2∣cn∣2 ≥ 1R2∫02πR∣f∣2 dy(4)\int_0^{2\pi R}|f'|^2\,dy=2\pi R\sum_{n\ne0}\frac{n^2}{R^2}|c_n|^2\ \ge\ \frac{1}{R^2}\int_0^{2\pi R}|f|^2\,dy \tag{4}

2-05 §08・1-10 §07 の Poincaré 不等式の最も簡単な例で、最良の定数 R2R^2 は隙間 1/R21/R^2(塔の最低段の二乗)の逆数です。

長さを測る — 計量・直径・ラプラシアン

円を一般のコンパクトな多様体 KK(1-05)に替えるには、長さの測り方が要ります。各点の接空間(1-05 §06)に内積を一つずつ、点について滑らかに与えたものを計量と言います。長さと角の測り方です。計量があれば曲線の長さが測れ、二点を結ぶ最短の道の長さが二点の距離になります。その距離の、全ての二点についての最大が直径 dd です(周の長さ 2πR2\pi R の円なら d=πRd=\pi R。この章の dd は直径で、他の章の時空の次元 dd とは別)。関数の勾配の大きさ ∣∇f∣|\nabla f| も計量で決まり、∫K∣∇f∣2=∫Kfˉ (−ΔKf)\int_K|\nabla f|^2=\int_K\bar f\,(-\Delta_Kf) となる作用素 −ΔK-\Delta_K をラプラシアン(Laplace–Beltrami 作用素)と言います。平坦なトーラスでは、長さで測った座標 yiy_i で −ΔK=−∑i∂2/∂yi2-\Delta_K=-\sum_i\partial^2/\partial y_i^2 です。

時空が歪みの無い直積 R1,3×K\mathbb R^{1,3}\times K、場がスカラーなら、−ΔK-\Delta_K の固有関数(固有値 0=λ0<λ1≤⋯0=\lambda_0<\lambda_1\le\cdots)で展開して mj2=λjm_j^2=\lambda_j。最初の KK 質量はレイリー商の最小値です(1-10 §06)。

m12=λ1(K)=inf⁡{∫K∣∇f∣2∫K∣f∣2 : ∫Kf=0, f≠0}(5)m_1^2=\lambda_1(K)=\inf\Big\{\frac{\int_K|\nabla f|^2}{\int_K|f|^2}\ :\ \int_K f=0,\ f\ne0\Big\} \tag{5}

形式・スピノルの場や歪みのある背景では、別の作用素(Hodge ラプラシアン、Dirac 作用素など)の固有値になります。この章では「余剰次元が見えない」を、ゼロモードを除いた部分の Poincaré 不等式 ∫∣∇f∣2≥λ1∫∣f∣2\int|\nabla f|^2\ge\lambda_1\int|f|^2 と言い直します。

直径で足りる条件 — Ricci 曲率

計量を s2s^2 倍する(長さを全部 ss 倍する)と λ1\lambda_1 は s−2s^{-2} 倍なので、縮めれば塔は持ち上がります。「小さい」を直径 dd だけで測ってよいことは、Ricci 曲率が非負なら定理です。

Ricci 曲率は、比喩で言えば、一点から一つの向きのまわりに出た測地線(局所的に最短の道)の束が、進むにつれてどれだけ寄り集まるかの平均です。球面では正(経線は極で集まる)、平坦なトーラスでは 0、鞍の形の面では負(広がる)です。正確には、長さ 1 の向き vv について、vv と、vv に直交する向き eie_i とで張る n−1n-1 個の断面の曲がり(断面曲率)の和 Ric⁡(v,v)=∑iK(v,ei)\operatorname{Ric}(v,v)=\sum_iK(v,e_i) で、平均の n−1n-1 倍です。二次元では断面が一つなので Gauss 曲率と同じです。曲がりそのものは、接空間の束に計量から決まる接続を入れたときの、1-07 §05 の意味の曲率(小さな輪を回ったときのずれ)です。Ric⁡K≥0\operatorname{Ric}_K\ge0 は、どの点のどの向きでもこの和が 0 以上だという条件です 既知。

Ric⁡K≥0 ⟹ λ1(K) ≥ π2d2(Zhong–Yang。等号は円だけ:Hang–Wang)(6)\operatorname{Ric}_K\ge0\ \Longrightarrow\ \lambda_1(K)\ \ge\ \frac{\pi^2}{d^2}\qquad(\text{Zhong–Yang。等号は円だけ:Hang–Wang}) \tag{6}
表2 比 λ1d2/π2\lambda_1d^2/\pi^2。(6) はこれが 1 以上だと言う 計算
KK比KK比
円1正方形のトーラス2
長方形のトーラス 1×0.21.04六角形のトーラス1.7778
長方形のトーラス 1×0.051.0025球面 S2S^2・S3S^3・S6S^62・3・6

トーラスは数値で求め、閉じた式(長方形 1+ρ21+\rho^2、六角形 16/916/9)と 5 桁で一致。球面は既知の値。

細いトーラスの比は 1 に近づきますが 1 にはなりません。曲率の条件は外せません。二つの球を細い首でつなぎ、片方で +1+1、他方で −1-1 の関数を (5) に入れると、分子は首からしか来ないので、首を細くすれば直径はほぼそのままでレイリー商はいくらでも小さくなります。首の付け根では曲率が大きく負になり、Ric⁡≥0\operatorname{Ric}\ge0 が破れます。よく知られた例です 既知。

04

Kaluza と Klein — 電荷は円を回る運動量

余剰次元の考えは 1920 年代の Kaluza と Klein にさかのぼります(PDG の序文)。五次元の時空にも §03 の意味の計量があります(時空では、各点の内積に当たるものの符号が 2-04 の η=diag⁡(−1,1,1,1)\eta=\operatorname{diag}(-1,1,1,1) のように一つだけ負で、それが点ごとに変わってよいもの)。その成分 15 個は、四次元の計量 gμνg_{\mu\nu} の 10・ベクトル AμA_\mu の 4・スカラー ϕ\phi の 1 に分かれます。Overduin–Wesson の総説の式 5・8 を符号 (−,+,+,+,+)(-,+,+,+,+) で書き直すと注1

ds2=gμνdxμdxν+ϕ2(dy+κAμdxμ)2,κ=16πG(7)ds^2=g_{\mu\nu}dx^\mu dx^\nu+\phi^2\big(dy+\kappa A_\mu dx^\mu\big)^2,\qquad \kappa=\sqrt{16\pi G} \tag{7}

Einstein 方程式は、計量の曲がり(曲率)を物質のエネルギーに結ぶ重力の方程式です。ここでは中身に立ち入らず、成分の数え方だけを使います。どの成分も yy によらないとすると、五次元の Einstein 方程式は四次元の 10+4+1=15 本の方程式に分かれます(同 式 6)。ϕ\phi を定数とおくと、15 本のうち計量とベクトルの成分の方程式が四次元の Einstein 方程式と Maxwell 方程式になります(同 式 7)既知。ただし残るスカラーの方程式は FμνFμν=0F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}=0 のときしか ϕ=\phi= 定数と両立しません(Jordan・Thiry の指摘、同 §3.4)。座標の付け替え y↦y+κλ(x)y\mapsto y+\kappa\lambda(x) は Aμ↦Aμ−∂μλA_\mu\mapsto A_\mu-\partial_\mu\lambda を引き起こし、ゲージ変換(2-03)が円の方向の座標の取り直しとして現れます。

Klein(1926)は Kaluza の理論を波動力学と結びつけ(要旨)、円を小さくしました。(2) の nn 番目の成分の運動量 n/Rn/R が、(7) の下で電荷になります(同 式 25、ϕ=1\phi=1)。

qn=n16πGR,n∈Z(8)q_n=\frac{n\sqrt{16\pi G}}{R},\qquad n\in\mathbb Z \tag{8}

電荷は q1q_1 の整数倍に限られます(Klein の同年の短信の題は 'The Atomicity of Electricity as a Quantum Theory Law')。比喩で言えば電荷は見えない円を回る運動量で、正確には運動量 n/Rn/R に規約で決まる定数 κ\kappa を掛けたものです。

q1=eq_1=e(e2/4π=α≈1/137.036e^2/4\pi=\alpha\approx1/137.036)と置くと R=2ℓP/α≈3.8×10−34R=2\ell_P/\sqrt\alpha\approx3.8\times10^{-34} m(プランク長の約 23 倍)で、塔の一段目は 1/R≈5.2×10171/R\approx5.2\times10^{17} GeV、電子の質量の約 102110^{21} 倍です 計算。Overduin–Wesson は半径をプランク長とおいて食い違いを約 22 桁と見積もり、それが 'played a large role in the abandonment of five-dimensional Kaluza-Klein theory' と書きます。内部空間に非可換な対称性があれば非可換なゲージ場が出てきえます(7-07)物理。

05

弦の六次元 — Calabi–Yau に丸める

超弦理論の時空は十次元なので(7-05 §06)、四次元に見せるには六次元の内部空間 KK が要ります。Candelas–Horowitz–Strominger–Witten(1985)は四次元に超対称性を一つ残す真空を調べ、要旨で 'This condition permits only a few possibilities' と書きました。条件を満たす KK は Ricci 曲率が 0 の Kähler 多様体(計量と複素構造がかみ合った複素多様体)で、ホロノミー(1-07)が SU(3) に収まるもの、Calabi–Yau 多様体だとされます 物理。

そうした計量が在ることは数学の定理です。Yau は 1977 年に 'We announce a proof of Calabi's conjectures on the Ricci curvature of a compact Kähler manifold' と告知しました(論文は 1978 年)。帰結として、第一 Chern 類が 0 のコンパクトな Kähler 多様体は Ricci 平坦な Kähler 計量を持ちます 既知。Ricci 平坦なら (6) が使えるので、直径 dd の Calabi–Yau の上のスカラーの KK 塔は π/d\pi/d より上から始まります。

大きさについて PDG の序文は 'The extra dimensions were supposed to be compactified at a scale close to the Planck scale, and thus not testable experimentally in the near future' と書きます。形は粒子の中身を左右します(CHSW の模型は 'an E6 gauge group with four standard generations of fermions')。

06

膜に閉じ込める — ADD と RS

1998 年、Arkani-Hamed–Dimopoulos–Dvali(ADD)は、標準模型の場を三次元の膜(3 ブレーン)に閉じ込め、重力だけを 4+δ4+\delta 次元に広げる隠し方を提案しました。重力でしか探れないので、余剰次元は大きくてもかまいません。要旨は 'The observed weakness of gravity on distances ≳ 1 mm is due to the existence of n ≥ 2 new compact spatial dimensions large compared to the weak scale' です 物理。重力の弱さは §02 の λ4\lambda_4 と同じ薄まり方で、基本の尺度 MDM_D と換算プランク質量 MP≈2.4×1018M_P\approx2.4\times10^{18} GeV は(PDG 式 84.10)

MP2=RδMD 2+δ(9)M_P^2=R^\delta M_D^{\,2+\delta} \tag{9}
表3 (9) から決まる RR(PDG 式 84.11 の「10910^9 km, 0.5 mm, …, 0.1 MeV−1^{-1}」を再現)計算
δ\deltaMD=1M_D=1 TeVMD=4M_D=4 TeV
11.2×10121.2\times10^{12} m1.8×10101.8\times10^{10} m
24.8×10−44.8\times10^{-4} m3.0×10−53.0\times10^{-5} m
62.6×10−142.6\times10^{-14} m4.2×10−154.2\times10^{-15} m

δ=1\delta=1 は太陽系の大きさで 'clearly ruled out'(PDG)、δ=2\delta=2 で 0.5 mm です。翌 1999 年、Randall–Sundrum(RS)は五次元の反 de Sitter 空間の一片を使いました(PDG 式 84.16)。

ds2=e−2kyημνdxμdxν+dy2,0≤y≤πR(10)ds^2=e^{-2ky}\eta_{\mu\nu}dx^\mu dx^\nu+dy^2,\qquad 0\le y\le\pi R \tag{10}

反 de Sitter 空間は、負の一定の曲率を持つ時空です(7-08)。(10) の計量は、曲率の半径が 1/k1/k のその時空の、0≤y≤πR0\le y\le\pi R の一片です。y=πRy=\pi R の端の尺度は e−kπRe^{-k\pi R} 倍に赤方偏移します。PDG は k∼MPk\sim M_P、R≃11/kR\simeq11/k で TeV が出ると書き、kR=11kR=11 で ke−kπR≈2.4ke^{-k\pi R}\approx2.4 TeV、kRkR を 10 から 12 に変えると 55 TeV から 0.1 TeV まで動きます 計算。大きな比を指数で作る点は次元転移(7-01)に似ています。正確には、RS では指数が幾何(kRkR)から、次元転移では結合の走り(1/g21/g^2)から来ます。歪んだ余剰次元と四次元の強結合の理論を結ぶ見方は AdS/CFT(7-08)で、予想の水準です 物理。

寄り道:隙間の無い余剰次元

寄り道

飛ばしてよい小節です。

RS の同年の論文は、余剰次元が無限に長くても四次元の重力が再現されうると論じました: 'even without a gap in the Kaluza-Klein spectrum, four-dimensional Newtonian and general relativistic gravity is reproduced to more than adequate precision' 物理。見えないことに塔の隙間は必須ではありません。

07

実験の下限 — ニュートン則と加速器

ニュートン則からのずれは湯川型で表す習わしです(PDG 式 84.12)。

V(r)=−GNm1m2r(1+α e−r/λ)(11)V(r)=-G_N\frac{m_1m_2}{r}\big(1+\alpha\,e^{-r/\lambda}\big) \tag{11}

質量 mm の場のやり取りは湯川ポテンシャル e−mr/re^{-mr}/r を与え、KK モード一つにつき一項が足されます。スカラー(ニュートン型)の模型で TδT^\delta(半径 RR)の塔を全部足すと

V(r)VN(r)=∑k⃗∈Zδe−∣k⃗∣ r/R → r≫R  1+2δ e−r/R(12)\frac{V(r)}{V_{\rm N}(r)}=\sum_{\vec k\in\mathbb Z^\delta}e^{-|\vec k|\,r/R}\ \xrightarrow{\ r\gg R\ }\ 1+2\delta\,e^{-r/R} \tag{12}

2δ2\delta は一段目の場の個数、δ=1\delta=1 では和は coth⁡(r/2R)\coth(r/2R) です。r≪Rr\ll R では V∝r−1−δV\propto r^{-1-\delta}、3+δ3+\delta 次元の空間の法則になります。重力子では係数が変わります。重力子の KK モードは質量を持つスピン 2 の場で、偏極の寄与により一段目の係数が 4/3 倍になるとされ、PDG は二次元トーラスで α=16/3\alpha=16/3((12) の 4 の 4/3 倍)、λ=R\lambda=R とします 物理。(12) は重力の式そのものではなく、塔を足すと湯川型のずれが出る仕組みを見るための模型です。

図2 (12) の V/VN−1V/V_{\rm N}-1(対数目盛)。δ\delta と r/Rr/R を動かすと、ずれと読める空間の次元が変わる。破線は二つの近似
δ = 2 r/R = 0.50
表4 (12) の比 V/VNV/V_{\rm N}
δ\deltar/R=0.1r/R=0.1110
120.022.1641.000091
2628.36.5071.000184
63.72×1093.72\times10^{9}37211.000593

計算図2 と表4 の数値はこの端末で計算した(∣k⃗∣≤420|\vec k|\le420 の和。δ=1\delta=1 は coth⁡\coth と 12 桁、r→0r\to0 は積分の近似と 5 桁で一致)。JavaScript が無効なら表4 を。

r≫Rr\gg R でずれが e−r/Re^{-r/R} で消えることが、「見えない」の定量的な中身です。

表5 PDG 2025 の下限(長さは (1) で換算 計算)
何を探したか下限
逆二乗則(ねじれ秤)δ=2\delta=2 で R<30R<30 µm、MD>4.0M_D>4.0 TeV
超新星 SN1987A/中性子星δ=2\delta=2 で MD>27M_D>27/1700 TeV
LHC の重力子放出(ATLAS/CMS)MD>5.9M_D>5.9–11.2/5.5–10.7 TeV(δ=2\delta=2–6)
RS の最も軽い KK 重力子ATLAS 4.5 TeV(k/MP=0.1k/M_P=0.1)、CMS 2.2–5.6 TeV
ゲージ場が平坦な余剰次元を走る1/R>4.161/R>4.16 TeV(ATLAS の読み替え。4.7×10−204.7\times10^{-20} m)、LEP2 から ≳6\gtrsim6 TeV
全部の場が走る(UED)1/R>1.41/R>1.4–1.5 TeV。最小の模型は暗黒物質と合わせて排除

逆二乗則の実験の一つ(Tan ほか 2016)は ∣α∣≤1|\alpha|\le1 を λ=59\lambda=59 µm まで確かめています(要旨)。観測されているゲージ場は 5×10−205\times10^{-20} m 程度まで四次元的で、重力は数十 µm まで逆二乗則に従っています。余剰次元は見つかっていませんが、無いと示されたわけでもありません。

08

ヤン–ミルズに戻る — KK の隙間は質量ギャップではない

KK の隙間は質量ギャップではありません。塔の最低段は内部空間がコンパクトなことだけから出る隙間で、自由な場にもあり、ゼロモードには隙間がありません。箱の中の自由な場の隙間(2-02 §06・2-05 §06)と同じ計算です。懸賞問題が求めるのは、コンパクトな方向の無い R4\mathbb R^4 の上で相互作用から生じる隙間で(4-11)、Jaffe–Witten は 'no present ideas point the direction to establish the existence of a mass gap that is uniform in the volume' と書いています。

二種類の余剰次元を混ぜないこと。§07 の下限は現実の余剰次元についてです。ホログラフィーの模型(7-08・7-09)の余剰次元(反 de Sitter 空間の動径、S5S^5、Witten の模型の補助の円)は双対な記述や正則化の道具で、実在の次元だとは主張されていません。

模型の中では塔が見えています。ギャップを幾何から読む模型では、余剰次元の KK 塔がグルーボールと同じ高さに来ます(N=1\mathcal N=1 超対称ヤン–ミルズの Maldacena–Núñez の模型では、重力近似が有効なら 'comparable to the masses of Kaluza Klein states'。著者は、この背景の上で弦を量子化できれば KK 状態を分離できそうだとも書いています)物理。塔を消すには余剰次元を縮めねばならず、そのとき結合は弱くなるので(四次元では漸近自由のため)、それは計算の効く領域の反対側です(Csáki らは Witten の三次元の模型について:'This is the opposite of the limit that is required for the supergravity description to be valid')。極限の順序は 7-10 で扱います。

切れ目

「見えない」が定理として言えるのは、固定した内部空間の上の線形の揺らぎ((4)〜(6))だけです。相互作用する理論で塔が分離すること、とくに四次元に戻す極限でそうなることを正当化した結果は、探した範囲で見当たりません。

注1 Overduin–Wesson は四次元の符号を (+,−,−,−)(+,-,-,-) にとり、κ≡4πG\kappa\equiv4\sqrt{\pi G}(式 8)と置きます。(7) は符号を本書の (−,+,+,+)(-,+,+,+) に揃えたもので、κ=16πG\kappa=\sqrt{16\pi G} は同じ値です。本文へ


この章が言えている範囲

言えている言えていない
既知(2)〜(8)、Yau の定理。歪みのある背景や形式・スピノルの塔の一般の下界。ϕ\phi を定数に保つことの整合性(スカラーの方程式が FμνFμν=0F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}=0 を要求する)。
計算表1〜表5、図1・図2、Klein の半径、(9) による PDG の数値の再現。(12) はスカラー模型。重力子の 16/3 は PDG の引用で、4/3 倍の由来はこの章では導いていない。
物理Calabi–Yau の条件、ADD・RS、非可換なゲージ場、模型の塔の高さ。現実の余剰次元の有無。模型の塔が四次元に戻す極限で分離すること。このサイトは質量ギャップも連続極限の構成も示していない。

出典と再現

もの種別出典・道具
(2)(3)・(9)〜(11)・16/3・表5・引用既知・物理Z. Demiragli, A. Pomarol, "84. Extra Dimensions"(PDG, PRD 110 (2024) 030001 の 2025 年 8 月改訂)。本文を確認。
(7)(8)、Kaluza・Klein既知J. M. Overduin, P. S. Wesson, Phys. Rep. 283 (1997) 303, gr-qc/9805018 §3・§4(本文を確認。式 5〜8・25、§3.4 の ϕ\phi 定数の条件)。Th. Kaluza, Sitzungsber. Preuss. Akad. Wiss. (1921) 966(書誌のみ)。O. Klein, Z. Phys. 37 (1926) 895(要旨を確認);Nature 118 (1926) 516(書誌のみ)。
(6)既知J. Q. Zhong, H. C. Yang, Sci. Sinica Ser. A 27 (1984) 1265(書誌のみ。主張は Ling–Lu の概説による。概説の書誌は未確認)。F. Hang, X. Wang, IMRN 2007, rnm064, doi:10.1093/imrn/rnm064(書誌のみ)。
Calabi–Yau の条件物理P. Candelas, G. T. Horowitz, A. Strominger, E. Witten, NPB 258 (1985) 46。要旨を確認(Calabi–Yau の語と SU(3) ホロノミーは本文未確認)。
Yau の定理既知S.-T. Yau, PNAS 74 (1977) 1798(要旨を確認);CPAM 31 (1978) 339(書誌のみ)。
ADD・RS・逆二乗則物理N. Arkani-Hamed, S. Dimopoulos, G. Dvali, PLB 429 (1998) 263。L. Randall, R. Sundrum, PRL 83 (1999) 3370;同 4690。W.-H. Tan ほか, PRL 116 (2016) 131101。要旨を確認。
§08 の引用既知・物理A. Jaffe, E. Witten, "Quantum Yang–Mills Theory"(Clay の問題記述。Clay 公開の PDF。本文を確認)。J. Maldacena, C. Núñez, PRL 86 (2001) 588, arXiv:hep-th/0008001(要旨を確認)。C. Csáki, H. Ooguri, Y. Oz, J. Terning, JHEP 9901 (1999) 017, arXiv:hep-th/9806021(本文を確認)。
表・図・数値計算この端末の Python 3(numpy):kk_count.py、zhong_yang.py、units_klein.py、add_rs.py、newton_kk.py(図2 に埋めた値は同じ計算を小数 4 桁で出したもの)。

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改訂 2026-10-01:初版。