この本の全体 目次と読む順
- 第 0 部 入口 — この本の読み方
- 0-01 この本の読み方
- 0-02 一枚の絵
- 0-03 問題文を一語ずつ読む
- 0-04 数学の四次元と物理の四次元
- 第 1 部 数学の準備
- 1-01 ベクトル空間と線形写像
- 1-02 群とは何か
- 1-03 リー群とリー環
- 1-04 SU(2) と SU(3)
- 1-05 多様体と接空間
- 1-06 微分形式と外微分
- 1-07 ベクトル束と接続
- 1-08 確率と測度
- 1-09 無限次元の確率
- 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
- 1-11 フーリエ解析と分布
- 1-12 寄り道
- 第 2 部 物理の準備
- 2-01 ラグランジアンと作用
- 2-02 場という考え
- 2-03 電磁気学はゲージ理論である
- 2-04 特殊相対論と時空
- 2-05 量子力学の骨
- 2-06 調和振動子と生成消滅
- 2-07 経路積分の考え方
- 2-08 統計力学と相転移
- 2-09 寄り道
- 2-10 緩和の時間と動的指数 z
- 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
- 3-01 ゲージ原理
- 3-02 非可換ゲージ場
- 3-03 作用と方程式
- 3-04 幾何としてのゲージ理論
- 3-05 インスタントンと位相
- 3-06 寄り道
- 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
- 第 4 部 量子化
- 4-01 正準量子化とハミルトニアン
- 4-02 経路積分とユークリッド化
- 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
- 4-04 発散と繰り込み
- 4-05 発散の代数
- 4-06 漸近自由
- 4-07 次元転移と Λ
- 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
- 4-09 場の量子論の公理
- 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
- 4-11 質量ギャップの定義
- 4-12 寄り道
- 第 5 部 格子ゲージ理論
- 5-01 Wilson の格子
- 5-02 強結合展開
- 5-03 反射正値性と転送行列
- 5-04 無限体積極限とクラスター展開
- 5-05 弱結合と連続極限
- 5-06 U(1) と非可換の違い
- 5-07 モンテカルロ法
- 5-08 グルーボールと弦張力の測定
- 5-09 何を固定して極限を取るか
- 5-10 有限群の格子ゲージ理論
- 5-11 寄り道
- 第 6 部 構成的場の理論
- 6-01 構成的場の理論とは
- 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
- 6-03 スカラー場の構成
- 6-04 クラスター展開
- 6-05 繰り込み群の段の列
- 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
- 6-07 四次元
- 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
- 6-09 確率量子化と正則性構造
- 6-10 四次元で止まる場所
- 6-11 発散以外の障害
- 6-12 寄り道
- 第 7 部 物理の側から
- 7-01 物理はどう見ているか
- 7-02 閉じ込めの機構
- 7-03 弦の絵
- 7-04 大 N
- 7-05 ひも理論と余剰次元
- 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
- 7-07 ゲージ場はどこから来るか
- 7-08 ホログラフィー
- 7-09 質量ギャップが幾何になる
- 7-10 四次元に戻す
- 7-11 超対称と Seiberg–Witten
- 7-12 等価原理に当たる一文
- 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
- 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
- 8-01 辞書の読み方
- 8-02 辞書 A
- 8-03 辞書 B
- 8-04 辞書 C
- 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
- 第 9 部 現在地と課題
- 9-01 世界はどこまで来ているか
- 9-02 二つの掘り方の切れ目
- 9-03 新しい概念の候補
- 9-04 課題の一覧
- 9-05 よくある誤解
- 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
- 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
- 10-01 理論の構成の筋
- 10-02 一段の記帳
- 10-03 仮定 H と三つの鎖
- 10-04 方向の地図
- 10-05 方向 12〜14
- 10-06 方向 15・15′
- 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
- 10-08 壁の一覧
- 10-09 ひらめき帳から
- 10-10 主張しないこと
- 10-12 つじつま合わせ
- 10-11 定理までの距離
- 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
- 付録
- A-01 記号表
- A-02 用語集
- A-03 文献案内
- A-04 Lean と機械検査
- A-05 この本の作り方
- A-06 仮定の索引
クラスター展開 — 弱く結びついた小さな塊に分けて、対数を収束する和に書き直す道具
この章で分かること — 分配関数の対数を「つながった塊(クラスター)」の和に書く式と、その収束条件。収束すれば無限体積極限・解析性・相関の指数減衰が一度に出ること。連続の場も立方体ごとに切り離せること。
前提となる章 — 6-03。6-01 の段 4・6、4-11、1-08(ガウス測度)も使います。グラフの言葉はその場で定義します。
先に言うこと — 小さな径数(弱い結合・高温・格子の強結合)があるときの道具で、四次元のヤン–ミルズの無限体積極限とギャップには届いていません。計算は一次元の模型と小さなグラフについてのものです。
- 何のための道具か — 独立なら対数は和。弱い結びつきを補正として足し込む
- いちばん小さい例:一次元の剛体格子気体 — 係数・収束半径 1/4・負の活量の側の特異点(計算の表)
- ポリマー模型 — 相容れない塊の気体という共通の形
- 対数を取る:Ursell 関数と連結グラフ — 連結なクラスターだけが残る
- なぜ収束しうるか:打ち消し合いと木 — 符号が打ち消し合い、木の数だけが残る(動く図)
- 収束の判定条件 — Kotecký–Preiss などの不等式と、保証される範囲(動く図)
- 寄り道:確率論の局所補題と同じ不等式 — Lovász の局所補題と独立集合多項式の零点
- 展開から出るもの:無限体積・解析性・指数減衰 — 相関の減衰率がこの模型の「質量ギャップ」
- 連続の場へ:立方体に切って補間で切り離す — 立方体の塊の気体に書き直す
- ゲージ場での使い道と限界 — 強結合の側で働き、四次元の赤外には届かない
何のための道具か
段 4 と段 6 で要るのは、箱の大きさに依らない評価と、遠く離れた量がほぼ独立になることでした(6-01 の式 (9))。問題文は、摂動級数はたいてい発散するので「cluster expansions」と総称される展開法が発達したとし、'Refined estimates yield the rate of exponential decay of Green's functions, magnitude of masses, ...' と書いています(JW §6.1)。既知
芯は一つです。区画どうしが独立なら、分配関数は積、対数は和です。
和なら体積当たりの量は箱に依らず、遠くの区画は効きません。実際の区画は弱く結びついており、クラスター展開はその結びつきを「つながった区画の組」ごとの補正として足し込み、和の収束を示します。比喩で言えば、ほとんどぶつからない薄い気体です。正確には、(i) 個をつなぐ補正が小さな数の 乗程度、(ii) つなぎ方の数が で割って指数関数程度(§05)の二つが要ります。
例:区画が「空」か「粒子一つ(重み )」で独立なら 。 は で収束し、 となる で止まります。級数の届く範囲は、複素数の で分配関数が 0 になる場所が決めます。
いちばん小さい例:一次元の剛体格子気体
章を通して使う例です。点 に粒子を置き()、隣どうしの同時占有を禁じ(剛体の反発)、粒子一つに重み (活量)を付けます。
点 と点 も隣どうしとみなして輪にすると、転送行列 で と書けます(転送行列は 2-08 §03。イジング模型の例は 2-09、格子ゲージでは 5-03)。成分は (。ただし だけ 0)です。だから ()では、各 の重みを半分ずつ二回拾って になり、隣どうしの同時占有は 0 で消えます。これは輪の上の式 (2) そのものです。固有値 の大きいほうが残ります。次の を圧力と呼びます(物理の圧力に逆温度を掛けたもので、体積当たりの 分配関数です)。
計算表 1 係数 (有理数の級数演算で まで閉じた式と一致)。
| 2 | 3 | 4 | 6 | 20 | 60 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| −3/2 | 10/3 | −35/4 | −77 | −3.4×10⁹ | −8.1×10³² | |
| 1.500 | 2.222 | 2.625 | 3.056 | 3.705 | 3.901 |
比は 4 に近づき、収束半径は 。べき級数の収束半径は、関数が複素平面で解析的でなくなる点のうち、原点に最も近いものまでの距離です(複素解析の定理)既知。ここでその点は、根号の中が 0 になって固有値が重なる です。 に相転移は無いのに、級数は の先へ進めません。展開の届く範囲は、物理的でない負の活量の側の特異点で決まります。長さ の鎖の の零点で原点に最も近いものは (Scott–Sokal 2005, Ex. 3.2)で、 で です。計算
ポリマー模型
構造を抜き出します。有限の塊(ポリマー) の集まり 、相容れないという関係 (重なる・接するなど。自分とも相容れない)、複素数の活量 を用意し、どの二つも相容れる組だけを数えます。
は有限の集まり、 は条件が真なら 1、偽なら 0。この形式は Gruber–Kunz(1971)が導入したとされます(Fernández–Procacci 2007 §1)。既知
例:§02 はポリマー=占有された一点、相容れない=同じ点か隣。外場なしの高温のイジング模型(2-08)では、ポリマーは各点の次数が偶数の辺の連結な集まり、頂点を共有すれば相容れない、活量は です。格子ゲージの強結合(5-04)はプラケットの連結な集まり、弱結合の連続の場(§09)は立方体の連結な集まりです。塊が小さい理由が、展開の小さな径数になります。
対数を取る:Ursell 関数と連結グラフ
Mayer の名で呼ばれる手口(Mayer 1937 に遡るとされる)では、(相容れなければ 、相容れれば 0)と書いて積を展開します。各項は点 の上のグラフ(点と、点の対を結ぶ辺)に対応し、対数では連結なグラフだけが残ります。理由は、グラフの重みが連結成分ごとの重みの積に分かれることです。点を連結成分に分ける分け方で整理すると、 を付けて全部の で足した和どうしで、(指数公式)が成り立ち、対数を取れば連結なものだけが残ります。既知
は のとき を結んだグラフ、和は全部の点を使う連結な部分グラフについて、 は辺の数です( では 1)。 は Ursell 関数(場 とは無関係)で、 が連結でなければ 0。寄与するのは相容れなさでつながった組、つまりクラスターだけです(Fernández–Procacci (2.3)(2.4)。まだ形式的な級数)。
例:§02 では並進で平均して 。 では がどれも辺一本で 、よって 。配置では禁じられた が対数には現れます。 まで総当たりで足すと表 1 と有理数で一致しました。計算
なぜ収束しうるか:打ち消し合いと木
式 (5) の和は巨大です。どの二つも相容れないとき は完全グラフ (全部の対を結ぶ)で、連結な全域部分グラフは全グラフとほぼ同数あり、 のまま残れば で割っても収束しません。ところが和は打ち消し合い、 だけが残ります。
計算表 2 ( は総当たり、 は漸化式)。
| 連結な全域部分グラフ | 全域木 | 交代和 | |
|---|---|---|---|
| 4 | 38 | 16 | −6 |
| 10 | 34 496 488 594 816 | 100 000 000 | −362 880 |
仕組みは Penrose(1967)によります。連結な全域部分グラフを全域木(全点をつなぐ輪の無い部分グラフ) ごとの区間 に分けると、区間内の符号の和は の因子で消え、 の木(Penrose 木)だけが残ります(Fernández–Procacci, Prop. 5)。既知
Penrose 木の数は の総当たりで交代和の絶対値と一致しました計算。全域木は でも 個で、 は 程度。 で割って残るのが指数関数だけなので、活量が小さければ (5) は収束しえます。和を初めから木や森で書く恒等式は、Brydges–Federbush(1978)から Brydges–Kennedy(1987)の森の公式へ整えられました(Abdesselam–Rivasseau 1994)。
計算この図の数値はこの端末で計算した。 の累計は辺 3 本(全域木 16 個)で −16、4 本(15 個)で −1、5 本(6 個)で −7、6 本で −6。 は −3、 は −1、 は +2。
収束の判定条件
木の評価を足し上げると条件が出ます。広く使われる Kotecký–Preiss(1986)の条件は、各塊に「予算」 を割り当てて
とするもので(左辺は 自身も含む)、成り立てば、 を で微分した級数(塊 を含むクラスターの和。ポリマー一つ当たりの和)は、各項を絶対値に替えても によらず 以下です(Fernández–Procacci (2.6)(2.7)(2.14)(2.15))。 そのものは体積とともに大きくなりますが、この一つ当たりの上界が によらないので、(5) は に一様な評価つきで絶対収束します(同 (2.7) の直後の文)。塊 を除いたときの対数の変化も 以下です(同 (2.11))。「相容れない相手の重み付きの活量の合計が、自分の予算に収まる」と読みます。同じ型の Dobrushin(1996)・Fernández–Procacci(2007)の条件は、順に適用範囲が広がります。既知
計算表 3 §02 の気体(最大次数 )で保証される範囲。数値的な最大化が Fernández–Procacci Table 1 の式と一致。
| 条件 | この気体での形 | 保証される |
|---|---|---|
| Kotecký–Preiss | ||
| Dobrushin | ||
| Fernández–Procacci | ||
| 厳密な半径 | 式 (3) |
は相容れない三点のうち互いに相容れる部分集合(空・一点三つ・)の数え上げで、 はそうでない組も数える分だけ粗くなります。最後の行の は、各点の次数が の無限の木で厳密な値 (Shearer/Scott–Sokal。Fernández–Procacci Table 1 の星印)に を入れたものです。 のこの木は整数の直線そのものなので、式 (3) の と一致します。上の三つの条件はどれも十分条件です。
計算この図の数値はこの端末で計算した。 は で、 なら 3e−3・1.5e−5・6.4e−8、 なら 0.029・0.063・0.88。
寄り道:確率論の局所補題と同じ不等式
飛ばしてよい節です。
組合せ論の Lovász の局所補題(Erdős–Lovász 1975)は、「悪い事象」 がどれも起きない確率が正になる条件です。事象どうしの依存の仕方をグラフで表します。点 に隣り合う点の集合を と書きます。
依存グラフ:各 が、 とその隣 以外の事象たち(全体をまとめたもの)と独立なとき、このグラフを依存グラフと呼びます。定理は次の形です(Scott–Sokal 2005, Thm 1.1。 は が起きないという事象)。
Scott–Sokal は次の同値を示しました。依存グラフ を持ち となるどの事象の族でも局所補題の結論(どれも起きない確率が正)が成り立つことは、 の上の剛体気体の分配関数が、半径 の多重円板(すべての で となる複素数の組 )で 0 にならないことと同値です。この分配関数は、互いに隣り合わない点の集合 についての和 (独立集合多項式。点ごとに活量を変えた多変数版)で、 が道なら §02 の気体になります。局所補題の通常の証明は、Shearer(1985)が暗に、Dobrushin が明示的に見つけた「零点が無いこと」の帰納法と対応する、とも示しています(要旨)。
と置けば (8) の仮定は表 3 の Dobrushin の形で、左右にだけ依存する事象の列なら で十分です。最良は で、上からは Scott–Sokal §8.4 の Example 8.1(有限の道の零点が に近づく)、下からは表 3 の厳密な半径(Shearer の値 に )が押さえます。教科書でよく見る対称版もここから出ます。各事象が高々 個の他の事象に依存し、確率がどれも 以下のとき、(8) で と置くと なので、 で十分です。 では 、表 3 の Kotecký–Preiss の値です。こうして表 3 の四つの値は、局所補題の側にもすべて現れます。既知
展開から出るもの:無限体積・解析性・指数減衰
条件 (7) が体積に依らず成り立つと三つが出ます。(i) 圧力の極限が存在し、円板の中で解析的。(ii) 箱の大きさを感じるのは縁に触れるか一周するクラスターだけ。(iii) 打ち切り相関には と の両方に触れる、つまり相容れなさの鎖で から までつながるクラスターだけが残り、輪ごとに 程度が掛かる(Ueltschi 2004, Thm 3)。既知
例:§02 の気体を 14 点の輪で数えると、 の係数は で と一致し、 で初めてずれました(一周には 14 点全部が要る)。補正は で、小さい では なので 程度です( の係数のずれはちょうど )。密度の打ち切り相関は に比例し、減衰率は です。計算
計算表 4 減衰率 と、鎖からの見積もり 。
| −0.249 | −0.1 | 0.01 | 0.25 | 1 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 0.1267 | 2.0634 | 4.6249 | 1.7627 | 0.9624 | |
| 1.3903 | 2.3026 | 4.6052 | 1.3863 | 0 |
小さい では で鎖の絵が当たり、 で (半径を決めた特異点で減衰が止まる)。 は半径の外でも :収束は十分条件です。
は転送行列の固有値の比、この模型の「質量ギャップ」です(6-01 の段 6・4-11)。場の理論でも、時間方向の打ち切り相関が体積に一様に で減衰し、その減衰が示せる観測量から作ったベクトル (真空の成分を引いたもの)が、真空と直交する部分空間で稠密なら、OS の再構成(4-10)のハミルトニアン は にスペクトルを持ちません。既知
道具はスペクトル測度です。 ごとに となる 上の測度 があります(1-10 のスペクトル定理。固有ベクトルの基底 があるなら、 は各固有値 に重み を置くもの)。 が全ての で成り立てば、 を見て は に重みを置けません。これが稠密な で言えるので、 にスペクトルが残りません。逆向きは問題文 §5 の式 (2) です。
連続の場へ:立方体に切って補間で切り離す
連続の場では自由場の共分散 が離れた点も結びます。箱を単位立方体 (指示関数 )に切り、立方体をまたぐ部分に を掛けます。
が全部 1 なら元の共分散、全部 0 なら立方体ごとに独立です(Abdesselam–Rivasseau 1994 (V.A.5))。間を Taylor の公式でつなぎます(同 (III.1))。式 (11) の添字 は立方体の対 を走り、 です。 は共分散を にしたときの分配関数、 は対の集まり、 は で 、 で とした点です。
対が一つなら で、(11) はこれを対ごとに繰り返したものです。()は立方体 を結ぶ線を一本下ろし、その大きさは 程度、質量 なら 程度です。微分された対が塊をなし、積分は塊ごとに分かれて、立方体の連結な集まり をポリマーとする気体になります(同 (V.A.7)(V.A.8))。
ただし補間した共分散は正定値(ガウス測度として意味を持つ条件)であり続ける必要があるので、実際には森の公式(Brydges–Kennedy の Taylor 森の公式、同 Thm III.1)を使います。これは、二つの立方体を結ぶ径数を、森をなす木の中で二つを結ぶ道に沿った の最小値で置く版で、こうすると正定値性が保たれます(同 (V.A.9)・Thm IV.5)。この形で、任意の定数 に対し、紫外の切断を入れたうえで結合 を( に応じて)十分小さくとれば です(同 (V.A.10)。 は の立方体の数)。この型の展開を構成的場の理論に持ち込んだのは Glimm–Jaffe–Spencer で(同 §I)、結果は 6-03 §05・§08 にあります。既知
例:道具はガウスの部分積分です(ガウス分布は 1-08 §06)。標準正規の では、密度 の微分が なので、部分積分で が出ます。これを共分散行列 の平均 0 のガウス変数に広げると です既知。分散 1・共分散 のガウス変数 では なので 。 では二つは独立なので、 について 0 から 1 まで積分して
で、塊の相関はつなぐ共分散 で抑えられます。 なら値は ( で )で、左辺・右辺の数値積分と 8 桁一致しました。計算
ゲージ場での使い道と限界
格子の強結合。小さい ではプラケットの塊の展開が働き(5-02・5-04)、無限体積極限の存在と解析性、閉じ込めの評価が示されています(Osterwalder–Seiler 1978)。ただしこの面積則は を含むどの群でも成り立ち、非可換な閉じ込めの証拠にならない、と Chatterjee(2018)は注意しています。既知
位相空間の展開。単位の尺度で小さな径数が無いときは、場を尺度ごとに分け、各尺度の「位相空間の細胞」で展開して積み上げます(Battle–Federbush 1982。JW §6.1 の 'phase-space localization')。格子ゲージ理論では Bałaban の系列がこれにあたります(6-05)。既知
赤外の限界。四次元では長い距離で結合が強くなります。Magnen–Rivasseau–Sénéor 1993 §I は 'there is no easy solvable model of these phenomenons around which to expand' と書き、問題文も体積に一様なギャップには新しい考えが要るとします(JW §6.5)。展開が収束する小さい は、連続極限 の反対の岸です。正確には、展開が収束するのは が小さい側の有限の区間で、連続極限は で取ります(5-09)。
§02 では展開を止めた特異点は負の活量の側でした。四次元の 格子では、大きい で面積則が破れる相が実際に在ります(Guth 1980。完全に厳密な証明と質量ゼロの相は Fröhlich–Spencer 1982)。非可換(・ の Wilson 作用)では、閉じ込めを失う相転移は無いと信じられています物理が、定理ではありません。展開の収束が止まる場所は、その先の相転移の有無を教えません。この本の整理では、弱結合の紫外(6-05〜6-07)と強結合の展開のあいだ、結合が になる一段が欠けています(6-10)。
この章が言えている範囲
| 内容 | |
|---|---|
| 言えている | 展開の式・Penrose の恒等式・三つの収束条件とその帰結(解析性・指数減衰)既知 |
| 言えている | 一次元の剛体格子気体の係数・半径 ・閾値・減衰率。 の交代和と Penrose 木の一致()。式 (12)計算 |
| 言えていない | 連続の場と格子の強結合での収束の証明の中身(原論文は追っていない。5-04)。四次元の赤外で使える展開(知られていない) |
出典と再現
| もの | 種別 | 出典・道具 |
|---|---|---|
| 問題文の引用(§5・§6.1・§6.5) | 本文で確認 | A. Jaffe, E. Witten, Quantum Yang–Mills Theory, Clay Mathematics Institute (2000) |
| 式 (4)〜(7)・Dobrushin と FP の条件・表 3 の式 | 本文で確認 | R. Fernández, A. Procacci, CMP 274 (2007) 123–140, arXiv:math-ph/0605041 |
| 式 (10)(11)・森の公式/相関の減衰 | 本文で確認 | A. Abdesselam, V. Rivasseau, arXiv:hep-th/9409094 (1994)。D. Ueltschi, Moscow Math. J. 4 (2004) 511–522 |
| 局所補題・同値・鎖の零点・・Shearer の値 | 要旨・§1・§4.1・§5.2・§8.4 を確認 | A. D. Scott, A. D. Sokal, J. Stat. Phys. 118 (2005) 1151–1261, arXiv:cond-mat/0309352 |
| 原典・系譜 | 書誌のみ | Kotecký–Preiss, CMP 103 (1986) 491。Dobrushin, AMS Transl. (2) 177 (1996) 59。Gruber–Kunz, CMP 22 (1971) 133。Penrose, in Statistical Mechanics: Foundations and Applications (T. A. Bak ed.), Benjamin (1967) 101–109。Mayer, J. Chem. Phys. 5 (1937) 67。Brydges–Federbush, J. Math. Phys. 19 (1978) 2064。Brydges–Kennedy, J. Stat. Phys. 48 (1987) 19。Battle–Federbush, Ann. Phys. 142 (1982) 95。Glimm–Jaffe–Spencer, in Constructive Quantum Field Theory (G. Velo, A. Wightman eds.), Lecture Notes in Physics 25, Springer (1973)(Part II: The cluster expansion)、および Ann. Math. 100 (1974) 585。Erdős–Lovász, in Infinite and Finite Sets II, Colloq. Math. Soc. J. Bolyai 10, North-Holland (1975) 609–627。Shearer, Combinatorica 5 (1985) 241 |
| 格子の強結合・ の相・赤外の引用 | 要旨・本書の材料の検査による | Osterwalder–Seiler, Ann. Phys. 110 (1978) 440(本文未入手)。Chatterjee, arXiv:1803.01950 §4。Guth, PRD 21 (1980) 2291(書誌は Chatterjee の文献表による)。Fröhlich–Spencer, CMP 83 (1982) 411。Magnen–Rivasseau–Sénéor, CMP 155 (1993) 325 |
| 指数公式・スペクトル測度・ガウスの部分積分・収束半径と特異点 | 既知 | 標準的な事実(1-08・1-10) |
| 表・零点・輪・式 (12)・図 | 計算 | この端末の Python:hardcore1d.py・graphs.py・decouple.py。図は素の JavaScript |
次に読む章:6-05 繰り込み群の段の列(展開を尺度の列に積み上げる)。
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