computo ergo sum

2026-10-01 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 2 部 物理の準備作用原理と Noether

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 第 9 部 現在地と課題
  97. 9-01 世界はどこまで来ているか
  98. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  99. 9-03 新しい概念の候補
  100. 9-04 課題の一覧
  101. 9-05 よくある誤解
  102. 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
  103. 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
  104. 10-01 理論の構成の筋
  105. 10-02 一段の記帳
  106. 10-03 仮定 H と三つの鎖
  107. 10-04 方向の地図
  108. 10-05 方向 12〜14
  109. 10-06 方向 15・15′
  110. 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
  111. 10-08 壁の一覧
  112. 10-09 ひらめき帳から
  113. 10-10 主張しないこと
  114. 10-12 つじつま合わせ
  115. 10-11 定理までの距離
  116. 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
  117. 付録
  118. A-01 記号表
  119. A-02 用語集
  120. A-03 文献案内
  121. A-04 Lean と機械検査
  122. A-05 この本の作り方
  123. A-06 仮定の索引

ラグランジアンと作用 — 運動は「道全体に付く一つの数」の停留点として書ける

この章で分かること — 運動方程式が作用の停留条件として書けること。そこから Euler–Lagrange 方程式が出ること。連続的な対称性から保存量が出ること(Noether の定理)と、局所的な対称性からは拘束が出ること。

前提となる章 — 1-01 ベクトル空間と線形写像(回転行列・実対称行列の固有値)。ほかは多変数の微積分とニュートンの運動方程式です。

先に言うこと — 有限個の自由度に限ります(場は 2-02、ヤン–ミルズの作用は 3-03)。証明は滑らかな道と端を固定した変分の範囲です。作用原理がなぜ成り立つのかには答えません。

この章の順序
  1. なぜ作用から始めるのか — 三つの利点
  2. 作用という一つの数 — 運動エネルギー − 位置エネルギーの積分
  3. 道を少しずらす — 刻めば多変数の関数(図 1)
  4. Euler–Lagrange 方程式 — 部分積分一回。座標を選ばない
  5. 最小とは限らない — 固有値と共役点(計算つき)
  6. Noether の定理 — 対称性から保存量(図 2)
  7. 寄り道:刻んだ作用にも Noether がある — 角運動量がちょうど保たれる理由
  8. 局所的な対称性は拘束を生む — ゲージ理論への前触れ

01

なぜ作用から始めるのか

ニュートンの運動方程式 mq¨=Fm\ddot q = F は、各時刻の加速度を決める局所的な規則です。この章では同じ運動を別の形で書きます。出発と到着を決め、その間の道全体に一つの数 SS(作用)を与える。実際の運動は、道を少しずらしても SS が一次では変わらない道として選ばれる。これが作用原理(最小作用の原理とも)です。

利点は三つです。座標に依らない(§04)。対称性から保存則が自動的に出る(§06)。場の理論の言葉である:ヤン–ミルズ理論は tr⁡F2\operatorname{tr}F^2 の積分という作用で定義され(3-03)、経路積分も作用を指数の肩に載せて道を足し合わせます(2-07)。

比喩で言えば、運動方程式は「一歩ずつの道案内」、作用原理は「地図で道全体を見比べる」見方です。正確には、保存力の系では両者は同じ方程式を与え(§04)、違うのは何が見やすいかだけです。

02

作用という一つの数

直線上の粒子の時刻 tt での位置を q(t)q(t)、速度を q˙=dq/dt\dot q = dq/dt、質量を mm、位置エネルギーを V(q)V(q) とします。ラグランジアン LL は運動エネルギーから位置エネルギーを引いたもので、和であるエネルギーとは別の量です。それを道に沿って積分した数が作用です。

L(q,q˙)=12mq˙2−V(q)L(q,\dot q) = \tfrac12 m\dot q^2 - V(q) S[q]=∫t0t1L(q(t),q˙(t)) dtS[q] = \int_{t_0}^{t_1} L\bigl(q(t),\dot q(t)\bigr)\,dt

角括弧は、道を丸ごと入れて数を返す写像(汎関数)であることを示します。

例。V=0V = 0、m=1m = 1、端を q(0)=0q(0) = 0、q(1)=1q(1) = 1 とします。等速の道 q=tq = t では S=0.5S = 0.5。同じ端を結ぶ回り道 q=t+0.3sin⁡πtq = t + 0.3\sin\pi t では S=12∫01(1+0.3πcos⁡πt)2 dt=12(1+0.09π2/2)≈0.722S = \tfrac12\int_0^1 (1 + 0.3\pi\cos\pi t)^2\,dt = \tfrac12(1 + 0.09\pi^2/2) \approx 0.722。回り道をすると作用が増えます。

03

道を少しずらす

関数の極値は、変数を少し動かしたときの一次の変化が 0 になる点でした。作用では道を動かします。端で 0 になる関数 η(t)\eta(t) を取ると、S(ε)=S[q+εη]S(\varepsilon) = S[q + \varepsilon\eta] は実数 ε\varepsilon の普通の関数です。作用原理は「端を固定したどの η\eta でも S′(0)=0S'(0) = 0」という要求で、これを満たす道を停留点と呼びます。

刻めば、有限個の変数の関数になる

時間を NN 等分(刻み幅 hh)して道を折れ線にし、積分を台形則で近似すると、作用は途中の位置 q1,…,qN−1q_1, \dots, q_{N-1} の多変数関数になります(端 q0q_0、qNq_N は固定)。

SN=∑k=0N−1[m(qk+1−qk)22h−h2(V(qk)+V(qk+1))]S_N = \sum_{k=0}^{N-1}\Bigl[\frac{m(q_{k+1}-q_k)^2}{2h} - \frac h2\bigl(V(q_k)+V(q_{k+1})\bigr)\Bigr] ∂SN∂qk=−h[m qk+1−2qk+qk−1h2+V′(qk)]\frac{\partial S_N}{\partial q_k} = -h\Bigl[m\,\frac{q_{k+1}-2q_k+q_{k-1}}{h^2} + V'(q_k)\Bigr]

作用原理は「勾配が 0」になり、それは mq¨=−V′(q)m\ddot q = -V'(q) の差分版です(§07 で再び使う)。

例:ばねの粒子

V=12mω2q2V = \tfrac12 m\omega^2 q^2、m=1m = 1、時間の長さ T=1T = 1、端を q(0)=1q(0) = 1、q(1)=−1q(1) = -1 とします。運動方程式の解は qcl(t)=sin⁡(ω(12−t))/sin⁡(ω/2)q_{\mathrm{cl}}(t) = \sin\bigl(\omega(\tfrac12 - t)\bigr)/\sin(\omega/2) です(cl は「古典的な道」)。ずらし ηn=sin⁡nπt\eta_n = \sin n\pi t(n=1,2,3n = 1, 2, 3)に対して、作用は ε\varepsilon の二次式になります。

S(ε)=ωcot⁡ω2+ε24((nπ)2−ω2)S(\varepsilon) = \omega\cot\frac{\omega}{2} + \frac{\varepsilon^2}{4}\bigl((n\pi)^2 - \omega^2\bigr)

一次の項が無いことが「停留」の中身です。二次の項は 12∫(η˙2−ω2η2) dt\tfrac12\int(\dot\eta^2 - \omega^2\eta^2)\,dt から来ます。図 1 で ε\varepsilon を動かすと、作用は放物線の上を動き、ε=0\varepsilon = 0 で傾きが 0 です。

図 1 ε・形 n・ωT を動かすと、ずらした道(左)と作用 S(ε)(右)が変わる
0.60

計算曲線は上の公式をブラウザで描いたもので、公式はこの端末で数値積分と照合した(表 1)。点線は古典的な道、点は N=10N = 10 で刻んだときの変数。

表 1 作用の値(m=T=1m = T = 1、q(0)=1q(0) = 1、q(1)=−1q(1) = -1)
ωT/π\omega T/\pinnS(0)S(0)S(1)S(1)二次の係数
0.511.57083.4213+1.851
1.010.00000.00000
1.51−4.7124−7.7966−3.084
1.52−4.7124−0.3944+4.318

計算Simpson 則(20000 区間)の数値積分と公式の差は 4×10−154\times10^{-15} 以下。一次の係数も 5×10−135\times10^{-13} 以下。

04

Euler–Lagrange 方程式

§03 の条件を刻まずに計算します。ε\varepsilon で微分し、第二項を部分積分します(端で η=0\eta = 0 なので境界の項は消える)。

S′(0)=∫t0t1[∂L∂q η+∂L∂q˙ η˙]dtS'(0) = \int_{t_0}^{t_1}\Bigl[\frac{\partial L}{\partial q}\,\eta + \frac{\partial L}{\partial\dot q}\,\dot\eta\Bigr]dt =∫t0t1[∂L∂q−ddt∂L∂q˙]η dt= \int_{t_0}^{t_1}\Bigl[\frac{\partial L}{\partial q} - \frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot q}\Bigr]\eta\,dt

これがどの η\eta でも 0 なら、括弧は各時刻で 0 です(括弧は連続なので、どこかで正ならその近くでも正で、その近くだけで正の η\eta を取れば積分が正になる。変分法の基本補題)。こうして Euler–Lagrange 方程式が出ます。自由度が複数なら成分ごとに一本です。

ddt∂L∂q˙−∂L∂q=0(EL)\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot q} - \frac{\partial L}{\partial q} = 0 \tag{EL}

例。L=12mq˙2−V(q)L = \tfrac12 m\dot q^2 - V(q) なら mq¨=−V′(q)m\ddot q = -V'(q)。保存力のニュートン方程式そのものです。

座標を選ばない

この導き方は qq が何を表すかを使っていません。角度でもよく(一般化座標)、同じ形の方程式が成り立ちます 既知。同じ道には座標によらず同じ作用が付くからです(1-05)。振り子を角度 θ\theta で書くと L=12ml2θ˙2+mglcos⁡θL = \tfrac12 ml^2\dot\theta^2 + mgl\cos\theta から ml2θ¨=−mglsin⁡θml^2\ddot\theta = -mgl\sin\theta。張力は現れません。

LL に dG(q,t)/dtdG(q,t)/dt を足しても方程式は変わりません(作用は端の値だけで決まる量しか変わらない)既知。ヤン–ミルズ理論の θ 項はこれの四次元版で、時間での全微分の代わりに四次元の発散(全発散)の形をしています。正確には、θ 項は古典的な方程式を変えませんが、場の位相を通じて量子論では効きます(3-05)。

05

最小とは限らない

作用原理が求めるのは一次の変化が 0 であることだけで、最小かどうかは二次の項で決まります。§03 の例では係数 ((nπ)2−ω2)/4((n\pi)^2 - \omega^2)/4 の符号です。ωT<π\omega T \lt \pi ならどの nn でも正で、一般の η\eta も正弦級数に展開すれば各 nn の和に分かれるので、古典的な道は本当に最小です(作用が二次式のため)。

ωT\omega T が π\pi を越えると n=1n = 1 の係数が負になり、その向きには作用が減る(鞍点)。図 1 で ωT/π\omega T/\pi を 1 の左右に動かすと、n=1n = 1 の放物線が裏返ります。ωT=π\omega T = \pi ちょうどでは、n=1n = 1 の向きに動かしても作用が変わらず(n≥2n \ge 2 の向きでは増える)、同じ端を結ぶ解が一族 cos⁡πt+csin⁡πt\cos\pi t + c\sin\pi t になります。一般に、時刻 0 の同じ点から出た近くの解の族が再び一点に集まる時刻を、0 の共役点と呼びます 既知。この例の共役点は t=π/ω,2π/ω,…t = \pi/\omega, 2\pi/\omega, \dots で、ωT=π\omega T = \pi は終わりの時刻がちょうど最初の共役点に来た場合です。

二次の項は行列の固有値の問題

刻むと、二次の項はヘッセ行列 Hjk=∂2SN/∂qj∂qkH_{jk} = \partial^2 S_N/\partial q_j\partial q_k です。実対称なので対角化でき(1-01)、極小とは固有値がすべて正であること。負の固有値の個数は作用を減らせる向きの数で、Morse 指数と呼びます(ここでは刻んだ行列についての呼び名)。調和振動子の HH は三重対角(対角 2m/h−mω2h2m/h - m\omega^2 h、両隣 −m/h-m/h)で、hh で割った固有値は m((nπ/T)2−ω2)m((n\pi/T)^2 - \omega^2) に近づき、負のものは ⌊ωT/π⌋\lfloor\omega T/\pi\rfloor 個です。

表 2 刻んだ作用のヘッセ行列(m=T=1m = T = 1、N=200N = 200)
ωT/π\omega T/\pi負の固有値の個数最小固有値 / h/\,hπ2−(ωT)2\pi^2 - (\omega T)^2
0.5007.40207.4022
1.051−1.0118−1.0116
2.502−51.8156−51.8154
3.203−91.1953−91.1951

計算numpy の eigvalsh で全固有値を求めた。N=20N = 20 でも個数は同じで、最小固有値の差は約 0.02。

刻まない場合も、この例で作用を減らせる向きは sin⁡nπt\sin n\pi t のうち nπ<ωTn\pi \lt \omega T のもので、その数は (0,T)(0, T) にある共役点 kπ/ωk\pi/\omega の数に等しくなります。これは Morse の指数定理(二次の項の負の向きの数は、(0,T)(0, T) にある共役点の数に重複を込めて等しい)の一例です 既知。

この見方は 1-10 で無限次元に広げます。ここでの最小固有値(作用の二次の項)と、4-11 の質量ギャップ(ハミルトニアンのスペクトルの隙間)は別物です。

06

Noether の定理

LL が座標 qq を含まなければ、(EL) は p=∂L/∂q˙p = \partial L/\partial\dot q(共役な運動量)の保存を言います。中心力を極座標で書いた L=12m(r˙2+r2φ˙2)−V(r)L = \tfrac12 m(\dot r^2 + r^2\dot\varphi^2) - V(r) は φ\varphi を含まず、角運動量 mr2φ˙mr^2\dot\varphi が保存します。これを座標から切り離したのが Noether の定理です。

実数 ss で連続に番号付けされ s=0s = 0 で恒等写像になる変換 q↦Φs(q)q \mapsto \Phi_s(q)(平行移動や角 ss の回転)の、動く向きを K(q)=ddsΦs(q)∣s=0K(q) = \frac{d}{ds}\Phi_s(q)\big|_{s=0} とします。Noether の定理:どの道でも L(Φs(q),ddtΦs(q))=L(q,q˙)L\bigl(\Phi_s(q), \tfrac{d}{dt}\Phi_s(q)\bigr) = L(q, \dot q) なら、運動に沿って次の QQ は一定です 既知。

Q=∑i∂L∂q˙i Ki(q)(N)Q = \sum_i \frac{\partial L}{\partial\dot q_i}\,K_i(q) \tag{N}

証明。仮定を s=0s = 0 で微分すると ∑i(∂L/∂qi)Ki+∑i(∂L/∂q˙i) K˙i=0\sum_i (\partial L/\partial q_i) K_i + \sum_i (\partial L/\partial\dot q_i)\,\dot K_i = 0。(EL) で ∂L/∂qi\partial L/\partial q_i を ddt(∂L/∂q˙i)\frac{d}{dt}(\partial L/\partial\dot q_i) に置き換えると、左辺は積の微分 dQ/dtdQ/dt です。∎

作用を変えない変換KK保存量 QQ
平行移動 x↦x+se\boldsymbol x \mapsto \boldsymbol x + s\boldsymbol ee\boldsymbol e運動量の成分 mx˙⋅em\dot{\boldsymbol x}\cdot\boldsymbol e
平面の回転 x↦R(s)x\boldsymbol x \mapsto R(s)\boldsymbol x(−y,x)(-y, x)角運動量 Lz=m(xy˙−yx˙)L_z = m(x\dot y - y\dot x)
時間の平行移動(∂L/∂t=0\partial L/\partial t = 0)—エネルギー E=∑iq˙i ∂L/∂q˙i−LE = \sum_i \dot q_i\,\partial L/\partial\dot q_i - L

三行目は直接微分して dE/dt=−∂L/∂tdE/dt = -\partial L/\partial t から出ます(E=12mq˙2+VE = \tfrac12 m\dot q^2 + V)。

図で確かめる:対称性を壊すと保存量が消える

平面の粒子(m=1m = 1)に、極座標で V=12r2+14r4(1+δcos⁡4θ)V = \tfrac12 r^2 + \tfrac14 r^4(1 + \delta\cos 4\theta) を与えます。δ=0\delta = 0 なら回転対称で LzL_z が保存します。δ>0\delta \gt 0 では VV を変えない回転が 90° の倍数だけになり、対称性は飛び飛びに落ちます。定理が使う無限に小さい変換が無いので定理は何も言わず、実際 LzL_z は保存しません。VV は時間によらないので EE は保存します。

図 2 δ を動かすと、角運動量 Lz は揺れ始めるが、エネルギー E はほとんど揺れない(10⁻⁵ 程度)δ = 0.00

計算初期値は位置 (1,0)(1, 0)、速度 (0,0.9)(0, 0.9)。軌道は速度 Verlet 法(h=0.01h = 0.01)でブラウザが計算し、同じ手順をこの端末で回した値が表 3(1.4e−14 は 1.4×10−141.4\times10^{-14})。右の帯二つは縦の目盛りが同じ。

表 3 角運動量とエネルギーの変化(0≤t≤600 \le t \le 60)
δ\deltahhLzL_z の最小LzL_z の幅max⁡∣E−E0∣\max\lvert E - E_0\rvert
00.010.90001.4e−142.0e−5
00.0050.90001.6e−145.0e−6
0.10.010.85810.0802.8e−5
0.30.01−1.01522.034.3e−5
0.50.01−1.09382.195.8e−5

δ=0.3\delta = 0.3 と 0.50.5 では LzL_z の符号まで変わり、粒子は途中で回る向きを逆にします。EE のずれは 10−510^{-5} 程度で、図では平らに見えます。

07

寄り道:刻んだ作用にも Noether がある

寄り道

飛ばしてよい節です。

図 2 は刻み幅 hh で一歩ずつ計算したものです。ここでは位置 qkq_k と速度 vkv_k は平面のベクトルで(qk∈R2q_k \in \mathbb R^2。§03 の qkq_k は数でした)、力 F=−∇VF = -\nabla V を使って速度 Verlet 法で進めます。

vk+1/2=vk+h2mF(qk),qk+1=qk+h vk+1/2,vk+1=vk+1/2+h2mF(qk+1)v_{k+1/2} = v_k + \frac{h}{2m}F(q_k),\qquad q_{k+1} = q_k + h\,v_{k+1/2},\qquad v_{k+1} = v_{k+1/2} + \frac{h}{2m}F(q_{k+1})

それなのに表 3 の δ=0\delta = 0 で LzL_z は丸め誤差の水準で一定、エネルギーは 10−510^{-5} ずれます。理由があります。

速度を消去すると m(qk+1−2qk+qk−1)=h2F(qk)=−h2∇V(qk)m(q_{k+1} - 2q_k + q_{k-1}) = h^2F(q_k) = -h^2\nabla V(q_k)。これは §03 の刻んだ作用の停留条件を平面に移したものそのものです 既知(Hairer–Lubich–Wanner 2003, §1.6。この形は Störmer–Verlet 法と呼ばれ、速度 Verlet 法はその書き方の一つ)。VV が回転対称なら刻んだ作用も一斉の回転で変わらず、§06 の計算が差分で通って、次の JJ が kk によらず一定です。

J=mh (qk×qk+1)zJ = \frac{m}{h}\,(q_k \times q_{k+1})_z

ここで (a×b)z=axby−aybx(a \times b)_z = a_xb_y - a_yb_x です。直接にも確かめられます。停留条件に左から qk ×q_k\,\times を掛けると、中心力では F(qk)F(q_k) が qkq_k に平行なので右辺が消え、qk×qk+1=qk−1×qkq_k \times q_{k+1} = q_{k-1} \times q_k が残ります。JJ は原点と隣り合う二点が作る三角形の面積の 2m/h2m/h 倍で、一歩ごとに掃く面積が一定ということです。

この JJ は表 3 の Lz=m(qk×vk)zL_z = m(q_k \times v_k)_z そのものです。更新式の最初の二つから qk+1=qk+h vk+h22mF(qk)q_{k+1} = q_k + h\,v_k + \frac{h^2}{2m}F(q_k)。中心力では F(qk)F(q_k) が qkq_k に平行なので qk×qk+1=h qk×vkq_k \times q_{k+1} = h\,q_k \times v_k、よって J=LzJ = L_z です。同じ論文の Theorem 3.5 は、角運動量のような二次の保存量がこの方法で厳密に保たれることを一般に示しています 既知。また §1.3 は、Feynman の講義を引いて、『プリンキピア』がケプラーの第二法則を示した論法がこの計算法の一つの書き方(等速で半歩、中心に向けて一撃、等速で半歩)と同じ形だと紹介しています。

一方、時間は刻んだので、ずらせるのは hh の整数倍だけです。飛び飛びの対称性には定理が働かず、エネルギーはちょうどは保存しません。ただし、エネルギーの式(位置と速度の関数)が滑らかで、数値解がある有界な範囲に留まるなら、任意の正の整数 NN について次が示されています 既知(同 Theorem 5.1。CC と CNC_N は tt と hh によらない)。

∣Ek−E0∣≤Ch2+CNhNt(0≤t=kh≤h−N)\lvert E_k - E_0\rvert \le Ch^2 + C_N h^N t \qquad (0 \le t = kh \le h^{-N})

第二項は t≤h2−Nt \le h^{2-N} なら CNh2C_N h^2 以下です。NN を大きく取れば、h−1h^{-1} の高いべきという非常に長い時間まで、誤差は h2h^2 程度に留まります。無限の時間についての定理ではありません。表 3 で hh を半分にすると、ずれはほぼ 1/4 です。

「残したい対称性は、刻んだ作用の対称性として厳密に残す」は、格子ゲージ理論の Wilson の方法の出発点でもあります(5-01)。そこで厳密に残るのはゲージ対称性で、壊れるのは時空(虚時間に直した四次元。4-02)の連続的な回転と平行移動です。格子の向きの 90° 回転と、格子間隔ずつの平行移動は残ります。

08

局所的な対称性は拘束を生む

§06 の ss は定数でした(大域的な対称性)。時刻ごとに違う s(t)s(t) で変換しても作用が変わらないのが局所的な対称性で、ゲージ理論の中心です(3-01)。変数が x(t)x(t)、λ(t)\lambda(t) の二つの玩具で見ます。

L=12m(x˙−λ)2,x↦x+s(t),λ↦λ+s˙(t)L = \tfrac12 m(\dot x - \lambda)^2, \qquad x \mapsto x + s(t),\quad \lambda \mapsto \lambda + \dot s(t)

どんな s(t)s(t) でも x˙−λ\dot x - \lambda は変わりません。λ\lambda は時間微分なしで現れるので、その方程式は拘束になります。

(λ)  m(x˙−λ)=0,(x)  ddt[m(x˙−λ)]=0(\lambda)\ \ m(\dot x - \lambda) = 0, \qquad (x)\ \ \frac{d}{dt}\bigl[m(\dot x - \lambda)\bigr] = 0

二本目は一本目の微分で、独立なのは一本だけ。xx は方程式が決めない任意の関数として残ります。Noether(1918)の第二定理は、任意関数を含む変換で作用が変わらないとき、Lagrange の方程式のいくつかが残りから従うことを述べています 既知。正確には、Lagrange の方程式の左辺とその微分の間に、任意関数の個数だけ恒等式が成り立ちます。この玩具では任意関数は s(t)s(t) の一つで、恒等式も「(x)(x) の左辺は (λ)(\lambda) の左辺の時間微分」の一つです。定数の ss から (N) で作る Q=m(x˙−λ)Q = m(\dot x - \lambda) は、保存どころか 0 に拘束されています。

電磁気学では、λ\lambda と同じ役をスカラーポテンシャル ϕ\phi が、xx と同じ役をベクトルポテンシャル A\mathbf A がし、λ\lambda の方程式と同じ役をするのが Gauss の法則です(2-03・4-01)。正確には、電磁気学では s(t)s(t) が各点の関数 χ(t,x)\chi(t,\mathbf x) になり、A\mathbf A は ∇χ\nabla\chi だけ、ϕ\phi は −∂χ/∂t-\partial\chi/\partial t だけずれます(2-03 の (G)。ϕ\phi のずれの符号は玩具の λ\lambda と逆)。方程式が決めない自由度は書き方の重複で、その扱いはヤン–ミルズ理論の量子化の大きな問題の一つです(4-08)。

玩具そのものには物理的な中身はありません(解は λ=x˙\lambda = \dot x だけで、xx は任意)。


この章が言えている範囲

事柄言えていること言えていないこと
Euler–Lagrange 方程式既知端を固定した滑らかな道で導いた端を動かす変分・拘束の一般論
停留と最小計算調和振動子で ωT<π\omega T \lt \pi なら最小、越えると鞍点(表 1・表 2)一般の共役点の理論(Jacobi の条件・Morse の指数定理の証明)
Noether の第一定理既知有限自由度・LL が厳密に不変な場合を証明したLL が全微分だけ変わる場合、場の理論での形(2-02)
数値での観察計算一つの例(t≤60t \le 60)で LzL_z の揺れと保存、EE の誤差 ∝h2\propto h^2 を見た(表 3)一般の主張ではない。長時間の評価は文献の定理に依る
Noether の第二定理一つの玩具で方程式の重複と拘束を見た一般の証明と場の理論での形(3-01)
作用原理の由来—物理2-07

出典と再現

もの種別出典・道具
(EL)・一般化座標・(N)既知教科書L. D. Landau, E. M. Lifshitz, Mechanics, 3rd ed., Pergamon Press, 1976。書誌のみ
Noether の二つの定理既知一次資料E. Noether, Invariante Variationsprobleme, Nachr. Ges. Wiss. Göttingen, Math.-phys. Kl. (1918) 235–257。英訳 M. A. Tavel, Invariant variation problems, Transport Theory and Statistical Physics 1(3) (1971) 186–207, doi:10.1080/00411457108231446, arXiv:physics/0503066(§1 の定理 I・II を確認)
二階の変分・共役点既知教科書D. Liberzon, Calculus of Variations and Optimal Control Theory, Princeton University Press, 2012, doi:10.1515/9781400842643(出版前の版の §2.6.2 で Jacobi の条件と共役点を確認)。I. M. Gelfand, S. V. Fomin, Calculus of Variations, 1963。書誌のみ
Morse の指数定理既知教科書J. Milnor, Morse Theory, Annals of Mathematics Studies 51, Princeton University Press, 1963(§15 Theorem 15.1 を確認。述べられているのは測地線の場合)
§07 の Störmer–Verlet 法について既知総説E. Hairer, C. Lubich, G. Wanner, Acta Numerica 12 (2003) 399–450, doi:10.1017/S0962492902000144(§1.3・§1.6・Theorem 3.5・5.1 を確認)
変分積分法既知総説J. E. Marsden, M. West, Acta Numerica 10 (2001) 357–514。書誌のみ
表 1・表 2・表 3計算python3+numpy(この端末の記録)。action_scan.py(Simpson 則)・hessian.py(eigvalsh)・noether_verlet.py(速度 Verlet 法。図 2 は同じ手順をブラウザで回したもの)

次に読む章:2-02 場という考え(qiq_i を場 ϕ(x)\phi(x) に置き換え、自由度が無限個になる)。

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改訂 2026-10-01:初版。