この本の全体 目次と読む順
- 第 0 部 入口 — この本の読み方
- 0-01 この本の読み方
- 0-02 一枚の絵
- 0-03 問題文を一語ずつ読む
- 0-04 数学の四次元と物理の四次元
- 第 1 部 数学の準備
- 1-01 ベクトル空間と線形写像
- 1-02 群とは何か
- 1-03 リー群とリー環
- 1-04 SU(2) と SU(3)
- 1-05 多様体と接空間
- 1-06 微分形式と外微分
- 1-07 ベクトル束と接続
- 1-08 確率と測度
- 1-09 無限次元の確率
- 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
- 1-11 フーリエ解析と分布
- 1-12 寄り道
- 第 2 部 物理の準備
- 2-01 ラグランジアンと作用
- 2-02 場という考え
- 2-03 電磁気学はゲージ理論である
- 2-04 特殊相対論と時空
- 2-05 量子力学の骨
- 2-06 調和振動子と生成消滅
- 2-07 経路積分の考え方
- 2-08 統計力学と相転移
- 2-09 寄り道
- 2-10 緩和の時間と動的指数 z
- 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
- 3-01 ゲージ原理
- 3-02 非可換ゲージ場
- 3-03 作用と方程式
- 3-04 幾何としてのゲージ理論
- 3-05 インスタントンと位相
- 3-06 寄り道
- 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
- 第 4 部 量子化
- 4-01 正準量子化とハミルトニアン
- 4-02 経路積分とユークリッド化
- 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
- 4-04 発散と繰り込み
- 4-05 発散の代数
- 4-06 漸近自由
- 4-07 次元転移と Λ
- 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
- 4-09 場の量子論の公理
- 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
- 4-11 質量ギャップの定義
- 4-12 寄り道
- 第 5 部 格子ゲージ理論
- 5-01 Wilson の格子
- 5-02 強結合展開
- 5-03 反射正値性と転送行列
- 5-04 無限体積極限とクラスター展開
- 5-05 弱結合と連続極限
- 5-06 U(1) と非可換の違い
- 5-07 モンテカルロ法
- 5-08 グルーボールと弦張力の測定
- 5-09 何を固定して極限を取るか
- 5-10 有限群の格子ゲージ理論
- 5-11 寄り道
- 第 6 部 構成的場の理論
- 6-01 構成的場の理論とは
- 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
- 6-03 スカラー場の構成
- 6-04 クラスター展開
- 6-05 繰り込み群の段の列
- 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
- 6-07 四次元
- 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
- 6-09 確率量子化と正則性構造
- 6-10 四次元で止まる場所
- 6-11 発散以外の障害
- 6-12 寄り道
- 第 7 部 物理の側から
- 7-01 物理はどう見ているか
- 7-02 閉じ込めの機構
- 7-03 弦の絵
- 7-04 大 N
- 7-05 ひも理論と余剰次元
- 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
- 7-07 ゲージ場はどこから来るか
- 7-08 ホログラフィー
- 7-09 質量ギャップが幾何になる
- 7-10 四次元に戻す
- 7-11 超対称と Seiberg–Witten
- 7-12 等価原理に当たる一文
- 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
- 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
- 8-01 辞書の読み方
- 8-02 辞書 A
- 8-03 辞書 B
- 8-04 辞書 C
- 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
- 第 9 部 現在地と課題
- 9-01 世界はどこまで来ているか
- 9-02 二つの掘り方の切れ目
- 9-03 新しい概念の候補
- 9-04 課題の一覧
- 9-05 よくある誤解
- 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
- 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
- 10-01 理論の構成の筋
- 10-02 一段の記帳
- 10-03 仮定 H と三つの鎖
- 10-04 方向の地図
- 10-05 方向 12〜14
- 10-06 方向 15・15′
- 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
- 10-08 壁の一覧
- 10-09 ひらめき帳から
- 10-10 主張しないこと
- 10-12 つじつま合わせ
- 10-11 定理までの距離
- 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
- 付録
- A-01 記号表
- A-02 用語集
- A-03 文献案内
- A-04 Lean と機械検査
- A-05 この本の作り方
- A-06 仮定の索引
辞書 A:理論そのもの — 確定の対は、一つの測度の手前に並ぶ
この章で分かること — 理論が載る空間・測度・状態の語を十九の対に並べた、二列の格付けとその根拠。
確定の対の多くが「条件を満たす測度が在れば」という一つの前提の内側にあること。
局所対称性が破れないこと(Elitzur の定理)を、外場を外す順序で見る計算。
前提となる章 — 4-02・4-10。格付けの二列は 8-01。ほかに 4-11(粒子・スペクトル)・5-03(転送行列)・3-04(軌道空間・Singer の定理)・2-08(外場を外す順序)・5-01(Haar 測度)の道具を引きます。前提の章に無い語は初出で定義します。
先に言うこと — 対を並べて格付けするだけで、四次元のヤン–ミルズ理論の測度も Hilbert 空間も作りません。列 (b) の「無い」は 8-01 §04 のとおり「まだ作られていない」の意味で、存在しないことが示されたのではありません。例外は A17 で、大域的な連続なゲージ固定が(四次元の球面の上で)無いことは Singer の定理です(表 0 では「否定」)。
- 見取り図 — 十九の対と一つの前提(表 0)
- 器 — 経路積分・測度・状態の空間(A1〜A3)
- 実時間と虚時間 — 相関の三つの顔(A4〜A6)
- 中身 — 真空・ハミルトニアン・粒子(A7〜A9)
- 散乱と正値性 — 二つの「ユニタリ性」(A10〜A12)
- 近似 — 時空・正則化・繰り込み(A13〜A15)
- 場は点の値を持たない — 作用素値超関数(A16)
- ゲージ — 切り口と物理的状態(A17・A18)
- 局所対称性は破れない — Elitzur の定理(A19)
見取り図 — 十九の対と一つの前提
格付けは 8-01 の二列です。(a) は「両方が在るとしたら同じか」、(b) は数学の対象が四次元のヤン–ミルズ理論で在るか(括弧に水準)です。判定者は「同じ」を支えているもの(定理・定義・慣習など。8-01 §07)、章は詳しく扱う章です。
| # | 物理の語 | 数学の語 | (a) 定義 | (b) 四次元 YM | (c) 有限の測定 | 判定者 | 章 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A1 | 経路積分(量子力学) | Feynman–Kac 公式 | 確定 | 対象外* | — | 定理 | 2-07 |
| A2 | 汎関数積分 | ユークリッドの確率測度 | 確定 | 無い(格子の水準では構成済み) | — | 定義 | 4-02 |
| A3 | 状態の空間 | 再構成の Hilbert 空間 | 条件つき | 無い(格子の水準では構成済み) | — | 定理+条件 | 4-10 |
| A4 | ウィック回転 | OS の再構成定理 | 確定() | 無い | — | 定理 | 4-02 |
| A5 | Green 関数 | Wightman・Schwinger 関数 | 確定(向き) | 無い | — | 定理 | 4-10 |
| A6 | Källén–Lehmann 表示 | スペクトル測度 | 確定 | 無い(格子の水準では構成済み) | 上界まで | 定理 | 4-11 |
| A7 | 真空と一意性 | ・クラスター性 | 確定 | 無い(格子の水準では構成済み) | 届かない | 定理 | 4-11 |
| A8 | ハミルトニアン | 転送行列の対数 | 条件つき | 構成済み(格子) | — | 定理+条件 | 5-03 |
| A9 | 一粒子状態 | 質量作用素の孤立固有値 | 条件つき | 無い | 上界まで | 定理+条件 | 4-11 |
| A10 | S 行列 | Haag–Ruelle 散乱理論 | 条件つき | 無い | — | 定理+条件 | 4-09 |
| A11 | 正ノルム性 | 反射正値性 | 確定 | 構成済み(格子) | — | 定理 | 4-10 |
| A12 | S 行列のユニタリ性 | 正ノルム性+漸近完全性 | 条件つき | 無い | — | 定理+条件 | 8-01 |
| A13 | 時空と格子 | 条件つき | 無い | 届かない | 定義+条件 | 4-02 | |
| A14 | 正則化 | 格子間隔 の測度の族 | 条件つき | 構成済み(格子) | — | 定義+条件 | 5-01 |
| A15 | 繰り込み可能性 | BPHZ・Epstein–Glaser | 条件つき | 構成済み(形式的冪級数) | — | 定理 | 4-05 |
| A16 | 場 | 作用素値超関数 | 条件つき | 無い | — | 定義+条件 | 1-11 |
| A17 | ゲージ固定 | 軌道空間への切断 | 確定 | 無い(Singer の定理で否定) | — | 定義 | 3-04 |
| A18 | 物理的状態 | ゲージ不変量からの再構成 | 未確定 | 構成済み(格子) | — | 慣習(格子では定理) | 4-01 |
| A19 | 局所対称性は破れない | Elitzur の定理 | 確定 | 構成済み(格子) | — | 定理 | 7-02 |
表 0 の語の注。(c) は 8-01 §02 の列 (c)(有限の測定で届く向き)で、量を名指す行にだけ付けます。A6・A9 は一つの相関から最低の点の上界が出る行(8-01 §08)、A7・A13 は極限の言明です。(b) の「無い」は連続の水準で未構成、「無い(格子の水準では構成済み)」は格子の水準でだけ作られている行です。A17 の「否定」だけは意味が逆で、大域的な切断が存在しないことの定理です。* A1 の「対象外」は、有限自由度の量子力学の対なので四次元の欄が立たないという意味です(8-01 §04)。
確定の対の多くは一つの前提の内側にあります。 の上に Osterwalder–Schrader(OS)の条件を満たす測度 が在れば、再構成定理が残りを与えます(4-10 §05) 既知。
左は OS の条件(増え方・ユークリッド共変性・反射正値性・対称性・クラスター性。4-10 §03)、右は Hilbert 空間・ハミルトニアン・真空、Schwinger 関数 から Wightman 関数 への移行、スペクトル測度の正値です。四次元のヤン–ミルズ理論では左が無いので、連続の水準では列 (b) がほぼ「無い」に揃います。例外は、前提があっても足りない行(A9・A10・A12)と、前提の外で決まる行(A17 の Singer の定理、A19 の Elitzur の定理)です。例:四次元の自由場では (1) の左が在り、ゲージ以外の全行の対象が揃います。
器 — 経路積分・測度・状態の空間
「器」は比喩です。正確には、理論が載る空間(場の配位の全体)、その上の測度、そこから作る Hilbert 空間のことです。
A1 経路積分(量子力学) ⟷ Feynman–Kac 公式
物理の語は「粒子のとりうる道すべてにわたる重みつきの和」、数学の語は Brown 運動の期待値です。同じと言えるのは、虚時間に移し、ポテンシャルが下に有界などの条件を置いたときです。
量子力学の をこの形で書くのが Feynman–Kac 公式です(Kac 1949。8-01 の式 (2)・2-07 §05) 既知。Feynman(1948)の和は実時間の重み で、それを虚時間に移したのがこの公式です。実時間の重みは測度になりません。
A2 汎関数積分 ⟷ ユークリッドの確率測度
物理の語は場の配位すべてにわたる重み の和、数学の語は配位の空間の上の確率測度です。同じと言えるのは、数学の側が を可算加法的な確率測度として定義したからです(判定者は定義。Jaffe の総説 §4)。
例:自由場は共分散 ( はラプラシアンで、質量ギャップの とは別)のガウス測度です(4-10 §02)。二次元のヤン–ミルズ理論でも構成済みです(Driver 1989、6-02)。格子では 4-02 の式 (9) が本物の測度です。四次元のヤン–ミルズの測度は未構成で、それが載る空間(接続をゲージで割った空間の完備化)もまだ決まっていません(3-04)。
A3 状態の空間 ⟷ 再構成の Hilbert 空間
物理の語は Fock 空間(粒子の数ごとに状態を並べた空間、2-06)、数学の語は測度から作る Hilbert 空間 (3) です。同じと言えるのは、自由場のときと、相互作用があれば漸近完全性(§05)が成り立つときです。
を正の時刻の場だけで決まる関数の全体、 を時間の反転とします(4-10 §05)。
はノルムが 0 になる関数の全体で、割ってから完備化したものが です。(i) 自由場では Fock 空間と一致します(4-10 §07)。(ii) 相互作用があると、時刻 0 の正準交換関係の表現が Fock 表現と非同値になります(、Jaffe §6)。物理の Fock 空間は漸近粒子の空間なので、一致には漸近完全性が要ります。
実時間と虚時間 — 相関の三つの顔
「三つの顔」は比喩です。正確には、同じ相関を一つの解析関数の違う場所(実時間・虚時間・時間順序つき)で読んだ値のことです(A5)。
A4 ウィック回転 ⟷ OS の再構成定理
物理の語は と置いて積分路を回す計算の手続き、数学の語は Schwinger 関数から Wightman の理論を作る定理です。同じと言えるのは、条件 〜 の下で、虚時間から実時間へ向かう向きです。
ウィック回転は Wick(1954)の手続きで(4-02 §02)、数学の対は向きのある再構成定理です 既知。
時刻の順序の条件が要るのは、 は引数を入れ替えても変わらないのに、 は演算子の並ぶ順で変わるからです(A5 の例)。逆向きには注意が要ります。Wightman の理論から得た Schwinger 関数が まで満たすとは限りません。OS の最初の論文(1973)は同値を主張しましたが、証明に誤りがあり、Glaser(1974)が直しました。二本目(1975)は を足した十分条件の形で述べています(要旨は '(necessary and) sufficient' と括弧つき)。
A5 Green 関数 ⟷ Wightman 関数・Schwinger 関数
物理の語「Green 関数」は時間順序積 ・Wightman 関数 ・Schwinger 関数 のどれをも指し、数学はこの三つを別の関数として定義します。同じと言えるのは、三つが一つの解析関数の値だという定理の意味においてです。例:角振動数 の振動子()で
は虚軸での境界値、 は実軸への制限を で折り返したもの、 は符号で貼り合わせたものです(Wightman 1956・Symanzik 1966)。 では で、これが (4) の二点の場合です。 では の式をそのまま延ばすと で増え、 と食い違います。 は正エネルギーだけから出ますが、 には が要ります。
A6 Källén–Lehmann 表示 ⟷ スペクトル測度
物理の語は二点の相関をエネルギー(質量)の重ね合わせで書く式、数学の語はハミルトニアンのスペクトル測度です。同じと言えるのは、再構成で が在るとき((1) の前提の下)です。Källén(1952)・Lehmann(1954)の表示は、4-11 の式 (6) の形で
と書けます。 は のエネルギー 以下の部分への射影です(1-10 §05 のスペクトル定理)。重みの正は反射正値性から来ます(4-10 の表 2)。例:(5) は が の一点に重みを持つ場合で、格子では (8-01 の式 (8))。ゲージを固定したグルーオンの伝播関数の正値性の破れは 7-02 で扱います。
中身 — 真空・ハミルトニアン・粒子
「中身」も比喩です。正確には、§02 の Hilbert 空間の上で決まる特定のベクトル(真空)と作用素(ハミルトニアン・質量作用素)のことです。
A7 真空と一意性 ⟷ とクラスター性
物理の語は「何も無い状態」、数学の語は再構成で定数 1 の類として得る です。同じと言えるのは、物理の真空を「最低エネルギーの状態」と読む場合です((1) の前提の下で定理)。
一意性は の固有値 0 が単純であること(Jaffe §2)で、ユークリッドの側ではクラスター性 (E4) と対です 既知。
無限体積の極限の非一意性・基底状態の縮退・相転移は同じ現象です(Jaffe §7.2)。例:二次元イジングの低温側では、最低の二準位の差が幅とともに閉じます(2-09 §08)。相互作用の無い真空から相互作用をゆっくり入れて真空を作る物理の手続き(Gell-Mann–Low の方法とされる)との同一視は、Haag の定理(Haag 1955 とされる)が相互作用表示(自由な場の空間の上で相互作用だけで時間発展させる書き方)の存在を一般には否定するので、厳密には正当化されていません。
A8 ハミルトニアン ⟷ 転送行列の対数
物理の語は時間の進みを生む作用素(エネルギー)、数学の語は格子で虚時間を一刻み進める転送行列 の対数です。同じと言えるのは格子の水準で、連続の との一致は連続極限が条件です。
は時間方向の格子間隔です。正の自己共役な は Lüscher(1977)が作り(5-03 §05)、Kogut–Susskind(1975)の へは時間の刻みを 0 にしてつながります(Creutz 1977、5-03 §07) 既知。確率量子化の生成作用素 とは別物です(8-03 §05)。
A9 一粒子状態 ⟷ 質量作用素の孤立固有値
物理の語は Poincaré 群の既約表現として分類される粒子(Wigner 1939)、数学の語は質量作用素 の孤立固有値です。同じと言えるのは、再構成された理論で、その固有値がスペクトルの中で孤立しているときです(4-11 §05)。
は運動量、 はスペクトル、 は真空に直交する部分です。Jaffe は散乱理論がこれを仮定とし 'It entails both a lower gap and an upper gap' と書きます(§7.1。問題文 §5 も上の隙間を拡張に数える) 既知。弱結合の で示され(Glimm–Jaffe–Spencer 1974)、格子の強結合にも一粒子状態があります(Schor 1984)。例:自由場では の上の連続スペクトルは から始まります。グルーボールの行は 8-03 §04 です。
散乱と正値性 — 二つの「ユニタリ性」
物理の「ユニタリ性」は二つの意味で使われるので、A11(負のノルムの状態が無いこと)と A12(散乱で確率が保存すること)に割ります(8-01 §06)。先に散乱の道具(A10)を置きます。
A10 S 行列 ⟷ Haag–Ruelle の散乱理論
物理の語は遠い過去の粒子の組から遠い未来の粒子の組への振幅、数学の語は二つの等長写像から作る作用素です。同じと言えるのは、孤立した一粒子の質量(A9)が在るときです。
質量双曲面は運動量空間の面 ( の側)で、質量 の一粒子状態はこの上に載ります。等長写像は内積を保つ写像、 は像(写像の値の全体)です。 は漸近粒子の Fock 空間で、遠い過去(または未来)に自由に飛ぶ粒子の状態を、粒子の数ごとに並べた空間です。Haag(1958)と Ruelle(1962 とされる)の散乱理論は、孤立した質量双曲面から等長写像 を作ります。
(10) の右向きは初等的です。等長な では 、 は像への射影で、像が同じなら は の値を変えないので、 で、 も同じです 紙。例:自由場では 、 です。漸近完全性は、二つの像が 全体だという主張です。通常の意味の漸近完全性を一般に導く定理は、探した範囲では見当たりません。Dybalski–Gérard(2014)は上下の質量ギャップの下で「一般化した」形を示しました 既知。個々の模型には部分的な結果があります(弱結合の の、エネルギーが約 未満の偶の状態での S 行列のユニタリ性:Spencer–Zirilli 1976)。
A11 正ノルム性 ⟷ 反射正値性
物理の語は負のノルムの状態が無いこと(Wightman の正値性)、数学の語は Schwinger 関数の反射正値性です。同じと言えるのは OS と Wightman の対応の中で、これは定理です。
反射正値性は Hilbert 空間と を与え、極限でも保たれるので(Jaffe §4)、極限が在れば格子から持ち越せます。Wilson の格子で成り立ちます(Osterwalder–Seiler 1978・Lüscher 1977) 既知。例:Pauli–Villars 型の負の重みはこれを壊します(4-10 §08)。
A12 S 行列のユニタリ性 ⟷ 正ノルム性+漸近完全性
物理の語は散乱で確率が保存すること()、数学の側は A11 に (10) の像の一致を足したものです。同じと言えるのは、漸近完全性が成り立つときです。
ゲージ理論では、Kugo–Ojima(1979)の要旨が、BRS 電荷(§08 の )の代数の表現にもとづき「物理的 S 行列のユニタリ性」が一般に('quite generally')示されると書きます。これは代数の表現と漸近場を仮定した一般論で、舞台は不定計量(負のノルムを許す内積)の空間です。その仮定が確かめられているのは摂動論の範囲です。
近似 — 時空・正則化・繰り込み
A13 時空と格子 ⟷ の 極限
物理の語は Minkowski 符号の四次元の時空(ユークリッド化すると )、数学の側は間隔 の格子 の上の測度の の極限です。同じと言えるのは、極限が在り、回転の対称性 が戻るときです。
ユークリッド化した時空の回転不変性は (E1) の 不変性です(符号は既存の記事 時空)。格子に残るのは 90° の回転と鏡映で、Wilson(1974)の要旨は強結合の極限に 'no Lorentz (or Euclidean) invariance' と書きます 既知。
例:格子の自由場では、軸と対角の相関の差が で消えます(4-02 の表 2)。純粋ゲージ理論で格子の連続極限が示されているのは、二次元の非可換群と三次元・四次元の U(1) です(Driver 1989・Gross 1983・Driver 1987 など)。三次元の要旨は、Villain の作用で自由な電磁場に収束すると書きます。自由な電磁場は回転で不変なので、回転の対称性も戻っています。
A14 正則化 ⟷ 格子間隔 の測度の族
物理の語は無限大を一時的に止める仕掛け全般、数学の側で測度の族として扱えるのは主に格子です。同じと言えるのは、仕掛けを外した極限が仕掛けの選び方に依らないとき(普遍性)です。
問題文 §6.5 は、次元正則化や Pauli–Villars などで失った反射正値性を回復する方法は少ないと書きます。Reisz(1989)が示すのは、格子の連続極限が摂動の各次数で有限になることです。
非摂動の (12) は二次元で示されています。Chevyrev–Shen(2023, arXiv:2302.12160)は二次元のトーラスの上で、連結なコンパクト群について、Wilson・Villain・Manton の作用の格子ゲージ理論が同じ極限を与えることを示しました。二次元の格子近似の収束は Driver(1989)にもあります。
A15 繰り込み可能性 ⟷ BPHZ・Epstein–Glaser
物理の語は、有限個の定数を調整すれば摂動の各次数で無限大が消えること、数学の語は引き算の規則(BPHZ)と因果律からの帰納的な構成(Epstein–Glaser)の有限性の定理です。同じと言えるのは形式的冪級数の水準です(4-05)。
物理は Dyson(1949)、ヤン–ミルズは 't Hooft(1971)・Becchi–Rouet–Stora(1976)。数学は Bogoliubov–Parasiuk(1957)・Hepp(1966)・Zimmermann(1969)と Epstein–Glaser(1973)です。
Epstein–Glaser の要旨は、帰納的な構成が 'at each order, finite terms' を与え BPHZ と同値だと書きます 既知。和の収束は含みません(級数は発散すると考えられています、4-12)。
場は点の値を持たない — 作用素値超関数
A16 場 ⟷ 作用素値超関数
物理の語は各点 の演算子 、数学の語は試験関数 でならした だけを演算子とする作用素値超関数です。同じと言えるのは、 を「ならした値の、ならす幅を 0 にする手前の記号」と読む場合です。
超関数は 1-11 §04 です(場の読みは Jaffe §3) 既知。質量 の自由場()で
です。例: を積分 1、幅 の山 にすると、 なので、四次元では右辺が で発散します(1-09)。点の値 は を に近づけた極限なので、演算子としては無いのです。ヤン–ミルズの点の場は で、問題文 §4 はその演算子を要求します。問題文の脚注 1 は、古典の微分多項式と演算子の自然な 1 対 1 対応は 'does not exist' とし、次元 の空間どうしの対応は期待します(0-03 §08)。ここで次元は、長さの尺度を変えたときの冪です( は 2、 は 4。1-11 §06)。Wilson ループは曲線の上の量で、点の場の公理の外です(4-10 §09)。
ゲージ — 切り口と物理的状態
A17 ゲージ固定 ⟷ 軌道空間への切断
物理の語は各ゲージ軌道から条件 で代表を一つ選ぶこと、数学の語は軌道空間 への射影の切断(各軌道に一点を連続に対応させる写像)で、定義として同じです。ただし四次元の球面の上では、大域的な切断が無いことが定理です。
切り口の幾何は 3-04 §05 です。Faddeev–Popov(1967)の規則の元は
です。(15) が成り立つのは、条件の面 が各軌道とちょうど一回交わるときです。(15) は行列式を の一点で評価して積分の外に出しているので、何回も交わると右辺は交点ごとの行列式の比の和になり、1 にも交点の数にもなりません。行列式を積分の中に入れると、交点の数 になります。
実際の Faddeev–Popov の規則は絶対値の付かない を使うので、交点を符号つきで数えます(4-08 §05 の寄り道)。Gribov(1978)は非可換な理論で「ちょうど一回」が崩れることを指摘し、Singer(1978)の要旨は 上で 'no continuous choice of exactly one connection on each orbit can be made' と書きます 既知。格子は Haar 測度(群の上の、掛け算で変わらない一様な確率測度)で積分するのでゲージ固定が要らず、この行を避けます(5-01・4-08)。
A18 物理的状態 ⟷ ゲージ不変量からの再構成
物理の語は Gauss 拘束を満たす状態、または BRST のコホモロジー、数学の語はゲージ不変な量だけで (3) を行って作る空間です。同じと言えるのは格子の水準までで、連続では未確定です。
Gauss 拘束は Gauss の法則 の非可換版で、状態の側では「時刻を固定したゲージ変換で状態が変わらない」という条件です(Kogut–Susskind 1975、4-01)。格子では、時刻を固定したゲージ変換 について です。BRST の は を満たす演算子(BRST 電荷)で、 は「 で消える状態を、 の像の分だけ同一視したもの」です。不定計量は負のノルムを許す内積です。
格子では、ゲージ不変な状態の間の遷移確率が負でなく(Lüscher 1977)、ゲージ固定はゲージ一重項(ゲージ変換で変わらない演算子)の Green 関数を変えません(Creutz 1977) 既知。連続で (16) の左右が同じとは示されておらず、非摂動の BRST は Gribov のコピーのため定義しにくいままです。
局所対称性は破れない — Elitzur の定理
A19 局所対称性は破れない ⟷ Elitzur の定理
物理の語は「ゲージ対称性(局所対称性)は自発的に破れない」という主張、数学の語はそれを外場の極限で述べた定理です。同じと言えるのは、「外場を入れ、体積を無限にしてから外す」順序で比べるときです。
Elitzur(1975)の要旨は、ゲージ固定の無い対称なゲージ理論で局所対称性が自発的に破れることは不可能だと 'It is argued that' の形で論じ、格子の上の可換なゲージ場の簡単な系で示すと書きます 既知。厳密な後続には、可換な Higgs 模型の格子で、外場を外すと磁化が 0 になることの証明があります(De Angelis–de Falco–Guerra 1978) 既知。外場が 0 なら、Haar 平均で期待値は 0 です(7-02 の式 (9))。自発的な破れは外場を外す順序の問題です(2-08)。
外場を外す順序で比べる
Elitzur の論法を、 次元の 格子ゲージ理論(リンク変数 、 はプラケットを囲む四本の積)の重み で書き下します。一点 のゲージ変換は に触れる 本のリンクを反転し、 を変えません。そこで に触れる について
です 紙。右辺は体積にも にも依りません。イジング模型(大域的な )では全スピンの反転が要り、同じ論法の上界は で、体積とともに意味を失います。違いは、一回の対称変換が触れる変数が有限個か全部かだけです。 での傾きは
です。左では の項が 1 です。 の項が 0 なのは、 の端点のうち に触れない方でゲージ変換すると、二つのうち だけが符号を変え、 は変わらないからです(一辺が 3 以上の箱なら、そういう端点が必ずあります)。右は低温側で、遠いスピンどうしも相関 を保つので体積に比例します。
計算この図の数値はこの端末で計算した(転送行列の対角化による厳密な値)。
| 6 | 8 | 10 | 〜10 | (17) | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.0015 | 0.0034 | 0.0061 | 0.0095 | 0.000100 | 0.00040 | |
| 0.0152 | 0.0342 | 0.0607 | 0.0946 | 0.001000 | 0.00402 | |
| 0.1512 | 0.3288 | 0.5396 | 0.7314 | 0.010002 | 0.04164 | |
| 0.8979 | 0.9792 | 0.9810 | 0.9810 | 0.1017〜0.1016 | 0.61277 |
イジングの列は とともに持ち上がり、 での は 0.9529・0.9505・0.9494・0.9489 と、自発磁化として引かれる式 (Yang 1952 とされる)の二乗 0.9479 に近づきます 計算。ゲージの列は で 〜10 が小数 6 位まで一致し、傾きは (18) の 1 です。物理の「ゲージ対称性の破れ」はゲージ固定の後の大域的な対称性の破れなどとして読み直すものとされ 物理、字面のまま引くと偽の友です(8-01)。
寄り道:β = ∞ のゲージ理論はイジング模型
飛ばしてよい小節です。
では全プラケットが に揃います(平坦な場)。単連結な領域では ()と書けるので、外場の項は
となり、結合 のイジング模型です。リンクの期待値はその近接相関(小さい では約 )で、磁化にはなりません。表 1 の周期的な箱(トーラス)は単連結ではありません。箱を一周するリンクの積(ホロノミー、1-07)には横・縦それぞれ の四つの類があり、 の極限は、周期・反周期の境界条件のイジング模型四つの和になります。計算した ・0.3(イジングの高温側)では、周期的なイジングだけとの差が とともに指数的に小さくなります。
| ゲージ ・8 | 四つの類の和 | 周期的なイジング | 差 | 6 | 8 | 10 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.1 | 0.101689 | 0.101689 | 0.101689 | 1.2e−3 | 1.4e−5 | 1.8e−7 | 2.3e−9 |
| 0.3 | 0.352256・0.352257 | 0.352257 | 0.356234 | 6.9e−2 | 1.7e−2 | 4.0e−3 | 9.8e−4 |
最初の三列は 。 では小数 6 位まで一致し、 ではゲージ 0.35226 と周期的なイジング 0.35623 に差が見え、四つの類の和で一致します 計算。
この章が言えている範囲
| 言えている | 言えていない | |
|---|---|---|
| 既知 | (4)(6)(7)(8)(15)(15a)。引用した一次資料の主張 | これらが四次元の連続のヤン–ミルズ理論で成り立つこと(対象がまだ無い) |
| 紙 この章の導出(初等的。(17)(18) は Elitzur 1975 の論法による) | (10) の右向き(像が等しければ はユニタリ)、(17) の上界、(18) の左 | 非可換群や連続の理論での同じ形の評価 |
| この本の読み | 表 0 の格付けと判定者、(1) の読み | 格付けが唯一であること |
| 計算 | 表 1・表 2・図 1(二次元、) | 四次元・非可換群・ |
| 全体 | — | このサイトは質量ギャップの存在も連続極限の構成も示していない |
出典と再現
| もの | 種別 | 出典・道具 |
|---|---|---|
| Jaffe・問題文の引用 | 本文 | Jaffe, Constructive Quantum Field Theory(2000、公開 PDF)§2–§7/Jaffe–Witten, Quantum Yang–Mills Theory(Clay Mathematics Institute, 2000)§3–§6.5・脚注 1 |
| 要旨を確認 | 既知 | Wick, PR 96 (1954) 1124/Wightman, PR 101 (1956) 860/Symanzik, JMP 7 (1966) 510/Osterwalder–Schrader, CMP 31 (1973) 83・42 (1975) 281/Glaser, CMP 37 (1974) 257/Lüscher, CMP 54 (1977) 283/Osterwalder–Seiler, Ann. Phys. 110 (1978) 440/Creutz, PRD 15 (1977) 1128/Kogut–Susskind, PRD 11 (1975) 395/Schor, NPB 231 (1984) 321/Dybalski–Gérard, CMP 332 (2014) 1167/Spencer–Zirilli, CMP 49 (1976) 1/Kugo–Ojima, PTPS 66 (1979) 1/Wilson, PRD 10 (1974) 2445/Gross, CMP 92 (1983) 137/Driver, CMP 123 (1989) 575/Reisz, NPB 318 (1989) 417/Chevyrev–Shen, arXiv:2302.12160(2023)/Epstein–Glaser, AIHP A 19 (1973) 211/Faddeev–Popov, PLB 25 (1967) 29/Gribov, NPB 139 (1978) 1/Singer, CMP 60 (1978) 7/Neuberger, PLB 183 (1987) 337/Elitzur, PRD 12 (1975) 3978/De Angelis–de Falco–Guerra, PRD 17 (1978) 1624/Yang, PR 85 (1952) 808( の式は本文未確認) |
| 書誌のみ | 既知 | Feynman, RMP 20 (1948) 367/Kac, Trans. AMS 65 (1949) 1/Driver, CMP 110 (1987) 479/Gell-Mann–Low, PR 84 (1951) 350(帰属は二次資料による)/Haag, Kong. Dan. Vid. Selsk. Mat.-Fys. Medd. 29 (12) (1955)・PR 112 (1958) 669/Ruelle, Helv. Phys. Acta 35 (1962) 147 とされる(書誌未確認)/Källén, Helv. Phys. Acta 25 (1952) 417/Lehmann, Nuovo Cim. 11 (1954) 342/Wigner, Ann. Math. 40 (1939) 149/Glimm–Jaffe–Spencer, Ann. Math. 100 (1974) 585/Dyson, PR 75 (1949) 486・1736/'t Hooft, NPB 33 (1971) 173/Becchi–Rouet–Stora, Ann. Phys. 98 (1976) 287/Bogoliubov–Parasiuk, Acta Math. 97 (1957) 227/Hepp, CMP 2 (1966) 301/Zimmermann, CMP 15 (1969) 208 |
| 表 0 | この本の読み | 一次資料は上の行と 8-01 |
| 表 1・表 2・図 1・(18) の傾き | 計算 | この端末の Python 3(numpy):elitzur.py・table.py・detour_beta_inf.py・holonomy_check.py(四つの類)・holonomy_brute.py(3×3 の箱の全数え上げ) |
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