computo ergo sum

2026-10-01 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 6 部 構成的場の理論六つの段

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 第 9 部 現在地と課題
  97. 9-01 世界はどこまで来ているか
  98. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  99. 9-03 新しい概念の候補
  100. 9-04 課題の一覧
  101. 9-05 よくある誤解
  102. 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
  103. 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
  104. 10-01 理論の構成の筋
  105. 10-02 一段の記帳
  106. 10-03 仮定 H と三つの鎖
  107. 10-04 方向の地図
  108. 10-05 方向 12〜14
  109. 10-06 方向 15・15′
  110. 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
  111. 10-08 壁の一覧
  112. 10-09 ひらめき帳から
  113. 10-10 主張しないこと
  114. 10-12 つじつま合わせ
  115. 10-11 定理までの距離
  116. 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
  117. 付録
  118. A-01 記号表
  119. A-02 用語集
  120. A-03 文献案内
  121. A-04 Lean と機械検査
  122. A-05 この本の作り方
  123. A-06 仮定の索引

構成的場の理論とは — 場の量子論を「作る」ことを六つの段に分ける

この章で分かること — 場の量子論を「作る」とは、公理を満たすガウスでない確率測度を近似の列の極限として示すことだ、という考え方。その道筋の六つの段と各段の難しさ。第 6 部の各章がどの段を扱うか。

前提となる章 — 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成。4-02・4-11・5-01 も参照します。

先に言うこと — 六つの段は、この本が問題文(Jaffe–Witten)の記述に沿って置いた整理で、分野の標準の用語ではありません。この章は既知の枠組みの説明で、四次元のヤン–ミルズについて何かを示すものではありません。

この章の順序
  1. 作るとは何を作ることか — ガウスでない測度
  2. 形式的な式のどこが壊れているか — 三か所(計算の表)
  3. 六つの段 — 地図と到達点(動く図)
  4. 段 1・2:正則化と有限体積 — 保つもの、壊すもの
  5. 段 3:紫外極限 — 繰り込みと一様な評価
  6. 段 4:無限体積極限 — クラスター性
  7. 段 5:公理 — 反射正値性
  8. 段 6:質量ギャップ — 「一様に」が本体
  9. 寄り道:一次元の鎖で六つの段を全部通す — 動く図
  10. 第 6 部の読み方 — 段と章の対応

01

作るとは何を作ることか

物理の教科書は理論が在ると仮定して計算します。数学の問いはその手前、公理(4-09・4-10)を満たす対象が在るか、です。問題文は、四次元で公理を満たす非自明な相対論的場の理論を一つも知らない、と書いています(JW §6、2000 年)。

問題文は存在を示す方法を二つに分けます(JW §6.1)。(i) 閉じた形の厳密解を見つける。(ii) 近似の問題の列を解き、解が極限に収束することを示す。構成的場の理論(constructive quantum field theory)は (ii) を指し、中心は近似によらない不等式——一様な事前評価——です。既知

ユークリッドの形(4-02)では、作る対象は超関数の空間 S′(Rd)\mathcal S'(\mathbb R^d) の上の確率測度 μ\mu です。その積率

Sn(f1,…,fn)=∫ϕ(f1)⋯ϕ(fn) dμ(ϕ)(1)S_n(f_1,\dots,f_n)=\int\phi(f_1)\cdots\phi(f_n)\,\mathrm d\mu(\phi) \tag{1}

が OS の公理を満たせば、再構成定理でヒルベルト空間とハミルトニアンが得られます(ϕ(f)\phi(f) は場を試験関数 ff で均した値)。物理では同じ測度を

dμ(ϕ)=1Z e−S(ϕ) Dϕ(2)\mathrm d\mu(\phi)=\frac{1}{Z}\,e^{-S(\phi)}\,\mathcal D\phi \tag{2}

と書きます。目標の形ですが、右辺の記号はどれも、このままでは数学の対象ではありません。

例:質量 mm の自由場は、平均 0・共分散 C=(−Δ+m2)−1C=(-\Delta+m^2)^{-1}(Δ\Delta はラプラシアン。質量ギャップの Δ\Delta とは別)のガウス測度で、OS の公理を満たしますが、相互作用が無く自明です(JW §6.2)。仕事はガウスでない測度を作ることです。問題文によれば、公理を満たす形の(ガウスでない測度としての)最初の構成は 1970 年代で、二次元の小さい多項式相互作用の場でした(JW §6.2)。

次元で何が切り替わるかを十一行に並べた図は 1-12 §10 図 4(d = 4 で開く。最下段は表 2 の YM の行)。

02

形式的な式のどこが壊れているか

式 (2) の壊れた場所は三つです。(i) Dϕ\mathcal D\phi:無限次元の空間では、平行移動で変わらず、どの球にも有限の重さを配る測度は 0 しかありません(1-09 §02)。(ii) 点での値:二次元以上では自由場の見本は超関数で、ϕ(x)4\phi(x)^4 に意味がありません(1-11)。(iii) 体積:Rd\mathbb R^d 全体では作用が無限大です。スカラー場の作用は

S(ϕ)=∫Rd(12∣∇ϕ∣2+12m2ϕ2+λ ϕ4) dx(3)S(\phi)=\int_{\mathbb R^d}\Big(\tfrac12|\nabla\phi|^2+\tfrac12 m^2\phi^2+\lambda\,\phi^4\Big)\,\mathrm dx \tag{3}

で、ヤン–ミルズでは場が接続 AA、作用は曲率 FF の二乗の積分です(3-03)。

(ii) は数で見えます。格子 aZda\mathbb Z^d の自由場の一点の分散は

Ga(0)=⟨ϕ(x)2⟩a=∫[−π/a, π/a]dddk(2π)d 1m2+4a2∑jsin⁡2kja2(4)G_a(0)=\langle\phi(x)^2\rangle_a=\int_{[-\pi/a,\,\pi/a]^d}\frac{\mathrm d^dk}{(2\pi)^d}\,\frac{1}{m^2+\frac{4}{a^2}\sum_{j}\sin^2\frac{k_j a}{2}} \tag{4}

で、分母は m2+∣k∣2m^2+|k|^2 の格子版、運動量は ∣kj∣≤π/a|k_j|\le\pi/a に切られています。

計算表 1 Ga(0)G_a(0)(m=1m=1)。熱核の表示 Ga(0)=a2−d∫0∞e−m2a2s [e−2sI0(2s)]d dsG_a(0)=a^{2-d}\int_0^\infty e^{-m^2a^2 s}\,[e^{-2s}I_0(2s)]^d\,\mathrm ds(I0I_0 は変形ベッセル関数)の数値積分。d=1d=1 は閉じた式 1/(mm2a2+4)1/(m\sqrt{m^2a^2+4}) と 5 桁一致。

aad=1d=1d=2d=2d=3d=3d=4d=4
10.447210.254050.17050.127
1/40.496140.493200.92892.431
1/160.499760.716753.963439.598
1/640.499980.9376816.0950634.524
a→0a\to0→0.5\to0.512πlog⁡1a+0.2758\frac{1}{2\pi}\log\frac1a+0.27580.2527/a0.2527/a0.1549/a20.1549/a^2

二次元以上では分散が無限大に向かい、点での値は確率変数になりません。ϕ4\phi^4 は aa に依存する引き算で定義し直す必要があり、これが段 3 の繰り込みの入口です。

03

六つの段

壊れた場所を有限のもので置き換え(正則化と有限体積)、最後に外す(二つの極限)。極限が取れたら、公理とスペクトルの隙間を確かめる。問題文も格子について、格子間隔を 0 に、体積を無限大にしたときの期待値の極限を確かめよ、と書いています(JW §6.5)。

段何をするか要るもの
1 正則化場を有限個の自由度に置き換える格子間隔 aa
2 有限体積一辺 LL の箱で測度を作る測度 μa,L\mu_{a,L}
3 紫外極限a→0a\to0繰り込み・一様な評価
4 無限体積L→∞L\to\inftyクラスター性
5 公理極限が OS の公理を満たす反射正値性
6 ギャップハミルトニアンの隙間一様な指数減衰

段 1〜4 は二重の極限

μ=lim⁡L→∞ lim⁡a→0 μa,L(5)\mu=\lim_{L\to\infty}\ \lim_{a\to0}\ \mu_{a,L} \tag{5}

を作ることで、段 5・6 は μ\mu の性質です。格子の強結合の結果のように aa を固定して L→∞L\to\infty を先に取る道もあり、そのとき段 3 は後に残ります。ただし強結合の領域(格子の結合 gg が大きく、β=2N/g2\beta=2N/g^2 が小さい側)は連続極限(β→∞\beta\to\infty)から離れているので、この道はそのままでは段 3 につながりません。既知

図 1 理論を選ぶ(下のボタンか表 2 の行)と、段ごとの到達点が変わる
段 1 正則化 閉 段 2 有限体積 閉(格子) 段 3 紫外極限 一部 段 4 無限体積 未 段 5 公理 未 段 6 ギャップ 未
YM 四次元:格子・有限体積の紫外安定性(Bałaban 1987–89。有効結合が十分小さい区間に入るという仮定つき、6-07)。MRS 1993 は赤外切断つきの構成の概略。連続の有限体積測度は未構成

既知表 2 理論ごとの到達点(閉=定理がある/一部/未/—=問いが立ちにくい/取らない=その道では段を通らない)。問題文と一次資料による。年は代表する論文の掲載年(9-01 の年表は最初の公開年で数えるので、Sengupta は 1992–93、Lévy は 2001 になる)。行を選ぶと図 1 が変わる。

理論123456要点
自由場閉閉閉閉閉閉相互作用が無く自明
φ⁴₂ 弱結合閉閉閉閉閉閉公理・粒子の質量・非自明な散乱(JW §6.2)
φ⁴₃ 弱結合閉閉閉閉閉閉非ガウス測度・Wightman 公理(JW §6.2)。質量ギャップは Feldman–Osterwalder 1976(題名による・書誌のみ)
YM 二次元閉閉閉閉一部—コンパクトな曲面の上の連続測度(Sengupta 1997・Lévy 2003)、平面上の連続測度とユークリッド不変性(Driver 1989)。伝播する自由度が無い
YM 三次元閉閉(格子)一部未未未格子の一様評価(Bałaban 1985)。連続の有限体積測度は T³ でも未構成(Chevyrev 2022)
YM 四次元閉閉(格子)一部未未未格子・有限体積の紫外安定性(Bałaban 1987–89。有効結合が十分小さい区間に入るという仮定つき、6-07)。MRS 1993 は赤外切断つきの構成の概略。連続の有限体積測度は未構成
格子 YM 四次元・強結合閉閉取らない閉一部閉a を固定したまま。無限体積・反射正値性(Osterwalder–Seiler 1978)、指数減衰(Shen–Zhu–Zhu 2023、β が小さい領域)。回転の対称性は無い

表 2 の「—」は、問いがそのままの形では立ちにくいことを表します。二次元のヤン–ミルズには伝播する自由度(遠くへ伝わる波。電磁気の光に当たるもの)が無いので、スペクトルの隙間という問いが四次元と同じ形では立ちません(6-02)。既知「取らない」は、その道では段を通らないことです。格子の強結合では aa を固定したままなので、段 3 を通りません。三次元・四次元のヤン–ミルズの段 2 は、格子なら式 (6) で閉じます(§04)。連続のまま有限体積の測度を作ることはまだできておらず、その部分は段 3 の「一部」と要点の欄に書いています。

04

段 1・2:正則化と有限体積の測度

正則化には格子(場を格子点や辺に置く)と運動量の切断(フーリエ成分を ∣k∣≤κ|k|\le\kappa に制限する)があり、どちらも何かを壊します。

性質格子(Wilson 作用)運動量の切断
ゲージ不変性厳密に保つ壊す。戻す相殺項が要る(MRS 1993 §I)
反射正値性保つ(Osterwalder–Seiler 1978)失われやすい。正則化で失った反射正値性を取り戻す方法は一般に乏しい(JW §6.5)。MRS 1993 §I は、正値性を欠くゲージの選び方(Feynman 型)は最初から直接には使えないとし、OS 正値性は、まず格子で切断し、その後で運動量の切断を使えば示せるだろう、としている
回転の対称性壊す切断そのものは回転対称にできる。ただしゲージ固定(ゲージ変換で移り合う場から代表を一つ選ぶこと)や有限の箱は回転を壊しうる。MRS 1993 は特定の方向を特別に扱うゲージ(axial ゲージ)と赤外の切断を使う

格子では有限体積の測度が直ちに意味を持ちます。ゲージ群 GG がコンパクトなら

dμa,L(U)=1Za,L e−SW(U)∏ℓdUℓ(6)\mathrm d\mu_{a,L}(U)=\frac{1}{Z_{a,L}}\,e^{-S_W(U)}\prod_{\ell}\mathrm dU_\ell \tag{6}

で、ℓ\ell は格子の辺、Uℓ∈GU_\ell\in G、dUℓ\mathrm dU_\ell は Haar 測度(重さ 1 の不変な測度)、SWS_W は Wilson 作用

SW(U)=β∑P(1−1N Re tr UP),β=2Ng2(G=SU(N))S_W(U)=\beta\sum_P\Big(1-\tfrac1N\,\mathrm{Re}\,\mathrm{tr}\,U_P\Big),\qquad \beta=\frac{2N}{g^2}\quad(G=SU(N))

です。和は格子の最小の正方形(プラケット)PP についてとり、UPU_P は PP の四辺の UℓU_\ell を一周する順に掛けた積です(5-01)。被積分関数は有界で連続、範囲はコンパクトなので Za,LZ_{a,L} は有限で正です(JW §6.5)。既知

例:四次元・一辺 16 点の周期格子の辺は 4×164=2621444\times16^4=262144 本、SU(3) は実 8 次元なので、式 (6) は 2,097,152 次元の積分です。計算

連続のまま作るのは難しく、三次元のヤン–ミルズでもトーラス T3T^3 の上でまだ構成されていません(Chevyrev 2022)。格子なら段 2 は式 (6) で閉じ(表 2 の「閉(格子)」)、代わりに回転の対称性の回復が段 5 に回ります。

05

段 3:紫外極限

a→0a\to0 では、作用の係数(裸の結合)を aa に応じて動かさないと、極限は発散するか自明に潰れます。この動かし方が繰り込みです(4-04)。問題文によれば、ϕ4\phi^4 では切断に依存する定数を摂動論の示す形で選べば、定数は発散しても期待値は収束します。二次元では少数の定数で足り、三次元では係数の全部に加えて波動関数の繰り込み、つまり状態のベクトル(2-06 の Fock 空間のベクトル)を切断とともに発散する定数で規格化し直すことが要ります(JW §6.2)。既知

何が要るかは次元の数え方で見当が付きます。既知作用が単位を持たないことから、質量の単位で

[ϕ]=d−22,[λ]=4−d,[g2]=4−d(7)[\phi]=\frac{d-2}{2},\qquad [\lambda]=4-d,\qquad [g^2]=4-d \tag{7}

です(gg はヤン–ミルズの結合)。d<4d\lt4 では結合が正の質量次元を持ち(超繰り込み可能)、表面的に発散するダイアグラム(摂動論の各項を図にしたもの。4-03)の型は有限個です。「表面的に」は、図に付く積分の運動量の冪を数えるだけで発散と判定される、という意味です(4-04。教科書として Rivasseau 1991)。d=4d=4 は結合が単位を持たない境目です。表 1 も同じ数え方で読めます。[ϕ2]=d−2[\phi^2]=d-2 なので Ga(0)G_a(0) は a2−da^{2-d} で増え、d=2d=2 では対数になります(1-12)。

例:二次元では積を :ϕ4:a=ϕ4−6Ga(0)ϕ2+3Ga(0)2{:}\phi^4{:}_a=\phi^4-6G_a(0)\phi^2+3G_a(0)^2 と定義し直し(Wick の順序積)、これと真空のエネルギーの定数で足ります(JW §6.2 の α,γ\alpha,\gamma)。

示したいのは、期待値が aa によらない定数で抑えられること、

sup⁡a>0∣⟨Φ⟩a,L∣≤CΦ(8)\sup_{a\gt0}\big|\langle\Phi\rangle_{a,L}\big|\le C_\Phi \tag{8}

です。一様な評価 (8) があれば、測度の列から弱い意味で収束する部分列が取れます(有界な数列から収束する部分列が取れることの、測度の版)。ただし極限は一意とは限らず、公理やギャップは別の問題です。問題文は、コンパクト性による弱い存在だけでは、極限の性質を別に示さない限り解と認めない、としています(JW 脚注 2)。四次元は 6-07 で扱います。

06

段 4:無限体積極限

L→∞L\to\infty には LL によらない評価が要り、とくに遠く離れた量がほぼ独立になること(クラスター性)が鍵です。問題文は評価の立て方として (a) 相関不等式、(b) 対称性、(c) 収束する展開(クラスター展開)を挙げ、(a) はスカラー場や可換なゲージ理論に限られがちで、(c) が中心の道具になったとしています(JW §6.1)。示したい形は

∣⟨A Bx⟩L−⟨A⟩L⟨Bx⟩L∣≤C e−m∣x∣(C, m は L によらない)(9)\big|\langle A\,B_x\rangle_L-\langle A\rangle_L\langle B_x\rangle_L\big|\le C\,e^{-m|x|}\quad(C,\,m\ \text{は}\ L\ \text{によらない}) \tag{9}

です(BxB_x は BB を xx だけずらしたもの)。減衰の速さ mm があれば、箱の縁の影響は e−mLe^{-mL} 程度しか届きません。

例:一次元の鎖で、長さ LL の輪の一点の分散と無限の鎖の値の差は、LL が大きいとほぼ e−mL/me^{-mL}/m です。m=1m=1 なら L=16L=16 で 1.1×10−71.1\times10^{-7}、m=0.1m=0.1 ならまだ 2.5。近づく速さは mm が決めます。計算

四次元のヤン–ミルズでは、長い距離で結合が強くなると考えられています。物理これは摂動論の繰り込み群から来る見方です(4-04)。MRS 1993 §I は、赤外の切断を外さない理由として 'this would lead to large values of the coupling constant'(結合定数が大きな値になってしまう)と書き、さらに 'there is no easy solvable model of these phenomenons around which to expand'(展開の出発点にできる、これらの現象の簡単に解ける模型が無い)と書いています。

比喩で言えば、展開の足場が無くなります。正確には、展開の出発点にできる解ける模型も、展開に使える小さいパラメータも無い、ということです。問題文も T4→R4T^4\to\mathbb R^4 を得る方法を今の手法は示唆しない、としています(JW §6)。

07

段 5:公理

正則化で成り立つ公理は極限に引き継がれやすく、壊したものは取り戻す必要があります。要は反射正値性です。時間の反転 Θ:t↦−t\Theta:t\mapsto-t について、t>0t\gt0 の場だけに依る FF に対し

⟨ ΘF‾  F ⟩ ≥ 0(10)\big\langle\,\overline{\Theta F}\;F\,\big\rangle\ \ge\ 0 \tag{10}

が成り立つこと。これがヒルベルト空間とハミルトニアンを取り出す条件です(5-03)。

式 (10) は不等式なので、極限に引き継がれます。既知条件は三つです。極限をとる FF が、正の時間の側の格子の場だけに依る関数で近似できること。その期待値が収束すること。反射の面が格子の面(格子点を通る面か、隣り合う格子点の間の面)であること。このとき各 μa,L\mu_{a,L} での非負の値の極限なので、極限でも非負です。格子ゲージ理論では、格子の面についての反射正値性が示されています(Osterwalder–Seiler 1978。MRS 1993 §I もこれを文献として引いています)。

逆に、失った反射正値性を取り戻す方法は乏しく、ヒルベルト空間を立てること自体が問題の一部だと問題文は書いています(JW §6.5)。格子で壊した回転の対称性は、回復を別に示します。既知

例:ガウス測度では、反射正値性は ΘC\Theta C を正の時間の側に制限したものの正値性と同じです(JW §6.2)。一次元では C(t)=e−m∣t∣/(2m)C(t)=e^{-m|t|}/(2m) なので、ti,tj>0t_i,t_j\gt0 で

∑i,jfi fj C(ti+tj)=12m(∑ifi e−mti)2 ≥ 0(11)\sum_{i,j} f_i\,f_j\,C(t_i+t_j)=\frac{1}{2m}\Big(\sum_i f_i\,e^{-m t_i}\Big)^2\ \ge\ 0 \tag{11}

と平方になります。格子の鎖で 40 点・乱数の ff を 20000 本試すと、最小値は 1.4×10−81.4\times10^{-8} で負になりません。平方なので当然で、これは式の確かめです。対照として、符号を変えた共分散 −C(ti+tj)-C(t_i+t_j) では行列の最小固有値が −2.49-2.49 になり、反射正値性が成り立ちません。計算

確率量子化(6-09)は測度を方程式の不変測度として作るので、反射正値性は出力に含まれず、別に示す課題になります。

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段 6:質量ギャップ

次に、ハミルトニアンのスペクトルの隙間を問います(4-11)。ユークリッドの側では相関の減衰の速さです。格子では時間方向の減衰率が格子単位の隙間 mlatm_{\rm lat} で、物理の単位のギャップは

Δ=lim⁡a→0mlat(a)a(12)\Delta=\lim_{a\to0}\frac{m_{\rm lat}(a)}{a} \tag{12}

です。これが正で有限で、しかも体積に一様であることを示したい。

有限の箱の格子では、隙間は自動的に在ります。既知転送行列 TT は、時刻 tt の切り口(その時刻の格子の場の値の組 uu)から時刻 t+at+a の切り口 vv へ重みを運ぶ積分作用素

(Tf)(u)=∫K(u,v) f(v) dv(Tf)(u)=\int K(u,v)\,f(v)\,\mathrm dv

です。核 K(u,v)K(u,v) は、二つの時刻をつなぐ作用の部分 St,t+a(u,v)S_{t,t+a}(u,v) から e−St,t+a(u,v)e^{-S_{t,t+a}(u,v)} として作ります。反射正値性から TT は正の作用素になり、ハミルトニアンは T=e−aHT=e^{-aH} で決まります。場の値の範囲が有界で閉じていて(ゲージ群がコンパクトな格子ゲージ理論はこれに当たる)、核が連続かつ正なら、最大固有値 λ0\lambda_0 は重複しません。成分がすべて正の行列についての Perron–Frobenius の定理の、無限次元の版(Jentzsch の定理の一般化)です 既知(一般化は Schaefer 1974。出典は 5-03)。よって次の固有値 λ1\lambda_1 との比は λ1/λ0<1\lambda_1/\lambda_0\lt1 で、隙間 −log⁡(λ1/λ0)/a>0-\log(\lambda_1/\lambda_0)/a\gt0 が在ります(5-03。格子ゲージ理論の正の自己共役な転送行列は Osterwalder–Seiler 1978)。問われるのは a→0a\to0・L→∞L\to\infty のもとでの一様さで、問題文は、体積に一様なギャップには新しい考えが要ると書いています(JW §6.5)。

例:m=1m=1 の鎖では mlat/am_{\rm lat}/a が 0.9624(a=1a=1)、0.9974(a=0.25a=0.25)、0.99990(a=0.05a=0.05)と 1 に近づき、格子単位の mlatm_{\rm lat} そのものは a=0.05a=0.05 で約 0.05 と 0 に向かいます。連続極限では格子単位の隙間は閉じていくのが正しい姿で、見るべきは比 (12) です(5-09)。転送行列の固有値の比 −log⁡(λ1/λ0)/a-\log(\lambda_1/\lambda_0)/a は、相関の減衰率と一致し、差は 5×10−145\times10^{-14} 以下です。計算

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寄り道:一次元の鎖で六つの段を全部通す

寄り道

飛ばしてよい節です。

d=1d=1 のユークリッド場の理論は量子力学で、場 ϕ(t)\phi(t) は粒子の位置、作用 ∫(12ϕ˙2+12m2ϕ2) dt\int(\frac12\dot\phi^2+\frac12m^2\phi^2)\,\mathrm dt は調和振動子の虚時間の作用です(2-06・2-07)。段 1 で時間を間隔 aa で刻み、段 2 で長さ LL の輪にし、段 3・4 で a→0a\to0・L→∞L\to\infty。段 5 は式 (11)、段 6 のギャップは準位の間隔 mm です。N=L/aN=L/a 点の輪の相関は閉じた式で書けます。

cosh⁡mlat=1+12m2a2,⟨ϕ0 ϕn⟩L=a cosh⁡ ⁣(mlat(N/2−n))2sinh⁡mlat sinh⁡(mlatN/2)(13)\cosh m_{\rm lat}=1+\tfrac12m^2a^2,\qquad \langle\phi_0\,\phi_n\rangle_L=\frac{a\,\cosh\!\big(m_{\rm lat}(N/2-n)\big)}{2\sinh m_{\rm lat}\,\sinh(m_{\rm lat}N/2)} \tag{13}

作用の行列を直接逆にした値と 10−1410^{-14} の桁で一致します。計算

図 2 aa・LL・mm を動かすと、輪の上の相関(縦は対数)と格子のギャップ mlat/am_{\rm lat}/a が変わる
a = 0.25, L = 4, m = 1 のとき m_lat/a = 0.9974

計算この図の数値はこの端末で計算した(式 (13))。点は格子の値、破線は無限・連続の e−mt/(2m)e^{-mt}/(2m)。

LL を伸ばすと、輪を回り込む寄与(右側の持ち上がり)が消えて破線に重なります。mm を小さくすると、要る LL が 1/m1/m に比例して長くなります。ギャップが無限体積極限の速さを決める、という段 4 と段 6 のつながりで、問題文も一様なギャップが無限体積極限の証明で基本的な役割を果たしうると書いています(JW §5)。二つの極限を別々の表で見ます(どちらも m=1m=1)。

計算表 3 格子間隔 aa を細かくする(段 3・段 6。無限の鎖)。

aamlat/am_{\rm lat}/a⟨ϕ2⟩\langle\phi^2\rangle(無限の鎖)
10.9624240.447214
0.250.9974140.496139
0.050.9998960.499844
0.010.9999960.499994
a→0a\to0→1\to1→1/(2m)=0.5\to1/(2m)=0.5

計算表 4 輪の長さ LL を伸ばす(段 4。a=0.05a=0.05)。L=∞L=\infty の値は無限の鎖の 0.499844(表 3 の a=0.05a=0.05 の行)。

LL⟨ϕ2⟩L\langle\phi^2\rangle_L無限の鎖との差
11.0817355.8×10−15.8\times10^{-1}
20.6563501.6×10−11.6\times10^{-1}
40.5185031.9×10−21.9\times10^{-2}
80.5001803.4×10−43.4\times10^{-4}
160.4998441.1×10−71.1\times10^{-7}

一次元で全部が通るのは、点での値が確率変数で、段 3 に発散が無いからです(表 1)。非調和な項 λϕ4\lambda\phi^4 を足しても量子力学として意味を持ちます。既知

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第 6 部の読み方

表 2 の各行は、段 1 から順に閉じていく様子を並べたものです。第 6 部の各章は、その「閉」がどの道具で得られたか、「一部」「未」がどこで止まっているかを、段ごとに追います。二次元のヤン–ミルズとスカラー場は段が通った例として、クラスター展開と繰り込み群はそれが効く段の道具として、三次元・四次元の章は止まっている段の記録として読むと、各章の位置が分かります。一つの章が複数の段に触れることもあるので、下の対応は主に扱う段です。


この章が言えている範囲

内容
言えている構成的場の理論は近似の列の極限で公理を満たす非ガウス測度を示す方法で、一様な評価が中心(JW §6.1)既知
言えている格子の自由場の一点の分散は d=1d=1 で有限、d=2,3,4d=2,3,4 で log⁡(1/a)\log(1/a)・1/a1/a・1/a21/a^2 で増える(a≥1/64a\ge1/64)計算
言えている一次元の鎖では六つの段が閉じた式で通り、相関の減衰率と転送行列の固有値比が一致する計算
言えていない六つの段という分け方は、この本の整理で、分野の標準の区分ではない
言えていない表 2 の「閉」の中身(原論文の証明は追っていない。ϕ24\phi^4_2・ϕ34\phi^4_3 は問題文による。ϕ34\phi^4_3 のギャップは文献の題名による)
言えていない四次元のヤン–ミルズで段 4〜6 を進める方法(問題文も方向を指す考えが無いとする)

出典と再現

もの種別出典・道具
JW の記述と引用(§5・§6・§6.1・§6.2・§6.5・脚注 2)一次資料(本文で確認)A. Jaffe, E. Witten, Quantum Yang–Mills Theory, Clay Mathematics Institute の公式問題文(2000)
OS の公理・教科書書誌のみK. Osterwalder, R. Schrader, Comm. Math. Phys. 31 (1973) 83–112; 42 (1975) 281–305。J. Glimm, A. Jaffe, Quantum Physics, 2nd ed., Springer (1987)
ϕ24\phi^4_2・ϕ34\phi^4_3書誌のみ(問題文の文献表)Glimm–Jaffe–Spencer, Ann. Math. 100 (1974) 585–632; Glimm–Jaffe, Fortschr. Phys. 21 (1973) 327–376; J. Feldman, K. Osterwalder, “The Wightman axioms and the mass gap for weakly coupled ϕ34\phi^4_3 quantum field theories”, Ann. Phys. 97 (1976) 80–135
摂動論と繰り込みの教科書書誌のみ(問題文の文献表)V. Rivasseau, From Perturbative to Constructive Renormalization, Princeton Univ. Press (1991)
格子の反射正値性・正の自己共役な転送行列・強結合の無限体積書誌と要旨のみK. Osterwalder, E. Seiler, Ann. Phys. 110 (1978) 440–471
Perron–Frobenius・Jentzsch の定理既知の定理(Perron 1907・Jentzsch 1912 は書誌のみ。コンパクト空間上の核への一般化は Schaefer 1974〔書誌のみ、主張は二次資料で確認〕・Krein–Rutman 1948〔書誌のみ〕)5-03 を参照
強結合の指数減衰要旨で確認H. Shen, R. Zhu, X. Zhu, Comm. Math. Phys. 400 (2023) 805–851, arXiv:2204.12737
二次元の連続測度(平面)要旨と序論で確認B. K. Driver, Comm. Math. Phys. 123 (1989) 575–616
二次元の連続測度(コンパクトな曲面)書誌のみ(Lévy 2003 は要旨まで確認)A. Sengupta, Mem. Amer. Math. Soc. 126 no. 600 (1997); T. Lévy, Mem. Amer. Math. Soc. 166 no. 790 (2003), arXiv:math/0101239
三次元・四次元の紫外安定性1985 と 1989(CMP 122, 355–392)は冒頭と Theorem 1 を確認。1987 と系列の他は書誌のみT. Bałaban, Comm. Math. Phys. 102 (1985) 255–275; 109 (1987) 249–301; 122 (1989) 355–392
赤外切断つきの構成要旨と §I を確認J. Magnen, V. Rivasseau, R. Sénéor, Comm. Math. Phys. 155 (1993) 325–383
三次元の測度は未構成本文 §1.1 を確認I. Chevyrev, arXiv:2202.13359 (2022)
表 1・次元の数・一次元の鎖計算この端末の Python(numpy・scipy):point_variance.py・counts.py・chain.py(転送行列は位置を 1601 点で対角化)
図 1・図 2図SVG・canvas と素の JavaScript。図 1 は表 2 を読む(JavaScript が無効なら YM 四次元の静止図)。図 2 は式 (13) を計算

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改訂 2026-10-01:初版。