この本の全体 目次と読む順
- 第 0 部 入口 — この本の読み方
- 0-01 この本の読み方
- 0-02 一枚の絵
- 0-03 問題文を一語ずつ読む
- 0-04 数学の四次元と物理の四次元
- 第 1 部 数学の準備
- 1-01 ベクトル空間と線形写像
- 1-02 群とは何か
- 1-03 リー群とリー環
- 1-04 SU(2) と SU(3)
- 1-05 多様体と接空間
- 1-06 微分形式と外微分
- 1-07 ベクトル束と接続
- 1-08 確率と測度
- 1-09 無限次元の確率
- 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
- 1-11 フーリエ解析と分布
- 1-12 寄り道
- 第 2 部 物理の準備
- 2-01 ラグランジアンと作用
- 2-02 場という考え
- 2-03 電磁気学はゲージ理論である
- 2-04 特殊相対論と時空
- 2-05 量子力学の骨
- 2-06 調和振動子と生成消滅
- 2-07 経路積分の考え方
- 2-08 統計力学と相転移
- 2-09 寄り道
- 2-10 緩和の時間と動的指数 z
- 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
- 3-01 ゲージ原理
- 3-02 非可換ゲージ場
- 3-03 作用と方程式
- 3-04 幾何としてのゲージ理論
- 3-05 インスタントンと位相
- 3-06 寄り道
- 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
- 第 4 部 量子化
- 4-01 正準量子化とハミルトニアン
- 4-02 経路積分とユークリッド化
- 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
- 4-04 発散と繰り込み
- 4-05 発散の代数
- 4-06 漸近自由
- 4-07 次元転移と Λ
- 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
- 4-09 場の量子論の公理
- 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
- 4-11 質量ギャップの定義
- 4-12 寄り道
- 第 5 部 格子ゲージ理論
- 5-01 Wilson の格子
- 5-02 強結合展開
- 5-03 反射正値性と転送行列
- 5-04 無限体積極限とクラスター展開
- 5-05 弱結合と連続極限
- 5-06 U(1) と非可換の違い
- 5-07 モンテカルロ法
- 5-08 グルーボールと弦張力の測定
- 5-09 何を固定して極限を取るか
- 5-10 有限群の格子ゲージ理論
- 5-11 寄り道
- 第 6 部 構成的場の理論
- 6-01 構成的場の理論とは
- 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
- 6-03 スカラー場の構成
- 6-04 クラスター展開
- 6-05 繰り込み群の段の列
- 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
- 6-07 四次元
- 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
- 6-09 確率量子化と正則性構造
- 6-10 四次元で止まる場所
- 6-11 発散以外の障害
- 6-12 寄り道
- 第 7 部 物理の側から
- 7-01 物理はどう見ているか
- 7-02 閉じ込めの機構
- 7-03 弦の絵
- 7-04 大 N
- 7-05 ひも理論と余剰次元
- 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
- 7-07 ゲージ場はどこから来るか
- 7-08 ホログラフィー
- 7-09 質量ギャップが幾何になる
- 7-10 四次元に戻す
- 7-11 超対称と Seiberg–Witten
- 7-12 等価原理に当たる一文
- 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
- 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
- 8-01 辞書の読み方
- 8-02 辞書 A
- 8-03 辞書 B
- 8-04 辞書 C
- 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
- 第 9 部 現在地と課題
- 9-01 世界はどこまで来ているか
- 9-02 二つの掘り方の切れ目
- 9-03 新しい概念の候補
- 9-04 課題の一覧
- 9-05 よくある誤解
- 第 10 部 質量ギャップの厳密な証明へ — この端末の検討
- 10-00 第 10 部の入口 — 酔歩と定規と時計
- 10-01 理論の構成の筋
- 10-02 一段の記帳
- 10-03 仮定 H と三つの鎖
- 10-04 方向の地図
- 10-05 方向 12〜14
- 10-06 方向 15・15′
- 10-07 Lean で閉じた言明と既存の結果の対応表
- 10-08 壁の一覧
- 10-09 ひらめき帳から
- 10-10 主張しないこと
- 10-12 つじつま合わせ
- 10-11 定理までの距離
- 10-13 小さな問い — 卒業研究の大きさで決着のつく十〜二十問
- 付録
- A-01 記号表
- A-02 用語集
- A-03 文献案内
- A-04 Lean と機械検査
- A-05 この本の作り方
- A-06 仮定の索引
辞書 C:尺度と極限 — 流れの語は写像に、極限の語は存在の問いに訳される
この章で分かること — 尺度と極限の物理の語 23 項目を数学の語と対にし、8-01 の二列で格付けします。スキーム変換が一度きりのずれであること(表 1)と、Migdal–Kadanoff の近似再帰の流れ(図 1)も見ます。
前提となる章 — 4-06・6-05・7-08。二列は 8-01、質量と長さは 8-03。§04 の指標と Bessel 関数は 6-02 にあり、§04 で最小限を補います。
先に言うこと — 対応を並べるだけで、流れも連続極限も構成しません。図 1 は近似の再帰の計算で、四次元の格子の理論の主張ではありません。
- 見取り図 — 表 0
- 繰り込み群と β 関数 — 段の列と Polchinski の方程式
- 格子の上の流れ — 表 1
- Migdal–Kadanoff と階層格子 — 図 1/寄り道:一段の減りが (1−b⁻²)/3 になる理由
- 連続極限と a(β) — 二つのスケーリング
- 普遍性・Symanzik・周辺性 — 改善の代償
- 大 N・マスター場・ホログラフィー・KK 塔
- 位相・インスタントン・Wilson 流・Gribov 領域
- 数学の側に語の無いもの — トレース異常
見取り図 — 流れ・極限・幾何の尺度
語は三群に分かれます。流れの語(繰り込み群・β 関数・)は、段の写像の性質に訳されます。例:「β 関数が負」は「格子間隔を 2 倍にする一段が、弱結合の側で をほぼ一定量ずつ下げる」になります(§02・§03)。
極限の語(連続極限・・普遍性)は、「極限が在るか、一つか」という問いに訳されます。例:「普遍性」は「作用の細部を変えても同じ極限の測度に行く」という一意性の主張です(§05・§06)。
幾何の尺度の語(・余分な一方向・流れの時間・位相)は、別の尺度を足して理論を見る語です。古典なら定理で一致するものが多い群です。例:「インスタントン」は反自己双対接続そのものです(§07・§08)。
記号: は格子の結合の係数(統計力学の逆温度ではありません)、 は一段の倍率(格子間隔 を 倍にする)、(SU(2) で 0.3715、A-01)です。漸近自由(4-06)を格子の結合で書くと一段の走りになります。SU(2) で を 2 倍にすると は約 0.2575 下がり、 を半分にするには同じだけ上げます。
| # | 物理の語 | 数学の語 | (a) | (b) | (c) |
|---|---|---|---|---|---|
| C1 | 繰り込み群 | 段の列・UV 安定性 | 条件つき | 条件つき | — |
| C2 | β 関数 | 有効結合の再帰式 | 条件つき | 条件つき | — |
| C3 | Polchinski の方程式 | 測度の分解の Polchinski 方程式(熱流) | 確定 | 無い | — |
| C4 | MCRG の Δβ | 一段の写像 | 条件つき | 無い | — |
| C5 | Λ のスキーム変換 | 結合の再径数化 | 確定 | 構成済み(形式的冪級数) | — |
| C6 | Migdal–Kadanoff | 階層格子の厳密な再帰 | 条件つき | 構成済み(階層格子) | — |
| C7 | 連続極限 | スケーリング極限 | 条件つき | 無い | 届かない |
| C8 | a(β)・尺度の設定 | ε(β)(Problem 5.2) | 未確定 | 無い | — |
| C9 | スケーリング | 無次元比の極限 | 未確定 | 無い | 届かない |
| C10 | 漸近スケーリング | ε(β) の漸近形 | 未確定 | 無い | 届かない |
| C11 | 普遍性 | 極限の一意性 | 条件つき | 無い | 届かない |
| C12 | Symanzik の O(a²) | 段の取りこぼし δ(b) | 未確定 | 無い | — |
| C13 | 改善作用 | 反射正値性の喪失(負の重みの寄与) | 確定(次元 6 の演算子を足した作用) | 構成済み(格子) | — |
| C14 | 周辺的な結合 | Sobolev の臨界指数 | 確定 | 構成済み(古典) | — |
| C15 | 大 N・平面図 | 平面地図・弦の和 | 条件つき | 条件つき | — |
| C16 | マスター場 | 非可換分布の極限 | 条件つき | 無い | — |
| C17 | ホログラフィーの動径 | Fefferman–Graham 展開 | 未確定 | 無い | — |
| C18 | KK 塔 | 内部ラプラシアンの λ₁ | 条件つき | 対象外 | 上界まで |
| C19 | 位相電荷 | 第二 Chern 数 | 条件つき | 条件つき(格子) | — |
| C20 | インスタントン | 反自己双対接続 | 確定 | 構成済み(古典) | — |
| C21 | Wilson 流 | ヤン–ミルズ熱流 | 確定 | 構成済み(古典) | — |
| C22 | Gribov 領域 | FP 作用素の正値域 | 確定 | 構成済み(古典) | — |
| C23 | トレース異常 | 対応語なし | 未確定 | 無い | — |
(c) は 8-01 §02 の列 (c)(有限の測定で届く向き)。極限と一意性の行(C7・C9〜C11)は届かず、C18 の は試験関数一つで上界が出ます(1-10)。(b) の「無い」は 8-01 §04 のとおり「まだ作られていない」の意味です。C4・C9・C10 には格子の数値(物理の水準)があり、§03・§05 で扱います。
繰り込み群と β 関数 — 写像の列に訳す
繰り込み群は、短い尺度の揺らぎを積分して、長い尺度の有効な作用に移る操作です。Wilson(1971)は Kadanoff のスケーリングの理論を微分方程式の形に書き直しました(要旨 'The Kadanoff theory of scaling … is cast in differential form')既知。写像の存在と不動点への収束は、物理では前提です。数学では、一段の写像 の合成を一様に評価する段の列になります(6-05)。
四次元の純ゲージで Bałaban(1987・1989)は有効作用の列を作り、有限体積の UV 安定性を示しました。Chatterjee(2018)§6 は収束する部分列の存在を UV 安定性と呼びます既知。軌道の収束と観測量の極限は未証明です(6-07)。β 関数(C2)の符号と厳密な流れの一致は、二次元の Gross–Neveu で定理です(Gawędzki–Kupiainen 1985)。四次元では Bałaban の小場近似の再帰までです。
Polchinski の方程式(C3)
Polchinski(1984)は、四次元の で運動量の切断を連続に動かしたときの有効作用の変化を、厳密な繰り込み群の方程式に書きました。そのうえで、摂動の繰り込み可能性を示しました既知。数学の側にも同じ方程式があります。ガウス測度の共分散を尺度ごとの和に分け、細かい尺度から一枚ずつ積分すると、残りの有効な作用 がこの方程式に従います。 に直すと、ガウスの核による畳み込み、つまり熱方程式の流れです既知。対は方程式どうしなので、C3 の (a) は確定です。
この方程式の上に立つ判定法もあります。log-Sobolev 不等式は の形の不等式です。Poincaré 不等式 (1-10)の分散をエントロピー に替えた、より強いもので、確率的な力学が平衡に戻る速さを保証します。Bauerschmidt–Bodineau(2021)は Polchinski の方程式の制御によって Bakry–Émery の判定法(1-10)を多重スケールに広げました。そして、質量つきの連続 sine-Gordon 模型(二次元の模型、その結合 )で漸近的に最適な log-Sobolev 不等式を示しました既知。判定法は対の上に立つ道具なので、条件の側に置きます。四次元への適用は無いので、(b) は「無い」です。
格子の上の流れ — MCRG と一度きりのずれ
MCRG(Swendsen 1979)は、 でブロック化した観測量が結合 の格子と合うよう を決めます。SU(3) の最初の結果(Gupta ほか 1984)は、基本表現の結合 で漸近スケーリングが無いと報告しました既知。 は を 2 倍にしたときの の下げ幅で、4-06 の表 4 の「 を半分にする上げ幅」と同じ量を、別の方法で測るものです。数学の対は一段の写像 ( は一段の減りで、質量ギャップの とは別) で、同じ射影(Wilson 形への合わせ方)を選べば同じ量です(C4)。
同じ定め方(スキーム)の中の一段を考えます。弱結合()の主項で が に依らないとすると、二段続けても一度に 倍しても同じなので
です(単調性の下の Cauchy の関数方程式)。定数 は加法性だけでは決まらず、(1)(一ループ)と比べて です。二ループ以降では に の 依存が残り、(3) はそれを無視した主項の式です。
(1) を積分した一ループの式は です(4-06 の式 (8) の一ループの部分)。定め方の取り替え は、写像を共役で移すだけで の主項を変えません。変わるのは の読みで、 から 、つまり が一度だけ 倍になります(C5)。Dashen–Gross(1981)はこの比を (Wilson 作用)と求めました既知。
| 比 | 段数 | ||
|---|---|---|---|
| 2 | 19.823 | 1.1096 | 4.309 |
| 3 | 28.809 | 2.8092 | 4.848 |
| 38.853 | — | 5.280 |
SU(2) では が、 の一段の走り の約 4.3 段ぶんです。Wilson 作用から へ移ることは、 を一度だけ約 4.3 段ぶん下げること、つまり を 2 倍にする段を一度だけ約 4.3 回余計に進めるのと同じです。段ごとに定数がずれる写像 は (3) を破り、 の読みを段ごとに動かします。この端末の記録はこの形で を「取りこぼし」と呼びます(10-02・8-05)。
Migdal–Kadanoff と階層格子 — 近似を別の格子の厳密な再帰と読む
Kadanoff(1976)は Migdal(1975)の再帰式を決定化(decimation)の近似として導き直し、ポテンシャル(ボンド)移動の方式を提案しました(要旨)既知。ここでは一段を二つの操作の組として書きます。ボンド移動は 枚のプラケットを一か所に集め、重み を にします。決定化は平面の 枚を一枚にまとめます。決定化は二次元で厳密です(6-02)。
記号を一行ずつ置きます。SU(2) の元 の固有値を とし、Wilson 作用の一枚の重みを ()と書きます。 は 次元の既約表現(スピン )の指標で、、次元は です。 は修正 Bessel 関数 です。重みを指標で と展開した係数 ()を規格化した係数と呼び、決定化は です。6-02 は重みを と書くので、6-02 の はこの章の です。
近似はボンド移動にだけあります。二つの操作を入れ子に繰り返して作った格子(階層格子)の上では、(4) は構成から厳密になります。スピン系の階層格子には Griffiths–Kaufman(1982)があります。ゲージ理論では Ito(1985)が、MK の再帰が厳密に成り立つ四次元の階層格子のゲージ理論で、SU(N) などの群について永久閉じ込めを示しました(要旨 'hierarchical lattice gauge theories in which the Migdal-Kadanoff approximate renormalization recursion formulas hold exactly')既知。物理の「近似」は、数学では「別の格子の上の厳密な写像」です(C6。(b) はこの階層格子の水準)。
例:強結合では なので、・ の一段は 、決定化だけなら です( で ・)計算。後者は記録の一段の記帳(10-02)の強結合の式で、因子 の不足は記録でも既知です。
流れの行き先と一段の減り
計算この図の数値はこの端末で計算した(重み関数を 8000 点・指標 400 個で反復し、 は (4) の 、U(1) は で読む)。JavaScript が無ければ次の二段落で読める。
では強結合へ、 では弱結合へ流れ、 が境目です。 の SU(2) は、調べた出発点()ではすべて強結合へ向かいます( は 31 段、20 は 79 段で )計算。U(1) は、出発点が なら 以上の値で止まり、固定点の線に乗ります(5-06)。一段目は Wilson 形から再帰の決まった形へ移るので上がり、これも一度きりのずれです。
弱結合で形が落ち着いた後の一段の減り(・SU(2)、 から 10 段目)は、 で 0.2503・0.2965・0.3126 です計算。一ループが与える一段 は 0.2575・0.4081・0.5150 です。MK の値は、下の寄り道の式 (0.2500・0.2963・0.3125)に合います計算。 では一ループの値の 97% ですが、 の二段(0.5006)と の一段(0.3126)が違い、(3) を満たしません。MK の は に依ります。
寄り道:一段の減りが (1−b⁻²)/3 になる理由
飛ばしてよい小節です。
決定化 で形を保つ重みがあります。係数が の重みで、SU(2) の熱核と呼ばれます(6-02 §04 の で としたもの)。決定化はこれを と動かすだけです。 が小さいとき、この重みは
と書けます既知。Wilson の重み とは、前因子 だけが違います。ボンド移動で 乗すると()、前因子も 個掛かります。熱核の形に要るのは一個なので、余分な 個が として指数に入ります。
一段の減りは で、 に依りません。 と違って について加法的でないのは、減りが対数からでなく、 の の係数 から来ているからです。この計算は小さい の主項だけなので、本文の数値との一致(0.2500 と 0.2503 など)は計算で確かめた範囲です計算。
連続極限と a(β) — 二つのスケーリング
連続極限(C7)について、Chatterjee(2018)§5 は物理の用法をまとめます。臨界点 で相関長が発散すれば 'the model has a continuum limit' と言う、という用法です既知。スケーリング極限は、格子を に縮め、場を規格化して分布として弱収束させる操作で(2-08)、何を固定するかと規格化を指定すれば同じ操作です。物理の語が含む非自明性は定義に入らず、四次元の Ising 型と の極限はガウス的です(Aizenman–Duminil-Copin 2021、6-08)。
(C8)の選び方は二通りあります。§5 の説明は相関長を固定し、Problem 5.2 は Wilson ループで存在量化します(8-03 の式 (4) と同じ式)。
ここの は面積則の係数(連続の弦張力に当たる数)で、(8) の次元 とは別の記号です。Problem 5.2 は 5.1 を前提にせず、どちらの も存在は未証明です。物理は弦張力(Creutz 1980)や (Sommer 1994)で尺度を決めます物理。
スケーリング(C9)は無次元の比が に依らなくなること、漸近スケーリング(C10)は が二ループの式に従うことです。
格子の数値では、二つは別々に振る舞います。右のずれは、SU(3) の MCRG が で漸近スケーリングを見ないという報告(Gupta ほか 1984)に現れます。4-06 の表 4 でも、 を半分にする上げ幅のデータ(0.35〜0.52)が二ループの値(約 0.61)に届きません物理。左は、 の補正を仮定した外挿で無次元比が一つの値に揃うことで支持されています(Lucini–Teper 2001 の 、Lüscher 2010 の )物理。SU()・ の当てはめは、 を 単位で決め切りません(Allton–Teper–Trivini 2008)物理。数学の対は、左が Problem 5.1・5.2 の組の極限(8-03 の B9)、右が の漸近形で、どちらも定理はありません(5-05・5-09)。
普遍性・Symanzik・周辺性 — 変数の違う二つの誤差
普遍性(C11)は、作用の細部に依らず同じ極限が出ることです。Griffiths(1970)らが仮説として述べ、Wilson(1971)が無関係変数で説明しました。数学では極限の一意性で、定理は二次元にあります。等径グラフ上の Ising(Chelkak–Smirnov)と、二次元トーラス上の自明束の YM 測度で Wilson・Villain・Manton の作用が同じ測度に行くこと(Chevyrev–Shen)です既知。四次元では、Wilson 作用と改善作用が同じ理論を与えるのは前提です。
Symanzik(1983)の改善(C12)は、無関係な項を足して有限の の誤差を系統的に減らす考えです。一つの作用のもとで、無次元の比の誤差を で展開します。
ヤン–ミルズでは の対数補正も弱いとされます(Husung–Marquard–Sommer 2020)既知。記録の は倍率 の展開で変数が違い、Symanzik との対は類比にとどまります(未確定)。例:20 段で、左は 、右は 固定なら です。倍率を段ごとに一つずつ大きくした例 では、主項だけで (段を限りなく続けた極限は 倍)です計算。
改善の代償(C13)
Lüscher–Weisz(1984)は、次元 6 の演算子を Wilson 作用に足すと 'physical positivity is lost in general' と書き、それでも転送行列は定義できることを示しました。その性質は二つです。複素固有値は現れうる('may occur')。二点関数のスペクトル分解には、負の重みの寄与が必ずある('there are always contributions … that come with a negative weight')既知。反射正値性(5-03)の言葉で言えば、C13 の数学の語は「反射正値性の喪失(負の重みの寄与)」で、根拠は 'always' の側です。(a) は、次元 6 の演算子を足した作用について確定です(判定者は定理)。記録で にする核も負の重みを持ち、同じ型かは 8-05 で扱います。
周辺性(C14)
と縮めると
で、 で作用が尺度不変です(図 1 の境目)。数学では Sobolev の臨界指数です。 ノルム は が大きいほど強い制御で、縮めると です。尺度を変えても変わらない指数 が臨界指数です(1-11・1-12)。Uhlenbeck(1982)の弱コンパクト性(接続の列から収束する部分列を取り出す定理)は、曲率の の有界性で を要します。四次元の作用は で、ちょうど閾値です既知。問題文は、Sobolev 不等式が境界にある場合を漸近自由が救うという見通しを書きます(0-03)。一致は古典の次元勘定までです(6-09・四次元の記事)。
大 N・マスター場・ホログラフィー・KK 塔 — 別の尺度を足す語
この節の四つの語は、四次元の時空の外に尺度を一つ足して理論を見ます。足すのは、群の大きさ 、境界から内部への深さ、丸めた余剰次元の大きさです。
大 N と平面図(C15)
't Hooft(1974)は、 を固定して とすると平面図が支配すると示しました(摂動論、7-04)。定理として一致するのは二つです。行列模型の平面地図(Guionnet–Maurel-Segala)と、強結合の SO() 格子の Wilson ループを弦の軌跡の和で書いたもの(Chatterjee・Basu–Ganguly)です既知。
マスター場(C16)
で揺らぎが消え、ゲージ不変量が一つの配位で決まる、という考えです。数学では非可換分布の決定的な極限に当たります。非可換分布は、 の確率的な行列の組 について、積のトレースの期待値 の全体を、行列の「分布」とみなしたものです(自由確率論の言葉)。平面の二次元ヤン–ミルズでは、Wilson ループがこの意味で決定的な極限に近づくことを Lévy が示しました(7-04)既知。
ホログラフィーの動径(C17)
内部の赤外が境界の紫外に映る(Susskind–Witten 1998)ことから、動径は境界の尺度と読まれます(7-08)。数学で確かなのは、境界近くの計量の展開(Fefferman–Graham)だけです。これは境界からの深さ の冪で内部の計量を展開する式で、、( が境界の計量)の形をとります既知。物理の側も、切断との対応を 'left unanswered' とします(Heemskerk–Polchinski 2010)物理。
KK 塔(C18)
余剰次元を内部空間 に丸めると、質量の列が現れます。歪みの無い直積上の質量ゼロのスカラーなら
です(7-06)既知。 は の上のラプラシアンの 0 でない最小の固有値です。KK 塔を から離しつつ幾何の計算を保つ構成は知られていません(7-10)。純ヤン–ミルズには余剰次元が無いので、(b) は対象外です。
位相・インスタントン・Wilson 流・Gribov 領域 — 古典では確定する語
この節の四つの語は、古典の場について定理で数学の語と一致します。量子の場に持ち込むところで、条件か物理の水準になります。
インスタントン(C20)
この節の規約は A-01 と同じで、 を作用の前に出し、 には含めません:()。エルミートな生成子は と規格化するので、作用は です。双対を ( は完全反対称で )と置くと、 から作用は位相電荷で下から抑えられます。
等号は(反)自己双対のときに限ります(3-03)。3-03 の (12) は の正準規格化で書かれていて、(したがって )と書き換えると (10) と一致します。BPST(1975)の解、ADHM(1978)の全解の構成、Uhlenbeck(1982)の「 上の有限作用の場は から来る」で、古典の対象として確定です既知。インスタントンの和で経路積分を近似するのは別の、量子の主張です。
位相電荷(C19)
位相電荷は第二 Chern 数です。第二 Chern 数は、閉じた四次元多様体(例:)の上の接続について で決まる整数で( を反エルミートに取る書き方、A-01)、接続を連続に変えても変わりません(1-07 の第一 Chern 数の四次元版)。(10) の とは符号の約束だけが違います(3-05 の寄り道)。格子では、各プラケット が単位元に十分近い(作用密度が閾値より小さい、admissible な)場から束を作れて、整数になります(Lüscher 1982、3-05)既知。それ以外ではセクターは 'a dynamical property of the theory' です(Lüscher 2010、SU(3))物理。
Wilson 流(C21)
Wilson 流は、流れの時間 を足して場をならす方程式 、 です。 は の場の強さ、 は による共変微分です。作用の最急降下で、方程式はヤン–ミルズ熱流そのものです。半径 は、熱核 の広がり の の値です。量子の場への作用は、三次元の GFF 仮定の下(Cao–Chatterjee)と、確率量子化による二次元の YM・三次元の YMH(Higgs 場を含む模型、CCHS)までです既知。四次元は Lüscher の 'suggest' の段です物理。
Gribov 領域(C22)
Gribov(1978)は Landau ゲージ の曖昧さに対し、FP 行列式が正の場に積分を制限しました(3-04・4-08)。FP 作用素 は、ゲージ変換で場を少し動かしたときのゲージ条件の変化を表す作用素で、その行列式が経路積分に掛かる Faddeev–Popov の行列式です。 は について一次なので
から は凸です( は作用素として半正定値の意味)。Zwanziger(1982)は 'bounded in every direction' を示し、Dell'Antonio–Zwanziger(1991)はどの軌道もこの領域に入ることを示しました既知。その上の測度が閉じ込めを生むという絵は物理の水準です(7-02)。
数学の側に語の無いもの — トレース異常
古典の四次元ヤン–ミルズでは、(8) の尺度不変性から、エネルギー運動量テンソルの跡 が消えます(3-03)。跡は、場を で縮めたときの作用の変化を局所的に測る量で、尺度を変えても作用が変わらなければ 0 になります。量子論では、揺らぎを積分するのに切断(格子間隔など)が要り、そこで一つの長さが入ります。結合 はその長さに対して走るので、尺度不変性は壊れます。壊れ方を局所的に書いたのがトレース異常です。
ここでは を正準規格化(、3-03 の規約)で書きます。(10) の規約の場とは の関係で、(12) を (10) の規約で書くと係数は になります。
これは標準形として引く式で(規格化は文献で異なる。Collins–Duncan–Joglekar 1977)物理、係数は β 関数そのものです。漸近自由()のもとで跡は 0 になりません。これが次元転移(4-07)の局所的な機構です。数学の側に対応語はありません。四次元の連続理論が無く、この演算子を置く場所が無いからです(8-03 の Λ と同じ)。表 0 の (a) が確定の 7 行は方程式・定義・古典の一致で、(b) が四次元の連続の量子論で「在る」行はありません。
この章が言えている範囲
| 言えている | 言えていない |
|---|---|
| 既知(3) の主項( を除く)と共役によるスキーム変換、Dashen–Gross の比、(8)(10)(11)、階層格子の上で MK が厳密なこと(Ito 1985)、(a) が確定の行。 | (b) が「無い」行の対象の存在。条件つき・未確定の対の行方。 |
| 計算表 1・図 1、§04・§06 の数値。物理(12)・漸近スケーリングとスケーリングの数値・動径。 | MK と物理の札は定理ではない。 |
| 記録の と Symanzik は展開の変数が違うこと。 | の総和可能性(8-05)。流れ・連続極限・質量ギャップは何も示さない。 |
出典と再現
| もの | 種別 | 出典・道具(確認の水準) |
|---|---|---|
| 流れ(§02・§03) | 既知 | 要旨で確認:Wilson, PRB 4 (1971) 3174;Bałaban, CMP 109 (1987) 249・122 (1989) 355;Gawędzki–Kupiainen, PRL 54 (1985) 2191;Polchinski, NPB 231 (1984) 269;Bauerschmidt–Bodineau, CPAM 74 (2021) 2064;Swendsen, PRL 42 (1979) 859;Gupta ほか, PRL 53 (1984) 1721;Dashen–Gross, PRD 23 (1981) 2340。本文:Chatterjee, arXiv:1803.01950。 |
| MK・階層格子(§04) | 既知 | 要旨で確認:Kadanoff, Ann. Phys. 100 (1976) 359;Ito, PRL 55 (1985) 558。書誌のみ:Migdal, JETP 42 (1975) 413;Griffiths–Kaufman, PRB 26 (1982) 5022(スピン系の階層格子)。 |
| 極限・普遍性・改善(§05・§06) | 既知・物理 | 要旨で確認:Aizenman–Duminil-Copin, Ann. Math. 194 (2021) 163;Creutz, PRD 21 (1980) 2308;Sommer, NPB 411 (1994) 839;Allton–Teper–Trivini, JHEP 07 (2008) 021;Griffiths, PRL 24 (1970) 1479;Chelkak–Smirnov, arXiv:0910.2045;Chevyrev–Shen, arXiv:2302.12160;Symanzik, NPB 226 (1983) 187;Lüscher–Weisz, NPB 240 (1984) 349;Husung–Marquard–Sommer, EPJC 80 (2020) 200;Uhlenbeck, CMP 83 (1982) 11・31。本文:Lucini–Teper, JHEP 06 (2001) 050;Lüscher, JHEP 08 (2010) 071;Jaffe–Witten(Clay の問題文)。 |
| §07 | 既知・物理 | 要旨で確認:'t Hooft, NPB 72 (1974) 461;Guionnet–Maurel-Segala, arXiv:math/0503064;Chatterjee, arXiv:1502.07719;Basu–Ganguly, arXiv:1608.04379;Lévy, arXiv:1112.2452;Susskind–Witten, hep-th/9805114;Heemskerk–Polchinski, arXiv:1010.1264;Fefferman–Graham, arXiv:0710.0919。Fefferman–Graham の原典は 1985 年とされる(書誌のみ・未照合)。 |
| §08・§09 | 既知・物理 | 要旨で確認:Lüscher, CMP 85 (1982) 39;BPST, PLB 59 (1975) 85;ADHM, Phys. Lett. A 65 (1978) 185;Cao–Chatterjee, arXiv:2111.12813;CCHS, arXiv:2006.04987・2201.03487;Gribov, NPB 139 (1978) 1;Zwanziger, NPB 209 (1982) 336;Dell'Antonio–Zwanziger, CMP 138 (1991) 291;Collins–Duncan–Joglekar, PRD 16 (1977) 438(要旨に式は無く、(12) の規格化は未照合。(12) は標準形として物理の札)。本文:Lüscher, JHEP 08 (2010) 071。 |
| ・一段の記帳 | 記録 | この端末の記録の整理(10-02・8-05)。 |
| 表 1・図 1・数値 | 計算 | この端末の Python 3:mk_flow.py・mk_steady.py・mk_long.py・dg_shift.py・sym_delta.py(§06 の 2.39・2.58・)。 |
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