この本の全体 目次と読む順
- 第 0 部 入口 — この本の読み方
- 0-01 この本の読み方
- 0-02 一枚の絵
- 0-03 問題文を一語ずつ読む
- 0-04 数学の四次元と物理の四次元
- 第 1 部 数学の準備
- 1-01 ベクトル空間と線形写像
- 1-02 群とは何か
- 1-03 リー群とリー環
- 1-04 SU(2) と SU(3)
- 1-05 多様体と接空間
- 1-06 微分形式と外微分
- 1-07 ベクトル束と接続
- 1-08 確率と測度
- 1-09 無限次元の確率
- 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
- 1-11 フーリエ解析と分布
- 1-12 寄り道:四次元でだけ起きること
- 第 2 部 物理の準備
- 2-01 ラグランジアンと作用
- 2-02 場という考え
- 2-03 電磁気学はゲージ理論である
- 2-04 特殊相対論と時空
- 2-05 量子力学の骨
- 2-06 調和振動子と生成消滅
- 2-07 経路積分の考え方
- 2-08 統計力学と相転移
- 2-09 寄り道:イジング模型で見るギャップと相関長
- 2-10 緩和の時間と動的指数 z
- 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
- 3-01 ゲージ原理
- 3-02 非可換ゲージ場
- 3-03 作用と方程式
- 3-04 幾何としてのゲージ理論
- 3-05 インスタントンと位相
- 3-06 寄り道:Donaldson とエキゾチック R⁴
- 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
- 第 4 部 量子化
- 4-01 正準量子化とハミルトニアン
- 4-02 経路積分とユークリッド化
- 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
- 4-04 発散と繰り込み
- 4-05 発散の代数
- 4-06 漸近自由
- 4-07 次元転移と Λ
- 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
- 4-09 場の量子論の公理
- 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
- 4-11 質量ギャップの定義
- 4-12 寄り道:摂動級数は発散する
- 第 5 部 格子ゲージ理論
- 5-01 Wilson の格子
- 5-02 強結合展開
- 5-03 反射正値性と転送行列
- 5-04 無限体積極限とクラスター展開
- 5-05 弱結合と連続極限
- 5-06 U(1) と非可換の違い
- 5-07 モンテカルロ法
- 5-08 グルーボールと弦張力の測定
- 5-09 何を固定して極限を取るか
- 5-10 有限群の格子ゲージ理論
- 5-11 寄り道:Bakry–Émery と一リンク積分
- 第 6 部 構成的場の理論
- 6-01 構成的場の理論とは
- 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
- 6-03 スカラー場の構成
- 6-04 クラスター展開
- 6-05 繰り込み群の段の列
- 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
- 6-07 四次元
- 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
- 6-09 確率量子化と正則性構造
- 6-10 四次元で止まる場所
- 6-11 発散以外の障害
- 6-12 寄り道:「1/0 に記号を与えれば」
- 第 7 部 物理の側から
- 7-01 物理はどう見ているか
- 7-02 閉じ込めの機構
- 7-03 弦の絵
- 7-04 大 N
- 7-05 ひも理論と余剰次元
- 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
- 7-07 ゲージ場はどこから来るか
- 7-08 ホログラフィー
- 7-09 質量ギャップが幾何になる
- 7-10 四次元に戻す
- 7-11 超対称と Seiberg–Witten
- 7-12 等価原理に当たる一文
- 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
- 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
- 8-01 辞書の読み方
- 8-02 辞書 A
- 8-03 辞書 B
- 8-04 辞書 C
- 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
- 第 9 部 現在地と課題
- 9-01 世界はどこまで来ているか
- 9-02 二つの掘り方の切れ目
- 9-03 新しい概念の候補
- 9-04 課題の一覧
- 9-05 よくある誤解
- 第 10 部 質量ギャップの証明へ向けて — 階段の一段目を組む
- 10-00 入口 — 階段と、酔歩・物差し・時計
- 10-01 構成の筋と仮定 H
- 10-02 四次元格子で試した道と壁
- 10-03 階段の四段 — なぜ 0+1 次元から始めるか
- 10-04 二重井戸の経路の測度とキンク
- 10-05 一段目の言明 — 四条件と命題 4.5
- 10-06 (H1) 相の中の局所 Poincaré
- 10-07 (H2) の地図 — 七つの道筋と環の継ぎ目
- 10-08 計算機援用とは何か — 窓の中の鎖の条件
- 10-09 区画の枠組みと道筋 5 の三本の筋
- 10-10 迂回策の一覧 — 壊れ方の型
- 10-11 (H3)(H4) と芯の定数
- 10-12 統合表と依存グラフ
- 10-13 Lean の言明と機械検査の限界
- 10-14 突き合わせ — 記録の数と既知の数
- 10-15 残件と費用 — 定理までの距離
- 10-16 主張しないこと
- 10-17 ひらめきと小さな問い
- 第 11 部 今後の考察 — 仮定 H の先と、別の見方
- 11-00 今後の考察 — 入口
- 11-01 H を妨げる一つの形 — ほぼ保存される大域の量
- 11-02 物差しと座標を選び直す — 保存が壊れる長さ
- 11-03 区画の H と局所の H
- 11-04 片側の橋はどの H を要るか
- 11-05 時間を連続にする — Hamiltonian 格子と真空の測度
- 11-06 凸性の代わりに稀さで払う — 群の上の繰り込みと対数 Sobolev
- 11-07 四次元だからこそ — 無次元の結合と位相
- 11-08 問いと、主張しないこと
- 11-A1 第 11 部の記号の対応表
- 付録
- A-01 記号表
- A-02 用語集
- A-03 文献案内
- A-04 Lean と機械検査
- A-05 この本の作り方
- A-06 仮定の索引
第 10 部の入口 — 階段と、酔歩・物差し・時計
この章で分かること — 第 10 部は、仮定 H(揺らぎが均される時間は、相関長の二乗の冪で伸びる)を軸に置いて、質量ギャップへの道を検討する部です。仮定 H は、問題文の量(ユークリッドの時間の隙間)を、格子で計算でき機械検査の届く量(Langevin 力学の緩和の時間)に言い換えた一つの文です。この部では、その文を四段の階段に分けたときの一段目(0+1 次元の二重井戸の経路の測度)で、主張がどこまで組めているかを並べます。この章では、階段の絵と部の地図を見たあと、相関長 ・Poincaré 定数 などの量を、酔歩・物差し・時計の比喩で一つずつ立てます。
前提となる章 — 2-10(緩和の時間と動的指数)・4-11(質量ギャップの定義と相関長)・2-07(経路積分と虚時間)。
先に言うこと — この章は比喩で量を並べる入口で、何も証明しません。仮定 H は証明されていない仮定です。正確な定義は 10-01(四次元格子の側)と 10-04(二重井戸の側)に置きます。
- 部の地図 — 十八章の一覧と、札の読み方
- 階段の四段 — 二重井戸から極限の質量ギャップまで(図 1)
- 物差し — 相関長 ξ — 相関が何歩で消えるか
- にじむ時間 — Poincaré 定数 C_P — 長さ L を均すのに L² 歩(表 3)。寄り道:酔歩はなぜ二乗か
- 縮尺と時計 — 残りの三つの量 — 縮尺の回数・時計の目盛り・遅れる時計
- 仮定 H を一文で — にじむ時間 ≍ 物差し²。「ある f」と「すべての f」
- 第 10 部の歩き方 — 比喩がどの章で正確な文になるか
部の地図 — 十八章の一覧と、札の読み方
この部は、仮定 H(揺らぎが均される時間は相関長の二乗の冪で伸びる)を軸に置いた検討です。H は質量ギャップそのものではなく、それを格子で測れる力学の量に言い換えた文で(10-01 §05)、この部はその文を、四段の階段の一段目——0+1 次元の二重井戸の経路の測度——で組み立てます。一段目の主張を四つの条件に割り、条件ごとに、証明を置いた行・原典を引く行・計算機援用の行・数値の読みの行・仮定の行を一つの表に並べます。
- 10-00 入口 — 階段と、酔歩・物差し・時計 〔二〕(この章)
- 10-01 構成の筋と仮定 H 〔二〕〜〔三〕
- 10-02 四次元格子で試した道と壁 〔三〕
- 10-03 階段の四段 — なぜ 0+1 次元から始めるか 〔二〕
- 10-04 二重井戸の経路の測度とキンク 〔二〕〜〔三〕
- 10-05 一段目の言明 — 四条件と命題 4.5 〔三〕
- 10-06 (H1) 相の中の局所 Poincaré 〔研〕
- 10-07 (H2) の地図 — 七つの道筋と環の継ぎ目 〔三〕
- 10-08 計算機援用とは何か — 窓の中の鎖の条件 〔二〕〜〔三〕
- 10-09 区画の枠組みと道筋 5 の三本の筋 〔研〕
- 10-10 迂回策の一覧 — 壊れ方の型 〔三〕〜〔研〕
- 10-11 (H3)(H4) と芯の定数 〔研〕
- 10-12 統合表と依存グラフ 〔三〕
- 10-13 Lean の言明と機械検査の限界 〔二〕〜〔三〕
- 10-14 突き合わせ — 記録の数と既知の数 〔三〕
- 10-15 残件と費用 — 定理までの距離 〔三〕
- 10-16 主張しないこと 〔二〕
- 10-17 ひらめきと小さな問い 〔二〕〜〔三〕
章の順は、なぜこの仮定か(10-00〜10-02)、一段目の言明(10-03〜10-05)、四つの条件(10-06〜10-11)、全体の表(10-12・10-13)、突き合わせと残り(10-14〜10-17)です。印〔二〕〔三〕〔研〕は読者の水準で、〔二〕は 2 年生、〔三〕は 3 年生以上(測度・作用素・Poincaré 不等式を使う)、〔研〕は研究の水準です。この章は〔二〕です。仮定 H とは別の視点や、H を前提にした新しい見方は 第 11 部 今後の考察 に置きます。
この部の札
この部では、主張の強さを五つの札で分けます(0-01 §03 の札を、この部の材料に合わせて細かくしたものです)。札は一つの文に一つで、二つ要る文は分けて書きます。
| 札 | 意味 | 保証しないこと |
|---|---|---|
| 初 | 初等。証明を本文か章末に置く | 誤りが無いこと(読者が確かめられる形で置く) |
| 典 | 既知の定理を原典(または言明を確かめた二次資料)から引く | この本の成果であること |
| 機 | 計算機援用。区間演算で、不等式として確かめた(丸めの規約などの前提を同じ行に書く) | 計算した範囲の外で成り立つこと |
| 読 | 読み。浮動小数の数値・Monte Carlo・当てはめ。種類(点の値・族の下界など)を添える | 上界や下界の証明であること |
| 仮 | 仮定。証明を持たずに置く行。名前を付ける | 成り立つこと |
Lean は五つの札とは別の欄です。Lean の定理は「仮定から結論への代数」を機械で検査したもので、定理名と、その定理の仮定を同じ行に書きます。仮定が正しいかどうかは検査の外です(10-13)。
階段の四段 — 二重井戸から極限の質量ギャップまで
仮定 H は「ある測度の族で、揺らぎの均される時間が相関長の二乗の冪で伸びる」という文で、次元によらずに述べられます。そこで、同じ形の文を易しい場所から難しい場所へ四段に並べます。
図 1 を文字で書くと次のとおりです。下から順に、一段目=0+1 次元の二重井戸(量子力学の模型の虚時間の経路の測度)、二段目=四次元格子の非可換ゲージ理論(Wilson 測度)、三段目=格子間隔を 0 にした連続極限と、その極限が Osterwalder–Schrader の公理を満たすこと、四段目=極限の理論の質量ギャップです。
| 段 | 対象 | 閉じたと言える形 | この本の状態 |
|---|---|---|---|
| 一段目 | 0+1 次元の二重井戸の経路の測度(径数 ) | 冪の H の上の側( の上界)を、有限個の仮定の行の表つきで示す | 四つの条件 (H1)〜(H4) に割り、その上の代数(命題 4.5)まで。条件はどれも 仮 の行を残す |
| 二段目 | 四次元格子の Wilson 測度(径数 ) | 同じ形の文を で | 仮定 H は仮定のまま。下からの評価だけ(10-02) |
| 三段目 | 格子間隔 の極限の測度 | 極限が在り、OS 公理を満たす | 扱わない(既知の到達点は 6-07・6-10) |
| 四段目 | 再構成した場の量子論 | ハミルトニアンの隙間が正(4-11) | 扱わない |
一段目を閉じても、二段目以後に持ち上がる保証はありません。持ち上がる見込みがあるのは「文の形」と「道具の形」で、定数や径数の範囲は持ち上がりません。理由は 10-03 §06 で両側から述べます。
物差し — 相関長 ξ
揺らぎは、近い場所どうしで似ていて、離れると無関係になります。どれだけ離れると無関係になるかの長さが相関長 です。比喩で言えば、測度が持っている一本の物差しです。
式では、二点の相関(平均を引いた積の期待値)が距離 とともに指数で減り、その減り方の長さが です。
は転送行列(または転送作用素)の隙間、つまり最も低い固有値と次の固有値の差で、 は虚時間の向きの距離です。相関の減り方と隙間が同じ量であることは 4-11 §02、相関長としての言い直しは 4-11 §07 にあります 典。
例 1(自由場)。一次元の格子の自由場(隣どうしをばねで結んだガウスの鎖、質量 )では、相関がちょうど で減り、 で が決まります。 で 、 で です(8-03 §05)。
例 2(二重井戸)。量子力学の二重井戸(2-05 §07)では、隙間は二つの谷の間のすり抜けで決まるトンネル分裂 で、山が高いほど指数で小さくなります。虚時間の経路で見ると、相関長は で、 を小さくすると の速さで伸びます( は谷から谷へ移る道の作用)。物差しが指数で伸びる、というこの性質が、一段目の模型を選ぶ理由の一つです(10-03 §04・10-04 §03)。
格子の上で測れる は、格子の一目盛りを単位にした数です(5-09 §01)。物理の長さは に格子間隔 を掛けた で、連続極限では のまま が有限に残らなければなりません。つまり格子単位の は無限大へ伸びる必要があります(5-09 §05)。二重井戸の は、この「物差しが目盛りに比べて無限に長くなる」体制の最小の見本です。
にじむ時間 — Poincaré 定数 C_P
紙の上に一滴のインクを落とすと、インクは少しずつにじんで広がり、最後は一様に薄くなります。にじみの正体は、インクの粒の酔歩です。各粒は毎刻み左右どちらかにでたらめに一歩動きます。 歩のあとの粒の広がり(二乗平均の距離)は で、長さ の帯を一様にするには 程度の歩数がかかります。
この「均し終わるまでの最も長い時間」を、揺らぎについて一般に定めたものが Poincaré 定数 です。比喩で言えば、測度が持っている一個の時計の読み、にじむ時間です。
式で書きます。確率の測度 と、関数 の「場所による変化の大きさ」(Dirichlet 形)があるとき、
の最良の定数が です(1-10 §07)。分散が大きいのに変化が小さい関数、つまり「大きくゆっくり変わる揺らぎ」があると は大きくなります。 を平衡に持つ拡散の力学(Langevin 力学)では、 がその力学の隙間で、最も遅い揺らぎは時間 ごとに に減ります 典。
例:一本道の酔歩
升が 個並んだ一本道(両端で跳ね返る)を考えます。 は一様分布、 です。このとき (2) の は道のラプラス行列の 0 の次の固有値の逆数で、閉じた形に書けます。
初 証明:()は、両端で跳ね返る道のラプラス行列の固有ベクトルで、固有値は です(隣の二項の和に を使い、両端では ・ となる鏡の条件が成り立つことを確かめる)。他の固有ベクトルは ()で、固有値は とともに増えます。 が一様なので と は同じ で割られ、比の上限は 0 の次の固有値の逆数です。∎
| 隙間 | |||
|---|---|---|---|
| 16 | 0.0384294 | 26.02 | 0.10165 |
| 32 | 0.00963055 | 103.8 | 0.10140 |
| 64 | 0.00240909 | 415.1 | 0.10134 |
| 256 | 0.000150596 | 6640 | 0.10132 |
を倍にすると、均し終わるまでの時間は 4 倍になります。
この部で使う は、この一本道を「経路全体の配位の空間」に置き換えたものです。二重井戸では、虚時間の経路 の全体の上の測度 が 、 は経路を少し動かしたときの変化の二乗の期待値で、Langevin 力学は「人工的な時間」 に沿って経路全体を拡散させます(10-04 §01)。四次元格子では が Wilson 測度、動かすのはリンクの角度です(10-01・6-09)。
自由場では、いちばん遅い揺らぎは経路全体を一様にずらす向きで、その速さが質量の二乗 です。だから で、例 1 の から は で 0.921・0.995・0.9997・0.999999 と 1 に寄ります 初(閉じた式の値)。にじむ時間が物差しの二乗、というのが自由場の答えです。
正確には、ここで言う は「時空(0+1 次元なら虚時間)の全体の配位の分布(経路の測度)」の Poincaré 定数です。一つの時刻の分布(基底状態の )の Poincaré 定数は別の量で、そちらはハミルトニアンの隙間と結び付きます。三つの の区別は 10-01 に置きます。 が の何乗で伸びるかの冪 (動的指数)が 2 からずれる既知の例は 2-10 にあります。
寄り道:酔歩はなぜ二乗か
飛ばしてよい小節です。一歩 を独立に 回足した位置 は、平均 0 で、分散は一歩の分散 1 の 倍です。独立なものの和では分散が足し算になるからです(1-08)。
広がりは なので、距離 に届くには です。波は一刻みで一歩進みますが、酔歩は行きつ戻りつするので、遠くへ届くのが二乗で遅れます。仮定 H の「二乗」は、この酔歩の二乗です。
縮尺と時計 — 残りの三つの量
物差し とにじむ時間 のほかに、四次元格子の記録で使ってきた量が三つあります。一段目(二重井戸)では主役になりませんが、仮定 H を「冪の文」に置く理由がここにあるので、比喩だけを並べます。
③ 縮尺の回数。四次元の格子ヤン–ミルズで を結合 の関数として式で求める手はありません。そこで地図の縮尺を一段ずつ粗くし、何回で決まった粗さの絵に着くかを数える長さ を別に作ります。一ループの勘定では を少し上げるだけで は指数で伸びます(4-07)。 と が定数倍で揃うことは仮定です。定義と表は 10-01 と 10-02 に移しました。
④ 時計の目盛り。(2) の は、 をどの単位で測るかで値が変わります。 を 倍すると は 倍です。二重井戸でも同じことが起きます。経路を正準の場 で測る と、位置 のまま測る では、 です 初 LeanratioR_x_normalisation(仮定なし。 なら比も 倍)。目盛りの違いは「定数倍の幅」には映りますが、 の冪の因子は に比べて小さいので「冪」には映りません。
⑤ 遅れる時計。Langevin の時間そのものが、尺度を変えると伸び縮みします。確率量子化の摂動論では、確率時間の目盛りも繰り込む必要があります(6-09)典(摂動論の水準)。四次元格子での影響は の端数の冪の因子で、これも冪には映りません。四つの時計の比べ方は 10-01 の寄り道に置きます。
正確には、③〜⑤ は「定数倍の幅」で言う文(帯の文)を動かし、「冪」で言う文を動かしません。だからこの部の仮定 H は冪の文です。
仮定 H を一文で — にじむ時間 ≍ 物差し²
量がそろったので、仮定 H を比喩で一文にします。「にじむ時間は、物差しの二乗と同じ冪で伸びる」。測度の族が一つの径数で並び、径数を動かすと物差しが無限に伸びるとき、
です。四次元格子では径数は で 、二重井戸では径数は で です。自由場では §04 のとおり で成り立ちます。相互作用のある四次元格子で成り立つかが問いで、それより易しい二重井戸で上の側を組むのが一段目です。
二重井戸では、(5) より強い「定数倍の幅」の文()は破れる側にあると読まれています。経路の の下界が の 1 倍から 6.5 倍へ、 を下げるとともに伸びるからです 読(族の下界・刻み ・、10-04 §04)。伸び方は、キンクを数える物理の水準の勘定では の一次です(この範囲の数値だけでは、指数の伸びと区別できません)。一次なら冪の文 (5) は保たれます。だから一段目の目標は帯の文でなく、冪の文の上の側 です(10-03 §05)。
「ある f」と「すべての f」
(2) の は上限なので、下から押さえるのと上から押さえるのとでは難しさが違います。下から押さえる( が大きい)には、 が大きい試験関数を一つ見せれば足ります。上から押さえる( が大きすぎない)には、すべての について不等式を示す必要があります。
比喩で言えば、にじみが遅いことは一つのしみを見せれば言えますが、遅すぎないことはあらゆるしみについて言わなければなりません。質量ギャップの側にあるのは上の側( が大きすぎない)で、試験関数や数値で届くのは下の側だけです。上の側を質量の下界に読み替える代数と、上下の半分 H↑・H↓ の定義は 10-01 に置きます。
正確には、二重井戸の下界 は、時刻に局所な試験関数(一つの時刻の関数を時間で足したもの)の族で等号まで届く、という形の命題です(10-04 §04 の命題 L)。上の側には、一段目でも条件つきの命題しかありません。
第 10 部の歩き方 — 比喩がどの章で正確な文になるか
この章の比喩は、第 10 部のどこかで一度ずつ正確な文に置き換わります。表 4 は比喩・記号・正確にする章の対応です。
| 比喩 | 記号 | 正確な定義・文 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 階段 | 四段 | 10-03 | この部の組み立て方の約束 |
| 物差し | (二重井戸は ) | 4-11 §07・10-04 §02 | 典 定義 |
| にじむ時間 | (経路の測度) | 10-01・10-04 §01 | 典 定義。四次元格子での値は不明 |
| 縮尺の回数 | 10-01・10-02 | 約束( と揃うことは 仮) | |
| 時計の目盛り・遅れる時計 | の正規化・確率時間 | 10-01 | 約束・摂動論の水準 |
| にじむ時間 ≍ 物差し² | 仮定 H(冪の文) | 10-01・10-03 §05 | 仮 |
| 一段目の上の側 | (命題 4.5) | 10-05 | 四条件の上の代数。条件は 仮 の行を残す |
筋を先に追うなら 10-03 → 10-04 → 10-05 → 10-12(統合表)→ 10-15(定理までの距離)、四次元格子との関係を先に見るなら 10-01 → 10-02、主張しないことを先に見るなら 10-16 が近道です。Lean の言明と仮定は 10-13、Lean の読み方は Lean の案内 にあります。
この章が言えている範囲
| 言えている | 言えていない |
|---|---|
| 典 相関長と隙間が同じ量であること((1))、Poincaré 定数の定義と、拡散の力学の隙間がその逆数であること((2)) | 四次元の格子ヤン–ミルズで が で発散すること、 の値 |
| 初 一本道の酔歩の の閉じた形 (3)、一次元の自由場で 、酔歩の二乗平均の距離 ((4)) | 相互作用のある模型で同じ比が冪で揃うこと(仮定 H) |
初 正規化を 倍すると も 倍になること(④)LeanratioR_x_normalisation | 四次元格子の記帳の長さ と相関長 が定数倍で揃うこと |
| 読 二重井戸の経路の の下界が の 1 倍から 6.5 倍へ伸びること(族の下界・・) | 二重井戸の の上界。一段目の上の側は四条件の上の条件つき(10-05) |
| 階段の四段という組み立て方(約束) | 一段目から二段目以後への含意。四段目(極限での質量ギャップ)について、この章は何も示さない |
出典と再現
| もの | 種別 | 出典・道具 |
|---|---|---|
| 相関長と隙間・虚時間の相関 | 典 | 4-11 の出典表。 |
| Poincaré 定数・拡散の隙間 | 典 | 1-10 の出典表。 |
| 一本道の酔歩の ((3)・表 3) | 初 | 本文 §04 の証明。表の値は (3) の閉じた式の値。 |
| 二重井戸のトンネル分裂と | 典 | 2-05 §07 の (9)(10) と出典表。 |
| 経路の の下界の読み(§06) | 読 | 10-04 §04 と、その出典表。 |
| 正規化の読み替え(④) | 初・Lean | 定理 ratioR_x_normalisation(仮定なし)。言明は 10-13。 |
| 記帳の長さ・確率時間の繰り込み | 約束・典(摂動論) | 4-06・4-07・6-09 の出典表。詳しい式は 10-01。 |
| 図 1(階段) | 約束 | この部の組み立て方を描いた模式図。 |
この章で使った語 — 相関長・Poincaré 定数・Dirichlet 形・経路の測度・階段(四段)・仮定 H(冪の文)・五つの札(初・典・機・読・仮)・トンネル分裂。意味は A-02 用語集 にあります。
次に読む章:10-01 構成の筋と仮定 H — 問題を八つの言明に割り、仮定 H と上下の半分を定義する。一段目へ直接進むなら 10-03 階段の四段。
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