computo ergo sum

2026-10-09 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 10 部 質量ギャップの証明へ向けて — 階段の一段目を組む構成の筋・仮定 H・片側の橋 · Kiichi, Shiori and Rin

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道:四次元でだけ起きること
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道:イジング模型で見るギャップと相関長
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道:Donaldson とエキゾチック R⁴
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道:摂動級数は発散する
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道:Bakry–Émery と一リンク積分
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道:「1/0 に記号を与えれば」
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 第 9 部 現在地と課題
  97. 9-01 世界はどこまで来ているか
  98. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  99. 9-03 新しい概念の候補
  100. 9-04 課題の一覧
  101. 9-05 よくある誤解
  102. 第 10 部 質量ギャップの証明へ向けて — 階段の一段目を組む
  103. 10-00 入口 — 階段と、酔歩・物差し・時計
  104. 10-01 構成の筋と仮定 H
  105. 10-02 四次元格子で試した道と壁
  106. 10-03 階段の四段 — なぜ 0+1 次元から始めるか
  107. 10-04 二重井戸の経路の測度とキンク
  108. 10-05 一段目の言明 — 四条件と命題 4.5
  109. 10-06 (H1) 相の中の局所 Poincaré
  110. 10-07 (H2) の地図 — 七つの道筋と環の継ぎ目
  111. 10-08 計算機援用とは何か — 窓の中の鎖の条件
  112. 10-09 区画の枠組みと道筋 5 の三本の筋
  113. 10-10 迂回策の一覧 — 壊れ方の型
  114. 10-11 (H3)(H4) と芯の定数
  115. 10-12 統合表と依存グラフ
  116. 10-13 Lean の言明と機械検査の限界
  117. 10-14 突き合わせ — 記録の数と既知の数
  118. 10-15 残件と費用 — 定理までの距離
  119. 10-16 主張しないこと
  120. 10-17 ひらめきと小さな問い
  121. 第 11 部 今後の考察 — 仮定 H の先と、別の見方
  122. 11-00 今後の考察 — 入口
  123. 11-01 H を妨げる一つの形 — ほぼ保存される大域の量
  124. 11-02 物差しと座標を選び直す — 保存が壊れる長さ
  125. 11-03 区画の H と局所の H
  126. 11-04 片側の橋はどの H を要るか
  127. 11-05 時間を連続にする — Hamiltonian 格子と真空の測度
  128. 11-06 凸性の代わりに稀さで払う — 群の上の繰り込みと対数 Sobolev
  129. 11-07 四次元だからこそ — 無次元の結合と位相
  130. 11-08 問いと、主張しないこと
  131. 11-A1 第 11 部の記号の対応表
  132. 付録
  133. A-01 記号表
  134. A-02 用語集
  135. A-03 文献案内
  136. A-04 Lean と機械検査
  137. A-05 この本の作り方
  138. A-06 仮定の索引

構成の筋と仮定 H — 八つの言明、格子版の質量ギャップの向き、仮定 H の六段

この章で分かること — クレイの問題を「格子 → 無限体積 → 連続極限 → OS 公理 → 質量ギャップ」の一本の筋に並べ、八つの言明 (S1)〜(S8) に割ります。格子の上の質量ギャップは「格子単位の隙間が一様に正」ではなく「物理単位の隙間が正に残る」ことです。この部の軸である仮定 H(揺らぎが均される時間 CPC_P は相関長の二乗と同じ冪で伸びる)を、何を測りたいか・なぜ力学の量に言い換えるか・言明(帯の文 → 冪の文 → 上下の半分 H↑・H↓)・H が与えるもの・与えないもの・類例の六段で、各段に手で確かめられる例を添えて説明します。時間を連続に取った格子では片側の橋 CP≥κξ2C_P\ge\kappa\xi^2 が示せ、H↑ と合わせると格子の物理単位の隙間の下界が出ます。逆向きは一般には成り立たず、橋の仮定のもとで、H↑ は格子の物理単位の質量ギャップより強い文です。

前提となる章 — 0-03(問題文)・5-09(何を固定して極限を取るか)・4-11(隙間と相関長)・1-10(Poincaré 定数)・10-00(五つの量と五分類の札)。

先に言うこと — この章は問題を解きません。四次元で手にあるのは (S2)・(S7) の定理と、小さい β\beta の (S1) だけです。仮定 H・H↑・H↓・三つの鎖はどれも仮定です。片側の橋(命題 B)は時間を連続に取った有限の空間格子での命題で、時間を刻む Wilson 測度と無限体積へは仮定の行が残ります。Lean で検査したのは、仮定から結論への代数だけです。

この章の順序
  1. この章の約束 — 記号と、物差しの単位
  2. 問題から構成の筋へ — 八つの言明(表 1)とそのつながり
  3. 格子版の質量ギャップの向き — 一様な格子の隙間は反対側(表 2)
  4. Poincaré 定数で言い直す — 三つの CPC_P(表 3)と自由場(表 4)
  5. 仮定 H — (1) 何を測りたいか・(2) なぜ言い換えるか・(3) 帯の文、冪の文、上下の半分(表 5)
  6. H が与えるもの・与えないもの — (4) 片側の橋(命題 B・表 6)・(5) 逆向きの反例(命題 C)と強結合の側(表 7)・(6) 類例・分類と依存グラフ(表 8)
  7. 寄り道:縮尺の回数と四つの時計 — 冪に映らない対数(表 9・表 10)
  8. 筋のうち手にあるもの — 10-02・10-03 へ

01

この章の約束 — 記号と、物差しの単位

この章は四次元の格子の側の話です。群は SU(2)SU(2)、Wilson 作用は SW=β∑P(1−12tr⁡UP)S_W=\beta\sum_P(1-\tfrac12\operatorname{tr}U_P)(5-01)、β=4/g2\beta=4/g^2 は結合の逆数で、逆温度ではありません。量はすべて格子単位(格子間隔が 1)で数えます。

mlat(β)m_{\rm lat}(\beta) は転送行列のゲージ不変な状態の上の隙間(格子単位の質量)、ξ=1/mlat\xi=1/m_{\rm lat} は相関長、a(β)a(\beta) は格子間隔を物理の単位で測った値です。物理単位の質量は

ξ=1mlat,Δ(β)=mlat(β)a(β)(1)\xi=\frac1{m_{\rm lat}},\qquad \Delta(\beta)=\frac{m_{\rm lat}(\beta)}{a(\beta)} \tag{1}

です。a(β)a(\beta) の決め方は一つではありません。弦張力 σ\sigma を物理の単位に取れば aσa\sqrt\sigma が格子間隔で、この部の四次元の記録では、格子を粗くする段を数えて決めた長さ ξRG\xi_{\rm RG} の逆数を aa に置きます(§07)。どちらを取るかは三つの鎖 (ii)(iii)(§05)の仮定の中に入ります。

例。β=2.60\beta=2.60 で mlat=0.514m_{\rm lat}=0.514(Lucini–Teper の Monte Carlo の値)なら ξ=1.95\xi=1.95 格子間隔です 読。Δ\Delta はこれを aa で割ったときにだけ決まる量で、格子の上の数だけでは決まりません(5-09)。

02

問題から構成の筋へ — 八つの言明

問題文(0-03)は、R4\mathbb R^4 の上の非自明な量子ヤン–ミルズ理論が在ること、そしてその理論に質量ギャップ Δ>0\Delta>0 があることを求めます。格子から入る道では、これを一本の筋に並べます。

① 格子有限の箱の Wilson 測度各 β\beta・各体積で確率測度
② 無限体積箱を無限に(S1)・(S2)
③ 連続極限β→∞\beta\to\infty(a→0a\to0)(S3)・(S6)
④ OS 公理Hilbert 空間とハミルトニアン(S7)・(S8)
⑤ 質量ギャップ物理単位の隙間が正(S4)

各 β\beta の測度で先に体積を無限にし、次に β→∞\beta\to\infty とする順です(Chatterjee 2018 の順。有限の箱で先に a→0a\to0 とする順もある、9-04)。筋の各段を言明にしたのが表 1 で、問題文の要求は次の見取り図になります。

問題文の要求 ⟸ (S1)∧(S2)∧(S3)∧(S4)∧(S6)∧(S7)∧(S8)(2)\text{問題文の要求}\ \Longleftarrow\ \mathrm{(S1)}\wedge\mathrm{(S2)}\wedge\mathrm{(S3)}\wedge\mathrm{(S4)}\wedge\mathrm{(S6)}\wedge\mathrm{(S7)}\wedge\mathrm{(S8)} \tag{2}

(2) は見取り図で、定理ではありません。(S5) は (2) に入らない、(S4) の言い直しです(§04)。

表 1 八つの言明と四次元での現状
言明中身四次元での現状章
(S1) 無限体積各 β\beta で体積無限の極限測度が一つに決まる典 極限点はコンパクト性から在る。小さい β\beta で極限の存在(Osterwalder–Seiler 1978)と一意性(Shen–Zhu–Zhu 2023)。大きい β\beta では 'in general unknown'(Chatterjee §3)5-04
(S2) 反射正値性正の自己共役な転送作用素。弱極限で保たれる典 Osterwalder–Seiler 1978・Lüscher 19775-03
(S3) Wilson ループa→0a\to0 で繰り込んだ Wilson ループが自明でない極限を持つ未解決(Chatterjee の Problem 5.2)5-09・6-07
(S4) 物理の隙間Δ(β)→Δ∞∈(0,∞)\Delta(\beta)\to\Delta_\infty\in(0,\infty)未解決(格子の半分が Problem 5.1)4-11・5-09
(S5) 揺らぎの遅さa2CP≍1a^2C_P\asymp1仮 この部の定式化。証明は無い§04・§05
(S6) 回転の回復極限で R4\mathbb R^4 の回転と並進の不変性が戻る未解決(二次元では示されている)9-04
(S7) OS 再構成公理から Hilbert 空間とハミルトニアンを作る典 定理(Osterwalder–Schrader)。極限が公理を満たすことが残る4-10
(S8) 非自明性極限がガウスでなく、短距離で漸近自由の予言と合う未解決。格子で切った四次元の ϕ4\phi^4 は極限がガウス 典0-03・6-08

八つは独立ではありません。「元が先の前提になる」矢印で書くと次のとおりです(この本の整理。Hband\mathrm H_{\rm band} の付いた矢印は、§05 の帯の文の下でだけ)。

(S1)→(S3)→(S6), (S8);(S1),(S2)→(S4)← Hband (S5);(S2),(S6)→(S7)(3)\mathrm{(S1)}\to\mathrm{(S3)}\to\mathrm{(S6)},\,\mathrm{(S8)};\qquad \mathrm{(S1)},\mathrm{(S2)}\to\mathrm{(S4)}\xleftarrow{\ \mathrm H_{\rm band}\ }\mathrm{(S5)};\qquad \mathrm{(S2)},\mathrm{(S6)}\to\mathrm{(S7)} \tag{3}

四次元で手にあるのは (S2) と (S7) です。「極限さえ取れれば残りは自動」と言いたくなりますが、問題文の脚注は、コンパクト性だけによる弱い存在を、極限の性質('such as the existence of a mass gap and the axioms')を別に示さない限り解と認めません(Jaffe–Witten)典。

μβj→μ  (部分列)⏟コンパクト性だけ ⟹ (S2) は残る ;  (S4)⋅(S6)⋅(S8) については何も言えない(4)\underbrace{\mu_{\beta_j}\to\mu\ \ (\text{部分列})}_{\text{コンパクト性だけ}}\ \Longrightarrow\ \mathrm{(S2)}\ \text{は残る}\,;\ \ \mathrm{(S4)}\cdot\mathrm{(S6)}\cdot\mathrm{(S8)}\ \text{については何も言えない} \tag{4}

例。(S4) に入る矢印は三本で、(S5) からの一本だけが帯の文の下の矢印です。(S3) に入るのが (S1) からだけなのは、体積を先に無限にする順だからです。

03

格子版の質量ギャップの向き — 一様な格子の隙間は反対側

格子の上の「質量ギャップ」を「格子単位の隙間 mlat(β)m_{\rm lat}(\beta) がすべての β\beta で一定値以上」と読むと、連続極限では反対の意味になります。(1) のとおり、物理単位の質量は格子単位の質量を格子間隔で割ったものだからです。

inf⁡βmlat(β)≥c>0 ⟹ Δ(β)≥ca(β)→∞(a→0)(5)\inf_\beta m_{\rm lat}(\beta)\ge c>0\ \Longrightarrow\ \Delta(\beta)\ge\frac{c}{a(\beta)}\to\infty\qquad(a\to0) \tag{5}

初 (1) を a(β)a(\beta) で割るだけです。比喩で言えば、定規の目盛りを細かくしていっても測る物がいつも目盛り数個分なら、物の実際の長さは 0 に縮みます。正確には、(5) の下では ξ\xi が有界で、物理単位の相関長 aξa\xi が 0 に向かいます。(S4) が求めるのは反対に、mlatm_{\rm lat} が aa と同じ速さで 0 に向かうことです。

(S4):mlat(β)∼Δ∞ a(β),特に  ξ(β)→∞(β→∞)(6)\mathrm{(S4)}:\quad m_{\rm lat}(\beta)\sim\Delta_\infty\,a(\beta),\qquad\text{特に}\ \ \xi(\beta)\to\infty\quad(\beta\to\infty) \tag{6}

この向きは Chatterjee(2018)の Problem 5.1 そのものです:'Show that for any β > 0, there exists some ξ(β) ∈ (0, ∞) such that … Moreover, prove that limβ→∞ ξ(β) = ∞.' 典 尺度の決め方は 5-09 にあります。

例。表 2 は弦張力 σ\sigma を物理の単位にし、aσa\sqrt\sigma を格子間隔とみなしたものです。β=2.25→2.60\beta=2.25\to2.60 で aa は 3.16 分の 1、mlatm_{\rm lat} は 2.70 分の 1 になり、Δ/σ\Delta/\sqrt\sigma は 3.3〜3.8 にとどまります。最後の列は mlatm_{\rm lat} が β=2.25\beta=2.25 の値で止まった場合で、aa に反比例して増えます。

読表 2 Lucini–Teper(2001)表 1 の Monte Carlo の値(SU(2)SU(2)・格子 848^4〜24424^4)と、その比(誤差は独立として伝播)
β\betaaσa\sqrt\sigmamlatm_{\rm lat}Δ/σ\Delta/\sqrt\sigmamlatm_{\rm lat} を止めた場合
2.250.4231(25)1.390(30)3.285(74)3.29
2.300.3108(17)1.090(33)3.507(108)4.47
2.400.2634(14)0.953(19)3.618(75)5.28
2.4750.2016(13)0.754(10)3.740(55)6.89
2.550.15896(63)0.586(10)3.686(65)8.74
2.600.13395(62)0.514(8)3.837(62)10.38

Δ/σ\Delta/\sqrt\sigma はおおむね増えて、原典の外挿値 3.844(61) に下から近づきます(β=2.475→2.55\beta=2.475\to2.55 で一度、誤差の内で下がる)読。窓は ξ≲2\xi\lesssim2 格子間隔で、極限が在ることの証拠ではありません(9-05)。

04

Poincaré 定数で言い直す — (S5) と三つの CPC_P

(S4) を、格子の測度 μβ\mu_\beta の Poincaré 定数 CPC_P で言い直します。観測量の分散を、リンクの動きへの敏感さ(Dirichlet 形 E\mathcal E)で割った比の上限で、リンクを揺すりながら作用の低い向きへ動かす Langevin 力学の、最も遅い揺らぎが均される時間です(1-10・10-00 §04)。

CP=sup⁡fVar⁡μβ(f)E(f),E(f)=Eμβ[∑ℓ∣∇ℓf∣2],(S5): a(β)2 CP(β)≍1(7)C_P=\sup_{f}\frac{\operatorname{Var}_{\mu_\beta}(f)}{\mathcal E(f)},\quad \mathcal E(f)=\mathbb E_{\mu_\beta}\Big[\sum_\ell|\nabla_\ell f|^2\Big],\qquad \mathrm{(S5)}:\ a(\beta)^2\,C_P(\beta)\asymp1 \tag{7}

∇ℓ\nabla_\ell はリンク ℓ\ell の向きの微分(リンクの角度で測る)、A≍BA\asymp B は比が β\beta に依らない正の定数で上下から押さえられることです。Langevin の時間は長さの二乗の次元を持つので(拡散)、a2CPa^2C_P は最も遅い緩和を物理の単位で測った値で、(S5) はそれが 0 にも無限大にも行かないと言います。

同じ記号 CPC_P で三つの量が呼ばれるので区別します(表 3)。この部の CPC_P は (β)、経路の測度(時空のすべてのリンクの分布)の Poincaré 定数です。

表 3 三つの CPC_P(自由場の列は質量 mm・時間を連続に取った場合)
測度結び付く量自由場
(α)一つの時刻の真空の分布 ∣ψ0∣2|\psi_0|^2ハミルトニアンの隙間 Δ=1/(2CP(α))\Delta=1/(2C_P^{(\alpha)}) 典(基底状態変換、2-05・1-10)1/(2m)1/(2m)
(β)時空のすべての場の分布(経路)Langevin の隙間 λ1=1/CP\lambda_1=1/C_P。mm とは鎖 (i) を介してだけ1/m21/m^2
(γ)(β) と同じ測度E\mathcal E の目盛り。E\mathcal E を cc 倍すると CPC_P は 1/c1/c 倍角度で CP(ϑ)=g24ξ2C_P^{(\vartheta)}=\tfrac{g^2}{4}\xi^2、場で CP(A)=ξ2C_P^{(A)}=\xi^2

自由場では CP(β)=4 (CP(α))2C_P^{(\beta)}=4\,(C_P^{(\alpha)})^2 です 初(表 3 の自由場の列を二乗するだけ。格子間隔 1 の時間の格子では右辺に 1+m2/41+m^2/4 が掛かる)。仮定 H は (β) についての文なので、「経路の CPC_P と真空の CPC_P の二乗が揃う」と読み替えられます。ただしゲージ理論では一つの時刻の測度はゲージ軌道の空間の上にあり、この読み替えは自由場の形からの類推です。

自由場(場の変数で測る目盛り)では、CPC_P は共分散 (−Δlat+mlat2)−1(-\Delta_{\rm lat}+m_{\rm lat}^2)^{-1} の最大固有値です(1-10)典。

CP=1mlat2⟹a2CP=1Δ2(8)C_P=\frac1{m_{\rm lat}^2}\quad\Longrightarrow\quad a^2C_P=\frac1{\Delta^2} \tag{8}

自由場では (S4) と (S5) が同じことになり、一様な格子の隙間 mlat≥cm_{\rm lat}\ge c は CP≤1/c2C_P\le1/c^2、つまり a2CP→0a^2C_P\to0 の側です。表 4 は Δ=1\Delta=1 を止めて aa を小さくした例です。

初表 4 四次元の格子の自由場(CP=1/mlat2C_P=1/m_{\rm lat}^2、ξ\xi は mlat2=2(cosh⁡(1/ξ)−1)m_{\rm lat}^2=2(\cosh(1/\xi)-1) から。閉じた式の値)
aamlatm_{\rm lat}CPC_Pξ\xia2CPa^2C_Paξa\xi
1111.039011.0390
1/40.25164.010411.0026
1/160.062525616.00311.0002
2−k2^{-k}1(止める)11.03904−k4^{-k}1.039⋅2−k1.039\cdot2^{-k}

aa を半分にするごとに CPC_P は 4 倍、ξ\xi は 2 倍になり、a2CP=1a^2C_P=1、aξ→1a\xi\to1 です。格子単位の質量を 1 に止めると CP=1C_P=1 のまま Δ=2k\Delta=2^k が発散します。相互作用のある理論で CPC_P と ξ2\xi^2 が同じ冪で大きくなるかが次の節の仮定 H です。

寄り道:二つの時間

寄り道

飛ばしてよい小節です。自由場で転送行列(ユークリッドの時間)の隙間は ≈mlat\approx m_{\rm lat}、Langevin 力学(「第五の時間」)の隙間 1/CP1/C_P は mlat2m_{\rm lat}^2 です。比喩で言えば波が届く距離とインクがにじむ時間の違いで、正確には Langevin 力学が拡散で、長さ ξ\xi を均すのに ξ2\xi^2 程度かかるからです(8-03・10-00 の寄り道)。

05

仮定 H — 何を測りたいか、なぜ言い換えるか、何を言うか

仮定 H は、一文で言えば「揺らぎが均される時間は、相関長の二乗と同じ冪で伸びる」という文です。この節と次の節で、この一文を六つの段に分けて説明します。(1) 何を測りたいか、(2) なぜ力学の量に言い換えるか、(3) 言明を段を踏んで、(4) H が与えるもの、(5) H が与えないもの、(6) 類例。各段に、手で確かめられる小さな例を置きます。

この部での位置づけ。仮定 H は、質量ギャップの問題に取り掛かるために選んだ一つの言い換えです。質量ギャップへの唯一の道でも、正しいと決まった道でもありません。H と別の視点や、H を前提にした新しい考え方は 第 11 部 で扱います。

この部で H を軸に置く理由。問題文が求める量は、ユークリッドの時間の向きの隙間(転送行列の隙間を物理の単位で測ったもの)です。H はこれを、格子の測度だけで定まり、「すべての ff」の不等式を局所の部品から組み立てる道具がそろい、組み立ての代数を機械で検査できる量——Langevin 力学の緩和の時間 CPC_P と相関長の冪——に置き換えます。§06 で見るとおり、この置き換えは片側の橋を通って質量ギャップの側へ戻ることができ、しかも片側の橋の仮定のもとで、H の上の半分 H↑ は、格子の上の物理単位の隙間が正に残ることより強い文です。より強い文を、道具の多い言葉で言う。この取引がこの部の立脚点で、第 10 部の章はすべて H を軸に組み立てています。H を取っ掛かりとした検討、というこの部の題はこの意味です。

(1) 何を測りたいか — 物差しと、にじむ時間

問題文の要求のうち格子で述べられる部分は、(6) の「物理単位の隙間 Δ=mlat/a\Delta=m_{\rm lat}/a が β→∞\beta\to\infty で正に残る」ことです。格子の上で見ると、二つのことが同時に起きなければなりません。物差し ξ=1/mlat\xi=1/m_{\rm lat} が格子の目盛りに比べて無限に伸びること、そしてその伸び方が格子間隔の逆数と揃うこと(aξa\xi が 0 にも無限大にも行かない)です。10-00 §05 の五つの量で言えば、問題文は ① と ③ の関係を問う文です。

① 物差し相関長 ξ=1/mlat\xi=1/m_{\rm lat}ユークリッドの時間の隙間の逆数
② にじむ時間Poincaré 定数 CPC_PLangevin 力学の隙間の逆数
③ 縮尺の回数記帳の長さ ξRG=1/a\xi_{\rm RG}=1/a格子間隔の逆数(§07)
④ 時計の目盛りE\mathcal E の正規化表 3 の (γ)
⑤ 遅れる時計確率時間の繰り込み§07 の寄り道

仮定 H は、この問いに ② を持ち込みます。測度の中で最も遅い揺らぎが均される時間 CPC_P は拡散の時間なので、長さ ξ\xi を均すには ξ2\xi^2 程度かかるはずです(10-00 の寄り道)。そこで「② は ① の二乗と釣り合う」を一つの文にし、① と ③ の関係を ② を通して述べる。これが H の発想です。

例 1(一本道の酔歩を手で数える)。10-00 §04 の一本道(升が LL 個・両端で跳ね返る・一様分布・E(f)=1L∑i(fi+1−fi)2\mathcal E(f)=\frac1L\sum_i(f_{i+1}-f_i)^2)では、物差しに当たるのは道の長さ LL です。L=2L=2 では f=(1,−1)f=(1,-1) が最も遅い揺らぎで、Var⁡(f)=1\operatorname{Var}(f)=1、E(f)=12⋅22=2\mathcal E(f)=\tfrac12\cdot2^2=2、比は 12\tfrac12 です。L=3L=3 では f=(1,0,−1)f=(1,0,-1) で Var⁡(f)=23\operatorname{Var}(f)=\tfrac23、E(f)=13(1+1)=23\mathcal E(f)=\tfrac13(1+1)=\tfrac23、比は 11 です。どちらも 10-00 の (3) の CP(L)=1/(2(1−cos⁡(π/L)))C_P(L)=1/(2(1-\cos(\pi/L))) の値と一致し、L=4L=4 では 1/(2−2)≈1.7071/(2-\sqrt2)\approx1.707 です 初。LL を倍にすると CPC_P はおよそ 4 倍になり、大きな LL では CP≈L2/π2C_P\approx L^2/\pi^2 です(10-00 の表 3)。「にじむ時間は物差しの二乗」を、いちばん小さな道で確かめたことになります。

正確には、一本道の LL は外から与えた長さで、測度が自分で持つ物差し(相関長)ではありません。両者が一致する最も簡単な例は自由場で、CP=1/m02C_P=1/m_0^2 と m02=2(cosh⁡(1/ξ)−1)m_0^2=2(\cosh(1/\xi)-1) から CP/ξ2→1C_P/\xi^2\to1 です(10-00 §04、本章の表 4)。相互作用のある測度で ② と ① がどう釣り合うかが、H の問いです。

(2) なぜ力学の量に言い換えるか — 測れる・道具がある・検査が届く

物差しの側の量 mlatm_{\rm lat} は転送行列の隙間で、ゲージ不変な状態の Hilbert 空間の上の作用素の量です。試しの状態を一つ置けば mlatm_{\rm lat} の上界(ξ\xi の下界)は出ますが、下界にはすべての状態が要ります。CPC_P の上界にも「すべての ff」が要るので、難しさは同じ向きに残ります。それでも言い換える理由は三つあります。

(a) 格子の測度だけで測れる。CPC_P は (7) のとおり、分散と Dirichlet 形という μβ\mu_\beta の期待値だけで定まります。Hilbert 空間や再構成を経ずに、測度から直接定義でき、試験関数一つで下界が出て、Langevin 力学やマルコフ連鎖の自己相関から下界の読みも取れます(10-02 §04)。

(b) 「すべての ff」を組み立てる道具がある。Poincaré 不等式には、局所の部品から全体の上界を組み立てる道具が、次元によらない形でそろっています。測度 μ∝e−S\mu\propto e^{-S}、E(f)=E∣∇f∣2\mathcal E(f)=\mathbb E|\nabla f|^2 の規約で

Hess⁡S≥ρ ⇒ CP(μ)≤1ρ;μ′∝e−Wμ ⇒ CP(μ′)≤eosc⁡W CP(μ);CP(μ1⊗μ2)=max⁡(CP(μ1),CP(μ2))(9)\operatorname{Hess}S\ge\rho\ \Rightarrow\ C_P(\mu)\le\frac1\rho;\qquad \mu'\propto e^{-W}\mu\ \Rightarrow\ C_P(\mu')\le e^{\operatorname{osc}W}\,C_P(\mu);\qquad C_P(\mu_1\otimes\mu_2)=\max\bigl(C_P(\mu_1),C_P(\mu_2)\bigr) \tag{9}

です。左の二つは 典(Bakry–Émery の凸性の判定と Holley–Stroock の有界な摂動。osc⁡W=sup⁡W−inf⁡W\operatorname{osc}W=\sup W-\inf W。書誌は 10-06 の出典表)、右は 初(Efron–Stein の不等式 Var⁡(f)≤EVar⁡1(f)+EVar⁡2(f)\operatorname{Var}(f)\le\mathbb E\operatorname{Var}_1(f)+\mathbb E\operatorname{Var}_2(f) の各項に成分の Poincaré 不等式を使えば ≤max⁡\le\max、片方の座標だけの関数で等号)。これに分散の分解(条件つきの分散と条件つき期待値の分散の和、10-05 §01)を加えた四つが、一段目の組み立ての部品です。対数 Sobolev 不等式(LSI)にも同じ型の道具があり、尺度ごとに分けた凸性の判定もその一つです(10-02 §05)。

(c) 機械検査が届く。部品の不等式を組み合わせる段は、実数の不等式の代数です。代数は Lean で検査でき、有限の窓の中の数値の不等式は区間演算(計算機援用)で確かめられます。検査するのは仮定から結論への組み立てで、仮定そのものではありません(10-13)。

例 2(二つのサイトのガウス測度で、道具がどこで効くか)。R2\mathbb R^2 の上の測度 μ∝e−S\mu\propto e^{-S}、S(x1,x2)=12(x1−x2)2+12m02(x12+x22)S(x_1,x_2)=\tfrac12(x_1-x_2)^2+\tfrac12m_0^2(x_1^2+x_2^2) を考えます。Hesse 行列は (1+m02−1−11+m02)\begin{pmatrix}1+m_0^2&-1\\-1&1+m_0^2\end{pmatrix} で、固有値は m02m_0^2(向き (1,1)(1,1))と m02+2m_0^2+2(向き (1,−1)(1,-1))です。(9) の左の判定から CP≤1/m02C_P\le1/m_0^2。一方 f=x1+x2f=x_1+x_2 では、共分散が Hesse 行列の逆なので Var⁡(f)=2/m02\operatorname{Var}(f)=2/m_0^2、E(f)=∣∇f∣2=2\mathcal E(f)=|\nabla f|^2=2 で、比は 1/m021/m_0^2 です。上界と下界が一致して CP=1/m02C_P=1/m_0^2 初。一本道(例 1)では行列を対角化して CPC_P を求めましたが、この例では対角化をしなくても (9) が答えを出しています。二重井戸 V(x)=(x2−1)2/8V(x)=(x^2-1)^2/8 では頂上で V′′(0)=−12<0V''(0)=-\tfrac12\lt0 となり、(9) の凸性の判定は全体には使えません。そこで谷ごとに割る分散の分解と、割った先での凸性と摂動を組み合わせることになります(10-04 §06・10-05 §04)。対角化できない相互作用のある測度で、上界を部品から組み立てられること——これが言い換えの第一の得です。

(3) H の言明を段を踏んで — 帯の文、冪の文、上下の半分

一段目:帯の文。素直に書けば、「CPC_P は物差しの二乗の定数倍の幅に入る」という文になります。物理の単位 aa と、β\beta に依らない定数倍の幅(帯)で比べると

∃ β0, ∃ 0<c≤C:c≤a(β)2 CP(β)≤C(β≥β0)(10)\exists\,\beta_0,\ \exists\,0\lt c\le C:\qquad c\le a(\beta)^2\,C_P(\beta)\le C\qquad(\beta\ge\beta_0) \tag{10}

です。数で言えば、ξRG=1/a=10\xi_{\rm RG}=1/a=10 のとき CPC_P は 100c100c から 100C100C の間、ξRG=1000\xi_{\rm RG}=1000 なら 106c10^6c から 106C10^6C の間にある、という文です。Langevin の時間は長さの二乗の次元を持つので(拡散)、a2CPa^2C_P は最も遅い緩和を物理の単位で測った値で、(10) はそれが 0 にも無限大にも行かないと言います。

例 3(一本道は帯の文を満たす)。例 1 の一本道で LL を物差しにすると、x=π/Lx=\pi/L と置いて CP(L)/L2=1π2⋅(x/2)2sin⁡2(x/2)C_P(L)/L^2=\frac1{\pi^2}\cdot\frac{(x/2)^2}{\sin^2(x/2)} です。t/sin⁡tt/\sin t は (0,π/2](0,\pi/2] で増えるので、L≥2L\ge2 で

1π2 < CP(L)L2 ≤ 18(11)\frac1{\pi^2}\ \lt\ \frac{C_P(L)}{L^2}\ \le\ \frac18 \tag{11}

(右の等号は L=2L=2 の CP=12C_P=\tfrac12)で、帯の文が c=1/π2≈0.101c=1/\pi^2\approx0.101・C=1/8C=1/8 で成り立ちます 初。

相関長を挟むと、帯の文は三つの因子に割れます。

a2CP=(aξ)2⏟鎖 (ii)(iii)⋅CPξ2⏟鎖 (i),(aξ)2=1mphys2,CPξ2=mlat2λ1(12)a^2C_P=\underbrace{(a\xi)^2}_{\text{鎖 (ii)(iii)}}\cdot\underbrace{\frac{C_P}{\xi^2}}_{\text{鎖 (i)}},\qquad (a\xi)^2=\frac1{m_{\rm phys}^2},\qquad \frac{C_P}{\xi^2}=\frac{m_{\rm lat}^2}{\lambda_1} \tag{12}

第一の因子は物理単位の質量 mphys=mlat/am_{\rm phys}=m_{\rm lat}/a で決まり、第二は「Langevin の隙間 λ1\lambda_1 が質量の二乗と揃う」という鎖 (i) の因子です。第一の因子をさらに「質量の二乗と弦張力が揃う」(鎖 (ii))と「弦張力と格子間隔の二乗が揃う」(鎖 (iii))に割った三つの比が三つの鎖です(7-12)。三つとも仮定です 仮。鎖の上下の半分がそれぞれ何を要るかは 10-02 §05 で見ます。

二段目:冪の文。帯の文は、E\mathcal E の目盛り・記帳の次数・確率時間の繰り込みが持ち込む対数の因子に動かされます(§07 の寄り道)。そこで定数倍だけでなく、ln⁡ξ\ln\xi の冪の因子も無視する水準に下げたものが仮定 H です。

H:lim⁡β→∞ln⁡CP(β)ln⁡ξ(β)=2(13)\text{H}:\quad \lim_{\beta\to\infty}\frac{\ln C_P(\beta)}{\ln\xi(\beta)}=2 \tag{13}

この文は、一段目の言明 10-03 §05 の (2)、lim⁡ℏ→0ln⁡CP(ℏ)/ln⁡ξ(ℏ)=2\lim_{\hbar\to0}\ln C_P(\hbar)/\ln\xi(\hbar)=2 と同じ形です。違うのは測度の族だけで、ここでは Wilson 測度 μβ\mu_\beta と β→∞\beta\to\infty、一段目では二重井戸の経路の測度と ℏ→0\hbar\to0 です。だからこの部では (13) を、次元によらない「冪の H」として二つの段で同じ名で呼びます。冪の文なので、E\mathcal E を β\beta の冪倍しても変わりません(ln⁡β/ln⁡ξ→0\ln\beta/\ln\xi\to0)初 Leanexponent_invariant_of_slowly_varying(仮定:Xn,ℓn>0X_n,\ell_n\gt0、ln⁡Xn/ln⁡an→p\ln X_n/\ln a_n\to p、ln⁡ℓn/ln⁡an→0\ln\ell_n/\ln a_n\to0。結論:ln⁡(Xnℓn)/ln⁡an→p\ln(X_n\ell_n)/\ln a_n\to p。極限の和の代数)。

例 4(帯と冪の違いを数で)。CP=ξ2ln⁡ξC_P=\xi^2\ln\xi という族を考えます。比 CP/ξ2=ln⁡ξC_P/\xi^2=\ln\xi は ξ=10,103,106\xi=10,10^3,10^6 で 2.30, 6.91, 13.82.30,\ 6.91,\ 13.8 と増え続けるので、帯の文は破れます。一方 ln⁡CP/ln⁡ξ=2+ln⁡ln⁡ξ/ln⁡ξ\ln C_P/\ln\xi=2+\ln\ln\xi/\ln\xi は 2.362, 2.280, 2.1902.362,\ 2.280,\ 2.190 とゆっくり 2 に近づき、冪の文は成り立ちます 初(ln⁡ln⁡ξ\ln\ln\xi の値 0.834, 1.933, 2.6260.834,\ 1.933,\ 2.626 を ln⁡ξ=2.303, 6.908, 13.82\ln\xi=2.303,\ 6.908,\ 13.82 で割る)。逆に例 3 の一本道は帯の文を満たしますが、ln⁡CP/ln⁡L=2−(ln⁡π2+o(1))/ln⁡L\ln C_P/\ln L=2-(\ln\pi^2+o(1))/\ln L は L=256L=256 で ln⁡6640/ln⁡256≈1.587\ln6640/\ln256\approx1.587 と、2 から遠い所にいます。冪の文は「極限で 2」とだけ言い、定数の分だけゆっくり近づくことを許します。帯の文は冪の文を含意し(ln⁡c/ln⁡ξ→0\ln c/\ln\xi\to0)、逆は CP=ξ2ln⁡ξC_P=\xi^2\ln\xi が示すとおり成り立ちません 初。

(10) は H と鎖 (ii)(iii) を合わせた文で、この本では H と呼びません。名前を表 5 のように固定します。

表 5 「CPC_P が長さの二乗と揃う」の読みと名前(詳しい八つの読みは A-06)
水準・比べる長さ文この本の名前自由近似で
冪・ξ\xiln⁡CP/ln⁡ξ→2\ln C_P/\ln\xi\to2仮定 H(冪の H)成り立つ
冪・ξRG\xi_{\rm RG}ln⁡CP/ln⁡ξRG→2\ln C_P/\ln\xi_{\rm RG}\to2H と鎖 (ii)(iii)(冪)成り立つ
帯・ξ\xiCP≍ξ2C_P\asymp\xi^2Hband[Eϑ]\mathrm H_{\rm band}[\mathcal E_\vartheta]・Hband[EA]\mathrm H_{\rm band}[\mathcal E_A](目盛りを名指す)場の目盛りで等号、角度の目盛りでは比 g2/4g^2/4 で下の半分が破れる
帯・ξRG\xi_{\rm RG}a2CP≍1a^2C_P\asymp1((10))帯の文と鎖 (ii)(iii)=(S5)記帳の次数で決まる(§07)

冪の水準の二行は、目盛りの選び方にも、§07 の対数の因子にも動かされません。この部が仮定 H を冪の文に置くのはこのためです。

三段目:上下の半分。帯の文 (10) の右と左を分けたものが H↑・H↓ です。

H↑: a2CP≤C  (CP≲ξRG2),H↓: a2CP≥c  (CP≳ξRG2)(14)\text{H↑}:\ a^2C_P\le C\ \ (C_P\lesssim\xi_{\rm RG}^2),\qquad \text{H↓}:\ a^2C_P\ge c\ \ (C_P\gtrsim\xi_{\rm RG}^2) \tag{14}

CPC_P は (7) の上限で、ξRG=1/a\xi_{\rm RG}=1/a は測度と別に決めた長さなので、二つは試験関数 ff についての量化子が逆向きです。

H↓  ⟺  ∀β≥β0 ∃f: Var⁡(f)≥c ξRG2 E(f),H↑  ⟺  ∀β≥β0 ∀f: Var⁡(f)≤C ξRG2 E(f)(15)\text{H↓}\iff\forall\beta\ge\beta_0\ \exists f:\ \operatorname{Var}(f)\ge c\,\xi_{\rm RG}^2\,\mathcal E(f),\qquad \text{H↑}\iff\forall\beta\ge\beta_0\ \forall f:\ \operatorname{Var}(f)\le C\,\xi_{\rm RG}^2\,\mathcal E(f) \tag{15}

初 上限の定義をそのまま書いたものです。H↓ は試験関数を一つ見せれば済み、H↑ はすべての関数についての本物の Poincaré 不等式です。固有値で言う「上からは易しく、下からは難しい」(1-10)が、その逆数の CPC_P では「下からは易しく、上からは難しい」になります。この非対称が、10-02 の道と壁の全体を決めます。

例 5(片方だけが成り立つ族)。CP=ξRG2ln⁡ξRGC_P=\xi_{\rm RG}^2\ln\xi_{\rm RG} の族では、ξRG≥e\xi_{\rm RG}\ge e で a2CP≥1a^2C_P\ge1 なので H↓ は c=1c=1 で成り立ち、a2CP=ln⁡ξRG→∞a^2C_P=\ln\xi_{\rm RG}\to\infty なので H↑ は破れます(冪の H は例 4 のとおり成り立つ)。逆に CPC_P が β\beta によらず有界な族(強結合の側の定理の形、§06 の表 7)では、H↑ は成り立ち H↓ は破れます 初。帯の文は、この二つの破れ方のどちらも起きない、という文です。

注 — 「仮定 H」と「条件 (H1)〜(H4)」

この部の「仮定 H」は冪の文 (13) だけを指します。H↑・H↓ は帯の文の半分で、H とは別の名です。一段目で冪の H の上の側を割った四つの条件は「条件 (H1)〜(H4)」と書き、必ず「条件」の語を添えます(10-03 §05・10-05)。条件 (H1) は「H の一つ目の半分」ではなく、一段目の模型の「相の中の局所 Poincaré」という別の言明です。条件の名は Lean の定理名に入っているので変えません。

注 — 位相の区画と、体積を無限にする順

(7) の上限はすべての ff を動かすので、連続極限で区画の間を移れなくなる位相電荷 QQ(を滑らかにしたもの)も試験関数に入ります。周期境界の四次元格子では、QQ の自己相関時間が ξ2\xi^2 より明らかに速く伸びると報告されています 読(局所の熱浴・過緩和で Del Debbio–Panagopoulos–Vicari 2002、HMC 型で Schaefer–Sommer–Virotta 2011、局所の算法で Bonanno–Bonati–D'Elia 2021。冪なら指数は約 5、あるいは 1/a1/a について指数的で、三つとも冪と指数をデータでは区別できないと書いています)。三本の原典の群はどれも SU(3)SU(3) 以上で、この本の H が述べられる SU(2)SU(2) で指数が 2 を越えるかは、探した範囲の一次資料では決まっていません。SU(2)SU(2) で位相電荷の自己相関の格子間隔への依存を測った一次資料は、探した範囲で一本です(Abe–Morikawa–Suzuki 2025。HMC・周期境界・物理の一辺を止めた小さな箱・三つの格子間隔)。そこでは積分自己相関時間が a−2a^{-2} に近く伸びると報告されています 読。このため、次の読みは SU(3)SU(3) 以上の原典の上の読みです。可逆な力学ではどの観測量の積分自己相関時間も CPC_P を越えないので(τint≤CP\tau_{\rm int}\le C_P 典、10-02 §05)、HMC と Langevin が同じ普遍類という予想 仮 の下で、H↑ は周期の箱では偽と読めます。開いた境界がこの障害を外すのは、物理の一辺を止めた有限の箱の中だけです(Lüscher–Schaefer 2011 では、開いた境界の Q2Q^2 の自己相関時間は時間方向の長さにほぼ比例して伸びる 読)。先に体積を無限にするこの本の順では救いにならない見込みです 仮。H を使い続けるなら、位相の区画ごとの言明か、台を相関長の数倍に限った局所の言明に直す方向が候補で、その検討は 第 11 部(11-03・11-04)で扱います。

06

H が与えるもの・与えないもの — 片側の橋、反例、類例

六段の残りの三つ、(4) H が与えるもの、(5) H が与えないもの、(6) 類例です。(4) と (5) は、問題文の量(ユークリッドの時間の隙間)と H の量(Langevin の緩和の時間)が別の量であることから始まり、二つをつなぐ片側の橋と、橋の反対向きが成り立たない例で、H と質量ギャップの関係を正確に決めます。

(4) H が与えるもの — 質量への読み替えと片側の橋

等号の版。鎖 (i) を等号 CP=1/mlat2C_P=1/m_{\rm lat}^2 で置くと、(14) の二つの半分は物理単位の質量 mphys=mlat ξRGm_{\rm phys}=m_{\rm lat}\,\xi_{\rm RG} の言明に読み替わります。

H↑ ⟹ mphys ≥ C−1/2,H↓ ⟹ mphys ≤ c−1/2(16)\text{H↑}\ \Longrightarrow\ m_{\rm phys}\ \ge\ C^{-1/2},\qquad \text{H↓}\ \Longrightarrow\ m_{\rm phys}\ \le\ c^{-1/2} \tag{16}

初 証明:H↑ の 1/mlat2≤CξRG21/m_{\rm lat}^2\le C\xi_{\rm RG}^2 の両辺に mlat2/Cm_{\rm lat}^2/C を掛けると 1/C≤(mlatξRG)21/C\le(m_{\rm lat}\xi_{\rm RG})^2。H↓ は不等号を逆にして同じ。∎ 証明の水準は代数で、Lean の二つの定理がこの代数を検査しています。

theorem hup_is_gap_positivity {CP xi mlat K : ℝ}
    (hmlat : 0 < mlat) (hCP : CP = 1 / mlat ^ 2) (h : CP ≤ K * xi ^ 2) :
    1 ≤ K * (mlat * xi) ^ 2

theorem hdown_is_mass_finiteness {CP xi mlat c : ℝ}
    (hmlat : 0 < mlat) (hCP : CP = 1 / mlat ^ 2) (h : c * xi ^ 2 ≤ CP) :
    c * (mlat * xi) ^ 2 ≤ 1

LeanLatticeGauge.hup_is_gap_positivity(仮定:mlat>0m_{\rm lat}\gt0・CP=1/mlat2C_P=1/m_{\rm lat}^2・CP≤Kξ2C_P\le K\xi^2。結論:1≤K(mlatξ)21\le K(m_{\rm lat}\xi)^2)と LatticeGauge.hdown_is_mass_finiteness(仮定:mlat>0m_{\rm lat}\gt0・CP=1/mlat2C_P=1/m_{\rm lat}^2・c ξ2≤CPc\,\xi^2\le C_P。結論:c (mlatξ)2≤1c\,(m_{\rm lat}\xi)^2\le1)。四つの文字はどれも Lean の中では名前の付いた実数で、それが Wilson 測度の Poincaré 定数であること、CPC_P が上限であること(すべての ff を動かすこと)は Lean の外にあります(10-13)。H↑ は「質量が 0 に潰れない」、つまり質量ギャップの側の下界で、H↓ は「質量が無限大に逃げない」側です。

等号 CP=1/mlat2C_P=1/m_{\rm lat}^2 は自由場の値で、相互作用のある理論で置くには強すぎる仮定です。ところが H↑ から質量の下界を出す証明は、等号のうち片側 CP≥κ/mlat2C_P\ge\kappa/m_{\rm lat}^2 しか使っていません。そしてこの片側は、時間を連続に取った格子では、仮定を名指した命題として示せます。

命題 B(片側の橋:連続の時間・有限の空間格子・T=∞T=\infty)

空間を有限の格子にし、一つの時刻の配位の空間を QQ(Rn\mathbb R^n、またはコンパクトで連結な多様体)、運動項の計量を MM、H=−ℏ22ΔM+VH=-\frac{\hbar^2}2\Delta_M+V、A=(H−E0)/ℏA=(H-E_0)/\hbar とする。次を仮定する。(A1) HH のスペクトルは離散で、基底状態 ψ0\psi_0 は重複せず滑らかで正、Δ=E1−E0>0\Delta=E_1-E_0\gt0。(A2) 経路の測度は T=∞T=\infty の定常な測度(一つの時刻の分布が ψ02\psi_0^2、推移が e−τAe^{-\tau A})。(A3) Langevin の Dirichlet 形 EG(f)=ℏ∫E⟨dq(τ)f,G dq(τ)f⟩dτ\mathcal E_G(f)=\hbar\int\mathbb E\langle d_{q(\tau)}f,G\,d_{q(\tau)}f\rangle d\tau の計量が G≤λGM−1G\le\lambda_GM^{-1} を満たし、κ:=1/λG\kappa:=1/\lambda_G。このとき ξ=ℏ/Δ\xi=\hbar/\Delta、F=ψ1/ψ0F=\psi_1/\psi_0、fT=∫0TF(q(τ)) dτf_T=\int_0^TF(q(\tau))\,d\tau について、どの T>0T\gt0 でも

Var⁡(fT)EG(fT) ≥ κ ξ2[1−ξT(1−e−T/ξ)],したがってCP ≥ κ ξ2=κ ℏ2Δ2(17)\frac{\operatorname{Var}(f_T)}{\mathcal E_G(f_T)}\ \ge\ \kappa\,\xi^2\Bigl[1-\frac\xi T\bigl(1-e^{-T/\xi}\bigr)\Bigr],\qquad\text{したがって}\qquad C_P\ \ge\ \kappa\,\xi^2=\frac{\kappa\,\hbar^2}{\Delta^2} \tag{17}

が成り立つ。正準の選び方 G=M−1G=M^{-1}(κ=1\kappa=1)では、時刻に局所な試験関数の族の T→∞T\to\infty の上限がちょうど ξ2\xi^2 である。

初 証明〔三〕。m=Δ/ℏ=1/ξm=\Delta/\hbar=1/\xi、φ=(F−⟨F⟩)ψ0\varphi=(F-\langle F\rangle)\psi_0 と置きます。⟨F⟩=∫ψ0ψ1=0\langle F\rangle=\int\psi_0\psi_1=0 なので φ=ψ1\varphi=\psi_1、Aφ=mφA\varphi=m\varphi です。

(i) 分散。(A2) の測度の相関は Cov⁡(F(q(s)),F(q(t)))=⟨φ,e−∣s−t∣Aφ⟩=∥φ∥2e−m∣s−t∣\operatorname{Cov}(F(q(s)),F(q(t)))=\langle\varphi,e^{-|s-t|A}\varphi\rangle=\|\varphi\|^2e^{-m|s-t|} です 典(転送作用素で相関を書く式、2-07 §08・10-04 §04 の (12) の型)。正方形 [0,T]2[0,T]^2 の上で積分すると Var⁡(fT)=∥φ∥2(2T/m−2(1−e−mT)/m2)\operatorname{Var}(f_T)=\|\varphi\|^2\bigl(2T/m-2(1-e^{-mT})/m^2\bigr) です(∬e−m∣s−t∣=2∫0T(T−u)e−mudu\iint e^{-m|s-t|}=2\int_0^T(T-u)e^{-mu}du を一回の部分積分で閉じる)。

(ii) Dirichlet 形。fTf_T を経路 q(τ)q(\tau) で微分すると、τ∈[0,T]\tau\in[0,T] で dF(q(τ))dF(q(\tau))、それ以外で 0 です。定常性と (A3) から EG(fT)=ℏT∫ψ02⟨dF,G dF⟩≤ℏTλG∫ψ02∣dF∣M−12\mathcal E_G(f_T)=\hbar T\int\psi_0^2\langle dF,G\,dF\rangle\le\hbar T\lambda_G\int\psi_0^2|dF|_{M^{-1}}^2 です。

(iii) 基底状態変換の恒等式。滑らかな実関数 FF について

⟨Fψ0,(H−E0)Fψ0⟩=ℏ22∫ψ02 ∣dF∣M−12(18)\bigl\langle F\psi_0,(H-E_0)F\psi_0\bigr\rangle=\frac{\hbar^2}2\int\psi_0^2\,|dF|_{M^{-1}}^2 \tag{18}

です 初。(V−E0)ψ0=ℏ22ΔMψ0(V-E_0)\psi_0=\frac{\hbar^2}2\Delta_M\psi_0 を使うと (H−E0)(Fψ0)=−ℏ22(ψ0ΔMF+2⟨dF,dψ0⟩M−1)=−ℏ22ψ0div⁡M(ψ02 ∇MF)(H-E_0)(F\psi_0)=-\frac{\hbar^2}2\bigl(\psi_0\Delta_MF+2\langle dF,d\psi_0\rangle_{M^{-1}}\bigr)=-\frac{\hbar^2}{2\psi_0}\operatorname{div}_M(\psi_0^2\,\nabla_MF) となり、Fψ0F\psi_0 を掛けて一回部分積分すれば右辺です(QQ がコンパクトで境界が無いか、関数が無限遠で減衰するので境界の項は消える)。∎ 1-10 §08・2-05 §08 の一次元の計算と同じ形です。Fψ0=ψ1F\psi_0=\psi_1 なので左辺は Δ∥φ∥2\Delta\|\varphi\|^2 で、∫ψ02∣dF∣M−12=(2m/ℏ)∥φ∥2\int\psi_0^2|dF|_{M^{-1}}^2=(2m/\hbar)\|\varphi\|^2、よって EG(fT)≤2λGmT∥φ∥2\mathcal E_G(f_T)\le2\lambda_GmT\|\varphi\|^2 です。

(iv) 比。(i) を (ii)(iii) で割ると Var⁡/EG≥κ(1/m2−(1−e−mT)/(Tm3))\operatorname{Var}/\mathcal E_G\ge\kappa\bigl(1/m^2-(1-e^{-mT})/(Tm^3)\bigr)、これが (17) の左です。CPC_P は上限なので右辺以上で、T→∞T\to\infty で CP≥κξ2C_P\ge\kappa\xi^2 です。正準のときの上限は、時刻に局所な任意の ff で Var⁡/T→2⟨φ,A−1φ⟩\operatorname{Var}/T\to2\langle\varphi,A^{-1}\varphi\rangle・E/T=2⟨φ,Aφ⟩\mathcal E/T=2\langle\varphi,A\varphi\rangle となり、AA の固有値 a≥ma\ge m について 1/a≤a/m21/a\le a/m^2 を使えば ξ2\xi^2 以下で、等号は φ\varphi が固有値 mm の固有空間にあるときです(10-04 §04 の (13) と同じ)。∎

LeanLatticeGauge.HupBridge.cont_ratio_closed(仮定:0<m0\lt m・0<T0\lt T。結論:(i) を (ii)(iii) で割った比が 1/m2−(1−e−mT)/(Tm3)1/m^2-(1-e^{-mT})/(Tm^3) に等しい)と one_sided_bridge(仮定:分散の下界・Dirichlet 形の上界・Var⁡/E≤CP\operatorname{Var}/\mathcal E\le C_P、正の数。結論:κ/m2≤CP\kappa/m^2\le C_P)は、(i)〜(iv) の数の代数だけを検査したものです。経路の測度・相関の式・(18)・CPC_P が上限であることは Lean の外です。

表 6 命題 B の仮定と、どこで使うか
記号仮定どこで使うか
(A1)スペクトルが離散・Δ>0\Delta\gt0・ψ0>0\psi_0\gt0 で滑らかで重複しない・ψ1\psi_1 が在るF=ψ1/ψ0F=\psi_1/\psi_0 が定義でき滑らか
(A2)T=∞T=\infty の定常な経路の測度(一つの時刻の分布が ψ02\psi_0^2、推移が e−τAe^{-\tau A})(i) の相関の式
(A3)G≤λGM−1G\le\lambda_GM^{-1}(κ=1/λG\kappa=1/\lambda_G)(ii) の比較
連続の時間経路の運動項が 12∣q˙∣M2\tfrac12|\dot q|_M^2 の形(18) を経路の測度の E\mathcal E と同じ計量で使う
有限の空間格子QQ が有限次元(A1) と (18) の部分積分

κ\kappa は時間の長さ TT に依りません。TT は (17) の因子 1−(ξ/T)(1−e−T/ξ)∈(0,1)1-(\xi/T)(1-e^{-T/\xi})\in(0,1) にだけ入り、T/ξ→∞T/\xi\to\infty で 1 に近づきます。一次元の井戸で G=M−1=1G=M^{-1}=1 と置いたものが命題 L(10-04 §04)で、命題 B はその多次元・計量つきの版です。鎖の言葉で言えば、命題 B は鎖 (i) の片側 λ1≤mlat2/κ\lambda_1\le m_{\rm lat}^2/\kappa(H↓ の側の半分)を、時間を連続に取った格子で示すものです。同じ形の主張が文献にあるかは確かめていません(既知かもしれません)。

冪が二次になる理由。分散は相関の時間の積分で T⋅(2/m)∥φ∥2T\cdot(2/m)\|\varphi\|^2、つまり 1/Δ1/\Delta の一次で大きくなります。Dirichlet 形は、最も遅い励起の F=ψ1/ψ0F=\psi_1/\psi_0 の勾配が小さい関数なので、(18) により T⋅2m∥φ∥2T\cdot2m\|\varphi\|^2、つまり Δ\Delta の一次で小さくなります。比が 1/Δ21/\Delta^2 です。勾配の小ささを見落として Dirichlet 形を Δ\Delta に依らない量と見積もると、c/Δc/\Delta の一次の下界に落ち、次の (19) は出ません。

注(記号 Δ\Delta の二つの意味)。この章では Δ\Delta を二つの意味で使っています。(1) の Δ(β)=mlat/a\Delta(\beta)=m_{\rm lat}/a は物理単位の質量です。命題 B とこの節の例の Δ=E1−E0\Delta=E_1-E_0 は、空間を有限の格子にしたハミルトニアンの隙間で、ξ=ℏ/Δ\xi=\hbar/\Delta により格子単位の相関長に結ばれます(ℏ=1\hbar=1 で mlatm_{\rm lat} にあたり、(1) の Δ(β)\Delta(\beta) はそれを格子間隔 aa で割ったもの)。第 11 部では Δ\Delta を命題 B の意味 E1−E0E_1-E_0 に限り、物理単位の質量は mphysm_{\rm phys} と書きます(11-A1 §02)。

例 6(二つのサイトの格子で、橋を手で確かめる)。例 2 と同じ二つのサイトを空間の格子にし、時間を連続に取ります(ℏ=1\hbar=1・M=G=1M=G=1・V=12xTKxV=\tfrac12x^{\sf T}Kx、KK は例 2 の Hesse 行列)。基準振動は u=(x1+x2)/2u=(x_1+x_2)/\sqrt2(角振動数 m0m_0)と v=(x1−x2)/2v=(x_1-x_2)/\sqrt2(角振動数 m02+2\sqrt{m_0^2+2})で、最初の励起は uu の振動を一つ上げた状態なので Δ=m0\Delta=m_0、ξ=1/m0\xi=1/m_0、F=ψ1/ψ0∝uF=\psi_1/\psi_0\propto u です。経路の上で u(τ)u(\tau) は定常なガウス過程で、E[u(s)u(t)]=e−m0∣s−t∣/(2m0)\mathbb E[u(s)u(t)]=e^{-m_0|s-t|}/(2m_0)。fT=∫0Tu dτf_T=\int_0^Tu\,d\tau について Var⁡(fT)=12m0(2Tm0−2(1−e−m0T)m02)\operatorname{Var}(f_T)=\frac1{2m_0}\bigl(\frac{2T}{m_0}-\frac{2(1-e^{-m_0T})}{m_0^2}\bigr)、∣∇u∣2=12+12=1|\nabla u|^2=\tfrac12+\tfrac12=1 なので E(fT)=T\mathcal E(f_T)=T、比は 1/m02−(1−e−m0T)/(Tm03)1/m_0^2-(1-e^{-m_0T})/(Tm_0^3) で、(17) の右辺そのものです。数で、m0=12m_0=\tfrac12(ξ=2\xi=2)・T=20T=20 なら比は 4−0.99995/2.5≈3.6004-0.99995/2.5\approx3.600、T=200T=200 なら 4−1/25=3.964-1/25=3.96 で、ξ2=4\xi^2=4 に下から近づきます。(18) も確かめられます:左辺は Δ E[u2]=m0⋅12m0=12\Delta\,\mathbb E[u^2]=m_0\cdot\frac1{2m_0}=\tfrac12、右辺は 12 E∣∇u∣2=12\tfrac12\,\mathbb E|\nabla u|^2=\tfrac12 初。この例では経路の測度がガウスで、共分散 (−∂τ2+K)−1(-\partial_\tau^2+K)^{-1} の最大固有値が 1/m021/m_0^2 なので CP=ξ2C_P=\xi^2、橋は等号で成り立っています。

H↑ と橋を合わせる。H↑ の CP≤CξRG2C_P\le C\xi_{\rm RG}^2 と命題 B の CP≥κ/mlat2C_P\ge\kappa/m_{\rm lat}^2 を並べると

κmlat2 ≤ CP ≤ C ξRG2⟹mphys2=(mlat ξRG)2 ≥ κC(19)\frac{\kappa}{m_{\rm lat}^2}\ \le\ C_P\ \le\ C\,\xi_{\rm RG}^2\qquad\Longrightarrow\qquad m_{\rm phys}^2=(m_{\rm lat}\,\xi_{\rm RG})^2\ \ge\ \frac\kappa C \tag{19}

です 初。例えば κ=1\kappa=1・C=4C=4 なら、物理単位の隙間はどの β≥β0\beta\ge\beta_0 でも 12\tfrac12 以上に留まります。(16) の等号の仮定を片側に弱めた形で、Lean では

theorem hup_is_gap_positivity_of_lower {CP xi mlat K κ : ℝ}
    (hmlat : 0 < mlat) (hCP : κ / mlat ^ 2 ≤ CP) (h : CP ≤ K * xi ^ 2) :
    κ ≤ K * (mlat * xi) ^ 2

LeanLatticeGauge.HupBridge.hup_is_gap_positivity_of_lower(仮定:0<mlat0\lt m_{\rm lat}・κ/mlat2≤CP\kappa/m_{\rm lat}^2\le C_P・CP≤Kξ2C_P\le K\xi^2。結論:κ≤K(mlatξ)2\kappa\le K(m_{\rm lat}\xi)^2)。κ=1\kappa=1 と置くと (16) の左の定理が戻ります(hup_is_gap_positivity_recovered)。H↓ の側の (16) の右は CP≤1/mlat2C_P\le1/m_{\rm lat}^2(難しい側)を使うので、片側の橋では弱められません。

(19) が質量ギャップの側の文になるための条件を並べます。第一に、κ\kappa が β\beta に一様であること。場で測る目盛り EA\mathcal E_A では κ\kappa は結合に依らない数で(値は群の計量の正規化の約束に依る)、条件は満たされます。リンクの角度で測る Eϑ\mathcal E_\vartheta では κ∝g2→0\kappa\propto g^2\to0 で、(19) は mphys2≳g2/Cm_{\rm phys}^2\gtrsim g^2/C、つまり対数の分だけ損をします(表 3 の (γ))。第二に、時間の扱いです。命題 B は時間を連続に取った格子(空間だけを格子にした Hamiltonian の格子)の文で、時間も刻む Wilson 測度では、基底状態変換の恒等式 (18) にあたるものがありません。刻み 1 の時間の格子では、転送作用素 T^\hat T(最大固有値で割ったもの)の二番目の固有値を q=e−Δq=e^{-\Delta} として、隣の時刻の増分と勾配を比べる仮定

(D):  Eψ02∣dF∣G2≤cD ⟨φ,(1−T^)φ⟩⟹CP ≥ 1+qcD(1−q)2 ≥ 2cD Δ2(20)\text{(D)}:\ \ \mathbb E_{\psi_0^2}|dF|_G^2\le c_D\,\bigl\langle\varphi,(1-\hat T)\varphi\bigr\rangle\qquad\Longrightarrow\qquad C_P\ \ge\ \frac{1+q}{c_D(1-q)^2}\ \ge\ \frac{2}{c_D\,\Delta^2} \tag{20}

を置けば同じ型の下界が出ます(命題 B′)初((D) の上で。分散は NN サイトの窓で ∥φ∥2∑s,t≤Nq∣s−t∣\|\varphi\|^2\sum_{s,t\le N}q^{|s-t|}、Dirichlet 形は N cD(1−q)∥φ∥2N\,c_D(1-q)\|\varphi\|^2 以下で、N→∞N\to\infty の比が中辺。右の不等号は y=Δ/2y=\Delta/2 で sinh⁡2y≤y2cosh⁡y ey\sinh^2y\le y^2\cosh y\,e^y と同じで、tanh⁡y≤y\tanh y\le y と cosh⁡y≤ey\cosh y\le e^y から従う)LeanpairSum_closed(窓の和の閉じた形)・disc_limit_ge(係数 1 の弱い版、仮定:0<Δ0\lt\Delta・0<cD0\lt c_D)。T^=e−(H−E0)\hat T=e^{-(H-E_0)} がちょうど成り立つ場合は (18) から cD=2Δ/(1−e−Δ)→2c_D=2\Delta/(1-e^{-\Delta})\to2 で、連続の時間の命題 B に戻ります。Wilson 測度の転送作用素はこの形ではないので、(D) は β\beta に一様な cDc_D とともに仮定として残ります 仮。第三に、体積です。命題 B は有限の空間の箱の文で、無限体積の測度の CPC_P と箱の隙間の極限を結ぶ段は検討していません 仮。

一段目で問いが片方になる理由。隙間で定めた相関長 ξ=1/mlat\xi=1/m_{\rm lat}(ℏ=1\hbar=1)を使うと、橋 κξ2≤CP\kappa\xi^2\le C_P は冪の文の下の半分を自動で与えます。

ln⁡CPln⁡ξ ≥ 2+ln⁡κln⁡ξ(ξ>1),よってlim inf⁡ln⁡CPln⁡ξ≥2(21)\frac{\ln C_P}{\ln\xi}\ \ge\ 2+\frac{\ln\kappa}{\ln\xi}\qquad(\xi\gt1),\qquad\text{よって}\quad\liminf\frac{\ln C_P}{\ln\xi}\ge2 \tag{21}

初(ln⁡\ln を取って ln⁡ξ>0\ln\xi\gt0 で割る。κ\kappa が一様なら第二項は 0 へ)Leanpower_lower_half_of_bridge(仮定:0<κ0\lt\kappa・1<ξ1\lt\xi・κξ2≤CP\kappa\xi^2\le C_P。結論:(21) の左)。橋の仮定のもとでは、冪の H の中身は上の半分 lim sup⁡ln⁡CP/ln⁡ξ≤2\limsup\ln C_P/\ln\xi\le2 だけになります。二重井戸では命題 L がまさにこの橋(κ=1\kappa=1、一次元)なので、一段目の仮定 H は「上の側を示せるか」という片方の問いになり、その目標が 10-05 の命題 4.5 CP≤Kξ2S0/ℏC_P\le K\xi^2S_0/\hbar です。

鎖の側の代数。三つの鎖の帯の不等式を六本仮定すれば、a2CP=a2/λ1a^2C_P=a^2/\lambda_1 が正の帯に入ります。

c1m2≤λ1≤C1m2,  c2σ≤m2≤C2σ,  c3a2≤σ≤C3a2 ⟹ c1c2c3 a2≤λ1≤C1C2C3 a2(22)c_1m^2\le\lambda_1\le C_1m^2,\ \ c_2\sigma\le m^2\le C_2\sigma,\ \ c_3a^2\le\sigma\le C_3a^2\ \Longrightarrow\ c_1c_2c_3\,a^2\le\lambda_1\le C_1C_2C_3\,a^2 \tag{22}

初 Leanchain_band・sq_times_poincare_band(仮定:六つの帯の不等式と係数の正。結論:(22) と、a2/λ1a^2/\lambda_1 が [1/C,1/c][1/C,1/c] に入ること)。鎖そのものは仮定で、逆向き(帯の文から鎖)は出ません。命題 B は鎖 (i) の右の不等式 λ1≤C1m2\lambda_1\le C_1m^2(C1=1/κC_1=1/\kappa)を、連続の時間の格子で与えます。

(5) H が与えないもの — 別の量・逆向き・極限

別の量であること。CPC_P は経路の測度の Poincaré 定数、つまり人工の時間で走る Langevin 力学の隙間の逆数で、問題文の質量は転送行列(ハミルトニアン)の隙間です(表 3 の (β) と (α))。二つは別の量で、(4) の橋はその間に一方向の不等式を置いただけです。H を仮定しても、二つが同じものになるわけではありません。

逆向きは一般には成り立たない。(19) は「H↑ ⇒ 物理単位の隙間が正」でした。その逆「物理単位の隙間が正 ⇒ H↑」は、次の例で崩れます。

命題 C(円の上の自由な粒子)

Q=S1Q=S^1(周の長さ 2π2\pi の円)、M=1M=1、V=0V=0、H=−ℏ22d2dx2H=-\frac{\hbar^2}2\frac{d^2}{dx^2} とする。隙間は Δ=ℏ2/2>0\Delta=\hbar^2/2\gt0、ξ=ℏ/Δ=2/ℏ\xi=\hbar/\Delta=2/\hbar だが、T=∞T=\infty の経路の測度の正準の CPC_P は +∞+\infty である。

初 証明〔三〕。固有関数は eikxe^{ikx}、固有値は ℏ2k2/2\hbar^2k^2/2 なので Δ=ℏ2/2\Delta=\hbar^2/2 です。経路 x(τ)x(\tau) を実数直線に連続に持ち上げた x~(τ)\tilde x(\tau) は、定数 2πk2\pi k の分を除いて決まります。台が [0,L][0,L] で端で 0 になる ww を取り、

f=∫w(τ) dx~(τ)=−∫w′(τ) x~(τ) dτ,Var⁡(f)=ℏ∫w2 dτ,E(f)=ℏ∫w′2 dτ(23)f=\int w(\tau)\,d\tilde x(\tau)=-\int w'(\tau)\,\tilde x(\tau)\,d\tau,\qquad \operatorname{Var}(f)=\hbar\int w^2\,d\tau,\qquad \mathcal E(f)=\hbar\int w'^2\,d\tau \tag{23}

と置きます。∫w′=0\int w'=0 なので持ち上げの定数の不定さは消え、ff は経路の関数です。分散は、x~\tilde x が強さ ℏ\hbar のブラウン運動であることと Itô の等長性から 典、Dirichlet 形は δf/δx(τ)=−w′(τ)\delta f/\delta x(\tau)=-w'(\tau) からです。w(τ)=w0(τ/L)w(\tau)=w_0(\tau/L) と伸ばすと比は L2∫w02/∫w0′2L^2\int w_0^2/\int w_0'^2 で、L→∞L\to\infty で限りなく大きくなります。∎ Leanrotor_ratio_unbounded・rotor_gap_pos(仮定:0<r0\lt r/0<ℏ0\lt\hbar。結論:どの BB にも B<L2rB\lt L^2r となる L>0L\gt0 がある/0<ℏ2/20\lt\hbar^2/2。命題 C の骨の算術だけ)。

例 7(巻き数の酔歩)。w0(τ)=sin⁡(πτ)w_0(\tau)=\sin(\pi\tau)(0≤τ≤10\le\tau\le1)では ∫w02=12\int w_0^2=\tfrac12・∫w0′2=π2/2\int w_0'^2=\pi^2/2 なので、比は L2/π2L^2/\pi^2 です。例 1 の一本道の CP≈L2/π2C_P\approx L^2/\pi^2 と同じ数で、偶然ではありません。巻き数は円の上の粒子が何周したかを数える量で、それは果てのない一本道を酔歩しています。ℏ=0.1\hbar=0.1 なら ξ=20\xi=20・ξ2=400\xi^2=400 ですが、L=100L=100 で比は約 10131013、L=1000L=1000 で約 1.01×1051.01\times10^5 と、ξ2\xi^2 をいくらでも越えます。ℏ→0\hbar\to0 の族で a:=1/ξa:=1/\xi と置けば、mphys=m ξ=1m_{\rm phys}=m\,\xi=1 はどの ℏ\hbar でも正なのに、CP=∞C_P=\infty なので H↑ はどの ℏ\hbar でも破れます。

型を言えば、緩和が隙間より遅くなるのは、隙間に映らない時刻に局所でない量(巻き数・位相電荷・キンクの数)が拡散で運ばれるときです。保存する力学で CP=∞C_P=\infty になるのと同じ仕組みで(2-10 の寄り道)、ゲージ理論では周期の箱での位相電荷の凍結がこの型の候補です(10-02 §05)。範囲に注意します。有限の周期の箱の四次元 Wilson 測度では配位の空間がコンパクトで連結な有限次元の空間なので CP<∞C_P\lt\infty で、命題 C はその類の反例ではありません。命題 C が示すのは論理の隙間(隙間が正であることは CPC_P の有限ささえ含意しない)で、Wilson 測度の類の中で逆向きが偽かどうかは決まっていません。

まとめると、橋の仮定のもとで H↑ は格子の物理単位の隙間の下界を含意し、逆は一般には成り立ちません。橋の仮定のもとで、H↑ は格子の物理単位の質量ギャップより強い文です。H の道は、より強い文を、(2) の道具が使える言葉で言い換えた道です。

H は非自明性ではない

自由な質量つきの場では、表 4 のとおり a2CP=1a^2C_P=1 で、場の目盛りでは H も帯の文も H↓ も等号で成り立ちます 初。だから H↓ は問題文の「非自明」(相互作用があること、0-03)とは別の条件で、H 全体も非自明性を含みません。H が言うのは「質量ギャップのある極限に向かう測度の族なら、揺らぎの時間がどう伸びるか」の形だけです。

強結合の側は反対側

格子ゲージ理論の定理の多くは β\beta が小さい側(強結合)にあり、示されるのは体積に一様な格子単位の隙間や Poincaré・対数 Sobolev 不等式、つまり CP=O(1)C_P=O(1) の形です。Shen–Zhu–Zhu(2023)は Langevin 力学で両不等式を示し、'the infinite volume measure has a strictly positive mass gap' と書きます 典。条件を Wilson の β\beta に直すと β<N2/(16(d−1))=1/12\beta\lt N^2/(16(d-1))=1/12(N=2,d=4N=2,d=4)です。

表 7 定理が在る β\beta と極限の側の β\beta(SU(2)SU(2)・d=4d=4。ξ\xi は強結合展開の主項 m0=−4ln⁡um_0=-4\ln u、u=I2(β)/I1(β)u=I_2(\beta)/I_1(\beta) の目安)
領域β\betaξ\xi言えていること
Shen–Zhu–Zhu の条件< 0.08330.065典 一意性・両不等式・指数減衰
一リンク積分のあとの曲率< 0.27220.093曲率の下界 −27β2-27\beta^2 は LeanStaplePerturbation.hess_gauge(仮定:周期 LL が偶数で L≥3L\ge3・リンクは単位四元数・摂動は純虚)。判定法は 典(Bakry–Émery)。隙間へ進む段は 仮(5-11)
数値の窓(表 2)2.25〜2.600.72〜1.95読 Δ/σ≈3.3\Delta/\sqrt\sigma\approx3.3〜3.83.8
二ループの外挿3.24・4.14・5.0210・100・1000読 漸近スケーリングを仮定した目安

表 7 の ξ\xi の列は 読(主項の目安)です。強結合の定理は (S1) を小さい β\beta で与える大事な結果ですが、定数を改善しても β\beta の範囲が有界なら (S4)(S5) には近づきません。そのまま β\beta に一様に延びれば H↑ は満たし H↓ は破れ、mphys→∞m_{\rm phys}\to\infty の自明な極限に落ちます(向きは (5) と同じ、例 5 の後半)。

極限と持ち上げ。H が四次元格子で閉じ、橋の仮定がそろっても、得られるのは各 β≥β0\beta\ge\beta_0 での格子の物理単位の隙間の下界までです。Δ(β)\Delta(\beta) が極限を持つこと((S4) の残り)、極限の測度の存在 (S1)(S3)、回転の回復と OS 公理・再構成 (S6)(S7)、非自明性 (S8) は、H の外にあります。また一段目(二重井戸)で H が閉じても、四次元格子の H への含意の定理は無く、持ち上がる見込みは文の形と道具の形だけです(10-03 §06)。

(6) 類例 — 同じ型の問いが定理になった模型

「力学の緩和の遅さが、相関長の冪と同じ形で伸びるか」は、ゲージ理論の外では定理の対象になっています。

例 8(Bauerschmidt–Bodineau の定理を一文で)。四次元の nn 成分 ∣φ∣4|\varphi|^4 模型の階層版(格子を入れ子の箱に置き換え、繰り込みの一段が書き下せるようにした模型)の、臨界点と高温側からそこへ近づく族で、Glauber 型の力学のスペクトルギャップは自由場の力学のギャップと同じ冪で 0 に近づく(∣φ∣4|\varphi|^4 では対数の補正つき)典(Bauerschmidt–Bodineau, arXiv:1809.02075 の要旨と §1〜§2 を確認)。自由場の力学のギャップは質量の二乗、つまり ξ−2\xi^{-2} の冪で消えるので、これは「CPC_P は ξ2\xi^2 の冪で、対数の因子を除いて伸びる」という、冪の H と同じ型の文です(質量と相関長の対応は模型の中の定義に依るので、ここでは型の比較にとどめます)。

この例から読めることは三つあります。第一に、H の型の問いは数学として立ち、相互作用のある四次元の模型で答えが出た例があります。第二に、答えには対数の補正が付き、帯の文ではなく冪の文の形で成り立っています。H を冪の水準に置いた理由(§07 の寄り道)と同じ事情です。第三に、方法は、共分散を尺度ごとに分け、各尺度の測度のスペクトルギャップを次の尺度のスペクトルギャップから受け渡す、離散の尺度での Brascamp–Lieb の型の帰納です。結論はスペクトルギャップ(Poincaré 不等式)の形で、各尺度でポテンシャルが一様に凸に近いことを仮定に使い、平衡の繰り込みの結果を入力にとります。場が平らな空間に値をとるスカラー場の結果で、ゲージ場ではありません。群に値をとる場へどう移すかは、この部の外の問いとして第 11 部の 11-06 §05 で扱います。

H の行の分類と依存グラフ

(3)〜(6) の言明を、五分類の書式(10-00 §01)で一表にします。行の記号は下の依存グラフの節点と対応します。範囲の欄は、その行が何について言うか(β\beta の範囲・空間の体積・時間の扱い)です。

表 8 仮定 H とその周りの行(「—」はどの範囲でも示されていない仮定の行)
行言明(一行)分類根拠範囲機械検査
HuH↑:a2CP≤Ca^2C_P\le C仮(14)(15)——
HdH↓:a2CP≥ca^2C_P\ge c仮(14)(15)——
PH冪の H:ln⁡CP/ln⁡ξ→2\ln C_P/\ln\xi\to2仮(13)——
CH三つの鎖 (i)(ii)(iii) の帯仮(12)・7-12——
EQ鎖 (i) の等号 CP=1/mlat2C_P=1/m_{\rm lat}^2仮(16) の仮定(自由場の値)——
A1(A1) スペクトルの離散・基底状態の単純さと正値仮命題 B の仮定(原典の言明はこの部では確かめていない)有限の空間格子—
A2(A2) 定常な経路の測度の相関の式典(i)・2-07 §08T=∞T=\infty—
Ku(A3) の κ\kappa が β\beta に一様仮(19) の後の第一の条件(EA\mathcal E_A では結合に依らない数、Eϑ\mathcal E_\vartheta では ∝g2\propto g^2)——
D(D) 離散の時間の増分と勾配の比較、cDc_D が β\beta に一様仮(20)——
IV箱の橋から無限体積の橋へ仮(19) の後の第三の条件(検討していない)——
GS基底状態変換の恒等式 (18)初(iii) の証明有限の空間格子—
B命題 B:CP≥κξ2C_P\ge\kappa\xi^2初(17)・(i)〜(iv)(条件つき:A1・A2・(A3)・連続の時間)有限の空間格子・連続の時間・T=∞T=\inftycont_ratio_closed・one_sided_bridge(仮定:正の数・分散の下界・Dirichlet 形の上界)
B′命題 B′:CP≥2/(cDΔ2)C_P\ge2/(c_D\Delta^2)初(20)(条件つき:D)有限の空間格子・刻み 1 の時間pairSum_closed・disc_limit_ge(仮定:0<Δ0\lt\Delta・0<cD0\lt c_D)
C命題 C:Δ>0\Delta\gt0 で CP=∞C_P=\infty(逆向きの否定)初(23)・例 7円・全ての ℏ\hbarrotor_ratio_unbounded・rotor_gap_pos(骨の算術だけ)
R16(16) 等号の版の読み替え初(16) の証明β≥β0\beta\ge\beta_0hup_is_gap_positivity・hdown_is_mass_finiteness(仮定:mlat>0m_{\rm lat}\gt0・CP=1/mlat2C_P=1/m_{\rm lat}^2・(14) の片側)
R19(19) H↑ と橋から mphys2≥κ/Cm_{\rm phys}^2\ge\kappa/C初(19)β≥β0\beta\ge\beta_0hup_is_gap_positivity_of_lower(仮定:0<mlat0\lt m_{\rm lat}・κ/mlat2≤CP\kappa/m_{\rm lat}^2\le C_P・CP≤Kξ2C_P\le K\xi^2)
LH(21) 冪の下の半分が自動初(21)ξ>1\xi\gt1power_lower_half_of_bridge(仮定:0<κ0\lt\kappa・1<ξ1\lt\xi・κξ2≤CP\kappa\xi^2\le C_P)
CB(22) 鎖の帯の代数初(22)β≥β0\beta\ge\beta_0chain_band・sq_times_poincare_band(仮定:六つの帯の不等式と係数の正)
BB階層的 ∣φ∣44|\varphi|^4_4 の力学のギャップが自由場と同じ冪(対数つき)典例 8(類例。H の行には使わない)階層模型・臨界とその近く—

「初」の行は、どれも仮定の行を入力にとる代数か、仮定を名指した命題です。命題 B は証明をこの節に置いた命題ですが、四次元の Wilson 測度にそのまま当てはまる定理ではありません(時間を刻む場合は D、無限体積は IV、目盛りは Ku が残る)。

[01] 仮 Hu        H↑:a²C_P ≤ C                                   —
[02] 仮 Hd        H↓:a²C_P ≥ c                                   —
[03] 仮 PH        冪の H:ln C_P / ln ξ → 2                        —
[04] 仮 CH        三つの鎖の帯                                     —
[05] 仮 EQ        鎖 (i) の等号 C_P = 1/m_lat²                     —
[06] 仮 A1        スペクトルの離散・基底状態の単純さと正値         有限の空間格子
[07] 典 A2        定常な経路の測度の相関の式                       T=∞
[08] 仮 Ku        κ が β に一様                                    —
[09] 仮 D         離散の時間の比較(c_D が一様)                   —
[10] 仮 IV        箱の橋から無限体積の橋へ                         —
[11] 初 GS        基底状態変換の恒等式 (18) ⟸ [06]                有限の空間格子
[12] 初 命題 B    C_P ≥ κξ² ⟸ [06][07][11]                         連続の時間・T=∞
                  Lean cont_ratio_closed・one_sided_bridge(数の代数だけ)
[13] 初 命題 B′   C_P ≥ 2/(c_D Δ²) ⟸ [06][07][09]                   刻み 1 の時間
                  Lean pairSum_closed・disc_limit_ge
[14] 初 命題 C    円の上で Δ > 0 かつ C_P = ∞                     全ての ħ
                  Lean rotor_ratio_unbounded・rotor_gap_pos(骨の算術だけ)
[15] 初 (16)      H↑ ⇒ m_phys ≥ C^(-1/2)、H↓ ⇒ m_phys ≤ c^(-1/2) ⟸ [01][02][05]
                  Lean hup_is_gap_positivity・hdown_is_mass_finiteness
[16] 初 (19)      m_phys² ≥ κ/C ⟸ [01][08][10][12](時間を刻むなら [12] の代わりに [13])
                  Lean hup_is_gap_positivity_of_lower
[17] 初 (21)      liminf ln C_P / ln ξ ≥ 2 ⟸ [08][12](または [13])
                  Lean power_lower_half_of_bridge
[18] 初 (22)      a²C_P が正の帯に入る ⟸ [04]
                  Lean chain_band・sq_times_poincare_band

確かめ方。全ての「⟸」の行で、右の番号が左の番号より小さいことを目で見ます([11] は [06]、[12] は [06][07][11]、[13] は [06][07][09]、[15] は [01][02][05]、[16] は [01][08][10][12](または [13])、[17] は [08][12](または [13])、[18] は [04])。どの行も規則を守っているので、円はありません。葉の「仮」は [01]〜[06]・[08]〜[10] の九つ、「典」は [07] です。冪の H [03] はどの行の前提にも入っていません。橋があれば冪の H の下の半分は [17] で自動に従い、[03] の中身は上の半分だけになる、というのが (4) の内容です。命題 C [14] は前提を持たない反例で、[16] の逆向きが一般には成り立たないことを示します。

正確には、このグラフは H と質量の関係の組み立ての依存で、H そのものを支える行(一段目では 10-05 §07 のグラフ)は入れていません。全てを一つに繋いだものが 10-12 の統合のグラフです。

07

寄り道:縮尺の回数と四つの時計 — 冪に映らない対数

寄り道

飛ばしてよい節です。仮定 H を帯でなく冪の文に置く理由を、10-00 §05 の三つの比喩(縮尺の回数・時計の目盛り・遅れる時計)の式で見ます。

縮尺の回数 — 記帳の長さ ξRG\xi_{\rm RG}

四次元の格子ヤン–ミルズで ξ\xi を β\beta の関数として式で求める手はありません。そこで地図の縮尺を一段ずつ粗くし、何回で決まった粗さの絵に着くかを数える長さを別に作ります。格子を bb 倍に粗くする一段(繰り込み群の一段、6-05)で、結合が次のように下がると数えます。

β ⟼ β−κ (ln⁡b−δ(b)),κ=113π2≈0.3715(24)\beta\ \longmapsto\ \beta-\kappa\,\bigl(\ln b-\delta(b)\bigr),\qquad \kappa=\frac{11}{3\pi^2}\approx0.3715 \tag{24}

κ\kappa は一ループの係数(漸近的自由性、4-06)を格子の β\beta で書き直したもの 典、δ(b)\delta(b) は一段の記帳で取りこぼす分です(10-02 §02)。決まった値 β∗\beta_* まで下がるのにかかる段数を k(β)k(\beta) として

ξRG=b k(β),a:=1ξRG,ξRG=e(β−β∗)/κ(δ=0)(25)\xi_{\rm RG}=b^{\,k(\beta)},\qquad a:=\frac1{\xi_{\rm RG}},\qquad \xi_{\rm RG}=e^{(\beta-\beta_*)/\kappa}\quad(\delta=0) \tag{25}

と置きます。δ=0\delta=0 なら段数は (β−β∗)/(κln⁡b)(\beta-\beta_*)/(\kappa\ln b) で、ξRG\xi_{\rm RG} は bb に依りません。一ループの次元転移の式(4-07)と同じ形です。

初表 9 縮尺の回数(一ループ・δ=0\delta=0・b=2b=2・例として β∗=2.0\beta_*=2.0。閉じた式 (25) の値)
β\beta段数 kk(半分にする回数)log⁡10ξRG\log_{10}\xi_{\rm RG}
2.51.940.58
47.772.34
615.534.68
1031.079.35
2069.9021.04

β\beta を 1 上げるごとに、半分にする回数が約 3.9 回増えます。β∗\beta_* の選び方は定数倍にしか効きません。ξRG\xi_{\rm RG} は測度から直接決まる長さではなく記帳の約束から決まる長さで、ξ\xi と定数倍で揃うことは鎖 (ii)(iii) の仮定です 仮。記帳を一ループで打ち切ると、二ループの走り(純 SU(N)SU(N) で b1/(2b02)=51/121b_1/(2b_0^2)=51/121)との差が β51/121\beta^{51/121} の因子として残ります 典(摂動論の水準、4-06)。

時計の目盛りと遅れる時計

SU(2)SU(2) のリンクを U=eiϑ⋅σU=e^{i\vartheta\cdot\sigma} と書くと、連続理論の場との関係は A=β ϑA=\sqrt\beta\,\vartheta です。E\mathcal E は微分の二乗なので

EA=Eϑβ,CP(A)=β CP(ϑ),自由近似で  CP(A)=ξ2,  CP(ϑ)=g24 ξ2(26)\mathcal E_A=\frac{\mathcal E_\vartheta}{\beta},\qquad C_P^{(A)}=\beta\,C_P^{(\vartheta)},\qquad \text{自由近似で}\ \ C_P^{(A)}=\xi^2,\ \ C_P^{(\vartheta)}=\frac{g^2}{4}\,\xi^2 \tag{26}

です 初。さらに Langevin の時間そのものが尺度で伸び縮みします。確率量子化(6-09)を摂動論で繰り込むと、場と結合のほかに確率時間の目盛りも乗法的に繰り込まれます 典(摂動論の水準)。その一ループの係数を目盛りの言葉に移すと

CP(A) ∝ ξ2 β13/22,CP(ϑ) ∝ ξ2 β−9/22(27)C_P^{(A)}\ \propto\ \xi^2\,\beta^{13/22},\qquad C_P^{(\vartheta)}\ \propto\ \xi^2\,\beta^{-9/22} \tag{27}

と読めます 仮(一ループの主対数であること、格子の主対数が次元正則化の主対数と一致すること、五次元の理論の乗法的な繰り込み可能性、そして H そのものを前提とした読み)。角度の目盛りの冪 β−9/22\beta^{-9/22} は、Lüscher–Schaefer(2011)が自己相関時間に書く因子 g09/11g_0^{9/11} と同じ冪です。同じ一ループの係数から来るので、独立な確かめではありません。

表 10 は目盛り二通りと遅れの有無二通りの四つの時計で CP/ξ2C_P/\xi^2 を並べたものです。ξ\xi は (25) の ξRG\xi_{\rm RG} で代用し(β∗=0\beta_*=0)、定数は β=2.5\beta=2.5 で 1 に揃えました。冪は dln⁡CP/dln⁡ξ=2+εκ/βd\ln C_P/d\ln\xi=2+\varepsilon\kappa/\beta です。

初表 10 四つの時計(模式。ξ=eβ/κ\xi=e^{\beta/\kappa} と (26)(27) の閉じた式の値)
β\betalog⁡10ξ\log_{10}\xi場 AA(ε=0\varepsilon=0)角度 ϑ\vartheta(ε=−1\varepsilon=-1)場 AA・遅れ(ε=13/22\varepsilon=13/22)角度 ϑ\vartheta・遅れ(ε=−9/22\varepsilon=-9/22)
2.52.921111
44.6810.6251.320.8251
1011.6910.252.2690.5672
100116.9010.0258.8440.2211
10001168.9910.002534.480.0862
冪(β=2.5\beta=2.5)—2.00001.85142.08781.9392
冪(β=100\beta=100)—2.00001.99632.00221.9985

どの時計でも冪は 2 に寄り、定数倍は寄りません。正確には、表 10 は相互作用を一ループの対数の因子だけで表した模式で、四次元の格子ヤン–ミルズの CPC_P を計算したものではありません。目盛り・記帳の次数・確率時間の三つの対数は帯の文を動かし、冪の文 (13) を動かしません。

08

筋のうち手にあるもの — 10-02・10-03 へ

この章の言明を、筋の順に一本の矢印に並べます。

一段の記帳⏟10-02 → H ∧ ∑δ<∞  (S5) → Hband  (S4) → (S3)(S6)(S7)(S8)  問題文の要求(28)\underbrace{\text{一段の記帳}}_{\text{10-02}}\ \xrightarrow{\ \text{H}\,\wedge\,\sum\delta<\infty\ }\ \mathrm{(S5)}\ \xrightarrow{\ \text{H}_{\rm band}\ }\ \mathrm{(S4)}\ \xrightarrow{\ \mathrm{(S3)(S6)(S7)(S8)}\ }\ \text{問題文の要求} \tag{28}

最初の矢印は冪の水準の文で、記帳の取りこぼしの和 ∑δ\sum\delta が有限であることを足したもの(10-02 §02)、次の矢印には帯の文が要ります。(28) のうち手にあるのは最初の箱の一部(一段の記帳の代数)だけで、矢印はどれも証明されていません。紫外の側は有限の箱でも完結しておらず(6-07)、出題者が新しい考えを名指すのは赤外です:'New ideas are needed to prove the existence of a mass gap that is uniform in the volume of space-time.'(Jaffe–Witten §6.5)典。

H が閉じたら何が従うか。§06 のとおり、H↑ が四次元格子で閉じ、片側の橋の仮定(時間を連続に取った格子、または時間を刻む格子での仮定 (D)、κ\kappa が β\beta に一様なこと、箱から無限体積へ移る段)がそろえば、各 β≥β0\beta\ge\beta_0 で格子の物理単位の隙間が (κ/C)1/2(\kappa/C)^{1/2} 以上に留まることが従います((19))。冪の H だけ(帯の文でない)からは、物理単位の隙間は出ません。CPC_P は人工の時間で走る Langevin 力学の隙間の逆数で、転送行列のハミルトニアンの隙間(質量)とは別の量です(表 3 の (α) と (β))。橋はその間の一方向の不等式で、逆向きは一般には成り立ちません(命題 C)。H と橋がそろっても、Δ(β)\Delta(\beta) が極限を持つこと、極限の存在 (S1)(S3)、OS 公理と再構成 (S6)(S7)、非自明性 (S8) は従いません。また一段目(二重井戸)で H が閉じても、四次元格子の H への含意の定理は無く、持ち上がる見込みは文の形と道具の形だけです(10-03 §06)。

(28) の矢印を四次元格子のまま押した道と、それぞれが止まった場所は 10-02 にまとめます。そこで見るとおり、H↓ の側(ある ff)には届く道がいくつも在り、H↑ の側(すべての ff)には届く道具が見つかっていません。仮定 H は次元によらない文なので、同じ文を H の成り立つことが見込まれる最小の模型に移し、上の側の組み立てを先に作るのが階段の一段目です(10-03)。


この章が言えている範囲

言えている言えていない
典 八つの言明の割り方と四次元の現状(表 1)、問題文の脚注と §6.5、Problem 5.1 の向き、強結合の定理(表 7)、三つの CPC_P の (α) と隙間の関係、(9) の凸性と摂動の判定、階層的 ∣φ∣44|\varphi|^4_4 の力学のギャップ(例 8、類例として)大きい β\beta の (S1)、(S3)(S4)(S6)(S8)。この章は何も示していない
初 一様な格子の隙間は物理の質量の発散((5))、自由場で (S4) と (S5) が同じこと((8)・表 4)、帯と冪の関係((11)・例 4)、量化子の非対称((15))、例 1〜7 の手の計算、目盛りの換算 (26)、表 9・表 10 の閉じた式の値相互作用のある理論で (S4) と (S5) を結ぶこと(仮定 H・帯の文)
初 命題 B(片側の橋 CP≥κξ2C_P\ge\kappa\xi^2。条件:(A1)〜(A3)・連続の時間・有限の空間格子・T=∞T=\infty)と命題 B′(条件:(D))、基底状態変換の恒等式 (18)、命題 C(円の上で Δ>0\Delta\gt0 かつ CP=∞C_P=\infty)橋を四次元の Wilson 測度に当てはめること(時間を刻む場合の (D)・κ\kappa の一様さ・無限体積の段)。Wilson 測度の類の中で「隙間が正 ⇒ H↑」が偽かどうか
初 H↑・H↓ を質量の下界・上界に読み替える代数((16))Leanhup_is_gap_positivity・hdown_is_mass_finiteness(仮定:mlat>0m_{\rm lat}\gt0・CP=1/mlat2C_P=1/m_{\rm lat}^2・(14) の片側)。片側に弱めた版 (19) hup_is_gap_positivity_of_lower(仮定:0<mlat0\lt m_{\rm lat}・κ/mlat2≤CP\kappa/m_{\rm lat}^2\le C_P・CP≤Kξ2C_P\le K\xi^2)。冪の下の半分 (21) power_lower_half_of_bridge(仮定:0<κ0\lt\kappa・1<ξ1\lt\xi・κξ2≤CP\kappa\xi^2\le C_P)。鎖の帯の代数 (22) chain_band(仮定:六つの帯の不等式)仮定 H・H↑・H↓・三つの鎖そのもの。CP=1/mlat2C_P=1/m_{\rm lat}^2 が相互作用のある理論で成り立つこと
読 原典の Monte Carlo の値で Δ/σ\Delta/\sqrt\sigma がほぼ一定(表 2)、表 7 の ξ\xi の目安外挿値が構成された理論の値であること
仮 確率時間の指数 13/2213/22・−9/22-9/22(一ループ・前提つきの読み)、ξRG\xi_{\rm RG} と ξ\xi が定数倍で揃うこと、表 8 の仮の行その指数が四次元の格子ヤン–ミルズの CPC_P に当てはまること。質量ギャップ・連続極限について、この章は何も示さない

出典と再現

もの種別出典・道具
問題文・脚注・§6.5典A. Jaffe, E. Witten, Quantum Yang–Mills Theory, Clay Mathematics Institute (2000)。本文を確認(0-03 の出典表)。
Problem 5.1・5.2・(S1) の現状典S. Chatterjee, arXiv:1803.01950 §3・§5(Springer Proc. Math. Stat. 283, 2019)。本文を確認。
強結合の一様評価と条件の換算典H. Shen, R. Zhu, X. Zhu, Commun. Math. Phys. 400 (2023) 805–851, arXiv:2204.12737(要旨・§1・式 (1.2) を確認)。K. Osterwalder, E. Seiler, Ann. Phys. 110 (1978) 440(書誌のみ)。
転送作用素・OS 再構成・ϕ44\phi^4_4 の自明性典M. Lüscher, Commun. Math. Phys. 54 (1977) 283。K. Osterwalder, R. Schrader, Commun. Math. Phys. 31 (1973) 83・42 (1975) 281。M. Aizenman, H. Duminil-Copin, Ann. of Math. 194 (2021) 163。書誌のみ(各章の出典表)。
(9) の凸性の判定と有界な摂動典D. Bakry, M. Émery, LNM 1123 (1985)。Holley–Stroock の摂動の補題は M. Ledoux の再述で型を確認。書誌は 10-06 の出典表。
表 2 の値読B. Lucini, M. Teper, JHEP 0106 (2001) 050, hep-lat/0103027 表 1・表 5(本文を確認)。比は割り算と誤差の伝播。
表 4・表 9・表 10・例 1〜7・(8)(11)(26)初閉じた式 CP=1/m2C_P=1/m^2・m2=2(cosh⁡(1/ξ)−1)m^2=2(\cosh(1/\xi)-1)・CP(L)=1/(2(1−cos⁡(π/L)))C_P(L)=1/(2(1-\cos(\pi/L)))・(25)〜(27) の値と、本文の手の計算。
命題 B・B′・C と (18)初本文 §06 の証明。命題 B の相関の式は 2-07 §08、Itô の等長性は既知の事実として引く。同じ形の主張が文献にあるかは確かめていない。
階層的 ∣φ∣44|\varphi|^4_4 の力学のギャップ典R. Bauerschmidt, T. Bodineau, Commun. Math. Phys. 373 (2020) 1167–1206, arXiv:1809.02075(要旨と §1〜§2 を確認。方法は離散の尺度での Brascamp–Lieb の型の帰納、結論はスペクトルギャップ)。
一ループ・二ループの係数典D. J. Gross, F. Wilczek, Phys. Rev. Lett. 30 (1973) 1343。H. D. Politzer, 同 1346(書誌のみ。4-06 の出典表)。
確率時間の繰り込みと (27)典・仮L. Baulieu, D. Zwanziger, Nucl. Phys. B 581 (2000) 604, arXiv:hep-th/9909006。M. Lüscher, S. Schaefer, JHEP 04 (2011) 104, arXiv:1103.1810。J. Zinn-Justin, D. Zwanziger, Nucl. Phys. B 295 (1988) 297(要旨のみ)。(27) の読みの前提は §07 の本文。
(15)(16)(19)(21)(22) の代数と Lean の定理初・Lean定理 hup_is_gap_positivity・hdown_is_mass_finiteness・chain_band・sq_times_poincare_band(束 LatticeGaugeOneScale)、exponent_invariant_of_slowly_varying(束 LatticeGaugePoincareNormalisation)、hup_is_gap_positivity_of_lower・hup_is_gap_positivity_recovered・power_lower_half_of_bridge・cont_ratio_closed・one_sided_bridge・pairSum_closed・disc_limit_ge・rotor_ratio_unbounded・rotor_gap_pos(束 LatticeGaugeHupBridge)。言明と仮定は 10-13。
§05 の注(位相の区画と体積の順)読・典・仮L. Del Debbio, H. Panagopoulos, E. Vicari, arXiv:hep-th/0204125 §2。S. Schaefer, R. Sommer, F. Virotta, Nucl. Phys. B 845 (2011) 93, arXiv:1009.5228 §4.1・§5。C. Bonanno, C. Bonati, M. D'Elia, arXiv:2012.14000v2 §1・図 4。M. Abe, O. Morikawa, H. Suzuki, PTEP 2025 (2025) 063B03, arXiv:2501.00286 §3.2・図 6(SU(2)SU(2)・HMC)。M. Lüscher, S. Schaefer, JHEP 07 (2011) 036, arXiv:1105.4749 §3・§5.3。τint≤CP\tau_{\rm int}\le C_P は 10-02 §05 の Lean の定理。
(S1)〜(S8)・仮定 H・帯の文・三つの鎖・(A1)・(D)仮・約束この部の定式化。三つの鎖の出どころは 7-12。読みの一覧は A-06。

この章で使った語 — 八つの言明 (S1)〜(S8)・格子版の質量ギャップ・Poincaré 定数(三つの CPC_P)・仮定 H(冪の H)・帯の文・H↑ と H↓・三つの鎖・片側の橋(命題 B・B′)・基底状態変換の恒等式・巻き数の反例(命題 C)・記帳の長さ ξRG\xi_{\rm RG}・目盛り(E\mathcal E の正規化)・確率時間の繰り込み・条件 (H1)〜(H4)(名前だけ)。意味は A-02 用語集 にあります。

次の章へ — 10-02 四次元格子で試した道と壁:(28) の矢印を四次元格子のまま押した十七の道と二十一の壁を一枚にし、下からは届くが上からは届かないこと、だから一段目へ降りることを見る。一段目へ直接進むなら 10-03 階段の四段。

← 10-00 入口 — 階段と、酔歩・物差し・時計目次10-02 四次元格子で試した道と壁 →

改訂 2026-10-09:第 10 部の章立ての見直しに合わせて書き直した版(旧 10-01 の構成の筋、旧 10-03 の仮定 H の定義、旧 10-00 の縮尺と時計を一章にした)。