computo ergo sum

2026-10-15 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 12 部 二本目の道:空間の方向から捩れ・区画・流束の自由エネルギー · Kiichi, Shiori and Rin

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道:四次元でだけ起きること
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道:イジング模型で見るギャップと相関長
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道:Donaldson とエキゾチック R⁴
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道:摂動級数は発散する
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道:Bakry–Émery と一リンク積分
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道:「1/0 に記号を与えれば」
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 地図
  97. 第 9 部 現在地と課題
  98. 9-01 世界はどこまで来ているか
  99. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  100. 9-03 新しい概念の候補
  101. 9-04 課題の一覧
  102. 9-05 よくある誤解
  103. 9-06 証明が含むべき段 — 七段の表
  104. 一本目の道 — 時間の方向から
  105. 第 10 部 一本目の道(前半)— 時間の方向から:質量ギャップと拡散型緩和時間の仮定
  106. 10-00 入口 — 階段と、酔歩・物差し・時計
  107. 10-01 構成の筋と仮定 ξ²
  108. 10-02 四次元格子で試した道と壁
  109. 10-03 階段の四段 — なぜ 0+1 次元から始めるか
  110. 10-04 二重井戸の経路の測度とキンク
  111. 10-05 一段目の言明 — 四条件と命題 4.5
  112. 10-06 (H1) 相の中の局所 Poincaré
  113. 10-07 (H2) の地図 — 七つの道筋と環の継ぎ目
  114. 10-08 計算機援用とは何か — 窓の中の鎖の条件
  115. 10-09 区画の枠組みと道筋 5 の三本の筋
  116. 10-10 迂回策の一覧 — 壊れ方の型
  117. 10-11 (H3)(H4) と芯の定数
  118. 10-12 統合表と依存グラフ
  119. 10-13 Lean の言明と機械検査の限界
  120. 10-14 突き合わせ — 記録の数と既知の数
  121. 10-15 残件と費用 — 定理までの距離
  122. 10-16 主張しないこと
  123. 10-17 ひらめきと小さな問い
  124. 第 11 部 一本目の道(後半)— 仮定の形を直し、時間を連続にする
  125. 11-00 今後の考察 — 入口
  126. 11-01 仮定 ξ² を妨げる一つの形 — ほぼ保存される大域の量
  127. 11-02 物差しと座標を選び直す — 保存が壊れる長さ
  128. 11-03 仮定 ξ² を直す二つの形 — 区画の仮定 ξ² と局所の仮定 ξ²
  129. 11-04 片側の橋はどの仮定 ξ² を要るか
  130. 11-05 時間を連続にする — Hamiltonian 格子と真空の測度
  131. 11-06 凸性の代わりに稀さで払う — 群の上の繰り込みと対数 Sobolev
  132. 11-07 四次元だからこそ — 無次元の結合と位相
  133. 11-08 問いと、主張しないこと
  134. 11-A1 第 11 部の記号の対応表
  135. 二本目の道 — 空間の方向から
  136. 第 12 部 二本目の道:空間の方向から — 小さな捩れた T² と閉じ込め
  137. 12-00 入口 — 時間でなく空間を
  138. 12-01 捩れた T² と 't Hooft の流束
  139. 12-02 渦と分数インスタントン
  140. 12-03 容器 — 枠を条件づけると独立になる
  141. 12-04 板の閉じ込め
  142. 12-05 渦の挿入の恒等式
  143. 12-06 力学で駆動した挿入と流れの補題
  144. 12-07 なぜ決まった写像は失敗するか
  145. 12-08 測った記録
  146. 12-09 この道が止まる場所 — T² を広げることが帯である
  147. 移り変わりの帯 — 二本の道が同じ壁に着く
  148. 第 13 部 移り変わりの帯 — 二本の道が同じ壁に着く
  149. 13-00 入口 — 合流
  150. 13-01 帯の正しい形
  151. 13-02 一つの不等式への還元
  152. 13-03 非可換が効く唯一の場所
  153. 13-04 構造だけでは渡れない
  154. 13-05 チェス盤と同時の反転
  155. 13-06 繰り込みの比較 — 群を区別する比較
  156. 13-07 時間の側から見た帯
  157. 13-08 試して止まった道の地図
  158. 13-09 測った記録
  159. 13-10 新しい見方の候補
  160. 13-11 紫外の制御 — 無限個の段で閉じるとは何か
  161. 閉じる
  162. 第 14 部 閉じる — 条件つきの言明
  163. 14-00 入口 — この部の約束
  164. 14-01 条件つきの言明 — 質量ギャップと閉じ込めを矢印ごとに
  165. 14-02 条件の台帳
  166. 14-03 問いの表(横断の索引)
  167. 14-04 主張しないこと(横断の索引)
  168. 付録
  169. A-01 記号表
  170. A-02 用語集
  171. A-03 文献案内
  172. A-04 Lean と機械検査
  173. A-05 この本の作り方
  174. A-06 仮定の索引
  175. A-07 この本から出た論文

捩れた T² と 't Hooft の流束

この章で分かること — 第 12 部の舞台を定義します。格子 (Z/N)2×(Z/M)2(\mathbb Z/N)^2\times(\mathbb Z/M)^2 の上の SU(2)SU(2) Wilson 作用に、小さな T2T^2 の平面の 't Hooft の捩れ n12=1n_{12}=1 を入れ、平面の方向の流束 n34n_{34} の二つの区画、その分配関数の比(流束の自由エネルギー)、二つの区画を一つの測度にまとめた捩れの和のアンサンブルを置きます。そのうえで、この道の土台になる三つの初等的な事実 — (1) 作用 0 の配位(捩れを食う真空)の一意性、(2) その周りの随伴の場の反周期性と、格子の二次元 Laplacian のギャップ 4sin⁡2(π/2N)4\sin^2(\pi/2N)、(3) (1,1)(1,1) の区画には平坦な配位が無く最小作用が正 — を証明つきで述べます。

前提となる章 — 12-00(この部の入口と記号)・5-01(リンク変数・プラケット・Wilson 作用)・1-04(SU(2)SU(2) と Pauli 行列)・3-05(位相電荷)・7-02 中心渦。

先に言うこと — この章の言明は全て、群 SU(2)SU(2)・有限の格子・NN を固定・捩れ n12=1n_{12}=1 の上の文です。連続極限・格子間隔に一様な評価・閉じ込めについては何も言いません。定義の多くは 't Hooft(1979・1981)と Mack–Petkova(1980)の型の既知のもので 典、三つの事実は初等的で、証明を本文に置きます 初。三つとも物理の文献では知られた事柄の格子版で、新しさは主張しません。

この章の順序
  1. 設定 — 格子・作用・符号の場 z
  2. 区画と流束の自由エネルギー — 補題 1(面を動かす)・定義 2
  3. 捩れの和のアンサンブル — 命題 3(偏り θ を一つの期待値に)
  4. 中心の値のプラケットと holonomy — 補題 4・補題 5
  5. 事実 1 — 捩れを食う真空の一意性
  6. 事実 2 — 随伴の場の反周期性とギャップ
  7. 事実 3 — (1,1) の区画には平坦な配位が無い
  8. 三つの事実が言うこと
  9. 言えないこと
  10. 五分類の表と依存グラフ(表 1)

01

設定 — 格子・作用・符号の場 z

格子を Λ=(Z/N)2×(Z/M)2\Lambda=(\mathbb Z/N)^2\times(\mathbb Z/M)^2(N,M≥2N,M\ge2)とします。1・2 の方向が小さな T2T^2、3・4 の方向が平面です。各リンク (x,μ)(x,\mu) に Ux,μ∈SU(2)U_{x,\mu}\in SU(2) を置き、プラケット p=(x;μ,ν)p=(x;\mu,\nu)(μ<ν\mu\lt\nu)の値を

Up=Ux,μ Ux+μ^,ν Ux+ν^,μ−1 Ux,ν−1(1)U_p=U_{x,\mu}\,U_{x+\hat\mu,\nu}\,U_{x+\hat\nu,\mu}^{-1}\,U_{x,\nu}^{-1} \tag{1}

と書きます(5-01 と同じ)。プラケットごとの符号 zp∈{+1,−1}z_p\in\{+1,-1\} を与えたとき、作用と分配関数を

Sz(U)=∑p(1−12 zptr⁡Up),Z[z]=∫e−βSz(U)∏ℓdUℓ,β=4g2(2)S^z(U)=\sum_p\Bigl(1-\tfrac12\,z_p\operatorname{tr}U_p\Bigr),\qquad Z[z]=\int e^{-\beta S^z(U)}\prod_{\ell}dU_\ell,\qquad \beta=\frac4{g^2} \tag{2}

と置きます。dUℓdU_\ell は正規化した Haar 測度です。z≡+1z\equiv+1 なら (2) は 5-01 の Wilson 作用そのもので、各項は ∣tr⁡U∣≤2|\operatorname{tr}U|\le2 から [0,2][0,2] に入ります。zp=−1z_p=-1 のプラケットは「中心の元 −1-1 を一つ差し込んだプラケット」で、そこでは Up=−1U_p=-1 のとき作用が 0 になります。

二つの区画の符号。小さな T2T^2 の捩れを、各 (1,2)(1,2) 平面(x3,x4x_3,x_4 を止めた N×NN\times N の平面)のちょうど一枚のプラケット、(x1,x2)=(N−1,N−1)(x_1,x_2)=(N-1,N-1) の (1,2)(1,2) プラケットに zp=−1z_p=-1 を置くことで入れます。全ての (x3,x4)(x_3,x_4) で同じ位置です。これを z(0)z^{(0)} と書きます(他は全て +1+1)。平面の方向の流束を一つ足した符号 z(1)z^{(1)} は、z(0)z^{(0)} に加えて、平面の単位の正方形 q=(q3,q4)q=(q_3,q_4) の上の面

Πq={ ((x1,x2,q3,q4);3,4)  :  x1,x2∈Z/N }(3)\Pi_q=\{\,((x_1,x_2,q_3,q_4);3,4)\;:\;x_1,x_2\in\mathbb Z/N\,\} \tag{3}

の N2N^2 枚の (3,4)(3,4) プラケットに zp=−1z_p=-1 を置いたものです。Πq\Pi_q は平面の点 qq の上に立つ「T2T^2 を巻く面」で、平面の中では点のように振る舞います(12-00 §03 の理由 2)。

02

区画と流束の自由エネルギー

面の置き場所 qq は分配関数に効きません。それを示すのが次の補題です。

補題 1(面を動かす) 初 リンク ℓ\ell について、ℓ\ell を含む全てのプラケットの符号を反転した場を δℓz\delta_\ell z と書くと、Z[δℓz]=Z[z]Z[\delta_\ell z]=Z[z]。特に、(a) 面 Πq\Pi_q は隣の正方形の面 Πq′\Pi_{q'} へ動かせ、z(1)z^{(1)} の分配関数は qq によらない。(b) 面の集合 QQ の上に面を置いた符号 z(0)∏q∈Q(面 Πq)z^{(0)}\prod_{q\in Q}(\text{面 }\Pi_q) の分配関数は、∣Q∣|Q| の偶奇だけで決まる。

証明。変数の取り替え Uℓ↦−UℓU_\ell\mapsto-U_\ell は Haar 測度を保ちます。−1-1 は中心の元なので、ℓ\ell を一度だけ含むプラケットでは UpU_p が −Up-U_p に変わり、他のプラケットは変わりません(格子のプラケットは一つのリンクを高々一度含みます)。よって Sδℓz(−Uℓ,…)=Sz(U)S^{\delta_\ell z}(-U_\ell,\ldots)=S^z(U) で、積分は等しくなります。(a):平面の点 (a,b+1)(a,b+1) の上の 3 方向のリンク全て(x1,x2x_1,x_2 を走らせた N2N^2 本)に補題を順に使います。(3,4)(3,4) プラケットでこれらのリンクを含むのは、Π(a,b)\Pi_{(a,b)} と Π(a,b+1)\Pi_{(a,b+1)} の上のものだけで、それぞれちょうど一本を含みます。(μ,3)(\mu,3) プラケット(μ≤2\mu\le2)は 3 方向のリンクを二本含み、その両方が同じ平面の点の上にあるので、符号は二度反転して元に戻ります。他のプラケットは 3 方向のリンクを含みません。よって二枚の面 Π(a,b)\Pi_{(a,b)} と Π(a,b+1)\Pi_{(a,b+1)} の符号が反転し、面は一つ隣へ動きます。4 方向も同じです。(b):面を動かして二枚を重ねると (−1)2=+1(-1)^2=+1 で消えるので、(a) と平面の正方形の連結性から従います。∎

補題 1 は 't Hooft の捩れの格子版の基本の性質で、zz の場そのものではなく、各平面を貫く −1-1 の個数の偶奇(流束 nμν∈{0,1}n_{\mu\nu}\in\{0,1\})だけが分配関数に効くことを言っています 典(一般の形は 't Hooft 1979、格子の Z2\mathbb Z_2 の符号の場による形は Mack–Petkova 1980)。この章で使うのは (a)・(b) の場合だけです。

定義 2(区画と流束の自由エネルギー) Z(0)=Z[z(0)]Z(0)=Z[z^{(0)}]、Z(1)=Z[z(1)]Z(1)=Z[z^{(1)}] と書き、流束の組 (n12,n34)=(1,0)(n_{12},n_{34})=(1,0) と (1,1)(1,1) をそれぞれ区画と呼びます。混ざった平面((1,3)(1,3) など)の流束は 0 とします。そのうえで

ΔF=ln⁡Z(0)Z(1),θ(N,M,β)=Z(0)−Z(1)Z(0)+Z(1)=tanh⁡ΔF2(4)\Delta F=\ln\frac{Z(0)}{Z(1)},\qquad \theta(N,M,\beta)=\frac{Z(0)-Z(1)}{Z(0)+Z(1)}=\tanh\frac{\Delta F}{2} \tag{4}

と置きます。ΔF\Delta F は平面の方向の流束 n34n_{34} を一つ入れる自由エネルギーの差('t Hooft の流束の自由エネルギー)、θ\theta は二つの区画の「偏り」です。(4) の右の等式は (1−e−ΔF)/(1+e−ΔF)=tanh⁡(ΔF/2)(1-e^{-\Delta F})/(1+e^{-\Delta F})=\tanh(\Delta F/2) からです。Z(0),Z(1)>0Z(0),Z(1)\gt0 なので ∣θ∣<1|\theta|\lt1 です。θ≥0\theta\ge0(つまり Z(1)≤Z(0)Z(1)\le Z(0))は転送行列による別の議論が要り、13-04 で扱います。

この量が閉じ込めに効く理由は、Tomboulis–Yaffe の不等式が、平面の Wilson ループの期待値を捩れた分配関数の比で上から押さえることにあります 典。θ\theta が平面の大きさ MM について −ln⁡θ≥cM2-\ln\theta\ge cM^2 と減れば、その不等式を通して面積則が出ます。不等式の正確な形と、θ\theta が 1 から離れるだけでは足りないことは 13-01 で扱います。

03

捩れの和のアンサンブル

二つの区画を別々の測度として持つ代わりに、面の置き方も確率変数にした一つの測度にまとめます。平面の単位の正方形の全体を TT(M2M^2 個)とし、部分集合 Q⊂TQ\subset T ごとに符号 zQ=z(0)∏q∈Q(Πq の上で −1)z^Q=z^{(0)}\prod_{q\in Q}(\Pi_q\text{ の上で }-1) を作ります。

定義(捩れの和のアンサンブル) 典 配位と面の集合の組 (U,Q)(U,Q) の上の確率測度

μ~(dU,Q)=1Ξ e−βSzQ(U)∏ℓdUℓ,Ξ=∑Q⊂TZ[zQ](5)\tilde\mu(dU,Q)=\frac1{\Xi}\,e^{-\beta S^{z^Q}(U)}\prod_\ell dU_\ell,\qquad \Xi=\sum_{Q\subset T}Z[z^Q] \tag{5}

を捩れの和のアンサンブルと呼びます。プラケットの Z2\mathbb Z_2 の符号を確率変数として足し上げる形は Mack–Petkova(1980)の表示の型で、彼らは閉じた(各立方体の六枚の積が +1+1 の)符号の場の全体で足し上げています。ここでは平面の流束 n34n_{34} に関わる面だけを足す、小さな形を使います。

命題 3(偏りを一つの期待値に) 初 θ=Eμ~[(−1)∣Q∣]\displaystyle \theta=\mathbb E_{\tilde\mu}\bigl[(-1)^{|Q|}\bigr]。

証明。補題 1 (b) から Z[zQ]Z[z^Q] は ∣Q∣|Q| が偶数なら Z(0)Z(0)、奇数なら Z(1)Z(1) です。TT の 2M22^{M^2} 個の部分集合のうち、ちょうど半分が偶数個です。よって Ξ=2M2−1(Z(0)+Z(1))\Xi=2^{M^2-1}(Z(0)+Z(1))、∑Q(−1)∣Q∣Z[zQ]=2M2−1(Z(0)−Z(1))\sum_Q(-1)^{|Q|}Z[z^Q]=2^{M^2-1}(Z(0)-Z(1)) で、比が (4) の θ\theta です。∎

命題 3 の表示では、面の置き方 QQ は平面の点の上の「渦がいるか」の記録で、(−1)∣Q∣(-1)^{|Q|} は平面全体の渦の数の偶奇です。偏り θ\theta が小さいとは、偶奇がほぼ公平に混ざっていること、つまり渦が平面の中に自由に湧いていることです。R4\mathbb R^4 では、ループと絡む渦の面は広がった面で、この「点の上の記録」の形には書けません(12-00 §03)。この表示は、平面をブロックに分けて柱ごとの偏りの積に書き直す形(容器の恒等式、12-03)と、渦を一つ差し込む写像の恒等式(12-05)の出発点になります。

04

中心の値のプラケットと holonomy

三つの事実の証明は、全てのプラケットが中心の値(±1\pm1)を取る配位の性質に帰着します。まず、作用 0 がそれと同じことを確かめます。

補題 4(作用 0 の配位) 初 Sz(U)=0S^z(U)=0 であるための必要十分条件は、全てのプラケットで Up=zp⋅1U_p=z_p\cdot\mathbf 1 となることです。

証明。SU(2)SU(2) の元は U=cos⁡α 1+isin⁡α (n⋅σ)U=\cos\alpha\,\mathbf 1+i\sin\alpha\,(n\cdot\sigma)(∣n∣=1|n|=1)と書け、tr⁡U=2cos⁡α\operatorname{tr}U=2\cos\alpha です(1-04)。(2) の各項 1−12zptr⁡Up=1−zpcos⁡αp1-\tfrac12z_p\operatorname{tr}U_p=1-z_p\cos\alpha_p は 0 以上で、0 になるのは zpcos⁡αp=1z_p\cos\alpha_p=1、つまり zp=1z_p=1 なら αp=0\alpha_p=0(Up=1U_p=\mathbf 1)、zp=−1z_p=-1 なら αp=π\alpha_p=\pi(Up=−1U_p=-\mathbf 1)のときだけです。∎

次に、プラケットが全て中心の値なら、平面を一周する holonomy どうしの交換子は、その平面の符号の積で決まります。基点 xx から μ\mu の方向へ一周する直線の道に沿ったリンクの積を Pμ(x)P_\mu(x) と書きます(μ=1,2\mu=1,2 なら長さ NN、μ=3,4\mu=3,4 なら長さ MM)。

補題 5(交換子は平面の符号の積) 初 全てのプラケットで Up=zp⋅1U_p=z_p\cdot\mathbf 1 なら、μ≠ν\mu\ne\nu と基点 xx について

Pμ(x) Pν(x) Pμ(x)−1 Pν(x)−1=εμν 1,εμν=∏p ⊂ (μ,ν) 平面 ∋xzp(6)P_\mu(x)\,P_\nu(x)\,P_\mu(x)^{-1}\,P_\nu(x)^{-1}=\varepsilon_{\mu\nu}\,\mathbf 1,\qquad \varepsilon_{\mu\nu}=\prod_{p\,\subset\,(\mu,\nu)\text{ 平面 }\ni x}z_p \tag{6}

が成り立ちます。右の積は xx を通る (μ,ν)(\mu,\nu) 平面(二次元のトーラス)の全てのプラケットにわたります。

証明。xx を通る (μ,ν)(\mu,\nu) 平面を、xx を角に置いた正方形 RR に切り開きます。RR の境界を xx から反時計回りに一周する道は、μ\mu の方向の一周・ν\nu の方向の一周・μ\mu の方向の逆向きの一周・ν\nu の方向の逆向きの一周をこの順に並べたもので、その holonomy が (6) の左辺です。一方、正方形の格子の円板では、境界の holonomy は、各プラケットの値を基点への道で平行移動して共役したものの、ある順序の積に等しくなります(格子の非可換 Stokes の定理:プラケットを一枚ずつ剥がして境界の道を縮める、帰納法)。全てのプラケットの値が中心の元 zp1z_p\mathbf 1 なら、共役で値は変わらず、順序にもよらないので、積は ∏p⊂Rzp\prod_{p\subset R}z_p です。∎

z(0)z^{(0)} では、(1,2)(1,2) 平面は全て一枚だけ −1-1 を持つので ε12=−1\varepsilon_{12}=-1、他の平面は ε=+1\varepsilon=+1 です。z(1)z^{(1)} では、さらに (3,4)(3,4) 平面がちょうど一枚(面 Πq\Pi_q と交わる一枚)の −1-1 を持つので ε34=−1\varepsilon_{34}=-1 です。これは、連続理論の 't Hooft の捩れた境界条件で、二つの方向の貼り合わせの整合が中心の元 eπinμνe^{\pi i n_{\mu\nu}} だけずれる、という関係の格子版です 典('t Hooft 1979)。

最後に、holonomy が配位をどこまで決めるかを述べます。

補題 6(holonomy で決まる) 初 同じ zz について Up=zp1U_p=z_p\mathbf 1(全ての pp)を満たす二つの配位 U,U′U,U' が、基点 0 での四つの holonomy を一致させる(Pμ=Pμ′P_\mu=P'_\mu、μ=1,…,4\mu=1,\ldots,4)なら、U′U' は UU のゲージ変換です。

証明。各格子点 xx に、0 から xx への決まった道 γx\gamma_x(1 の方向、2 の方向、3 の方向、4 の方向の順に正の向きへ進む道)を選び、道に沿った積を U(γx)U(\gamma_x) と書きます。リンク ℓ=(x→y)\ell=(x\to y) について、閉じた道 cℓ=γx ℓ γy−1c_\ell=\gamma_x\,\ell\,\gamma_y^{-1} を考えます。トーラスの格子の二次元の骨格では、0 を基点とする閉じた道は、有限枚のプラケットを掃くことで、四つの直線の一周の語に変形できます(π1(T4)=Z4\pi_1(T^4)=\mathbb Z^4 の格子版、標準の位相の事実 典)。変形で掃いたプラケットは中心の値なので、cℓc_\ell の holonomy は「掃いたプラケットの zz の積」と「PμP_\mu の語」の積で、どちらも UU と U′U' で同じです。よって U(γx)UℓU(γy)−1=U′(γx)Uℓ′U′(γy)−1U(\gamma_x)U_\ell U(\gamma_y)^{-1}=U'(\gamma_x)U'_\ell U'(\gamma_y)^{-1}、すなわち g(x)=U′(γx)−1U(γx)g(x)=U'(\gamma_x)^{-1}U(\gamma_x) と置くと Uℓ′=g(x) Uℓ g(y)−1U'_\ell=g(x)\,U_\ell\,g(y)^{-1} です。∎

05

事実 1 — 捩れを食う真空の一意性

捩れを食う配位。Ω1=iσ1\Omega_1=i\sigma_1、Ω2=iσ2\Omega_2=i\sigma_2 と置き、配位 U0U^0 を次で定めます。1 の方向のリンクは x1=N−1x_1=N-1 のもの(T2T^2 の継ぎ目を渡るもの)だけ Ω1\Omega_1、2 の方向のリンクは x2=N−1x_2=N-1 のものだけ Ω2\Omega_2、他のリンク(3・4 の方向を含む)は全て 1\mathbf 1 とします。

補題 7 初 Ω1Ω2Ω1−1Ω2−1=−1\Omega_1\Omega_2\Omega_1^{-1}\Omega_2^{-1}=-\mathbf 1。また U0U^0 のプラケットは、(x1,x2)=(N−1,N−1)(x_1,x_2)=(N-1,N-1) の (1,2)(1,2) プラケットだけが −1-\mathbf 1 で、他は全て 1\mathbf 1 です。よって Sz(0)(U0)=0S^{z^{(0)}}(U^0)=0。

証明。σ1σ2=iσ3=−σ2σ1\sigma_1\sigma_2=i\sigma_3=-\sigma_2\sigma_1 から Ω1Ω2=−σ1σ2=−iσ3\Omega_1\Omega_2=-\sigma_1\sigma_2=-i\sigma_3、Ω1−1Ω2−1=(−iσ1)(−iσ2)=−iσ3\Omega_1^{-1}\Omega_2^{-1}=(-i\sigma_1)(-i\sigma_2)=-i\sigma_3 で、積は (−iσ3)2=−1(-i\sigma_3)^2=-\mathbf 1。プラケット (1) を見ると、継ぎ目を含まない (1,2)(1,2) プラケットは全て 1\mathbf 1。x1=N−1x_1=N-1、x2≠N−1x_2\ne N-1 では Ω1⋅1⋅Ω1−1⋅1=1\Omega_1\cdot\mathbf 1\cdot\Omega_1^{-1}\cdot\mathbf 1=\mathbf 1、x2=N−1x_2=N-1、x1≠N−1x_1\ne N-1 では 1⋅Ω2⋅1⋅Ω2−1=1\mathbf 1\cdot\Omega_2\cdot\mathbf 1\cdot\Omega_2^{-1}=\mathbf 1、角 (N−1,N−1)(N-1,N-1) では Ω1Ω2Ω1−1Ω2−1=−1\Omega_1\Omega_2\Omega_1^{-1}\Omega_2^{-1}=-\mathbf 1。1・2 の方向のリンクは x3,x4x_3,x_4 によらないので、3・4 の方向を含むプラケットは全て 1\mathbf 1。補題 4 から作用は 0 です。∎

補題 8(反可換な対) 初 A,B∈SU(2)A,B\in SU(2) が ABA−1B−1=−1ABA^{-1}B^{-1}=-\mathbf 1 を満たすなら、ある g∈SU(2)g\in SU(2) で gAg−1=iσ1gAg^{-1}=i\sigma_1、gBg−1=iσ2gBg^{-1}=i\sigma_2 となります。また、iσ1i\sigma_1 と iσ2i\sigma_2 の両方と可換な SU(2)SU(2) の元は ±1\pm\mathbf 1 だけです。

証明。ABA−1=−BABA^{-1}=-B の跡を取ると tr⁡B=−tr⁡B\operatorname{tr}B=-\operatorname{tr}B、よって tr⁡B=0\operatorname{tr}B=0 で B=i b⋅σB=i\,b\cdot\sigma(∣b∣=1|b|=1)。同様に BAB−1=−ABAB^{-1}=-A から A=i a⋅σA=i\,a\cdot\sigma。(a⋅σ)(b⋅σ)=(a⋅b)1+i(a×b)⋅σ(a\cdot\sigma)(b\cdot\sigma)=(a\cdot b)\mathbf 1+i(a\times b)\cdot\sigma なので、AB=−BAAB=-BA は a⋅b=0a\cdot b=0 と同値です。直交する単位ベクトルの組 (a,b)(a,b) は、回転 R∈SO(3)R\in SO(3) で (e1,e2)(e_1,e_2) に移せます((a,b,a×b)(a,b,a\times b) は正の向きの正規直交基底)。SU(2)→SO(3)SU(2)\to SO(3) は全射で、g(v⋅σ)g−1=(Rv)⋅σg(v\cdot\sigma)g^{-1}=(Rv)\cdot\sigma となる gg を取れば主張の前半です。後半:C=c01+i c⋅σC=c_0\mathbf 1+i\,c\cdot\sigma が σ1\sigma_1 と可換なら c×e1=0c\times e_1=0、σ2\sigma_2 と可換なら c×e2=0c\times e_2=0、よって c=0c=0、C=±1C=\pm\mathbf 1。∎

事実 1(捩れを食う真空の一意性) 初 区画 (1,0)(1,0) で作用 0 の配位(Sz(0)(U)=0S^{z^{(0)}}(U)=0)は、ゲージ変換と、3・4 の方向の中心の変換(ある 3 方向の切り口 x3=cx_3=c の全ての 3 方向のリンクに −1-1 を掛ける操作、4 方向も同様)を除いて、U0U^0 ただ一つです。小さな T2T^2 の上だけ(二次元の格子 (Z/N)2(\mathbb Z/N)^2、捩れ n12=1n_{12}=1)なら、ゲージ変換だけを除いて一つです。

証明。補題 4 から Up=zp(0)1U_p=z^{(0)}_p\mathbf 1。補題 5 から、基点 0 の holonomy は P1P2P1−1P2−1=−1P_1P_2P_1^{-1}P_2^{-1}=-\mathbf 1、他の対は可換です。補題 8 で基点のゲージを選び直せば P1=iσ1P_1=i\sigma_1、P2=iσ2P_2=i\sigma_2。P3,P4P_3,P_4 は両方と可換なので ±1\pm\mathbf 1。U0U^0 の holonomy は (iσ1,iσ2,1,1)(i\sigma_1,i\sigma_2,\mathbf 1,\mathbf 1) です。切り口 x3=cx_3=c の 3 方向のリンクに −1-1 を掛けると、それらを含むプラケットは全て二本を含むので((μ,3)(\mu,3) と (3,4)(3,4) のプラケットの 3 方向の二辺は同じ x3x_3 にある)、作用は変わらず、P3P_3 だけが符号を変えます。4 方向も同じです。これで四つの組 (iσ1,iσ2,±1,±1)(i\sigma_1,i\sigma_2,\pm\mathbf 1,\pm\mathbf 1) は全て U0U^0 から中心の変換で得られ、補題 6 から、holonomy が一致する作用 0 の配位はゲージ変換で移り合います。二次元では P3,P4P_3,P_4 が無いので、ゲージ変換だけで足ります。∎

補題 8 の証明が示すとおり、(−iσ1,iσ2)(-i\sigma_1,i\sigma_2) は g=iσ2g=i\sigma_2 による共役で (iσ1,iσ2)(i\sigma_1,i\sigma_2) に移ります。小さな T2T^2 の方向の中心の変換は、ゲージ変換に吸収されます。平面の方向の中心の変換は吸収されず、作用 0 の配位はゲージの類として四つあります。

06

事実 2 — 随伴の場の反周期性とギャップ

真空 U0U^0 の周りの揺らぎの二次の部分には、随伴の場の共変な Laplacian が現れます。小さな T2T^2(二次元の格子 (Z/N)2(\mathbb Z/N)^2)の上で、su(2)\mathfrak{su}(2) に値を取る場 ϕ\phi に

(−ΔUϕ)(x)=∑μ=1,2[ 2ϕ(x)−Ad⁡(Ux,μ) ϕ(x+μ^)−Ad⁡(Ux−μ^,μ)−1ϕ(x−μ^)],Ad⁡(g)X=gXg−1(7)(-\Delta_U\phi)(x)=\sum_{\mu=1,2}\Bigl[\,2\phi(x)-\operatorname{Ad}(U_{x,\mu})\,\phi(x+\hat\mu)-\operatorname{Ad}(U_{x-\hat\mu,\mu})^{-1}\phi(x-\hat\mu)\Bigr],\qquad \operatorname{Ad}(g)X=gXg^{-1} \tag{7}

と置きます。Ad⁡\operatorname{Ad} は直交変換なので、−ΔU-\Delta_U は su(2)\mathfrak{su}(2) の内積に関して対称で非負です。

事実 2 初 U=U0U=U^0 のとき、su(2)\mathfrak{su}(2) の基底 iσ1,iσ2,iσ3i\sigma_1,i\sigma_2,i\sigma_3 の成分 ϕ1,ϕ2,ϕ3\phi^1,\phi^2,\phi^3 ごとに、−ΔU0-\Delta_{U^0} は次の符号つきの境界条件の下のスカラーの Laplacian に分かれます。

成分1 の方向2 の方向最小の固有値
ϕ1\phi^1(iσ1i\sigma_1)周期反周期4sin⁡2(π/2N)4\sin^2(\pi/2N)
ϕ2\phi^2(iσ2i\sigma_2)反周期周期4sin⁡2(π/2N)4\sin^2(\pi/2N)
ϕ3\phi^3(iσ3i\sigma_3)反周期反周期8sin⁡2(π/2N)8\sin^2(\pi/2N)

どの成分も少なくとも一つの方向で反周期です。よって −ΔU0-\Delta_{U^0} の最小の固有値は 4sin⁡2(π/2N)>04\sin^2(\pi/2N)\gt0 で、零モードはありません。

証明。Ad⁡(iσ1)\operatorname{Ad}(i\sigma_1) は iσ1i\sigma_1 を保ち iσ2,iσ3i\sigma_2,i\sigma_3 の符号を変え(σ1σ2σ1=−σ2\sigma_1\sigma_2\sigma_1=-\sigma_2 など)、Ad⁡(iσ2)\operatorname{Ad}(i\sigma_2) は iσ2i\sigma_2 を保ち iσ1,iσ3i\sigma_1,i\sigma_3 の符号を変えます。U0U^0 のリンクは継ぎ目を渡るものだけが Ωμ\Omega_\mu なので、(7) は成分ごとに、継ぎ目を渡る結合だけに符号 ±1\pm1 の付いたスカラーの Laplacian になります。長さ NN の輪で一本の結合に符号 ss を付けた差分作用素 2f(x)−f(x+1)−f(x−1)2f(x)-f(x+1)-f(x-1) は、eikN=se^{ikN}=s を満たす kk について f(x)=eikxf(x)=e^{ikx} を固有関数に持ち、固有値は 2−2cos⁡k=4sin⁡2(k/2)2-2\cos k=4\sin^2(k/2) です。s=+1s=+1 なら k∈2πNZk\in\frac{2\pi}{N}\mathbb Z(最小 0)、s=−1s=-1 なら k∈2πN(Z+12)k\in\frac{2\pi}{N}(\mathbb Z+\tfrac12)(最小 4sin⁡2(π/2N)4\sin^2(\pi/2N)、k=π/Nk=\pi/N)です。二次元では二つの方向の和なので、表の値になります。∎

捩れの無い周期的な T2T^2 の真空 U≡1U\equiv\mathbf 1 では、全ての成分が両方の方向で周期的で、定数の ϕ\phi が三次元ぶんの零モードになります。捩れの役目は、この零モードを消して、揺らぎに 4sin⁡2(π/2N)4\sin^2(\pi/2N) の下限を与えることです。NN が大きいとき 4sin⁡2(π/2N)≈π2/N24\sin^2(\pi/2N)\approx\pi^2/N^2 で、格子間隔 aa の単位を戻すと (π/L)2(\pi/L)^2(L=NaL=Na)です。

同じギャップを質量に読み替えると、格子の上の質量 mNm_N は 4sinh⁡2(mN/2)=4sin⁡2(π/2N)4\sinh^2(m_N/2)=4\sin^2(\pi/2N)、すなわち

mN=2 arsinh⁡sin⁡π2N(8)m_N=2\,\operatorname{arsinh}\sin\frac{\pi}{2N} \tag{8}

です(格子の伝播関数の減衰率と隙間の関係、2cosh⁡m−2=4sinh⁡2(m/2)2\cosh m-2=4\sinh^2(m/2))初。この mNm_N は 12-02 §05 で、柱に閉じ込めた分数インスタントンの作用の収束の速さとして現れます。

07

事実 3 — (1,1) の区画には平坦な配位が無い

事実 3 初 区画 (1,1)(1,1) では、作用 0 の配位はありません。したがって最小作用

Smin⁡(N,M)=min⁡USz(1)(U)(9)S_{\min}(N,M)=\min_U S^{z^{(1)}}(U) \tag{9}

は正です。また Smin⁡(N,M)≤2N2S_{\min}(N,M)\le2N^2 です。

証明。作用 0 の配位があったとすると、補題 4 と補題 5 から、基点の holonomy は P1P2P1−1P2−1=−1P_1P_2P_1^{-1}P_2^{-1}=-\mathbf 1、P3P4P3−1P4−1=−1P_3P_4P_3^{-1}P_4^{-1}=-\mathbf 1(ε34=−1\varepsilon_{34}=-1)、混ざった対は可換です。補題 8 から P3P_3 は P1,P2P_1,P_2 の両方と可換なので ±1\pm\mathbf 1、P4P_4 も同じです。すると P3P4P3−1P4−1=1P_3P_4P_3^{-1}P_4^{-1}=\mathbf 1 となって矛盾します。配位の空間 SU(2)#リンクSU(2)^{\#\text{リンク}} はコンパクトで作用は連続なので最小は達せられ、それは 0 でないので正です。上界:U0U^0 を区画 (1,1)(1,1) で評価すると、面 Πq\Pi_q の N2N^2 枚では Up=1U_p=\mathbf 1、zp=−1z_p=-1 で一枚あたり 1−12(−1)(2)=21-\tfrac12(-1)(2)=2、他は 0 です。∎

上界の配位は「細い渦の面」で、一枚のプラケットの厚さの面に作用 2N22N^2 を払います。事実 3 が言うのは最小作用が 0 でないことだけで、どれだけ小さいか(細い面より遥かに安い滑らかな塊があるか)は言いません。それが次の章の分数インスタントンの話で、格子の上の数値では Smin⁡S_{\min} は π2\pi^2 の程度で、2N22N^2 よりずっと小さいと読まれています(12-02 §05)。

連続理論では、捩れ n12=n34=1n_{12}=n_{34}=1 の束の位相電荷は半整数に限られ、作用は 8π2∣Q∣/g2≥4π2/g28\pi^2|Q|/g^2\ge4\pi^2/g^2 で下から押さえられます 典('t Hooft 1981、Tanizaki–Ünsal の式 (2.24)・(2.25))。事実 3 は、この下限の格子版の最も弱い形(正であること)にあたります。格子の上で Smin⁡S_{\min} が π2\pi^2 に近いことは、連続の下限の格子版としては示されていません。

08

三つの事実が言うこと

三つとも、NN を固定した有限の格子の上の文です。NN を増やすこと(T2T^2 を物理の長さとして広げること)は、この章のどの文も含みません。それが移り変わりの帯の問題です(12-09)。

09

言えないこと

(a) 連続極限。三つの事実はどれも a→0a\to0 について何も言いません。事実 2 のギャップは古典の揺らぎの下限で、量子の有効作用のギャップではありません。

(b) 閉じ込め。θ\theta の定義と命題 3 は閉じ込めの道具の置き場所で、θ\theta がどれだけ小さいかは言いません。格子間隔を固定した場合の評価は 12-04、半古典の率は 12-02。

(c) 他の群。証明は SU(2)SU(2) の Pauli 行列の計算(補題 8)に依ります。SU(N)SU(N) の場合はこの章では扱いません。

(d) 最小作用の値。Smin⁡(N,M)S_{\min}(N,M) が π2\pi^2 に近いこと、NN とともに π2\pi^2 に近づくことは数値の読みで、この章では示しません。

10

五分類の表と依存グラフ

表 1 この章の行(「—」は機械検査の無い行。条件は全行で SU(2)・有限の格子 (Z/N)2×(Z/M)2(\mathbb Z/N)^2\times(\mathbb Z/M)^2・N,M≥2N,M\ge2)
行言明(一行)分類根拠範囲機械検査
[01]流束だけが分配関数に効く(一般の形)・捩れの関係典't Hooft 1979・Mack–Petkova 1980——
[02]補題 1:面を動かす・偶奇だけで決まる初§02 の証明面 Πq\Pi_q の場合—
[03]定義 2:ΔF\Delta F・θ=tanh⁡(ΔF/2)\theta=\tanh(\Delta F/2) (4)定義§02n12=1n_{12}=1・混ざった流束 0—
[04]Tomboulis–Yaffe:Wilson ループを捩れた分配関数の比で押さえる典13-01 で式を——
[05]命題 3:θ=Eμ~[(−1)∣Q∣]\theta=\mathbb E_{\tilde\mu}[(-1)^{|Q|}] ⟸ [02]初§03 の証明面の和のアンサンブル (5)—
[06]補題 4:作用 0 ⟺ Up=zp1U_p=z_p\mathbf 1初§04——
[07]補題 5:交換子は平面の符号の積 (6)初§04(格子の非可換 Stokes)全プラケットが中心の値—
[08]閉じた道は直線の一周の語に変形できる典標準の位相トーラスの格子—
[09]補題 6:holonomy で決まる ⟸ [07][08]初§04同じ zz・中心の値—
[10]補題 7:U0U^0 は区画 (1,0) で作用 0初§05——
[11]補題 8:反可換な対の正規形と可換子 {±1}\{\pm\mathbf 1\}初§05SU(2)SU(2)—
[12]事実 1:捩れを食う真空の一意性 ⟸ [06][07][09][10][11]初§05ゲージ変換と平面の方向の中心の変換を除いて—
[13]事実 2:随伴の場の反周期性とギャップ 4sin⁡2(π/2N)4\sin^2(\pi/2N) ⟸ [10]初§06二次元の格子 (Z/N)2(\mathbb Z/N)^2・U=U0U=U^0—
[14](8):mN=2arsinh⁡sin⁡(π/2N)m_N=2\operatorname{arsinh}\sin(\pi/2N) ⟸ [13]初§06代数の言い換え—
[15]事実 3:(1,1) に平坦な配位が無く 0<Smin⁡≤2N20\lt S_{\min}\le2N^2 ⟸ [06][07][11]初§07区画 (1,1)—
[16]連続理論の下限 8π2∣Q∣/g2≥4π2/g28\pi^2|Q|/g^2\ge4\pi^2/g^2典't Hooft 1981・TU (2.24)(2.25)連続・捩れの束—

依存グラフ(前提の番号は結論の番号より小さい):

[01] 典 FLUX   流束だけが効く・捩れの関係                       't Hooft・Mack–Petkova
[02] 初 MOVE   補題 1:面を動かす                               面 Π_q
[03] 定 DF     ΔF・θ = tanh(ΔF/2)                               n₁₂ = 1
[04] 典 TY     Tomboulis–Yaffe                                  13-01
[05] 初 SUM    命題 3:θ = E[(−1)^|Q|] ⟸ [02]
[06] 初 ZERO   補題 4:作用 0 ⟺ U_p = z_p
[07] 初 COMM   補題 5:交換子 = 平面の符号の積                  中心の値
[08] 典 TOP    閉じた道は一周の語に変形できる
[09] 初 HOL    補題 6:holonomy で決まる ⟸ [07][08]
[10] 初 TE     補題 7:U⁰ は作用 0
[11] 初 PAIR   補題 8:反可換な対・可換子 ±1                    SU(2)
[12] 初 F1     事実 1 ⟸ [06][07][09][10][11]
[13] 初 F2     事実 2:ギャップ 4sin²(π/2N) ⟸ [10]              (ℤ/N)²
[14] 初 MASS   m_N = 2 arsinh sin(π/2N) ⟸ [13]
[15] 初 F3     事実 3:0 < S_min ≤ 2N² ⟸ [06][07][11]
[16] 典 BPS    連続の下限 4π²/g²                                連続

確かめ方は、全ての「⟸」の右の番号が左の番号より小さいことを目で見ることです。円はありません。この章に仮定の行はありません。引用の行は [01]・[04]・[08]・[16] で、三つの事実の証明が使う引用は [08](補題 6 を通して事実 1 だけ)です。事実 2・事実 3 は引用なしで閉じています。


この章が言えている範囲

言えている言えていない
初 面を動かす補題・偏りの期待値の表示(命題 3)・捩れを食う真空の一意性(ゲージと平面の方向の中心を除いて)・随伴の Laplacian のギャップ 4sin⁡2(π/2N)4\sin^2(\pi/2N)・(1,1) の区画で 0<Smin⁡≤2N20\lt S_{\min}\le2N^2。全て SU(2)・有限の格子・NN 固定・n12=1n_{12}=1量子の揺らぎのギャップ。格子間隔に一様な評価。Smin⁡S_{\min} の値と NN 依存
典 流束だけが効くことの一般の形・Tomboulis–Yaffe の不等式・連続理論の作用の下限θ≥0\theta\ge0(13-04 で扱う)。他の群

出典と再現

もの種別出典・道具
捩れた境界条件・流束の自由エネルギー典G. 't Hooft, Nucl. Phys. B 153 (1979) 141。G. 't Hooft, Commun. Math. Phys. 81 (1981) 267(書誌は 3-05 と同じ)
プラケットの Z2\mathbb Z_2 の符号を足し上げる表示典G. Mack, V. B. Petkova, Ann. Phys. 125 (1980) 117
Tomboulis–Yaffe の不等式典E. T. Tomboulis, L. G. Yaffe, Commun. Math. Phys. 100 (1985)(頁は未確認)。式の形は 13-01
位相電荷の分数部分と作用の下限典Y. Tanizaki, M. Ünsal, arXiv:2201.06166 の式 (2.24)・(2.25)(本文で確認)
補題 1〜8・事実 1〜3・(8)初本文の証明。数値の計算は使っていない

この章で使った語 — 't Hooft の捩れ・区画・流束 nμνn_{\mu\nu}・面 Πq\Pi_q・流束の自由エネルギー ΔF\Delta F・偏り θ\theta・捩れの和のアンサンブル・捩れを食う配位 U0U^0・中心の変換・随伴の Laplacian・反周期・最小作用 Smin⁡S_{\min}。意味は A-02 用語集 にあります。

次に読む章:12-02 渦と分数インスタントン — (1,1)(1,1) の区画の最小作用の中身と、希薄な気体の勘定。

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改訂 2026-10-15:初版。