computo ergo sum

2026-10-15 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 12 部 二本目の道容器の恒等式・入れ子・四次元での限界 · Kiichi, Shiori and Rin

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道:四次元でだけ起きること
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道:イジング模型で見るギャップと相関長
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道:Donaldson とエキゾチック R⁴
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道:摂動級数は発散する
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道:Bakry–Émery と一リンク積分
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道:「1/0 に記号を与えれば」
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 地図
  97. 第 9 部 現在地と課題
  98. 9-01 世界はどこまで来ているか
  99. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  100. 9-03 新しい概念の候補
  101. 9-04 課題の一覧
  102. 9-05 よくある誤解
  103. 9-06 証明が含むべき段 — 七段の表
  104. 一本目の道 — 時間の方向から
  105. 第 10 部 一本目の道(前半)— 時間の方向から:質量ギャップと拡散型緩和時間の仮定
  106. 10-00 入口 — 階段と、酔歩・物差し・時計
  107. 10-01 構成の筋と仮定 ξ²
  108. 10-02 四次元格子で試した道と壁
  109. 10-03 階段の四段 — なぜ 0+1 次元から始めるか
  110. 10-04 二重井戸の経路の測度とキンク
  111. 10-05 一段目の言明 — 四条件と命題 4.5
  112. 10-06 (H1) 相の中の局所 Poincaré
  113. 10-07 (H2) の地図 — 七つの道筋と環の継ぎ目
  114. 10-08 計算機援用とは何か — 窓の中の鎖の条件
  115. 10-09 区画の枠組みと道筋 5 の三本の筋
  116. 10-10 迂回策の一覧 — 壊れ方の型
  117. 10-11 (H3)(H4) と芯の定数
  118. 10-12 統合表と依存グラフ
  119. 10-13 Lean の言明と機械検査の限界
  120. 10-14 突き合わせ — 記録の数と既知の数
  121. 10-15 残件と費用 — 定理までの距離
  122. 10-16 主張しないこと
  123. 10-17 ひらめきと小さな問い
  124. 第 11 部 一本目の道(後半)— 仮定の形を直し、時間を連続にする
  125. 11-00 今後の考察 — 入口
  126. 11-01 仮定 ξ² を妨げる一つの形 — ほぼ保存される大域の量
  127. 11-02 物差しと座標を選び直す — 保存が壊れる長さ
  128. 11-03 仮定 ξ² を直す二つの形 — 区画の仮定 ξ² と局所の仮定 ξ²
  129. 11-04 片側の橋はどの仮定 ξ² を要るか
  130. 11-05 時間を連続にする — Hamiltonian 格子と真空の測度
  131. 11-06 凸性の代わりに稀さで払う — 群の上の繰り込みと対数 Sobolev
  132. 11-07 四次元だからこそ — 無次元の結合と位相
  133. 11-08 問いと、主張しないこと
  134. 11-A1 第 11 部の記号の対応表
  135. 二本目の道 — 空間の方向から
  136. 第 12 部 二本目の道:空間の方向から — 小さな捩れた T² と閉じ込め
  137. 12-00 入口 — 時間でなく空間を
  138. 12-01 捩れた T² と 't Hooft の流束
  139. 12-02 渦と分数インスタントン
  140. 12-03 容器 — 枠を条件づけると独立になる
  141. 12-04 板の閉じ込め
  142. 12-05 渦の挿入の恒等式
  143. 12-06 力学で駆動した挿入と流れの補題
  144. 12-07 なぜ決まった写像は失敗するか
  145. 12-08 測った記録
  146. 12-09 この道が止まる場所 — T² を広げることが帯である
  147. 移り変わりの帯 — 二本の道が同じ壁に着く
  148. 第 13 部 移り変わりの帯 — 二本の道が同じ壁に着く
  149. 13-00 入口 — 合流
  150. 13-01 帯の正しい形
  151. 13-02 一つの不等式への還元
  152. 13-03 非可換が効く唯一の場所
  153. 13-04 構造だけでは渡れない
  154. 13-05 チェス盤と同時の反転
  155. 13-06 繰り込みの比較 — 群を区別する比較
  156. 13-07 時間の側から見た帯
  157. 13-08 試して止まった道の地図
  158. 13-09 測った記録
  159. 13-10 新しい見方の候補
  160. 13-11 紫外の制御 — 無限個の段で閉じるとは何か
  161. 閉じる
  162. 第 14 部 閉じる — 条件つきの言明
  163. 14-00 入口 — この部の約束
  164. 14-01 条件つきの言明 — 質量ギャップと閉じ込めを矢印ごとに
  165. 14-02 条件の台帳
  166. 14-03 問いの表(横断の索引)
  167. 14-04 主張しないこと(横断の索引)
  168. 付録
  169. A-01 記号表
  170. A-02 用語集
  171. A-03 文献案内
  172. A-04 Lean と機械検査
  173. A-05 この本の作り方
  174. A-06 仮定の索引
  175. A-07 この本から出た論文

容器 — 枠を条件づけると独立になる

この章で分かること — Wilson ループを閉じ込めの向きに押さえる最も素朴な道具は、ループの張る面を小さな領域(容器)に分け、容器の外側(枠)を止めて考えることです。最近接の作用では、枠を止めると容器どうしは独立になり、Wilson ループの期待値は「容器ごとの区画の偏り」の積の平均で上から押さえられます(補題 5)。これは Mack–Petkova(1980)の渦の容器の恒等式を、区画の和のアンサンブルで書き直したもので、この本は新しさを主張しません。この章では、(1) 補題 5 とその tanh の形、(2) 固定した区画へ移すときに要る「内側と外側の領域」の形、(3) 平面の方向(R² の方向)に容器を入れ子にする不等式、(4) 四次元では長さの決まった容器を独立に並べても V(R)≳R/ln⁡RV(R)\gtrsim R/\ln R までしか出ないという Kovács–Tomboulis の指摘、(5) 二次元の解ける模型で、補題 5 の評価が指数の部分で鋭いこと、を順に見ます。

前提となる章 — 12-01(捩れた T² と 't Hooft の流束・区画)・12-02(渦)。第 5 部の 5-01(Wilson 作用と Wilson ループ)・5-08(弦の張力)・第 7 部の 7-02(中心渦の描像)。

先に言うこと — 群は SU(2)SU(2)、作用は Wilson 作用、格子は有限で、格子間隔は固定します。この章の文は全て「格子の上の、ある固定した β\beta」の文で、連続極限については何も言いません。補題 5 の恒等式は既知です(典)。この本が紙で置くのは、区画の和のアンサンブルでの書き直しと、固定した区画へ移すときの修正の形と、入れ子の不等式の三つです(初)。Lean の欄が保証するのは有限和の代数だけで、Haar 測度と区画の位相は本文の議論に依ります。

この章の順序
  1. 要約〔三〕 — 枠を止めると独立になる
  2. 設定 — 区画の和のアンサンブル・枠と容器
  3. 補題 5 — 容器の恒等式と tanh の形(Mack–Petkova・Kovács–Tomboulis の式 (18)〜(22) との対応)
  4. 固定した区画へ — 内側と外側の領域 — 命題 2
  5. 平面の方向の入れ子 — 命題 3
  6. 四次元での限界 — V(R)≳R/ln⁡RV(R)\gtrsim R/\ln R(Kovács–Tomboulis の式 (23)〜(25))
  7. 二次元の解ける模型での検査 — 表 1
  8. 言えないこと
  9. 五分類の表と依存グラフ — 表 2

01

要約〔三〕 — 枠を止めると独立になる

この節は〔三〕の読者に向けた要約です。式と証明は §02 以下にあります。

  1. 格子の Wilson 作用は、隣り合うリンクだけを結ぶ(最近接の)作用です。だから、ある領域の内側のリンクと外側のリンクは、境目のリンクを通してしか話をしません。境目を全部止めてしまえば、別々の領域の内側は互いに独立になります。これは統計力学の Markov 性そのものです。
  2. Wilson ループ W(C)W(C) を、ループの張る面の上の小さな領域(容器)ごとの「区画の符号」σj=±1\sigma_j=\pm1 の積に書き直せます(区画の和のアンサンブルで、§02)。枠(容器の外側)を止めると σj\sigma_j どうしは独立なので、期待値は積になり、絶対値を取って平均すると ∣⟨W⟩∣≤E[∏jθj]|\langle W\rangle|\le\mathbb E[\prod_j\theta_j]、θj=∣E[σj ∣ 枠]∣\theta_j=|\mathbb E[\sigma_j\,|\,\text{枠}]| が出ます。これが補題 5 です 典。
  3. θj\theta_j は tanh⁡(∣ΔFj∣/2)\tanh(|\Delta F_j|/2) と書けます。ΔFj\Delta F_j は、枠を止めた容器の中で、渦が一本ある区画と無い区画の自由エネルギーの差です。渦が安く入る(ΔFj\Delta F_j が小さい)容器ほど θj\theta_j は小さく、Wilson ループは小さく押さえられます。
  4. この恒等式は Mack–Petkova(1980)の「渦の容器」の恒等式で、Kovács–Tomboulis(2001)の式 (18)〜(22) にそのまま書かれています。違いは、区画を和にして書いたことと、枠について最大値でなく平均を取ったことだけです。この本は新しさを主張しません。
  5. 固定した区画(一つの捩れの区画)の Wilson ループに移すには、ループの内側だけでなく外側にも容器が要ります(§04 の命題 2)初。
  6. 容器を平面の方向に入れ子にすると、大きな容器の偏りは小さな容器の偏りの積の平均で押さえられます(§05 の命題 3)初。ただしこれは T² の大きさを止めた板の中の話で、T² と一緒に広げる話(移り変わりの帯)には使えません。
  7. 四次元の空間(R⁴)では、ループの内側の点を通る容器の長さはループとともに伸びます。容器の費用を一定に保つには太さを ln⁡R\sqrt{\ln R} の程度に太らせる必要があり、独立な容器から出るのは V(R)≳R/ln⁡RV(R)\gtrsim R/\ln R までです(Kovács–Tomboulis)典。小さな T² の板では容器の長さが T² の面積で止まるので、この障害は現れません。
  8. 二次元の SU(2)SU(2) は解けるので、補題 5 の評価がどれだけ鋭いかを数で見られます。一辺 ℓ\ell の容器で敷き詰めると、評価から出る弦の張力は σ−ln⁡(16/(3π))/ℓ2\sigma-\ln(16/(3\pi))/\ell^2 の形で真の値に近づきます(§07)初+読。
02

設定 — 区画の和のアンサンブル・枠と容器

格子 Λ\Lambda は有限の超立方格子、リンク変数は U=(Ub)∈SU(2)リンクU=(U_b)\in SU(2)^{\text{リンク}} です。各プラケット pp に符号 zp∈{±1}z_p\in\{\pm1\} を置き、全ての 3 次元の立方体 cc で ∏p∈∂czp=1\prod_{p\in\partial c}z_p=1(余閉)を課します。重みと測度を

w(U,z)=exp⁡(β2∑pzp tr Up),dμ ∝ w(U,z) ∏bdUb × (余閉な z の数え上げ)(1)w(U,z)=\exp\Bigl(\frac\beta2\sum_p z_p\,\mathrm{tr}\,U_p\Bigr),\qquad d\mu\ \propto\ w(U,z)\,\prod_b dU_b\ \times\ (\text{余閉な }z\text{ の数え上げ}) \tag{1}

と置きます(dUbdU_b は Haar 測度)。同じコホモロジー類の zz は中心のゲージ変換 Ub↦ωUbU_b\mapsto\omega U_b(ω∈{±1}\omega\in\{\pm1\})で移り合うので、(1) の和は、全ての 't Hooft の捩れの区画(12-01)の SU(2)SU(2) 分配関数の和に定数倍を除いて等しくなります(Mack–Petkova の和のアンサンブル)典。どの区画にいるかは zz のコホモロジー類で決まり、区画の指示関数は zz の関数です。この章では (1) を区画の和のアンサンブルと呼び、期待値を E\mathbb E と書きます。

ループ CC と、CC を張る面 S(C)S(C)(プラケットの集まりで、境界が CC)を一つ取ると、

W(C)=12 tr UC∏p∈S(C)zp(2)W(C)=\tfrac12\,\mathrm{tr}\,U_C\prod_{p\in S(C)}z_p \tag{2}

は中心のゲージ変換で変わらず、∣W(C)∣≤1|W(C)|\le1 です。区画を一つに固定した Wilson ループは、(2) に区画の指示関数を掛けて条件づけたものです(§04)。

枠と容器。 格子の中に互いに離れた領域 R1,…,RnR_1,\dots,R_n(容器)を取り、容器の内側の変数(内側のリンクと、内側のプラケットの zz)を xjx_j、それ以外の全ての変数を枠 Φ\Phi と呼びます。容器の境のリンクは枠に入ります。作用は最近接なので、各プラケットの項と各立方体の拘束は、高々一つの容器の内側と枠にしか依りません。よって重みは枠を止めると分かれます。

w(Φ,x)=a(Φ)∏j=1nfj(Φ,xj),a>0, fj>0(3)w(\Phi,x)=a(\Phi)\prod_{j=1}^n f_j(\Phi,x_j),\qquad a\gt0,\ f_j\gt0 \tag{3}

ループ CC は枠の中を通り、S(C)S(C) の容器 RjR_j の内側にある部分の zz の積を σj(xj)∈{±1}\sigma_j(x_j)\in\{\pm1\}(容器の区画の符号)と書くと、(2) も分かれます。

W(C)=c(Φ)∏j=1nσj(xj),∣c(Φ)∣≤1(4)W(C)=c(\Phi)\prod_{j=1}^n\sigma_j(x_j),\qquad |c(\Phi)|\le1 \tag{4}

(c(Φ)c(\Phi) は 12tr UC\tfrac12\mathrm{tr}\,U_C と、S(C)S(C) の枠に入る部分の zz の積。)σj\sigma_j は容器の内側の中心のゲージ変換で変わらないので(S(C)S(C) の境界 CC は枠の中にある)、枠を止めた条件つきの分布の上の量としてよく定まります。また、枠を止めても σj\sigma_j は決まりません。小さな T² の板 (Z/N)2×(Z/M)2(\mathbb Z/N)^2\times(\mathbb Z/M)^2 で容器を「平面の円板 × T²」に取ると、円板の中の平面のプラケット pp の上の面 Sp={p}×T2S_p=\{p\}\times T^2(N2N^2 枚の (3,4) プラケット)は余閉で容器の内側にあり、その上の zz を全部反転すると、枠は変わらずに σj\sigma_j だけが反転するからです 初(余閉であることの確かめは 12-04 §03 の手順 2)。

03

補題 5 — 容器の恒等式と tanh の形

枠 Φ\Phi を止めたときの容器 jj の区画の確率を qj±(Φ)=P(σj=±1 ∣ Φ)q_j^\pm(\Phi)=\mathbb P(\sigma_j=\pm1\,|\,\Phi)、容器の内側の二つの区画の分配関数を Zj±(Φ)=∑xj:σj=±1fj(Φ,xj)Z_j^\pm(\Phi)=\sum_{x_j:\sigma_j=\pm1}f_j(\Phi,x_j)(連続の変数では Haar 測度の積分)と書き、

θj(Φ):=∣E[σj ∣ Φ]∣=∣qj+−qj−∣,ΔFj(Φ):=ln⁡Zj+(Φ)Zj−(Φ)=ln⁡qj+qj−(5)\theta_j(\Phi):=\bigl|\mathbb E[\sigma_j\,|\,\Phi]\bigr|=|q_j^+-q_j^-|,\qquad \Delta F_j(\Phi):=\ln\frac{Z_j^+(\Phi)}{Z_j^-(\Phi)}=\ln\frac{q_j^+}{q_j^-} \tag{5}

と置きます。θj\theta_j を容器 jj の偏り、ΔFj\Delta F_j を枠を止めた渦の自由エネルギーと呼びます。

補題 5(容器の恒等式)

(3)(4) の下で

E[W(C) ∣ Φ]=c(Φ)∏j=1nE[σj ∣ Φ],∣⟨W(C)⟩∣ ≤ EΦ[ ∣c(Φ)∣∏j=1nθj(Φ)] ≤ EΦ[ ∏j=1nθj(Φ)](6)\mathbb E[W(C)\,|\,\Phi]=c(\Phi)\prod_{j=1}^n\mathbb E[\sigma_j\,|\,\Phi],\qquad |\langle W(C)\rangle|\ \le\ \mathbb E_\Phi\Bigl[\,|c(\Phi)|\prod_{j=1}^n\theta_j(\Phi)\Bigr]\ \le\ \mathbb E_\Phi\Bigl[\,\prod_{j=1}^n\theta_j(\Phi)\Bigr] \tag{6}

さらに θj(Φ)=tanh⁡(∣ΔFj(Φ)∣/2)\theta_j(\Phi)=\tanh\bigl(|\Delta F_j(\Phi)|/2\bigr)。

典(恒等式)+初(和のアンサンブルでの書き直し)。証明。(3) から、枠を止めた条件つきの分布は容器ごとの分布 fj(Φ,⋅)/(Zj++Zj−)f_j(\Phi,\cdot)/(Z_j^++Z_j^-) の積で、σj\sigma_j はそれぞれ別の容器の変数の関数なので、条件つきの期待値は積に分かれます。(4) を代入すれば第一式です。絶対値を取り、∣c∣≤1|c|\le1 を使って枠について平均すると第二式です。最後に q++q−=1q^++q^-=1 と q±>0q^\pm\gt0 から

q+−q−q++q−=eΔF/2−e−ΔF/2eΔF/2+e−ΔF/2=tanh⁡ΔF2,ΔF=ln⁡q+q−(7)\frac{q^+-q^-}{q^++q^-}=\frac{e^{\Delta F/2}-e^{-\Delta F/2}}{e^{\Delta F/2}+e^{-\Delta F/2}}=\tanh\frac{\Delta F}2,\qquad \Delta F=\ln\frac{q^+}{q^-} \tag{7}

です。∎

Lean FrameLemma(FrameLemma.frame_bound)(仮定:枠の空間・容器の数・各容器の内側の空間が有限、各容器の内側が空でない、a(φ)>0a(\varphi)\gt0、fj(φ,y)>0f_j(\varphi,y)\gt0。結論:∣∑φ∑xa∏jfj⋅c∏jσj∣≤∑φa∏jZj⋅∣c∣∏j∣∑yfjσj∣/Zj|\sum_\varphi\sum_x a\prod_jf_j\cdot c\prod_j\sigma_j|\le\sum_\varphi a\prod_jZ_j\cdot|c|\prod_j|\sum_yf_j\sigma_j|/Z_j、Zj=∑yfjZ_j=\sum_yf_j)・FrameLemma(FrameLemma.sign_mean_le_one)(仮定:f>0f\gt0・σ=±1\sigma=\pm1。結論:正規化した条件つきの平均の絶対値は 1 以下)・FrameLemma(FrameLemma.ratio_eq_tanh)(仮定:q+,q−>0q^+,q^-\gt0。結論:(7))・Containers(Containers.container_bound)(仮定:有限・a≥0a\ge0・∣s∣≤1|s|\le1。結論:∣∑φ∑xa s∏ifiσi∣≤∑φa∏i∣∑yfiσi∣|\sum_\varphi\sum_xa\,s\prod_i f_i\sigma_i|\le\sum_\varphi a\prod_i|\sum_yf_i\sigma_i|)。どれも有限和の代数で、Haar 測度の積分・余閉な zz・区画の位相・最近接の作用から (3)(4) が出ることは Lean の外です。

原典との対応。 Kovács–Tomboulis(hep-lat/0108017、Phys. Rev. D 65 (2002) 074501)は、固定した区画で、容器 Λi\Lambda_i の境のリンクを止めて内側を積分し、余閉な面 ViV_i の上の結合の符号を反転した分配関数 zΛi(∓)z^{(\mp)}_{\Lambda_i}(彼らの式 (19))から

fΛi(U∂Λi)=12(1−zΛi(−)zΛi(+))  (18),W[C]=⟨12tr U[C]∏ifΛi(U∂Λi)⟩  (20),W[C]≤∏imax⁡U∂Λi∣fΛi∣  (22)f_{\Lambda_i}(U_{\partial\Lambda_i})=\frac12\Bigl(1-\frac{z^{(-)}_{\Lambda_i}}{z^{(+)}_{\Lambda_i}}\Bigr)\ \ (18),\qquad W[C]=\Bigl\langle\tfrac12\mathrm{tr}\,U[C]\prod_if_{\Lambda_i}(U_{\partial\Lambda_i})\Bigr\rangle\ \ (20),\qquad W[C]\le\prod_i\max_{U_{\partial\Lambda_i}}|f_{\Lambda_i}|\ \ (22)

を書き、(20) を Mack–Petkova(Ann. Phys. 125 (1980) 117、彼らの文献 [3])に帰しています 典(原典の式は hep-lat/0108017 の本文で確認。Mack–Petkova の本文はこの本では確かめていません)。補題 5 との違いは二つだけです。(i) 区画を和にした (1) で書いたので、因子が 12(1−z−/z+)\tfrac12(1-z^-/z^+) でなく (Z+−Z−)/(Z++Z−)=tanh⁡(ΔF/2)(Z^+-Z^-)/(Z^++Z^-)=\tanh(\Delta F/2) になる(測度の規格化の違い)。(ii) (22) は枠について最大値を取るが、(6) は平均を取る。(ii) は、悪い枠が稀であることを使える余地を残します。§07 の二次元の検査では、平均の形の方が速く真の値に近づきます。

04

固定した区画へ — 内側と外側の領域

補題 5 は区画の和のアンサンブルの文です。物理で見たいのは、一つの捩れの区画に固定した Wilson ループです。板 (Z/N)2×(Z/M)2(\mathbb Z/N)^2\times(\mathbb Z/M)^2 で、ループ CC は T² の一点 y0y_0 の (3,4) 平面の中にあるとします。区画のラベルのうち (3,4) の流束の偶奇を (−1)n34(-1)^{n_{34}}(y0y_0 の (3,4) 平面全体の zz の積)、それ以外のラベル(n12n_{12} など)の指示関数を 1o\mathbf 1_o と書くと、区画 s∈{±1}s\in\{\pm1\} に固定した期待値は

⟨W(C)⟩s=E[W⋅12(1+s(−1)n34)1o]E[12(1+s(−1)n34)1o](8)\langle W(C)\rangle_s=\frac{\mathbb E\bigl[W\cdot\tfrac12\bigl(1+s(-1)^{n_{34}}\bigr)\mathbf 1_o\bigr]}{\mathbb E\bigl[\tfrac12\bigl(1+s(-1)^{n_{34}}\bigr)\mathbf 1_o\bigr]} \tag{8}

です。容器をループの内側だけに置くと、分子の第二項 E[W(−1)n341o]\mathbb E[W(-1)^{n_{34}}\mathbf 1_o] は困ります。W(−1)n34W(-1)^{n_{34}} は 12tr UC\tfrac12\mathrm{tr}\,U_C に平面の S(C)S(C) の外側の zz の積を掛けたもので、内側の容器の符号を含まないので、補題 5 では小さくならないからです。手当ては、外側にも容器を置くことです。

命題 2(内側と外側の領域)

(3,4) 平面の中で、ループの内側に容器 R1,…,RnR_1,\dots,R_n、外側に容器 R1′,…,Rm′R'_1,\dots,R'_m を格子状に並べ、枠は直線の帯から成り、各方向に枠の中だけを通る直線があるとする。このとき 1o\mathbf 1_o は枠の関数で、(−1)n34=c′′(Φ)∏jσj∏kσk′(-1)^{n_{34}}=c''(\Phi)\prod_j\sigma_j\prod_k\sigma'_k(∣c′′∣=1|c''|=1)と書ける。θj,θk′\theta_j,\theta'_k を (5) の偏りとし、Eo[ ⋅ ]:=E[ ⋅ 1o]/E[1o]\mathbb E_o[\,\cdot\,]:=\mathbb E[\,\cdot\,\mathbf 1_o]/\mathbb E[\mathbf 1_o] と置くと、Eo[∏jθj∏kθk′]<1\mathbb E_o[\prod_j\theta_j\prod_k\theta'_k]\lt1 のとき

∣⟨W(C)⟩s∣ ≤ Eo[∏jθj]+Eo[∏kθk′]1−Eo[∏jθj∏kθk′](9)|\langle W(C)\rangle_s|\ \le\ \frac{\mathbb E_o\bigl[\prod_j\theta_j\bigr]+\mathbb E_o\bigl[\prod_k\theta'_k\bigr]}{1-\mathbb E_o\bigl[\prod_j\theta_j\prod_k\theta'_k\bigr]} \tag{9}

初 証明。n12,n13,n14,n23,n24n_{12},n_{13},n_{14},n_{23},n_{24} は、それぞれの平面の zz の積で、その平面を枠の中だけを通る直線の帯の上に取り直せる(zz が余閉なので積は平面の位置に依らない)ので、枠の関数です。よって 1o\mathbf 1_o は枠の関数です。(3,4) 平面は S(C)S(C) とその補集合に分かれ、それぞれが枠の部分と容器の部分に分かれるので、W=c(Φ)∏jσjW=c(\Phi)\prod_j\sigma_j、W(−1)n34=c′(Φ)∏kσk′W(-1)^{n_{34}}=c'(\Phi)\prod_k\sigma'_k、(−1)n34=c′′(Φ)∏jσj∏kσk′(-1)^{n_{34}}=c''(\Phi)\prod_j\sigma_j\prod_k\sigma'_k(∣c∣,∣c′∣≤1|c|,|c'|\le1、∣c′′∣=1|c''|=1)です。補題 5 の第一式を枠について 1o\mathbf 1_o を掛けて平均すると、∣E[W1o]∣≤E[1o∏jθj]|\mathbb E[W\mathbf 1_o]|\le\mathbb E[\mathbf 1_o\prod_j\theta_j]、∣E[W(−1)n341o]∣≤E[1o∏kθk′]|\mathbb E[W(-1)^{n_{34}}\mathbf 1_o]|\le\mathbb E[\mathbf 1_o\prod_k\theta'_k]、∣E[(−1)n341o]∣≤E[1o∏jθj∏kθk′]|\mathbb E[(-1)^{n_{34}}\mathbf 1_o]|\le\mathbb E[\mathbf 1_o\prod_j\theta_j\prod_k\theta'_k]。(8) の分子は前の二つの和の半分以下、分母は 12(E[1o]−E[1o∏θ∏θ′])\tfrac12(\mathbb E[\mathbf 1_o]-\mathbb E[\mathbf 1_o\prod\theta\prod\theta']) 以上です。両方を E[1o]\mathbb E[\mathbf 1_o] で割れば (9) です。∎

(9) の第二項が平面の大きさ M→∞M\to\infty で 0 に行くのは、外側の容器でも偏りが典型的に 1 より小さい場合(悪い枠の稀さが外側でも使える場合)です。この本はそれを示していません 仮。板の閉じ込めの定理(12-04)では、平面の全てのプラケットに反転の群を働かせるので、外側の項は tM2−At^{M^2-A} と自動的に小さくなり、この問題は起きません。

05

平面の方向の入れ子

大きな容器 RR(平面の円板 × T²)を、内側の枠 Φint\Phi_{\rm int} で隔てた小さな容器 R1,…,RkR_1,\dots,R_k に分けます。RR の張る面の zz の積は σR=s(Φint)∏iσi\sigma_R=s(\Phi_{\rm int})\prod_i\sigma_i(∣s∣=1|s|=1、枠に入る部分の zz の積)です。

命題 3(入れ子の不等式)

RR の外の枠を ΦR\Phi_R とすると

∣E[σR ∣ ΦR]∣ ≤ E[ ∏i=1k∣E[σi ∣ ΦR,Φint]∣ ∣ ΦR](10)\bigl|\mathbb E[\sigma_R\,|\,\Phi_R]\bigr|\ \le\ \mathbb E\Bigl[\,\prod_{i=1}^k\bigl|\mathbb E[\sigma_i\,|\,\Phi_R,\Phi_{\rm int}]\bigr|\ \Bigm|\ \Phi_R\Bigr] \tag{10}

初 証明。ΦR\Phi_R と Φint\Phi_{\rm int} を合わせたものを枠として補題 5 を使い(c=sc=s)、ΦR\Phi_R を止めたまま Φint\Phi_{\rm int} について平均します。∎ Lean Containers(Containers.container_bound)(仮定:有限・a≥0a\ge0・∣s∣≤1|s|\le1)がこの代数の有限和の版で、Lean のファイルの説明の文が「Mack–Petkova の容器の恒等式と平面の倍化の不等式を含む」と書いている形です。

読み方。ある大きさの容器で偏りが典型的な枠で θ0<1\theta_0\lt1 なら、平面の方向に容器を 2 倍にするたびに偏りは θ04\theta_0^4 の程度に下がる、と期待できます 読(物理の見立て:(10) の右辺は積の平均で、平均の積ではないので、これは不等式から直接は出ません)。乱れは平面の方向の大きな尺度へ伝わります。

ただし、(10) は T² の大きさを止めた板の中の話です。T² を広げる(四次元の空間へ近づける)ときに要るのは、T² と容器を一緒に倍にしたときの偏り θ(L,L)\theta(L,L) の振る舞いで、(10) はそれに何も言いません(T² が変わると、渦の面が巻く曲面そのものが変わる)。そこで要る形は「θ(L,L)\theta(L,L) が 1 から一様に離れる」では足りず、ln⁡(1/θ(L,L))≥cL2\ln(1/\theta(L,L))\ge cL^2 の形でなければならないこと(U(1)U(1) との対照)は、移り変わりの帯の章 13-01 で扱います。

06

四次元での限界 — 独立な容器では R/ln⁡RR/\ln R まで

補題 5 は格子の大きさにも次元にも依らない恒等式です。では、四次元の空間(R⁴ の格子)で容器をたくさん並べれば面積則が出るでしょうか。Kovács–Tomboulis(hep-lat/0108017 §3)は、それが独立な容器では届かないことを次の勘定で示しています 典(以下の (23)〜(27) は原典の式番号。原典の本文で確認)。

  1. 容器 Λi\Lambda_i の、余閉な面 ViV_i に横向きの二方向の幅を did_i、縦の長さを ∣Vi∣|V_i| とする。十分太い容器では、全ての境界の値について −ln⁡(z(−)/z(+))∼∣Vi∣exp⁡(−c di2)-\ln(z^{(-)}/z^{(+)})\sim|V_i|\exp(-c\,d_i^2) となる領分に入っていると仮定する(原典の (23)。cc は原典の ρ\rho)。
  2. 一つの容器の自由エネルギーの費用を一定の ff 以下に保つには di2≥c−1ln⁡(∣Vi∣/f)d_i^2\ge c^{-1}\ln(|V_i|/f) が要る((24))。すると max⁡∣fΛi∣<12(1−e−f)\max|f_{\Lambda_i}|\lt\tfrac12(1-e^{-f}) は一定。
  3. 辺 T×RT\times R(T>RT\gt R)の長方形のループの、周から離れた点を通る容器の長さは ∣Vi∣∼Rd−2|V_i|\sim R^{d-2}(四次元で R2R^2)。よって太さは ln⁡R\sqrt{\ln R} の程度に要り、ループの中に入る容器は ∼RT/ln⁡R\sim RT/\ln R 個。(22) から
V(R) ≥ const⋅Rln⁡R(原典の (25))(11)V(R)\ \ge\ \mathrm{const}\cdot\frac{R}{\ln R}\qquad(\text{原典の (25)}) \tag{11}

が出るだけで、純粋な線形のポテンシャル(面積則)にはなりません。原典は続けて、隣り合う容器の境界の値も積分して容器をできるだけ太くまとめ、横の面積 ∼R2\sim R^2 の容器を使えば V(R)≥const R−constR(ln⁡R+const)V(R)\ge\mathrm{const}\,R-\frac{\mathrm{const}}R(\ln R+\mathrm{const})((27))となること、つまり線形のポテンシャルはループの大きさの太い渦の揺らぎから来ることを述べています。また、(22) の形は粗く、鏡映正値性から出る不等式(彼らの (11)(13)、Tomboulis–Yaffe の大域の形)は格子の大きさに一様な評価で直接に面積則を与える、とも述べています 典。

この章の言葉で言い直すと、R⁴ では容器の長さがループとともに伸びるので、長さの決まった容器を独立に並べる道は面積則に届きません。小さな T² の板では、容器 {円板}×T2\{\text{円板}\}\times T^2 の長さ(渦の面の面積)が T² の面積で止まるので、この障害は現れません 初(原典の勘定の (24) で ∣Vi∣=N2|V_i|=N^2 が定数になることの読み替え)。障害が戻ってくるのは T² を広げるときで、それが移り変わりの帯(13-01・12-09)です。

07

二次元の解ける模型での検査

二次元の SU(2)SU(2)(平面の格子・Wilson 作用 β2tr Up\tfrac\beta2\mathrm{tr}\,U_p)は、プラケットが互いに独立に振る舞うので解けます。ここで補題 5 の評価が真の値にどれだけ近いかを見ます。二次元には「容器の長さ」の問題が無いので、この検査は §06 の四次元の障害については何も言いません。

設定。 ループの内側を一辺 ℓ\ell の正方形の容器で敷き詰め、容器の境のリンクを枠に取ります(容器の面積 A=ℓ2A=\ell^2)。枠を止めると、容器 jj はその境のホロノミー Vj∈SU(2)V_j\in SU(2) しか見ません。指標 χn(V)=sin⁡((n+1)ϑ)/sin⁡ϑ\chi_n(V)=\sin((n+1)\vartheta)/\sin\vartheta(VV の固有値 e±iϑe^{\pm i\vartheta}、n=0,1,2,…n=0,1,2,\dots は表現の 2×2\timesスピン)と an=In+1(β)/I1(β)a_n=I_{n+1}(\beta)/I_1(\beta)(II は変形 Bessel 関数)を使うと、熱核の展開から

E[σj ∣ 枠]=∑n 奇(n+1) anA χn(Vj)∑n 偶(n+1) anA χn(Vj)(12)\mathbb E[\sigma_j\,|\,\text{枠}]=\frac{\sum_{n\ \text{奇}}(n+1)\,a_n^{A}\,\chi_n(V_j)}{\sum_{n\ \text{偶}}(n+1)\,a_n^{A}\,\chi_n(V_j)} \tag{12}

で、容器のホロノミーは互いに独立に、分母を密度とする分布に従います。よって補題 5 の評価は容器ごとの因子の積になり、

∣⟨W⟩∣ ≤ B(A)#容器,B(A)=∫SU(2)dV ∣∑n 奇(n+1) anA χn(V)∣(13)|\langle W\rangle|\ \le\ B(A)^{\#\text{容器}},\qquad B(A)=\int_{SU(2)}dV\,\Bigl|\sum_{n\ \text{奇}}(n+1)\,a_n^{A}\,\chi_n(V)\Bigr| \tag{13}

真の値は ⟨W⟩=a1面積\langle W\rangle=a_1^{\text{面積}}、真の弦の張力は σ=−ln⁡a1\sigma=-\ln a_1 です。(13) から出る弦の張力を σL5(ℓ):=−ln⁡B(ℓ2)/ℓ2\sigma_{\rm L5}(\ell):=-\ln B(\ell^2)/\ell^2、Kovács–Tomboulis の (22) の形(枠について最大値)から出るものを σmax⁡(ℓ):=−ln⁡(max⁡V∣(12)∣)/ℓ2\sigma_{\max}(\ell):=-\ln\bigl(\max_V|(12)|\bigr)/\ell^2 と書きます。

大きな容器の極限。 A→∞A\to\infty では奇数の和は n=1n=1 の項 2a1Aχ1(V)=4a1Acos⁡ϑ2a_1^A\chi_1(V)=4a_1^A\cos\vartheta が、偶数の和は n=0n=0 の項 1 が主になるので、Haar の分布 2πsin⁡2ϑ dϑ\tfrac2\pi\sin^2\vartheta\,d\vartheta で

B(A)a1A ⟶ 2π∫0π4∣cos⁡ϑ∣sin⁡2ϑ dϑ=163π≈1.6977,σL5(ℓ) = σ−ln⁡(16/(3π))ℓ2+(A について指数的に小さい項)(14)\frac{B(A)}{a_1^A}\ \longrightarrow\ \frac2\pi\int_0^\pi4|\cos\vartheta|\sin^2\vartheta\,d\vartheta=\frac{16}{3\pi}\approx1.6977,\qquad \sigma_{\rm L5}(\ell)\ =\ \sigma-\frac{\ln(16/(3\pi))}{\ell^2}+(A\ \text{について指数的に小さい項}) \tag{14}

です 初。補題 5 の評価は指数の部分で鋭く、損失は 1/ℓ21/\ell^2 で消えます。

表 1 二次元 SU(2)SU(2) で補題 5 から出る弦の張力 σL5(ℓ)\sigma_{\rm L5}(\ell) と、最大値の形 σmax⁡(ℓ)\sigma_{\max}(\ell)。浮動小数・ϑ\vartheta の台形則 4×1054\times10^5 点・表現を n≤200n\le200 で打ち切り・分母の規格化の確かめは全ての行で 1.0000001.000000。数は本書の検討の数値(読)
β\beta真の σ\sigmaℓ=1\ell=1ℓ=2\ell=2ℓ=4\ell=4ℓ=8\ell=8ℓ=16\ell=16σmax⁡\sigma_{\max}:ℓ=1\ell=1・44・1616
11.42630.91321.29401.39321.41801.42420.2723・1.3397・1.4209
20.83670.36630.70440.80360.82850.83470.0366・0.7501・0.8313
40.41850.06240.28660.38540.41020.41640.00067・0.3318・0.4131
80.19940.00160.07610.16630.19110.1973<10−6\lt10^{-6}・0.1128・0.1940

読み方 読。(i) ℓ=16\ell=16 の列は (14) の右辺と小数第 4 位まで一致します(例:β=1\beta=1 で 1.426309−ln⁡(1.69765)/256=1.4242421.426309-\ln(1.69765)/256=1.424242)。(ii) 細い容器(ℓ=1\ell=1)では、β\beta が大きいと評価は指数的に悪くなります(β=8\beta=8 で 0.00160.0016 対 0.19940.1994)。太い容器が要ることの、二次元での姿です。(iii) 最大値の形も同じ極限に近づきますが、遅れます。平均を取る補題 5 の方が、同じ ℓ\ell で常に真の値に近い。

(ii) の ℓ=1\ell=1 の最大値の形は、閉じた形で書けます。一辺 1 の容器はプラケット一枚で、その四本のリンクは全て枠に入るので、E[zp ∣ V]=tanh⁡(β2tr V)\mathbb E[z_p\,|\,V]=\tanh\bigl(\tfrac\beta2\mathrm{tr}\,V\bigr)、最大値は tr V=±2\mathrm{tr}\,V=\pm2 で tanh⁡β\tanh\beta です 初。表の σmax⁡(1)\sigma_{\max}(1) は −ln⁡tanh⁡β-\ln\tanh\beta(β=1,2,4\beta=1,2,4 で 0.27234, 0.036635, 0.0006710.27234,\ 0.036635,\ 0.000671)と一致します。これは次の章の板の閉じ込めの評価 σ≥−ln⁡tanh⁡(βN2)\sigma\ge-\ln\tanh(\beta N^2) の N=1N=1 の場合と同じ式です(12-04 §05)。

08

言えないこと

(a) 新しさ。補題 5 の恒等式は Mack–Petkova の容器の恒等式で、Kovács–Tomboulis の (18)〜(22) に書かれています。区画の和のアンサンブルでの書き直し・命題 2・命題 3 は初等的で、Kovács–Tomboulis 以外の文献との照合は済んでいません。この章の結果に新しさは主張しません。

(b) 命題 2 の第二項。外側の容器の偏りが典型的に小さいこと(第二項が M→∞M\to\infty で 0 に行くこと)は示していません。

(c) 命題 3 の読み。「2 倍にするたびに θ04\theta_0^4」は見立てで、(10) から直接は出ません。T² を一緒に広げる話には (10) は何も言いません。

(d) 四次元の勘定。§06 の R/ln⁡RR/\ln R は、原典の仮定 (23)(太い容器の自由エネルギーが境界の値に一様に ∣Vi∣e−cdi2|V_i|e^{-cd_i^2} の形)の上の勘定で、四次元の定理ではありません。この本は (23) もその否定も示していません。

(e) 容器の自由エネルギーの一様な評価。ΔFj\Delta F_j を良い枠に一様に、格子間隔に一様に評価することは、この本のどこでも示していません。それには枠を止めた条件つきの測度の多重尺度の解析が要り、変分原理(分配関数の下界しか与えない)だけでは向きが足りません。

(f) Lean。機械検査の欄は有限和の代数だけです。Haar 測度・余閉な zz・区画の位相・最近接の作用から (3)(4) が出ることは Lean の外です。

(g) 二次元の検査。表 1 は二次元の数値で、四次元の容器の長さの問題については何も言いません。

09

五分類の表と依存グラフ

表 2 この章の行(「—」は機械検査の無い行)
行言明(一行)分類根拠範囲機械検査
[01]区画の和のアンサンブル (1) は全ての捩れの区画の分配関数の和典Kovács–Tomboulis §2(捩れの移動)・Mack–Petkova(本文未確認)SU(2)SU(2)・有限格子—
[02]枠を止めると重みと Wilson ループが容器ごとに分かれる (3)(4)・σj\sigma_j は枠で決まらない初§02最近接の作用・容器は互いに離れる—
[03]Kovács–Tomboulis の (18)(20)(22)典原典の本文固定した区画・枠の最大値—
[04]補題 5:(6) と θj=tanh⁡(∣ΔFj∣/2)\theta_j=\tanh(|\Delta F_j|/2)典+初§03(恒等式は [03]、書き直しは本文)有限格子・任意の β\betaFrameLemma(FrameLemma.frame_bound)(仮定:有限・a>0a\gt0・f>0f\gt0・内側が空でない)・sign_mean_le_one(仮定:f>0f\gt0・σ=±1\sigma=\pm1)・ratio_eq_tanh(仮定:q±>0q^\pm\gt0)・Containers(Containers.container_bound)(仮定:有限・a≥0a\ge0・∣s∣≤1|s|\le1)
[05]命題 2:内側と外側の容器で固定した区画の (9)初§04板・格子状の容器・Eo[∏θ∏θ′]<1\mathbb E_o[\prod\theta\prod\theta']\lt1—(代数は [04] の束と同じ形)
[06](9) の第二項が M→∞M\to\infty で 0 に行く仮§04(外側の悪い枠の稀さ)——
[07]命題 3:平面の方向の入れ子 (10)初§05T² の大きさを止めた板Containers(Containers.container_bound)(仮定:有限・a≥0a\ge0・∣s∣≤1|s|\le1)
[08]2 倍にするたびに偏りが θ04\theta_0^4 の程度読(物理)§05典型的な枠・T² 固定—
[09]独立な容器では V(R)≥const R/ln⁡RV(R)\ge\mathrm{const}\,R/\ln R まで・太い容器で線形典原典 §3 の (23)〜(27)四次元・原典の仮定 (23) の上—
[10]板では容器の長さが T² の面積で止まり、[09] の障害は現れない初§06((24) の読み替え)小さな T² の板・NN 固定—
[11]大きな容器で B(A)/a1A→16/(3π)B(A)/a_1^A\to16/(3\pi)・(14)初§07二次元 SU(2)SU(2)・Wilson 作用—
[12]表 1 の数読本書の検討の数値二次元・浮動小数・n≤200n\le200—
[13]一辺 1 の容器の最大値の形は tanh⁡β\tanh\beta初§07二次元—

機械検査の欄の束は、本体の再検査で sorry を含まず、公理が標準の三つ(propext・Classical.choice・Quot.sound)の部分集合であることが確かめられたものです。保証されるのは有限の集合の上の実数の和と積の代数だけです(10-13)。

依存グラフ(前提の番号は結論の番号より小さい):

[01] 典 SUM    区画の和のアンサンブル (1)                       SU(2)・有限格子
[02] 初 MKV    枠で分かれる (3)(4)・σ_j は枠で決まらない          最近接
[03] 典 KT     Kovács–Tomboulis (18)(20)(22)                     固定した区画
[04] 初 L5     補題 5 (6)(7) ⟸ [01][02]([03] と同じ恒等式)     Lean FrameLemma.frame_bound ほか
[05] 初 P2     命題 2 (9) ⟸ [04]                                 板・内側と外側
[06] 仮 OUT    (9) の第二項 → 0                                   外側の稀さ
[07] 初 P3     命題 3 (10) ⟸ [04]                                T² 固定
[08] 読 TH4    2 倍で θ₀⁴(物理)⟸ [07]
[09] 典 KT3    R/ln R・太い容器で線形(仮定 (23) の上)           四次元
[10] 初 LEN    板では容器の長さが止まる ⟸ [09]
[11] 初 ASY    16/(3π) の極限 ⟸ [04]                             二次元
[12] 読 TAB    表 1 ⟸ [04][11]                                   浮動小数
[13] 初 ONE    一辺 1 の最大値 = tanh β ⟸ [03]                   二次元

確かめ方は、全ての「⟸」の右の番号が左の番号より小さいことを目で見ることです。円はありません。[06] は仮定の行で、どの行の前提にも入っていません。[05] の不等式 (9) は [06] が無くても成り立ち、[06] は (9) を面積則として読むときにだけ要ります。この章には、連続極限の節点も、四次元の面積則の節点もありません。


この章が言えている範囲

言えている言えていない
典+初 容器の恒等式(補題 5)とその tanh の形。有限格子・任意の β\beta・区画の和のアンサンブル新しさ(恒等式は Mack–Petkova)。容器の自由エネルギー ΔFj\Delta F_j の、良い枠と格子間隔に一様な評価
初 固定した区画への移し方(命題 2:内側と外側の容器)と、平面の方向の入れ子(命題 3)(9) の第二項が 0 に行くこと。T² を一緒に広げたときの偏りの振る舞い(13-01)
典 四次元で独立な容器から出るのは R/ln⁡RR/\ln R まで(原典の仮定 (23) の上の勘定)・板ではこの障害が現れない理由四次元の面積則。仮定 (23) そのもの
初+読 二次元 SU(2)SU(2) で補題 5 の評価が指数の部分で鋭いこと(損失 ln⁡(16/(3π))/ℓ2\ln(16/(3\pi))/\ell^2)四次元での評価の鋭さ

出典と再現

もの種別出典・道具
容器の恒等式 (18)(20)(22)・四次元の勘定 (23)〜(27)典T. G. Kovács, E. T. Tomboulis, Vortex waistlines and long range fluctuations, arXiv:hep-lat/0108017(Phys. Rev. D 65 (2002) 074501)。§2・§3 を本文で確認
渦の容器と和のアンサンブル典(間接)G. Mack, V. B. Petkova, Ann. Phys. 125 (1980) 117(Kovács–Tomboulis の文献 [3]。本文はこの本では未確認)
鏡映正値性による大域の形典(間接)E. T. Tomboulis, L. G. Yaffe, Commun. Math. Phys. 100 (1985) 313(Kovács–Tomboulis の文献 [9] と、その本文 (11)(13) の再述)
補題 5 の和のアンサンブルでの形・命題 2・命題 3・(14)・一辺 1 の最大値初本文 §03〜§07 の証明
表 1読本書の検討の数値(二次元 SU(2)SU(2)・指標展開 (12) を数値積分。数秒の計算)
LeanLeanFrameLemma(FrameLemma.frame_bound・FrameLemma.sign_mean_le_one・FrameLemma.ratio_eq_tanh)・Containers(Containers.container_bound)。束が保証するのは有限和の代数だけ

この章で使った語 — 区画の和のアンサンブル・枠・容器・区画の符号・偏り θ\theta・枠を止めた渦の自由エネルギー ΔF\Delta F・容器の恒等式(補題 5)・内側と外側の容器・入れ子・容器の長さと太さ。意味は A-02 用語集 にあります(第 12 部の語は追加の予定)。

次に読む章:12-04 板の閉じ込め — 平面の全てのプラケットに反転の群を働かせると、格子間隔と T² を止めた板で、全ての β\beta の面積則が出ます。

← 12-02 渦と分数インスタントン目次12-04 板の閉じ込め →

改訂 2026-10-15:初版。