computo ergo sum

2026-10-15 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 12 部 二本目の道向きの原理・揺らぎの整形・一ループの表 · Kiichi, Shiori and Rin

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道:四次元でだけ起きること
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道:イジング模型で見るギャップと相関長
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道:Donaldson とエキゾチック R⁴
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道:摂動級数は発散する
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道:Bakry–Émery と一リンク積分
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道:「1/0 に記号を与えれば」
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 地図
  97. 第 9 部 現在地と課題
  98. 9-01 世界はどこまで来ているか
  99. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  100. 9-03 新しい概念の候補
  101. 9-04 課題の一覧
  102. 9-05 よくある誤解
  103. 9-06 証明が含むべき段 — 七段の表
  104. 一本目の道 — 時間の方向から
  105. 第 10 部 一本目の道(前半)— 時間の方向から:質量ギャップと拡散型緩和時間の仮定
  106. 10-00 入口 — 階段と、酔歩・物差し・時計
  107. 10-01 構成の筋と仮定 ξ²
  108. 10-02 四次元格子で試した道と壁
  109. 10-03 階段の四段 — なぜ 0+1 次元から始めるか
  110. 10-04 二重井戸の経路の測度とキンク
  111. 10-05 一段目の言明 — 四条件と命題 4.5
  112. 10-06 (H1) 相の中の局所 Poincaré
  113. 10-07 (H2) の地図 — 七つの道筋と環の継ぎ目
  114. 10-08 計算機援用とは何か — 窓の中の鎖の条件
  115. 10-09 区画の枠組みと道筋 5 の三本の筋
  116. 10-10 迂回策の一覧 — 壊れ方の型
  117. 10-11 (H3)(H4) と芯の定数
  118. 10-12 統合表と依存グラフ
  119. 10-13 Lean の言明と機械検査の限界
  120. 10-14 突き合わせ — 記録の数と既知の数
  121. 10-15 残件と費用 — 定理までの距離
  122. 10-16 主張しないこと
  123. 10-17 ひらめきと小さな問い
  124. 第 11 部 一本目の道(後半)— 仮定の形を直し、時間を連続にする
  125. 11-00 今後の考察 — 入口
  126. 11-01 仮定 ξ² を妨げる一つの形 — ほぼ保存される大域の量
  127. 11-02 物差しと座標を選び直す — 保存が壊れる長さ
  128. 11-03 仮定 ξ² を直す二つの形 — 区画の仮定 ξ² と局所の仮定 ξ²
  129. 11-04 片側の橋はどの仮定 ξ² を要るか
  130. 11-05 時間を連続にする — Hamiltonian 格子と真空の測度
  131. 11-06 凸性の代わりに稀さで払う — 群の上の繰り込みと対数 Sobolev
  132. 11-07 四次元だからこそ — 無次元の結合と位相
  133. 11-08 問いと、主張しないこと
  134. 11-A1 第 11 部の記号の対応表
  135. 二本目の道 — 空間の方向から
  136. 第 12 部 二本目の道:空間の方向から — 小さな捩れた T² と閉じ込め
  137. 12-00 入口 — 時間でなく空間を
  138. 12-01 捩れた T² と 't Hooft の流束
  139. 12-02 渦と分数インスタントン
  140. 12-03 容器 — 枠を条件づけると独立になる
  141. 12-04 板の閉じ込め
  142. 12-05 渦の挿入の恒等式
  143. 12-06 力学で駆動した挿入と流れの補題
  144. 12-07 なぜ決まった写像は失敗するか
  145. 12-08 測った記録
  146. 12-09 この道が止まる場所 — T² を広げることが帯である
  147. 移り変わりの帯 — 二本の道が同じ壁に着く
  148. 第 13 部 移り変わりの帯 — 二本の道が同じ壁に着く
  149. 13-00 入口 — 合流
  150. 13-01 帯の正しい形
  151. 13-02 一つの不等式への還元
  152. 13-03 非可換が効く唯一の場所
  153. 13-04 構造だけでは渡れない
  154. 13-05 チェス盤と同時の反転
  155. 13-06 繰り込みの比較 — 群を区別する比較
  156. 13-07 時間の側から見た帯
  157. 13-08 試して止まった道の地図
  158. 13-09 測った記録
  159. 13-10 新しい見方の候補
  160. 13-11 紫外の制御 — 無限個の段で閉じるとは何か
  161. 閉じる
  162. 第 14 部 閉じる — 条件つきの言明
  163. 14-00 入口 — この部の約束
  164. 14-01 条件つきの言明 — 質量ギャップと閉じ込めを矢印ごとに
  165. 14-02 条件の台帳
  166. 14-03 問いの表(横断の索引)
  167. 14-04 主張しないこと(横断の索引)
  168. 付録
  169. A-01 記号表
  170. A-02 用語集
  171. A-03 文献案内
  172. A-04 Lean と機械検査
  173. A-05 この本の作り方
  174. A-06 仮定の索引
  175. A-07 この本から出た論文

なぜ決まった写像は失敗するか

この章で分かること — 12-05 と 12-06 で見たように、渦を一度に挿入する決まった写像は高くつき、熱浴でゆっくり入れる駆動した挿入は安くつきます。この章では、その違いを原理の形で説明します。(1) 区画の比 Z−/Z+Z_-/Z_+ の下から(区画の自由エネルギー ΔF\Delta F の上から)の評価は、写像による Gibbs の変分原理で得られ、その差はちょうど相対エントロピーです(向きの原理)。(2) ガウスの模型では、揺らぎの形を変えない(等長的な)写像の損失は自由度の数を増やしても減らず、行列式 1 の写像で揺らぎを整形すれば損失は ΔF2/n\Delta F^2/n まで下がります。(3) 背景の磁場の中のグルーオンの一ループの勘定 113=−13+4\tfrac{11}3=-\tfrac13+4 で、反遮蔽の +4+4 は偏極についてトレース 0 のスピンの項から来るので、一ループの水準で、等長的な写像による比較は漸近自由と逆の向き β′≥β+0.023\beta'\ge\beta+0.023 しか出せず、揺らぎを整形する写像は β−β′=0.258\beta-\beta'=0.258 を再現します。(4) 決まった点ごとの写像は紫外で余分の費用を払うこと(二次元の模型の数値)と、余りの相対エントロピーが面積とともに増えるなら面積則は出ないこと、を並べます。

前提となる章 — 12-05(挿入の恒等式)・12-06(駆動した挿入)・13-01(帯の正しい形)。第 4 部の 4-06(漸近自由・一ループの係数)と 4-04(繰り込み)、第 2 部の 2-08(自由エネルギー・相対エントロピー)。

先に言うこと — §03〜§05 の主張は全て一ループ(ガウス)の水準の文です。この章は非摂動の主張をしません。中程度の結合や大きな場で、揺らぎを整形する写像の誤差を押さえることは開いた問題で、移り変わりの帯(第 13 部)の核心はそこにあります。§06 の紫外の余分の費用は、二次元の模型の数値の読みです。

この章の順序
  1. 要約〔三〕 — 揺らぎの形を変えるかどうか
  2. 向きの原理 — 上界は変分から — 命題 1
  3. ガウスの模型 — 等長的な写像と整形する写像 — 命題 2・命題 3・表 1
  4. 一ループの表 11/3 = −1/3 + 4 — 表 2・命題 4
  5. 繰り込みの比較への帰結 — 命題 5・表 3
  6. 決まった写像の紫外の余分の費用 — 表 4
  7. 決定論的な挟み撃ちと面積則 — 命題 6・命題 7
  8. 言えないこと
  9. 五分類の表と依存グラフ — 表 5

01

要約〔三〕 — 揺らぎの形を変えるかどうか

  1. 閉じ込めには、渦のある区画が無い区画に比べて高くつきすぎないこと、つまり区画の自由エネルギー ΔF=ln⁡(Z+/Z−)\Delta F=\ln(Z_+/Z_-) の上からの評価が要ります(θ=tanh⁡(ΔF/2)\theta=\tanh(\Delta F/2) を小さくするため)。
  2. その向きの評価を与えるのは、区画 ++ の測度を区画 −- へ運ぶ写像 TT による Gibbs の変分原理です:ΔF=E+[S∘T−S−ln⁡JT]−KL\Delta F=\mathbb E_+[S\circ T-S-\ln J_T]-\mathrm{KL}。KL(相対エントロピー)を捨てれば上界になります 初。
  3. 捨てた KL が評価の損失です。ガウスの模型で計算すると、揺らぎの形を変えない写像(恒等写像・群の平行移動・ゲージ変換・間引き)の損失は、自由度を増やしても減りません。体積を保ったまま揺らぎを伸び縮みさせる写像なら、損失は ΔF2/n\Delta F^2/n(nn は自由度の数)まで下がります 初。
  4. 漸近自由の係数 113\tfrac{11}3 は、一ループの水準で、軌道の部分 −13-\tfrac13 とスピンの項の +4+4 に分かれます。スピンの項は偏極についてトレース 0 なので、揺らぎの形を変えない写像の評価(一次のトレース)には現れません 初(一ループの水準)。
  5. その結果、一ループの水準で、等長的な写像で作った繰り込みの比較は 2 倍あたり β′≥β+0.023\beta'\ge\beta+0.023(U(1)U(1) と同じ向き)しか出せず、揺らぎを整形する写像は漸近自由の β−β′=0.258\beta-\beta'=0.258 を再現します 初(一ループの水準)。
  6. 決まった点ごとの写像は、二次元の模型で、捩れの方向の格子の大きさ NTN_T について線形以上に増える余分の費用を払いました。揺らぎを新しい背景で引き直す試行では、この増加が消えます 読。
  7. 決定論的な写像の余りの KL が面の面積とともに増えるなら、変分の評価から面積則は出ません 初(その仮定の下で)。輸送の道の役割は、帯の形そのものより弱い定性的な目標にあります。
02

向きの原理 — 上界は変分から

区画 ++ と区画 −- の配位の集合を X+X_+・X−X_-、それぞれの上の Gibbs 測度を μ±=e−S/Z±\mu_\pm=e^{-S}/Z_\pm とし、区画の自由エネルギーを ΔF=ln⁡(Z+/Z−)\Delta F=\ln(Z_+/Z_-) と置きます(12-06 の ΔFD\Delta F_D と同じ向き)。区画の偏りは θ=tanh⁡(∣ΔF∣/2)\theta=\tanh(|\Delta F|/2) なので、閉じ込めの向きに要るのは ΔF\Delta F の上界、言い換えると Z−/Z+Z_-/Z_+ の下界です。

命題 1(輸送の恒等式・Gibbs の変分原理)

T:X+→X−T:X_+\to X_- を可測な全単射で、基準の測度(Haar × 数え上げ、ガウスの模型では Lebesgue)についてのヤコビアンを JTJ_T とし、T#μ+T_\#\mu_+ を μ+\mu_+ の TT による押し出しとすると

ΔF=E+[S∘T−S−ln⁡JT]−KL(T#μ+ ∥ μ−).(1)\Delta F=\mathbb E_+\bigl[S\circ T-S-\ln J_T\bigr]-\mathrm{KL}\bigl(T_\#\mu_+\,\big\|\,\mu_-\bigr). \tag{1}

とくに ΔF≤E+[S∘T−S−ln⁡JT]\Delta F\le\mathbb E_+[S\circ T-S-\ln J_T] で、等号は T#μ+=μ−T_\#\mu_+=\mu_-(TT が μ+\mu_+ を μ−\mu_- へ正確に運ぶ)ときに限る。

初 標準の計算です。証明。ν=T#μ+\nu=T_\#\mu_+ の密度は y=Txy=Tx で ν(y)=μ+(x)/JT(x)\nu(y)=\mu_+(x)/J_T(x)。よって

KL(ν∥μ−)=E+[ln⁡μ+(x)−ln⁡JT(x)−ln⁡μ−(Tx)]=E+[S(Tx)−S(x)−ln⁡JT(x)]−ln⁡Z++ln⁡Z−.\mathrm{KL}(\nu\|\mu_-)=\mathbb E_+\bigl[\ln\mu_+(x)-\ln J_T(x)-\ln\mu_-(Tx)\bigr]=\mathbb E_+\bigl[S(Tx)-S(x)-\ln J_T(x)\bigr]-\ln Z_++\ln Z_-.

移項すれば (1)。KL ≥0\ge0 から不等式。∎ 有限の配位空間(12-05 の (F))で TT が全単射なら JT=1J_T=1 で、(1) の右辺の第一項は 12-05 の E+[ΔS]\mathbb E_+[\Delta S] です。

もう一方の向き。 この本で使う構造的な道具は、ΔF\Delta F を上から押さえません。鏡映正値性からは Z−≤Z+Z_-\le Z_+(θ≥0\theta\ge0、ΔF≥0\Delta F\ge0)が出ますが、これは ΔF\Delta F の下界で、閉じ込めと逆の向きです(13-04)初。チェス盤の評価は E∏θ\mathbb E\prod\theta を一つの密度 κcb\kappa_{cb} に置き換えますが、κcb<1\kappa_{cb}\lt1 を言うにはやはり ΔF\Delta F の上界が要ります(13-05)。Tomboulis–Yaffe の不等式は θ\theta の評価を Wilson ループに運ぶもので、θ\theta 自身は押さえません(13-01)。この本の道具の範囲では、ΔF\Delta F の上界は (1) の型の変分(試行の写像・試行の測度)と、明示的な構成からしか出ていません 読(道具の一覧についての整理の判断で、定理ではありません)。これを向きの原理と呼びます。帯を渡る道具の候補は、まずこの向きの評価を与えるものでなければなりません。

03

ガウスの模型 — 等長的な写像と整形する写像

(1) の KL がどれだけ大きいかを、全てが計算できるガウスの模型で見ます。Rn\mathbb R^n の上の二つのガウス測度 μ0=N(0,Δ0−1)\mu_0=N(0,\Delta_0^{-1})・μB=N(0,ΔB−1)\mu_B=N(0,\Delta_B^{-1})(作用 S0=12xTΔ0xS_0=\tfrac12x^{\mathsf T}\Delta_0x・SB=12xTΔBxS_B=\tfrac12x^{\mathsf T}\Delta_Bx、Δ0,ΔB\Delta_0,\Delta_B は正定値)を取ります。μ0\mu_0 が「区画 ++(背景なし)の揺らぎ」、μB\mu_B が「区画 −-(渦の背景 BB のまわり)の揺らぎ」の役です。正確な値は

ΔF=−ln⁡ZBZ0=12ln⁡det⁡(ΔBΔ0−1)=12∑kln⁡λk,(2)\Delta F=-\ln\frac{Z_B}{Z_0}=\tfrac12\ln\det(\Delta_B\Delta_0^{-1})=\tfrac12\sum_k\ln\lambda_k, \tag{2}

λk\lambda_k は Δ0−1/2ΔBΔ0−1/2\Delta_0^{-1/2}\Delta_B\Delta_0^{-1/2} の固有値です。線形写像 TT を (1) に入れると、M:=Δ0−1/2TTΔBTΔ0−1/2M:=\Delta_0^{-1/2}T^{\mathsf T}\Delta_BT\Delta_0^{-1/2} を使って評価は

E0[SB∘T−S0]−ln⁡∣det⁡T∣=12(tr M−n)−ln⁡∣det⁡T∣(3)\mathbb E_0\bigl[S_B\circ T-S_0\bigr]-\ln|\det T|=\tfrac12(\mathrm{tr}\,M-n)-\ln|\det T| \tag{3}

です(E0[xTAx]=tr(AΔ0−1)\mathbb E_0[x^{\mathsf T}Ax]=\mathrm{tr}(A\Delta_0^{-1}) から)。

揺らぎについて等長的な写像とは、TTΔ0T=Δ0T^{\mathsf T}\Delta_0T=\Delta_0(μ0\mu_0 の揺らぎの形を変えない、μ0\mu_0 を保つ)線形写像のことです。恒等写像、群の平行移動やゲージ変換の線形化、間引き(細かい自由度の一部を捨て、残りをそのまま粗い格子の自由度とする操作)の線形化がこの類に入ります(間引きの扱いは §08 (b))。

命題 2(等長的な写像の損失は自由度で薄まらない)

TT が揺らぎについて等長的なら、(3) の評価は TT に依らず 12∑k(λk−1)\tfrac12\sum_k(\lambda_k-1) で、正確な値 (2) との差は

12∑k(λk−1−ln⁡λk) ≥ 0.(4)\tfrac12\sum_k\bigl(\lambda_k-1-\ln\lambda_k\bigr)\ \ge\ 0. \tag{4}

初 証明。O:=Δ01/2TΔ0−1/2O:=\Delta_0^{1/2}T\Delta_0^{-1/2} は OTO=1O^{\mathsf T}O=1 を満たす直交行列で、M=OT(Δ0−1/2ΔBΔ0−1/2)OM=O^{\mathsf T}(\Delta_0^{-1/2}\Delta_B\Delta_0^{-1/2})O。よって tr M=∑kλk\mathrm{tr}\,M=\sum_k\lambda_k、∣det⁡T∣=1|\det T|=1。差は t−1−ln⁡t≥0t-1-\ln t\ge0 を足したもの。∎ (4) は二つのガウス測度の相対エントロピー KL(μ0∥μB)\mathrm{KL}(\mu_0\|\mu_B) そのものです。背景が揺らぎを変えるのが少数の方向(固有値が 1 でない λk\lambda_k が有限個)なら、(4) は nn を大きくしても減りません。

命題 3(行列式 1 の写像で整形すれば損失は ΔF2/n\Delta F^2/n)

det⁡T=1\det T=1 の線形写像の全体で (3) の評価の下限を取ると、r:=det⁡(ΔBΔ0−1)=e2ΔFr:=\det(\Delta_B\Delta_0^{-1})=e^{2\Delta F} として

inf⁡det⁡T=1(12(tr M−n))=n2(r1/n−1),0 ≤ n2(e2ΔF/n−1)−ΔF ≤ ΔF2n e2∣ΔF∣/n.(5)\inf_{\det T=1}\Bigl(\tfrac12(\mathrm{tr}\,M-n)\Bigr)=\tfrac n2\bigl(r^{1/n}-1\bigr),\qquad 0\ \le\ \tfrac n2\bigl(e^{2\Delta F/n}-1\bigr)-\Delta F\ \le\ \frac{\Delta F^2}n\,e^{2|\Delta F|/n}. \tag{5}

初 証明。det⁡T=1\det T=1 なら det⁡M=r\det M=r で、逆に det⁡M=r\det M=r の任意の正定値行列 MM は T=ΔB−1/2M1/2Δ01/2T=\Delta_B^{-1/2}M^{1/2}\Delta_0^{1/2}(に直交行列を掛けたもの、det⁡T=r−1/2r1/2=1\det T=r^{-1/2}r^{1/2}=1)で実現できます。相加相乗平均で tr M≥n(det⁡M)1/n=nr1/n\mathrm{tr}\,M\ge n(\det M)^{1/n}=nr^{1/n}、等号は M=r1/n⋅1M=r^{1/n}\cdot1。差の評価は u=2ΔF/nu=2\Delta F/n として eu−1−u≤u22e∣u∣e^u-1-u\le\tfrac{u^2}2e^{|u|} から。∎

命題 3 の写像は体積を保ち(ln⁡JT=0\ln J_T=0)、背景が変える少数の方向の揺らぎを伸び縮みさせ、その体積の変化を残りの多数の方向に一つあたり ΔF/n\Delta F/n ずつ薄く負わせます。要るのはヤコビアン(エントロピー)を持つことではなく、揺らぎの形を変えることです。

表 1 ガウスの模型の例:固有値 0.2・0.3・3・4(残りは全て 1)
評価n=10n=10n=100n=100n=104n=10^4
正確な値 (2)−0.16425-0.16425−0.16425-0.16425−0.16425-0.16425
等長的な写像(命題 2)+1.75+1.75+1.75+1.75+1.75+1.75
行列式 1 の最適な写像(命題 3)−0.1616-0.1616−0.1640-0.1640−0.16425-0.16425

初((2)・(4)・(5) の閉じた式の値)。小さい固有値と大きい固有値が混じると、一次のトレース 12∑(λk−1)\tfrac12\sum(\lambda_k-1) と 12∑ln⁡λk\tfrac12\sum\ln\lambda_k は逆の符号になりえます。この例では正確には区画の変更が安い(ΔF<0\Delta F\lt0)のに、等長的な写像の評価は高い(+1.75+1.75)と言います。次節のスピンの項がちょうどこの形をしています。

04

一ループの表 11/3 = −1/3 + 4

(1,2) 平面の一定の可換な磁場 BB を背景に置き、そのまわりの SU(2)SU(2) のグルーオンの揺らぎを Feynman ゲージで考えます。揺らぎの二次の作用の演算子は

MB=−D2 δμν−2iFμν(6)M_B=-D^2\,\delta_{\mu\nu}-2iF_{\mu\nu} \tag{6}

で、第一項が軌道の部分(共変微分の二乗)、第二項がスピンの項です。ゴーストの演算子は −D2-D^2 です。熱核のトレース(体積あたり。共通の因子 1/(16π2s2)1/(16\pi^2s^2) と、群の因子 CA=2C_A=2=電荷を持つ成分の数を除く)は、固有時 ss の関数として

ベクトル(4 偏極): Bssinh⁡Bs(2+2cosh⁡2Bs),ゴースト: −2 Bssinh⁡Bs(7)\text{ベクトル(4 偏極)}:\ \frac{Bs}{\sinh Bs}\bigl(2+2\cosh2Bs\bigr),\qquad \text{ゴースト}:\ -2\,\frac{Bs}{\sinh Bs} \tag{7}

です。x=Bsx=Bs として x/sinh⁡x=1−x2/6+O(x4)x/\sinh x=1-x^2/6+O(x^4)、cosh⁡2x=1+2x2+O(x4)\cosh2x=1+2x^2+O(x^4) を使って x2x^2 の係数を拾うと、次の表になります。

表 2 B2s2B^2s^2 の係数の内訳(一ループの水準)
部分熱核のトレースの形B2s2B^2s^2 の係数意味
軌道(ベクトルの軌道 4 自由度 − ゴースト 2)Bssinh⁡Bs (4−2)\dfrac{Bs}{\sinh Bs}\,(4-2)−13-\tfrac13反磁性(遮蔽)。U(1)U(1) の荷電粒子と同じ型
スピンの項Bssinh⁡Bs 2(cosh⁡2Bs−1)\dfrac{Bs}{\sinh Bs}\,2(\cosh2Bs-1)+4+4常磁性(反遮蔽)。非可換に特有
合計(7) の和+113+\tfrac{11}3漸近自由の一ループの係数(4-06 の 113\tfrac{11}3)

初(一ループの水準。展開は二行の計算です:軌道は 2(1−x2/6)=2−x2/32(1-x^2/6)=2-x^2/3、スピンは (1−x2/6)⋅4x2=4x2+O(x4)(1-x^2/6)\cdot4x^2=4x^2+O(x^4)。)この勘定の規約では、係数 +113+\tfrac{11}3 が漸近自由の向き、−13-\tfrac13 が逆の向きです。

命題 4(スピンの項は一次のトレースに現れない — 一ループの水準)

ガウスの水準で、背景なしの演算子 M0=−∂2δμνM_0=-\partial^2\delta_{\mu\nu} と (6) の MBM_B を比べるとき、揺らぎについて等長的な写像による (1) の評価は一次のトレース 12tr((MB−M0)M0−1)\tfrac12\mathrm{tr}\bigl((M_B-M_0)M_0^{-1}\bigr) で、スピンの項の寄与はちょうど 0 です。この評価は、軌道の部分だけの正確な値 12ln⁡det⁡(MorbM0−1)\tfrac12\ln\det(M_{\rm orb}M_0^{-1}) 以上です。

初(一ループの水準)証明。M0−1M_0^{-1} は偏極の添字について δμν\delta_{\mu\nu} に比例し、FμνF_{\mu\nu} は反対称なので、trμν(Fμν)=0\mathrm{tr}_{\mu\nu}(F_{\mu\nu})=0。よってスピンの項の一次のトレースは 0 で、評価は 12tr((Morb−M0)M0−1)\tfrac12\mathrm{tr}((M_{\rm orb}-M_0)M_0^{-1}) に等しく、命題 2 の不等式 t−1≥ln⁡tt-1\ge\ln t から 12ln⁡det⁡(MorbM0−1)\tfrac12\ln\det(M_{\rm orb}M_0^{-1}) 以上。∎ スピンの項は二次(表 2 の cosh⁡2Bs−1=O(B2)\cosh2Bs-1=O(B^2))になって効き、反遮蔽の +4+4 を与えます。一次のトレースしか見ない評価は、それを完全に失います。(無限次元の演算子のトレースと行列式は、一ループの計算で通常行う正則化のもとでの文です。)

05

繰り込みの比較への帰結

第 13 部の繰り込みの比較(13-06)は、格子全体を 2 倍にした (2N,β)(2N,\beta) の渦の自由エネルギーを、元の大きさ (N,β′)(N,\beta') のそれで上から押さえ、β′<β\beta'\lt\beta(結合が強くなる向き、漸近自由)を言いたいものです。一ループの水準では、渦の背景のまわりの係数 cc が 2 倍あたりの結合の移動を決め、β=4/g2\beta=4/g^2、b0=c CA/(16π2)b_0=c\,C_A/(16\pi^2) として β−β′=8b0ln⁡2\beta-\beta'=8b_0\ln2 です。

命題 5(二つの写像の比較 — 一ループの水準)

(a) 揺らぎについて等長的な写像で (1) の評価を作ると、一ループの水準で取り込める係数は高々 c=−13c=-\tfrac13 で、2 倍あたり β′≥β+0.023\beta'\ge\beta+0.023(U(1)U(1) と同じ、漸近自由と逆の向き)しか出せない。
(b) 体積を保ちつつ揺らぎを整形する写像(命題 3)なら、正確な 12ln⁡det⁡\tfrac12\ln\det を誤差 O(ΔF2/n)O(\Delta F^2/n) で再現し、c=113c=\tfrac{11}3、b0=22/(48π2)b_0=22/(48\pi^2)、2 倍あたり β−β′=0.258\beta-\beta'=0.258 を出す。

初(一ループの水準)証明。(a) は命題 4 と、評価が上界であること(命題 1)から。数は 8⋅−1/3⋅216π2ln⁡2=−0.257511≈−0.02348\cdot\tfrac{-1/3\cdot2}{16\pi^2}\ln2=-\tfrac{0.2575}{11}\approx-0.0234。(b) は命題 3 を殻ごとの揺らぎに当てたもので、数は 8⋅2248π2ln⁡2≈0.25758\cdot\tfrac{22}{48\pi^2}\ln2\approx0.2575。∎

表 3 2 倍あたりの結合の移動 β−β′\beta-\beta'(SU(2)SU(2)、β=4/g2\beta=4/g^2)
何からβ−β′\beta-\beta'分類同じ行に書く条件
正確な一ループの係数 113\tfrac{11}30.2580.258初一ループの水準
揺らぎを整形する写像の評価(命題 5 (b))0.2580.258(誤差 O(ΔF2/n)O(\Delta F^2/n))初一ループの水準・ガウスの評価
等長的な写像の評価(命題 5 (a))≤−0.023\le-0.023初一ループの水準。U(1)U(1) と同じ向き
格子全体を 2 倍にした試験(44→844^4\to8^4、β ごとに種 1〜3 本)+0.16+0.16〜+0.25+0.25読β=2.5\beta=2.5〜3.03.0。各 β の幅は 13-06 表 4 のとおり(例:β=2.7\beta=2.7 で +0.13+0.13〜+0.19+0.19、β=2.5\beta=2.5 で +0.19+0.19〜+0.5+0.5)。β=2.3\beta=2.3 では ≳0.1\gtrsim0.1。小さな格子
U(1)U(1) の同じ試験((N,M)=(4,8)→(8,16)(N,M)=(4,8)\to(8,16)、β=1.5\beta=1.5)<−0.2\lt-0.2読逆向き(β′>1.7\beta'\gt1.7、曲線の外)。レプリカ 48・交換の受理率の最小 0.37。種 1 本(13-06 表 2)

Migdal–Kadanoff 型の間引きで繰り込みの比較を作る試み(Tomboulis 2007)は、同じ議論が U(1)U(1) でも強結合へ流れてしまう点で批判されました 典(Ito–Seiler・Kanazawa、出典の表)。間引きは揺らぎの形を変えない側に入るので、命題 5 (a) はこの批判に一ループの水準の説明を与えている、と読めます 読(物理。非摂動の議論の穴を一ループの計算が言い当てる、という解釈で、批判そのものの証明ではありません)。

選別の基準。 帯を渡る方法の候補は、試行の写像の線形化が揺らぎについて非等長的でなければならない——これが一ループの水準での必要条件です 初(命題 5 (a) の言い換え。一ループの水準)。非摂動の水準でも同じ条件が要るという見方は 読(物理)です。12-06 の駆動した挿入が安いのは、熱浴が揺らぎの形を新しい結合に合わせて緩めるからで、この基準と整合します 読(物理)。

06

決まった写像の紫外の余分の費用

命題 2 は「等長的な写像の損失は自由度で薄まらない」と言いました。格子の上で決まった点ごとの写像を使うと、損失はさらに、格子間隔を細かくするほど増えることが数値で見えています。

二次元の模型。 二次元の O(3)O(3) 模型(スピン sx∈S2s_x\in S^2、作用 −β∑sx⋅sy-\beta\sum s_x\cdot s_y)を、帯 Z×(Z/NT)\mathbb Z\times(\mathbb Z/N_T) の上で、周期の方向に zz 軸まわりの π\pi 回転の捩れを入れて置きます。古典的な真空は北極と南極で、二つを結ぶキンク(分数インスタントンの二次元版)の作用は 2πβ2\pi\beta に下から近づきます。四次元の小さな捩れた T2T^2 の、軽い試験台です。

表 4 二次元の捩れた帯でのキンクの挿入の費用(β\beta を除いた作用の単位。余分の費用は β×(E[ΔS]−古典の値)\beta\times(\mathbb E[\Delta S]-\text{古典の値}))
試行β\betaNT=2N_T=2NT=4N_T=4NT=8N_T=8条件
決まった点ごとの回転(各点で真空からキンクへの最小の回転)の余分の費用2−2.1-2.1+4.1+4.1+14.7+14.7標準偏差は NT=8N_T=8 で 4.6(β=2\beta=2)・2.6(β=4\beta=4)。配位の数は記録に無い
同上4−2.0-2.0+4.6+4.6+16.2+16.2

読 余分の費用は β\beta にほとんど依らず、NTN_T について線形以上に増えます。期待された「走る結合による ln⁡NT\ln N_T の減少」とは逆です。

一方、揺らぎを古い背景のまま運ぶのでなく、新しい背景(キンク)のまわりのガウス測度から引き直す試行では、評価の差は一ループの行列式の比 12ln⁡[det⁡′Hkink/det⁡Hvac]\tfrac12\ln[\det' H_{\rm kink}/\det H_{\rm vac}] になります。その値(集団座標の二本を除く)は NT=3,4,6,8,10N_T=3,4,6,8,10 で −3.68,−2.94,−2.43,−2.11,−1.88-3.68,-2.94,-2.43,-2.11,-1.88 と対数的にしか変わらず、回転と並進の集団座標の測度を入れた量は NT=4N_T=4〜1212 で −4.91-4.91〜−4.85-4.85 とほぼ一定でした 読(固有値の数値計算。誤差の評価なし)。線形以上の増加は消えています。

四次元の板。 SU(2)SU(2)、β=2.3\beta=2.3、板 2×2×8×82\times2\times8\times8 で、流束を決まった色の向き(σ3\sigma_3)に滑らかに広げる挿入は、費用を下げるどころか上げました:ΔS\Delta S の平均は広げる半径 1 で 21.9、半径 2 で 36.0 読。ゲージを固定していない配位では、決まった向きの場が各点の色の向きと揃わないためと読めます 読(物理)。同じ板で、駆動した挿入(12-06)は 16 段で仕事の平均を 2.9 まで下げました。

読み方。 決まった点ごとの写像は、揺らぎを「固定した背景の上で」動かすので、新しい背景での揺らぎのエントロピーの差を取り損ねます。命題 2 の損失が、格子の細かい自由度ごとに積み上がる、という描像です 読(物理。NTN_T に比例するかどうかは三点の数値からの読みで、一般の評価はありません)。挿入の平均(12-05)・駆動した挿入(12-06)・揺らぎの引き直しは、どれもこの費用を避けるための道具です。

07

決定論的な挟み撃ちと面積則

帯の正しい形は θ(L,L)≤e−cL2\theta(L,L)\le e^{-cL^2}(13-01)でした。θ=tanh⁡(ΔF/2)≤ΔF/2\theta=\tanh(\Delta F/2)\le\Delta F/2 なので、変分でこれを示すには ΔF(L,L)\Delta F(L,L) の上界が 2e−cL22e^{-cL^2} の程度まで小さくなければなりません。

命題 6(余りの KL が面積とともに増えるなら面積則は出ない)

写像 TT について、(1) の余り KL(T#μ+∥μ−)\mathrm{KL}(T_\#\mu_+\|\mu_-) が渦の面の面積 AA について ≥c′A\ge c'A(c′>0c'\gt0)なら、(1) から出る評価 E+[S∘T−S−ln⁡JT]\mathbb E_+[S\circ T-S-\ln J_T] は c′Ac'A 以上で、それから出る θ\theta の上界は tanh⁡(c′A/2)\tanh(c'A/2) 以上、A→∞A\to\infty で 1 に近づく。とくに θ≤e−σA\theta\le e^{-\sigma A} の形の評価は出ない。

初 証明。(1) から E+[⋯ ]=ΔF+KL≥KL≥c′A\mathbb E_+[\cdots]=\Delta F+\mathrm{KL}\ge\mathrm{KL}\ge c'A(区画の向きを ΔF≥0\Delta F\ge0 に取る)。tanh⁡\tanh は単調。∎ これは仮定の下の文で、仮定が成り立つかどうかは写像ごとに確かめる必要があります。

命題 7(独立な容器では余りの KL は足し算になる)

枠を止めて容器 D1,…,DkD_1,\dots,D_k の内側が条件つきで独立で(12-03)、写像が容器ごとの積 T=T1×⋯×TkT=T_1\times\cdots\times T_k なら、KL(T#μ+∥μ− ∣ Φ)=∑jKL(Tj#μ+,j∥μ−,j ∣ Φ)\mathrm{KL}(T_\#\mu_+\|\mu_-\,|\,\Phi)=\sum_j\mathrm{KL}(T_{j\#}\mu_{+,j}\|\mu_{-,j}\,|\,\Phi)。各項が c0>0c_0\gt0 以上なら、余りは容器の数、つまり面積に比例する。

初 積の測度の相対エントロピーは各因子の相対エントロピーの和、という標準の事実です。∎

決まった(揺らぎに合わせない)写像では、各容器の余りが c0>0c_0\gt0 で下から押さえられ、命題 6 の仮定が成り立つ、というのが構成的場の理論と確率論の二つの視点からの検討の共通の判断です 読(物理・見立て。三角な写像の上限は周長型、という判断も同じ)。この判断の下では、輸送の道は帯の形そのものを示す道具ではなく、より弱い定性的な目標——ΔF(L,L)→0\Delta F(L,L)\to0(速さを問わない)——のための道具になります。ΔF(L,L)→0\Delta F(L,L)\to0 は、U(1)U(1) のクーロン相(ΔF(L,L)\Delta F(L,L) は正の定数に近づく)や Z2\mathbb Z_2 の非閉じ込め相を排除するには足りますが、閉じ込めも質量ギャップも出しません 読(物理。数値は 13-06)。

08

言えないこと

(a) 非摂動の水準。命題 4・命題 5 と表 3 の上三行は全て一ループ(ガウス)の水準の文です。中程度の結合や大きな場で、揺らぎを整形する写像の誤差(渦の面の近くの局所的な相対エントロピーと高次のループ)を押さえることは開いた問題で、この本は示していません。

(b) 等長的な写像の分類。恒等写像・群の平行移動・ゲージ変換の線形化は定義どおり等長的です。間引きを等長的な側に入れるのは、残す自由度の揺らぎをそのまま運ぶ、という意味での分類で、間引きは全単射ではないので命題 2 の文字どおりの適用ではありません。

(c) 向きの原理。「ΔF\Delta F の上界は変分と明示的な構成からしか出ない」は、この本の道具の一覧についての判断で、定理ではありません。

(d) 紫外の余分の費用。表 4 は二次元の模型の三点の数値で、四次元のゲージ理論で同じ増え方をすることは示していません。四次元では Ward 恒等式による打ち消しがありうるとされ、それが起きるかはゲージ固定と写像の共変性に依ります。

(e) 命題 6 の仮定。決まった写像の余りの KL が面積に比例することは、命題 7 の積の場合に、各容器の余りが下から押さえられることを仮定して言えるだけで、一般の写像については見立てです。

(f) 新しさ。Gibbs の変分原理・ガウス測度の相対エントロピー・背景場の一ループの計算はどれも標準です。それらを「揺らぎの形を変えるかどうか」の選別の基準として並べた見方の新しさは主張しません。スカラー場では Polchinski 流の輸送写像(Bauerschmidt–Bodineau–Dagallier)が知られており、ゲージ場の例は探した範囲で見当たりません(照合未了)。

09

五分類の表と依存グラフ

表 5 この章の行(§03〜§05 は全て一ループ(ガウス)の水準)
行言明(一行)分類根拠範囲機械検査
[01]命題 1:輸送の恒等式 ΔF=E+[S∘T−S−ln⁡JT]−KL\Delta F=\mathbb E_+[S\circ T-S-\ln J_T]-\mathrm{KL}初§02(標準)可測な全単射・ヤコビアンが定まる—
[02]鏡映正値性は ΔF≥0\Delta F\ge0(閉じ込めと逆の向き)しか与えない初§02・13-04捩れを固定した鏡映の方向—
[03]向きの原理:ΔF\Delta F の上界は変分と明示的な構成からだけ読§02この本の道具の一覧についての判断—
[04]命題 2:等長的な写像の損失 12∑(λk−1−ln⁡λk)\tfrac12\sum(\lambda_k-1-\ln\lambda_k)(nn で薄まらない)初§03ガウスの模型・TTΔ0T=Δ0T^{\mathsf T}\Delta_0T=\Delta_0—
[05]命題 3:行列式 1 の写像の最適値と損失 ≤(ΔF2/n)e2∣ΔF∣/n\le(\Delta F^2/n)e^{2|\Delta F|/n}初§03ガウスの模型・線形写像—
[06]表 1 の例の値初§03固有値 0.2・0.3・3・4—
[07]表 2:113=−13+4\tfrac{11}3=-\tfrac13+4(+4+4 はスピンの項)初§04一ループの水準・一定の可換な背景・Feynman ゲージ—
[08]命題 4:スピンの項は一次のトレースに現れない初§04一ループの水準—
[09]命題 5 (a):等長的な比較は β′≥β+0.023\beta'\ge\beta+0.023初§05一ループの水準・2 倍あたり—
[10]命題 5 (b):整形する比較は β−β′=0.258\beta-\beta'=0.258初§05一ループの水準・2 倍あたり—
[11]2 倍の試験の β−β′\beta-\beta'(SU(2)SU(2) で正、U(1)U(1) で負)読§05・13-06小さな格子・β\beta は数点・種 2〜3 本—
[12]Migdal–Kadanoff の補間は U(1)U(1) を区別しない(批判)典Ito–Seiler・KanazawaTomboulis 2007 の議論について—
[13][12] の一ループの水準の説明読(物理)§05一ループの水準—
[14]選別の基準:線形化が揺らぎについて非等長的であること初§05一ループの水準での必要条件(非摂動では読)—
[15]決まった点ごとの写像の余分の費用は NTN_T について線形以上読§06二次元 O(3)O(3)・捩れた帯・NT=2,4,8N_T=2,4,8—
[16]揺らぎの引き直しでは増加が消える読§06同上・NT=3N_T=3〜1212・誤差の評価なし—
[17]四次元で決まった向きに広げる挿入は費用が上がる読§06SU(2)SU(2)・β=2.3\beta=2.3・2×2×8×82\times2\times8\times8—
[18]命題 6:余りの KL ≥c′A\ge c'A なら面積則は出ない初§07余りの KL の下界を仮定—
[19]命題 7:独立な容器で KL は足し算初§07枠を止めて容器が独立・写像が積—
[20]決まった写像では各容器の余りが下から押さえられる読(物理)§07見立て—
[21]ΔF(L,L)→0\Delta F(L,L)\to0 はクーロン相と非閉じ込めの Z2\mathbb Z_2 相を排除する読(物理)§07・13-06閉じ込めもギャップも出さない—

この章に機械検査の束はありません。

依存グラフ(前提の番号は結論の番号より小さい):

[01] 初 GIBBS   ΔF = E₊[S∘T − S − ln J] − KL                    全単射・ヤコビアン
[02] 初 RP      鏡映正値性は ΔF ≥ 0 だけ                          13-04
[03] 読 DIR     向きの原理(道具の一覧の判断)⟸ [01][02]
[04] 初 ISO     等長的な写像の損失は n で薄まらない ⟸ [01]       ガウス
[05] 初 RESHAPE 行列式 1 の整形で損失 ~ ΔF²/n ⟸ [01]             ガウス
[06] 初 EX      表 1 の例 ⟸ [04][05]
[07] 初 1LOOP   11/3 = −1/3 + 4                                   一ループの水準
[08] 初 TRACE   スピンの項は一次のトレースに出ない ⟸ [04][07]    一ループの水準
[09] 初 ISO-RG  等長的な比較は β′ ≥ β + 0.023 ⟸ [01][08]        一ループの水準
[10] 初 SH-RG   整形する比較は β − β′ = 0.258 ⟸ [05][07]         一ループの水準
[11] 読 NUM     2 倍の試験の符号(SU(2) 正・U(1) 負)             小さな格子
[12] 典 MK      Migdal–Kadanoff の補間への批判
[13] 読 WHY-MK  [12] の一ループの説明(物理)⟸ [09][12]
[14] 初 CRIT    選別の基準:非等長的であること ⟸ [09]           一ループの水準
[15] 読 UV2D    決まった写像の余分の費用(二次元)
[16] 読 RESAMP  引き直しで増加が消える(二次元)
[17] 読 UV4D    決まった向きの挿入は高い(四次元の板)
[18] 初 NOAREA  余りの KL ≥ c′A なら面積則は出ない ⟸ [01]       仮定つき
[19] 初 ADD     独立な容器で KL は足し算
[20] 読 KLAREA  決まった写像の余りは容器ごとに下から(見立て)⟸ [19]
[21] 読 WEAKGOAL ΔF(L,L) → 0 の役割(物理)⟸ [18][20]

確かめ方は、全ての「⟸」の右の番号が左の番号より小さいことを目で見ることです。円はありません。仮定(仮)の行はありません。[18] の結論は [20] の見立てが正しいときにだけ決まった写像に当てはまり、その区別は [21] の行の分類(読)に表しています。この章には閉じ込めの節点も、質量ギャップの節点も、非摂動の節点もありません。


この章が言えている範囲

言えている言えていない
初 輸送の恒等式(Gibbs の変分原理)と、その評価の損失が相対エントロピーであること非摂動の水準での、揺らぎを整形する写像の誤差の評価
初 ガウスの模型で、等長的な写像の損失は薄まらず、整形する写像の損失は ΔF2/n\Delta F^2/n間引きなど全単射でない操作への文字どおりの拡張
初 一ループの水準で 113=−13+4\tfrac{11}3=-\tfrac13+4、等長的な比較は β′≥β+0.023\beta'\ge\beta+0.023、整形する比較は β−β′=0.258\beta-\beta'=0.258中程度の結合での繰り込みの比較(第 13 部の帯の核心)
読 決まった点ごとの写像は紫外で余分の費用(二次元の模型の三点)四次元のゲージ理論での同じ増え方
初 余りの KL が面積に比例するなら面積則は出ない(仮定つき)決まった写像一般についてその仮定が成り立つこと

出典と再現

もの種別出典・道具
命題 1〜7・表 1・表 2初本文 §02〜§07 の証明と計算。命題 4・5 と表 2 は論文の草稿(A-07 の論文 2)の繰り込みの比較の節と同じ内容
漸近自由の一ループの係数典4-06 の通り
Migdal–Kadanoff の補間による議論典E. T. Tomboulis, arXiv:0707.2179
その批判典K. R. Ito, E. Seiler, arXiv:0711.4930。T. Kanazawa, arXiv:0805.2742(照合は 13-06 の通り)
Polchinski 流の輸送写像(スカラー場)照合未了Bauerschmidt–Bodineau–Dagallier(書誌は未確認)
表 3 の数値の行読13-06(格子全体を 2 倍にした試験)
表 4・§06 の二次元の数値読この本の検討で行った二次元 O(3)O(3) の捩れた帯の計算(冷却したキンク・点ごとの回転の写像・Hessian の固有値)。誤差の評価は粗い
§06 の四次元の板の数値読A-07 の論文 1 の数値の節と同じ測定

この章で使った語 — 輸送の恒等式・Gibbs の変分原理・向きの原理・揺らぎについて等長的な写像・揺らぎの整形・スピンの項・反遮蔽・余りの相対エントロピー・選別の基準。意味は A-02 用語集 にあります(第 12 部の語は追加の予定)。

次に読む章:12-08 測った記録 — 第 12 部の数値(駆動した挿入の仕事・T2T^2 を広げたときの渦の自由エネルギー・板の弦の張力)を、条件つきで一か所にまとめます。

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改訂 2026-10-15:初版。