computo ergo sum

2026-10-15 · chapter ヤン–ミルズと質量ギャップ第 12 部 二本目の道挿入比・tanh の形・二次モーメント · Kiichi, Shiori and Rin

この本の全体 目次と読む順
  1. 第 0 部 入口 — この本の読み方
  2. 0-01 この本の読み方
  3. 0-02 一枚の絵
  4. 0-03 問題文を一語ずつ読む
  5. 0-04 数学の四次元と物理の四次元
  6. 第 1 部 数学の準備
  7. 1-01 ベクトル空間と線形写像
  8. 1-02 群とは何か
  9. 1-03 リー群とリー環
  10. 1-04 SU(2) と SU(3)
  11. 1-05 多様体と接空間
  12. 1-06 微分形式と外微分
  13. 1-07 ベクトル束と接続
  14. 1-08 確率と測度
  15. 1-09 無限次元の確率
  16. 1-10 ヒルベルト空間と自己共役作用素
  17. 1-11 フーリエ解析と分布
  18. 1-12 寄り道:四次元でだけ起きること
  19. 第 2 部 物理の準備
  20. 2-01 ラグランジアンと作用
  21. 2-02 場という考え
  22. 2-03 電磁気学はゲージ理論である
  23. 2-04 特殊相対論と時空
  24. 2-05 量子力学の骨
  25. 2-06 調和振動子と生成消滅
  26. 2-07 経路積分の考え方
  27. 2-08 統計力学と相転移
  28. 2-09 寄り道:イジング模型で見るギャップと相関長
  29. 2-10 緩和の時間と動的指数 z
  30. 第 3 部 ヤン–ミルズ理論(古典)
  31. 3-01 ゲージ原理
  32. 3-02 非可換ゲージ場
  33. 3-03 作用と方程式
  34. 3-04 幾何としてのゲージ理論
  35. 3-05 インスタントンと位相
  36. 3-06 寄り道:Donaldson とエキゾチック R⁴
  37. 3-07 標準模型の中のヤン–ミルズ
  38. 第 4 部 量子化
  39. 4-01 正準量子化とハミルトニアン
  40. 4-02 経路積分とユークリッド化
  41. 4-03 摂動論と Feynman ダイアグラム
  42. 4-04 発散と繰り込み
  43. 4-05 発散の代数
  44. 4-06 漸近自由
  45. 4-07 次元転移と Λ
  46. 4-08 ゲージ固定と Faddeev–Popov
  47. 4-09 場の量子論の公理
  48. 4-10 Osterwalder–Schrader の公理と再構成
  49. 4-11 質量ギャップの定義
  50. 4-12 寄り道:摂動級数は発散する
  51. 第 5 部 格子ゲージ理論
  52. 5-01 Wilson の格子
  53. 5-02 強結合展開
  54. 5-03 反射正値性と転送行列
  55. 5-04 無限体積極限とクラスター展開
  56. 5-05 弱結合と連続極限
  57. 5-06 U(1) と非可換の違い
  58. 5-07 モンテカルロ法
  59. 5-08 グルーボールと弦張力の測定
  60. 5-09 何を固定して極限を取るか
  61. 5-10 有限群の格子ゲージ理論
  62. 5-11 寄り道:Bakry–Émery と一リンク積分
  63. 第 6 部 構成的場の理論
  64. 6-01 構成的場の理論とは
  65. 6-02 二次元の可解性とヤン–ミルズ測度
  66. 6-03 スカラー場の構成
  67. 6-04 クラスター展開
  68. 6-05 繰り込み群の段の列
  69. 6-06 三次元ヤン–ミルズの紫外安定性
  70. 6-07 四次元
  71. 6-08 四次元の φ⁴ の自明性
  72. 6-09 確率量子化と正則性構造
  73. 6-10 四次元で止まる場所
  74. 6-11 発散以外の障害
  75. 6-12 寄り道:「1/0 に記号を与えれば」
  76. 第 7 部 物理の側から
  77. 7-01 物理はどう見ているか
  78. 7-02 閉じ込めの機構
  79. 7-03 弦の絵
  80. 7-04 大 N
  81. 7-05 ひも理論と余剰次元
  82. 7-06 余剰次元が見えなくなる仕組み
  83. 7-07 ゲージ場はどこから来るか
  84. 7-08 ホログラフィー
  85. 7-09 質量ギャップが幾何になる
  86. 7-10 四次元に戻す
  87. 7-11 超対称と Seiberg–Witten
  88. 7-12 等価原理に当たる一文
  89. 7-13 物理の掘り方が数学と離れる場所
  90. 第 8 部 二つの言葉の辞書 — 物理の視点と数学の視点
  91. 8-01 辞書の読み方
  92. 8-02 辞書 A
  93. 8-03 辞書 B
  94. 8-04 辞書 C
  95. 8-05 私たちの仮定の物理側の対応
  96. 地図
  97. 第 9 部 現在地と課題
  98. 9-01 世界はどこまで来ているか
  99. 9-02 二つの掘り方の切れ目
  100. 9-03 新しい概念の候補
  101. 9-04 課題の一覧
  102. 9-05 よくある誤解
  103. 9-06 証明が含むべき段 — 七段の表
  104. 一本目の道 — 時間の方向から
  105. 第 10 部 一本目の道(前半)— 時間の方向から:質量ギャップと拡散型緩和時間の仮定
  106. 10-00 入口 — 階段と、酔歩・物差し・時計
  107. 10-01 構成の筋と仮定 ξ²
  108. 10-02 四次元格子で試した道と壁
  109. 10-03 階段の四段 — なぜ 0+1 次元から始めるか
  110. 10-04 二重井戸の経路の測度とキンク
  111. 10-05 一段目の言明 — 四条件と命題 4.5
  112. 10-06 (H1) 相の中の局所 Poincaré
  113. 10-07 (H2) の地図 — 七つの道筋と環の継ぎ目
  114. 10-08 計算機援用とは何か — 窓の中の鎖の条件
  115. 10-09 区画の枠組みと道筋 5 の三本の筋
  116. 10-10 迂回策の一覧 — 壊れ方の型
  117. 10-11 (H3)(H4) と芯の定数
  118. 10-12 統合表と依存グラフ
  119. 10-13 Lean の言明と機械検査の限界
  120. 10-14 突き合わせ — 記録の数と既知の数
  121. 10-15 残件と費用 — 定理までの距離
  122. 10-16 主張しないこと
  123. 10-17 ひらめきと小さな問い
  124. 第 11 部 一本目の道(後半)— 仮定の形を直し、時間を連続にする
  125. 11-00 今後の考察 — 入口
  126. 11-01 仮定 ξ² を妨げる一つの形 — ほぼ保存される大域の量
  127. 11-02 物差しと座標を選び直す — 保存が壊れる長さ
  128. 11-03 仮定 ξ² を直す二つの形 — 区画の仮定 ξ² と局所の仮定 ξ²
  129. 11-04 片側の橋はどの仮定 ξ² を要るか
  130. 11-05 時間を連続にする — Hamiltonian 格子と真空の測度
  131. 11-06 凸性の代わりに稀さで払う — 群の上の繰り込みと対数 Sobolev
  132. 11-07 四次元だからこそ — 無次元の結合と位相
  133. 11-08 問いと、主張しないこと
  134. 11-A1 第 11 部の記号の対応表
  135. 二本目の道 — 空間の方向から
  136. 第 12 部 二本目の道:空間の方向から — 小さな捩れた T² と閉じ込め
  137. 12-00 入口 — 時間でなく空間を
  138. 12-01 捩れた T² と 't Hooft の流束
  139. 12-02 渦と分数インスタントン
  140. 12-03 容器 — 枠を条件づけると独立になる
  141. 12-04 板の閉じ込め
  142. 12-05 渦の挿入の恒等式
  143. 12-06 力学で駆動した挿入と流れの補題
  144. 12-07 なぜ決まった写像は失敗するか
  145. 12-08 測った記録
  146. 12-09 この道が止まる場所 — T² を広げることが帯である
  147. 移り変わりの帯 — 二本の道が同じ壁に着く
  148. 第 13 部 移り変わりの帯 — 二本の道が同じ壁に着く
  149. 13-00 入口 — 合流
  150. 13-01 帯の正しい形
  151. 13-02 一つの不等式への還元
  152. 13-03 非可換が効く唯一の場所
  153. 13-04 構造だけでは渡れない
  154. 13-05 チェス盤と同時の反転
  155. 13-06 繰り込みの比較 — 群を区別する比較
  156. 13-07 時間の側から見た帯
  157. 13-08 試して止まった道の地図
  158. 13-09 測った記録
  159. 13-10 新しい見方の候補
  160. 13-11 紫外の制御 — 無限個の段で閉じるとは何か
  161. 閉じる
  162. 第 14 部 閉じる — 条件つきの言明
  163. 14-00 入口 — この部の約束
  164. 14-01 条件つきの言明 — 質量ギャップと閉じ込めを矢印ごとに
  165. 14-02 条件の台帳
  166. 14-03 問いの表(横断の索引)
  167. 14-04 主張しないこと(横断の索引)
  168. 付録
  169. A-01 記号表
  170. A-02 用語集
  171. A-03 文献案内
  172. A-04 Lean と機械検査
  173. A-05 この本の作り方
  174. A-06 仮定の索引
  175. A-07 この本から出た論文

渦の挿入の恒等式

この章で分かること — 12-04 では、細い渦の面を反転する写像で平均して板の閉じ込めを出しました。この章では、その写像を一般の「区画を反転する全単射」TT(渦を一本挿入する写像)に置き換えたとき、何が無条件に言えるかを並べます。使うのは三つだけです:有限の配位空間、正の重み、区画の符号を反転する全単射。そこから、(1) 挿入比 ρ\rho の平均は 1 で、E[ρσ]=−E[σ]\mathbb E[\rho\sigma]=-\mathbb E[\sigma]、(2) 区画の偏りは挿入比の揺らぎで押さえられる:4E[σ]2≤Var(ρˉ)4\mathbb E[\sigma]^2\le\mathrm{Var}(\bar\rho)、(3) 対合に直すと E[H]=E[Htanh⁡(ΔS/2)]\mathbb E[H]=\mathbb E[H\tanh(\Delta S/2)] という有界な形と、位置について平均した形、(4) E[Hρ]=0\mathbb E[H\sqrt\rho]=0 から出る二次モーメントの形と Paley–Zygmund の形、が出ます。どれも初等的な恒等式と Cauchy–Schwarz で、Lean で有限和の版が検査されています。

前提となる章 — 12-03(区画の和のアンサンブル・区画の符号・偏り)・12-04(板の閉じ込め)。第 1 部の 1-08(確率と測度・Cauchy–Schwarz)。

先に言うこと — この章の定理は全て「有限の配位空間・正の重み・区画を反転する全単射(Haar を保つ写像の有限版)」の三つの条件の上の文で、各定理の行にその条件を書きます。連続の SU(2)SU(2) の配位空間へ移すには、和を Haar 測度の積分に置き換え、写像が測度を保つ(あるいはヤコビアンを重みに入れる)ことが要り、その部分は Lean の外です。結果は初等的で、先行文献との照合は済んでいません。閉じ込めについて、これらの恒等式だけからは何も出ません。何が足りないかを §07・§08 に書きます。

この章の順序
  1. 要約〔三〕 — 渦を一本入れる写像の帳尻
  2. 設定 — 三つの条件
  3. 挿入比の恒等式と偏りの評価 — 恒等式 1・定理 2
  4. 有界な形 — tanh と位置の平均 — 恒等式 3・補題 4・定理 5
  5. 二次モーメントの形 — 恒等式 6・定理 7・定理 8
  6. 板の閉じ込めの再導出
  7. 何を意味し、何が足りないか — 表 1
  8. 言えないこと
  9. 五分類の表と依存グラフ — 表 2

01

要約〔三〕 — 渦を一本入れる写像の帳尻

  1. 区画の和のアンサンブル(12-03)では、ある領域に渦が通っているかどうかが符号 σ=±1\sigma=\pm1 で表されます。渦を一本入れる(あるいは抜く)写像 TT は σ\sigma を反転します。
  2. 配位 xx で渦を入れたときの重みの比を挿入比 ρ(x)\rho(x) と呼びます。ρ\rho が 1 より小さいほど、渦を入れるのは高くつきます。
  3. 挿入比の平均はいつでもちょうど 1 です(恒等式 1)。これは「写像で配位を付け替えても、全体の重みの和は変わらない」という帳尻の式にすぎません。同じ帳尻から E[ρσ]=−E[σ]\mathbb E[\rho\sigma]=-\mathbb E[\sigma] も出ます 初。
  4. 二つを組み合わせると、区画の偏り ∣E[σ]∣|\mathbb E[\sigma]| は、挿入比の揺らぎ(分散)の半分の平方根以下です(定理 2)。たくさんの位置で挿入して挿入比を平均すると、揺らぎは小さくなりえます。位置について平均することが、エントロピーの役を果たします 初。
  5. 挿入比は大きな値を取りうる(重い裾)ので、扱いやすい有界な形も用意します。tanh⁡(ΔS/2)\tanh(\Delta S/2) は常に [−1,1][-1,1] に入り、E[H]=E[Htanh⁡(ΔS/2)]\mathbb E[H]=\mathbb E[H\tanh(\Delta S/2)] が成り立ちます(恒等式 3)。1−E[tanh⁡]1-\mathbb E[\tanh] は、渦を挿入するモンテカルロの一手の受理率の平均の 2 倍です(補題 4)初。
  6. ρ\sqrt\rho を使う形は、二次モーメントがいつでも 1 以下なので裾の心配がありません(恒等式 6・定理 7)初。
  7. 細い渦の面の反転(12-04)を挿入に取ると、板の閉じ込めの定理がこの章の特別な場合として出ます(§06)。
  8. これらは閉じ込めの証明ではありません。面積則には、多数の領域で同時に偏りが小さいこと(大偏差)と、挿入の費用の格子間隔に一様な評価(紫外)が要り、どちらもこの章の外です。
02

設定 — 三つの条件

この章を通して次の三つを置きます。

(T) は、区画の和のアンサンブルで「Haar 測度を保ち、ある領域の区画の符号を反転する写像」(例:渦の面の zz の反転と、領域の内側に台を持つ滑らかな左からの掛け算の合成)の有限版です。対合であること・互いに可換であること・最悪の場合の評価は、§03 では使いません。(F) から連続の配位空間(SU(2)リンクSU(2)^{\text{リンク}} と余閉な zz)へ移すには、和を Haar 測度と数え上げの積分に置き換え、TT が測度を保つこと(保たないならヤコビアンを重みに入れること)が要ります。証明は同じ変数の付け替えで通りますが、その版は Lean の外です。

挿入比を

ρ(x)={w(Tx)/w(x)(σ(x)=+1)w(T−1x)/w(x)(σ(x)=−1)(1)\rho(x)=\begin{cases}w(Tx)/w(x)&(\sigma(x)=+1)\\ w(T^{-1}x)/w(x)&(\sigma(x)=-1)\end{cases} \tag{1}

と置きます。σ=+1\sigma=+1 の配位には TT で渦を入れ、σ=−1\sigma=-1 の配位には T−1T^{-1} で戻す、という向きの合わせ方です。作用 S=−ln⁡wS=-\ln w で書けば ρ=e−ΔS\rho=e^{-\Delta S} です。

03

挿入比の恒等式と偏りの評価

恒等式 1(挿入比の平均)

(F)(W)(T) の下で

E[ρ]=1,E[ρ σ]=−E[σ].(2)\mathbb E[\rho]=1,\qquad \mathbb E[\rho\,\sigma]=-\mathbb E[\sigma]. \tag{2}

初 証明。X±={σ=±1}X_\pm=\{\sigma=\pm1\} と置きます。TT は X+X_+ を X−X_- に、X−X_- を X+X_+ に写し、全単射なので T(X+)=X−T(X_+)=X_-、T−1(X−)=X+T^{-1}(X_-)=X_+ です。よって

∑x∈X+w(x)ρ(x)=∑x∈X+w(Tx)=∑y∈X−w(y),∑x∈X−w(x)ρ(x)=∑x∈X−w(T−1x)=∑y∈X+w(y).\sum_{x\in X_+}w(x)\rho(x)=\sum_{x\in X_+}w(Tx)=\sum_{y\in X_-}w(y),\qquad \sum_{x\in X_-}w(x)\rho(x)=\sum_{x\in X_-}w(T^{-1}x)=\sum_{y\in X_+}w(y).

足すと ∑wρ=∑w\sum w\rho=\sum w、σ\sigma を掛けて足すと ∑wρσ=∑X−w−∑X+w=−∑wσ\sum w\rho\sigma=\sum_{X_-}w-\sum_{X_+}w=-\sum w\sigma です。∎

Lean InsertionIdentity(Insertion.mean_one・Insertion.mean_rho_sigma)(仮定:XX は有限・w>0w\gt0・TT は XX の全単射・σ(Tx)=−σ(x)\sigma(Tx)=-\sigma(x)・σ=±1\sigma=\pm1。結論:∑wρ=∑w\sum w\rho=\sum w、∑wρσ=−∑wσ\sum w\rho\sigma=-\sum w\sigma)。対合・可換性・測度の構造は使っていません。

定理 2(区画の偏りは挿入比の揺らぎで押さえられる)

(F)(W) の下で、区画の符号 σ\sigma と、それを反転する全単射の空でない有限族 T1,…,TnT_1,\dots,T_n(各 TkT_k が (T) を満たす)を取り、挿入比の平均を ρˉ=1n∑kρk\bar\rho=\frac1n\sum_k\rho_k とすると

4 E[σ]2 ≤ E[(ρˉ−1)2]=Var(ρˉ),すなわち∣E[σ]∣≤12Var(ρˉ).(3)4\,\mathbb E[\sigma]^2\ \le\ \mathbb E\bigl[(\bar\rho-1)^2\bigr]=\mathrm{Var}(\bar\rho),\qquad\text{すなわち}\quad |\mathbb E[\sigma]|\le\tfrac12\sqrt{\mathrm{Var}(\bar\rho)}. \tag{3}

初 証明。恒等式 1 を各 TkT_k に使って平均すると E[ρˉ]=1\mathbb E[\bar\rho]=1、E[ρˉσ]=−E[σ]\mathbb E[\bar\rho\sigma]=-\mathbb E[\sigma]。よって E[(ρˉ−1)σ]=−2E[σ]\mathbb E[(\bar\rho-1)\sigma]=-2\mathbb E[\sigma]。Cauchy–Schwarz と σ2=1\sigma^2=1 から 4E[σ]2≤E[(ρˉ−1)2]E[σ2]=Var(ρˉ)4\mathbb E[\sigma]^2\le\mathbb E[(\bar\rho-1)^2]\mathbb E[\sigma^2]=\mathrm{Var}(\bar\rho)。∎

Lean InsertionIdentity(Insertion.sector_bias_le)(仮定:XX は有限・族の添字集合は有限で空でない・w>0w\gt0・各 TkT_k は全単射で σ(Tkx)=−σ(x)\sigma(T_kx)=-\sigma(x)・σ=±1\sigma=\pm1。結論:4(∑wσ)2≤(∑w)∑w(ρˉ−1)24(\sum w\sigma)^2\le(\sum w)\sum w(\bar\rho-1)^2)。

容器(12-03)に当てるには、枠を止めた条件つきの測度の上で定理 2 を使います。容器の内側だけを動かす全単射なら枠は変わらないので、θj(Φ)=∣E[σj ∣ Φ]∣≤12Var(ρˉ ∣ Φ)\theta_j(\Phi)=|\mathbb E[\sigma_j\,|\,\Phi]|\le\tfrac12\sqrt{\mathrm{Var}(\bar\rho\,|\,\Phi)} です 初。補題 5 の因子 tanh⁡(∣ΔFj∣/2)\tanh(|\Delta F_j|/2) が、容器の中の多数の位置への挿入の、挿入比の平均の揺らぎで上から押さえられる、という読み方になります。

04

有界な形 — tanh と位置の平均

挿入比 ρ=e−ΔS\rho=e^{-\Delta S} は大きな値を取りうるので、Var(ρˉ)\mathrm{Var}(\bar\rho) は大きくなりえます。そこで有界な因子に取り替えます。(T) の TT から、区画に向きを合わせた写像

τ(x)={Tx(σ(x)=+1)T−1x(σ(x)=−1)(4)\tau(x)=\begin{cases}Tx&(\sigma(x)=+1)\\ T^{-1}x&(\sigma(x)=-1)\end{cases} \tag{4}

を作ると、τ\tau は対合(τ∘τ=id\tau\circ\tau=\mathrm{id})です(σ(x)=+1\sigma(x)=+1 なら τx=Tx∈X−\tau x=Tx\in X_- なので τ(τx)=T−1Tx=x\tau(\tau x)=T^{-1}Tx=x。逆も同じ)初。ΔS=S∘τ−S\Delta S=S\circ\tau-S、ρ=w∘τ/w=e−ΔS\rho=w\circ\tau/w=e^{-\Delta S}、そして

t(x):=w(x)−w(τx)w(x)+w(τx)=tanh⁡ΔS(x)2 ∈(−1,1)(5)t(x):=\frac{w(x)-w(\tau x)}{w(x)+w(\tau x)}=\tanh\frac{\Delta S(x)}2\ \in(-1,1) \tag{5}

と置きます。

恒等式 3(有界な挿入の恒等式)

(F)(W) の下で、τ\tau を XX の対合、HH を τ\tau で奇な関数(H∘τ=−HH\circ\tau=-H)とすると E[H]=E[H t]\mathbb E[H]=\mathbb E[H\,t]。

初 証明。1−t=2w∘τ/(w+w∘τ)1-t=2w\circ\tau/(w+w\circ\tau) なので E[H]−E[Ht]\mathbb E[H]-\mathbb E[Ht] は 2∑xg(x)/∑w2\sum_xg(x)/\sum w、g(x)=w(x)H(x)w(τx)/(w(x)+w(τx))g(x)=w(x)H(x)w(\tau x)/(w(x)+w(\tau x)) に比例します。g(τx)=−g(x)g(\tau x)=-g(x)(HH が奇で、残りは x↔τxx\leftrightarrow\tau x で対称)なので、和を τ\tau で付け替えると ∑g=−∑g\sum g=-\sum g、よって 0 です。∎

Lean BoundedInsertion(Bounded.single)(仮定:XX は有限・τ\tau は全単射で τ∘τ=id\tau\circ\tau=\mathrm{id}・w>0w\gt0・H∘τ=−HH\circ\tau=-H。結論:∑wHt=∑wH\sum wHt=\sum wH)。

補題 4(揺らぎの関係式と受理率)

恒等式 3 の設定で、全ての実数 ss について P(ΔS=s)=es P(ΔS=−s)\mathbb P(\Delta S=s)=e^{s}\,\mathbb P(\Delta S=-s)。とくに E[t]≥0\mathbb E[t]\ge0 で、

1−E[t]=2 E[11+eΔS]=2×(挿入の一手の Barker 型の受理率の平均).(6)1-\mathbb E[t]=2\,\mathbb E\Bigl[\frac1{1+e^{\Delta S}}\Bigr]=2\times(\text{挿入の一手の Barker 型の受理率の平均}). \tag{6}

初 証明。付け替えで任意の gg について E[g]=E[(g∘τ) ρ]\mathbb E[g]=\mathbb E[(g\circ\tau)\,\rho]。ΔS∘τ=−ΔS\Delta S\circ\tau=-\Delta S なので g=1{ΔS=s}g=\mathbf 1\{\Delta S=s\} と取ると g∘τ=1{ΔS=−s}g\circ\tau=\mathbf 1\{\Delta S=-s\} で、集合 {ΔS=−s}\{\Delta S=-s\} の上では ρ=e−ΔS=es\rho=e^{-\Delta S}=e^{s} なので第一式。ss と −s-s を組にすると P(s)tanh⁡s2+P(−s)tanh⁡−s2=P(−s)(es−1)tanh⁡s2≥0\mathbb P(s)\tanh\frac s2+\mathbb P(-s)\tanh\frac{-s}2=\mathbb P(-s)(e^{s}-1)\tanh\frac s2\ge0 なので E[t]≥0\mathbb E[t]\ge0。最後に 1−tanh⁡(ΔS/2)=2/(1+eΔS)1-\tanh(\Delta S/2)=2/(1+e^{\Delta S})。∎ この補題には Lean の検査がありません。

(6) の読み方。Barker 型の一手は「渦を挿入した配位を確率 w(τx)/(w(x)+w(τx))w(\tau x)/(w(x)+w(\tau x)) で受け入れる」モンテカルロの一手です。挿入がほとんど断られる(費用が高い)なら E[t]≈1\mathbb E[t]\approx1、よく通るなら E[t]\mathbb E[t] は 1 から離れます。第一式は、非平衡の統計力学で Crooks の揺らぎの関係式と呼ばれるものと同じ形です(原典との照合と、力学で駆動した版は 12-06)。

多数の細胞と位置の平均。 互いに離れた細胞 cc ごとに、細胞の中の位置 p∈Pp\in P(PP は空でない有限集合)の挿入の対合 τc,p\tau_{c,p} を取り、tc,pt_{c,p} を (5) で作り、tˉc=1∣P∣∑ptc,p\bar t_c=\frac1{|P|}\sum_pt_{c,p} と置きます。

定理 5(位置について平均した有界な評価)

(F)(W) の下で、各 τc,p\tau_{c,p} が対合、HH が全ての τc,p\tau_{c,p} で奇、そして別の細胞の因子が動かないこと(c≠dc\ne d なら td,q∘τc,p=td,qt_{d,q}\circ\tau_{c,p}=t_{d,q})を仮定すると

E[H]=E[H∏ctˉc],∣H∣≤1 なら  ∣E[H]∣≤E[∏c∣tˉc∣].(7)\mathbb E[H]=\mathbb E\Bigl[H\prod_c\bar t_c\Bigr],\qquad |H|\le1\ \text{なら}\ \ |\mathbb E[H]|\le\mathbb E\Bigl[\prod_c|\bar t_c|\Bigr]. \tag{7}

初 証明。まず各細胞から一つずつ位置を選んだ ∏ctc,pc\prod_ct_{c,p_c} について、細胞を一つずつ足す帰納で E[H∏ctc,pc]=E[H]\mathbb E[H\prod_ct_{c,p_c}]=\mathbb E[H]:細胞 dd を足す段では、それまでの積 G=∏c≠dtc,pcG=\prod_{c\ne d}t_{c,p_c} が τd,pd\tau_{d,p_d} で動かないので HGHG は奇で、恒等式 3 が使えます。∏ctˉc\prod_c\bar t_c を展開すると、選び方 ∣P∣#細胞|P|^{\#\text{細胞}} 通りの平均なので第一式。∣H∣≤1|H|\le1 で絶対値を取れば第二式です。∎ 各因子は [−1,1][-1,1] に入り、モーメントの仮定は要りません。

Lean BoundedInsertion(Bounded.averaged・Bounded.averaged_bound)(仮定:XX と細胞の集合と位置の集合 PP は有限・PP は空でない・全ての τc,p\tau_{c,p} が対合・w>0w\gt0・HH は全ての τc,p\tau_{c,p} で奇・c≠dc\ne d なら td,q∘τc,p=td,qt_{d,q}\circ\tau_{c,p}=t_{d,q}・後者は ∣H∣≤1|H|\le1 も。結論:(7))。帰納の一段は BoundedInsertion(Bounded.multi)。

05

二次モーメントの形

tanh の形は有界ですが、指数の平均(自由エネルギー)をそのまま捉えません。もう一つの有界な形が ρ\sqrt\rho です。

恒等式 6(Bhattacharyya の形)

(F)(W) の下で、τ\tau を対合、H∘τ=−HH\circ\tau=-H、ρ=w∘τ/w\rho=w\circ\tau/w とすると E[Hρ]=0\mathbb E[H\sqrt\rho]=0。

初 証明。wρ=w⋅w∘τw\sqrt\rho=\sqrt{w\cdot w\circ\tau} は x↔τxx\leftrightarrow\tau x で対称、HH は反対称なので、∑xw(x)H(x)ρ(x)\sum_xw(x)H(x)\sqrt{\rho(x)} は τ\tau で付け替えると符号を変え、0 です。∎

Lean SecondMoment(SecondMoment.sqrt_identity)(仮定:XX は有限・τ\tau は全単射で τ∘τ=id\tau\circ\tau=\mathrm{id}・w>0w\gt0・H∘τ=−HH\circ\tau=-H。結論:∑wHw∘τ/w=0\sum wH\sqrt{w\circ\tau/w}=0)。

定理 7(Paley–Zygmund の形)

(F)(W) の下で、空でない有限集合 PP の各 pp に対合 τp\tau_p を取り、HH は全ての τp\tau_p で奇で ∣H∣≤1|H|\le1 とする。Y:=1∣P∣∑pρpY:=\frac1{|P|}\sum_p\sqrt{\rho_p}(区画を反転する挿入の、重みつきの数)と置くと

E[H]2 E[Y2] ≤ E[Y2]−E[Y]2,すなわちE[H]2≤1−E[Y]2E[Y2],かつ  E[Y2]≤1.(8)\mathbb E[H]^2\,\mathbb E[Y^2]\ \le\ \mathbb E[Y^2]-\mathbb E[Y]^2,\qquad\text{すなわち}\quad \mathbb E[H]^2\le1-\frac{\mathbb E[Y]^2}{\mathbb E[Y^2]},\qquad\text{かつ}\ \ \mathbb E[Y^2]\le1. \tag{8}

初 証明。恒等式 6 を平均して E[HY]=0\mathbb E[HY]=0。C=E[Y2]C=\mathbb E[Y^2]、B=E[Y]B=\mathbb E[Y] と置くと E[H(C−BY)]=C E[H]\mathbb E[H(C-BY)]=C\,\mathbb E[H]。Cauchy–Schwarz と H2≤1H^2\le1 から C2E[H]2≤E[(C−BY)2]=C2−2CB2+B2C=C(C−B2)C^2\mathbb E[H]^2\le\mathbb E[(C-BY)^2]=C^2-2CB^2+B^2C=C(C-B^2)。C>0C\gt0(ρp>0\rho_p\gt0)で割って第一式です。最後の不等式は、Y2≤1∣P∣∑pρpY^2\le\frac1{|P|}\sum_p\rho_p(Cauchy–Schwarz)と、対合については E[ρp]=∑xw(τpx)/∑w=1\mathbb E[\rho_p]=\sum_xw(\tau_px)/\sum w=1 から出ます。∎

Lean SecondMoment(SecondMoment.pz_bound)(仮定:XX と PP は有限・PP は空でない・全ての τp\tau_p が対合・w>0w\gt0・HH は全ての τp\tau_p で奇・∣H∣≤1|H|\le1。結論:(∑wH)2(∑wY2)≤(∑w)((∑wY2)(∑w)−(∑wY)2)(\sum wH)^2(\sum wY^2)\le(\sum w)\bigl((\sum wY^2)(\sum w)-(\sum wY)^2\bigr)、正規化すると (8) の第一式)。E[Y2]≤1\mathbb E[Y^2]\le1 には Lean の検査がありません。

(8) は、YY が二次モーメントの意味で集中している(E[Y2]\mathbb E[Y^2] が E[Y]2\mathbb E[Y]^2 に近い)ほど偏りが小さいことを言います。二次モーメントはいつでも 1 以下なので、ρ\rho の分散の形のような重い裾の心配がありません。

多数の細胞。 細胞ごとの挿入比の積を扱う形も置いておきます。

定理 8(多数の細胞の二次モーメントの評価)

(F)(W) の下で、∣H∣≤1|H|\le1、細胞の有限集合 CC の各 cc に関数 rc:X→Rr_c:X\to\mathbb R(平均した挿入比)を取り、挿入で奇であること——全ての S⊆CS\subseteq C について E[H∏c∈Src]=(−1)∣S∣E[H]\mathbb E[H\prod_{c\in S}r_c]=(-1)^{|S|}\mathbb E[H]——を仮定すると

E[H∏c∈C(1−rc)]=2∣C∣ E[H],4∣C∣ E[H]2 ≤ E[∏c∈C(1−rc)2].(9)\mathbb E\Bigl[H\prod_{c\in C}(1-r_c)\Bigr]=2^{|C|}\,\mathbb E[H],\qquad 4^{|C|}\,\mathbb E[H]^2\ \le\ \mathbb E\Bigl[\prod_{c\in C}(1-r_c)^2\Bigr]. \tag{9}

初 証明。∏c(1−rc)=∑S⊆C(−1)∣S∣∏c∈Src\prod_c(1-r_c)=\sum_{S\subseteq C}(-1)^{|S|}\prod_{c\in S}r_c と展開し、仮定を使うと各項が E[H]\mathbb E[H] になり、2∣C∣2^{|C|} 個の和です。Cauchy–Schwarz と H2≤1H^2\le1 で第二式。∎

Lean MultiCell(MultiCell.bound)(仮定:XX と CC は有限・w>0w\gt0・∣H∣≤1|H|\le1・上の「挿入で奇」の等式を全ての S⊆CS\subseteq C で。結論:(9) の第二式)と MultiCell(MultiCell.expand_identity)(第一式)。「挿入で奇」は Lean の中では仮定として置かれた等式です。一つの全単射については押し出しの等式 ∑w (w∘T/w) F=∑w F∘T−1\sum w\,(w\circ T/w)\,F=\sum w\,F\circ T^{-1}(MultiCell(MultiCell.pushforward)、仮定:有限・w>0w\gt0)から出ますが、別々の細胞の挿入を合成したときにこの等式が成り立つことは、写像の可換性と比の不変性に依り、Lean の外です。

06

板の閉じ込めの再導出

12-04 の細い挿入を取ります。細胞をループの内側の平面のプラケット p∈S(C)p\in S(C) とし、位置は一つ(∣P∣=1|P|=1)、τp\tau_p を渦の面 SpS_p の上の zz の反転とします。τp\tau_p はそれ自身が対合で、リンクを変えないので Haar × 数え上げの測度を保ちます。H=W(C)H=W(C) は各 τp\tau_p で奇、tp=(1−rp)/(1+rp)t_p=(1-r_p)/(1+r_p) は SpS_p の上の値だけで決まるので q≠pq\ne p の τq\tau_q で動きません。定理 5 から

∣E[W(C)]∣ ≤ E[∏p∈S(C)∣tp∣] ≤ tanh⁡(βN2)A(10)|\mathbb E[W(C)]|\ \le\ \mathbb E\Bigl[\prod_{p\in S(C)}|t_p|\Bigr]\ \le\ \tanh(\beta N^2)^{A} \tag{10}

(∣tp∣≤tanh⁡(βN2)|t_p|\le\tanh(\beta N^2) は 12-04 の一枚の不等式)初。これは 12-04 の手順 4 の (4) そのもので、固定した区画への射影は 12-04 の手順 5 と同じです。板の閉じ込めの定理は、定理 5 の「細い挿入・位置一つ」の特別な場合です。連続の配位空間での (10) は、和を積分に置き換えた同じ議論で、Lean の外です。

07

何を意味し、何が足りないか

位置の平均はエントロピー。 定理 2 の Var(ρˉ)\mathrm{Var}(\bar\rho) は、nn 個の位置のうち互いに相関の届く位置の数を KK、一つの挿入比の分散を VV とすれば ≈VK/n\approx VK/n の程度と見込まれます 読(物理)。位置の数 nn を増やすことがエントロピーの役を、位置どうしの相関の減衰(質量ギャップ)が KK を小さく保つ役を果たします。滑らかな分数インスタントン型の挿入では V∼eSinstV\sim e^{S_{\rm inst}} の程度と見込まれ、要る領域の面積は VV に比例し、弦の張力は σ∼e−Sinst/L2\sigma\sim e^{-S_{\rm inst}}/L^2 程度と、希薄な渦の気体の公式と同じ形になります 読(物理・半古典の見積もり。証明ではない)。

表 1 三つの形の比較(一つの細胞あたりの因子)
形因子長所短所
挿入比の分散(定理 2)1−ρˉ1-\bar\rho自由エネルギー(指数の平均)をそのまま捉える重い裾。二次モーメントが大きくなりうる
tanh(定理 5)tˉc\bar t_c有界。受理率という意味(補題 4)指数の平均でないので、渦の形のエントロピーを捉えにくい
ρ\sqrt\rho(定理 7)YY二次モーメントが常に 1 以下で、形のエントロピーも捉えうる位置・形どうしの重なりの評価が要る

チェス盤への集約。 平面の方向の鏡映正値性があれば、チェス盤の評価で E[∏c∈内側∣tˉc∣]≤Λn\mathbb E[\prod_{c\in\text{内側}}|\bar t_c|]\le\Lambda^{n}、Λ:=(E[∏全ての細胞∣tˉc∣])1/#細胞\Lambda:=(\mathbb E[\prod_{\text{全ての細胞}}|\bar t_c|])^{1/\#\text{細胞}} と、並進不変な一つの量に集約され、Λ<1\Lambda\lt1 なら面積則が出る、という筋があります 仮(根拠の在りか:鏡映正値性の扱いは 13-04・13-05。同じ構造は Kovács–Tomboulis の (13)(21) にある 典)。

足りないもの。 (i) 大偏差の段:Λ<1\Lambda\lt1 には、全ての細胞で同時に挿入がよく断られる事象が、細胞の数について指数的に稀であることが要ります。(ii) 紫外の段:受理率の下界が格子間隔に一様であることが要り、細い反転(12-04)では NN とともに悪くなります。滑らかな挿入にすると、決まった写像は紫外で余分の費用を払うことが分かっています(12-07)。(iii) 二次モーメントの上界:定理 2 の VV の上界。三つともこの本では示していません。

陰性対照。 四次元の U(1)U(1) は弱結合で閉じ込めないので、この章の評価をそこに当てれば、必ずどこかで評価が効かなくなるはずです(例えば VV が大きくなる)。その確かめは、この本ではまだ行っていません。

08

言えないこと

(a) 閉じ込め。この章の恒等式と不等式は、どれも閉じ込めを導きません。§07 の (i)〜(iii) が残ります。

(b) 連続の配位空間。定理は全て (F)(W)(T) の有限版で、SU(2)SU(2) の Haar 測度の上の版は、写像が測度を保つこと(あるいはヤコビアン)を足した同じ議論ですが、Lean の外です。

(c) 定理 8 の仮定。「挿入で奇」の等式は、別々の細胞の挿入を合成した写像について、この章では示していません(Lean でも仮定)。

(d) 新しさ。どれも変数の付け替えと Cauchy–Schwarz の初等的な組み合わせで、先行文献との照合は済んでいません。和のアンサンブル・容器の恒等式は Mack–Petkova、Wilson ループを捩れた分配関数で押さえる形は Tomboulis–Yaffe、チェス盤の積は Kovács–Tomboulis の枠組みの中にあります。位置について平均した挿入と Cauchy–Schwarz の組み合わせは、Mermin–Wagner の型の証明で標準的な手法と記録されており、ゲージ理論では Chatterjee(arXiv:2602.00436)にも現れる、とされています(照合未了)。この章の結果に新しさは主張しません。

(e) §07 の見積もり。Var(ρˉ)≈VK/n\mathrm{Var}(\bar\rho)\approx VK/n・V∼eSinstV\sim e^{S_{\rm inst}}・σ∼e−Sinst/L2\sigma\sim e^{-S_{\rm inst}}/L^2 は物理の見立てで、どれも証明ではありません。

(f) 陰性対照。四次元の U(1)U(1) で評価が効かなくなることは、まだ確かめていません。

09

五分類の表と依存グラフ

表 2 この章の行(条件は (F) 有限の配位空間・(W) 正の重み・(T) 区画を反転する全単射)
行言明(一行)分類根拠範囲機械検査
[01]恒等式 1:E[ρ]=1\mathbb E[\rho]=1・E[ρσ]=−E[σ]\mathbb E[\rho\sigma]=-\mathbb E[\sigma]初§03(F)(W)(T)。対合も可換性も使わないInsertionIdentity(Insertion.mean_one・Insertion.mean_rho_sigma)(仮定:(F)(W)(T)・σ=±1\sigma=\pm1)
[02]定理 2:4E[σ]2≤Var(ρˉ)4\mathbb E[\sigma]^2\le\mathrm{Var}(\bar\rho)初§03(F)(W)・各 TkT_k が (T)・族は空でない有限InsertionIdentity(Insertion.sector_bias_le)(仮定:同左)
[03](4) の τ\tau は対合初§04(T)—
[04]恒等式 3:E[H]=E[Htanh⁡(ΔS/2)]\mathbb E[H]=\mathbb E[H\tanh(\Delta S/2)]初§04(F)(W)・τ\tau は対合・HH は奇BoundedInsertion(Bounded.single)(仮定:同左)
[05]補題 4:揺らぎの関係式・E[t]≥0\mathbb E[t]\ge0・受理率 (6)初§04(F)(W)・τ\tau は対合—
[06]定理 5:位置について平均した (7)初§04(F)(W)・対合・HH は奇・別の細胞の因子が動かない・∣H∣≤1|H|\le1BoundedInsertion(Bounded.averaged・Bounded.averaged_bound)(仮定:同左)
[07]恒等式 6:E[Hρ]=0\mathbb E[H\sqrt\rho]=0初§05(F)(W)・対合・HH は奇SecondMoment(SecondMoment.sqrt_identity)(仮定:同左)
[08]定理 7:Paley–Zygmund の形 (8) の第一式初§05(F)(W)・対合の族・HH は奇・∣H∣≤1|H|\le1SecondMoment(SecondMoment.pz_bound)(仮定:同左)
[09]E[Y2]≤1\mathbb E[Y^2]\le1初§05対合—
[10]定理 8:多数の細胞の (9)初§05(F)(W)・∣H∣≤1|H|\le1・「挿入で奇」を仮定MultiCell(MultiCell.bound・MultiCell.expand_identity)(仮定:同左。「挿入で奇」は Lean でも仮定)
[11]細い挿入で板の閉じ込めの (10)初§06板・NN 固定・区画の和のアンサンブル—(核は [06] の束)
[12]Var(ρˉ)≈VK/n\mathrm{Var}(\bar\rho)\approx VK/n・σ∼e−Sinst/L2\sigma\sim e^{-S_{\rm inst}}/L^2読(物理)§07希薄な領域・半古典—
[13]チェス盤の積の構造典Kovács–Tomboulis の (13)(21)鏡映正値性の下—
[14]チェス盤で Λ\Lambda に集約・Λ<1\Lambda\lt1 なら面積則仮筋:§07・13-04・13-05平面の方向の鏡映正値性の下—

機械検査の欄の束は、本体の再検査で sorry を含まず、公理が標準の三つの部分集合であることが確かめられたものです。保証されるのは有限集合の上の和の代数だけです(10-13)。Lean の名は全ての章で「ファイル(名前空間.定理)」の形で書きます。名前空間 Insertion の定理はファイル InsertionIdentity に、Bounded の定理はファイル BoundedInsertion にあります。

依存グラフ(前提の番号は結論の番号より小さい):

[01] 初 MEAN   E[ρ] = 1・E[ρσ] = −E[σ]                         (F)(W)(T)
[02] 初 BIAS   4E[σ]² ≤ Var(ρ̄) ⟸ [01]                          Lean sector_bias_le
[03] 初 INV    向きを合わせた τ は対合                          (T)
[04] 初 TANH   E[H] = E[H t] ⟸ [03]                             Lean Bounded.single
[05] 初 CROOKS 揺らぎの関係式・受理率 ⟸ [03]
[06] 初 AVG    位置の平均 (7) ⟸ [04]                            Lean averaged_bound
[07] 初 SQRT   E[H√ρ] = 0 ⟸ [03]                                Lean sqrt_identity
[08] 初 PZ     Paley–Zygmund (8) ⟸ [07]                         Lean pz_bound
[09] 初 Y2     E[Y²] ≤ 1 ⟸ [01][03]
[10] 初 MULTI  多数の細胞 (9)(「挿入で奇」を仮定)              Lean MultiCell.bound
[11] 初 SLAB   細い挿入で板の閉じ込め ⟸ [06]                    板・N 固定
[12] 読 HEUR   VK/n・e^(−S_inst)/L²(物理)⟸ [02]
[13] 典 KT     チェス盤の積の構造
[14] 仮 CHESS  Λ に集約・Λ < 1 なら面積則 ⟸ [06][13]          鏡映正値性の下

確かめ方は、全ての「⟸」の右の番号が左の番号より小さいことを目で見ることです。円はありません。仮定の行は [14] だけで、どの行の前提にも入りません。[10] の「挿入で奇」は定理の言明の中の仮定で、別の行から来るものではありません。この章には閉じ込めの節点も、質量ギャップの節点もありません。


この章が言えている範囲

言えている言えていない
初 (F)(W)(T) の下で E[ρ]=1\mathbb E[\rho]=1・E[ρσ]=−E[σ]\mathbb E[\rho\sigma]=-\mathbb E[\sigma]・4E[σ]2≤Var(ρˉ)4\mathbb E[\sigma]^2\le\mathrm{Var}(\bar\rho)Var(ρˉ)\mathrm{Var}(\bar\rho) の上界(二次モーメント VV の評価)
初 対合と奇な HH について、tanh の形・揺らぎの関係式・位置の平均・ρ\sqrt\rho の形・Paley–Zygmund の形大偏差の段(全ての細胞で同時に断られる事象の稀さ)。紫外の段(受理率の格子間隔に一様な下界)
初 板の閉じ込めの定理は細い挿入の特別な場合T² を広げたときの閉じ込め。四次元の U(1)U(1) の陰性対照
仮 チェス盤で一つの量 Λ\Lambda に集約する筋Λ<1\Lambda\lt1 の証明

出典と再現

もの種別出典・道具
恒等式 1・定理 2・恒等式 3・補題 4・定理 5・恒等式 6・定理 7・定理 8・(10)初本文 §03〜§06 の証明。論文の草稿「Exact centre-vortex insertion identities in the twist-summed ensemble, and bounded, averaged and driven confinement bounds」(A-07 の論文 1)の定理と同じ内容
和のアンサンブル・容器の恒等式典(間接)G. Mack, V. B. Petkova, Ann. Phys. 125 (1980) 117(12-03 の通り、本文は未確認)
チェス盤の積の構造 (13)(21)典T. G. Kovács, E. T. Tomboulis, arXiv:hep-lat/0108017(Phys. Rev. D 65 (2002) 074501)
位置の平均と Cauchy–Schwarz の組み合わせ(ゲージ理論の例)照合未了S. Chatterjee, arXiv:2602.00436(書誌は確認済みの記録による。定理の対応は未照合)
LeanLeanInsertionIdentity(Insertion.mean_one・Insertion.mean_rho_sigma・Insertion.sector_bias_le)・BoundedInsertion(Bounded.single・Bounded.multi・Bounded.averaged・Bounded.averaged_bound)・SecondMoment(SecondMoment.sqrt_identity・SecondMoment.pz_bound)・MultiCell(MultiCell.pushforward・MultiCell.expand_identity・MultiCell.bound)。束が保証するのは有限和の代数だけ

この章で使った語 — 挿入写像・挿入比 ρ\rho・区画に向きを合わせた対合 τ\tau・tanh の因子 tt・受理率・位置の平均・ρ\sqrt\rho の形・Paley–Zygmund の形・挿入で奇。意味は A-02 用語集 にあります(第 12 部の語は追加の予定)。

次に読む章:12-06 力学で駆動した挿入と流れの補題 — 写像を一度に当てる代わりに、熱浴の力学でゆっくり渦を入れると、恒等式 3 が仕事 WW の形になります。

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改訂 2026-10-15:初版。